2015年5月29日金曜日

日本銀行のブタ積み当座預金には意味があるのか?

ついに200兆円を超えた日銀当座預金、よって300兆円を超えたマネタリーベース。

異次元緩和の結果であるこの膨大なマネーは、何をもたらすのか?

我が国の政府支出(超)のなかで、東日本大震災以降は、復興のための公共事業は無視できない規模であり、建築資材や人件費は上昇しています。後者については飲食業の非正規雇用(労働市場の似たセグメント)の時給急上昇(求人難)へと如実に影響を与えています。
それでも、少子高齢化により、赤字国債発行による年金勘定への補填こそが、財政赤字の核心部分です。
年金保険料(ただし現役世代から。この問題は後述)のみから、年金(引退世代へ)が賄われるべきところ、不足米(たらずまい)を、財政で補う。小泉政権以降は、民間非金融部門預金と日銀券発行残高と補助貨幣流通の増分の、最大要因はこれです。
そしてこの、現預金増は、日銀が買いオペをやっていたかやっていなかったかに関わらず、結果は変わらないということです(日銀当座預金がブタ積み状態なので、市中銀行貸出による預金創造にとって、市中銀行の国債保有負担が律速因子にはなっていない=内生的貨幣供給が成り立っていた)。
しかし、買いオペが無意味だったにせよ、財政赤字によって、民間の現預金が増えたのだから、購買能力かつまたは購買意欲が高まり物価上昇を引き起こしても良いはずではないか???それこそがアベノミクス(安倍黒田のミクス)の狙いだったのではないのか??

現実はそれほどでもなく、家計も市中銀行預金をブタ積み(!?)する。それどころか、タンス預金もされている。リカード=バローの中立命題が、そこそこ効いてしまっていて、引退世代が現役世代に負担を残さないように、消費を控えているということではないでしょうか?
ところで、「貨幣(流動性)の供給」と「可処分所得(貯蓄)の提供」とはまったく意味が違います(が紛らわしいこともまた事実で、これがIS=LM分析がわかりづらい理由??)。
銀行が貸してくれた100万円の預金は内生的貨幣供給の結果ですが、可処分所得ではなく、いつかは返済しなければならないものです。同じ100万円でも、海外に出稼ぎに行った家族からの仕送りとか外国企業からの配当収入の100万円(まぎれもなく可処分所得としての現預金の増加)とは異なります。前者の債務者=預金者が個人事業主だとして、今月末この100万円で手形を割り引いてもらえないと事業を手仕舞わざるを得ないが、割り引いてもらえたら、今月の売り上げ105万円の入金予定日(来月末)まで事業が存続できる。。。100万円の貨幣供給の結果、真水(まみず)の可処分所得としての現預金の増加は、たったの5万円(マイナス手形割引料=金利)にとどまります(銀行に救ってもらったという話に聞こえますが、手形を仕入業者に裏書譲渡出来ていればそれでも事業は継続できたわけで、何も流動性の供給が銀行業によって独占されているわけではありません)。
これに対して、財政で補填されて受給した年金は、マクロ経済に興味のない全体観のない受給者ならば、あたかも自分が働いてきたご褒美で、満額真水の可処分所得のように浪費されてしまいそうです。しかし、実はそれは錯覚で(ケインジアンの言う貨幣錯覚とは意味が異なるので、「所得錯覚」とでも呼びましょうか。。。所得と流動性の履き違え)に過ぎず、浪費すべきものではない(が、将来世代のために蓄えておくには、現金のほうが良い(流動性の罠+税務対策)という選択がなされていると考えられます。

ついでに、現役世代はどうでしょうか?もしも少子化高齢化の対策で財政が介入せずに現在より更に大きな年金保険料の負担があったとしたらもっと消費は減退するでしょうか?中立命題では、そこも違いがないということになりますが、「保険料を払った分は年金として取り返せる」と信じている現役世代が大多数とは思えず、わたくしは中立命題が現役世代の消費貯蓄選択で成り立つかは疑問です。
貨幣錯覚が成り立たなければケインズ政策は無効であるように、「所得錯覚」が作用してしまうと中立命題が脅かされます。世代にまたがる負債を無視した浪費は、物価高と、将来に税金や社会保険料の徴収できなくなる(出口戦略が描けない)。雲行きが悪くなり、ある閾値を超えると、ハイパーインフレとソブリンリスクが加速するという意味で、財政赤字は発散的構造を持っている(ある閾値まではインフレ期待にとって無意味な政策。ある閾値からはインフレを発散させ取り返しがつかなくなる政策)という困った存在であるというのがわたくしの考えです。

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ここらで、いったん、まとめますと、
①年金支給額-年金保険料収入(=赤字国債)は、典型的なヘリコプターマネーだが、その赤字国債を購入した銀行から日本銀行がどれだけ買いオペするかは、ヘリコプターマネーの規模は変わらない。
②ヘリコプターマネーを拾い上げた年金生活者が、「流動性が増えただけで可処分所得が増えたわけではない」と冷静に考えている限り、消費や物価には影響を与えない。
③が、増え方がある限度を超えると「可処分所得が増えたのだと錯覚する(同世代の年金生活者が多数を占めるようになるのでは)」「となると、将来、年金保険料(または消費税率?)をあげても年金勘定の赤字を解消できなくなる(出口戦略の雲行きの悪さ)。」「ヘリコプターマネーのままで貯蓄するよりは、価値があるうちに消費したほうがまし。あるいは《もっと安定した価値貯蔵手段》に交換しておいたほうが懸命」と考えるひとが雪だるま式に増えてくる
《もっと安定した価値貯蔵手段》の候補としては、オフショアのドル(などの外貨)、金などの商品通貨、ETFやJ-REIT(のファンド・オブ・ファンズ)、一流大企業の社債などが考えられます。

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通貨とは何か?トートロジーですが、それは、コミュニティのなかで大半のひとがそれが通貨だと思って、支払ってくれる、受け取ってくれる、人気投票の結果としてのアセットクラスにほかなりません。日銀の調査統計局がマネーストックの定義として決めるものでも、主流派の偉い経済学者の先生が決めるものでもありません。
昨年来のキプロスのように、自国通貨(自国銀行の自国通貨建て預金)からビットコインなどの暗号通貨へと、決済手段の人気が瞬く間に移行することだってあるのです。