2009年1月23日金曜日

人民元が鍵を握るオバマ政権下の為替相場

●ガイトナー新財務長官、中国の為替操作を非難(1/22FT、IHT)
ポールソン氏の後任財務長官としてオバマ大統領が指名しているガイトナー氏。米国上院での質疑で「外交上も“強硬な”手段で中国政府と立ち向かう」と意思表明。

前任のポールソン氏も、これまで時々、中国の「自国通貨安」を批判してきたが、中国を「為替操作国家」と正式に告発しろ、という議会からの圧力には抵抗してきた(FT)。勿論、これは米国にとってのジレンマ、即ち中国政府を怒らせて、その大量に保有されている米国債を堂々と売却されては堪ったものではないという事情があるからです(IHT)。

中国が人民元のドルペッグ制を廃止したのは2005年。管理された変動相場になって以来、人民元はドルに対して約20%増価しています。

ところで、上述の「米国にとってのジレンマ」の裏返しとして、先週金曜日に日経CNBCで喋りました「中国にとってのジレンマ」があります。リーマンショックで加速したドル安は、オバマ政権によるバラマキ政策と、既に始まっている連邦準備制度による米国債に限らない形振り構わずの市中資産買い入れによる未曾有(みぞう)のマネタイゼイション(ハイパワードマネーの供給)で、再加速する恐れがある。但し、只今現在は米ドルは(対日本円を除けば)寧ろ堅調で小康状態。今のうちに米国債を損切りしたいが、損切りするにも、米国債の保有割合(米国債の発行残高に対する割合でもあり、外貨準備高に対する割合でもあります)が高すぎて、自ら動くことが自らの首を絞めるというジレンマです。

中国政府にとっても、外貨準備の評価損をこれ以上大幅に拡大したくないという命題と、人民元の対ドル高基調に戻したくないという命題は、両立が困難な難問なのです。

フェニックス証券のホームページに先週末の日経CNBC「ラップトゥデイ」における人民元の話をアップしました。動画ソフトのダウンロードが少々面倒臭くなっておりますが、お時間のある方、どうぞ本日のブログと合わせてお楽しみ下さい。
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2009年1月22日木曜日

ポンド危機、再び

●2月のG7会合、ポンド安について討議へ=G7筋(1/22日本語ロイター)
ロイターの独占報道で、珍しく情報源が明かされていない。

●ロイズとRBSは国営化されるべき=英国下院財務委員長ら(1/21FT)
ロイズ(旧ロイズ+旧TSB+旧スコットランド銀行+旧ハリファックス)とRBS(旧スコットランド王立銀行+旧ナショナル銀行+旧ウェストミンスター銀行)だけでなく、バークレイズ銀行まで国営化されるのではないかという噂もあり、今週に入ってからの英国ギガバンク各行の株価は大暴落。

ポンドは、対米ドルで7年半ぶりの安値、対円では14年ぶり最安値更新で、昨年ピークの半値に。

主要銀行が概ね国営化されることを社会主義と呼ぶのではなかったでしょうか?今週月曜日に、

《オーバーバンク解消という漢方薬を煎じて飲まないと長期的には資本主義経済圏の病理は何一つ改善しないのですが、短期的にはモラルハザード政策のスピードに応じて、その国の通貨が評価されるという事態が続くかも知れません。政府主導の信用膨張と財政膨張が、当該通貨の買い材料から売り材料に逆転するのが、どの程度「短期的」か、これを占うことが大変難しい。》

と書きました。次いで、翌火曜日には、

《昨夜の為替相場は、円>ドル>ユーロ>ポンド、です。銀行救済⇒量的緩和は、これまで米ドルにおいては買い材料だったのが、昨日は逆だったという点、全てのFX投資家は注目するべきでしょう。》
と続けました。リーマンショック後、マッチポンプのように繰り返されてきた金融機関救済を代表格とする政府の大胆な市場介入が、当該国の通貨の信任として直ちに反応してきた幻想が遂に終わりかけているのが、今回のポンド危機です。

ギガバンクのエコノミストに洗脳された多くのFX投資家は、

★物価指標が予想よりプラス⇒買い材料
★マネーサプライが予想よりプラス⇒買い材料

と長年思い込まされてきました。もともと貯蓄不足であった国において、国外に依存していた資本が引き上げられる信用収縮の局面においては、この大前提が逆転する。というか、金融バブルという特殊な状態が意外と長く続いただけのこと。貯蓄不足だから物価があがる、地下鉄の初乗りが千円以上する国の通貨を喜んで買い続け、更なるインフレ期待でそれを買い増すという大衆心理こそ馬鹿げていたというべきでしょう。詳しくは、昨年5月のフェニックス証券オンライン・セミナーをご覧下さい。
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2009年1月21日水曜日

100年に一度の“言い訳”

そう言えば、一昨昨日の日曜日、テレビ朝日の田原総一郎さんの番組に、自民党を離党した渡辺喜美元行革担当相が出演されていたとき、「100年に一度の危機なんですから・・・」という表現を頻発されていたのを観て、《そこまで繰り返さなくても良いのに》と思いつつ、今週も仕事生活に入って早や3日目。私自身も「100年に一度だからさぁ・・・」という前置きが安易だが便利だと気付き、繰り返し使うことの誘惑についつい負けてしまっています。

以下、具体的な使い方。

★今週月曜日の取締役会。毎月、75歳のオーナーさんがご機嫌よくいらっしゃってくれるのですが、雇われ社長曰く、

「さすがに、100年に一度の危機ということで、年度後半は減益を覚悟しています。」

★従業員に対しては、

「残念ながら、100年に一度だからねぇ。。。年度末の業績賞与は余り期待しないで貰いたい。」

★更には、広告代理店さんに対して、

「広告を続けたいのは山々なんですが、さすがに100年に一度の津波でしてねぇ、、、月々の契約金額を何割程度に減額させてもらえませんか。」

などなど、です。ちなみに、この表現の便利さと切れ味(?)を教えてくれた渡辺喜美氏は行革担当大臣を福田内閣で務められる直前は、安倍内閣で金融担当大臣でいらっしゃいまして、同内閣末期に全国証券大会でスピーチを聞かせていただく機会に恵まれました(2007年9月のこと)。秘書が用意した原稿を無視して、浮かぬ顔また顔、の証券会社社長陣を前に、空気を読みながら笑いを取りつつ本音が炸裂するトークに、渡辺氏の高い能力と志しを感じ取った証券会社社長は私だけでなかったと思います。

★本日発売のマネージャパンMONEY JAPAN(角川SSコミュニケーションズ)で、私の連載コーナーKnowledge Cellarにて大阪大学社会経済研究所のチャールズ・ホリオカ・ユウジ教授との対談が収録されています。取材時期は、ポール・クルーグマン教授がノーベル経済学賞を受賞した直後の昨年10月15日ですが、内容は全く古びておりません。是非お買い求め下さい(取材場所提供:四谷三丁目「チェルト東京」)。
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2009年1月20日火曜日

紳士の国と情熱の国

オバマ大統領の就任式を控えた昨夜は、米国休日のため、そうでなくても注目が欧州に向かうところ。RBS(スコットランド王立銀行)の巨額損失とスペイン格下げが金融市場を震撼させませた。

RBS巨額損失は、ロンドン市場が開く以前に報じられており、日曜日夜FT他が報じた「イギリス政府が、銀行救済の追加策を月曜日に発表か!?」との因果関係が推定されます。

2008年のRBSの損失額は280億ポンド(約4兆円)。これは、銀行業界だけでなく、イギリス全企業の年間赤字記録を更新するものだそうです(ちなみに、抜かされた記録はボーダフォン)。

RBS株は月曜日一日だけで67%下落。3ヶ月前には780億ポンドあった株式時価総額は、月曜日終値で、たったの45億ポンドに、と皮肉たっぷりにFT紙は報道しています。

インターナショナル・ヘラルド・トリビュン紙によれば、ブラウン首相はRBSに対して怒りをぶちまけ「損失の殆どは米国のサブプライム関連の運用と、ABNアムロ買収の失敗(暖簾代なんと200億ポンド)だ。」ということは、「イギリス国民の預金を預かっている銀行が取るべきではない、無責任なリスクだったのではないか!」と語っています。

ブラウン首相の怒りの「中身」が本当であったとすれば、RBSはイギリス国内の不動産関連の損失は処理できる能力が既に無いということを意味しており、実質破綻していることはほぼ疑いないと推定できそうです。アイスランドやアイルランドのような小国の真似をして、100%国家管理という選択肢を避けたい為政者の気持ちも伝わりますが、かつてのイギリス4大銀行のうちのひとつナット・ウェスト銀行を飲み込んだスコットランド地方の発券銀行は、そのバランスシートにおいて、もうひとつの問題銀行HBOS(ロイズTSBにより買収済-株価はこちらも月曜日34%下落)同様、世界最大規模となってしまっていることを考えると、破綻を放置するわけにはいかないでしょう。

日米と比べ、ユニバーサルバンキングの国々では、モラルハザードを気にせず金融システム保全という大義名分で銀行救済策が取られやすい。と当ブログでは皮肉たっぷりに繰り返してきました。預貸金業務を人質に取りつつ、投資(銀行)業務のハイリスク・ハイリターンの損失のつけを血税に回すというやり方にも限度があることを理解する必要があります。

ちなみに、昨夜の為替相場は、円>ドル>ユーロ>ポンド、です。銀行救済⇒量的緩和は、これまで米ドルにおいては買い材料だったのが、昨日は逆だったという点、全てのFX投資家は注目するべきでしょう。

もうひとつ、当ブログで批判を繰り返してきた格付機関。EUに属し、ユーロを採用している故、財政規律に縛りがあり、一国家として通貨供給量の調節も出来ない。つまり、スペインに当て嵌めれば、スペイン国債を乱発してスペイン中央銀行に買い切りオペをさせて勝手にユーロ通貨を市中にばら撒くということは出来ない筈なのに、格下げとはどういうことでしょうか。通貨危機や金融・不動産危機により、ユーロ採用を拙速に検討しはじめたデンマークやハンガリーのような国々がある一方、全く同じ理由・背景なのに、ユーロ圏に(下手をするとEUにすら)留まれない恐れがある国々も出始めており、これまた新たな地政学上の歪みとして注目です。
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