2016年11月18日金曜日

トランプ大統領は反ユダヤではなかった事実から読み解くドル高トレンド

アヴァトレード・ジャパン公式パートナー「大当たり」さんのメルマガを半月ぶりに公開します。トランプ当選を見事に的中させた中銀ウォッチャー大当たりメルマガは毎週1~2回配信されています。

アヴァトレード・ジャパンのユーザーの皆さん、こんにちは。大当たり亮です。

最近、巷で、わたくし大当たりにはゴーストライターが付いているのではないか?それはアヴァトレード・ジャパンの丹羽社長ではないかという噂を耳にします。そんなことは決してありません。

「トランプノミクス」で先週今週は米ドルの一人勝ち相場。ドル円の110円台は、今年5月以来。そして「ドルインデックス」101台は、何と2003年3月以来です。

「万年悲観論者とわたくし大当たりが呆れているアヴァトレード・ジャパンの丹羽社長がこんな相場じゃ物書きできないから今週は臨時増刊号が来ないんだろうな」「株高ドル高で皆ハッピー。別にメルマガなんか来なくても勝てるよ」ですって。そんなことはないんです。

もはやファンダメンタルズは気にするな。と言いつつ、「首筋がひんやりしているイエレンさんが何を言うか?」だけは注目ですよと、わたくし大当たり今週月曜日に、ただ一点だけ、指摘をさせてもらったところです。

結果的にはイエレンさんの発言は、トランプ相場に加勢しましたね。細かく分析するとトランプ氏の移民排斥や少数民族への差別などへの当て擦りなどあります。しかし、トランプノミクスをレーガノミクス(1981年から1989年まで)の再来と大雑把に見る限りでは、ドル高志向という点で、イエレンさんの方向性と合致してしまうわけです。

歴史に残ると言われるロナルド・レーガン大統領の経済政策はアンチ・ケインズの顔をした極度のケインズ政策でした。

ロナルドとドナルドというのも似てはいますよね?どうでも良いですか??

わたくし大当たりの影武者疑惑とともに、大統領選挙後巷で喧しいのが、欧米共通で、
「都市部≒若年層≒グローバル化(EUやTPPやNAFTA)賛成派」
VS
「田舎≒高齢者≒反グローバル化(BREXIT、トランプ現象、欧州各国の極右政党台頭)」
という単純な二元論です。

なるほどな、とは思いますし、FXで言うとバイナリーオプションみたいなもので、わかりやすさでは真似できません。

つい今しがたも、安倍首相がトランプ氏に「TPPは我が政党の最有力圧力団体の農協から裏切り者呼ばわりされ支持率を失うリスクを冒しておたくの国の政策を受け入れようとしたまででわたしだって本音では反グローバルなのだよ。」と愚痴を零したかどうか、は知るよしもありません。

フラット化する世界では先進国の中間層はどんどんと既得権を失い反グローバル主義者に陥っていきます。では一体誰がグローバル化を進めてきてグローバル化で得をしたのか?

ドナルド・トランプ氏が移民排斥や少数民族差別を繰り返すなかで(比較的)口を噤んでいた相手があることに気づきますよね!?

日本語版のウイキペディアでは説明がないのですが、ドナルド・トランプ氏の長女イヴァンカ・トランプさんの旦那さんであるジャレッド・クシュナー氏は、トランプ氏自身と同様不動産王でもありますが、そのお父さんはナチスに蹂躙されたポーランドから命からがら米国に逃れ一代で不動産会社を築き上げたユダヤ人なのです。娘婿のジャレッド氏がトランプ政権に入閣する可能性は実に高いと言われています。

いやどう考えても、トランプ氏の反ユダヤ主義、反グローバル主義は、選挙目的の仮面に過ぎないですよね。

そんなこんなで、トランプ氏がイエレン女史をばっさり切る可能性は実に低く、たまには貿易赤字問題を指摘して行き過ぎたドル高のガス抜きをしつつ、基本は二人仲良くドル高を演出してゆくのではないか?今回のトレンドは来月のFOMCまでみたいな短命なものではないというのがわたくし大当たりの意見です。

アヴァトレード・ジャパンの丹羽社長、反論は大いにおありでしょうが、今日は赤ペンを挿れないでくださいね。

2016年10月31日月曜日

日米英揃い踏みで金融政策決定会合

久しぶりに、アヴァトレード・ジャパン公式パートナー「大当たり」さんのメルマガを公開します。中銀ウォッチャーとして堂に入ってきた感じのある大当たりメルマガは、アヴァトレード・ジャパンに口座開設するだけで毎週無料でお読みいただけます(2016年10月31日現在)

(↑↑↑テーパリングしている先が萎えている南瓜の図↑↑↑)

(以下引用)

アヴァトレード・ジャパンの皆さま、こんにちは。大当たりです。

「そう言えば、大当たりさん。何ヶ月か前に、スパイ小説を続けざまに読んでいるって自慢してましたよね。」あっ、はい(^^ゞ

「スパイと言えば、FBI。FBIと言えば、ヒラリー・クリントンのメール疑惑調査再開。これって何か裏があるんですか?」

すみません。米国のスパイには詳しくないんです。ケネディ暗殺の黒幕が誰かも知りません。MI6とモサドが専門なんです。今回の件についてはほんとうに何もわかりません。

それより、英国EU離脱発表から、週末も目を話せなくなってしまった英国でまたまたスクープです。英国のEU離脱派≒保守党幹部たちから早期辞任の圧力を受けていたBoE総裁であるカナダ人のマーク・カーニーが友人とのあいだで、「任期延長オプション」を行使して残り8年職を全うする決意を内々に固めた。と、今朝早く、英フィナンシャル・タイムズ紙が臨時ニュースを出しています。

今週は、あまり注目をされていない日銀金融政策決定会合はともかく、日本では祝日の木曜日に、米国と英国で金融政策「揃い踏み」となります。もともとわたくし大当たりには休みがないので平気ですが、兼業トレーダーの皆さんにとっては集中力を絶やせない注目の週になりますね。

市場のコンセンサスは、
FOMC(11/3(木)午前03:00)0.50%現状維持
BoE(11/3(木)午後21:00)0.25%現状維持

珍しくありきたりなことを書かせてもらいますと 爆 、米国は利上げがあったとしても12月で、上記の黒幕不明のメール問題再燃で、ある調査では支持率が1ポイント差まで縮まっているなかでの大統領選の結果を見ずしてイエレン議長がサプライズを演出することはないだろうと市場は高を括っているところです。

片や英国は政権側と中央銀行側の対決姿勢が劇場化しているわけですが、喧嘩腰の外国人総裁とて、0.25%の下は、、、いつぞや日本でも0.1%というのがありましたけど、、、現在の金融政策決定プロセスが確立された1997年以降は0.25%刻みしかないようですし、素直に考えれば、、、ゼロ金利マイナス金利しかないわけで、、、

ちなみに、BoEと保守党政権で何が揉めているかというと、量的質的金融緩和の是非と中央銀行の独立性です。マーク・カーニー氏は金融緩和派、そして言わずもがな独立性維持派なのです。

日本の安倍政権と黒田総裁のスクラム状態を見慣れている日本国民にはイメージし難い状況ですね。アベノミクス前夜、当時の白川総裁が、、、あれでも、、、金融緩和が足りないと官民こぞってディスりまくっていた風景とも違います。

実は、わたくし大当たりには、英国紳士の仲良しがいます。どうやらどこかの大学で数学を教えているらしいおじさんなのですが、幸い日本語がペラペラなので助かっています。大当たりは英語が大の苦手。でも実は元理系なんです(*^_^*)。。。このおじさん、研究と講義で忙しいはずなのに、妙にFXのことに詳しいんです。先週金曜日も、米国GDPの発表前ですが、いっしょにおりまして英国の話で盛り上がりました。

マーク・カーニー氏は、カナダ人であるということが異例ですけど、それ以前に、ゴールドマン・サックスに10年以上勤務していたことがより異例だという話に。あくまで英国の転職社会ではということです。米国では歴代財務長官でロバート・ルービンとヘンリー・ポールソンはゴールドマン・サックスにいたわけなので。

要するに彼が言うには、マーク・カーニー氏はもはやサラリーマンではない組織人ではない。独立したお金持ちであり、誰にごまする必要もなく信念を以って仕事を出来る立場なのだと。

東京都の小池劇場とは、男女、攻守、あべこべな感じはしますけど、組織がきちっとしている日銀よりも注目されるのには理由があるんですね。

とは言え、利上げ方向へのサプライズはありえない。また、日銀と同じく、合議の様子はガラス張りに近いものがあります。
http://www.bankofengland.co.uk/monetarypolicy/Pages/decisions.aspx
(↑↑ここからEXCELのスプレッドシートがダウンロードできます。ちなみに0.25%刻みしか前例はなさそうです)

記述の如く、下方は限定されているゼロまたはマイナス金利は、今年のポンドの地合いを考えれば、底抜けになりかねません。

それとも、テレーザ・メイ政権とマーク・カーニー総裁は、対立したふりをしているだけで、金融政策とEU離脱政策の混乱に乗じて、自国通貨安を演出したいとでも考えているのでしょうか???

順不同で、テレーザ・メイ英首相、ジャネット・イエレンFRB議長、アンゲラ・メルケル独首相、ヒラリー・クリントン米民主党大統領候補、小池百合子東京都知事、以上のみなさんが主演女優賞にノミネートされております。

(引用終了)

きょうのメルマガの副題は、「ヒラリーさん含めて主演女優賞は誰か?」だそうです。

2016年8月30日火曜日

人工知能も天然知能も予想的中だった週末のイエレン=フィッシャー相場

本日も、アヴァトレード・ジャパンに取引口座をお持ちのお客さまにだけ配信している無料メルマガのサンプルをご紹介します。著者は、新進気鋭の夜型アナリスト大当たり亮さんです。

(サンプルメルマガ)アヴァトレード・ジャパンでFX取引をされている皆さま。大当たり亮です。今週も金曜日の雇用統計までよろしくお願いいたします。

さて、金曜日の臨時増刊号で、ジャクソンホールについてお話しさせていただきました。

『中央銀行は不要だとは言えないけど、余計なことはしてはいけない、という考え方。どこかの島国のバズーカ発砲しているセントラルバンカーとは真逆』
『円安を待望しているみなさんには旱天の慈雨になるかも知れない今夜のイベント』

狼少年の汚名返上。見事に大当たりとなりました。「利上げは織り込み済みで、踏み込んだ発言がなければ暴落。なので下はあっても上はない」というアナリストも多かったなかでの大当たりはうれしいです。

しかし、このような「天然知能」のまぐれ当たりで喜んでいてはいけないんです。あれはあくまでアヴァトレード・ジャパンさんに頼まれて、上とも下ともつかない夕方に配信させてもらったものです。

それに実際は、FRB議長のイエレン女史の発言そのものでは相場は「行って来い」でした。円安ドル高をトレンドと化したのは、先週前半から存在感を表していた副議長のスタンレー・フィッシャー氏でした。彼もまたユダヤ系の経済学者で・・・

ジャクソンホールでのイエレンさんとフィッシャーさん(こちらはCNBCとのインタビュー)が予想どおり、いや予想以上にタカ派的な発言をしたことで、米国の年内の利上げに対する見通しが高まり(先物市場に織り込まれる12月までの利上げ確率は57%から63%に上昇)、それに伴うドル買いが強まる展開となりました。

さて、「天然知能」の大当たりに対して、本日からアヴァトレード・ジャパンのお客さまに限り登録受付を開始する(これ、ほんとうに口座があるだけで良いんですかね???腋が甘すぎはしませんかアヴァトレードさん!?)

「人工知能(AI)巫(かんなぎ)『トレンド判定』無料メール配信サービス」
https://avatrade.manabing.jp/

ですが、この週末のイエレン=フィッシャー相場はどう乗り切ったのでしょうか???

お見事です。
予測日時 予測内容 予測時の価格平均値 評価日時 評価時の価格平均値 結果
2016-08-27 04:00:00上昇トレンド 100.857 2016-08-29 11:59:00 101.911 的中
2016-08-27 02:00:00上昇トレンド 100.569 2016-08-29 09:59:00 101.799 的中
2016-08-27 00:00:00方向感なし ******** ******** ******** ********
2016-08-26 22:00:00方向感なし ******** ******** ******** ********
巫(かんなぎ)の「トレンド判定」は実はものすごく慎重なのです。十分な方向感が出ていないと判断したときは「方向感なし」と「判定」しています。イエレン議長の「行って来い」相場は「方向感なし」と判断したわけです。

(※パフォーマンス掲載サイトへは、「人工知能(AI)巫(かんなぎ)『トレンド判定』無料メール配信申込みサイト
https://avatrade.manabing.jp/
からリンクしております。きょうの大当たりメルマガが配信完了するころには、土曜日朝6時の「トレンド判定」の的中ハズレ判定も出ているかも知れません)

今回、アヴァトレード・ジャパンさんと特別タイアップをしたシステム開発会社の学びingさんの開発者さんに緊急インタビューを試みましたところ、

>イエレン=フィッシャー相場については、方向感が出るまでの短時間、乱高下の間は、じっと様子を見ていたのが良かったのではないかと思います。

>巫は、慎重にトレンド判定をしていますので、基準以上の確信をもった時点でようやく「トレンドあり」と判定します。

>AI「巫」の特性は、「損小利大」かつ「順張り」と表すことができます。「順張り」ですので、定点観測で「上昇トレンド」など同じ方向が連続すると利益がのびます。また、マーケットのボラティリティが大きくなるほど有利ですが、膠着相場やレンジ相場はあまり得意ではありません。同じ方向が続いている間で、ある程度自身が満足できる利益のタイミングで利益確定がいいと思います(メール配信後、トレンドが急変する可能性もございます。)

イエレン=フィッシャー相場は特に満塁ホームラン級だったにせよ、サービス開始以降の約半年で、的中率 70.30 % ( 393 勝 166 敗 )は見事です。これをFXの売買の利益に活かすためには、利食いと損切りのタイミング、それぞれの幅または比率をどうルールづけるかがたいせつになってきますよね。

この点は、今週またしつこくも臨時増刊号「祝 人工知能(AI)巫(かんなぎ)『トレンド判定』無料メール配信サービスイン(仮)」と題してその記念すべき9月1日(木)までに、わたくし大当たりの考え方をまとめてみようと思います。

取り急ぎは、学びingさんへのインタビューをご参考になさってくださいね。

>「売買シグナル」は、損小利大を基本としたものですから、勝率が低いゆえに当たる時に大きく勝つ、というロジックになっています。

>TP注文とSL注文を組み合わせる選択肢は十分ありだと思います。

>利益幅とストップロス幅の比率に注意していただければ、後はお好みで良いかもしれません。(目安の例 利益幅:ストップロス幅=3:1)

では、最後にわたくし大当たりのような「天然知能」系に必要な情報をまとめておきましょう 苦。

今週のイベント。米国の金融政策の先行きに対する注目度はますます高く、その金融政策に与える影響が大きいものとして、週末の米雇用統計は外せません。非農業部門雇用者数は予想が+18.0万人と20万人を下回っています。雇用関係の指標としてはADP雇用統計(水)などもありますが、よほど変な数字が出ない限りは週末まで様子見か。後は米国の個人消費支出(月)、消費者信頼感指数(火)、ISM製造業景況指数(木)など。

今週は米国の地区連銀総裁の発言にも要注意。ローゼングレン・ボストン連銀総裁講演(水)、メスター・クリーブランド連銀総裁講演(木)、ラッカー・リッチモンド連銀総裁講演(金)となっています。前の二人は投票権を有しています。ここ最近のタカ派的な流れを踏襲するのか、修正するのかは注視したいところです。

ってか、メスター・クリーブランド連銀総裁、夜明け前にもうしゃべっているし。木曜日まで待てないんですかね。付和雷同で利上げのお神輿を担いでいるみたいで。マイナス金利に反対すると空気が読めないとして学歴詐称の馬鹿学者と首をすげ替えるようなどこぞの島国の金融政策決定会合とは真逆ですよね。いや、一緒か。

2016年8月26日金曜日

イエレンFRB議長講演 於 ジャクソンホール の傾向と対策【アヴァトレード・ジャパンのサンプルメルマガ】

本日は、アヴァトレード・ジャパンに取引口座をお持ちのお客さまにだけ配信している無料メルマガのサンプルをご紹介します。著者は、新進気鋭の夜型アナリスト大当たり亮さんです。

(サンプルメルマガ)

アヴァトレード・ジャパンでFX口座をお持ちのみなさま、大当たり亮です。

しつこいと思われるかも知れません。今週三度目の登壇となりました。今夜日本時間では11時から予定されている、米カンザスシティー連銀年次シンポジウム(於「ジャクソンホール」)でのジャネット・イエレンFRB議長による講演が予想以上に注目度が高くなっています。

アヴァトレード・ジャパンさんから、注意喚起のメルマガを作ってくれと言われたわけです。月曜日のメルマガにも取り上げたのですが覚えていらっしゃいますか???オリンピックの感想というか無駄話が長すぎて、そんなもの読み飛ばしたですって!?はい、大当たりのせいですね。

それに、月曜日は「ジャクソンホール」のことだけではなくて、
「黒田日銀総裁が23日にFinTechフォーラムで挨拶ということで、そこで金融政策の先行きに対する発言をするかどうかといったところは円の動向に大きな影響を与えそう・・・」だとも並列してお書きしましたが、蓋を開けて見ればまったくの無風。大当たりどころか大はずし狼少年になってしまいました 泣。

そんなこともあって、今週は、ドル円をはじめとして、みなさまのあいだにもファンが多いポンド円ですら、凪の相場となりました。

以前より、大当たりが書いているとおり(?)、ボラが低い状態は相場がマグマというかエネルギーを貯めこんでいる状態です。ジャクソンホールでのイエレン発言の前には動きたくても動けないという市場参加者の気持ちがあらわれていますよね。

識者の意見はいろいろとわかれています。鷹派発言をするのではないか?でもそれは織り込み済みなのではないか?いやたとえ織り込み済みでも利上げが具体化すれば一転円安ドル高ではないか?日欧オセアニアは利下げやマイナス金利がイケイケドンドンのブームですが、利下げが予想通りでも発表後乱高下することが繰り返されています。何が折り込み済なのかまったくわからない相場です。ニュースを見るよりチャートだけを見ていたほうが勝率が高いように思います。

それに、今夜については、イエレン議長のどんな一言がいつ飛び出してどう反応するかまったく予測がつきません。思い込みは禁物ですね。

ところで、今更気が付きました。FRB議長は、ポール・ボルカー氏を最後に、アラン・グリーンスパン氏、ベン・バーナンキ氏、そしてジャネット・イエレン女史と三代続けてユダヤ系なんですね。ボルカー議長は当時のレーガン大統領に解任されたとされているのに対して、グリーンスパン議長以降は「禅譲」だったと言えます。これら三人のユダヤ系エリート経済学者に共通するのは、やはりユダヤ系で幼いころの貧困から這い上がって世界的な経済学者となったミルトン・フリードマンの考え方を重視ないし信奉していることです。ざっくり言えば、金融市場は完全に放置プレイにしちゃうとしばしば混乱を起こすから中央銀行は不要だとは言えないけど、余計なことはしてはいけない、という考え方。どこかの島国のバズーカ発砲しているセントラルバンカーとは真逆なんですね。

円安を待望しているみなさんには旱天の慈雨になるかも知れない今夜のイベント。ポジションにはくれぐれもご留意ください。

最後に、つまらない話。ジャクソンホールというのは街の名前なんです。コンサートホールのホールじゃないですよ。このホールは穴のホール(Hole)です。Hallじゃないんです。登壇するのはジャネット・イエレンさんです。ジャネット・ジャクソンさんじゃありませんから。アヴァトレード・ジャパンの丹羽社長がこのことを知らなかったらしいので、自慢をかねて書き留めておきます。

2016年5月2日月曜日

パナマ文書の徹底追及のまえに円高

日銀金融政策決定会合(4月27日~28日)での追加緩和策見送りを受けて、ドル円は4円程度という急激な円高となりました。翌29日には、米国財務省が、中国だけでなく日本も、自国の通貨を意図的に安く誘導する為替操作への監視する対象とすると発表、ドル円は輪を掛けて円高となりました。木曜日と金曜日の2日間だけで、ドル円は6円前後も円高ということで、これは変化率で較べても、2008年3月のベア・スターンズ危機のときと同程度の衝撃だと言えます。

唐突ながら、熊本の震災のことに触れざるを得ません。地震予知など無意味だという議論が喧しい今日このごろ。ただ、国家予算を投じてでも続けるべきかどうかということについてであれば、もうずいぶん長い間、この方面の国家予算は削られてきているようです。昨夜のNHKサイエンスZEROでは、「南阿蘇村の地すべりが、表層の火山灰だけで起きていたのであれば、阿蘇大橋を吹き飛ばすほどのパワーには至らなかったはず。その下の溶結凝灰岩がクラック(※)や柱状節理(※)に沿って地震で崩れた。地すべりのエネルギーの想定外の大きさは、この表層の下にまで及ぶ根こそぎの崩落にあった」と自らも被災された研究者が説明しておられました。

(※)カルデラ噴火の噴出物が自らの重さと熱で溶解し、その後冷えたために、硬く固まるのだが、その冷え方が急すぎて、割れ目ができる。

阿蘇山のカルデラ噴火は、それによって九州全土がたかだか1週間で出来上がったほどの大量の噴出物を遠方にまでうず高く吹き飛ばすものです。阿蘇=九州を例外あつかいしてはならないことがたいせつで、箱根や穂高も過去に同じような形態の噴火の実績があること、またそのような記録も痕跡もない火山のために、関東甲信越だけでも、クラックや柱状節理に特徴づけられる溶結凝灰岩が多様な地形を作っています。

断層や地質のことを知れば知るほど、巨大地震や火砕流被害などから、日本列島は逃れようがないという思いに至ります。阿蘇山や南海トラフや日本海溝だけが震源ではないからです。

しかし、あきらめないための知識だけでなく、あきらめるための知識を与えてくれるのもまた科学だと言えます。

為替や株価を予想できるわけでもない経済学には、地震予知以上に、国家予算が削減されても致し方無いところでしょう。それでも、最近ではアベノミクス、もう少しさかのぼると、ソ連型社会主義経済や中国型社会主義経済など、壮大な実験が、好むと好まざるとにかかわらず、行われてきたわけで、その結果を冷静に分析することは、わたくしたちに有益な知識を与えてくれるはずです。

ときに、世の中はゴールデンウィークなので、天気予報と道路交通情報が気になるという方が多いことでしょう。このふたつが異なるのは、渋滞のピークの予想は、自分一人が予想を信じてピークを外そうと思っても、似た行動をする人が多いと、外した時間帯がまたピークになっていたということが起こりやすいが、天気予報ではそのようなことは起きない(多くのひとが晴れの日に行動を集中させたからと言って、それが低気圧や前線を呼びこむことは無い・・・人だかりが上昇気流をもたらすとは大袈裟すぎます)。経済分析がややこしい一面として、理論や予想に対して、この人間たちのひとりひとりの、ときに独立した、ときに独立したつもりが独立していない、意思決定がもたらす正や負のフィードバックの存在が大きいことではないでしょうか???

経済学については、財市場と金融市場が混同されやすい(混同されてもしかたがない)事情があります。金融市場、すなわち、通貨(貨幣)の需要と供給を論ずるときに、通貨(貨幣)以外に一般的な経済財(例えば、イワシやキャベツのように豊漁(豊作)なら価格が下落、不漁(凶作)なら価格が上昇するもの)にたとえてよいのかどうか???この簡単そうで難しい問題の答えは、管理通貨(≒不換紙幣?)と兌換紙幣(≒金属通貨?)で違ってくるかどうか???不換紙幣≒管理通貨>兌換紙幣>金属通貨と、あいまいな線の引き方をしたのは、ひとくちに管理通貨と言っても、現在のG7ほか多くの国が採用しているように最初から金などの貴金属との兌換を保証していない通貨もあれば、表向き貴金属との兌換を保証しているが実際にはそのような貴金属を通貨発行高の一部しか支払準備として保管していない通貨もある。また、兌換紙幣>金属通貨という不等号を使いましたが、貨幣改鋳などによる通貨発行益が狙われる場合も考慮しなければなりません。ですから、古今東西で、通貨の管理通貨らしさと商品通貨らしさのブレンドはまちまちであるということになります。

金融緩和を、量的に、しかも異次元に行えば、イワシが豊漁となるのと同じように、値段は下がるだろうと多くの人が予想し、またなかにはその予想はまちがっているけど、間違うひとが多い場合にはいっしょに間違わないと大怪我をするということで、円の通貨価値が下落した。これがアベノミクスによる円安です。

どうやら多くのひとが間違えに気づいたという説明はマイナス金利でも円高?欧州の銀行不安と世界経済の減速だけで説明できるのか??(2016年2月10日)に譲ります。日銀がどんなに必至に民間銀行保有の日本国債を吸い上げても、市中銀行に対して個人や企業が保有している預金の残高(≒マネーサプライ)は殆ど増えないということです。

ここではより深刻な別の側面を。よしんば市中銀行(民間銀行)の預金を増やせたとしても、物価上昇(通貨価値下落)をもたらすことが出来ない。

これについては異論があると思います。恒等式と考えられている、
PQ=MV
(ここでPは物価、Qは取引高、Mは貨幣量、Vは貨幣流通速度)

Vを事後的に、つまり外生変数であるP、Q、Mによって決まる内生変数であるとしてしまえば確かに恒等式ですが、それでは何の意味も持ちません。Vが安定的かそうでないかが、長くケインジアンとマネタリストの争点であったわけです。

争点により焦点を当てるならば、中長期的には、ケインジアンもマネタリストに賛成で、Mを無理矢理増やしても、中長期的には同程度の物価上昇を招くだけで、政策目的であるQ(その代理変数である国民所得など)の上昇を達成することは出来ないとされています。

さて、Mを貨幣量、すなわち貨幣供給と貨幣需要(流動性選好)の合致するところで決まる数量としているわけです(用語の混乱についても、マイナス金利でも円高?欧州の銀行不安と世界経済の減速だけで説明できるのか??をご参照ください)が、貨幣に対する需要(流動性選好)ってそもそもいったい何でしょうか?

日常と非日常とを問わず「おカネが欲しい!」「無担保でおカネを貸して欲しい!」というときのおカネは、たぶん99%は、所得や富や(経済)財が欲しくてそのために費消するためのおカネが欲しいのであって、最終目的物であるお米とか電化製品とかを最初から無料でもらいたいというのと同じ意味です。残り1%は、週末の冠婚葬祭のための祝儀不祝儀だったり、外国為替証拠金取引の証拠金入金だったりかも知れません。

貨幣に対する需要を流動性選好と呼ぶとき、「お金が欲しい」と発話する意味合いから「物欲」を取り除くことで、支払手段としての貨幣の性格がはじめて浮かび上がります。

ありとあらゆる経済財のなかから、貨幣というものを特別扱いするのであれば、①売買契約における買主にとって、②金銭消費貸借契約における借主にとって、③雇用契約における雇主にとって、物々交換や代物弁済や差金決済(≒企業間信用)では埒が明かなくて、どうしても強制通用力があったり一般社会が交換手段として認めている貨幣が必要で、そのためには当面不要の手持ちの財産を処分(売却または質入れなど)をしても構わない、と考えるのが流動性選好です。

わたくしは、上記①>②>③で状況の差こそあれ、インターネットが普及するなどの高度情報化社会においては、世の中全体が一個ないしは数個のポータルを通じて売りたいもの買いたいもののスペックと価格という情報がインデックス化されている巨大なフリーマーケットになっているので、そうでなかった時代ほど、商取引の媒(なかだち)として貨幣が果たさなければならない役割は激減していると見ます。つまり、物々交換の時代に逆戻りしても、欲しいものと要らないものの交換費用がたいして嵩まないということです。

まだ話は終わっていませんが、賢明な読者のみなさんは、日本やEUのような社会では、マイナス金利を極(きわ)みとした金融緩和が空転している理由がおわかりいただけるのではないでしょうか?

PQ=MV
(Pは物価、Qは取引高、Mは貨幣量、Vは貨幣流通速度)

に戻ると、日本やEUで起きていることは、Mを引き上げても、PもQもあがらないというケインジアンVSマネタリストの論点とは違う次元のことです。

Mが引き上げられたぶん、Vが反比例的に減少するということでしょうか???

そんなことはあってはならないでしょう。Vの安定は強すぎる仮説だとしても、Vが有意に減少するならば、単位時間あたりの預金口座の入出金頻度が減少する⇒現預金の占有者の交代頻度が減少する⇒入出金の時間差の対策のためのバッファー、、、これこそが取引需要としての流動性選好ですが、これが減少するので、Mは減少(銀行貸出を返済)するはずだからです。

答えは、この恒等式が間違っている(右辺と左辺が等しくない)わけではないが、PQが名目取引量を表してはいない(物々交換、代物弁済、差金決済、現物支給においてはQに乗ぜられるPはゼロだが、これはあたりまえのこととして、物価がゼロに下落したわけではない)ということです。

・・・・・・これも、あきらめるための知識です。大きくて非効率な政府を目指す財政政策は論外として、金融緩和も国民の生活など助けてはくれない。何もかわらない。という性質の社会に生きていることを知れば、自らの技術を高めて仕事を愛する、願わくば仕事と相思相愛になる、そういう堅実な努力以外に生きる道はない。カネの生る木はないという覚悟です。


2016年4月12日火曜日

ドナルド・トランプ氏と核抑止力とパナマ文章

わたくしは東京都知事選挙のたびにドクター中松さんに清き一票を投じていますが、毎度死票になっています。

我が国の地方公共団体の首長選挙で波乱が起きないわけではないけれど、今回の米大統領選挙のように、民主党ではバーニー・サンダース氏が、共和党ではドナルド・トランプ氏が現実的な候補として浮上し、想定外に善戦しているというところが、米国二大政党のあり方や大統領選挙の仕組みの面白さ奥深さであるとして、例「年」になく、日本の低俗メディアですらも繰り返し報道する背景です。

良くも悪しくも、日本の低俗メディアが繰り返し報道することによって、ドナルド・トランプ氏の存在は、我が国一般大衆のなかにも深く刻み込まれることになりました。

わたくしのブログの愛読者のみなさまは、わたくし同様、変わり者だと考えられますので、安心していますが、そうでないみなさまは、おそらくは日本の低俗メディアが繰り返す報道によって、「(まさか)ドナルド・トランプ氏が大統領になったら、日米関係はどうなってしまうのか?日本の安全保障はどうなってしまうのか?」と素直に不安がっておられるかも知れません。

まず、米国大統領が、良くも悪しくも、ロシアの(プーチン)首相とか中国の(習近平)国家主席のような絶対権力者ではないこと。おそらくは、わけありで、我が国では、政治とカネの問題(米国におけるロビイスト活動)や責任内閣制と大統領制の比較などを教育するにもかかわらず、本筋を迂回しています。いっそのこと、パナマ文書から勉強したほうが良いのではないかと・・・・・・・

なので、何割かの確率で、ドナルド・トランプ氏が米国大統領になれたとしても、キャタピラー社の重機でメキシコ国境に壁を作ったり、在日米軍を撤去させたりできるとは必ずしも言えないのです。

ところで、わたくしは、自由貿易論者であるだけでなく、移民賛成派です(「移民受け入れ賛成」という言い方はしません。「受け入れ」という表現が上から目線で失礼至極です。有能な(※)外国人には頭を下げてでも来てもらいたいものですが、頭を下げただけで来てもらえるはずがありません。有能な(※)投資家や労働者がじゅうぶん活躍できる=じゅうぶんな自由や機会がある、、、と思ってもらえる必要があります)。

保護貿易や人工中絶反対や銃規制強化反対などの政策には反対です。

しかし、「在日米軍を撤退させ、日本には核武装を許すべき」という発言は、快哉。米国の有権者に向かって発せられた言葉である点、さらに意味が大きいです。

少なくとも、我が国においては、右翼の方も、左翼の方も、こういうことを言いません。もっとも、右(左)翼の定義も右(左)翼の方々毎に違っているかもしれない。。。。。。ドイツのヒトラー政権もリビアのカダフィ政権もロシアのスターリン政権も中国や北朝鮮の歴代政権もみな自称社会主義です。

わたくしは、インターネット規制をかいくぐってパナマ文章を垣間見たロシア人達や中国人達が、共産党をぶっつぶしてほんとうの社会主義革命を起こすための非合法国民戦線を立ち上げることを期待します。

そういう活動を物心両面で支援するぞーと、心の底から言えるひとこそドナルド・トランプ氏なのではないかと。たとえ、人気取り(ポピュリズム)のためだといぶかる人がいたとしても、この時期、その何百倍もの人たちはあらためてドナルド・トランプ氏を評価することでしょう。

パナマ文章というパンドラの箱を空けたのは米国共和党筋の策略であるという情報があり、説得力があります。

何が言いたかったのかと言えば、我が国は大東亜戦争敗戦と同時に作られた冷戦構造(日本においては逆コース)のなかで、真の右翼、真の左翼、というものが姿を消した。。。。。が、そもそも真の・・・などという定義は無意味であると留保せざるを得ないというのが上記斜線です。

で、本来、真の右翼、真の左翼であれば、同じうして、ドナルド・トランプ氏という軍事同盟の相手方大統領候補に言われるまえに、「在日米軍を撤退させ、日本には核武装を許すべき」というドクトリンを発すべきだったところです。

そんな発言をして多少なりとも結社できたとしても、偽の右翼からも偽の左翼からも叩きのめされ、ドクター中松さんほどの支持も得られないのは百も承知です(ドクター中松氏が、この点で、わたくしに共感されるかどうかはまったく調べておりませんので、あしからずご了承ください)。

ところで、核については注釈が必要でしょう。平和利用であれ軍事利用(の予備として)であれ、核を押し付けられることがあってはなりません。

わたくしは福島第一原発のような粗悪品が米国から押し付けられたものであり、我が国側で協力したのが讀賣新聞その他原子力村のなかまたちだったということなのか???そんな陰謀説は出鱈目で、第四次中東戦争以降のエネルギー政策を我が国のリーダー達が真剣に考えたうえで、天然資源輸入に依存しない経済体質を急いで作り上げるためには目先のコストが安い原発を増やさざるをえないと苦渋の判断をした結果だったのか???判断するにじゅうぶんな情報を持っていません。

いっぽう、軍事目的ということでは、核か地上戦かという究極の選択をせまられている現代国際社会では自ずと結論が出ています。地政学上の緊張という点では、中東と極東では大差がないにもかかわらず、なぜ北朝鮮はシリアやイラクみたいになっていないか、よーく考える必要があります。

もっとも、フランスのように、核を保有していても、自爆テロには無力である点は留保しておかなければなりません。

義務と権利がさかさになった集団的自衛「権」を押し付けられるまえに、不平等条約の最たるものである核拡散防止条約のタブーが取り払われるまえに、憲法改正(憲法第九条)問題を論ずるのは亡国そのものでした。ドナルド・トランプ氏の核抑止論を大いに参考にして、議論を振り出しに戻すべきなのです。

「パナマ文書と円高」について、稿をあらためます。そのうえでいま、アベノミクスが葉桜状態だと揶揄されようと、この3年間のアベノミクスは経済学上も大きな意味があったことを書くつもりです。前パラグラフで亡国と書きましたが、安倍内閣は何も、好きで嫌われて、安全保障問題に取り組んだとは思えません。先述のカダフィ政権みたいな長期である必要はないですが、安定政権の扇の要だと思ってもらえる状況下で、安倍晋三=ドナルド・トランプ会談が実現したら、歴史が変わるかも知れないと、まじめに楽しみにしています。

2016年4月6日水曜日

ロシアも日本も自国通貨建て国債に依存している限り国家破綻はありえない

アベノミクスが剥がれ落ちてきそうなきょうこのごろ。タイトルを含む3つの予想についてきょうから検討していきます。3つとも、財政学や金融論で異論駁論の絶えない言説です。

Ⅰ.主権政府は、国内通貨の国債等に依存しているかぎり、倒産しない。

直感的には正しい。が、正しいにしても、

法定通貨=不換紙幣であることに加えて、固定相場制に組み込まれていない(少なくとも好きなときに離脱できる)ことが必要だと思います(例:ギリシャ2015においては、通貨ユーロをギリシャにとって自国通貨だが固定相場制から離脱できない不換紙幣だった)。

以下、直感を検証していきます。

倒産、破綻の定義について。

①債務不履行(弁済能力がない場合)
②債務不履行(弁済能力はあるが弁済意思がない場合(※))
③金融支援(私的整理)
④(債務不履行は起こしていないが)利払を含めた累積債務額が発散することにより実質破綻

を区別することは議論の精緻化のためには必要。この点、ロシア1998については、①または②に該当したのは何と自国通貨建て債務であった(※直感を信ずれば、①はありえないことになるので、②だったか???)キリエンコ首相(代行当時)に真意を聞く必要あり。

これらを踏まえても、財政ファイナンス(中央銀行による自国国債の買い切りオペ)が可能であれば、理論上、①は発生しないと考えられますが、②、③、④が発生しうるという点では外国通貨建て債務と同じ。

さて、財政赤字で『破綻』の恐れがある場合とない場合とをどこで線引するかでいくつかの伝統的な考え方があります。
(1)建設国債はOKだが特例国債はNG、
(2)市中消化はOKだが中央銀行消化はNG
(本論にあるように中央銀行消化(の選択肢を残しておくこと)こそが重要だという考え方も)
(3)徴税権(や「預金凍結」権や「外貨預金外貨送金制限」権)の及ぶ国内消化はOKだが外国債は(自国通貨建てでも)NG
(4)外国債でも自国通貨建てならOKだが外国通貨建てはNG
(5)発行代金の資金使途を問わず、国債の引き受け手を問わず、自国通貨建てかどうかを問わず、現役世代と将来世代の間の所得移転のパラメータが十分大きければ(コーナーソリューションが起きていなければ)OK=中立命題、



等です。このような百家争鳴の議論において、『破綻』が何を意味するのか?国際私法上の債務不履行の定義(definition)①∨②が問題となっているのか、格付機関ごときの同定義①∨②∨③それに限定(define)せず累積債務の発散をも含めているのか?取り決めが必要でしょう。

ここでは、財政赤字が発散しても、議論は収束させたいので 笑、
「①さえ回避できれば良い。そのためにも、発行代金の使途、引き受け手、は問題とならず、中央銀行による(無制限の)引受という選択肢と、自国通貨建て(に限る)発行ということが条件だ」という命題を検討することとします。

・・・確かにこれは十分条件のように思われます。ただし②③④を回避する必要条件ではありません。さらに、1998ロシアは①ではなくて②だったと言い切れるかどうか問題は残ります。

・・・では必要条件でしょうか?直感的にはそうなのですが、②③④の状態だが①の状態ではない国の通貨価値は限りなくゼロに近いかも知れないが正の値であってゼロではないのであれば、外国通貨建て債務を自国建て債務に借り換えさせるに十分な大きい(が無限大ではない)額の中央銀行引受が可能だということになります。つまり、財政ファイナンスが好きなだけできるという前提であれば、累積ソヴリン債務が自国通貨建てかどうかは五十歩百歩(五十歩一億歩かも知れないとしても)ということです。

2016年3月2日水曜日

【特別寄稿】ロンドン市場を牛耳った男がこっそり語る!?EU離脱のホンネとタテマエ

こんにちは。Win-invest Japan杉田勝です。

きょうは、アヴァトレード・ジャパンの丹羽さんから、イギリスのEU離脱問題について書いてくれと頼まれた。七転び八起きブログの読者のみなさんも気分転換のつもりでお付き合いください。

一匹狼でヘッジファンドのマネージャーをやっていたのがイギリス時代です。わたくし個人の力量と責任で現地のファンドから資産を預かって運用指示をしてその成績だけを頼りに報酬をもらっていた時代です。成績が良ければ報酬もいただけて、ファンドの資産も成長します。逆にいくと報酬ももらえない、資産も減る、出金も増えるという、ジリ貧の連鎖になります。

いまも助言の仕事にたずさわっていますが、当時は外国ということもあって、また食うか食われるかという環境だったので、いまよりも緊張を強いられていたかも知れません。

しかし、イギリスは金融こそメジャーリーグ、いやプレミアリーグという感じですけど、それ以外はのんびりしているんです。電車が1分遅れただけで車掌さんが「まことに申し訳ございません」と繰り返す東洋の島国とは大きく違います。あちらの島国は、10分、20分遅れは当たり前、そのうえ運行取りやめになってもお詫びなんて一切なく、運転中止が決まっても、待ちくたびれていたはずのホームのお客さんは不平不満なくその場を立ち去って行きます。

イギリスは一事が万事こんなです。電車だけじゃないんです。普通は古いアパートにしか住めないので、壁やら床やら配管やら、あちらこちらに不具合が出ます。それを直すのに職人さんを頼んでも時間どおり来てくれないのです。すっぽかしもあります。

まあ、電車が止まっていたからかも知れませんが・・・

しかし、、、、、、

東ヨーロッパから出稼ぎに来ている労働者や職人さんたちは、良く働くのです。日本人なみに時間にも正確で、てきぱき仕事をこなします。仕上がりもバツグンです。

これは、ポンドとユーロという通貨の違いこそあれ、東ヨーロッパ(わたくしがお世話になった配管工はポーランド人でした(^^ゞ)もイギリスもEUという枠組みで、ある程度(※)統合化されているからなのです。

でも、これって貿易摩擦とちょっと似てますよね?「安くて良く働く移民のせいで仕事を奪われた」と不満タラタラのアングロサクソン労働者がいっぱい居るわけです。

グローバル化の行き過ぎ(?)で失業したり生活水準が切り下がったりした先進国の国民からの得票を狙おうとう政治家が出てきます。イギリスでBREXIT旋風をいま巻き起こしているのは、なんと政権与党である保守党出身のロンドン市長であるボリス・ジョンソンなのです。野党は、労働党も、スコットランド国民党もEU残留を主張していますから、保守党党首で首相のデーヴィッド・キャメロンは、板挟みのなか、EU改革と国民投票を取り付けているということになります。


いままさにアメリカではスーパーチューズデイで、台風の目どころでないドナルド・トランプはいわずもがな、民主党はヒラリー・クリントンもバーニー・サンダースも、似たり寄ったりの内向きな政策を繰り返すようになりました。

もう、誰が米国大統領になっても、米国はTPPに参加しない、、、まるで第一次世界大戦後の国際連盟みたいに、枠組みを作っただけで自国は入らないという可笑しなことになりそうです。

イギリスの話に戻ると、イギリスはEUに入っていることで、EU政府に毎日(毎年じゃないですよ)55百万ユーロもの経費を支払わなくてはならないのです。これはもちろん、ドイツやフランスも払っているのですが、こうした経費が、南欧諸国など貧しい国々に移転されていると考えられていることなどから、国民の多くがEU残留反対という声を上げているらしいです。

「だから、、、、イギリスポンドはどうなるの???」あー、そうでした。わたくし杉田は、ポピュリズムによってEU離脱、つまりBREXITが決まる可能性濃厚と見ています。ただし、6月までの間に、EU改革での駆け引きやら、デーヴィッド・キャメロンとボリス・ジョンソンの妥協やら、いろいろな進展でポンド相場は振り回されるでしょう。《EU離脱が遠のくニュースで戻り売り》これを繰り返すのが手だと思っています。
(win-invest Japan取締役会長 杉田勝)

2016年2月24日水曜日

無人島の二人の男性は、その後どうなったのか???

>けんかはしないが、協力もしない。

と書きました。しかし、

>協力はしないが、餓死したり凍死したりするのを放ってはおかない。

という前提も加えて、その後もまだふたりともがんばって猟や漁にはげんでいることとしましょう。

>いっぽうの男Aがもういっぽうの男Bよりも仕事が早かった、かつまたは仕事をがんばった。そのために、男Bは男Aから家の軒先を貸してもらい、肉や魚をもわけてもらった。

とも書きました。厳しい大自然に、人間ひとりやふたりで戦っていく「社会」ですから、ジャン・ジャック・ルソーの「人間不平等起源論」や、ルイス・モーガンの「古代社会」、フリードリヒ・エンゲルスの「家族・私有財産・国家の起源」に描かれているような原始的で素朴な人間関係であったかとも思います。

困ったときは助け合うのが基本。

>家賃を払え。ツケでもいいが無銭飲食は許さん。さもなくば死ね。

というのは、もうちょっと人数(人口)が増えて、自然の脅威に対峙するための最低限のインフラが出来てきてから、だったのかも知れません。

そのインフラの起源としてひとつ考えられるのが、この無人島の例では、

>男Aが男Bよりも力持ちで、原生林を引っこ抜いたり、野獣と取っ組み合いして勝てることが多かった。

という、仕事の「量」の違いではなくて、

>男Aは、「急がば回れ」で、原生林を薙ぎ倒すまえにまずは鋸(ノコギリ)をこさえた。動物や魚を素手で掴まえるのではなく、まず槍(ヤリ)や銛(モリ)をこさえた。

男Bは、そうしなかった。そうする知恵がなかった。ということで、仕事の「質」の違いがあった。


川から砂鉄を集めて、森から木を集めて、火をふんだんに焚いて鋸や槍や銛の尖端部分を作るのはたいへんな労力と時間が必要なので、素手による伐採と狩猟(漁)とを並行しなければ餓死するでしょうから、このあたりは「協力しない男2人モデル」では無理があります。

「急がば回れ」の知恵を授かり、社会の仲間にその知恵を授け、分業をも提案し、インフラを作る。これができるひとがリーダーと呼ばれ、豪族、貴族、王族(しばしば宗教的指導者を兼ねる)として支配階級を形成していったのでしょう。

男Aが披露した超過生産力や道具は、男Bにとっては、レンタル料や家賃を払ってでも使いたくてたまらないものです。

レンタル料や家賃は、現代の経済社会でもそうですが、金利や利息と置き換えられます。ただし前者には減価償却費相当分や陳腐化リスクに対する保険料相当分のほか場合によってはメンテナンスに関する手間賃が含まれます。


というのが前回のお話でした。

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このような単純極まりないモデルであっても、経済学の学説史に名前を連ねる学者(???)の間で、
①価格とは何か?(食べ物や材木の取引条件)
②金利とは何か?(道具の取引条件)
③価値とは何か?(①②の数値の正当性の検証)
という根本的な問題に対する見解が異なっていたのです。

それをひとくちに、古典派経済学は労働価値説を採用しており、代表的な学者として、アダム・スミス、デビッド・リカード、カール・マルクス、、、、、、などと要約されてしまうと、かえって簡単な道理が複雑になってしまいます。

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先に(最初に)、鋸などを開発した男Aは、それを喉から手が出るほど欲しがる男Bに対して、好きなだけ金利相当分をふっかけることが出来たでしょう(ふっかけなかったかも知れず、それは男Aの自由です)。男Bは食うものにも困っていたと前提しましたが、野宿しながらも何とか狩猟はできていたとするならば、槍や銛を手にすることで、一日あたり、今日までの3倍の魚が取れると思いきや、今日までの一日あたりの捕獲量の1倍から2倍のあいだなら、甘んじてレンタル料を払おうと思うでしょう。

現代の世の中から冷静に見ると、この利息はぼったくりのようにも見えますが、当時としてはこの利息は、男Aに授けられた知恵と労働(≒勤勉)に対するまっとうな評価であり対価です。


※知恵と勤勉を含む
※※捕獲された動物や魚、切り出された木

つまり、木こりとして猟師または漁師としていままさに汗を流している男Bの労働だけが付加価値なのであり、最終財の価格として実際には上乗せされて当然の、道具のレンタル料は、付加価値ではない。と、考察しています。

道具(固定資本)を活用する前も後も、産み出された結果である肉や魚や材木は100%労働のたまものであること自体は、以上の説明からあきらかであり、「価値を生み出しているのは労働である」という段階においては、労働価値説も正しそうです。

そして、労働価値説を採用することが、必ずしも金利(または金利が核心部分を構成するレンタル料や家賃など)が正の数となることと、矛盾はしないようです。

しかし、

>労働が価格を決定する。

>労働だけが付加価値なのだから、価格(※)との差額があるならば、それは利息のたぐい(※※)の不労所得である。

※流通価格や交換価値
※※この場合は、レンタル料、家賃に加えて、地代や配当を含めても良いでしょう

とまで主張されると、果たして絶対普遍の真理かどうか疑わしくなります。

カール・マルクスが資本論執筆のために大英博物館に通っていた頃のロンドンは、産まれた時点で貧富の差が激しく、乗り越えられない階級の壁があり、壁のこちら側はワーキング・プアしか居ない状態だったかと思われます。片目で非人道的な現実の絵を、もう片目でアダム・スミスとリカードの書物を見たカール・マルクスが、かなり無理をして剰余価値学説を捻り出したと読むこともできそうです。

>男Aという知恵者が居たわけですが、男A+という更なる知恵者が居て、男A+は独立して更に高>性能の道具を作っていた。開発には余計に時間が掛かったものの、男A+の道具が発表される>と、もはや男Aの道具はだれも使わなくなった。

としましょう。

この場合、男Aは男Bからのぼったくりリース料は数日分しか稼げず、男Aが道具開発のために費やした砂鉄収集に始まる鉄器づくりにかけた労力(その間できていたはずの狩猟採集活動という機会費用)は、おそらく取り返せなかったことでしょう。

男A+が三人目の男として加わった無人島モデルでは、男Aと男A+のふたりが私有財産を持っています。男Bは私有財産を持っていません(道具も住居も賃借している無産階級=プロレタリア)。AもA+も等しくBを「搾取」できるわけではなく、固定資本の開発の良し悪しで、「利潤」がプラスにもなれば「マイナス」にもなる。これまたAやA+の労働次第なのである。ということが言えるのです。

✡✡✡✡✡✡

さらにすっとばすと、労働価値説と相容れないとされている限界効用理論(※※※)でも、少なくとも長期的には利潤率(利子率)は(機会費用を考慮するとゼロに)収斂するということが導かれます。


が、たとえ長期的にでも、利潤率(利子率)は一定とならないという、キャピタリストの知恵比べこそが現実の資本主義のダイナミズムです。

ここを見逃している点では、カール・マルクスも同じだと言いたくなります。とは言え、限界効用理論や新古典派経済学が前提とするような理想的な資本主義というのは、IT革命後、規模経済(限界生産性逓増)が成り立たない産業が増えつつある今日ですらまだ実現していません(超大国にITベンチャーが集中しているのをどのように考えるべきか???)。ましてや産業革命から世界大戦間までの先進資本主義諸国は、限界効用理論や新古典派の理想からは程遠い歪な資本主義が大手を振るっていたと考えられます。

オーストリア・ハンガリー帝国は例外だったのかも知れません。

※※※わたくしは労働価値説と限界理論が相容れないとは思っておらず、この解決が、このブログのこの先の課題です。


2016年2月19日金曜日

マイナス金利とマイナンバー制度

「安心してください。はいってますよ。」

来週の月曜日は何の日だかご存じですか?

年に二回、普通預金の利息が受け取れる日です(※)。

黒田日銀のマイナス金利導入を受けて、メガバンクのなかでは、まず三井住友銀行が普通預金金利を0.020%から0.001%へ引き下げると発表しました。

受け取れる利息が、いっきょに20分の1になるわけですが、よほどのお金持ちでかつよほどものぐさなひとでなければ、もはや気にするひとは居ないでしょう。

普通預金金利0.001%というのは、2月と8月に利息を1万円もらうためには、預金平残で20億円必要だということです。

マイナス金利ということで、個人の預金の金利もゼロどころかマイナスになるのではと心配したひとも、去る1月29日の日銀金融政策決定会合の直後のヘッドラインニュースだけを見た瞬間は少なくなかったと思います。

そのような世相に反応して、メガバンク中心に、預金金利を下げることはあってもマイナスにすることはない、との告知もされました。

とりあえず、来週の月曜日には、主な銀行の普通預金口座には、1万円以上の平残があるお客さまに限って、1円以上のお利息が、はいっていることになります(※※)。

※三菱東京UFJ銀行と三井住友銀行(2月と8月の第三土曜日または日曜日の翌営業日)。みずほ銀行は不明(当行所定の???)。ネット専業銀行のなかには、独自のルールあり(例:ジャパンネット銀行は毎月第一営業日。もはや気にするひとは居ないでしょうけど、年間で利息を受け取れる回数が多いほど孫利息がつきやすいので預金者有利です)。

※※復興特別所得税を含む源泉所得税と利下げ分を無視した概算。なおメガバンクの普通預金約款では平残1000円単位で付利されると規定されているが、0.200%未満の金利では平残千円では利息は1円未満になってしまう。

鬱陶しいだけで片付けられてはいけないマイナンバー制度

ところで、マイナス金利は、ほんとうにリテール市場には適用されないのでしょうか?

マイナス金利が「B2B」(中央銀行と市中銀行の間、市中銀行と市中銀行の間)では適用されてしまう理由は、B2Bの参加者はタンス預金ができないほど預金残高が大きく、現金輸送車を毎度使えないほど決済金額の規模が大きいことです。

だとすると、B2Cには適用されない。悪くてもゼロ金利だ。安心してください。で済ませられるでしょうか?

たぶん、安心して良いと思われますが、次のような社会設計を想定できないでしょうか?

①現金(紙幣と硬貨)を廃止する[期限を定めて銀行や電子マネー発行会社(※※※)に(再)預け入れしないと無効になる(通用しなくなる)]
②フィンテック革命により、どんな小さな商店でも飲食店でも、クレジットカード、デビットカード、または電子マネーの決済を受け入れる無償のリーダーライターが使えるようになる。
③マイナンバー制度の徹底により、利息は当然として、給与、家賃、地代、配当などの所得はすべてマイナンバー紐付け口座に振り込まれる。

個人法人問わず、①と③だけで、収入と支出を網羅してその結果、税務関係年度末の残高と合致するということが可能となりますが、②をマイナンバーカードと紐付けることで正確性が担保されるでしょう。

わたくしが国民総背番号制度推進派だったとは意外だと思われたでしょうか?しかし決してこれは税務署の手先だということにはなりません。ここまでやると、確定申告がほとんど必要なくなり、税務署の作業も相当程度リストラされることが想像できると思います。国税、地方税だの、申告所得と源泉所得だの、税と年金保険料など、二重三重行政が横行しているがゆえの馬鹿馬鹿しい行政コストに対して一気にメスがはいるというものです。

しかし、きょうの本題はそこではなく、このような制度設計が万が一実現すると、B2Bだけでなく、B2Cでもマイナス金利が実行可能になりませんか???という問題提起でした。

※※※銀行と同様、マイナンバーとの紐付けが義務化されていると仮定します。日本円の金融政策に絡んでの考察を続けているので、当面ここでは、円建て電子マネーだけとして、ビットコインなどの暗号通貨は検討の対象外とします。

「倹約は美徳、浪費は悪徳」をケインズは否定したけれど・・・・・・

閑話休題、日銀の政策金利は別としても、民間の市場の金利というのはゼロ以上であってたいていはプラスである。つまりおカネというのは借りたひとは貸してくれたひとに報酬をはらわなければならないというのは、常識です。上記のようなマイナンバー制度+タンス預金禁止法で、個人(や法人)のおカネの収支と残高がガラス張りになってしまうまでは、「マイナス金利になったら即タンス預金だから」、で納得できました。《技術的に非負制約があろうがなかろうが、金利というものは非負である》という常識をどのように説明したらよいでしょうか???

わたくしが30年前に読んだ、Fischer=Dornbusch共著Economicsは、新古典派経済学の王道らしく、供給と需要の両面からこのことを説明していました。

供給側とは貯蓄する側。本来ひとというものはいま使えるおカネをすべて使ってしまいたくなるものだが、辛いけれども我慢して使いきらないように努める、これすなわち貯蓄なので、その辛さ、我慢に対するご褒美である、と。

需要側とは(消費または)投資する側。(明日まで我慢するという苦痛に比べれば、可処分所得を超えた消費を、今日、するために払わなければならないペナルティの苦痛のほうが少ない。または)将来利益を出せる投資機会があるので、利息(<将来利益の見込み額)を支払ってでも先立つモノを用意したい、と。

節約に対するご褒美=(浪費に対する罰金または)外部負債の調達費用≠<(消費機会の機会費用=我慢の苦痛または)投資機会の機会費用(投資から得られる見込み収益)

という説明には説得力があります。しかし、金利は資本への対価なのだから、不在地主に支払う地代と同様、不労所得であって、人倫にもとる、という考え方は、古来、多くの国家(※)や宗教(※※)を支配してきましたし、カール・マルクスはこれを労働者から搾取した剰余価値だと糾弾したわけです。

賃金の鉄則という考え方があります。労働者階級は失業者(のプール)がある限り、競争を通じて、生活を続けていくためにぎりぎりの報酬条件での雇用に甘んじざるを得ないというものです。カール・マルクスが敵対視していた社会主義者フェルディナンド・ラサールによって打ち立てられた説とも言われますが、同じくカール・マルクスが批判したまたは批判的に継承したデヴィッド・リカードやトマス・ロバート・マルサスもこの鉄則に寄り添って自説を展開していることはおおいに強調されるべきです。

「不労所得は法や道徳に反する」「労働者階級はこれ以上節約できない(一銭足りとも貯蓄できない)環境に置かれている」というのは主義主張としてはおおいにありえますが、これと、労働価値説(商品の価値は投下された労働(力)そのものである)という考え方と同じものでしょうか?

※キリスト教が公認されて以降のローマ帝国では、ユダヤ人がキリスト教徒を奴隷として使用できなくなり、また利息について契約で定めることもローマ法大全により強制的に非合法とされたようです。

※※フェニキア人などセム族は全般に利息行為を認めていた中で、ユダヤ人だけ例外で啓典の民(その後キリスト教徒が排除される時期あり)同士では有利子の金銭貸借は認めていなかった。実はイスラム教の利息禁止の原典はここにあるようです。

湯浅赴夫著「ユダヤ民族経済史」など

また極端なたとえ話です。無人島にふたりの男が流れ着いたとします。男女でも良いのですけど、ややこしいので男ふたりとします(差別目的ではなく性的少数派問題は捨象します)。サバイバルのために衣食住を整えていかなくてはなりません。さらに極端な仮定を。このふたりは喧嘩はしないが協力もしない。めいめいが狩猟したり狩獵したり家をこさえたりします。どんな仕事でも能率や成果には差が出てくるものです。一方の男がもう一方の男よりも仕事が早かった、かつまたは、より長い時間、かつまたは一所懸命まじめに仕事をした。結果、家を先に建てることができた、かつまたは、自分の消費量(可食量)という目標を超えて鳥獣魚介をつかまえることができた。。。。。。

仕事のできる男は、飢えに苦しみ、雨露をしのげないもう一人の男に対して、余った食料をさしのべたり、軒先くらいは貸して、野天よりは快適に寝かせてあげようとするでしょう。

家族、私有財産および国家の起源

このふたりは喧嘩はしないが協力もしないという前提では、仕事のできる男は、食料のお返しプラス御礼(消費者ローンの元利払い)と、軒先貸しの御礼(家賃または住宅ローンの元利払い)を条件に、生死の境にいる他人を助けることになります。

わかりやすさのために、男ふたりと少人数を前提したので、この手の人助けは無償で行われるものではないか(原始共産制のような世界)と突っ込まれるところです。それでも、人数が何人に増えてもこれから申し上げる結論は変わりません。無人島に辿り着いた第一世代の男たちの間で生じる利息や家賃は、平均(?)よりも仕事を早く済ませたひとが平均(?)よりも仕事を早く住ませられなかったひとからもらうということで発生していて、その源泉は労働にほかなりません。

無人島なので、土地に関しては無主物先占であり、不在地主にとっての不労所得としての地代はありえません。また第二世代への相続贈与もありませんので、裕福な資本家の子供に産まれたがゆえの不労所得もありえません。若干極端な仮定を置いてはみたものの、既得権によって発生する地代(リカードの差額地代を含む(?))は発生せず、労働のみが価値を持ち、それでも金利や家賃は発生するという社会モデルがあることを示しています。

まとめると、

「金利がプラスであってはならない」という旧約聖書(モーゼ五書)やカール・マルクスによる非難と、労働価値説の枠組みは、別々である。労働価値説の枠組みにおいても、金利や家賃など一見不労所得に看做されるパラメータがプラスになりうることは、互いに矛盾しない。

ということになりませんか?

さらにわたくしとしては、労働価値説と100年以上対立してきた限界効用理論とが無矛盾であることまで言いたいのですが、いわゆる限界革命以前にもその疑問の萌芽があり、デヴィッド・リカードもカール・マルクスも自問自答していた形跡があるこの難問を、そう簡単に解決できるとは思っていません。

マイナス金利とマイナンバー制度と経済学の理論対立の三題噺になりました。マイナス金利がB2Cまで押し寄せる社会モデルによって、ついに人類は、旧約聖書のような世界、原始共産制というユートピアを手に入れることができるのでしょうか?

2016年2月12日金曜日

祝30週年 ビッグマック指数と円高とロシアルーブル安

それにくらべて、七転び八起きブログは、たったの8周年にすぎません。

たまたまですが、ブログを始めた2008年仕事で大きな転機を迎えることになる2012年、そして飲食業から撤退し什器備品を二束三文で放出することになる2016年、この3回だけ、わたくしはビックマック指数を取り上げています。

たまたま夏のオリンピックの年にあたるわけですが、ブラジル経済と為替水準について触れてみようというわけでもありません。

注目する国ははたしてどこでしょうか???

たまたまにしても出来過ぎです。リーマンショック前夜、アベノミクス前夜、そして中国ショック(前夜?)に、外国為替証拠金取引(FX取引)の業界ではほとんど触れられることのない、購買力平価への思いが覚醒してしまうのです。習慣性、周期性、そしてへそ曲がりな性格が原因です。

2008年は、リーマンショックのような量的質的な規模で金融バブル(オーバーシュート)が是正されると予想できたわけでもありませんでした。加えて、金融バブルの破裂、すなわちデ・レバレッジの局面では、例外なく為替相場は購買力平価に収斂する、という予想も外れました。

ユーロ高やポンド高が修正されるという予想は当たりました。が、南アフリカランドは購買力平価に比べて割安すぎるので是正される、もっと高くなる、という予想は大いに外れました。この反省のために必要な《国際金融》についての考察はあえて封印し、《国際貿易》だけを切り口にしてみたいと思います。輸入代金を手形では支払えない(輸出国から直接間接投資を得られない、かつまたは、貿易当事国はいずれの国も外貨準備高がプラスマイナスゼロである)という前提です。

このように、《国際貿易》は自由だが《国際金融》はまったく行われないという前提がこんにちのグローバル経済のなかで非現実的であることは言うまでもありません。

しかし、あえて非現実的な前提から考察することで、常識では見えてこない面白い真実が垣間見えたりするのがまた国際経済学の醍醐味でもあります。

30週年を迎えるビックマック指数は、以下の批判に合わせて、2011年7月分から、「一人当たりGDPで修正した購買力平価」を併記するようになっていました。

「豊かになりつつある中国では、実際の為替相場が購買力平価に収斂していっている」ものの、多くの「貧しい国では、賃金が安いのだから、そのような国の通貨は購買力平価に較べて弱くてあたりまえ」という批判。それを受けて、一人あたりGDP(横軸)とビックマックの米ドル建て価格(縦軸)の、なかなか見事な相関を示しています。

一人あたりGDPを扱った2015年末のブログの通り、気になってしかたがない方も少なくないと思われるので、はたして、日本はいまどれくらいの位置(地位)にいるのか確認されたい場合には、英エコノミストの元の記事でお確かめください。

わたくしは、日本の位置(地位)と同じく、ロシア(ルーブル)のことも気になって、ロシアの位置にマウスオーバーして記事のスクリーンショットをとりました。なので、横長の長方形で、ロシアの一人あたりGDPが12,718米ドル、ロシアでのビックマックの値段が1.53米ドルと表示されるのです。

これは平均的なロシア人は、税金などを無視すると、1年間に、8000個を超えるビックマックを食することができるという意味です。平均的な日本人だと1万2000個近く。一人あたりGDPを尺度とすると最も豊かなノルウェー人は、なんと1万9000個近く・・・・

じつはわたくしがロシアを取り上げようとしたのは、ロシアが最も図示された直線(回帰直線)から下振れている、つまり誤差として見逃せないと考えたからです。

ただし、「一人あたりGDPが低すぎるわけでもない割に、ビックマックの値段が安すぎる」ロシアで、年間可食数量が意外に少ないのは、この回帰直線のY切片が大きくプラスであることが理由です。

わたくしの問題意識をくどくどと説明するために、英エコノミスト誌が用意してくれているグラフィックを活用させてもらいましょう。
この世界地図は、一人あたりGDPを考慮しないビックマック指数です。ロシア以外にも濃い赤で塗られた国々(外国旅行者にとってビックマックが安く買える国)が、南米の一部やアジアの一部に点在しています。








いっぽう次の世界地図は一人あたりGDPを考慮したもの。ロシアルーブルが、購買力平価説の観点で、大きく割安に放置されたままの通貨であり、その他の「貧しい」国々は、貧しさゆえに阻却され、色が濃い赤(上の世界地図)から薄い赤(下の世界地図)に変色(昇格)した。


ところで、わたくしが今回申し上げたいことは、購買力平価説の観点から、

ロシアルーブルに限らず割安すぎるから、長い目で見れば修正されて、上昇が期待できる通貨はいろいろあるけれど、ロシアルーブルだけは「貧しさゆえに割安に放置され続けるだろう」という言い訳が成り立たない数少ない割安通貨である

ということではありません

なぜ、一人あたりGDPが低い国、つまりおそらく賃金が低い国の通貨は、購買力平価に収斂されることなく割安に放置されなければならないのか???という議論です。

自由貿易のメリット(がある場合が存在すること)を説明するヘクシャー=オリーン=モデルでは、資本や労働などの生産要素は交易されないが(二)国間で等しい、生産関数は(二)国間で同一、であると仮定します。この仮定がふたつとも極めて非現実的だとしばしば批判されます。

現実を説明したいのか?理想を説明したいのか?これで経済モデルの評価はおおいに変わってきます。企業家や経営者が真摯に株主(しばしば自分)の利益を極大化したいと思うのなら、、、、、、資本や工場の移転はきょうのブログでは扱わないとしたものの、、、、、、貧しくとも真面目に良く働く発展途上国の労働者に技術を教えて、少ないコストで同量同質の生産販売を実現しようとするでしょう。使えない身内よりは使える他人を、こそがグローバル資本主義のモットーであるはずです。

このように賃金の裁定は、グローバル資本主義の強欲だと貶むべきではなく、フェアトレードだと尊ぶべきところです。現実には、発展途上国なりの事情、

つまり、
>戦争などによる混乱、
>インフラの欠如(最終財にかぎらず原材料や中間財を運搬するために欠かせない)
>教育の欠如
などが、理想を遠ざけます。とは言え、教育については、グローバルな企業家や経営者なら、可能な限り、まずは陳腐化したりジェネリックになった技術からでも移転しようとするでしょう。能力や技術の陳腐化を軽視して自己啓発を怠っていた先進国の中間層が、気がつけば雇用機会を失っているというのは、もはや理想ではなく現実でしょう。

ヘクシャー=オリーン=モデルは、生産要素そのものは交易されないのに「一物一価」であると仮定します。生産要素そのものが交易されてしまうと(例:工場進出、外国企業への投資、移民や出稼ぎなど)、貿易のメリット(※)を必然的または一意的に説明できなくなってしまうという事情があり、それはヒト・モノ・カネすべてが自由に動ける真のグローバル経済とは異なる前提となります。しかし、モノに比べると、ヒトやカネはそう簡単に国境を跨げるものではない(※※)というのも実感と合致します。

※労働力が不足がちな国が、労働集約的な最終財を、資本が不足がちな国から、輸入することのメリット

※※フェルドスタイン=ホリオカ・パラドックス[1980]。ただし、われらがFX取引(外国為替証拠金取引)に代表されるデリバティブ取引が活発になってきているので、資本移転に立ちはだかっている国境は以前に比べると乗り越えやすくなっているという指摘もある(金融市場のグローバル化:現状と将来展望白川方明・翁 邦雄・白塚重典日本銀行金融研究所[1997]

一人あたりGDPで調整されたビッグマック指数から、ヘクシャー=オリーン=モデルが、やっぱり非現実的だと短絡的に烙印を押すのはあまりに惜しい考察です。同時に、購買力平価が(長期的にさえ)成り立たないと諦めるのも同様です。この2つの非現実(=理想)が密接に絡んでいることこそ注目に値します。すなわち、

最終財(例:ビックマック)の一物一価が成り立つ(成り立たない)=生産要素(例:貿易当事国の労働者の賃金)が同一である(同一でない)=購買力平価が成り立つ(成り立たない)

これがきょうの仮説です。これが正しいとすると、さて、ロシアルーブルはいかに評価されるべきでしょうか?


そんなこと言ったって、原油価格の見通しがすべて、ですって?ごもっともごもっとも。




2016年2月10日水曜日

マイナス金利でも円高?欧州の銀行不安と世界経済の減速だけで説明できるのか??

マイナス「金利」とマイナス「利回り」

黒田日銀総裁がマイナス金利を発表したのが1/29(金)。ここでのマイナス金利は市中銀行の日銀預け金の一部に手数料を課すという話。日銀預け金の「金利」は、言わば、1日物金利です。一週間と少し経過し、10年物日本国債の「利回り」までマイナスになってしまいました。

1日物金利をマイナスにすることは銀行間の資金過不足の決済に使われる中央銀行預け金に限れば技術的に難しくなく、ユーロ圏やスイスなどで前例があることは、最近良く知られています。

《マイナス金利は嫌なので、銀行間の資金化不足を、現金輸送車で!》、というわけには参りません。現実的物理的に困難、というか、そのほうがコストが掛かります。

どうでも良い話ですが、わたくしは22歳から23歳のころ、しょっちゅう現金輸送車に載せて、もとい、乗せてもらっていました。

いっぽう、10年物の国債の利回りがマイナスになるというのは、国債という有価証券を持っている人が、毎年(※)受け取る利息の(ざっくり)合計金額よりも、償還損(※※)のほうが大きくなったという現象です。

(※)実際には半年ごとに・・・・・・

(※※)満期保有を前提として、額面をいくら上回って購入してしまったか?


日銀による国債購入は有益ではないが有害でもない???

現時点でのわたくしの仮説としては、

①合理的な理由で、国債をマイナス利回りで購入することができるのは、日銀だけである。

と考えています。裏返すと、

②「マイナス利回りなら手放しても構わない」というのが、日銀預け金への手数料課金を片目で睨みつつ、引き受けたり応札したりする国債を手放すかどうか判断する市中銀行の腹のうちである

ということになります。

②の理屈は、国債売却益が市中銀行にとっての割増退職金(一時的な慰労金)であるという2015年12月29日のブログで解説しました。

①の理屈も、世界の中央銀行制度の歴史のなかでも他に例を見ない巨額(対GDP比でも対発行済国債総残高でも)に膨れ上がった日銀保有国債の時価評価は、日銀自らの購入行動によって、マイナス利回りによって洗い替えされます。マイナス「金利」からは手数料収入が生まれ、マイナス「利回り」からは保有国債の評価益が生まれます。相場操縦とは言いません。日銀は実は国内上場会社のなかでもダントツに好決算を迎えられることは確かです。

いまでは、先進諸国を見渡しても、過去と較べても、最高評価の値段が付けられている国債が、現在もっとも財政状況の悪い政府によって発行されたものであるというのは、とんでもなく皮肉な現象であることを超えて、実感に合わなくはないでしょうか???

実感に合わないこと(※)を、すっきりと説明することこそが経済学の役目です。

リカードの比較生産費説が一例。生産要素の移動が行われない二国間においては、交易対象の二財とも絶対優位の国であってにせよ同国内で比較劣位の財については生産を取りやめて(絶対劣位だが)比較優位の他国から輸入したほうがお互いにメリットがある、と。


内生的貨幣供給論

「量的緩和は円安には貢献したが貨幣供給には貢献していない」という話は、わたくしのブログでもしばしば取り上げて参りました。いまのところ、マイナス金利も同様どころか、円安も一時的であったということになります。このことを、欧州の銀行不安と世界経済の減速(原油安、中東問題、中国・北朝鮮など東アジア問題)で説明しようとするブログやニュースは吐いて捨てるほどあります。へそ曲がりのわたくしのブログでは、バズーカの形や大きさにかかわらず、これまでどおり内生的貨幣供給論で説明可能だというのが結論です。

「内生的貨幣供給論」は決して難しい考え方ではないのですが、はっきり言って、言い回しが紛らわしいです。「内生的貨幣供給論」が非現実的だと批判する伝統的かつ正統派の金融理論のなかに、その紛らわしさの原因があると考えました。

もっとも、伝統的かつ正統派の金融理論が自らのそれを「外生的」と呼んでいるはずもなく、暗黙の了解として、「貨幣供給」(Money supply)が与件として外生的に決定可能だとしているわけです。つまり、

①世の中には金利さえ低ければいくらでもおカネを借りて事業を起こしたいというひとがいるものだ。なので、
②貨幣の供給量(市中銀行の預金残高)は銀行の貸出残高によって決定される。
③ここで、市中銀行は、もともと非金融民間部門から預かった預金(本源的預金)を《元手》に、中央銀行の支払準備率(≦100%)の逆数(※)まで目一杯貸出をするものである。

(※)本源的預金を初項とし(1-支払準備率)を公比とする無限級数

上記③で、中央銀行(日本銀行)の支払準備率が外生変数だ(がそれが均衡数量としての貨幣供給を独立して一意的に決定できるというは一般的には言えない)というところから、「外生的」貨幣供給呼ばわりする理由なのでしょう。

とは言え、「支払準備率」を下げたところで、市中銀行の預金は増えない、という考え方を「内生的」貨幣供給と呼ぶのもまたピンと来ません。どこから内生しているのかというと需要側からなのでそれをなぜ供給というのか素朴な疑問が湧いて来ませんか??>

このような用語の使われ方の原因は、

「モノやサービスであれば、需要と供給が価格による調節で一致したり(ワルラス均衡)、どちらか低いほうに引きづられて一致したりして(マーシャル均衡)、均衡数量となる(それは需要数量でもあり供給数量でもある)という言い方ができる」

のに対して、

「おカネについては、何故か(※)貨幣需要(Money Demand)という言い方をせずに、流動性選好(Liquidity Preference)という言い方をして、貨幣供給(Money Supply)という言い方が、需要と均衡するまえの数量を意味することもあれば、需要と均衡したあとの結果としての数量をあらわすこともあり、ひとつの用語が二通りの意味を持つゆえの紛らわしさにある。」

というのがわたくしの推測です。

それが経済学の伝統なのだからしかたがないと意識するしないにかかわらず、高校レベルの社会科でも、紛らわしい用語を経由して、前提の怪しい乗数理論を教えられているというのは、経済損失です。

高校時代に化学で規定量という用語に触れてなんでこんな言い方するんだろうなと思った記憶があって、いまウィキペディアを調べたら、やはり今日の学習指導要領ではもう使われなくなっているようです。

確かに、内生的貨幣供給論が批判対象とする外生的貨幣供給論(正統派の金融論)では、

①借入需要は金利の上がり下がりに応じて貸出能力に一致するか、または、(常に、借入需要>貸出能力なのであるから)金利によって調整不能だとしても貸出能力に一致する。

よって、
②金利という「おカネの価格」の調整機能が働くと働かざるとにかかわらず、外生的に所与とされる貸出能力(によって一意的に決定される貨幣供給)と一致する。

だから、
③貨幣供給という用語のダブルミーニングを気にする必要はないのだ、

ということになります。経済学史をちゃんと勉強せずに想像をこれ以上ふくらませるのは良くないですけど、上記(※)について、流動性選好は取引需要(国民所得に比例?)と投機的需要(金利に反比例?)の足し算だとして、貨幣需要という言い方が経済学では用いられないのは、取引需要(=借入需要?)だけを意味するのかどうかあいまいだとの配慮があったからなのかも知れません。

などなどという愚痴を聞いてもらったうえで、もういちど、《日銀による国債購入は有益ではないが有害でもない》というブログに目を通していただくと、また見えてくる景色が変わってくると思います。
日本銀行のブタ積み当座預金には意味があるのか?

2016年1月24日日曜日

今よりマシな日本社会をどう作れるか

このような良書が、ジュンク堂書店やアマゾンでは手にはいらないのは残念でなりません。

塩沢由典先生が、アベノミスクの初期段階とも言える2013年5月に書かれた本です(発行・発売=編集グループSURE、2013年7月15日初版第一刷発行)。

おそらくは、車座みたいな雰囲気のなかで、経済学を専門とはされていないものの、世の中の森羅万象について感度の高い先生の知り合いを相手に、経済学の切り口からアベノミクスを中心とする2013年初頭の経済情勢、もう少し翻っては、それまでの【長期停滞】(いわゆる失われた20年)について、口語調で語られています。先生の著書のなかではとっつきやすいものです。

しかし、、、、、、

扱われているテーマはとても重く難儀なものです。語り口が優しいからと言って、容易に理解できるわけではありません。わたくしも付箋を着けながら慎重に繰り返し読んでみました。

【塩沢由典先生と竹中平蔵先生】

驚きました。ご自身では否定されているものの、世間では市場原理主義や新自由主義の権化というレッテルを貼られている竹中平蔵先生とそれほど意見が異ならないという箇所がいっぱい出てきます。

塩沢由典先生が、伝統的な経済学に対して批判的な立場で一貫して研究活動をされてきたこと、おそらくまったく、政官界との距離感は異なることに鑑みれば、新鮮な驚きです。

ところで、竹中平蔵先生が、どんなに政官界に近いとは言え、氏が繰り返し主張する「正社員という制度そのものを廃止すべき」という雇用のあり方の見直しは、氏が一番近い自民党はもちろんのこと、労働組合を捨てきれるはずのない民主党、、、(中略)、、、共産党まで、日本の既成政党でひとつとして政策に掲げているところはありません。

せいぜい、同一労働同一賃金までであって、これ以上に踏み込んだ既得権打破を訴える政党は、ひとつもないのです。

さて、以上をプロローグとして、「今よりマシな日本社会をどう作れるか」の論点をわたくしなりに5つにまとめると、

①アベノミクスは安倍のミックスである
②1991年以降の長期停滞の要因分析
③中国という十数倍もの「賃金格差」かつまたは「労働生産性」を持つ国が日本の(自由)貿易の相手方になるかぎり、日本の中間層の賃金を下げない経済政策がありうるのか?
④高福祉高負担でも経済成長を可能としたスウェーデン・パラドックスは日本でも応用可能なのか?
⑤日本でアメリカ(のシリコンバレーやイスラエルのヘルツリア)のようなベンチャー企業群、ベンチャーキャピタリストが育てられるのか?

①は、第一期アベノミクスの最初の2本の矢「金融緩和」と「財政出動」が一貫性のある経済理論からは意味不明であるという話。まず「金融緩和」についての意味と無意味については、このブログで再三触れてきたところです。つぎに「財政出動」については開放経済かつ変動相場制では(財政出動による有効需要の増加は純輸出の減少で相殺されるので)無意味とするマンデルフレミングモデルについて触れられています。

わたくしはマンデルフレミングモデルのような中立命題っぽい議論が個人的には趣味なのですが、これが現実にいまの国際貿易や国際金融のなかで成り立つかどうかは深く議論をしなければならないでしょう。ここでは深掘りされておらず、むしろ②以下の論点こそ、この著書の真骨頂だと思っています。

②では塩沢由典さんは5つの要因を列挙しておられます。わたくしがいちばん注目したのは、日本経済いや日本社会がキャッチアップ(さえすれば成長できていた)ステージからトップランナー(にならなくては成長を続けられない)ステージに変質したという指摘です。言い換えれば「成功の罠」の問題です【p35~p37】。

なんとなく世の中全体としてバブルの崩壊(バブルを作ってしまったこと、かつまたは弾けさせてしまったこと)とその後の対処の悪さが長期停滞のダントツの原因だと思われているところがあるなかで、この指摘は目から鱗です。

【にんにくも石炭も掘れないわけではないけれど・・・・・・】

さて、いよいよ核心部分の③と④について。。。。。。

いまでも近所のスーパーに行くと、国産のにんにくが1個100円で、その隣に中国産のが10個100円で売られていたりします。

2013年に塩沢先生が同著を上梓されたころと、中国経済が崩落しはじめている現在とでは、にんにく以外の財やサービスの価格差は多かれ少なかれ縮んできていると思います。

とは言え、保護貿易や鎖国という禁じ手以外の方法で、農業やホワイトカラー中間層など、多かれ少なかれ既得権を有する労働者の賃金を守る、または増やす、なんてことができるのでしょうか?

塩沢先生はこの本の真骨頂である「サービス経済化」を提唱する【p68~】のなかで、

「日本の農業人口が60%(1920年代)から3%(2012年)に落ちたのは、農業の生産性が落ちたからではなく、むしろ非常に大きく向上したからだ。」

「製造業でも同じことが起こりつつある。。。が、日本の生産性(の向上)/賃金の高さ<<中国(や韓国)の生産性(の向上)/賃金の低さ」

「鉱(山)業の従事者の減少は、別の論理。鉱山が枯渇したから。」

サービス業以外の雇用の減少について、農業と製造業は理由が似ている(が製造業については国際競争にさらされている)。鉱業は理由が異なる。という整理です。

賃金と労働生産性の(A)時系列での変化と(B)横断面での絶対水準の国際比較が入り混じっていてやや複雑です。

【どうして賃金を上げないのか?】

塩沢由典先生は、p105で、「この20年間、日本の経済は確かに低迷しているけれど、私は労働生産性が落ちたとはけっして思っていません。むしろ上がっている。ですから、それに相応するだけ、賃金を上げるべきだし、それを上げないのは、経営者が逃げているのだと思います。」と述べます。

これは上記(A)だけからは導き出せますが、(B)との両立は難しいと思われます。

p117では「鄧小平が出てきて、改革開放ということを言い出すまでは、大々的に海外との取引をすることは少なかった。ところが突然どんどん貿易を自由化してゆく。。。。。。世界経済に占める中国という存在が大きく変わった。中国と日本では、賃金が平均で何十倍もちがっていたし、都市部の給料だって、20倍くらいちがった。いくら粗雑で仕事の仕方が悪いと言っても、文明を持った国民なんだから、それだけ賃金が違えば当然競争力は持てる」と。

ここは上記(B)から帰結する話です。

わたくしの考えは、、、、、、新自由主義と言われようと言われまいと、(A)より(B)を優先せずに、民間企業が国際競争を勝ち抜くのは不可能であるということ。ただし、ただいま多くの日系企業が中国現地生産の出口を模索するという局面にあり、実は出口がない(「工場もノウハウも全部置いてゆけ。」と命ぜられ換金できずにいる)という、標準的な資本主義国家ではありえないような理不尽に直面している経営者が多いこと。ゆえに、統計上の賃金と生産性だけから国際分業を論じるほど現実は簡単ではない(よって日本も捨てたものではない)ということを指摘しておきたいと思います。

【スウェーデン・パラドックス】
④について。塩沢由典先生は「道州制でいろいろ試してみてもよい」【p111~】で、
「ミュルダール夫妻がかいた本が基礎となって、スウェーデンの社会民主党の政策は形作られた。それが受け入れられて、スウェーデンの戦後の体制が生まれてきた。こういうのは、やはり、スウェーデンが今でも人口900万人程度の規模だから可能だったんでしょう。」

これは、わたくしの記憶が間違っていなければ、竹中平蔵先生がNHKの「日本の、これから」で年金問題を討論したときにまったく同じことを指摘されていたと思います。

人口がある程度以上大きい中央集権国家で国民負担率の高い制度を実現すると何となく動脈硬化を起こしそうなイメージはあります。しかし、塩沢由典先生が別の箇所【p92~】で述べられているように、平均的な日本人が抱いている《高福祉国家=労働者の既得権が高い制度》という思い込みを排除することこそスウェーデン・パラドックスを解き明かす鍵だと思うのです。

つまり、

「日本の場合には、企業はいったん正規雇用をすると、基本的には定年退職まで解雇しないことになっていますね。そうすると、衰退産業は、無理しても雇用を維持しなきゃいけない。。。。。。日本の終身雇用は、ある意味で社会保障の一部でした。。。。。。スウェーデンの場合、、、、、、、例えばある企業を解雇されたら二年くらいは大学に入り直すことができる。基本的には学費と生活費を出してくれる。。。。。。」

是非、七転び八起きブログの読者のみなさまには塩沢由典先生の「今よりマシな日本社会をどう作れるか」を手にとって読んでいただきたいので、これ以上の引用は避けますが、やはりわたくしはこの雇用慣行の抜本見直しを伴うセーフティネットの充実が日本の閉塞感を打破する鍵であり、1億人を超える社会でも実現不能ではないと考えています。

しかし、繰り返しになりますが、正社員制度を廃止しようという政治家はひとりも居ません。

最後の⑤のベンチャーが育たない理由も、半分は上記④の病巣で説明できると思います。ただし、それだけで、日本にグーグルやフェイスブックやアップルのような企業がどんどん産まれ育つとか、シャープや東芝がインテルみたいに生まれ変わるなどとは思っていません。正月元旦のテレビ朝日朝まで生テレビで自民党の山本一太先生が「日本にはシリコンバレーの真似は出来ない」と発言していましたが、誰も反論していませんでした。