2023年12月18日月曜日

中央銀行は廃止できる!

日銀ウォッチングもちゃんと出来ていないのに、地球の真裏の中央銀行(廃止?)の話を取り上げる余裕などあるのかというツッコミを受けそうです。
が、先週金曜日に収録し、昨日日曜日夕方(通常より編集に時間がかかったもようです)配信された動画がこちらです。

 是非御笑覧ください。意外と支離滅裂ではないのですが、もともと用意していた手元メモとからかなり脱線した話をしてしまい、また、逆に⑶⑷の部分はほとんどカバーできなかったのが実情です。

以下が手元メモでして、動画をご覧いただいた読者の皆さんの参考にしていただけるとありがたいです。


   実際に中央銀行を持たなかったり、通貨が「ドル」であったりする国はどの程度存在するのか。

   (実例をご存じであれば教えてください)

     自国通貨の発行(通貨発行権)を放棄して外国通貨であるドルを法定通貨とした国の例は、アルゼンチンと同じく中南米だけで、パナマ、エルサルバドル、エクアドルの3例がある。

     特に、パナマは、ドル化の歴史が古いだけでなく、中央銀行を有してない。

     エルサルバドルとエクアドルには中央銀行が残っているが、いずれも政府負債(国債)の買いオペ(引受け)が出来ないなど、制約条件は大きい。この点は、通貨統合してユーロを採用したEU諸国の多く(例:フランス、ドイツ、イタリア、スペイン)の中央銀行と似ている。

     なお、パナパと異なり、エルサルバドルとエクアドルは、米国と同盟関係にあるわけではない点にも注目したい。同様の事例として、ジンバブエ、カンボジア、北朝鮮で法律上または事実上(このふたつの違いは大きいのだが)ドルが流通している点も参考にしたい。

     特に、ジンバブエの事例研究は、ハイパーインフレと経済破綻ということでアルゼンチンと同様なので、ムガベ政権が倒されたあとの、ドル化の経緯について少し話をさせてほしい(時間が許せば)。

 

   “アルゼンチンのトランプ”と呼ばれる、ハビエル・ミレイ氏が新たにアルゼンチンの大統領となった。ミレイ大統領は「中央銀行の廃止」と「通貨のドル化」を唱えていることで注目を浴びている。日本では考えられないような政策だと思うが、その背景は?

   ミレイ氏(すでに今月10日に大統領に就任)が先の決選投票で次期大統領に決まってからの報道としては、メインチャンネルであるDaily WiLLでの朝香先生と白川先生の解説が的を射ている。朝香先生と山根編集長が私と同様リバタリアンであることをカミングアウトしてくれてうれしい。

   ただし、朝香先生の、「アルゼンチンの経済破綻は戦後一貫したペロニスタ政権が原因」というのはほぼ正しいと思うが、きょうはもうちょっと細かく見ていきたい。確かに、アルゼンチンの戦後の政権は選挙で選ばれたものはほとんどがペロニスタ党(ただし同党右派左派の内ゲバは苛烈)だったが例外があり、また他の中南米諸国同様、軍事クーデターが繰り返されそのたびにペロン元大統領やペロニスタは迫害されてきた。そのなかで、1976年から1981年までのヴィデラ大統領政権下(軍事クーデターなどで亡命先のスペインから戻ったペロン大統領とその後妻大統領を事実上放逐)と、1989年から1999年までのメネム政権では、リバタリアンと言ってもよい政策が取られていた。メネム大統領は、リバタリアンとは真逆のはずのペロニスタ党の代表であったにもかかわらず、である。

   したがって、ミレイ大統領としては、以下の教訓を得ていると推察する。つまり

1.     ペロニスタ政策は論外だが、

2.     リバタリアン政策もペロニスタ(ポポリズモ)に隙を与えてはいけない

3.     メネム大統領の❶アルゼンチンペソの対米ドル固定、❷規制緩和、❸民営化は正しい政策だったが、❶については中央銀行を温存したままでのカレンンシーボード制度(香港ドルと同様のドルペッグ)であった。アジア通貨危機とロシア危機に関して、ポポリズムから変動相場への復活という圧力をかけられてしまったことが敗因。中央銀行の廃止は、このような「誘惑」から退路を断つための不退転の政策を意味する。

 

   通貨をドル化してしまい、自国通貨を持たないとなると、金融政策の自由度が著しく低下すると思うが、そのような政策採用する国々にはそれを上回るメリットがあるのか?

   通貨発行権を放棄するメリットが維持するメリットを上回るかどうかは難しい。

   貨幣論の分野で、ケインジアンとマネタリスト(≒リバタリアン(注:ピノチェト政権下の経済運営を顧問したとされるシカゴ学派のミルトン・フリードマンはミレイ大統領のように中央銀行廃止までは求めていなかったことに留意)の対立が決着しないのもこのあたりの事情

   少なくともひとつ入れることは、緊縮的な金融政策は緊縮的な財政政策同様、人気がない(選挙に勝てない)ということ。古くは、日本でも、世界恐慌(1929年)から満州事変(1931年)のころの二大政党間で金解禁(金本位制の(再)導入)の是非で揺れた。当事者である浜口雄幸と犬養毅(+高橋是清)は皆テロの餌食となった。

   カンボジアやジンバブエのように、それぞれの歴史的事情でドル化以外に選択肢がなくなってしまった場合もあるが、ユーロを採用した国々のように、そこまでは追い込まれていなかった国々での民主的手続きによる条約批准というのはただ事ではなかったと考える。

 

   今後同様の政策を導入検討する国は増えるのだろうか。また、世界中で「デジタル通貨」の導入が議論されているが、ひょっとしてデジタル通貨の導入は、他国発行の強力な通貨の自国通貨化を促進するきっかけとなるのか。

   理論的にはYES

   中央銀行デジタル通貨(CBDC)である必要は必ずしもないと思う(中央銀行がこれにこだわる理由はある)。クレジットカード、デビットカード、その他日本でいう資金移動業が発達するようであれば、他国通貨の採用のハードルは著しく下がる。

   この点については、アルゼンチンのミレイ大統領が非公式にその経済理論を大いに参考にしたとされるニコラス・カチャノスキー教授が、「アルゼンチンのドル化は実現可能なのだが、難易度が低い順に、❶銀行預金、❷民間に流通しているアルゼンチンペソ(紙幣や硬貨)、❸中央銀行の資産(アルゼンチン国債)であるから、時間を掛けてステップを踏んでいく必要はある」と説明している。民間部門の決済(例:給与支払いや買い物)がすべて電子決済で出来るのであれば米国からドル紙幣を「輸入」する必要はなくなる。

   なんといっても③の❸が難題だが、⑵の②で触れた軍事政権下(アルゼンチンとチリに共通するヘンリー・キッシンジャーが暗躍したコンドル作戦下)の経済政策が参考になると考えている。背景として、ブラジルなど周辺国での左派政権誕生があるので、米国の大統領選挙の行方次第のところもあるが、再びIMFなどを巻き込んで、中銀負債の入れ替えを行い、それが完了したところで、フラクショナル・リザーブ・バンキングをやめさせ、中央銀行廃止というのは大いに現実的であり、リバタリアンとしてやってもらいたいことである。