2021年9月10日金曜日

バイデン大統領版のワクチンパスポート

日本時間で本日の未明、米国のバイデン大統領は、過去最強のワクチン接種率改善策を発表しました。従業員100名以上の企業経営者に、従業員へのワクチン接種または週一の検査を義務化し、違背した場合には1事案あたり罰金1万4000ドルなどと報じられています。


先ほどまで、私の横で焼き魚定食を食べていたイギリス人の科学者は「バイデンは遂に気が狂ったか?」とつぶやいていましたが、それはさておきます。


以下私見ですが、バイデンのこの動きの背景は二つあると考えます。ひとつは、支持率の急速な低下、もうひとつは感染状況の再拡大です。


支持率は、前回のメーリングリストで話題にしたアフガン問題がきっかけになっています。米ABCというやや民主党寄りとも言われるキー局のサイトで以下のようになっています。

https://projects.fivethirtyeight.com/biden-approval-rating/


このサイトはなかなか秀逸なのです。戦後、トルーマン大統領以降のすべての大統領の任期中の支持率推移を見ることが出来、それとバイデン現大統領のこれまでのチャート(まだ短い)と比較できるようになっています。

戦略の巧拙は兎も角、バイデン氏が起死回生を図ろうとしているという見方はたぶん間違っていないでしょう。

さて、問題は、「ワクチン接種率伸び悩み」が、感染再拡大の根源であるとの決めつけについてです。

これは、日本の現状に照らしても、意見が分かれるところだと思います。冷静に見れば、①ワクチン接種の伸び悩みも要因として考えられるし、また②ワクチンが効かない変異種が(次々と)現れていること(【注意】これがワクチン接種者を回避すべく突然変異が進んでいるからなのか、ワクチン接種が進んでいない地域でむしろ感染力や毒性の強いそれらが発生しやすいのか、まだ科学的な結論は出せていないと言えます)、③変異種に対して効くか効かないかにかかわらずワクチンの効果が当初の期待より長続きしていない、さらには④(上記②③の可能性にもかかわらず、二回目の接種を終えたひとがマスクを外しがちであること)など、複合的な要因が考えられるからです。

新型コロナウイルス感染症の米国の現状【ニューヨークタイムズの無料開放コーナより】

 

さて、どれ(とどれ)が正しいのでしょうか?それを答えるのが今週の目的ではありません。

 

個人的には、②と③の、ワクチンへの過度な期待を修正するべき時期になってきている今に及んで、バイデン氏がむしろワクチンに突っ込もうとしていることにまずは驚いたのですが、そのあと更に驚いたのが、このニュースがもちろん複数の媒体で大きく取り上げられているところ、ニューヨークタイムズとウォールストリート・ジャーナルで読者からのコメントの内容がまったく異なっている点なのです。

 

去年のトランプ対バイデンの大統領選で、米国はますます「分断」したと言われていましたが、コロナによってとどめを刺されたと実感しました。

 

本日10(金)午後4時の時点で、ニューヨークタイムズのほうの記事

BidenAsks OSHA to Order Vaccine Mandates at Large Employers

には320件のコメントが読者から寄せられているのですが、ざっと見ると、バイデン宣言を賛美するものがほとんどなのです。いっぽうで、ウォールストリート・ジャーナルの

BidenBoosts Vaccine Requirements for Large Employers, Federal Workers to CombatCovid-19

には、何と5200件を超えるコメントが。。。さすがにこれは読み通せませんし、正直書き込みのスタイルというかテイストも、こっちまで頭が狂いそうになるクオリティのもので満ちています。ざっと、バイデンを罵る意見は、すべてということはなくて、5割から6割という感じです。

 

ちょっとショックだったのは、バイデンのこの動きを冷静に批判するまっとうなロジックもあろうかと思うのですが、キャッチ―な言いがかりばかりが目立ち、「ワクチン頼みを修正するべき時期に逆行している」という真っ当な意見は、共和党支持者らしいひとたちからはちゃんと聞こえてこない(つまり彼らはマスクもしたくない)という現状なのです。

 

私は、焼き魚定食食事中のイギリス人研究者に、「かくして米国は南北戦争時代へと逆行した」と感想しました。

 

共和党支持者と思しき読者のWSJへのコメントのひとつが「病院を占拠しているのはワクチン未接種者だけではなく肥満体(ゆえ重症化した患者)だ。ワクチンを強制するならダイエットも強制しろ。」

 

民主党支持者と思しき読者のNYTへのコメントのひとつにはこんなのがありました。共和党が強い地域で大勢がマスクをしない自由、ワクチンを接種しない自由、ソーシャルディスタンスをしない自由を謳歌している現状に対して、「1940年代の米国がこんな態度だったら米国は第二次大戦に勝てなかっただろう。1950年代・・・米国民はいまだにポリオと戦っているだろう。1960年代・・・月に行けなかっただろう。」

 

なお、ワクチンの費用対効果を直視したコメントについては、誤情報の可能性もあるとして、WSJ側で削除している可能性(それに対する怒りのコメント=WSJCCPと一緒だ・・・それはないでしょう、とか)。

 

私が十分に公平で偏見がないかどうかは立証できませんが、ワクチンに対して慎重に情報を集め分析を試みている側だと思っています。現状のワクチンの接種直後の副反応や将来の未知のそれらを対価として、十分な効果が得られるかどうかがポイントで、これはワクチン賛成派として有名な数学者高橋洋一さんもYouTubeで繰り返し言っておられます。

 

さらには、前回メルマガでご指摘したワクチンとマスクに共通する「公共性」というのがあります。上記の将来の未知の副反応というところが不気味ではありますが、公共性に照らした公平感ということで言えば、ワクチンを打っていたのに罹ったひとの医療費は(保険+)税金で補償し、ワクチンを打たずに罹ったひとの医療費は自己負担(生理的に打てないひとがいるから例外措置あり)という枠組みは大いにありうると思うのです。ただ、この自然な発想に進まないのは、やはり、何かあるのかも知れないですね。