2015年1月17日土曜日

アヴァトレード・ジャパンは大丈夫です。が、、、スイス発「暗黒の木曜日」の閻魔帳の気になる中身

暗黒の木曜日を耐え抜いた会社はリスク管理がちゃんとしていた。
暗黒の木曜日のせいで倒産した会社はリスク管理がちゃんとしていなかった。

・・・

という単細胞的な総括は、まるで間違っています。

・・・

自分のあたまに落ちてもおかしくない雷がたまたま一緒に散策していた友人に落ちたという気分です。西行法師でなくても、運を喜ぶ余裕などなく、世を憂う気分になります。

現時点でもっともまとまった情報はこちらだと思います。

The Foreign Exchange Market’s Black Thursday: Industry Losses May Surpass $1B - See more at: http://forexmagnates.com/foreign-exchange-markets-black-thursday-industry-losses-may-surpass-1-bln/#sthash.LKnSXa2P.dpuf

自己資本のレベルに比べて巨額の損失を一瞬にして被り、営業の継続が難しくなった会社をはじめ、上から下へと順番に、FX会社ごとの損失額が記載されています(この数字は今後変わる可能性もあるとわたくしは思います)。

繰り返しになりますが、この閻魔帳だけで、損失額の大きい会社ほど、リスク管理が杜撰だったというのは間違った解釈です。

なぜか?

お客さまからいただいたご注文を、
①どれだけ、
②どのように、
③だれに(巨大金融機関?)対して、ヘッジ(カバー)するかということは、FX会社経営の核心部分です。同様に、
④おきゃくさまにどのような条件(商品スペック)を提示するか、
ももちろん最重要部分ですが、これは上記①②③からなりたつリスク管理方針(「リスク対リターン」のモデル)に深く依存しています。


一般的な筋論としては、ブローカーとしての忠実義務を果たすためには、上記①については、なるべく全額をヘッジすべきであり、上記②については、なるべく瞬時に(先に?後に?これも重要ですが機会をあらためましょう)ヘッジすべきなのです。そうでなければ、お客さまの損失が、ブローカーの利益となり、利害相反の関係に陥ること、逆に言うとお客さまが帳簿上の利益を計上しても、取引の相手方であるブローカーにとっては市場リスクを許容できない損失を意味し、支払不能で利益を出金できない、、、つまり、①②をちゃんとやっていない、どころか、最初からやる気がない会社は、どちらに転んでも、お客さまに利益をお返しできないという理屈になります。

(ただし↑↑↑のお話は、わたくしどものような中小ブローカーが上記③でちゃんとした銀行とお付き合いができるということが前提です。巨大銀行の為替取引不正について別途整理が必要なのですが・・・)

現時点で巨額の損失を発表し、なかには経営の中断を余儀なくされた会社の多くは、むしろ、①は非常にきっちりやっていた、②もかなりきっちりやっていた(が、惜しむらくは、お客さまへ『注文が通りました』と連絡するスピードを競いたいゆえに、「瞬時」だが「後で」ヘッジしていた)というリスク管理方針だったのではないかと憶測します。


また、原因は大きくちがうものの、2008年のリーマン・ショックとひとつ似ているのは、店頭デリバティブ契約ならではのややこしさ、、、「市場リスク」が顕現化して損失が発生したらそれすなわち損失だが、利益が発生しても負けた相手が払ってくれなかったらそれもまた損失である(=「取引先リスク」の顕現化)というところです。わかりやすく言えば、現状というのは、まだ誰がどれだけ不渡り手形を握っているかわからない。。。ババ抜きをやっていると思ったら、気づいたらジジ抜きだった、ということがわるわけであります。これが上記③のポイントです。


最後に、上記④について。今回のスイス発の暗黒の木曜日は、FXのプロのあいだでは、いつ発生するかは時間だけの問題だと言われていたことではありました。いっぽうで、そのことを知ってか知らずか、スイス国立銀行がEURCHF≧1.20を死守すべく無制限為替介入を続けるだろうと楽観的に金利差をエンジョイする市場参加者はなかなか減少しなかったのだと思われます。そうすると、お客さまが満足する流動性(高いレバレッジを含む)を供給し、お客さまが狙っているユーロ通貨とスイスフラン通貨の金利差をなるべく生のままで提供する、という条件を守っていたブローカーには、対スイスフランのユーロ暴落(ドル円相場に例えれば30円以上の変化が「非連続的に」(←ここ重要)で大損を抱えてしまうであろう潜在的アービトラージャーが集中していた可能性があります。


アヴァトレード・ジャパンが、フルヘッジ・オペレーションの会社であるにもかかわらず、財務を健全に保てたのは、ただただ、いちぶのお客さまの不満や離脱を甘じて受け入れながらも、この手の取引に対して、お客さまから見たスワップの水準やレバレッジの水準を魅力薄に変更していっていたから、かも知れません。


これだけだとすると、好判断というよりは結果論くらいに謙虚に考えるべきで、上記①~④の匙加減をちょっとでも誤ると、じぶんたちがアルパリやFXCM、IG証券や(アヴァトレードのヘッジ先のバックアップ的存在でもある)サクソバンクのようになっていてもおかしくはなかったのです。


「お客さまへの忠実義務をきっちり履行して利益相反のない運営をしてきた会社は馬鹿を見たのだ。悪貨は良貨を駆逐するが如く、世に憚る業者として利益相反でいこう!」というのが業界にとって教訓の最終形であるならば、消えていってしまった好敵手たちが浮かばれないだけでなく、店頭デリバティブ取引に明日はないでしょう。


最後に大所高所。


スイスという国の、世界の金融産業のなかに占める独特の地位や、通貨マフィアとしての立ち居振る舞い、またとりわけ今回の行動(わたくしは、ダーティーフロートならぬダーティーフィックスのサドンデスだと呼んでいます)が、世界中の通貨マフィア同士が、血を血で洗うことになりはしないかというのを真剣に心配しています。


アヴァトレード・ジャパン 代表取締役社長 丹羽広

2014年12月29日月曜日

アベノミクスとレーガノミクスと三つ子の赤字

七転び八起きブログのご購読者のみなさんの間では、ほとんど知られていないと自虐的に申し上げるのですが、わたくしがいま勤めている外国為替証拠金取引会社のアヴァトレード・ジャパンでは、アベノミクスに少しくらいは肖(あやか)りたいと思って、大盤振る舞い過ぎると評判の(←これはほんとうだと思います)、キャッシュバックキャンペーンの副(サブ)タイトルとして、

“アヴァ”ノミクスで日本を取り戻す

と言わせていただいております。

思えば入社して間もないおよそ二年ほどまえ、このキャッチコピーを意思決定するのにずいぶんと手間取り、手間取っているあいだに、もともとのアベノミクスが終わってしまいはしないかとドキドキしていたものでした。

ところがどっこい、アベノミクスというBUZZWORDは流行語大賞を連覇してしまいそうな勢いですらあります。

それは、

(農協、医療、労務などの岩盤規制改革という)三本目の矢がなかなか飛ばないからなのか?

それとも、

黒田バズーカ砲による金融緩和が、驚きをもって市場に迎えられたからか??

ついでに、

(誰のためかいまだによくわらかない)衆議院解散総選挙が、驚きをもって野党に迎えられたからか???

理由はともかく、アベノミクスという用語の寿命は、当初誰もが予測していたよりも長くなっていて、まもなく、レーガノミクスに追いついてしまうのではないかと思われます。

ここで残念なお知らせですが、レーガノミクスに追いついてしまいそうなのは、アベノミクスという用語だけではない点を指摘しないわけにはまいりません。

まずは、直近のニュースで、

家計貯蓄率、初のマイナス 貯金崩し所得上回る消費

(12/25付 日本経済新聞)


これには、お前が言うなと言いたくなりそうな「ロシアの声」というラジオメディアの追随記事がございます。


(12/28付 ロシアの声(ラジオ))

これは極端にしても、あの勤勉国だった日本が何故ここまで落ちぶれたのか!?という反応は、日本国内よりも海外でのほうがセンセーショナルだと感じられるのは、年間の経常収支が29年ぶりに赤字に陥ったことを(担当キャスターの強烈なキャラもこれありで)大げさに扱っていた英国国営放送の国際放送を彷彿とさせます

ここで年間というのは暦年であって日本の会計年度ではありません。その後は、石油価格の急落もあって、経常収支ベースでは若干の改善が見られています。ただし貿易赤字ベースではまだまだ恒常的な赤字です。詳しくはこちら。

(時事通信)

そして最後に、言うまでもなく、財政は赤字であるわけですから、今日の日本は、上から順番に言うと、

家計
貿易(+貿易外+移転)
財政

これらみっつがすべて赤字に陥ってしまっている。つまり、日米貿易摩擦の問題で、日本製の自動車がデトロイトで工場労働者に打ち壊しに遭っていたころ(プラザ合意前)の米国と同じようなマクロ指標になっているということです。

ついでですので、レーガノミックスと違う点にも触れておくと、自国通貨を引き上げる政策(レーガノミクス)と自国通貨を引き下げる政策(アベノミクス)、、、これは見た目にもわかりやすい違い、というよりは真逆であります。

もうちょっと言うと、わたくしも決してアベノミクス・ウォッチャーではないし、ほんとうは年末を締めくくるにあたって、人気のあるアベノミクスの話題よりも、その影で実は今年より重要だったと思っているロシア・ルーブルやビットコインと言った

《通貨の安定性とは何か?》

《通貨(=為替)の適正価値はどこにあるのか?》

という問題を掘り下げたかったのですが、、、そしてアベノミクスの政策担当者に直接聞けるほどの人脈もセレブリティもないのですが、、、おそらくたぶん、マクロ経済政策としては、アベノミクスは総需要政策であり、レーガノミクスは総供給政策(を意図していた)のではないかと思われるところが、見た目ではわかりづらい違いということになるでしょうか。

ところで、わたくしのブログの左上のほうにある《検索窓》に、わたくしの数学(線形代数)の恩師である塩沢由典先生のなまえを入力して検索ボタンを押していただくと、関連する過去の記事がドドドッと出て参ります。わたくしは、ほんとうにこれらは自分が過去に書いたのか信じられないほど、内容が深くて、よく書けていると自画自賛したくなるものばかりです。それだけわたくしが以前の会社ではちゃんと仕事をしていなかったことを露呈しています。それはともかく、このブログがご縁で、というのもまた、インターネットの時代、ソーシャルメディアの時代であったればこそだと微笑ましく思えるのですが、塩沢由典先生からお声がけをいただき、勉強会に参加し、きょうのブログで触れようと思って触れなかったロシア・ルーブルやビットコインを切り口とした為替決定のメカニズムについて相対市場の現場からという溝板的アプローチでプレゼンテーションをさせていただくことになりました。正月返上で勉強してみたいと思っております。

みなさまもどうぞ良いお年をお迎えください。

2014年12月9日火曜日

アベノミクスが争点だと言うけれど

まいどブログの更新のたびに、お久しぶりですという状態で、恐縮しております。ネタ切れも言い訳にならないほど、国際社会もこの国の政治も異常気象など天変地異も相場変動も多々あるなかでであります。ブログを更新していなかっただけでなく、管理すら怠っていたことで、本来コメントをいただけるような方ではない雲の上の存在の方から貴重なコメントをいただいていたことに1ヶ月も気づいていなかった、、、したがって公開していなかった、、、という事態が発覚し、愛読者のみなさまをはじめ、何かと関係のある方々全員にお詫びを申し上げたいと思います。

その雲の上の存在のコメントの主とは、わたくしが大学の一年生だったときの数学の担当教官であった経済学者の塩沢由典氏です。

これは特別なケースだとは思いますが、あたりまえのこととは言え、誰に読んでもらえるかわからない公開ブログという媒体で何を書くかということの重大さを感じます。コメントによれば、塩沢先生は中央大学を二度目の退官をなされたとおっしゃってますが、それでも何かと精力的にお仕事や研究をされているはずなので、わたくしのすべての記事をお読みになって、理論的な間違いを指摘していただくようなことはないと思っております。しかし、わたくし自身(とグーグル)が削除しない限り、この先もずっと残っていくものですから、十分に用心しなければならないと思います。

実に、わたくしのブログの特徴だと思うことがあり、もうかれこれ3ヶ月もブログを更新していないので、読者の数も減ってきているだろう、ページビューも桁違いに下がってきているだろうと思ってチェックしたところ、そこで塩沢先生のコメントが未公開コメントとしてペンディングされていることに気づいたのですけど、意外とページビューが下がっていないことを観察し、驚いてしまいました。

こんな調子ですと、以上の前置きと、年末のご挨拶だけで、きょうもまた終わってしまいそうな勢いです。

本日のお題、アベノミクスが争点だと言うけれど、、、で書こうと思っていたわけです。そこで、塩沢先生の今日の活躍ぶりをチェックさせていただかなくてはならない気分になりました。

塩沢由典先生のサイト
http://www.shiozawa.net/

このブログへのコメント(もとの記事は直前(とは言っても9月11日)のスコットランドとは何か、、、です)のなかで紹介(宣伝!?)していただいている最新刊の著書
リカード貿易問題の最終解決--国際価値論の復権

値段をご覧になって、どうかビックリしないでください!!

この本には、未定稿の論文「リカード貿易理論の再構成--国際価値論に寄せてII」においては未解決の課題とされていた部分も最終決着したということです。

そうでなくても、このテーマは、政治家のみならずわれわれ国民がついつい安易に口にしがちな(日本の)国際競争力という問題に、重大な影響をおよぼす議論です。

これを読まずして、TPPを語る勿れ、アベノミクスを語る勿れ、ということでしょう。

したがって、以下の数行も未定稿とさせていただくしかないのですが・・・・

わたくしは、三本目の矢を伴わないアベノミクスには両手を挙げての賛成は出来ません。

しかし、その不完全さをあげつらう野党がほぼほぼ異口同音に言う、家庭ノミクスとか、実質賃金上昇とか、中間層の復活というのは、、、鎖国政策でも採用しない限り、、、不可能であるということです。

少なくとも、「これまでの」アベノミクスの本質である財政政策と金融政策に限れは、これを緩和するか引き締めするかという選択肢のなかで、貧富の格差や中間層育成という答えを出すことは出来ません。

議論を端折りますと、塩沢先生は、賃金率(実質賃金とほぼ読み替え可能)を決定しうるのは(その国の)技術だけである、と論じておられます。

ここでいう技術は、日常会話の技術とはかなり異なることに留意しなければなりません。例えば、我が国の樵(きこり)の方々の技術は、恐らく世界のトップクラスだと思うのですが、これは日本の林業の技術(平板な言い方をすると労働生産性とか資本生産性)の高さを意味しない、むしろ現実は低い等々、です。

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更に、話が飛びます。

天然資源もない、安い労働力もない、農業や林業の生産効率も悪い、の無い無いづくしのなかで、1000兆円もの貯蓄があるだろう、金融資産も立派な資源(生産要素)ではないか、という意見を良く聞きます。はたして、金融資産は生産要素であるという議論は正しいでしょうか???

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2014年9月11日木曜日

スコットランドとは何か

グレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国、、、俗にいうイギリス(英国)からスコットランドが独立するかどうかを問う直接投票(レファレンダム)が、たった1週間後に迫っているということで、しかもまさかの賛成派反対はが僅差になっているということで、イギリス・ポンドは暴落。今年前半は深い眠に就いていた為替相場は一転して大荒れとなっています。


スコットランドの分離独立が予想外の現実味を帯びてきたことに加え、ことしは2月から、ウクライナ(クリミア半島)情勢やイスラム国の出現など、そもそも国家とは何かということを考えさせられる事態があまりにも多発しています。

世界中のどの地域においても、民族や地域の分離独立を望む派と望まない派で対立するのは、民族自決主義という大義名分のあるなしにかかわらず、経済的利害が圧倒的な要因であることに間違いありません。日本という国は、そのような「野蛮でドロドロとした欲」とは無縁であったからこそ万世一系の天皇家のもと、臣民は仲良くやってきたというのは、まやかしの皇国史観にすぎないでしょう。

日本のことはさておいて、スコットランドにおいては、スコットランド独立国が誕生するかどうかが9月18日に決着するという単純な問題でないところが問題です。

国家の定義は難しくてある程度曖昧だということですが、現代社会においては国際連合やEUなど、国際社会を引っ張っていると自負する国々による互助会で認められるかどうかもポイントです(国連⇔パレスティナの関係)。スコットランドはEU加盟国のイギリスから分離するのだから当然にスコットランド独立国もEUに加盟できるというのが独立派の主張ですが、大陸として繋がる加盟国はだいたいどこでも民族対立を孕んでいるため、民族問題の波及を恐れる加盟国はスコットランド独立を認めないという説を反独立派は煽っているところです。

もうひとつ国家の定義で最重要のひとつである軍隊を持つことについて。スコットランド独立派=反核(≒脱原発)であるため、スコットランドの海岸線に留め置かれているイギリスの原子力潜水艦を追い出して独立軍を形成しようというのが、直接投票後の計画なのですが、それを相手方の残されたイギリス側がすんなり認めるつもりがないという点。

そして、本稿の最大の目的である「野蛮でどろどろとした欲」の部分は、北海油田の権益と、イギリス・ポンドの採用継続です。

北海油田のほうは、どちらの国の排他的経済水域から油が湧いてきているということだけですんなり決着するはずはないのでしょう。

何と言ってもややこしいのは、現実に独立したあとも、スコットランドはポンドを使い続けたいとしていて、イギリス保守党はこれを許さない姿勢であるというところです。

(スコットランド地域ではロイヤルスコットランドバンクが発券銀行の一部を担っています。。。)

実際、ロイヤルスコットランドバンク(RBS)の破綻はリーマン・ショック時に世界で最大級の規模の血税が投入された事例です。さらにさかのぼれば、スコットランドの田舎銀行にすぎなかった同行が世界最大級の規模に成長したなかで、イギリス4大銀行のひとつであったナショナル・ウエストミンスター銀行を敵対的に買収したというステップがあります。

(ただし、イギリス経済を喰い物にしてきたかに見えるロイヤルスコットランドバンク(RBS)は、公式には、スコットランドが分離独立したら、本店をロンドンに移転すると言っています???)

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今回の新しい英ポンド危機は、9月18日で決着がつかない問題であるというところだけは押さえておく必要があります。