2008年10月28日火曜日

出会い系サイトと居酒屋タクシー

昨夜、フェニックス証券オンラインセミナー第7回「ズバリ!売りか?買いか?」の収録後、ビジネスアスキーとマネージャパンの連載企画で大変お世話になったレストラン店主に御礼旁駆けつけました。時は夜11時過ぎ、スパゲッティを食べながら私の横にお座りになった初対面のお客さまと意気投合。実は財務省の官僚の方でして、「居酒屋タクシーが無くなったので、居酒屋バスが夜中の3時に出るんだ」という愚痴とも冗談ともとれる話で爆笑。ビールは出ないと信じていますが・・・

時計(持っていないので正確には携帯電話)を見たら、もう12時。「終電が無くなるので帰ります」と申し伝えたら、「タクシーがあるじゃないですか?お金は使ってナンボです。使われたお金が世の中をぐるぐる廻って景気が良くなり、また貴方も豊かになる」と引き止めていただいたのですが「そういうケインズ的思想が官僚組織を支配してきたから日本はこんなに駄目になったんですよ」とニコッと微笑みながら反論。「ケインズの乗数理論。“倹約は美徳ではない”というのは美しい詭弁だ。天然資源は無制限に人類が費消しうるという前提に従った点で、マルクスと同じ過ちを犯している!勿論、ケインズやマルクスが浅はかだった筈はない。ケインズ理論にせよマルクス主義にせよ経済政策への応用が急がれた余り判りやすく巷間流布させるべく、緻密な部分が端折られた。わたしが無礼にも批判しているのは海賊版ケインズ・マルクスに他ならないのですが・・・」。初対面の官僚のお客さまは「いやぁ、おっしゃる通り。我々財務官僚は宮澤喜一チルドレン。まさしくケインジアン集団ですよ・・・」

別れ際に名刺交換をさせていただいたら関税局の課長補佐さんでした。どうりで為替の話で盛り上がった筈です。

さて、昨日のセミナー、是非オンデマンド(再放送)をお楽しみいただきたいのですが、骨子としましては、
①金融膨張局面(レバレッジが利用しやすい投資環境でキャリー取引バブルが生じる)では為替相場は購買力平価から逸脱する。
②金融収縮局面(レバレッジが利用しづらい投資環境でキャリー取引バブルが萎む)では為替相場は購買力平価に収斂する。
③しかし、購買力平価は万能ではない。通貨には多かれ少なかれ「購買力平価に引き寄せられやすい」要素と「購買力平価を引き寄せる」要素とがある。小国の通貨、特に貿易依存度の高い(生活必需品等の基礎財を輸入に頼りがちな)独立通貨は後者の要素が極端に強い恐れがある⇒例:南アフリカランド、アイスランドクローネ・・・


さて、どうしても1時間では説明ができないもうひとつの骨子として、米国発の金融収縮が銀行間の米ドル貸借機能不全を経て、皮肉にも米ドルが(日本円に次いで)世界で最も強い通貨になってしまっているという話を冒頭致しました。

私のブログでは銀行の不良債権問題を「毒入り餃子」としばしば譬えています。「毒入り餃子」が短期金融市場、すなわち各国中央銀行が自国通貨について日々裁量で金融調節を図っている銀行間市場に突然に混入されてしまったのがリーマン破綻です。

短期金融市場における銀行間の日々の資金繰りの決済と貸し借り。その仕組みは、わたしたちが銀行などの店頭でお金を預けたり借りたいと申し入れたりする相対取引とも異なり、また証券取引所を通じてマッチングされる上場株式の売買と異なる点が実に肝です。短期金融市場は、昔なら短資会社さんを通じて電話で、今ならオンラインで資金需給のマッチングが行なわれます。個人の常識では考えられない天文学的数字が短い間に遣り取りされ、それでも貸し借りの条件、すなわち金利についてはお互い五月蝿いから、まずは条件があったもの同士がセットにされ、その後お互い相手の銀行の名前を知る。という仕組みです。ちなみに、わたしが昔短資会社さんとお付き合いしていたときは私が属する銀行が“常に資金不足”だったので毎日手形を売り、その買い手を短資会社さんが見つけてくれて、金利(と期間)が合えば取引成立。っで、「ちなみに相手はJA何処何処さんでしたよ」、という具合に事後的に伝えられて納得するという商習慣でした。

例えが悪くて恐縮ですが、出会い系サイトで、事前に登録しておいた条件に合致した人が見つかったというだけで紹介料を取られて、会ってみたらガッカリ、みたいなスピード感でないと、残念ながら短期金融市場は機能しないのです。したがって、そのためには銀行というのは倒産しないものだという常識が徹底していないとマズいわけです。

リーマン破綻で、この前提が崩れてしまったために、銀行同士が資金を提供し合わず、タンス預金を溜め込んでしまった。先ほど「わたしが属していた銀行は“常に資金不足”だった」と書きましたが、「資金不足」=「資本不足・経営危機」ではありません。今は亡き長期信用銀行の場合、「金融債や短期金融市場での調達+長期での貸出で運用」というのはビジネスモデルの根幹だったのです。これを極端にやってしまっていたのが米国の商業銀行であり投資銀行(未曾有の長期-短期の金利差が米国の銀行を住宅ローンビジネスに走らせた背景については9月セミナーで紹介したリチャード・クーさんの本に詳しい)。フェデラル・ファンド・レート(FF金利)の近傍で調達できる格安資金を駆使して、サブプライムローンを含む長期金利(+信用プレミアム)を享受してきた枠組みが一挙に壊され、米ドル資金が枯渇してしまったのです。

さて、FXをやっておられる読者の皆さんにとって、スワップ金利は概ね各国の政策金利の近傍であるというイメージだった筈。キャリー取引等の前提も、したがって、

日本円の金利<米ドルの金利<ユーロの金利

リーマン破綻という毒入り餃子が奇怪な現象を起こし始めます。「誰にも貸したくない」と言わんばかりの高金利になってしまった米ドルの銀行間金利。ユーロと交換に借りようとしても誰も貸してくれない。これが銀行間でユーロドルのフォワード市場が崩壊した原因です。多くのFX業者もリーマン破綻直後からユーロドルのスワップを「ゼロとマイナス●●」と提示せざるを得ない状況に陥りました(ただし、フェニックス証券も含め、業者によって頑張って出しているところもありました)。

たびたび酷い譬えで恐縮ですが、ホームレスにはなりたくないと思えば、家を買うか借りるかいずれの方法しかありません。米ドル資金を短期調達して長期運用をしまくっていた米銀は、ドルを借りれなくなった以上、買うしかないということになります。為替の売買を行なう市場(スポット市場)は過去の苦い経験から現在では同時履行が確保されており、信用収縮の悪影響を受けないのです(過去の苦い経験とは、わたしが属していた某銀行が中東の某銀行に倒産直前に日本円を受け渡し対価の米ドルが時差で戻って来なくて大損した事件-銀行名からBCCI事件と呼ばれました-です)。

以上端折れば、出会い系サイトがリンク切れになったのだがホームレスにはなりたくないので米ドルが高騰しているという話です(ここだけ聞くと何の話だ!となりますが・・・)。

お時間のある方は、以上を踏まえ、是非またセミナーのオンデマンドをご視聴ください。最後に素敵なプレゼントもご紹介しております(オンデマンド視聴者の皆さまもプレゼントの対象となりますので奮ってご応募ください)。
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2008年10月27日月曜日

公的資金

個人は株で損をしても税金すら取り戻せない。

一方、

銀行は株で損をしたら公的資金を入れてもらえる。

ところで、

銀行が株を保有する原資は勿論個人の預金である。

何が言いたいかと言いますと、銀行を通じて株を買えば元本保証だ。ただし元本保証の保険料は預金保険料だけではなく預金の低金利という機会費用込みでの話。

90年代と異なり金融システム救済が政局になりづらいのは、世界中の大国小国がこぞって赤信号を渡っているから。そこで我が国の民主党がどうやって存在感を示すのか注目していたところ、昨日朝のNHK日曜討論では菅直人代表代行が「新銀行東京まで救済するというのは筋が違うのではないか?血税を使う以上、ケジメは必要」と、「自民党石原伸晃氏の前では言いづらいが・・・」との前置きを全然“言いづらく”なさそうに敢えて繰り返し繰り返し強調していたのが印象的でした。

わたしにも敢えて繰り返させてください。オーバーバンキングが解消されない限り、各種金融商品の相場のオーバーシュート(バブルの生成と崩壊)は果てしなく繰り返される、と。銀行による株式保有を全面禁止することにより、オーバーバンクを解消すること。株式投資は個人投資家の自己責任によって支えられるお膳立てをすること以外に「貯蓄から投資へ」を実現する方法はない。中途半端な税制改正など全く意味はない、と。

「“マット某”と違って選挙に出るわけではないのだから、マニフェストなんか聞きたくない。それよりも、お前が言うとおり、まだドルやユーロを売り続けていいのか?そろそろドテン買いなのか、それを教えろ!」

それなんですが、今夜たまたま月に1度のセミナーです。第7回目の御題は「ズバリ!売りか?買いか?」。詳しくはフェニックス証券ホームページからどうぞ。CoRichブログランキング

2008年10月24日金曜日

規制緩和論者の鬼の首

●グリーンスパン氏、米国議会で質問攻めに(10/23WSJ、FT)
「規制緩和の前提に一部誤りがあった」とグリーンスパン氏は認める。が、「世紀に一度の信用収縮の蔓延(a "once-in-a-century credit tsunami)」の責任がグリーンスパン個人にあるという意見は認めない。早くも2005年の段階でリスクの過小評価について警告していた、と。

昨夜、火あぶりにされたグリーンスパン氏の発言で印象に残ったのは、

「『銀行経営者は銀行株主の利益を守るために最善を尽くすだろう。銀行経営者とその株主の利己心(利害)は相反する筈がなかろう』、と40年余り信じきっていた。その前提の一部に狂いが生じた。」

「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)だけは規制強化されても良い。が、それ以外のデリバティブ(金融派生商品)は現況のままでちゃんと機能している。」

「逆に『大きくて潰せない』問題を国会議員の皆さんに問いたい。『いくつかの大企業は潰れると市場や経済にただならぬ悪影響を与えるから政府はそういった企業の野垂れ死にを放置しないだろう』という発想は、より規模が小さいが頑張っている競争相手に対して不公平。『うちが潰れちゃ困るでしょう』と市場経済を“人質”に取ろうとする(「大企業とそれ以外の敷居」を持ち出す)大企業には何らかの罰則を設ける必要がある」

尤も、
「未曾有の一時帰休と失業の発生を食い止められるかどうか、定かではない。」とも、

実際、
●ゴールドマン・サックス、人員10%削減。GMとクライスラー、人員削減を追加へ(10/23FT他)

世界中でバラマキ政策が正当化され、モラルハザード大国の日本は敵失により浮上しつつあります。だから円高なのか?しかし、(マイカルとそごうは潰したのに)ダイエーを潰さなかった政府自民に対して、民主党鳩山氏が当時「これで小泉改革は終わった」と発言されたのを記憶しています。規制緩和論者の鬼の首を取って、規制強化を正当化する。景気や雇用を“人質”にとって、既得権益をこっそり守る。このようなことが許されているようでは、我が国もいつまでたっても良くはなりません。
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2008年10月23日木曜日

ユーロだけではない通貨のメルトダウン

●英ポンド、対米ドルで5年ぶり安値に転落(10/22FT)
イングランド銀行マーヴィン・キング総裁が「景気後退宣言」。“ザ・バンク”は大幅な利下げを準備しているのではないかとの憶測が流れた。

昨年春、1ポンド2ドルを越えたというニュースをBBCが派手に、且つ皮肉たっぷりに報じていたのが懐かしい。それが現在は1ポンド1.62ドル近辺となっています。

トルコリラは3.5%下落、韓国ウォンは3.2%下落、南アフリカランドは4.1%下落(いずれも対ドルの1日の動き⇒対円では更に下落率は大)。

さて、ユーロですが、先々月号の『月刊FX攻略』に載せたユーロ“バブル”崩壊予想のロジックをご紹介して本日の更新の締めにさせていただきます。今月号がちょうどいま書店に並んでいるところです。日本橋丸善などでは“棚ざし”から“平積み”への取り扱いが変っており売れ行き好調のようで良かったです。

バブルには共通点がある。広い意味でキャリートレードであるということ。レバレッジという触媒によって助長されること(逆にデ・レバレッジはバブルを崩壊させる)。その生成の歩みは「築城3年」の如く、その崩壊の勢いは「落城3日」に似ること。上記ITバブルのように確信犯のバブルもある(「合理的バブル」という)。

この点は、まさしくFXにも当て嵌まる。

FXのキャリートレードは次の理屈で「築城」されるバブルだ。つまり、

①インフレ指標の悪化⇒②政策金利の引き上げ⇒③高金利目当ての資金流入による通貨の上昇⇒④投資過熱による更なるインフレ悪化⇒②に戻る

この循環が起こっているのが現在のユーロ圏であり、しばらく前まで起こっていたのが多くの新興国である(
原稿〆切時点7月4日現在)。もし仮に多国間の資金移動の殆どが貿易など実体経済に裏打ちされたものであれば、上記循環で③から④へとは移らず輸出減少で景気が鈍化しインフレが抑制される筈。ところが、多国間を移動している投資資金の規模は貿易額の何十倍、何百倍にも上るのが現状なので、インフレと高金利は循環⇒連鎖となる。一方、これと逆の循環を起こしているのが日本と米国だ。どちらの循環が好循環なのか悪循環なのか見方によるけれど。

世界経済は様々な理由で経済学が想定するような一物一価は必ずしも成り立たない。資本移動の自由さに比べると、財の移動や労働量の移動には様々な制約があるからだ。それでも循環⇒連鎖が度を越すと、購買力平価と為替相場が余りに乖離してしまうことになる。特に、信用制度が罅割れや金融政策が操縦不能となるスタグフレーション、暴動やテロ、天変地異はバブル崩壊の引き金となる。

円キャリーのドル高が信用問題をきっかけに崩壊したように、ドルキャリーのユーロ高も時間の問題だと思うのは筆者だけだろうか?「原油高ドル安=負の連鎖」と囃し立てるマスコミ・エコノミストの気持ちもわかるが、ドル売りを決め付ける一辺倒な“不美人投票”は余りに危険だ。どの国もそれぞれ醜い欠点を持っているのが実情なのだから。

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