2016年2月12日金曜日

祝30週年 ビッグマック指数と円高とロシアルーブル安

それにくらべて、七転び八起きブログは、たったの8周年にすぎません。

たまたまですが、ブログを始めた2008年仕事で大きな転機を迎えることになる2012年、そして飲食業から撤退し什器備品を二束三文で放出することになる2016年、この3回だけ、わたくしはビックマック指数を取り上げています。

たまたま夏のオリンピックの年にあたるわけですが、ブラジル経済と為替水準について触れてみようというわけでもありません。

注目する国ははたしてどこでしょうか???

たまたまにしても出来過ぎです。リーマンショック前夜、アベノミクス前夜、そして中国ショック(前夜?)に、外国為替証拠金取引(FX取引)の業界ではほとんど触れられることのない、購買力平価への思いが覚醒してしまうのです。習慣性、周期性、そしてへそ曲がりな性格が原因です。

2008年は、リーマンショックのような量的質的な規模で金融バブル(オーバーシュート)が是正されると予想できたわけでもありませんでした。加えて、金融バブルの破裂、すなわちデ・レバレッジの局面では、例外なく為替相場は購買力平価に収斂する、という予想も外れました。

ユーロ高やポンド高が修正されるという予想は当たりました。が、南アフリカランドは購買力平価に比べて割安すぎるので是正される、もっと高くなる、という予想は大いに外れました。この反省のために必要な《国際金融》についての考察はあえて封印し、《国際貿易》だけを切り口にしてみたいと思います。輸入代金を手形では支払えない(輸出国から直接間接投資を得られない、かつまたは、貿易当事国はいずれの国も外貨準備高がプラスマイナスゼロである)という前提です。

このように、《国際貿易》は自由だが《国際金融》はまったく行われないという前提がこんにちのグローバル経済のなかで非現実的であることは言うまでもありません。

しかし、あえて非現実的な前提から考察することで、常識では見えてこない面白い真実が垣間見えたりするのがまた国際経済学の醍醐味でもあります。

30週年を迎えるビックマック指数は、以下の批判に合わせて、2011年7月分から、「一人当たりGDPで修正した購買力平価」を併記するようになっていました。

「豊かになりつつある中国では、実際の為替相場が購買力平価に収斂していっている」ものの、多くの「貧しい国では、賃金が安いのだから、そのような国の通貨は購買力平価に較べて弱くてあたりまえ」という批判。それを受けて、一人あたりGDP(横軸)とビックマックの米ドル建て価格(縦軸)の、なかなか見事な相関を示しています。

一人あたりGDPを扱った2015年末のブログの通り、気になってしかたがない方も少なくないと思われるので、はたして、日本はいまどれくらいの位置(地位)にいるのか確認されたい場合には、英エコノミストの元の記事でお確かめください。

わたくしは、日本の位置(地位)と同じく、ロシア(ルーブル)のことも気になって、ロシアの位置にマウスオーバーして記事のスクリーンショットをとりました。なので、横長の長方形で、ロシアの一人あたりGDPが12,718米ドル、ロシアでのビックマックの値段が1.53米ドルと表示されるのです。

これは平均的なロシア人は、税金などを無視すると、1年間に、8000個を超えるビックマックを食することができるという意味です。平均的な日本人だと1万2000個近く。一人あたりGDPを尺度とすると最も豊かなノルウェー人は、なんと1万9000個近く・・・・

じつはわたくしがロシアを取り上げようとしたのは、ロシアが最も図示された直線(回帰直線)から下振れている、つまり誤差として見逃せないと考えたからです。

ただし、「一人あたりGDPが低すぎるわけでもない割に、ビックマックの値段が安すぎる」ロシアで、年間可食数量が意外に少ないのは、この回帰直線のY切片が大きくプラスであることが理由です。

わたくしの問題意識をくどくどと説明するために、英エコノミスト誌が用意してくれているグラフィックを活用させてもらいましょう。
この世界地図は、一人あたりGDPを考慮しないビックマック指数です。ロシア以外にも濃い赤で塗られた国々(外国旅行者にとってビックマックが安く買える国)が、南米の一部やアジアの一部に点在しています。








いっぽう次の世界地図は一人あたりGDPを考慮したもの。ロシアルーブルが、購買力平価説の観点で、大きく割安に放置されたままの通貨であり、その他の「貧しい」国々は、貧しさゆえに阻却され、色が濃い赤(上の世界地図)から薄い赤(下の世界地図)に変色(昇格)した。


ところで、わたくしが今回申し上げたいことは、購買力平価説の観点から、

ロシアルーブルに限らず割安すぎるから、長い目で見れば修正されて、上昇が期待できる通貨はいろいろあるけれど、ロシアルーブルだけは「貧しさゆえに割安に放置され続けるだろう」という言い訳が成り立たない数少ない割安通貨である

ということではありません

なぜ、一人あたりGDPが低い国、つまりおそらく賃金が低い国の通貨は、購買力平価に収斂されることなく割安に放置されなければならないのか???という議論です。

自由貿易のメリット(がある場合が存在すること)を説明するヘクシャー=オリーン=モデルでは、資本や労働などの生産要素は交易されないが(二)国間で等しい、生産関数は(二)国間で同一、であると仮定します。この仮定がふたつとも極めて非現実的だとしばしば批判されます。

現実を説明したいのか?理想を説明したいのか?これで経済モデルの評価はおおいに変わってきます。企業家や経営者が真摯に株主(しばしば自分)の利益を極大化したいと思うのなら、、、、、、資本や工場の移転はきょうのブログでは扱わないとしたものの、、、、、、貧しくとも真面目に良く働く発展途上国の労働者に技術を教えて、少ないコストで同量同質の生産販売を実現しようとするでしょう。使えない身内よりは使える他人を、こそがグローバル資本主義のモットーであるはずです。

このように賃金の裁定は、グローバル資本主義の強欲だと貶むべきではなく、フェアトレードだと尊ぶべきところです。現実には、発展途上国なりの事情、

つまり、
>戦争などによる混乱、
>インフラの欠如(最終財にかぎらず原材料や中間財を運搬するために欠かせない)
>教育の欠如
などが、理想を遠ざけます。とは言え、教育については、グローバルな企業家や経営者なら、可能な限り、まずは陳腐化したりジェネリックになった技術からでも移転しようとするでしょう。能力や技術の陳腐化を軽視して自己啓発を怠っていた先進国の中間層が、気がつけば雇用機会を失っているというのは、もはや理想ではなく現実でしょう。

ヘクシャー=オリーン=モデルは、生産要素そのものは交易されないのに「一物一価」であると仮定します。生産要素そのものが交易されてしまうと(例:工場進出、外国企業への投資、移民や出稼ぎなど)、貿易のメリット(※)を必然的または一意的に説明できなくなってしまうという事情があり、それはヒト・モノ・カネすべてが自由に動ける真のグローバル経済とは異なる前提となります。しかし、モノに比べると、ヒトやカネはそう簡単に国境を跨げるものではない(※※)というのも実感と合致します。

※労働力が不足がちな国が、労働集約的な最終財を、資本が不足がちな国から、輸入することのメリット

※※フェルドスタイン=ホリオカ・パラドックス[1980]。ただし、われらがFX取引(外国為替証拠金取引)に代表されるデリバティブ取引が活発になってきているので、資本移転に立ちはだかっている国境は以前に比べると乗り越えやすくなっているという指摘もある(金融市場のグローバル化:現状と将来展望白川方明・翁 邦雄・白塚重典日本銀行金融研究所[1997]

一人あたりGDPで調整されたビッグマック指数から、ヘクシャー=オリーン=モデルが、やっぱり非現実的だと短絡的に烙印を押すのはあまりに惜しい考察です。同時に、購買力平価が(長期的にさえ)成り立たないと諦めるのも同様です。この2つの非現実(=理想)が密接に絡んでいることこそ注目に値します。すなわち、

最終財(例:ビックマック)の一物一価が成り立つ(成り立たない)=生産要素(例:貿易当事国の労働者の賃金)が同一である(同一でない)=購買力平価が成り立つ(成り立たない)

これがきょうの仮説です。これが正しいとすると、さて、ロシアルーブルはいかに評価されるべきでしょうか?


そんなこと言ったって、原油価格の見通しがすべて、ですって?ごもっともごもっとも。




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