2008年12月31日水曜日

良いお年をお迎えください!

「米ドルの次の機軸通貨はユーロではなかろうか・・・」と私との対談で語ってくれた森永卓郎さん。そのご高説に100%与しているわけではないですが、クリスマス以降の年末相場でもユーロドルの動きは活発。FXには正月1日しか休みがないというのを実感できる市況です。

昨日、「2008年、読者の皆さまにとって最も心に残ったことは?」という一節で、リーマン破綻が、福田首相退陣「あなたとは違うんです」や四川大地震を抑えて堂々一位だったという話をしました。そこから話が反れて国防論議に移りました。FXと関係がなさそうで実に大有りな「我が国が非武装国家として成り立ち得るかどうか?」という議論は、来年いつか皆様と一緒にしたいものです。そのときは、是非コメント欄を開放して・・・ブログが炎上するでしょうか?

もし話が反れなかったら、本当は取り上げたかったのは北島康介選手の「何も言えねぇ」でした。何故かと言うと、北島選手の真骨頂である「有言実行」と対をなしていることと、オリンピック年に自分のピークを持ってくること。いずれも普通に出来ることではない、その果てに「何も言えねぇ」だからです。

「有言実行」~「何も言えねぇ」に対して、今年私はと言えば、年賀状で「2008年、フェニックス証券はベトナム株の取扱を開始する予定です」と宣言し、見事に「有言不実行」になりました。また全国各新聞に載りましたのでご存知の方も多いでしょうが、火中の栗を拾うべく親会社再建のために立ち上がりましたが、意半ばにして現経営陣によるクー●ター勃発で内定取消。自己責任を越えているとは言え、第三者がご覧になればこれまた「有言不実行」です。

一年間付き合ってくれた私の手帳は、赤、青、黒のボールペンで一年分読み返すのも大変なほどギッシリ詰まった数字や文字。このブログを始めるまでの4ヶ月間だけでも、上記2つの「有言不実行」を私は犯しています。例えばベトナム株であれば取次ぎ方法をどうしようか?決済をどうしようか?その決済方法は法令上認められるのか?等等、コツコツ詰めてきていよいよというときに新興国バブルが崩壊。実務の詰めが間に合わなくて良かったのか悪かったのか、それはまた別のことです。

「有言不実行」を恥ずべきものと自戒し過ぎて何も言わない、何もやらないというので済まされれば、それが最も人畜無害な生き方かも知れないし、今年以降暫く続きそうな縮小均衡の時代においては上手な生き方なのかも知れません。

「有言実行」の難しさと、それを乗り越える勇気の尊さを教えてくれた北島選手。彼もまた子供の頃から、全国の心無いライバル達から東京スイミングセンターの彼のロッカーに酷い苛めの落書き等被害に遭っていたこと、同じような悲しい足の引っ張りは国際大会でも大の大人である世界のライバルからもされていること、二種目連覇で略全レーンから北島選手を祝福に来たシーンの陰では、報道されない暗い影もある。それもまた北島選手が乗り越えてきた大きな挑戦であり、それゆえの精神力でもあるというお話を最後に、今年一年の感謝の気持ちを読者の皆さまにお届けしたいと思います。

どうぞ来年もよろしくお願い致します。よいお正月をお迎えください。
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2008年12月30日火曜日

自衛隊とソープランド

七転び八起きブログ読者の皆さま、5月以来長々とした駄文にお付き合いくださいまして本当にありがとうございました。既に帰省されている方々や、旅行中の方々もいらっしゃるかも知れませんが、どうぞ良いお年をお迎え下さい。

さて、2008年、読者の皆さまにとって最も心に残ったことは何でしょうか?100年に一度の金融危機と言われた今年は余りにも変化が大きく、1つだけを取り出すのは難しいかも知れません。フェニックス証券が広告を出稿している日本語ロイターの投票では、やはりリーマン危機が断トツ1位でした。天邪鬼の私が陰ながら応援していた福田前首相の「貴方とは違うんです」は残念ながら、というか案の定、順位は低かった。忘れてはならない私が繰り返し申し上げてきた四川大地震も、他国のことだからなのか、発生したのが5月だからなのか、やはり順位は低かった。

ご本人の固辞により流行語大賞を逃した福田発言ですが、その前半の「自分を客観的に見ることが出来る」という部分のほうがより重要ではないでしょうか?「政権を投げ出した」「他人事みたいだ」という馬鹿な記者の質問に対する回答。何となく受け答えになっていないところが奥ゆかしいという点に加え、激しながらもここまで言い切れる人はいるでしょうか。自分達一人ひとりの置かれた立場で自分自身を客観的に見ることが出来ると言い切れれば、日本の社会や政治は随分まともになると思われます。

そもそも、我が国において最大の「他人事」は恐らく自衛隊では。賛否両論は当然ながら、田母神「論文」が「自衛隊は他人事で良いのか?」という問題提起をなし得た意義はとても大きい。ビートたけしさんの「TVタックル」は、昨夜登場した田母神前航空幕僚長を挟んで、マネージャパンMoney Japan+ビジネスアスキーBusiness Asciiの対談でお世話になった森永卓郎さんと日本共産党の穀田議員、片や自公議員の論戦は、地上波の限界を意識した絶妙な編集。逆に言えば地上波の限界への挑戦でした。

田母神「論文」と反対の立場に属する森永氏と穀田氏も、番組の中では当然触れられない「『日米軍事同盟』なかりせば一体どうするの?」という問いかけには全く異なる意見の筈。森永氏は「北朝鮮だろうかどこだろうが日本を攻めてきて日本人が全滅するというのならそれはそれで構わないではないか。憲法9条を守り通したが故に絶滅した平和主義の民族が昔居たのだ、と語り継げられれば良い」的な趣旨の発言をされたことがあります。これも一理あり、森永氏の発言の背景には、日本のような無資源国には攻めてくる軍事国家は居ないという前提があるのでしょう。穀田氏は、現在の日本共産党の公式見解は別として、同党が一貫して主張する『日米軍事同盟』破棄後はやはり独立した軍隊を持つべきだ(独立国家の定義だ)という考え方を持っていないとは想像できません(私個人の推測です。間違っていたらすみません)。

平和主義を押し付けてきた米国から傭兵を雇うという人類史上稀に見る偶然のうえに成り立った戦後日本の高度成長の枠組みが成り立たなくなったのは、冷戦終結後の我が国の有様を見れば明らかです。街を歩くときに、自分の身を守るために、銃を携帯していたほうが安全か、かえって危険か?これは百家争鳴でしょうが、小さい島国を取り巻く国際情勢に翻弄されざるを得ない議論であることは指摘せざるを得ません。

司会者ビートたけしさんの〆の言葉「自衛隊はソープランドだ」というのは見事なまとめでした。(以下は私個人の補足ですが)売春防止法に実質的に違背しているのに形式的に認めている検警察の背景には、性風俗を認めないと性犯罪が著しく増加するという苦々しい経験値があるからなのです。醜いものとして表社会から蓋をされられているタブーこそが、表社会の治安や平和を維持してくれているという点で自衛隊も同じだという趣旨でしょうか。

タブー視された自衛隊の士気を正常状態に保つために、田母神氏による教育、「論文」は避けて通れなかったという事情は、反対意見の人たちも理解をせねばならないでしょう。その上で、今更無視は出来ない中国等の反日感情(日本社会党の自爆テロだったと当ブログで申し上げた村山談話とリンク)と、当ブログでもしばしば取り上げた「歴史は戦勝国によってでっち上げられたもの」でその結果としての自虐史観との喧々諤々のために、昨夜のような番組は24時間でもやって欲しい。そのためにテレビ朝日はくだらないバラエティー番組は全部無くせば良いと思うのですが。
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2008年12月29日月曜日

感謝と反省とお詫び

「チャリティ・オペラ・コンサート2008~世界の名曲をフェニックス証券からあなたへ~」は、昨日12/28(日)、多くの皆さまの応援に支えられ無事終了致しました。主催者を代表し、心から御礼申し上げます。

特に、昨日ご出演くださった演奏家の皆さんは、お聴きの通り、日本を代表する超一流のプロでいらっしゃいます。が、わたくしどもフェニックス証券のチャリティの趣旨に賛同してくださり、「出演料なし」(交通費のみ)という各プロにとって未曾有(みぞう)の条件で負担の大きい仕事をお引き受けくださいました。このことは、従前にもフェニックス証券のプレスリリースでご紹介しましたが、ここで改めて深く感謝申し上げたいと思います。ご来場のお客さまにおかれましては、水船桂太郎さん、豊島雄一さん、田村佳子さん、印田千裕さん、そして矢持真希子さんの、来年以降の芸術活動を様々な形で応援していただきますよう心よりお願い申し上げます。

さて、重要なお詫びと訂正がございます。昨日のプログラムの配布分の一部に、「後援:株式会社東京ドーム」と記載されておりますが、これは事実と異なります。事実はと申しますと、東京ドームの林社長様より「チャリティの趣旨に賛同する。是非聴きに行きたいのだが、あいにく先約があり無理。寄付だけでもさせて欲しい」という御申し越しがありました。会社の代表者としてのご意思であり、身に余る光栄と感じ入り、何とかご恩に報いることは出来ないかと、無い知恵を搾り出し、ささやかながら社名を掲載させていただいたのですが、あくまでも個人としてのご寄付であり、会社としての意思決定に基づいた行為ではない、というのが本当の事実です。

東京ドームの林社長様の個人のご意思に反し、社名を後援者としてプログラムに載せてしまったのは、完全に私個人の勇み足であり、深く深く反省するとともに、林社長をはじめお客さま各位ならびに、このコンサートを陰で支えてくださった多くの関係者の皆さまに心からお詫びを申し上げます。

「重要なお詫び」だけでなく、何せ初めての経験でありますので、開演前、開演中、開演後と、想定外のことが度々発生し、ドタバタの運営となりました。それでも、何とか終演まで導いてくれたのは、繰り返しになりますが、年末の貴重な時間を割いてお越しくださった沢山のお客さま、出演者の皆さま、縁の下の力持ちとしてバリバリ働いてくださったアルバイトの皆さんやフェニックス証券の社員の諸君、そして最後になりましたが社団法人才能教育研究会(スズキメソード)品川支部様からは「音楽を通じて人間教育と世界の平和」を“有言実行”された故・鈴木鎮一先生のご意思のもと陰に陽に多大なるご支援を頂戴しました。実は昨日のカンツォーネ「勿忘草」のヴァイオリン・アレンジ“年末特別バージョン”こそスズキメソードのお力によるものなのです。

そしてまた、東京の冬に相応しい美しい青空にも恵まれました。様々な反省とともに、すべてに感謝、ただひたすら感謝です。
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2008年12月26日金曜日

チャリティ・オペラ・コンサート直前情報【其の四】

まずは読者の皆さまにご報告と御礼です。来たる12/28(日)フェニックス証券主催チャリティ・オペラ・コンサートのチケットは完売=売り止めとなりました。多くの方々に趣旨ご賛同いただきご協力をいただき、本当にありがとうございました。

さて、直前情報【其の四】は、引き続き「第一部 中高生と中高年のためのオペラ入門(!?)」を続けます。「カヴァレリア・ルスティカーナ」「愛の妙薬」「蝶々夫人」に続きまして、本日は「イル・トロヴァトーレ」です。

イタリアオペラにおける作曲家ヴェルディは、交響曲におけるベートーヴェンと同じ存在だなどと、その偉大さが称えられている大家が遂に登場。続いて取り上げる「ドン・カルロ」同様、吟遊詩人という意味の当作品は、ヴェルディの代表的なオペラです。実はこの「トロヴァトーレ」、私にとっては数少ない「チケットを買って観に行った」オペラのひとつです(通常、私はYouTubeでオペラの“勉強”をしており、殆ど金を掛けておりません)。そんなケチな私が、特段事前準備をせずに、日本語字幕を追いかけながら観たオペラの結末は、「何じゃこりゃ!?あり得ねぇ。ふざけるな!」という感想でした。しかしそれはトロヴァトーレやヴェルディを嫌いになることを全く意味せず、支離滅裂の物語の是非を超えて貫かれる全く隙のない音楽の作りと美しさで、むしろヴェルディの才気に魅了されるキッカケとなったのでした。

支離滅裂な物語を簡潔にお話するのは私の能力を超えております。大変素晴らしいサイトを発見しましたので、お時間のあるかたは是非こちらもご参考になさってください(12/28【日】の演奏会の後でもよろしいかと存じます)。

http://homepage3.nifty.com/operasuzume/Trovatore.htm

「隙のない音楽の作り」というのはモーツァルトのオペラ(例えば「フィガロの結婚」など)についても言われる褒め言葉ですが、トロヴァトーレについては少し角度が違うようです。登場人物毎に変化を聞かせたテーマ、情景や登場人物の心境に応じて繰り広げられる和音進行、この二つが縦糸と横糸のように整合的に織り成されている点。テーマというのはぶっちゃけ旋律ですけれども、これが変化しつつ全編に渡り繰り返される。この技法は、モーツァルト的な角度からは、或る意味手抜きなのかも知れませんが、私のような素人の音楽好きにとっては甘美な麻薬なのです。実際、この技法は、同じくヴェルディでは「仮面舞踏会」や「ドン・カルロ」等の後期の作品で発展し(「椿姫」では逆にこの技法が禁欲的にしか使われていないのが味噌だというのが私の独断と偏見)、プッチーニ(「ラ・ボエーム」など)やレオンカヴァッロ「道化師」で一層先鋭化し、今世紀の映画音楽やミュージカルでは完全に定着します。逆に言うと、映画音楽の元祖的要素を持つ劇音楽は、今日でも繰り返し上演されるヒット作またはロングランである傾向は強いのです。

日曜日は、女官レオノーラを横恋慕したルナ伯爵のアリア「君の微笑み」と、ルナ伯爵を拒絶していたものの決闘の末、伯爵軍に捕らえられた恋人マンリーコ(=吟遊詩人?)を救い出すために伯爵に貞操を差し出すというレオノーラと伯爵の二重唱「私の涙をご覧ください」の二曲をお届けします。

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好敵手に恵まれなかったブッシュ大統領

●SECによる“行政処分勧告”は8年前に比べ激減-ブッシュ政権下での金融監督が緩過ぎたとの疑問が浮上(12/25IHT)
ナスダック元会長マドフ容疑者のヘッジファンドもどきがネズミ講詐欺に過ぎなかった事件。政権交代で退任間近のコックス会長の下での証券会社取締りは、投資家保護どころか証券会社保護だったとの批判まで上がっている。オバマ候補が指名を終えた経済閣僚は、金融行政の信頼回復と復権を主張、どのような施策に出るのか証券業界は戦々恐々としているとインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙。

ソフトブレーン創業者の宋文洲さんと私との対談も掲載されている去る21(日)発売のMoney Japanマネー・ジャパンには、もう一つ(!?)興味深い対談「池上彰さん×森永卓郎さん」が掲載されています(ちなみに、森永卓郎さんは、同誌の先月号での私の対談相手になって下さいました。)この中で、池上彰さんが面白いことをおっしゃっています。曰く、

「冷戦時代は自由主義陣営と雖も、好き放題自由放任を進めて弊害を出すと『それ見たことか!資本主義の弊害はマルクスが言った通りだ』と社会主義陣営につけ入る隙を与えたので、規制を中心とした自浄作用が働いていた。ソ連が“無くなって”からは、好敵手不在により、自由放任が好き勝手に進められた。この行き着いた先が、サブプライム問題でありリーマン危機なのではないか」と。。。

この点、池尾和人慶応大教授も今朝の日経新聞で「証券会社、ヘッジファンド、(非連結対象の)投資目的子会社(SIV)などは『影の銀行システム』と呼ばれつつも、規制の網に掛からなかった」ことに加え、レバレッジ(平たく言えば銀行借り入れ)が利用できるファンド・マネージャーにとっては『運用がうまく行けば巨額の成功報酬が貰え、失敗しても辞任すれば済む』というルールではチキンレースを奨励しているようなものだと指摘しています。

それでもなお、池尾教授は前出の発売中Money Japanマネー・ジャパンで、「唯一成功した“社会主義国”」と故筑紫哲也さんに“評価”された行動成長期の日本において、まさしく池上彰さんご指摘の「社会主義陣営につけ入り隙を与えない」システムの一部を担った護送船団が、メガバンクへと形を変えていようが、本質的に何も変っていないと予ねてからの首尾一貫した主張を繰り返しておられます。但し、変化できなかったことが、リーマン危機的なものからの悪影響を間接的な程度に留めたというのは皮肉な結果です。

池尾教授は「金融機関のファンド・マネージャー達の規律」が必要だと説きます。私は、金融機関のファンド・マネージャーと事業会社の雇われ社長とは、背負っている責任と権限において本質的に何が違うのか良く判りません。事業会社の雇われ社長は、資金を外部調達する場合、ほぼ例外なく、
①個人保証を求められる、
②生活を担保にする程度の共同出資を迫られる、
③株主代表訴訟のリスクに晒される。
つまり、役員報酬(成功報酬)を追求するためにレバレッジを掛けようにも、無限責任が付きまとうのです。これは我が国の会社法と金融常識(金融慣習)が織り成すインフラだと私は認識しています。

これは何も社会主義陣営という好敵手が不戦敗しようとも、自由主義陣営にとって極めて馴染む“規律”ではないかと思うのですが、皆さんいかがお考えでしょうか?

我が国のここ数年の“官製不況”は期せずして、米国発金融危機の衝撃緩衝材になったのは前述の如く皮肉。ただし、最低限の規律(規制?)を限られた急所に掛ければ、責任と権限のバランス(つまりはモラルハザード回避)を担保できる。これぞ資本主義の矜持です。具体例を我がFX(外国為替証拠金)取引に則して申し上げれば、①スプレッド(“誇大広告”や“不当表示”の撲滅)、②自己資本規制比率(“四半期毎”では不十分)、③区分管理(“全額”信託保全が出来るかどうか)、④強制ストップロスのシステムが安定稼動しているかどうか、以上4点が急所でしょう。食品偽装に対して厳罰化で対処するのと同様の規律が求められればそれで十分です。
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2008年12月25日木曜日

チャリティ・オペラ・コンサート直前情報【其の参】

中高生と中高年のためのオペラ入門!『カヴァレリア・ルスティカーナ』『愛の妙薬』に続いては『蝶々夫人』です。

今年生誕150周年のプッチーニは、我が国でも人気の高いオペラ作曲家ですが、この季節になると思い出すのがフィギュアスケートでのBGM。世界に冠たる我が国の女性スケート陣が頻繁(ひんぱん)に使ってきた名旋律の多くがプッチーニによって紡ぎ出されたものです。トリノ五輪金メダルの荒川静香さんがプッチーニの“白鳥の歌”とも呼ばれる遺作オペラ『トゥーランドット』から第1幕冒頭~第3幕カラフのアリア「誰も寝てはならぬ」を使用したことは余りにも有名。その五輪の開会式では故パヴァロッティがサプライズで登場し歌ったのもこのアリアです

ところで、五輪の1年後にパヴァロッティは完全に“口パク”だったと当時の指揮者が告白。しかし腑に落ちないのは、本来オペラアリアではご法度とされている「移調」で、パヴァロッティは半音下げて「歌って」いたのです。本来のニ長調では当時の体調では無理だったにしても、半音下げればもしかしたら歌えるかも、というギリギリの努力と検討が開会式直前までなされていたかと思うと、泣けてきます。


『蝶々夫人』に戻りましょう。やはりフィギュアでは安藤美姫さんが題名役の代表的アリア「ある晴れた日に」を使用しています。今回お届けするのもこのアリアです。

時は19世紀後半、舞台は我が国の長崎。港港に女を作る米軍中尉のピンカートンは、当地で没落士族の娘で齢15歳の芸者“蝶々さん”を見初めます。ひたむきな愛ゆえにキリスト教への改宗まで決意した“蝶々さん”をピンカートンは現地妻としか思っていないにも関わらず、結婚初夜を迎えるというシーンで第一幕は幕を閉じます。

第二幕は、結婚式から3年経ったが、米国に戻ったきり帰ってこないピンカートンについて、下女スズキが「長崎に帰るという約束は反故にされたのでは?」と疑います。が、蝶々夫人はそれを否定。夫は必ず帰ってくる。その思いを載せて歌われるのがアリア「ある晴れた日に」なのです。

事実は下女スズキの疑った通り。ピンカートンは米国人ケイトと結婚しており、このあと蝶々夫人には再上陸するピンカートンに同伴されたケイトとの対面、という悲劇が待っています。

誤解のないように記しますと、歌劇『蝶々夫人』は“歩くチ●ポ”ピンカートンがアメリカ帝国主義の象徴、それに蹂躙される蝶々夫人が東洋の植民地の象徴、のような反米の物語として書かれたわけではありません。国同士がどうこうということではなく、ヒロインの一途な愛ゆえに招かれた悲劇という解釈が現在では主流のようで、それゆえ名作揃いのプッチーニ・オペラの中でも、特に人気が高い作品になっている、それが偶々舞台は日本である、というのは決して悪い気分ではありません。

ドラマチックなパフォーマンスと強靭な声帯と体力を要求される蝶々夫人はソプラノのレパートリーの中でも難役中の難役。生前、マリアカラスが得意としていたのもこの役です。

明日は、ヴェルディ作曲『イル・トロヴァトーレ』をお届けします。
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おっとどっこい、サンタクロースが出現

●GMACの銀行持株会社化をFRBが承認、救済融資枠の活用が可能に(12/25WSJ)
本日の日本経済新聞朝刊にもある「米カード最大手アメリカン・エキスプレスも公的資金で救済融資」と公的資金の適用範囲が銀行からノンバンクに広がってしまった。何でもあり、となればGMACの銀行持株会社化承認をいつまでも渋る理屈が立たない。

しかし、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーが銀行持株会社になったのとは異なり、GMACの場合の制約は大株主の偏在。元親会社のGM本体や現大株主のサーベラスはそれぞれ単独での持分を10%未満にまで減らさなければならない(我が国でも、流通系その他の新銀行設立ブームだった時期に百家争鳴した「事業会社の“機関銀行”は許されない」という議論)。

そもそもGMACとは何でしょう。いまでは我が国のメーカーにとっても当たり前の、消費者ローン専門関係会社。その魁がGMACでした。GMACのAはAcceptance、すなわち自動車をツケで売った借金の証文を引き受ける(そして証券化するなどして転売する)という商売。まだ、連結決算が導入されていなかった時代においては、自社製品をツケで売りすぎるとバランスシートが膨らみすぎて金融機関から嫌われるという難点を凌ぐために、ツケ払いをオフバランスすることは打出の小槌だったというわけです。

よくよく考えれば、極めて単細胞的な財務体質(信用力)の錬金術に過ぎない理屈なのに、GMACをツケ払いの掃き溜めにすることで、長らくの間GMは米系格付機関から高格付を享受して来ました。

●消費支出0.6%減(12/24WSJ)
物価下落にもかかわらず?

●新規失業保険申請件数30,000件(12/24WSJ)
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2008年12月24日水曜日

チャリティ・オペラ・コンサート直前情報【其の弐】

本日ブログ【朝刊】のチャリティオペラコンサート直前情報

『カヴァレリア・ルスティカーナ』

の独断と偏見に基づくご紹介に続きまして、ドニゼッティ作曲『愛の妙薬』について押し付けがましい紹介をさせていただきます。

みなさんは“妙薬”と聞いてどんなお薬を想像されますか?原題はイタリア語でElisir d'Amor。エリジールとは秘薬とか媚薬と言う意味です。しかし、このオペラが輸入された時代、「愛の“媚薬”」と訳するわけには行かなかったのでしょう(La Traviata【道を踏み外した女】の主人公がVioletta【すみれの花】なのに何故か『椿姫』だったりするのと同様、絶“妙”な訳出の一例なのかも知れません)。

ところで、このオペラは媚薬のお話かと、鼻の下を伸ばしてお待ちの皆さま。残念ながら、勃起薬が役に立つようなシーンは全くない、ハッピーエンドのドタバタ喜劇なのです。

とある田舎村。風采の上がらない青年ネモリーノは、自分より身分が高く聡明な女性アディーナに心を寄せています。村の中で老若男女から慕われているアディーナが、そんな村人たちに『トリスタンとイゾルデ』の物語を読んで聞かせるシーンでオペラは開幕します。惚れ薬を飲んでイゾルデ姫の心を掴んだトリスタン。そんな妙薬なんてあるのかしらとアディーナはせせら笑います。そこに現れた軍曹ベルコーレの雄姿に、アディーナは「悪くないわね」。ネモリーノは、突然の恋敵(?)登場に焦ります。

ネモリーノに挽回のチャンスを与えたのがイカサマ医師ドゥルカマーラが売りつけた妙薬ならぬ単なる安ワイン。これを呑めばアディーナが自分を向いてくれると信じて酔いしれるネモリーノ。そのご機嫌な姿をアディーナは面白くなく、さっさと軍曹ベルコーレとの結婚の日取りを決めてしまいます(二重唱「ラララ・・・」)。

逆効果となったのは、妙薬が単なる駄酒なのではなくて、薬が足りないからだと思い込んだ、おつむの足りないネモリーノは安ワインももう一本買いたいのですが、財布は空っぽ。忸怩たる思いで恋敵ベルコーレの軍隊に入隊を決意し頭金で安ワインに大枚を叩きます。

安ワインをオカワリし泥酔したネモリーノは、一部始終がドゥルカマーラからアディーナに伝えられ、彼女の心が自分に向けて開き始めたことも知らず、片思いの気持ちと一縷の望みを願って「一筋の涙が・・・(人知れぬ涙)」を絶唱します。

明日は、プッチーニ作『蝶々夫人』をご案内します。
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何はともあれクリスマス・イブです

クリスマス・イブくらいは明るい話題で始めたい当ブログですが、天邪鬼の七転び八起きとしては期待に沿えず恐縮です。

●トヨタ渡辺CEO辞任(12/24WSJほか)
度重なる業績下方修正を経て、戦後初の営業赤字へ転落のニュースは、昨日英BBCでも、30分置きにNHKニュースの映像が繰り返されるほど世界に衝撃を与えた。

それは判りますが、「たった一期」の赤字で社長辞任というのは厳しすぎないかというのが私の勘繰り。数字を見る限りでは、過去何十年(特にこの十年)積み重ねてきた利益(特に内部留保)に比べ、今期の赤字は微々たるもの。

数字以外の「何か」があるのかどうか心配。

●元ナスダック会長のネズミ講詐欺、被害者のフランス人投資家が自殺(12/23FTほか)
500億㌦規模の詐欺は全容解明途上。このうち14億㌦を投じていたファンドマネージャーが自殺。65歳のフランス人で投資顧問会社の共同創設者。遺書は残されていないが・・・

銀行の不良債権を毒入り餃子と譬えてきた当ブログ。今回のネズミ講事件で毒入り餃子はヘッジファンドにも混入されてしまった。スイスのUnion Bancaire Priveeは「独立した監査人と常任代理人が選定されていないヘッジファンドについては運用残高を直ちに減らせ」と内部文書で指示。この名門プライベート・バンクは運用資産が560億㌦に及んでいる。

ヨーロッパでは第三者による監査が通常行なわれているが、米国では伝統的な大手ファンドも含めこのような慣習がない。UBPの今回の動きは、米国の「ヘッジファンド産業」の姿かたちを塗り替える可能性もあるとFT紙は指摘。

●米国の住宅販売、新築も中古も大幅下落(12/23WSJほか)
11月の中古住宅販売は前月比▲8.6%(対前年比では▲10.6%)。新築は前月比▲8.0%で月402万戸。これは1997年7月以来最低水準。米国全体の住宅価格の中間値medianは、181,300㌦と一年前に比べ13.2%下落。1968年に統計をとり始めて以来最大の下落幅。

まだまだありますが、暗い話はこれ位に留めましょう。今日からは今週末日曜日に迫りましたフェニックス証券チャリティ・オペラ・コンサートの直前情報を更新して参ります。お蔭様で満席予定の同コンサートには私より遙かにオペラマニアのお客様から、オペラには関心はあるけど敷居が高くて近寄りがたかったので、今回のチャリティをキッカケにと考えてくださったお客さままで様々いらっしゃいます。このような多様なニーズになるべくお応えするのが司会の腕の見せ所ですが、何せ話下手なので、紙面で順次補わせていただこうというわけです(チケットご予約をいただいたお客様でメールアドレスを頂戴したお客様には配信済です。悪しからずご了承ください)。

12/28(日)プログラムの第一部は、

【第一部:中高生と中高年のための(?)オペラ入門法(!?)】

と銘打っております。その一曲目は、マスカーニ作曲『カヴァレリア・ルスティカーナ』より「ママも知るとおり」です。

オペラファンやオペラマニアにとっては馴染み深い歌劇『カヴァレリア・ルスティカーナ』。また映画ファンならコッポラの名作『ゴッドファーザーⅢ』で劇中劇で使われたのもこの『カヴァ』であることをご存知の方々もいらっしゃるかも知れません。オペラは興味があるけど、観たことはないとおっしゃるお客さまも、有名な「間奏曲」の旋律は聞き覚えがあるかも。この美しい旋律「だけ」を聴くと「穢れ無き純愛」や「一途な信仰心」などが思い起こされるのは私だけでしょうか。ところが、イタリア語て田舎の騎士という意味の題名の物語は、シチリアの貧しい若者を取り巻く痴情のもつれを生々しく描いたものなのです。

奇想天外な神話性を帯びた物語(要するに「あり得ねぇ~」という話)や歴史に題材を見出しつつ親子愛や恋愛を独特のスケールで描いたもの(同じく「あり得ねぇ~」・・・)というのも、オペラの大きな特徴。時代を少々遡り、イタリアオペラ史の“最高峰”ヴェルディが取り上げた題材には、シェークスピアの悲喜劇などのほか、第一部の後半にとりあげる『イル・トロヴァトーレ』(≒吟遊詩人)、『ドン・カルロ』など「あり得ねぇ~」系のオン・パレード。

これに対して『カヴァ』の題材は、其処彼処の社会の底辺のどうしようもない現実そのもの。長年貴族や富裕市民が目を瞑ってきたこのような現実を題材とする芸術上の運動(イタリア語ではヴェリズモ)の端緒にあたるのがマスカーニのデビュー作『カヴァ』だなどと言われております。

「ママも知るとおり・・・」は、主人公サントゥッツァが、一度は愛を誓い肉体的にも結ばれた元許婚が、兵役前に愛し合っていた現人妻と逢引している現状を、姑だったであろう“マンマ”に嘆く悲痛なアリアです。

サントゥッツァは同様の“告発”を、逢引相手の旦那にもしてしまいます。結果、決闘を経て、元許婚は殺されます。

オペラファン以外の皆さん、ハッキリ言って、どうでも良い話だと思いませんか!?

本日夕刊にて、続いての演目、ドニゼッティ『愛の妙薬』についてお話します。こちらは打って変わって楽しいオペラなので、どうぞお楽しみに。

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2008年12月23日火曜日

忘れてはならない四川大地震

●四川大地震の犠牲となった小学生の親が中国政府に対し訴訟を提起(12/22IHT)
今年5月から始めた当ブログでは、同月12日に発生した四川大地震について「大正12年の関東大震災が事実上の昭和史の始まりであり大正デモクラシーと戦争への道の分水嶺であるのと同じように、中国経済における市場原理の導入と急速な経済成長の曲がり角となる出来事かもしれない」と喝破する一方、北京オリンピックが平和の祭典としての意義を如何にひけらかそうとも、その莫大な予算を震災の復興に充てるべきであるとも説いて参りました。

大地震直後は、犠牲者家族が中国政府の怠慢や不作為を罵る声を米欧メディアも取り上げてはいました。しかし、中国政府(軍隊や警察を含む)からの反撃や虐めを恐れた彼等の声は、皆、匿名で小声でした。同胞への殺戮として脳裏に刻まれる天安門事件に象徴される非民主国家の嘆かわしい一面。ところが、半年経過し、犠牲者家族の声が中国政府に対して真っ向勝負を挑むことになったことをインターナショナル・ヘラルド・トリビューンは伝えています。

中国政府の手抜きが指摘されているのは、学校建築の手抜きそのものと、活断層の調査の手抜きの二つ。

一方、

●米国経済のメルトダウンは、中国の経済モデルに光を与えた(12/22WSJ)
ウォールストリートジャーナル紙のコラムが、凋落する欧米型モデルと比較優位に立つ中国型モデルを対比するForeign Affair誌の分析を取り上げ、米国発金融危機は自国の経済失速だけでなく、これまで地球規模だったワシントンの影響力をも減衰しかねないとしている。

さて、四川大地震と言えば、フェニックス証券チャリティ・オペラ・コンサート。いよいよ開演まで一週間を切りましたが、お蔭様で日本橋公会堂は殆ど満席となる予定です。チケットの予約をしてくださったお客さま、チャリティの趣旨に賛同してくださり無理な条件で出演を快諾してくださった豪華キャストの皆さまに、重ね重ね感謝申し上げます。
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2008年12月22日月曜日

サンタクロースは居る筈が無い

●持ち家を奨励したブッシュ大統領こそ住宅バブルの犯人(12/21IHT)
米国版財投機関であるファニーメイやフレディマックのあり方が問題である点についてちゃんと理解していたブッシュ大統領だったが。インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙はブッシュ大統領就任の年(2002年)の演説「我々は暗闇に灯を点すことが出来る。庶民全員が家を持てるように、国家一丸となって働くことは希望の灯火の重要な一要素である」を引用。

●「副大統領の役割」で、チェイニー氏とバイデン氏に大きな隔たり(12/21IHT)

「無秩序な破綻はよろしくないが管理された破綻なら・・・」とのブッシュ大統領の発言から半日も経たずして、GMとクライスラーの救済策が発表され、日米メディアは暫定的とは言え急転直下発表された救済決定に週末振り回されていました。私が救済案骨子のなかで最も注目しているのは、無担保債権のうち三分の一を株式に交換するという要件Debt-Equity Swap。大口債権者と噂されるシティやバンカメにとって形だけでも資産の額面が維持されるかどうかが死活問題である中、DESは苦肉の策。GM、クライスラー救済と自動車産業が全面に出ているものの、米国大手商業銀行の救済というのが本筋であることを滲ませる内容だったと理解しました。

ところで、個人的に最も気になるニュースは、ウォールストリートジャーナル紙オンライン版がアラートメールで伝えた、
●ワーナー・ブラザーズ、YouTube上の全ての音楽・映像を引き上げることを決定(12/21WSJ)
著作権に絡むGoogleとの交渉が決裂。これを受けて、WB社CEOが発表。

都心の大手楽器屋でもアマゾンでも手に入らない御宝ソフトが、音質や画質は兎も角、無料で手に入るYouTubeは、やはりあり得る筈のないサンタクロースだったのか。

最後に宣伝!毎月、独り善がりなコラムを連載させていただいておりますマルコポーロ社『月刊FX攻略』。本日発売の今月号はFXZERO遠藤取締役との対談が巻頭を“飾って”おります。リーマンショック以降、円高の影に隠れて主要メディアが注目して来なかった不気味なドル高(対日本円を除く)。米国で予想される急速な利下げの下、不気味なドル高は不安定なドル高だと警戒しています。雑誌の対談やコラムは締切が早く、毎度毎度苦労しているのですが、今回も11月10日の収録だった割には、先を見通せたことが言えていたなと胸を撫で下ろしています。

当ブログでも時々取り上げたFX業界の問題や規制のあり方について、かなり危ないことも口走っておりまして、きっと編集過程で削除されるだろうと思いきや、しっかり残っております。是非是非書店でお求めください。

私の対談はさておき、リーマンショック後の世の中を様々な角度から分析している、質の高い記事群。『・・・攻略』という題名からは想像出来ないほど、真面目で為になる雑誌だと思います。
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2008年12月19日金曜日

米ドルはどこまで腐敗するのか?為替介入はありやなしや??

●原油価格が急落、米国政府は自動車産業の破綻処理を熟考(12/18IHT+Reuter)
原油価格は9%下落し、過去4年の最安値を更新(1バレル36㌦)。OPEC減産合意と米国ゼロ金利政策導入にもかかわらず、世界経済の落ち込みが長く、そして深いとの懸念で。

米国自動車産業は、原油価格の乱高下の一番の犠牲者とも言えるが、政府による救済のプロセスの一部として破綻処理が持ち上がってきた。ブッシュ現大統領の「無秩序な破綻では衝撃が大きすぎる」との発言が、管理された破綻処理を現政権が真剣に検討し始めたとの憶測を呼んでいると。

一方、
●オバマ政権の新経済閣僚候補、最大で8000億㌦の財政出動を議会に提出(12/18WSJ)
減税、社会保障、学校建設、エネルギー効率化投資、ブロードバンド接続、健康情報分野の技術開発・・・と大枠が示されている。

米国の国内総生産は約12兆㌦と日本の約2.5倍。これに対する米国の公的債務は、今世紀に入ってからは対国内総生産比で40%弱を維持しており、同比率が160%~180%の日本と比べて遙かに健全。0.8兆㌦の追加財政出動など全く問題ない、と勘違いしてはなりません。

伝統的なマクロ経済学では、財政政策と金融政策の違いを強調し過ぎてきましたが、国債をどれだけ買うか売るかという調節手段に留まらず、民間企業の債務や株式、不動産(含む証券化商品、不良債権)まで中央銀行の貸借対照表に乗っかる可能性がある「代替的金融政策」の時代にあっては、財政と金融を区別することが殆ど無意味になってきています(我が国の「財政と金融の押し付け合い」やら「政府発行通貨が景気対策の起爆剤になる」という議論も、いつぞやのデノミ同様、意味の無いお祭騒ぎに過ぎません)。

つまり、米国の国家管理債務の金額を洗い出すうえで、FRB絡みのバランスシートの膨張もきっちり合算しなければ、米ドルという通貨の腐敗度合いを査定することは出来ないということです。

今年だけで、FRBはCP買い入れ枠1兆8000億㌦、入札方式による資金供給枠9000億㌦、住宅ローン消費者ローン対策枠8000億㌦をなし崩し的に意思決定しています。当ブログ独特の表現で金融機関モラルハザード案件では、FRBと政府とあわせて、AIG向け1500億㌦、シティグループ向け2500億㌦という超大口案件の影に隠れてベアスターンズ救済関連290億㌦も、今から思えば大した金額ではないものの3月当時は随分物議を醸したことを忘れてはならないでしょう。

以上は、未使用枠もあるので合算が難しい部分ですが、コミット済み(枠取り済み)の財政政策絡みではファニーメイ・フレディマック支援2000億㌦(住宅関連法案)、不良債権救済プログラム7000億㌦(金融安定化法案)が2大モラルハザード案件は当然のことながら合算されなければなりません。

今、筆者の手元にはないのですが、FDIC(連邦預金保険機構)をはじめとする公的機関や地方公共団体等の債務も考慮に入れる必要があります。この点、FDICはダントツに大口であり、今年、銀行債務と決済性預金の保証枠1兆9000億㌦が決定しています。

繰り返しになりますが、枠取りはされても未使用部分があちこちにあるため全部を合算させては可哀想ですが、以上がなし崩し的に使用されると、公的債務/国内総生産の比率は、どんどん我が国の水準に収斂すべく悪化すると見るべきです。

ただし、公的部門の「バランスシート」と呼ぶくらいで、負債があればその反対側には資産があるわけで、資産の質を問わずして負債の額だけで通貨の腐敗を決め付けることは論理的ではありません。《銀行の不良債権を時価以上で政府または中央銀行が買い上げてやり含み損または実現損部分を増税ではなく赤字国債でファイナンスし、その国債を中央銀行が買い切りオペで現金化する》タイプのポリシーミックスが財政出動策に占める割合が大きければ大きいほど、その国の通貨はハイパーインフレ等の経路を通じて坂道を転げるように腐敗すると言わざるを得ません。

昨日夕刻以降、中川財政相の為替介入を仄めかす発言等で、一時急激な円高是正がありました。但し、為替介入が日銀単独に留まり、協調介入が成立しないとなると、「(欧州や中国を見習って)米ドルの“腐敗化政策”を意図的に取ろう(政権交代のドサクサに紛れて、敢えて明言は避けつつ、ドル高政策を180度転換しよう)」という自国通貨の切り下げ合戦Dirty Floatへの宣戦布告だと読み取らなければならないでしょう。

今朝の二つの記事は、米国の政権交代が保護主義に向けて思い切った舵取りが切られるかも知れないという文脈で読み解く必要があります。
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2008年12月18日木曜日

剥がれ落ちたアメリカン・プレミアム

●対日本円以外での“秋の米ドル高”は長続きしなかった(12/17IHT)
クロス円のFXだけに慣れていらっしゃる方にとっては何のことやらさっぱりかも知れません。リーマンショック以降、国内の殆どのメディア(含む経済専門メディア)は為替相場を円高ドル安と説明し続けていたからです。

しかし、良く見ると、昨夜ドルは対円で87円台前半と1995年以降では最安水準を更新している一方、FXに関心を持っていただいている多くの皆さんの目に焼きついているユーロ円の110円台やオーストラリアドルの50円台、ニュージーランドドルの40円台という「円高に加えて“ドル高”」は大きく是正されているのです。

勿論、一昨日のFOMCでの想定外の利下げ、米国初のゼロ金利政策も、対円以外でのドル高終焉に寄与していることは事実ですが、このFOMCの動きの前後から極端すぎた信用収縮による銀行間金利の政策金利からの乖離幅が多少なりとも落ち着いてきたことが、ドル調達時の過剰なキャリー費用バブルを沈静化させ、皮肉なことに、ドルの全面安を招いたというのが本質であると考えられます。

先ほど、インターナショナル・ヘラルド・トリビューンの記事で引用をした1995年という年は、逆に日本円が全面高だった局面で、日本発金融不安によるジャパンプレミアム(注)が発生した年でもある点、極めて判りやすい比較対象となっています。

当ブログの予想を信じて、米ドルを売り、オセアニア通貨等を買っていたFXのお客さま。金利も、為替差益も手に入れられ、おめでとうございます。一進一退を繰り返しながら、この傾向は暫く続くのではないでしょうか。

●クライスラー、全工場を1ヶ月操業停止に(12/17WSJ)
●モルガンスタンレー、23.6億㌦の四半期赤字-ゴールドマンサックスに続き(12/17WSJほか)


(注)当時は日本銀行の政策金利は未だ公定歩合だったので、現在の米国政策金利(FF金利)⇔銀行間金利(米ドルLIBOR等)と直接は比較できませんが、政府短期証券の利回りや欧州等オフショア市場での円短期金利(BBALibor等)と比べて東京銀行間金利(TIBOR)が異常に高かった現象

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2008年12月17日水曜日

ニュー・ニューディール政策にグッドラック

●米国FOMC、政策金利を0%~0.25%へ引き下げ(12/16各紙)
前回10/30のFOMCで1%にまで引き下げられていたFFレート。事前のアナリスト予想では0.5%程度の引き下げが見込まれていたので、予想外の決定。為替は一気に88円台へ。一方、株価はニューヨーク時間前半、ゴールドマンサックスの株式公開以来初の赤字や消費者物価指数の予想以上の下落(統計を取り始めて以来最悪の数値)等でマイナス圏だったのが一転してプラスへ。

FXをやっていらっしゃる方々は既にご存知の通り、米ドルに投資をしてももはや金利は付きません(但し長期国債は別。それは日本国債でも同じこと)。

インターナショナル・ヘラルド・トリビューンは、ゼロ金利政策が、日本もかつて6年間続けて自国のデフレと対決したことを引き合いに出しています。

●オバマ次期大統領は、日本の失われた10年の教訓を理解しているのか(12/16WSJ)
公共工事中心に1兆㌦の景気刺激策をぶち上げたオバマ氏。不況期のケインズ的政策は何度も繰り返されてきたが、首相交代の度に行なわれた財政出動が結局、GDP比180%(注)という醜い数値の国債残高を残しただけだった。ようやく小泉改革のもと、国家資産の民営化、銀行の不良債権処理の強制を通じて、経済は回復したのだが、再び最近の政府の行動は改革から逆戻りしていると。

WSJの中では、ナスダック元会長のネズミ講詐欺(コックスSEC会長も、粉飾やら虚偽報告だらけで調査が進んでいないと発言)に関する続報記事と同様、もっとも読まれている記事のようですが、記者名が伏せられています(コメントをすることは出来る)。ゴーストライターは竹中平蔵氏かと思わせるような記事は、「米国経済は『ニュー“ニューディール”政策』で蘇ると言われているけれども・・・Good Luckを日本語では何と訳すのか?」という皮肉たっぷりの思わせぶり表現で締め括られています。

(注)OECD調べ。最悪期2005年時点の数値。同年、米国は40%以下。但し、想定される反論として、国家資産の評価が全くなされていない点は留保しないと、この数値だけで円高円安は語れないですぞ・・・
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2008年12月16日火曜日

靴の屈辱とブッシュ大統領の運動神経

●イラク電撃訪問のブッシュ大統領を襲った「靴の屈辱」事件から一夜明け、逮捕されたイラク人ジャーナリストはアラブ地域で英雄に(12/15International Herald Tribune)

事件はイラクに限らずアラブ全域の新聞のヘッドラインを飾り、同地域の反米感情はかつてない高まりを見せている。

靴を投げつけるというのはイスラム教においては最大限の侮辱を意味するらしい。それにしても、記者会見会場の後方からの投擲にもかかわらず、靴はブッシュの顔に的中するところだった。見事な制球力(制“靴”力?)は練習の成果なのか(計画的犯行は間違いない・・・)。一方ブッシュの身のかわし方も、皮肉抜きで、見事。

たまたま現在、文化大革命期の中国を取り扱った渾身のドキュメンタリーをNHKが深夜枠で再放送しています。紅衛兵として罪無き同胞、時には家族までも吊るし上げ殴り倒し無念の死まで至らしめた側と、吊るし上げられた側。水に流したくても流せない経験を引きずる両側の人たちが現在ようやく当時のことを語り始め、身の毛のよだつインタビューが数時間ぶっ通し。

中華人民共和国建国後間も無く、毛沢東は「大躍進」と呼ばれる政策をぶち上げ、鉄鋼生産重視+農業生産軽視の極端な計画経済下の富国強兵策を敢行するものの、農民や労働者の士気は下がり、農村には飢餓が蔓延、官僚腐敗も無視できない状況に陥り、共産党自身も政策の失敗を認めざるを得なくなりました。事態を救ったのは劉少奇+鄧小平コンビで、建国当初は認められていた自由市場等を復活させ、食糧生産は回復、労働者の士気も復活します。面白くない毛沢東は劉少奇と鄧小平を失脚させるべく、とんでもない権力闘争に出ます。曰く、両者の路線は資本主義へと走る反共産主義であり、働く貧しいものを裏切る行為だと。「造反有理」という掛け声に、党高級幹部の子女が覿面に反応し、学生を中心に中国全土で紅衛兵が組織され、自営業者だろうが一般農民だろうが多少なりとも自ら土地や資本設備を所有している人達、また不要不急の文化に携わっている人達が不当に且つ反論の余地無く吊るし上げられていくことになりました。

私は従前どおり、歴史に勧善懲悪を持ち込みたくないので、この後非業の死を遂げた劉少奇が実際は正しく毛沢東は“二度も”間違えたと決めつけることがここでの意図ではありません。たとえ劉少奇が、毛沢東の機嫌を損ねる覚悟で、瀕死の中国を救ったにもかかわらず、毛沢東が「造反有理」の一言で、大多数の若者をドミノ倒し的に熱狂へと陥れ、党内ライバルの失脚と自らの復権どころか権力固めを実現したという事実。政治と大衆心理の共鳴現象が如何に愚かな結果をもたらすか、現代人は多くの教訓を学んでいる筈なのに、一向に懲りないということが私の言いたいことです。

このような切り口で文化大革命を読むと、毛沢東の性格や手法、若しくは才能は、ナチスドイツのヒトラーと非常に似ているとも言えます。このような人物が時々政治の舞台に現れると、マスコミは99%煽動を加速する役割に回り、大衆心理との共鳴現象の触媒にこそなれ、歯止めには決してなりえない。これはマスメディアに属する記者ひとりひとりがどんなに優秀で人格者であっても、企業利益というインセンティブの前では抗することの出来ない潮流になってしまうのです。

ブッシュの顔に中りそうだった靴も、心の底から笑える話ではありますが、このような一瞬の出来事、一本のヘッドライン・ニュースから、政治も大衆心理も大きくうねり出すことがあるのだという繰り返される事実を自戒せねばなりません。

元ナスダック会長のネズミ講詐欺事件、信託管理人が選定される(12/15WSJ)
信託管理人Trusteeは、ちなみに信託保全を謳っているFX業者が破綻した際にも登場し、残余財産の分配の役割をします。このような詐欺ファンドでも同じこと。ただし舞台が証券会社なので、米国版の投資家保護基金が投資家一人当たり最大50万㌦まで補填する可能性があるとのこと。

元ナスダック会長のネズミ講詐欺事件、富は一体どこに消えたのか(12/15New York Times)
逮捕以降調査が進んでいるが、未だ実態究明に至らず。
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2008年12月15日月曜日

ナスダック元会長がネズミ講で4兆5000億円詐取?

日本のメディアが不思議なほど取り上げない史上空前規模の詐欺事件がウォール街で発覚。先週既に逮捕された元会長は、TIME誌によれば若い頃救命員として稼いだ僅かな貯金を元手に株の仲買人を始め、マーケットメーカーとしてウォール街を代表するファミリービジネスにまで伸し上がった。上場株式と異なり流動性の低い店頭株式の売買に一般投資家が参加してもらうためには、仲買人が値付け(つまり現在のFXのように業者がこの値段なら買います・売りますを提示すること)機能を背負うことが期待される。そのビジネスを成長させた功績によりナスダックの会長という名誉が与えられたと。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、逮捕された元ナスダック会長は、集めたファンドの運営会社の幹部社員達に「このスキームはネズミ講だった」と告白したと報じています。また、昨夜のNHKニュースをご覧になった方はご存知の通り、被害総額は4兆5000億円相当にのぼり、被害者の中には野村證券も含まれている(被害金額は未だ不明)とのことです。WSJ紙によれば、野村證券のほか、仏BNPパリバ、西バンコ・サンタンデール等、欧州の名だたる銀行が名前を連ねている他、米国の著名富豪も被害者リストとして明らかになっています。野村證券もBNPパリバも被害金額や被害に遭った経緯などの取材に対し固く口を閉ざしているとのこと。

サブプライムも詐欺だという人がいます。詐欺の定義は兎も角、金満社会が膨張している途中では詐欺ディールは深く潜行できるのですが、バブルが崩壊して信用収縮し始めると、潮が引くようにして汚いものが地上に現れてくるというのは、90年代の我が国においても枚挙に暇がありません。東京ニ信金事件や尾上縫事件もその例でしょう。後者は私が非常に近いところにいましたが、野村證券さんも同じく接近戦を戦いつつ偽装セレブに騙されなかった、その嗅覚は流石と思っていたのですが、今回は残念でした。

ヘッドラインニュースだけで早合点してはならないのが、元ナスダック会長の証券会社やファンドが設立当初からネズミ講だったわけではないということ。毀誉褒貶の激しい気まぐれな御仁だったらしい(TIME誌)けれど、最初はS&P500銘柄等大型株とそのストックオプションとで運用する年利10%程度を目標とする安定運用を志していたらしく、昨年当たりから運用不振と解約増に見舞われ、挽回を図るべく、配当が維持できていると偽装するために、新規顧客の資金が解約顧客の元本に回ってしまったというのが真相らしい、つまり4兆5000億円を丸々この元会長が私財にしたわけではないのでしょう。

これが本当だとすると、倒産が時間の問題であるFX会社が悪足掻きして区分管理されなければならないお客さまの資産に手をつけて運転資金に転用するという行為も、ネズミ講だということになります。

米国にも存在したネズミ講Ponzi Scheme。殆ど全ての金融サービスは意図するかせざるかは別としてネズミ講と背中合わせであることを現状信用収縮の真っ只中にいる我々は自戒しなければならないでしょう。FXだけではない、伝統的な銀行業だって、どんなに健全な銀行でも要求払い預金を全額引き出されたら取り付け騒ぎで倒産してしまう。庶民が預けた要求払い預金はすべて銀行の本支店の巨大金庫に眠りつつ利子を産んでいるわけではないのですから。
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2008年12月12日金曜日

GM、破産専門弁護士を雇う

今週はいつも以上に固い話が多かったので、最後ぐらいは柔らかい話で終わらせたかったのですが、30分前にウォール・ストリート・ジャーナル紙オンライン版でアラート・ニュースが出ました(QUICK等我が国の有料メディアでも翻訳記事が早速出ているようです)。

かなりの確率で溝に捨てられることになりそうなデトロイト救済のための一時的な公的融資。我が国でも、債務超過企業への直接融資を政府が意思決定し実行することはありえないだけに、自由放任主義の殿堂こと米国で、下院こそ通過したものの、上院通過は当然疑問。オバマ政権の発射台くらいは綺麗にしておくべく、年内の問題は現政権に委ね、従前通り口出しをしないほうが賢明と思いますが・・・

ところで、破産専門の弁護士を雇うという記事だけでは、連邦破産法11条申立ての選択肢のための準備という意味合いであり、当ブログでも取り上げたクライスラーの場合と同じく、騒ぎ立て過ぎるのは読み間違いとなる点、要注意です。

さて、たまには我が国国政の話を。昨夜は各メディアが「たばこ増税は却下」を報じる一方、「JR東日本が喫煙所廃止」を伝えました。皮肉な組み合わせです。

たばこ1本につき3円増税だとか、数ヶ月前にはたばこ1箱1000円にすべきだとか、議論が注目されていましたが、歳入確保が目的なのか、(受動喫煙を含めた)国民の健康増進が目的なのか、そのどちらを優先すべきかを(くだらない反論を恐れずに)毅然とリーダーが示せば良いだけの話。当ブログに言わせれば、葉タバコ農家や煙草屋の陳情などに耳を傾ける必要はない。自分達が関わっている仕事が斜陽産業だと気づくために十分な時間が与えられていたにもかかわらず、作付転換なり業態転換なりで活路を見出そうとしなかった非常識と怠慢に対して、同情の余地はない。

さて、「JR東日本の喫煙所」問題は、煙草の煙が好きかどうかという趣味や健康の問題から離れて論じましょう。JRはJRでもJR東海の最新の新幹線N700でも、喫煙車両は遂に消えました(但し喫煙場所は残した)。繰り返しになりますが、分煙の徹底が十分かどうかをここでは議論しません。喫煙車両や喫煙場所のほうが掃除や空気清浄の費用負担が掛かるにもかかわらず、禁煙車両を利用している乗客と運賃が変らないことは実は不公平だったのです。逆に言えば、喫煙車両等の利用料として掃除や空気清浄の費用を上乗せすべきとの考え方に立てば、基本料金としての運賃は下げられます。否、丸々下げなくても一部はJR役職員の報酬やJR株主の配当に回っても、経営判断としてはありでしょう。

煙草を吸わないから主張しているのではなく、実は駅の便所も同じこと。我が国ほど、駅に限らず公衆便所があちこちにあり綺麗に保たれ且つ無料という国は先進諸国何処を探しても見当たらないのではないでしょうか。これは我が国の数少ない美点のひとつだと思いますが、家のトイレを使ったら水道代や家族の誰かによる掃除負担が掛かるのに公共のトイレなら税金負担(または駅のトイレなら乗客や広告主の負担)というのは不公平です。ひとり10円でも良いから掃除費用くらいは負担すべきです(そういうトイレもちらほら増えてきていますが・・・)。

何をセコいことを、と言ってはビジネスを構想出来ません。一日に何百人、何千人、何万人も往来する公共物なのですから、この経済効果は実に大きいのです。煙草を吸う人と吸わない人をごっちゃ混ぜにしたがん保険が淘汰されるように、便所も喫煙場所も掃除費用は利用者負担(公共経済学で言う応益負担)の徹底こそ、鉄道事業のようななまじ公共性がある企業や、税制のポリシーを決める政府与党にとってしっかり勉強をしてもらわなければならないポイントです。

以上は経済学の伊呂波。我が国の場合、官僚にも政治家にも経済学の素養のある人材が著しく欠如しているのも特徴。
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2008年12月11日木曜日

中央銀行とは何ぞや?

●米FRB、独自の債券の発行を検討―米財務省が発行している政府短期証券の“従兄弟”みたいなもの(12/10WSJ)
今朝の日本経済新聞も思わず取り上げている奇妙な観測記事。直感的には各国中央銀行の歴史上、前代未聞の枠組み転換に関する超スクープ記事のようですが、ウォール・ストリート・ジャーナル紙はどういうわけか敢えてアラート機能に載せませんでした。

実際には、「FRB法上の制約もあり、債券発行への道筋は平坦ではないだろう」とか、「債券を発行してバランスシートを膨らますのは財務省の領域であり、中央銀行が財政政策を独自で意思決定して実行までするというのは規律上よろしくない」という見方があり、実現は不透明ということでしょう。

しかし、火の無いところに煙は立たないのだとすると、
①質への逃避の結果、マイナス金利が付くほどの人気運用商品になってしまった政府短期証券。
日本経済新聞でみずほ証券の上野さんが「手数料を払って貸金庫に現金を預ける感覚」というのは直感的にはマイナス金利の理由が理解し辛いなかで非常に巧みな譬えです。加えて、
②CP(コマーシャル・ペーパー=民間企業が発行する合法的な“融通手形”)、住宅ローン証券化商品)、それに何と言ってもAIGへの融資等々で、米FRBの貸借対照表は約半年で倍以上にも膨張している(9000億㌦弱⇒2兆㌦超)
以上二つの背景が、FRB幹部をして、意味深長な珍言を語らしめたとも考えられます。

「景気と雇用の回復のためには、意図的にインフレを起こさせるべく、政府も中央銀行も形振り構っていてはいけない」というプロパガンダに当ブログは一貫して与しません。実現可能かどうかは別としてFRBの債券発行の選択肢というのは、どういう意味を持つのでしょうか?

財政政策とは、
「国債(税金または徴税権を担保とした国の債務のこと)を売るかわりに民間の資産を買ってあげるよ」
といううことです。

金融政策とは、
「現金(中央銀行の債務)を売る代わりに、国債(など)を買ってあげるよ」
ということです。

財政政策のほうは法律や議会(立法府)の制約が当然大きいのに対して、金融政策については迅速性という大義名分のお陰なのか、かなりの裁量が中央銀行にあるのが特徴です。財政政策も金融政策も「インフレの種蒔き」という点では同じですが、強制通用力のある価値尺度である現金のほうが種の殻は柔らかくて薄いため、発芽も成長も早いのも特徴です。

米FRBが、この時点で既に米国債以外の金融商品をのべつまくなしに購入して、殻が薄いインフレの種(=マネタリー・ベース)をばら蒔いている以上、これから発行を検討と言う債券はむしろ殻は固い⇒相当程度地面が湿っていないと(民間銀行に信用創造機能が回復しないと)インフレは発芽しない。ドサクサ紛れに、種も肥料も水もばら蒔いてきたFRBが、肥料も水もばら蒔きすぎた責任を後から言われても困るので、殻の固い種だけを蒔くという選択肢を準備しておこう、というのが理論的に考えれば今回噂の枠組みということでしょう。

勿論、財政政策と金融政策が一体化され、国債管理政策が議会から糸の切れた凧になれば、意図的インフレを起こすためには万能の力を持つことになります。中央銀行が既に「代替的金融政策」手法を手にしている限り、いまさら債券発行が可能かどうかというのは、直感的に恐れられるほど、大した意味は持たないのです。
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2008年12月10日水曜日

FXで運用して高配当を約束します!

●米イリノイ州知事をFBIが逮捕―オバマ次期大統領に票を売った疑いで(12/9WSJ)
昨夜深夜0時30分のウォール・ストリート・ジャーナル紙のスクープを、我が国の日本経済新聞も今朝の朝刊に間に合わせている程、重大な事象。オバマ次期政権に打撃とは、まさにその通り。

自由と可能性の国を象徴する黒人大統領の誕生でしたが、オバマ次期大統領の最大の武器はやはり資金力であったことは否定できません。私の調査不足のせいでしょうか、米国において例えばブッシュ現政権であればネオコンだとかキリスト教原理主義であるとかWASPエスタブリッシュメント等々が選挙基盤なり財政基盤としばしば言われます。ではオバマ氏の財政基盤は何なのか?具体的な顕著な谷町筋は見当たりません。

まさか、FXで大儲けしたわけではないでしょうから。

私は、我が国で小泉政権が「ある意味で」資金力勝負でなくて大衆の熱狂を活用して誕生したという経緯が、21世紀型の議会制民主主義の特徴だとも考えています。強力なリーダーの出現に対するアンチテーゼとしての議会制民主主義が、地域エゴイズムと族議員と財官の既得権益の総竦み状態をもたらした。冷戦終結後、外交上の立ち位置を見失うわ、バブル経済崩壊でも「口に苦し」と良薬を処方しないわ、台頭しつつあったネット社会が遂にしびれを切らしたという構造は無視できません。但し、小泉首相が自民党政権として誕生したことが皮肉にも我が国の構造改革を更に周回遅れにしたと薄々気づいている国民は、今や相当数にのぼるのではないでしょうか。

話を米国に戻しますと、勿論FBIが意図的にオバマ氏に打撃を与えるために遮二無二働いたのか、淡々と任務をこなした結果か、それは私には判りません。言えることは、やはり、現政権の支持基盤からの抵抗がこの期に及んでまだまだ根強いということでしょう。

おまけ
●FX“投資”会社が破綻、社長は音信不通(12/10読売オンライン)
自己責任が売り物のFX、ではなくて、「FXで運用して高配当を出しますから・・・」という無許可の投資運用業だったようです。これで14億円集めたというのですから、たいしたものだ・・・と感心している場合ではなく、淡々とやっているFX“取次”業者にはFXの名前を汚す迷惑な話です。全く、
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2008年12月9日火曜日

日本と北朝鮮は瓜二つ!

●米国議会、デトロイト救済のための150億㌦融資法案の決着に近づく(12/8FT、WSJ)

●ダウ=ケミカル、5000人削減(12/8FT、WSJ)
正社員の11%に相当。加えて契約社員も6000人首切り。米欧で20工場を閉鎖へ。

●S&P、ロシアを格下げ(12/8FT、WSJ)
ロシア通貨“ルーブル”からの資金逃避、原油価格の下落に加え、国内事業破綻回避のために外貨準備が直近5ヶ月で2000億㌦以上費消され、今年7月ピークだった外貨準備高は4000億㌦程度にまで低下したことが原因。BBB+⇒BBB(更に格下げの可能性あり)。

1998年のルーブル危機⇒ロシア国家破綻のときに比べれば、状況は全然ましであるとも注釈。

米系格付け機関に対する当ブログからの批判は、是非過去記事をお読み下さい。ここでは一言、米国のAAA~AAはどうなのかと言いたい。

●麻生太郎、1年以内辞任となる連続して3人目の日本の首相になる可能性大(12/8FT)
ちなみに、2世議員、いや2世首相(含む3世)も連続して3人目であることに皆さんお気づきですか?更にちなみに、2世議員(含む3世)となると、4人連続ですぞ。

日本と北朝鮮、国体は正反対だと皆さんお思いかもしれませんが、国家元首が世襲される点では瓜二つ。尤も、憲法上は内閣総理大臣は国家元首ではないですけど・・・
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2008年12月8日月曜日

スパゲッティ・ジャンクション

為替市場と株式市場の誰もが最も注目している米国ビッグスリー救済の行方。ウォール・ストリート・ジャーナルは意思決定へと向かう米国議会と同政府の揺れ動きを刻一刻と報じています。

まず、

●クライスラー、倒産は待ったなしとして、弁護士を雇う(12/5WSJ)
公的資金導入による救済は議会を説得できそうにないと、数週間前から動いていたとの憶測。

次いで、

●米ビッグスリー救済、米国議会の民主党首脳陣と共和党政府が暫定合意近し(12/6WSJ)
米国雇用統計が予想外に悪化。これが追い風になったか!?2009年初頭までは破綻を回避させるべく緊急の融資で「死刑執行猶予」reprieve?

ところが、

●デトロイト救済、一転足踏み(12/7WSJ)
自動車業界のリストラを監視する"auto czar"(自動車界の皇帝?)の採用とその役割について議会と政府で揉め始めたと。

同紙は『スパゲッティ・ジャンクション』と題する囲み記事で、デトロイトへの処置策として考えられる5つのオプションとそれぞれに立ちはだかる障害について整理しています。
①暫定的に2009年初頭まで破綻を回避するために申し出予算を絞って資金提供する⇔長期的かつ構造的な病理を何ら解決するものではないと共和党が反対
②エコ自動車開発のために250億㌦融資枠を開放する⇔融資枠の本来の趣旨に反すると民主党議員が反対
③「金融安定化法案」の予算枠を活用(財務省の裁量で温存するのではなく、議会があれこれに使えと命令出来るようにする?)⇔財務省はそれなら予算枠をそれなりに増やせと議会に要求するだろう・・・
④FRB連邦準備銀行が直接ビッグスリーに融資をする⇔FRBは猛烈に反対
プレパッケージ型倒産処理を米国が支援⇔デトロイトと民主党は反対

ちなみに『スパゲッティ・ジャンクション』とは、首都高の箱崎ジャンクションや阪神高速の阿波座ジャンクションより更に入り組んだ英国バーミンガムのジャンクションに付けられたあだ名。航空写真で上から見ると、冷めかけたスパゲッティがフォークに絡んだようでなかなか解(ほど)けない姿にも見えます。

さて、上記報道にも引用されていた12/5(金)の米国雇用統計。非農業部門雇用者数が1ヶ月で533,000人も減少したのは1974年以来。この年は、我が国でも店頭からトイレットペーパーが消えた第一次石油ショックです。戦後初めてマイナス成長を記録した日本は、石油ショックからの立ち直りでは米国を遙かに凌ぐスピードで、1985年のプラザ合意までの間に、日本的経営の卓越性、すなわち米国と異なり労働組合が産業別ではなく企業別なので不況期に労使交渉(労資交渉)が柔軟に行なわれる点が優れているという論説が支配的でした。労働組合が企業別で柔軟であることと終身雇用と年功序列の両制度は表裏一体をなすものです。では、今逆に、石油ショックからの立ち直りを遅らせたとも非難される米国の産業別労働組合というのは何処にあるのでしょうか?勿論、自動車や映画業界にはあるのでしょうが、ITやハイテク業界にあるという話を聞きません。

世界金融危機に米国発という枕詞が付こうが付くまいが、日本的経営の卓越性などは遠の昔に無くなっています。非正規労働だけを景気変動のバッファーにするべく、中流正社員が見た目だけ労使に分かれ既得権益にしがみついているだけという現象が、かなりの大企業や官僚的組織で観察される限り、超長期的にはやはりこの国は円安株安は免れないと考えられます(短期的には米中のダーティフロート前夜にあり極端な円高があり得ますが・・・)
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2008年12月5日金曜日

世界金融危機でも忘れてはならない四川大地震

昨日付のウォール・ストリート・ジャーナルが、四川大地震による学校倒壊で子供を失った親達の今を精力取材。その成果を報道していました。

一人っ子政策の中国では、一子を授かった後は男親がパイプカット(注)することが頻繁(注)なのだそうです。四川では“震災による一人っ子政策の例外措置”と国からの義捐金を活用して、パイプカットを原状回復する手術を受けようという男親たちが病院に殺到しているとのこと。

(注)ひんぱん。はんざつではない。
(注)パイプカットはどうやら和製英語で、英語ではvasectomy。「パイプカットを元に戻す」はreverse vasectomy。以上、役に立たない英語講座でした。

何故そこまでして四川の人たちは子供を欲しがるのか?自発的に少子化社会を選択している我が国の常識では思いつかないその理由とは、中国の中でも特に貧しい四川省の農家で良く見かける「頬の赤い子供と財宝」の絵と、「凶作に備えて穀物を蓄えておくのと同じように、老後に備えて子供を産むべし」という諺にあります。この教訓、中国共産党が路上のあちこちに広告を出しているプロパガンダ「晩婚と高齢出産は国家と人民を利する」「少子化は(国や家族の)繁栄を早める」と真っ向対立するもの。年金制度が無いに等しい中国では、老後の財政的な支援は子供に頼るものだという考え方が伝統的に継承されてきたのだと言います。

WSJ紙は、特例を認められたものの、高齢過ぎて時既に遅しという夫婦の嘆き(知人達は「子供が居ないとなると自分達を(借金などを)頼ろうとすると身構え、付き合いがめっきり遠のいた、など)や、以前当ブログでも取り上げた倒壊建築の問題を匿名で訴える親御さんたちのインタビューなども取り上げています。

90,000人近くの犠牲者を出した四川省を中心とする悲劇に対して、中国政府が何も対策を講じていないわけではないが不十分だということ、悲惨な天災が沿岸部の繁栄とは裏腹に、貧困から抜け出せない典型的な地域を襲ったものだったということがWSJ紙の報道の主眼であることは間違いありません。この点、私も一貫して同感であり、国境を越えて助け合う気持ちを持たなければ、そして出来る範囲で実行に移さなければという気持ちでいます(四川大地震等被災者支援チャリティ・オペラ・コンサート【12/28(日)】には大勢のお申し込みを頂いております!本当に本当に感謝です_m(++)m_)。

今回、WSJ紙の切り口で考えさせられたことがありました。「曲がりなりにも」国民皆年金の我が国と、上記の通りの中国を比較することで見えてくるもの。どこの国に生を授かったとしても、人間である限り生産年齢以降は貯蓄を食い潰すか子供(現役世代)に頼るかのどちらかしかない筈。なのに、年金制度が無い中国では子供が居ないと老後が不安。年金制度がある日本では、子供が居ないほうが今もこれからも豊かさを継続できそうな予感。雇用不安に喘ぎながら家族を支える義務感に燃えるお父さん世代には所謂DINKs等は羨ましく映るものですが、これは中国とまるで逆。世代間の所得移転や特にデフレ期における理不尽な世代間格差は、年金制度が無いと家族レベルで生じるところが、年金制度が下手に充実しているとマクロで生じてしまうという、頗る当たり前のことながら、意外なほどタブーで深刻な事実。

子供を産み育てるのは愛玩のため(だけ)でなく投資だという考え方は一理あり、苦労して育てた子供が将来仕送りなどして報いるのは自然。日本の年金制度は、その自然な投資⇒回収という動機を撹乱させ、皆がそうではないにせよ、子供を作らないほうが負担なくして支給に預かれるという動機を起こさせます。ただし、私の持論では少子化は日本の宿命。先進資本主義国のなかでは異例の食糧自給率の低さと外需頼みの日本経済。太平洋に浮かぶ木の葉のような存在から脱却独立し、豊かさを辛うじて維持するためには、一人当たりの耕地面積または耕作可能面積を世界標準まで高めること以外に方法はないと考えています。皮肉なことに、現在の日本の年金制度は、政策意図とは別でしょうが、少子化という日本の宿命を誘(いざな)っているのです。高齢化は副産物ですが。これを年金制度導入という高級な手段でなく、強引な手段でやっているのが中国ということになります。

しかし、問題があります。年金記録云々の話ではありません。これまであらゆる経済事象に対してモラルハザードなど理不尽は許さないという立場で切り込んできた当ブログの立場としては、家族に子供が(沢山)いるかどうか?高齢者の扶養家族がいるかどうか?その扶養家族が独立して生活が出来るか要介護か?生産年齢の世代の人間は、これらすべての条件のうち多くは自助努力で選べずに、理不尽や格差を強いられている(結果は中国モデルと日本モデルとで逆)。こうした不可抗力こそ、政策により大胆に切り込んでいかなければならない(私個人の結論を急ぐと、年金制度を廃止し、生活保護を含む所得分配制度への一元化が答えなのですが、我が国では地球が壊滅するまでこんな天邪鬼な政策は通らないでしょうね)

ところで、我が国には「貧乏人の子沢山」という諺があります。この諺には子沢山だと貧乏から立ち上がれないという上記の中国共産党のプロパガンダと同意見という説と、全然関係なく、貧乏人は暇を持て余しているので●●●という説が拮抗しているようです。後者は「貧乏暇なし」と矛盾しますが・・・「貧乏人の子沢山」はマルサスの人口論に由来し、マルクスに批判されつつも、このように中国共産党の政策として採用されたり、また我が国でも戦前「蟹工船」の小林多喜二が活躍していたころの生物学者であり共産党系代議士の山本宣治も避妊具の普及に熱意を燃やしていたことが知られています。私は、地球環境の問題もさることながら、発展途上国の殆どが食糧自給率が低く経常収支も赤字体質に陥りやすいことを勘案すると、マルサスの人口論はもっと注目されて良いのではないかと思います。繰り返しになりますが、日本も食糧自給率という点では多くの発展途上国の仲間なのです。
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原油下落と金利下落

●原油価格、1バレル25米ドルまで下落!?メリルリンチが警告(12/4FT)
米国、欧州、日本の景気後退が、これまで商品市況高騰の牽引役だった中国の成長鈍化を招くならば、との説明。「100ドルを越えたら、次は200ドルだ」と騒ぎ立てた投資銀行業界が、半年も経たずに今度は「50ドルを割ったら、25ドルだ」と、懲りずに『順張り』予想で世間を騒がせる。この“ビジネスモデル”、もう終わったのではなかったのか?

経済学では、需要の増加や減少によって(物理的な理由等により簡単には)供給が増減しないモノの価格を『地代』と言います。名前の由来である土地がその典型例(だった)。括弧付過去形の意味は、もし現在でも都心の一等地に建蔽率や容積率に厳しい制限がある一角があるとすれば、そこはきっと景気動向で不動産価格が周辺の規制緩和された区画よりも遙かに上下動するでしょう、という意味です。『地代』の例としては他に、お金のためではなく兎に角好きでやっていた野球だったのに気がつけばプロ野球選手として球界を代表する名プレーヤーになってしまったみたいな選手の年俸。各球団による争奪戦は、この選手にとっては想定外の動きであり、このような引き合いのことを『派生需要』と言います。『派生需要』と『地代』が発生するモノの供給曲線は価格軸と平行なのが特徴です。

で、原油はどうか?代替エネルギーがないわけではない。供給側(OPECなど)の生産調整も出来る。未開拓の油田もある。等々を勘案すると、少なくとも今の世の中では原油価格は『地代』とは言い切れないのです。

メリルやGSのエコノミストは余程のアホか、賢いのだけどもいやいや相場操縦につき合わされているかどちらかでしょう。

●英100bp利下げ、1951年以来の低金利(12/4FT、WSJ)
1694年にイングランド銀行が創設されてからの最低水準。来年1月には更に75bp利下げして、1.25%とまで予想する向きも。

ところで"bp"はベーシスポイントの略で、0.01(パーセント)ポイントと同じ意味です。“0.01%”と言うと、(下落)幅のことなのか(下落)率のことなのかハッキリしないので、この記事のように幅であることをハッキリさせたいときに(ベーシス)ポイントという表現を使います。ブリティッシュ・ペトロリアム(英国石油)の略ではありません。

●ユーロも75bp利下げ、2.5%へ(12/4FT、WSJ)
欧州中央銀行の10年の歴史で、最大幅の利下げ。

●米ビッグスリー首脳、再び議会で金融支援を懇願(12/4Washington Post)
3社の金融支援要請額を合計すると340億㌦~380億㌦。2週間前に言われていた数字(250億㌦)から増額されているのは、たった2週間の間の赤字運転資金だったのか。

3社破綻だと250万人の労働者が失業の危機に晒されることを考慮すると、その際の対策資金に比べて、380億㌦でも安いという経済評論家の意見をワシントンポストは紹介しています。が、その評論家も、今後2年間で必要な借り換え資金は各社首脳が申し出ている数字より遙かに大きい750億㌦~1250億㌦だとのこと。
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2008年12月4日木曜日

住宅ローンの休日

●米財務省、住宅ローン金利引き下げ案を検討(12/3WSJ)
問題のファニーメイ・フレディマック経由の30年物金利を1%引き下げ4.5%に。住宅価格下落に歯止めを掛けたポールソン財務長官の形振り構わぬカンフル剤。だが、ファニーメイとフレディマックの両GSEを不良債権の塊になるまで蹂躙し続けた根本原因こそ、需給を反映しない低金利での政策融資を長年押し付けてきたことだとは、両社が破綻か国有化か揉めた頃に当ブログで取り上げたグリーンスパン前FRB議長の批判の通り。

一方、大西洋の反対側では、
●英ブラウン首相、住宅ローンの利払いを最長2年間猶予するスキームを議会に提唱(12/3FT)
10億ポンドの予算を注ぎ込む案の詳細はまだこれから。昨今一躍「有名」になった大恐慌時代のF・ルーズベルト大統領の「米国バンク・ホリデー」に擬え、FT紙は臨時ニュースで「モーゲージ・ホリデー」と報じた。

●フォード社長、GMとクライスラーは生き残りが難しいと発言(12/3WSJ)
「自分さえ良ければ」というライバルを蹴落とす態度は道徳的には反感を買うのでは。世界的な規模の追求という路線を潔く見直したことで、GMのような致命傷を回避したということか。

●ロイター=ジェフリーCRB指数、2002年11月以来の最低水準にまで下落(12/3FT)
商品市況の世界的なベンチマークは、今年7月の記録的な高値から52%も下落。

●英ポンド、対ユーロと米ドルで下落(12/3FT)
ポンド/ユーロは記録的な安値を更新。
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2008年12月3日水曜日

ムンバイとバンコク―テロリストを掻き立てるものは何か?

今週は諸事情ありブログの更新が不規則になっており、誠に申し訳ございません。
更新したい話題が余りに多くあり過ぎて(ムンバイの「同時テロ」、タイの「クーデター」、自動車問題)、何から書けば良いのか悩んでいるうちに、上場来の損失で話題のゴールドマン・サックスがネット銀行業務に進出とか、勉強に値する新しい動きも報じられつつあります(WSJ)。

西側のメディアを追っかけるだけでも、なかなか十分な時間がないのですが、インドやタイの話について、多くの報道は紙媒体であれ映像媒体であれオンラインであれ殆どは生々しい事実の羅列の域を出ず、ことの本質に迫ったものはまだ見当たりません。とくにインド・ムンバイのテロについては、明確な犯行声明が出されていない点で同時テロとしては極めて珍しい事態である一方、インド政府はパキスタンを名指しするわ、パキスタンの駐米大使は具体的な証拠に基づきインドと協力して事態を解明したいと嘯くわ、まだまだ謎だらけだと言わざるを得ません。

こういうときこそ、東側メディアに隠れたヒントが無いかと思い、日頃滅多にチェックはしない英文プラウダ(ロシア共産党機関紙)を見ると、事件当日付の事実を淡々と書き連ねた記事があるだけでガッカリ。しかも、掲載されている写真が、ムンバイのテロとは関係がない、ベトナム戦争で米軍のナパーム弾攻撃に逃げ惑うベトナムの子供たちの写真というありさま。

特権階級の既得権益を排除する一方、貧農に対しても手厚い保護を行なったタクシン前首相失脚後、残党を一掃しようという今回のタイのクーデターは、フランス革命に譬えれば、王政復古段階にあるのかも知れません。この反動を見た目は一旦完結させたのが憲法裁判所という聞きなれない司法機関。我が国にも戦前は軍法会議など(大審院に上告できない)特別裁判所がありました。戦後民主化の中で、日本国憲法では特別裁判所の設置は認められず(判事に対する国会での弾劾裁判のみが例外)、よって憲法裁判所もありません。これは米国にならったもので、同じ西側諸国でもドイツやフランスには存在します。自衛隊に対する違憲判断などに象徴されるように、最高裁判所は具体的な事件(例えば苫米地事件とか)がないと憲法判断はしないということなので、憲法裁判所がないことが立憲政治に資するのか否かは意見が分かれます。ちなみに自民党や民主党は憲法裁判所があったほうが良いという立場、共産党は逆のようです。

いつになるのか良く判らない(解散?)総選挙ですが、その際には最高裁判所判事に対する国民投票も同時に行なわれています。これでバッテンを喰らった判事は戦後ひとりも居ないのではないでしょうか。田母神論文で一躍話題となった文民統制civilian controlですが、最近では永田町が霞ヶ関をコントロール出来ないという文脈でも使われているようです。それなら、最高裁判事の人事権に関わる内閣総理大臣と国民の関係も制度としては死蔵されてきただけとは言えないでしょうか。

この点、タイの憲法裁判所は特別裁判所であるだけに皮肉にも司法権が独立しており、多数決上は少数派に過ぎない公務員等の既得権益集団によるクーデター派の意見を聞き入れたというところが、なかなか考え辛いところです。

ところで、私が今最も解明したいことは、タイやインドの事件の発生時期や事態の酷さ。これらが米国発金融危機や米国の政権交代とシンクロしていることに大きな意味があるのか偶然なのかということです。前者のような気もしますが、それこそパキスタン大使ではないですが具体的な証拠もなく憶測だけで論ずるほど馬鹿げたことはありません。
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2008年12月2日火曜日

破綻か?救済か?運命の日が近づく米国ビッグスリー

再建計画を携えデトロイトから一路再びワシントンへと向かう米国自動車メーカーの首脳たち。今回も自家用ジェットを使うのでしょうか?

先週金曜日の夜に収録致しました上記テーマのセミナーがオン・デマンド(再放送)で御覧頂けるようになりました。当ブログにリンクをアップしています(冒頭30秒、フェニックス証券のCMが流れますのでビックリなさらないでください)。

今回、忙しさに感けてパワーポイント無しで約45分喋っておりますが、案の定、話し忘れたことがひとつございます。全体の論旨には影響を与えないのですが、米国ビックスリーの「上位」2社、特にGMの派手なM&Aによる世界戦略が、装置産業であるがゆえに規模の利益(限界費用逓減)が認められるとされている自動車業界において、必ずしも規模の利益をもたらさなかったという含意です。

世界の自動車産業は、大手メーカーに限ればほぼ例外なく多かれ少なかれ資本面や技術面で非常にややこしい多角的な提携関係にあることは以前に指摘した通りです。が、ことGMに関しては、SAAB、OPEL、FIAT、VAUXHALLと欧州各国の伝統ブランドを傘下に収め、ここ日本においてもスズキ、富士重工の主要株主となっていました。これらの提携先のなかには、GMの資本参加のお陰で延命できた企業もありますが、日本の2社のように何のメリットも見出せないまま自社株買いを迫られるケースを見逃してはなりません(そもそもスズキの自社株買いは取締役会の先決事項なのかどうかも疑義がある)。

私がここで言いたいことは、もはや自動車産業のような規模の利益というイメージが漂う産業でさえ、必ずしも「大は小を兼ねる」とは言えなくなっているという事実です。レベルの違いこそあれ、トヨタ自動車や光岡自動車の経営陣は、自動車産業が装置産業であると一言では言い表せない経営の難しさとか本質を見抜いていた、というと買いかぶりすぎでしょうか?

GMが多国籍巨大企業だからと言って特別扱いをされないという毅然たる政策こそ、わが国で苦労されている中小企業の労働者やベンチャー起業家の皆さんに勇気と希望を与えるメッセージであると思います。

こういうことを繰り返していると、タイの空港を閉鎖したテロリスト集団のような既得権益勢力に狙われるのでしょうか・・・
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2008年11月28日金曜日

不思議の国の株価とワーキングプア

●ムンバイのテロ、人質解放へ(11/28WSJ、NYTなど)
犯行声明が出ていない。インド首相も国外犯だと指摘しているが、印パ問題なのかどうかもよく判らない。13年前の地下鉄サリン事件を外国人目線で見たら、日本の何処がどう危ないのかよく判らず、何となく空恐ろしい国だとしか思われなかったのではないでしょうか。本件については、「七転び八起き」流の分析をするにはまだ私には勉強が足りません。

昨日、大阪で長年お世話になっておるお客さまがフェニックス証券を訪ねてきてくれました。話題はFXから日本株にまでおよび、特に株価について最近最も気になっている点を指摘させていただきました。

日本株の弱さについては、当「七転び八起き」ブログでも一度浚いました。ここに来て我が国の上場株の特徴と言えば、株価利益率(予想利益/株価)では主要先進国のなかで意外と割高である反面、純資産倍率(純資産/時価総額)では悲しいほど割安であるという事態ではないでしょうか。

前段の株価利益率については、株価がどんどんさがっても予想利益の下方修正が追い討ちをかけるので、割安感が出てこない、むしろ割高であるということ。それと関連しますが、減益体質や赤字体質が改善されない限り、純資産では株を買えないというのが、後段の純資産倍率の話となります。

しかし、純資産倍率を「トービンのQ」だと看做せば、純資産倍率が1を(大きく)下回る企業は廃業なり赤字部門撤退なり資産売却なりすれば良い(言い換えれば、その企業が属する業界に参入を検討している経営者は事業を立ち上げずその会社を買収したほうが安くつくので、然るべき水準=純資産倍率1近傍まで株価は戻る筈です。

景気後退期(デフレ期)の金融業や不動産業のように潜在的な不良債権や不良在庫が処理または減損されておらず純資産の数値が疑わしいという要因は、時価会計が米国流にせよIAS流にせよあります。日本特有の問題は、終身雇用従業員の過保護が、廃業や赤字部門撤退や資産売却のような思い切った経営を阻んでいる点にあります。資金の出し手ではないにもかかわらず、終身雇用従業員(俗に言う正社員)が事実上“株主”になっているのです。かつて「会社は誰のものか?」という議論が喧しい時期がありました。「会社は株主のものだ」と当たり前のことを言うと、「オマエはハゲタカ(擁護)か?」などと苛められたものです。しかし、日本においては、事実、会社は株主(だけ)のものではないのです。

そして問題の核心は、終身雇用制度を批判すると、「日雇い派遣」制度を擁護している立場だと短絡的に烙印を捺され、そのような金儲け主義は米国流資本主義と同時に終わったのだと地上波を中心とするマスコミが洗脳していること。雇用の調整―マクロの需給だけではなく、衰退産業から成長産業への再配置も含む―は既得権益にしがみついた、その多くの場合、固定給の将来価値に見合う創業精神を伴わない安住型ホワイトカラーが大勢のさばっている分、すべて日雇い派遣またはそれに類する雇用体系の人たちに皺寄せされています。横断面に留まず、多くの愚かな大企業は終身雇用社員の新卒採用を、凝りもせず毎年、景況感という名のドタ勘に基づいて人数調整しているものだから、時系列的に見れば、深刻かつ理不尽な世代間の不平等をもたらしています。

「日雇い派遣」制度を生み出したとして小泉・竹中改革をマスコミが批判するのは、マスコミ会社自身が既に崩壊しているビジネスモデルにしがみついている終身雇用役職員を多く抱え込んでいるからに他なりません。ワーキングプアの理不尽さは大企業に温存されている終身雇用制度の裏側なのです。

ところで、雇われ社長というのは、究極の日雇い派遣であると、私は会社法上の解釈をしております。ときどき普通のサラリーマンに戻りたいと思ったことも過去にはありましたが、お蔭様で今は元気一杯です。
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2008年11月27日木曜日

ボルカー元FRB議長が現役復帰

●オバマ次期大統領、元FRB議長のポール・ボルカー氏を経済回復諮問会議の議長に指名(11/27WSJ)
グリーンスパン氏の前任者である御歳81歳のボルカー氏。レーガン政権のもとで、FRBの独立を守る数々の施策と発言が記憶に新しい。

さて、昨日ブログをお休みさせていただいたのも、またまた地方出張が言い訳。金融庁幹部の皆さんからのお話は主に証券行政がテーマでしたが、驚いたのはやはりFX業者の話。自己資本規制比率をわざと高い数字で申告していたが実際は債務超過。破綻後はもちろんお客様への預託金返還が不能という事態がここのところ頻発している。FX業者を監督している立場として「情けない」というご発言までありました。

それを言うなら、私は同業者の立場としても「情けない」し「腹立たしい」気分。FX業者のビジネスは真面目にシステム設計をし、忠実にFX注文をカバー先にヘッジしている限り(カバー先がリーマンブラザースのような事態にならない限り【注:但しリーマン日本法人は破綻したものの資産超過】)、大儲けも出来なければ大損して自己資本を毀損するビジネスではない筈。なのに、ドル円で1銭だのゼロ銭だの、レバレッジが300倍だの400倍だのと競い、異業種からの参入が絶えず、気が付けば130社を超える業者が蠢くのは、証券会社の(上場株式の)信用取引においては決して許されない、、、

×××信託銀行による「全額区分管理」が義務付けられていないこと×××

×××お客様の注文に対する「向かい呑み行為」が禁止されていないこと×

この「車の両輪」を悪用し、失敗すれば「破綻⇒顧客資産返還義務不履行」を覚悟すれば、大儲けできるという算段に基づいている点を指摘せざるを得ません。インターバンクのドル円のスプレッドをどんなに忠実に「良いとこ取り」をしても、エンドのお客さまにゼロ銭やら1銭を提示することは無理。「向かい呑み行為」という、《業者が勝つには顧客が負ければよい》という利益相反の発想を前提としているからこそ、FX先進国の欧州アジアで考えられないスプレッド競争とレバレッジ競争が我が国で過熱してしまったと見られます。

リーマンショック後の2ヶ月で金融庁の幹部の皆さんは上記指摘を迅速にご理解していただけたのだと拝察します。これから急速に起きるといわれるFX業者の淘汰が、どのような物差しで実現するのか、大きなヒントになると思われます。
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2008年11月25日火曜日

シティグループ救済

三連休、既に多くの内外メディアが扱っているシティグループ問題。当ブログならではの天邪鬼な切り口で今週も始めたいと思います。私が注目していることは、

①このブログで9月から主張している、《良い銀行と悪い銀行の分離》が採用されていること
②ポールソン財務長官主導の金融安定化法案7000億㌦の使われ方が二転三転した末の処理案であること
③シティグループは、GMに代表される米国自動車産業に対する最大かつダントツの債権者であること

更に、政治的な背景として垣間見られるのは、
①現財務長官のポールソン氏も、次期財務長官のガイトナー現ニューヨーク連銀総裁も、立場の違いこそあれ、モラルハザード(平たく言えば「やり逃げ」)は許さない主義主張が引き継がれていること
②オバマ次期大統領のGM等に対する言い方が「自動車産業は米国の魂だ」という労働者を意識した言い方から、暫くの沈黙を経て、「再建の見通しが無いのなら、政府は白地の小切手a blanc checkを切ることは出来ない」と豹変していること。

どう足掻いても火中の栗を拾わざるを得ないオバマ氏にとって、自動車産業に従事する労働者まで裾野が広がる金融問題は、ばら撒き政策というポピュリズムに走るか、モラルハザードを断固として許さないと言い切るか、どちらにしても叩かれることから、1月の就任までに現政権で片付けておいて欲しいというのが本音だと思われます。一方、良い銀行(good bank)を「摘出する」値打ちがもともとなかったかも知れないものの、リーマンを切り捨てたポールソン氏とガイトナー氏としては、80年代のコンチネンタル・イリノイの先例や自動車産業問題を参照しつつ、これ以上の最適解は無いという結論に至ったのだと推察します。

小口の預金者や真面目な借り手の保護は絶対に大切。結果として、大西洋の両側とも、商業銀行業務(バランスシートを経由して預金者から借り手に資金の融通が行なわれている金融業)が人質に取られている限り、政府から可能な限り身代金は奪えるという慣習が成立したと見られます。真面目に汗をかく投資銀行やブローカーに徹する独立系証券会社にとっては悔しい面もありますが、FXに関しては、銀行間市場の安定に大きな一歩を踏み出したとも言えます。

それにしても、先週末が山場だったシティグループが、FX業界で数少ないプライムブローカーを前向きに営業している業者であったのは不思議(今日からは堂々と営業してくださいませ)。それに、我が国において最初で恐らく当面最後の三角合併の例として、旧日興コーディアル証券株が東証とニューヨークと《ダブル上場》しており、去る金曜日の東証ではストップ安なのに買い注文しかないという目を疑うような板だったのは写真に収めておく価値があったかも知れません。
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2008年11月21日金曜日

原油が暴落してもアメ車は売れない

●シティグループ、金融株への空売り規制を再開するよう議会とSECに求める(11/21WSJ)
金融株を標的にした「借株の手当てのない空売り(naked short sales)」は、撤廃済み。同時に、更に厳しい空売り規制=我が国でもお馴染みのアップ・ティック・ルールの復活も求めているらしい。米国ではアップ・ティック・ルールは2007年7月に撤廃されている。

シティグループの株式は、今週過去4日間で40%下落。

●ダウ平均445ポイント下落、原油価格50㌦割れ(11/21WSJ)
シティグループ株が26%下落したほかJPモルガン・チェース株も17%下落。金融株だけでなくエネルギー関連株が大きく足を引っ張る。

その原因が、原油先物の大幅下落。昨夜だけで1バレル当たり4ドル(7.46%)下げて、2005年5月以来の低水準に戻る。

今年7月3日に史上空前の1バレル145.29ドルを付けた原油価格。大手金融機関のエコノミスト達の大半が更なる高騰を予想し、中には200ドル突破まで嘯いた意見さえありました。しかもその根拠は原油値上がりの原因が投機ではなく実需だと。今週、昨夜の下落幅の大きさを実需の減少で説明するのは無理。FX同様、ヘッジファンドや個人がレバレッジを掛けて買い上がっていた分、強制決済が強制決済を生むという実態以上の下落にならざるを得ない現象に間違いがありません。逆に言うと、存亡の危機にある多くの大手金融機関は原油バブルを演出するためにエコノミストをして相場操縦に加担させていただけのことに過ぎないと言えます。

さて、実態以上に原油価格が下落しているのなら、ガソリンを無駄遣いしながら走るアメ車の需要は復活するでしょうか?ガソリンを電気プラグに替えてもエントロピー増大の原則にかわりはありません。

●米国上院の超党派議員、自動車業界救済措置で合意(11/21ロイター)
超党派と言っても、たったの3人。250億㌦の貸出について妥協すると発表。

一方、

●米国民主党幹部、自動車業界救済法案の決議を来月まで延期(11/21WSJ)
GM、フォード、クライスラー3社に対して、公的資金が如何に活用され事業再生し返済可能となるかについて、具体的な再建計画の提出を求めた。

救済か?破綻か?ハッキリしないことにはドルも株式も買いづらいのは当然の心理。オバマ政権発足が来年1月なのに対し、GMの資金繰りが厳しいのは来月。この間、特に週末は要注意ですが、今月末は28(金)が新月、29(土)が三の酉で火の用心だそうです。
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2008年11月20日木曜日

広告宣伝する余裕があるなら借金を返せ!

「債務超過で余命幾許かと噂される自動車会社が新車を発表したのか?」と勘違いさせるようなバナー広告がウォール・ストリート・ジャーナル紙オンライン版に出ていました。

広告担当を兼務しているFX会社の社長としては、このメディアのトップページのこの場所の広告料が莫大なものであることが想像できます。自動車に電源コードがくっ付いている写真をクリックすると、GMを救済しないと大変なことになるというYouTubeの動画などが出てきます。

ユーチューブですので、コメント不可の設定にも出来るのですが、あえてコメントを開放し、スパムメール、無関係な話題、名誉毀損以外は削除しないとGM側は書いております。それにしても、名誉毀損とまでは行かないとGM側が判断したのか、閲覧回数やコメント件数が多すぎて削除が追いつかないのか、米国経済を人質に取ったかのようなGMの態度に露骨な怒りを表しているコメントが消されず目立つのは皮肉です。

我が国なら、ネトウヨ(私も実名を明らかにしていなければ主張的には近いかも^^;)、チャネラーの如きと一笑に付されてしまうのかも知れません。日米ネット文化の違いをちゃんと理解せずに申し上げるのは危険ですが、この期に及んでGMが行なった広告投資の効果と反響を、米国国会議員たち(特にオバマ次期大統領を含む)がどう受け取るか、資本主義陣営の長年の牽引役としての矜持を示すのかどうか、大いに注目です。

今朝のブログで、GM破綻で株安ドル安と書きましたが、GM救済でも結局ドル安なのではないでしょうか?

最後に、先週末から今週にかけて2度にわたり書かせていただいたFX業者は絶滅するのか!?が大変反響を頂いております。FXのお客さまからもお客さまでない方々からも応援のメールや電話を頂いております。案の定誤解を招いてしまった部分が廃業する勇気を持つ社長の件。謙遜のつもりで書かせていただいております。決して廃業する予定はございませんし、現状ではFX会社130社のなかで8割が廃業または倒産したとしても残りの2割のなかに入ろうとずっと努力してきており、また勝算もございます。ご心配をお掛けし申し訳ございませんでした。
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GM、フォードの末路は

●アルカイダ、オバマ次期大統領のイスラエル支持姿勢を批判(11/19FT)
偽善的なイスラエル支援、イラク撤兵後はアフガニスタンに兵力を配置という戦略は破滅すると。
人種問題、宗教問題という内憂外患の打開に期待が掛かるオバマ氏にとって、アルカイダからのメッセージは重い挑戦に聞こえます。

●ロンドンAIM市場、新規上場がなくなり輝きを失う(11/19FT)
我が国の東証マザーズや大証ヘラクレスもびっくりの規制ゆるゆるの新興市場。特にここ2年間はこの取引所の急成長と上場基準の甘さを米国当局者は「カジノと一緒だ」と揶揄してきた。世界中からベンチャー企業を集め、各国ライバル金融市場から羨ましがられてきたAIMは1995年の開設以来、最大の試練の年を迎えた。

ところで、私のブログのタイトルは今更ながら「七転び八起き社長のFXダイアリー」。本来は(?)、円高なのか円安なのか、早く教えろ!何処に書いてあるんだ?というご要望が多くて当然。尤も、過去6ヶ月、話が脱線しまくっても益々多くの読者の方々にご愛顧いただいているので、読者の皆さまの期待内容も進化してくださっていると推測されるのですが(汗;)。

気がつけば、米ドル円で95円から98円前後のレンジに「落ち着いてきた」為替相場。9月、10月に比べると、マクロ指標に素直に反応するようになりました(昨夜の例で、住宅着工や消費者物価)。しかし、現在の為替相場の最大の特徴は、株価指数⇒為替相場という因果関係の強さ。昨夜、FT紙が皮肉っぽく「未だにビッグスリーとして知られている」と報じた米国自動車産業が破綻か救済かが大きな波乱要因になるでしょう。

ニューヨーク・タイムズ紙が「破綻寄り」である理由が未だによく判らないのですが、勿論、このブログは破綻寄り(⇒自動車株・銀行株その他一層下落⇒米ドル安)。これは予想というよりは、そうあるべきだという政策論の話です。

今朝の日経新聞3㌻に出ていたGMワゴナー会長の発言「ある時期に景気が回復すると断言してくれるなら、追加支援は不要と約束できる」って、何様なのでしょうか?我が国証券会社の経営者は皆「相場が回復すると断言してくれるなら・・・」なんて、言いたくても言うべきでないとじっと堪えておられると思いますが。
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2008年11月19日水曜日

少数精鋭の農業国家と教育国家

1日半もブログの更新をサボりました。この間、地方出張(何故か今月は頻繁)、台湾製PCを持ち歩きたかったのですが余りに荷物が多く、置き去りにすることとしました。くどい言い訳は以上です。

昨夜は、前職、前前職の時代に大変お世話になった大手ガス会社の資源調達の責任者の方とお会いすることが出来ました。オーストラリアへのご出張回数では恐らく我が国最高頻度でいらっしゃるのではとお察しする方です。

鉄鉱石やボーキサイトなど鉱物資源は勿論、石炭、天然ガス等のエネルギー資源にも恵まれる同国は、リーマンショック前夜までの商品市況バブルで大いに沸き、1豪ドル=100円を超える通貨バブルと不動産バブルを併発していました。不動産バブルについては、従来から経済の中心地であったシドニーやメルボルンなど東海岸の諸都市だけでなく、むしろ次々と鉱山開発が続いた西オーストラリアの州都パースが特に異常だったとのことです。

オーストラリアで最も美しい街と言われるパースには発掘ラッシュで人口がどんどん流入し、水不足が生じているほど。鉱山労働者の時間当たり賃金もあれよあれよと上昇し、半日働いたら、残りはワインとビールに浸って大騒ぎという状況。一方、資源を分けて下さいという日本人インポーターであるお客さまにとっては、駅前でサンドウィッチを買うにも1個1500円という馬鹿にしたような値段。

日本とオーストラリアを頻繁に行き来されているお客さまから見ると、1豪ドル=60円台前半というのは妥当な水準だとのことです。

勿論、私のブログでも何度か取り上げておりますように、為替は「妥当な水準」にスッと収まるものではなく、振り子のように行き過ぎから行き過ぎへ振れやすいことを忘れてはならないのですが。

オーストラリアのついこの間までの非常識なバブルで苦労されたお客さまも、商品市況バブル崩壊によるオーストラリア経済の痛手より、円安バブル崩壊による日本経済の痛手のほうが辛いのではないかというご意見でした。勿論、お客さまの会社自身は、仕入れ単価が安くなることは歓迎すべきニュースなのですが。

借金漬けの消費者に不要不急のモノを売り続け外貨を稼いできた日本。外需と金融が我が国経済の背伸びをしていた部分だとすると、背伸びをせずに生きていくためには、やはり国民ひとりひとりの衣食住をいかに賄うかという原点に立ち返る必要があるでしょう。消費税増税予約付きの給付金で個人消費を拡大するのではなく、農林水産業の生産性を向上させつつ、一人当たり耕地(可能)面積を食料自給率の観点で「妥当な水準」になるように(江戸時代とは言いませんけど)少子化による人口減を受け入れる政策の転換・発想の転換が必要です。少子化の過程でどうしても高齢化が併発しますが、終末医療の問題は措くとして、農林水産業の分野にこそ高齢化に応じた労働年齢引き上げのヒントがあるのではないでしょうか(ちなみに金融分野で定年延長が押し付けられるのは絶対無理)。政府主導で投資すべき分野は今こそ農林水産業、そして教育です。

こういう意見は、少数派を通り越して天邪鬼かも知れません。が、少数精鋭の農業国兼教育国にならない限り、いずれはまた円安だと私は思っています(恐ろしい円高の後かも知れませんが)。
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2008年11月17日月曜日

FX業者は絶滅するのか!?(其の弐)

●ロンドンでは12人に1人が失職(11/17FT)
2010年末までの約2年間で、370,000人程度が職を失うと予想されるロンドンこそが、イギリス全体のなかで景気後退recession(2連続四半期経済成長がマイナスになること)の影響を激しく受けると、英地方自治協会the Local Government Associationの分析。

首都ロンドン以外の都市、例えばニューキャッスル、リーズ、マンチェスターは意外と景気後退の影響をうまく凌げるのだそうです。イギリス全体は1,700,000人が失職すると予想される中、地域格差は相当のものだと同レポート(失職率ではロンドンの7.9%が最悪で、次いで北西部6.7%、南東部6.3%、南西部5.1%)。

朝のブログにもありますとおり、ここでは地域格差は都市部が金融で潤い、地方が汗と油と土に塗れて働けど働けど・・・じっと手を見るという意味とは逆だということに注目です。

またこれまで、当ブログやオンライン・セミナーで繰り返し申し上げていたイギリス(ロンドン)こそが金融危機(信用収縮)の悪影響を最も激しく受けるということを反映したレポートではありますが、当然、日米とも他人事ではありません。国民所得に対する金融業の貢献度はイギリスが9%で最も高く、次いで米国8%、日本7%ではあります。この数字、素直に五十歩百歩だと認めるべきでしょう。

話が逸れるようですが、先週金曜日に選ばれるFX会社とは、社長が廃業する勇気を持っている会社だと書かせていただきました。勿論、自分が経営する会社の寿命は業界のなかでは相当長いほうだという自信を背景に言ってはいるのですが、外部環境次第でどんなに努力しても廃業せざるを得ない、業界全体が絶滅するという可能性はなくはないからです。そのときに《悪あがきして倒産》ではなく《潔く廃業》というのが望ましいという考えです。

で、その万が一の場合に貴方はどうするのですか?この答えは、一緒に働き戦ってきた従業員の仕事を最大限確保し、自分を含めた全員にとって働き甲斐のある職業、きっとその場合は金融以外の仕事となるでしょうが、それを築くことだと考えています。その心構えや準備まで出来ているというと、本当に廃業してしまうのかと心配されるので具体的には書きません。繰り返し申し上げますが、フェニックス証券程度の自己資本規制比率がないと、FX業務を継続できないかも知れないくらいに、規制を含めた外部環境は厳しくなっています。

すみません。結局、またまた宣伝になってしまいました。
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言論クーデターと自爆テロ

日頃親しくさせていただいている方が最近南アフリカ共和国に出張されました。週末お会いできる機会があり、いかがでしたか?とお聞きすると
「白人と黒人が同じ場所にいるのを見たことが無い。白人が農園主⇔黒人が農奴という関係に変りは無く、アパルトヘイトは“実質的に”無くなっていない、と感じた」
「治安の悪さ-やはり日本人観光客は集団行動しか許されない雰囲気だった。人口5000万人の国で一日に50人が殺されているのだから・・・」
と言いつつも、人口1億2000万人の某国の自殺者が一日当たり90人というのも悲しい比較対象だと知人。
「殺人や強姦などの被害者は決して白人ではない。ハイパーインフレに悩む周辺国ジンバブエやレソトからの不法移民が南アフリカ共和国で定職に就けず自暴自棄になり犯罪や麻薬密売に走っている」
・・・
「が、兎に角、大変な思いをしたが、もう一度行きたいかと聞かれれば、答えはYESだ」
それと言うのも、FXに携わっていらっしゃる方々なら良くご存知の通り、豊かな天然資源と、うまく組織化されれば名実共に世界の工場となるに相応しい良質な労働力がこの国には備わっているからです。この中で、金や白金、ダイヤモンドの需要は世界的な景気後退とともに著しく減退するでしょう。しかし、経済の破綻や戦乱の末に最後の拠り所となるのは「食べるものがある」ということではないでしょうか?先の大戦に破れ挑戦動乱の特需で復興するまでの間、我が国の生命線となったのは農村に他なりません。翻って、東京一極集中が金融危機で或る意味逆流したとしても、脱ホワイトカラー族を養うには一人当たりの耕作(可能)面積が狭すぎるのが実は我が国の弱みだというのが持論。付和雷同して少子化問題なんて言っている場合ではないのです。

金曜日夕刊で伊藤忠商事の丹羽会長のブレトンウッズ体制云々という話を引用したら、金融サミットで新ブレトンウッズ体制を云々と来ました。ブレトンウッズ体制に蜂の一刺しとなったのは、現在のユーロ圏の諸国家がベトナム敗戦後に米ドルから金の現物への交換をせがみ取り付け騒ぎとなったことであるのを忘れてはなりません。銀行の金庫には我々が預けた“お金”(紙幣や補助硬貨)が全て詰まっているわけではないことが取り付け騒ぎの可能性を孕むのと同様、米国もまた発券済の米ドル紙幣greenbuckと同額の金の延棒を用意していたわけではないのです。

それでも、サミット参加国のなかで、ひとり麻生首相だけが、米ドル支持で米国の歓心を買おうとするのは、ひとり日本円だけが対米ドルで高いからでしょうか?確かに、通貨切り下げ競争dirty floatの口火は既に切られつつあります。それとも、そもそも経済力とは別次元の、独立国家と言うには相応しくない独立した軍事力を持ちえていない我が国の弱みに由来するのでしょうか?

田母神論文を言論クーデターと呼ぶならば、村上談話は日本社会党の自爆テロだったのではないか・・・
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2008年11月14日金曜日

海図なき航海

伊藤忠商事の丹羽宇一郎会長が米国発金融危機の分析をブレトンウッズ体制崩壊後の大局観に立ち見事に説明をしておられます。ちなみに丹羽会長は私と何ら血縁関係はございません。

丹羽氏曰く、1971年スミソニアン協定でドルの金兌換が停止、1973年から変動相場制に移行したことで、「ドルに対する金の担保がなくなり、世界経済は、“海図なき航海”に乗り出すことになった」と(11/14マイコミジャーナル)。以降は、実体経済と乖離したバブルが発生してもそれが崩壊するまで続くという現象が繰り返されたと論じます。

固定相場制よりも変動相場制のほうが景気循環が激しいとか、(機軸)通貨が兌換紙幣よりも不換紙幣のほうが過度なバブルが起きやすいという論旨には疑問が全くないわけではないです。が、続けて主張されている国民所得と株式時価総額のバランスのお話、すなわち

★1970年代の米国の国民所得が1兆㌦⇔株式時価総額が6000億㌦(10:6)
★1995年~99年のITバブル時(10:12)⇒崩壊後(10:7)に戻る
★2006年が住宅バブルのピークだとして、世界の国民所得総額50兆㌦に対して、株式時価総額は70兆㌦(推計)⇒再び(10:14)までバブルが膨らんだということ・・・

したがって、株価資産がこの先35兆㌦程度まで下落するという試算は妥当だという件は説得力があります。

無論、私がブログで書かせていただいているとおり、「為替相場が実体経済を表すならば購買力平価に近づく筈」とは必ずしも言えない事象もあります。世界の国民所得総額自体も、虚業としての金融業が弾き出していた上澄み部分がまだまだ調整余地を残していることを考えると、国民所得と時価総額のスパイラル的な縮小はしばらく続くと見るべきでしょう。それでも、丹羽氏の言う「底はあるのだから、あたふたしてはいけない」というのはその通りで、残滓を素早く拭い去り、個人も企業も新たなスタートが切れるワクワクした時代が一日も早く到来したほうが健康だと思うのです。
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FX業者は絶滅するのか!?(其の壱)

「日本株は駄目、投信は売れない、外国債券では客に損をさせた。。。」、というわけで証券会社が絶滅危機種であることは既に述べました。FX業界をも震撼させたのが、先週の日本経済新聞の1面記事「顧客資産の区分管理を《全額》信託保全に・・・」週刊東洋経済の特集記事「FX130社に迫る大量淘汰の足音」です。

伝統的な金融ビジネスモデルが次々と頓挫する中、FX業者は独り勝ちだと周囲から思われ、安易な新規参入が近頃まで続いてきていました。しかし、リーマン前夜の時点で、FX後進国だった我が国のFX委託者の裾野は、FX先進国の欧州やアジアよりも広がっていたとも考えられます。先週から今週に掛けて、欧米アジアの名だたるプライム・ブローカー(以下、PB)の方々の訪問を受けましたが、皆さん異口同音におっしゃるのは

★欧米やアジアの主戦場でPBの主たる客層はヘッジファンドと富裕層個人。日本のようにリテール市場で何百倍ものレバレッジが提供されてきた市場は世界で類を見ない。

★解約と消滅に歯止めが掛からないヘッジファンド。彼等にレバレッジを提供してきたPB業界の上位2社だったゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーが銀行持株会社として生き残りレバレッジを落とさざるを得なくなった。ヘッジファンドに対するレバレッジ解消のあおりを喰う形で、これまで一生懸命我が国のFX大手にPBやらせてくれと営業に来ていた大手外銀の中には「いついつまでに他さんでPBをやってもらい、自分達はカバー取引をギヴアップする形にさせていただかないと流動性の供給を続けられない」と方針の大転換を迫られているところが出現。

クロス円ロングのお客さまの損失や解約よりも、FX業界にとって、リーマンの影響は上記の点において深刻なのです。

日経新聞の記事は現時点では観測記事に過ぎないかも知れません。しかし、顧客資産と最大同額の資金繰りをカバー先銀行に対して捻出しなければならない。信託銀行からのLG(保証)は認められない。PB契約もままならない。そして、多くのFX業者がこれまでは大儲けが出来た「お客さまのFX注文をカバーせずに向かい呑む」という(上場株式の信用取引では法律違反に該当する)利益相反行為に規制が掛かるとすれば、生き残れるFX業者は数えるほどしかないと考えられます。

勿論、金融庁もリーマン直後矢継ぎ早にアンケートをとられ、この点十分理解をされております。お客さまのFX注文に自己で向かわず銀行間市場で直ちにカバーを取る経営方針。LGに頼らずに《全額》信託保全が可能な財務体力。FX業者の正常化に必要な自己資本規制比率はざっくり800%以上必要と考えられることから、当局としても内閣府令の改正を急ぎすぎると大半のFX業者を廃業・倒産させてしまうことでかえって投資家保護に悖るということもあり悩ましいところなのだと思います。

はっきりしていることは、FX先進国を驚かせるような低スプレッドや高レバレッジを宣伝文句につかう業者は長続きしないということでしょう。

ちなみに、フェニックス証券は、来年1月を目処にPBをバークレイズ銀行、スポーク銀行(カバー注文をギヴアップして決済と証拠金のやりとりをPBに集約させる銀行)としてゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーという体制に練り直す予定です。

珍しくフェニックス証券の宣伝にしてしまった今日のブログ。でも、FX業者選びで一番大事だと思っていることは廃業する勇気のある社長の会社を選ぶことです。社長という職業はどんなに努力してもうまくいかないことがある。それを素直に認めて、悪あがきせずに堂々と撤退する。これがなかなか出来ないものなのでしょう。最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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2008年11月13日木曜日

救済か?倒産か?運命の日が近づくGM

民主党寄り、労働者階級寄りとして知られるニューヨーク・タイムズ紙が意外な解説記事を載せました。
●窮地のGM,倒産か救済かの疑問を掻き立てる(11/13NYTimes)
ワシントンでは、GMの倒産を回避するために、救済パッケージを自動車産業にも広げようという動きが加速しているが、連邦破産法11条(いわゆるチャプター・イレブン)は皆が恐れるほどの悲劇を招くものではないという論調もある、と同紙が紹介。

オバマ新大統領、ペロシ下院議長等、民主党幹部をはじめ、当然のことながら、ワゴナーGM会長や自動車労連は破産回避の言い分として、自動車産業の裾野の広さを強調しています。が、「倒産で良いのだ」派の論陣は、航空業界や鉄鋼業界、小売業界の場合は、倒産こそ新たなスタートをより競争力のあるコスト構造とともに提供するものだと主張。また、倒産の壊滅的な影響を緩和する方法として「プレパッケージ」(保全状態での銀行借入枠や新しいスポンサーを予めこっそりと決めておいて倒産法の申し立てをすること)を提案するファンドマネージャーの意見も紹介されています。

もしかしたら、そのファンドはトヨタ株に投資していたのかも知れませんが(笑)。

米国から市場開放と自由主義経済を押し付けられてきた我が国で気を吐いてきたトヨタ自動車(の株主-と言っても米国籍の方々も大勢いらっしゃる筈ですが)の立場から、競争相手が自由主義のご本尊に救済されるかも知れないというのは納得がいかない話でしょう。

今では鳴りを潜めつつあるハゲタカが我が国に啓蒙してきたのも自己責任原則でした。つぎ込まれた公的資金が銀行を経由して次々と債務免除に流し込まれて、本来なら倒産を通じて新しいスタートか否かという選別過程に移るべき企業群を非効率のまま生き残らせてしまった我が国の90年代。前述のプレパッケージや保全状態での銀行借入(DIPファイナンス)など、自己責任原則と自由競争原理、すなわち真面目に健全経営してきた競争相手が馬鹿を見ない制度として会社更生法が改正されたのはその直後。これこそ、失われた10年の最大の副産物のひとつであり、今すぐGMに提要されるべき制度インフラなのではないでしょうか。
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2008年11月12日水曜日

金の生る木はありませぬ

●原油価格、60㌦割れ-20ヶ月来安値(11/12NYTimesほか)
今年7月の高値から何と59%下落。OPECによるカルテル(産出削減合意)も、世界経済の成長鈍化に勝てなかったとニューヨーク・タイムズ紙。

金も下落。WSJ紙は、「ありとあらゆるインフレ再燃政策を駆使しているのに、商品相場が低迷しているのは、金融機能が相変わらず壊れていることを証明している」と論じています。

●GM、韓国での操業を停止(11/12FT)
ウォン安は関係ない!

●ファニー・メイとフレディ・マック、住宅ローンの条件変更プランを公表へ(11/11WSJ)
9月に国有化された米住宅ローンの巨人。何十万契約にものぼる住宅ローンの条件を債務者寄りに見直し、住宅供給が再び経済成長を引っ張るようにしたいのが趣旨だとのこと。詳細はこれからだが、昨年までに実行されたローン(要保険付、自己破産案件は除外)につき、毎年の元利金弁済が年間所得の38%以内になるように利率を緩和したり、場合によっては元本も一部帳消しにするとの案が出ている。

●7000億㌦の金融安定化法案、実効性に疑問が(11/11WSJ)
アメリカンエキスプレスが銀行持ち株会社となり、GSやモルスタと同様、金融支援対象となったほか、GM等自動車産業についても民主党新政権が既にプログラム適用をと鼻息が荒い。駆け込み寺に次々と殺到する「それなら私も助けてよ」という声・声・声に対して、政治は収拾をつけられるのか?

最後におまけ。
★アーバン転換社債の仮装払込はインサイダー取引の可能性あり-BNPパリバの外部検討委(日本語ロイター、日経)
楽して儲ける方法はありません。その一言に尽きる。
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2008年11月11日火曜日

ニューディール政策とモダン・タイムズ

●DHL、大リストラ-ドイチェポストが米国事業を抜本縮小へ(11/10WSJ)
正社員は現在の13,000人から3,000~4,000人へと大幅削減。過去15年間、数十件にものぼる企業買収を繰り返し、ドイツ国内の郵便屋からグローバルなロジスティック企業に変貌したドイチェポスト。その米国での橋頭堡が5年前に買収したDHLだった。が、この5年間で数十億㌦が投資され費消され、それでもUPSやFedExのシェアを奪うことは出来なかった。これらライバル2社も業績修正を発表済みだが、損失が最も酷いのはDHL。

米国内の地上ハブを18箇所閉鎖、集配所を現在の412箇所から103箇所に大幅に削減すると発表。

●ノーテル・ネットワークス、赤字転落。雇用削減へ(11/10WSJ)
第3四半期の損失が34.1億㌦。1,300人の雇用削減を発表。

●AIGへ“新”救済案、第3四半期の純損失244.7億㌦で(11/10WSJ)
AIGと言い、GMと言い、我が国の生保業界や自動車業界で汗水垂らして働いていらっしゃる方々、どうお思いでしょうか?

今年のノーベル経済学賞受賞者ポール・クルーグマン教授がニューヨーク・タイムズのコラムをオバマ氏当選後はじめて更新しました。フランクリン・ルーズベルト大統領のニューディール政策が馬鹿の一つ覚えのように比較対象とされる昨今、オバマ新大統領はルーズベルト大統領の成功体験より失敗体験により学んで欲しいと忠告。曰く、「1932年の米大統領選挙では、従来から経済の自由放任を主張する共和党のフーヴァーに対して、ニューディール政策を掲げる民主党のルーズベルトが、変化を求める国民の支持を得て当選した。・・・公共工事による失業救済、金本位制離脱(インフレ政策)で輸出促進、食管制度、最低賃金制度・・・北部の労働者や黒人の支持を広く獲得し、3選ばかりか4選を果たし、第二次大戦を戦い抜いた(山川出版社『詳説世界史研究』)」という通説は正確ではなく美化されすぎた伝説だと。むしろルーズベルトはフーヴァーと同じように本音では財政均衡論者で、政権初期段階では政策を小出しにし過ぎていて効果が出ず、中間選挙では負けたこともあると。ルーズベルトがアメリカを救ったとされるニューディール政策の本命は第二次世界大戦に他ならないと論じています。

オバマ氏に対して、「出し惜しみはいけない。とことんばら撒け」という忠告が正しいかどうかは別として、世界恐慌後の各国の対応として、ドイツ・イタリア・日本が全体主義に陥り、イギリス、フランスは保護主義に陥ったが、アメリカはケインズ政策で立ち直ったというのは、確かに拙ブログで再三非難している“勝てば官軍”史観かも知れません。

ところでチャールズ・チャップリンは私が最も尊敬する映画人のひとりで、子どもの頃は彼の映画全てが好きだったのですが、今では「モダン・タイムズ」をダントツに評価しています。つまり、例えば「独裁者」は最後の主人公の演説は素晴らしい内容だけど、やはり映画を製作した国の国益を背景に、ドイツ全体主義に対する勧善懲悪の色が濃い。この点、モダン・タイムズは「“持てる国”アメリカにもファッショはあった。不当労働行為、人間疎外はあった。“持たざる国”ドイツ、日本と五十歩百歩なのだ」ということを暴露しつつ、国益を超えて、世界中の弱者に勇気を与えてくれる作品だと思うのです。
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2008年11月10日月曜日

求人広告-東京・八重洲で働ける方を急募

フェニックス証券では、業務拡大につき「経理・財務の業務経験のある方」を1名、採用することに致しました。勤務地は東京・八重洲となります。

証券会社・FX会社での業務経験は必ずしも問いません。知的好奇心の豊富な方、数字に強い方ならOKです。

報酬等、委細は面談にて。フェニックス証券はFXの注文を銀行間市場に直結させており自己ディーリングを行なっていない堅実なビジネスモデル。大儲けは出来ません。したがって、報酬については大きな期待をしないでください。働く環境、働き甲斐については大きな期待をしてください!

是非フェニックス証券の面接を受けてみたいとおっしゃる方は、履歴書と職務経歴書を、

recruit@phxs.jp

宛、ソフトコピーでご送付下さい。
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公的資金でGMは救済されるのか?

●中国、4ヵ年で5860億㌦の景気刺激策(11/9WSJ)
米国の金融安定化法7000億㌦に迫る金額だが、これまでの税収により概ね賄える(但し、財政赤字は必至)。

●米国下院議長ナンシー・ペロシ女史、ポールソン財務長官に書簡(11/9WSJ)
金融安定化法7000億㌦の適用範囲を拡げ、自動車産業の救済にも使うべきだと。

モラルハザード抑止(自己責任原則の貫徹)は銀行救済においてのみ妥協が許され、事業会社への公的資金の直接投入については我が国自民党でも意見をまとめることは出来ないでしょう。しかし、例えば新銀行東京の不良債権の取立て不能と、不良融資先に対する都税による補助金ばら撒きと実態的に何処が違うのかと聞かれうると皆さん答えに窮しませんか?

さて、はじめてブログのお休みをいただいた先週金曜日、近畿財務局の金融監督官さまに弊社のむさ苦しい事業所までお越しいただき、事前に聞かれる予定になっていた株券電子化問題について話す暇もないくらい、世間の情勢につきお話をすることが出来ました。
★折しも米国の政権交代が決まり、従来どちらかと言うと、米民主党政権は対日強硬の傾向が強いが、外交・経済についてどのような変化が予想されるか?
★サブプライム、世界金融危機は何だったのか?
★これからのフェニックス証券のビジネスモデルについて?
これらの話題について、驚く勿れ、私がこれまでブログに書いてきたことそのままお話しました。私のブログは権力批判や官僚批判のオンパレードだという印象をお持ちの方が多いと思います。ある意味、それはその通りですが、表裏の無い私の意見を受け取っていただける懐の深いエリート官僚もどっこいいらっしゃるという嬉しい事実もあるのです。

ちなみに、FXに関しては、「顧客資産の区分管理を全額信託に」という法改正。賛成である。が、市場リスクが現行では自己資本規制比率の計算上反映されない「向かい呑み」行為も同時に規制しないと、今まで以上にカバー先にヘッジも預託もしないほうが金繰り上楽だという誘因が働き、かえって顧客保護に悖る。この点をしっかり主張させていただきました。悪徳な比較サイトやアフィリエートによって異常なスプレッド競争やレバレッジ競争が巻き起こされた我が国のFX業界ですが、もうそろそろパーティはお開きでしょう。これからは真の意味での財務と技術が勝負の世界です。
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2008年11月6日木曜日

オバマ新大統領はドル高政策を転換するのか?一夜限りのハネムーン相場

●南北戦争が遂に終わった(11/5NYTimes)
ニューヨーク・タイムズ紙のトマス・フリードマン氏のコラム。147年前にバージニア州で勃発した米国の内戦は、まさに同じ場所での激戦をオバマが制したことで終結した。これほど象徴的なことがほかにあろうか、と。すべての子ども、すべての市民、そしてすべての新しい移民の人たちに、今日この日からthis day forwardアメリカはすべてのことを可能に出来るんだと知らしむべきだと。

一方、
●米国の未曾有の借金がオバマ新大統領の手かせ足かせに(11/5WSJ)
2008年最終四半期で5500億㌦、来年第一四半期で3680億㌦におよぶ国債発行の計画を米財務省が発表。専門家の予想では米国の借金は1兆5000億㌦を超え、この1年で25%増だと。このような借金急増がオバマ氏の積極財政路線にとってジレンマになると同紙。

●選挙当日の株価高騰は一日で帳消しに(11/5WSJほか)
米ダウ平均:▲5.1%、S&P500:▲5.3%、ナスダック:▲5.5%、、、
一方、原油先物:▲7.4%(⇒65.30㌦)、金先物:▲2.0%(⇒741.30㌦)

「フェニックス証券チャリティ・オペラ・コンサートのチケットが売れたから、代金を回収にいらっしゃい」と日頃お世話になっている社長さんに呼ばれ、その席で昨夜、日本銀行国際局の方を紹介してくださいました。国際局の方曰く、「為替の介入、しそうでしないですね。しないんですかねぇ?」。対して小職曰く、「それは僕が聞きたい質問ですけど・・・」で、苦笑い。このブログを紹介し「主要先進国中央銀行が協調して米ドルの資金供給をするというのは、スポット相場という点では逆介入の効果。逆に、トムネクが安定してしまったら、介入が必要になるくらいドルが底抜けするかも、と書いてます」と伝えたら「随分、先を見ておられますねぇ」と呆れられました。
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2008年11月5日水曜日

オバマ氏当選、初のアフリカ系大統領の誕生

「黒人大統領の誕生は、米国がすべての人に機会がある国であることを証明する素晴らしい出来事だ」とは敗軍の将、マケイン氏の演説。かつてセオドア・ルーズベルト大統領が黒人補佐官をホワイトハウスに招いたときに米国民は大きく反発したというエピソードを示し、米国が大きく変ったことを強調。ライバルの勝利を称えていました(日本時間13:00於アリゾナ)。

経済問題、イラク問題での具体的な手腕は実のところ未知数ですが、予想以上の圧倒的勝利に加え、議会との“ねじれ現象”の解消を背景に、思い切った変革が期待されるのは間違いないでしょう。

それにしても、敗者マケイン氏のタイムリーな演説。控え室のスイートルームでじっくり考え抜かれたものでしょうが、我が国の政治常識からは考えづらい、わたしにとっては感動的な演説でした。
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米大統領選、いよいよ開票

ウォール・ストリート・ジャーナルやニューヨーク・タイムズのWEBサイトの開票速報の見やすさに感動。思想信条は兎も角、速報性と一覧性で両紙は争い、紙媒体は何処へやらという印象。勿論、いずれのオンライン・サービスも原点は紙媒体。有料サイトの料金設定とサービスの質と紙媒体のリストラの絶妙なバランスは、日経ネットの建て直しで苦慮している日経新聞の幹部も参考にされている筈。

七転び八起きブログは、速報性で米紙オンラインサイトと争っても詮方無いので、相変わらず天邪鬼なマイナーニュースをお伝えします。

●JPモルガン、プロップデスクを縮小(11/4FT)
金融混乱以降、自己売買部門およびヘッジファンド部門が儲からなくなったとしている。そうすると、金融混乱以降自己売買で大儲けしているのはいったい誰なんでしょう。フェニックス証券ではありませんので、念の為。JPモルガンは、ベアスターンズおよびワシントンミュウチャルの救済買収後、4100人の人員削減を既に発表している。

●韓国の中小零細企業、FX損失で銀行を告訴(11/4FT)
韓国の中小零細企業96社が、スタンダード・チャータード銀行やシティバンクを含む13の銀行に対してFX絡みのデリバティブで総額15億㌦の損失を強いられたとして訴えた。

●デンマーク政府、ユーロ導入の可否を問うべく、国民投票へ(11/4WSJ)
理不尽な為替の変動が実体経済を混乱に陥れるくらいなら、固定相場のほうがましだ。とか、いっそのこと金本位制に戻るべきだ。とか、ある種の酔っ払い的議論にも一理あると思います。世界中が固定相場になるとFX業者はすべて廃業となりますが(笑)。FXをやりながら、変動相場のメリットとデメリットを自分の言葉で語れるようになりたいものです(言うは易し・・・)。
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2008年11月4日火曜日

怪我の功名

●原油価格、月間の下落幅が記録更新(10/31FT)
1983年にニューヨークで原油先物が創設されて以来。原油に限らず、穀物など商品先物全般が急落中。連休中の日経新聞でも大きく取り上げられていました。

●米銀、貸し渋りは続く(11/3WSJ)
連銀調査で明らかに。家計向けも企業向けも貸出基準を厳格化。とくにクレジットカードについては、借り手の信用力にかかわらず、信用枠を削減して行かざるを得ないと。理由として、経済の先行きが不透明であることと、銀行が資本の毀損でリスクに耐えられないという2点が挙げられている。

●GM、10月売上高が前年同月比で約半分!(11/3WSJ)
フォードは30%減、トヨタは23%減。人口増を調整した数値で見ると、第二次世界大戦以降で最悪の月間記録とか。

歴史に残るかも知れない2008年も6分の5が経過しました。まだ、1年を振り返るには早すぎますが、私にとっての2008年の個人的キーワードは「怪我の功名」ということになりそうです。これまでにない激動の一年のなかで43歳の誕生日を向かえることになった雇われ社長4年目突入の今年は、「怪我の巧妙」と呼ぶに相応しい出来事のオンパレードでした。そのエピソードは年末上梓予定のデビュー本に譲らせてください。

本日の記事でひとつだけ言わせて貰えば、エネルギー価格や食料価格のバブルが弾けたのは(予想通りとか当然のこととか評価はさておき)世界金融危機の副産物《怪我の功名》なのかも知れません。
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2008年10月31日金曜日

日銀利下げ幅は、たった0.2%

フェニックス証券のFXは「たった2銭」ですが、日銀の利下げ幅は「たった0.2%」でした。瞬間的に市場は大きく荒れており一概に失望で株安・円高と決め付けるわけには行きません。が、市場予測が「0.5%⇒0.25%」だったことを考えると、《絶対にグリーンを捉えると思われていたフェアウェイからのショートアイアンだったのに、手前のバンカーに沈んだ》という印象かも知れません。

ところで、今朝のブログのクイズの答えは・・・化粧品です。皆さん、正解でしたか?えっ、他にも答えはあるって??
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日本株は底か?すっぴんに耐える日本経済へ・・・

●米モトローラ、3.97億ドルの赤字に転落-第3四半期(10/31WSJ)
●アメリカンエクスプレス、人員7000人削減-全職員の10%相当(10/31WSJ)
●グーグルとヤフー、検索エンジン提携協議を中断へ(10/31WSJ)
●エクソンモービル、四半期利益148億ドル-過去最高を更新(10/31WSJ)

今週月曜日にフェニックス証券オンラインセミナーを収録したあと、弊社の株式部長から質問を受けました。
「社長のおっしゃる『米国発』の皮肉は株価指数についても言えませんか?日本(の金融システム)だけが避難場所と言われる割りには日本株が売られすぎている。米国株以上に売られる意味が判らない・・・

・・・株仲間と話をしていたら、日本の弱さは食料自給率の低さにあるのではないか、と。米国は金融バブルがずたずたになっても飢え死にはしないが日本は違う、と。社長はどう思われますか?」

過去7回のセミナーでも食料自給率の問題はしばしばとりあげて参りました。ウチの株式部長のお友達の視点は一理あると思います。

勿論、テクニカルには、
①日経平均の銘柄入替が果たして良かったのか?
2001年の銘柄見直しでIT関連株に大幅に見直した直後のITバブル崩壊だけではない。 浮動株比率を最重視しているMSCIや時価総額ベースで低位大型株にウェイトが置かれるTOPIXに比べ、円高時や相場急落時に実態以上に売られてしまう。

②ドル建て日経平均はそれほど売られていない。
円高だから(輸出関連株が売られ)株安。円高なのに(日本に資金が戻っているのに)株安。ドル建てで見れば当然のこと。

より本質的な問題として、
③日本の金融システムが消去法的に選ばれていることの幻想
しばしば申し上げているように、邦銀の融資先株式の政策保有、その含み損は、外国銀行の不良債権問題と五十歩百歩である。

そして③の裏返しとして
③´個人投資家が育たず、外国人投資家に翻弄されている日本株
政策保有株式の下落による資本毀損は公的資金で助けられるが、損をした個人投資家には税金すら帰ってこない。モラルハザードが続けば個人にとって株式投資は馬鹿馬鹿しくてやってられない。本来、サラリーマン投資家よりも適正水準を意識して売買できる個人投資家の参加が進んでいないことは日本株にとって悲劇。

お待たせしました。最後に食料自給率です。

指数の話ばかりしましたが、個別株で言えば、何が買えるでしょうか?食品に限らず、生活必需品(基礎財)に関連する銘柄ではないでしょうか?

ここでクイズです。今週ある業界の方から「わが業界の企業売り上げは、ただひたすら広告宣伝費のみに比例するんだ」と豪語しておられました。曰く、売上原価にも技術開発にも比例しないと。さて、この業界とは何でしょう。答えは夕刊でお知らせしますが、勿論、生活必需品でないことは明らかです(必需品だと思い込んでいる人も少なくないかも知れないけれど・・・がヒント)。

食料自給率低迷、減反政策、食糧管理政策、食の安全の問題。。。これら全てを農水官僚の仕業だと決め付けるのは全く筋違いです。思えば、何故小学生時代の給食がコッペパンだったのか?何故、農水省は禁止農薬の範囲を広げ、結果的に事故米の定義を拡大させたのか?事故米や事故米焼酎などは、食料としての流通を差し止められただけでなく、バイオ燃料としても再利用されず、単なるゴミとして破棄された事実をご存知ですか?

心ある農家の皆さんが日夜努力されている一方、既得権益に固執するだけの農業団体、その票田に固執する政治家、既得権益への固執となれば日本一の地上波テレビなど大手マスコミ。これら悪の枢軸が農水官僚を集団暴行した結果、食料政策が脳死状態になったと私は推定します。
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2008年10月30日木曜日

米国利下げ。FF金利は1.0%

同日、中国やノルウェイも利下げ。ECB、BOEも来週利下げが濃厚と、WSJ紙。

更なる利下げも臭わせたFOMC。「ゼロ金利政策が近づいていることのジレンマ」という表題でFT紙は90年代の日銀の政策が景気浮揚に成功しなかったことと今回の米国の事態を比較しています。

デフレ下で名目金利をゼロにしても、実質金利(注)は高止まってしまうわ名目金利はマイナスには出来ないわで万事休す。これが90年代の日本だ、と。現在の米国は(ヘッドラインインフレこそマイナスに転ずるリスクが濃厚だが、生鮮食料品とエネルギー価格を除いたコア)インフレは(元々の水準が)高いので大丈夫。金融政策の余地はある、と。

(注)実質金利=名目金利-期待インフレ率

しかし、中途半端な経済学者がよく間違える罠なのですが、只今現在のインフレ率と、その将来の予想とは意味が異なります。加えて、現在の米国金融の最大の問題は名目金利が一物一価になっていないこと、つまり銀行間市場の機能不全は依然続いているため、政策金利を引き下げても銀行間の(無リスク金利である筈だった)金利が高止まり、結局は実質金利を制御できない事態に陥り続ける恐れがあるということです。

完全雇用状態(デフレギャップが無い状態)を実現する金利を「中立金利」と定義づけ、中立金利の下落に対して政策金利の引き下げが後手後手に廻ると日銀が直面したゼロ金利のジレンマに陥ると論じたのがスタンフォード大学のテイラー教授です。金利政策に限定する限り(つまり、中央銀行の機能は金利政策だけではないということが言いたいのですが・・・)、米国の現況は既に90年代日本と同様の落とし穴に嵌っているといわざるを得ません。

ただし、ユーロ圏も五十歩百歩ですが。
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2008年10月29日水曜日

オンラインセミナー、ブログに更新!

今夜から明日にかけてのFOMCでの利下げ期待(FF金利1.5%⇒1.0%)で円安ドル高株高。国家破綻のアイスランドは今更ながらの通貨防衛で利上げを発表(12%⇒18%)。いまやFXは政策金利の予想だけで成り立つゲームではありません。

史上2番目の上げ幅を演出した昨夜の米国株。それでもショッキングなのは、我が国の上場証券会社の四半期決算。日本株も駄目。投信も駄目。外国債券も駄目。ついにやることが無くなった。でも「証券・金融は経済の血液だ。無くなるわけにはいかない」と言われます。本当にそうでしょうか?

レコード針のように、知らないうちに無くなってしまった産業はいくらでもあります。過去5年間で日本酒の蔵元や杜氏の数が激減していることも意外と知られていません。証券会社が経済の血液だというのなら、日本酒は会社組織の潤滑油ではなかったか、と反論したくなります。

日本酒については経験と技術の粋を極めた杜氏さん達の世代交代がうまくいかなかったという供給側の事情と、我が国の若い世代が米麹の香りを好まなくなったという飲む側の嗜好の変化という需要側の事情が相俟って市場が萎縮したと考えられます。しかし事情はどうであれ、一大産業の環境激変に伴い職を失った方々は、過去に培った経験や技術を多くの場合は活かせない新たな職業を自助努力で探すべく苦労されいているに違いありません。

たびたび証券村で村八分になることを恐れず繰り返すのですが、金融業界だけひとり景気や雇用を人質にとって公的な保護を求めるのは筋違いでしょう。加えて日本酒はインターネットでは醸せないけど、金融取引ほどネットに馴染むものはないという厳然たる事実があるのですから。
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