2008年12月25日木曜日

チャリティ・オペラ・コンサート直前情報【其の参】

中高生と中高年のためのオペラ入門!『カヴァレリア・ルスティカーナ』『愛の妙薬』に続いては『蝶々夫人』です。

今年生誕150周年のプッチーニは、我が国でも人気の高いオペラ作曲家ですが、この季節になると思い出すのがフィギュアスケートでのBGM。世界に冠たる我が国の女性スケート陣が頻繁(ひんぱん)に使ってきた名旋律の多くがプッチーニによって紡ぎ出されたものです。トリノ五輪金メダルの荒川静香さんがプッチーニの“白鳥の歌”とも呼ばれる遺作オペラ『トゥーランドット』から第1幕冒頭~第3幕カラフのアリア「誰も寝てはならぬ」を使用したことは余りにも有名。その五輪の開会式では故パヴァロッティがサプライズで登場し歌ったのもこのアリアです

ところで、五輪の1年後にパヴァロッティは完全に“口パク”だったと当時の指揮者が告白。しかし腑に落ちないのは、本来オペラアリアではご法度とされている「移調」で、パヴァロッティは半音下げて「歌って」いたのです。本来のニ長調では当時の体調では無理だったにしても、半音下げればもしかしたら歌えるかも、というギリギリの努力と検討が開会式直前までなされていたかと思うと、泣けてきます。


『蝶々夫人』に戻りましょう。やはりフィギュアでは安藤美姫さんが題名役の代表的アリア「ある晴れた日に」を使用しています。今回お届けするのもこのアリアです。

時は19世紀後半、舞台は我が国の長崎。港港に女を作る米軍中尉のピンカートンは、当地で没落士族の娘で齢15歳の芸者“蝶々さん”を見初めます。ひたむきな愛ゆえにキリスト教への改宗まで決意した“蝶々さん”をピンカートンは現地妻としか思っていないにも関わらず、結婚初夜を迎えるというシーンで第一幕は幕を閉じます。

第二幕は、結婚式から3年経ったが、米国に戻ったきり帰ってこないピンカートンについて、下女スズキが「長崎に帰るという約束は反故にされたのでは?」と疑います。が、蝶々夫人はそれを否定。夫は必ず帰ってくる。その思いを載せて歌われるのがアリア「ある晴れた日に」なのです。

事実は下女スズキの疑った通り。ピンカートンは米国人ケイトと結婚しており、このあと蝶々夫人には再上陸するピンカートンに同伴されたケイトとの対面、という悲劇が待っています。

誤解のないように記しますと、歌劇『蝶々夫人』は“歩くチ●ポ”ピンカートンがアメリカ帝国主義の象徴、それに蹂躙される蝶々夫人が東洋の植民地の象徴、のような反米の物語として書かれたわけではありません。国同士がどうこうということではなく、ヒロインの一途な愛ゆえに招かれた悲劇という解釈が現在では主流のようで、それゆえ名作揃いのプッチーニ・オペラの中でも、特に人気が高い作品になっている、それが偶々舞台は日本である、というのは決して悪い気分ではありません。

ドラマチックなパフォーマンスと強靭な声帯と体力を要求される蝶々夫人はソプラノのレパートリーの中でも難役中の難役。生前、マリアカラスが得意としていたのもこの役です。

明日は、ヴェルディ作曲『イル・トロヴァトーレ』をお届けします。
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おっとどっこい、サンタクロースが出現

●GMACの銀行持株会社化をFRBが承認、救済融資枠の活用が可能に(12/25WSJ)
本日の日本経済新聞朝刊にもある「米カード最大手アメリカン・エキスプレスも公的資金で救済融資」と公的資金の適用範囲が銀行からノンバンクに広がってしまった。何でもあり、となればGMACの銀行持株会社化承認をいつまでも渋る理屈が立たない。

しかし、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーが銀行持株会社になったのとは異なり、GMACの場合の制約は大株主の偏在。元親会社のGM本体や現大株主のサーベラスはそれぞれ単独での持分を10%未満にまで減らさなければならない(我が国でも、流通系その他の新銀行設立ブームだった時期に百家争鳴した「事業会社の“機関銀行”は許されない」という議論)。

そもそもGMACとは何でしょう。いまでは我が国のメーカーにとっても当たり前の、消費者ローン専門関係会社。その魁がGMACでした。GMACのAはAcceptance、すなわち自動車をツケで売った借金の証文を引き受ける(そして証券化するなどして転売する)という商売。まだ、連結決算が導入されていなかった時代においては、自社製品をツケで売りすぎるとバランスシートが膨らみすぎて金融機関から嫌われるという難点を凌ぐために、ツケ払いをオフバランスすることは打出の小槌だったというわけです。

よくよく考えれば、極めて単細胞的な財務体質(信用力)の錬金術に過ぎない理屈なのに、GMACをツケ払いの掃き溜めにすることで、長らくの間GMは米系格付機関から高格付を享受して来ました。

●消費支出0.6%減(12/24WSJ)
物価下落にもかかわらず?

●新規失業保険申請件数30,000件(12/24WSJ)
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2008年12月24日水曜日

チャリティ・オペラ・コンサート直前情報【其の弐】

本日ブログ【朝刊】のチャリティオペラコンサート直前情報

『カヴァレリア・ルスティカーナ』

の独断と偏見に基づくご紹介に続きまして、ドニゼッティ作曲『愛の妙薬』について押し付けがましい紹介をさせていただきます。

みなさんは“妙薬”と聞いてどんなお薬を想像されますか?原題はイタリア語でElisir d'Amor。エリジールとは秘薬とか媚薬と言う意味です。しかし、このオペラが輸入された時代、「愛の“媚薬”」と訳するわけには行かなかったのでしょう(La Traviata【道を踏み外した女】の主人公がVioletta【すみれの花】なのに何故か『椿姫』だったりするのと同様、絶“妙”な訳出の一例なのかも知れません)。

ところで、このオペラは媚薬のお話かと、鼻の下を伸ばしてお待ちの皆さま。残念ながら、勃起薬が役に立つようなシーンは全くない、ハッピーエンドのドタバタ喜劇なのです。

とある田舎村。風采の上がらない青年ネモリーノは、自分より身分が高く聡明な女性アディーナに心を寄せています。村の中で老若男女から慕われているアディーナが、そんな村人たちに『トリスタンとイゾルデ』の物語を読んで聞かせるシーンでオペラは開幕します。惚れ薬を飲んでイゾルデ姫の心を掴んだトリスタン。そんな妙薬なんてあるのかしらとアディーナはせせら笑います。そこに現れた軍曹ベルコーレの雄姿に、アディーナは「悪くないわね」。ネモリーノは、突然の恋敵(?)登場に焦ります。

ネモリーノに挽回のチャンスを与えたのがイカサマ医師ドゥルカマーラが売りつけた妙薬ならぬ単なる安ワイン。これを呑めばアディーナが自分を向いてくれると信じて酔いしれるネモリーノ。そのご機嫌な姿をアディーナは面白くなく、さっさと軍曹ベルコーレとの結婚の日取りを決めてしまいます(二重唱「ラララ・・・」)。

逆効果となったのは、妙薬が単なる駄酒なのではなくて、薬が足りないからだと思い込んだ、おつむの足りないネモリーノは安ワインももう一本買いたいのですが、財布は空っぽ。忸怩たる思いで恋敵ベルコーレの軍隊に入隊を決意し頭金で安ワインに大枚を叩きます。

安ワインをオカワリし泥酔したネモリーノは、一部始終がドゥルカマーラからアディーナに伝えられ、彼女の心が自分に向けて開き始めたことも知らず、片思いの気持ちと一縷の望みを願って「一筋の涙が・・・(人知れぬ涙)」を絶唱します。

明日は、プッチーニ作『蝶々夫人』をご案内します。
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何はともあれクリスマス・イブです

クリスマス・イブくらいは明るい話題で始めたい当ブログですが、天邪鬼の七転び八起きとしては期待に沿えず恐縮です。

●トヨタ渡辺CEO辞任(12/24WSJほか)
度重なる業績下方修正を経て、戦後初の営業赤字へ転落のニュースは、昨日英BBCでも、30分置きにNHKニュースの映像が繰り返されるほど世界に衝撃を与えた。

それは判りますが、「たった一期」の赤字で社長辞任というのは厳しすぎないかというのが私の勘繰り。数字を見る限りでは、過去何十年(特にこの十年)積み重ねてきた利益(特に内部留保)に比べ、今期の赤字は微々たるもの。

数字以外の「何か」があるのかどうか心配。

●元ナスダック会長のネズミ講詐欺、被害者のフランス人投資家が自殺(12/23FTほか)
500億㌦規模の詐欺は全容解明途上。このうち14億㌦を投じていたファンドマネージャーが自殺。65歳のフランス人で投資顧問会社の共同創設者。遺書は残されていないが・・・

銀行の不良債権を毒入り餃子と譬えてきた当ブログ。今回のネズミ講事件で毒入り餃子はヘッジファンドにも混入されてしまった。スイスのUnion Bancaire Priveeは「独立した監査人と常任代理人が選定されていないヘッジファンドについては運用残高を直ちに減らせ」と内部文書で指示。この名門プライベート・バンクは運用資産が560億㌦に及んでいる。

ヨーロッパでは第三者による監査が通常行なわれているが、米国では伝統的な大手ファンドも含めこのような慣習がない。UBPの今回の動きは、米国の「ヘッジファンド産業」の姿かたちを塗り替える可能性もあるとFT紙は指摘。

●米国の住宅販売、新築も中古も大幅下落(12/23WSJほか)
11月の中古住宅販売は前月比▲8.6%(対前年比では▲10.6%)。新築は前月比▲8.0%で月402万戸。これは1997年7月以来最低水準。米国全体の住宅価格の中間値medianは、181,300㌦と一年前に比べ13.2%下落。1968年に統計をとり始めて以来最大の下落幅。

まだまだありますが、暗い話はこれ位に留めましょう。今日からは今週末日曜日に迫りましたフェニックス証券チャリティ・オペラ・コンサートの直前情報を更新して参ります。お蔭様で満席予定の同コンサートには私より遙かにオペラマニアのお客様から、オペラには関心はあるけど敷居が高くて近寄りがたかったので、今回のチャリティをキッカケにと考えてくださったお客さままで様々いらっしゃいます。このような多様なニーズになるべくお応えするのが司会の腕の見せ所ですが、何せ話下手なので、紙面で順次補わせていただこうというわけです(チケットご予約をいただいたお客様でメールアドレスを頂戴したお客様には配信済です。悪しからずご了承ください)。

12/28(日)プログラムの第一部は、

【第一部:中高生と中高年のための(?)オペラ入門法(!?)】

と銘打っております。その一曲目は、マスカーニ作曲『カヴァレリア・ルスティカーナ』より「ママも知るとおり」です。

オペラファンやオペラマニアにとっては馴染み深い歌劇『カヴァレリア・ルスティカーナ』。また映画ファンならコッポラの名作『ゴッドファーザーⅢ』で劇中劇で使われたのもこの『カヴァ』であることをご存知の方々もいらっしゃるかも知れません。オペラは興味があるけど、観たことはないとおっしゃるお客さまも、有名な「間奏曲」の旋律は聞き覚えがあるかも。この美しい旋律「だけ」を聴くと「穢れ無き純愛」や「一途な信仰心」などが思い起こされるのは私だけでしょうか。ところが、イタリア語て田舎の騎士という意味の題名の物語は、シチリアの貧しい若者を取り巻く痴情のもつれを生々しく描いたものなのです。

奇想天外な神話性を帯びた物語(要するに「あり得ねぇ~」という話)や歴史に題材を見出しつつ親子愛や恋愛を独特のスケールで描いたもの(同じく「あり得ねぇ~」・・・)というのも、オペラの大きな特徴。時代を少々遡り、イタリアオペラ史の“最高峰”ヴェルディが取り上げた題材には、シェークスピアの悲喜劇などのほか、第一部の後半にとりあげる『イル・トロヴァトーレ』(≒吟遊詩人)、『ドン・カルロ』など「あり得ねぇ~」系のオン・パレード。

これに対して『カヴァ』の題材は、其処彼処の社会の底辺のどうしようもない現実そのもの。長年貴族や富裕市民が目を瞑ってきたこのような現実を題材とする芸術上の運動(イタリア語ではヴェリズモ)の端緒にあたるのがマスカーニのデビュー作『カヴァ』だなどと言われております。

「ママも知るとおり・・・」は、主人公サントゥッツァが、一度は愛を誓い肉体的にも結ばれた元許婚が、兵役前に愛し合っていた現人妻と逢引している現状を、姑だったであろう“マンマ”に嘆く悲痛なアリアです。

サントゥッツァは同様の“告発”を、逢引相手の旦那にもしてしまいます。結果、決闘を経て、元許婚は殺されます。

オペラファン以外の皆さん、ハッキリ言って、どうでも良い話だと思いませんか!?

本日夕刊にて、続いての演目、ドニゼッティ『愛の妙薬』についてお話します。こちらは打って変わって楽しいオペラなので、どうぞお楽しみに。

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