2009年1月20日火曜日

紳士の国と情熱の国

オバマ大統領の就任式を控えた昨夜は、米国休日のため、そうでなくても注目が欧州に向かうところ。RBS(スコットランド王立銀行)の巨額損失とスペイン格下げが金融市場を震撼させませた。

RBS巨額損失は、ロンドン市場が開く以前に報じられており、日曜日夜FT他が報じた「イギリス政府が、銀行救済の追加策を月曜日に発表か!?」との因果関係が推定されます。

2008年のRBSの損失額は280億ポンド(約4兆円)。これは、銀行業界だけでなく、イギリス全企業の年間赤字記録を更新するものだそうです(ちなみに、抜かされた記録はボーダフォン)。

RBS株は月曜日一日だけで67%下落。3ヶ月前には780億ポンドあった株式時価総額は、月曜日終値で、たったの45億ポンドに、と皮肉たっぷりにFT紙は報道しています。

インターナショナル・ヘラルド・トリビュン紙によれば、ブラウン首相はRBSに対して怒りをぶちまけ「損失の殆どは米国のサブプライム関連の運用と、ABNアムロ買収の失敗(暖簾代なんと200億ポンド)だ。」ということは、「イギリス国民の預金を預かっている銀行が取るべきではない、無責任なリスクだったのではないか!」と語っています。

ブラウン首相の怒りの「中身」が本当であったとすれば、RBSはイギリス国内の不動産関連の損失は処理できる能力が既に無いということを意味しており、実質破綻していることはほぼ疑いないと推定できそうです。アイスランドやアイルランドのような小国の真似をして、100%国家管理という選択肢を避けたい為政者の気持ちも伝わりますが、かつてのイギリス4大銀行のうちのひとつナット・ウェスト銀行を飲み込んだスコットランド地方の発券銀行は、そのバランスシートにおいて、もうひとつの問題銀行HBOS(ロイズTSBにより買収済-株価はこちらも月曜日34%下落)同様、世界最大規模となってしまっていることを考えると、破綻を放置するわけにはいかないでしょう。

日米と比べ、ユニバーサルバンキングの国々では、モラルハザードを気にせず金融システム保全という大義名分で銀行救済策が取られやすい。と当ブログでは皮肉たっぷりに繰り返してきました。預貸金業務を人質に取りつつ、投資(銀行)業務のハイリスク・ハイリターンの損失のつけを血税に回すというやり方にも限度があることを理解する必要があります。

ちなみに、昨夜の為替相場は、円>ドル>ユーロ>ポンド、です。銀行救済⇒量的緩和は、これまで米ドルにおいては買い材料だったのが、昨日は逆だったという点、全てのFX投資家は注目するべきでしょう。

もうひとつ、当ブログで批判を繰り返してきた格付機関。EUに属し、ユーロを採用している故、財政規律に縛りがあり、一国家として通貨供給量の調節も出来ない。つまり、スペインに当て嵌めれば、スペイン国債を乱発してスペイン中央銀行に買い切りオペをさせて勝手にユーロ通貨を市中にばら撒くということは出来ない筈なのに、格下げとはどういうことでしょうか。通貨危機や金融・不動産危機により、ユーロ採用を拙速に検討しはじめたデンマークやハンガリーのような国々がある一方、全く同じ理由・背景なのに、ユーロ圏に(下手をするとEUにすら)留まれない恐れがある国々も出始めており、これまた新たな地政学上の歪みとして注目です。
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2009年1月19日月曜日

バイアグラが売れない!?

●ファイザー製薬、営業部門2400人の雇用を削減(1/17WSJ)
全米のセールスマンsales repの何と三分の一に相当。先日の研究部門800人削減に続く発表。

景気が悪くなると勃起薬が売れなくなるのか?と想像しては行けません。米国の製薬業界の雇用のピークは2006年第一四半期の105,000人。現在そこから1割以上減少しており、ファイザーに至っては2007年1月以上、累計で15,000人雇用削減している、その最大の理由は、後発医薬品との競争で利益率が落ち込んでいることなのです。

ちなみにこの勃起薬ですが、インターナショナル・ヘラルド・トリビュン紙によりますと、スポーツ選手の成績との因果関係が強く疑われる(可能性が強い)。つまり、バイアグラを服用した後だと、速く走れる等の効能が認められるのだそうで、研究が進められている一方、ドーピング検査の対象にするべきかどうか喧々諤々の議論があるのだそうです。

●日興コーディアル証券、売却へ-シティグループ、急遽路線変更(1/18WSJ)
たった3日前には、ほかの個人向ブローカー事業(スミス・バーニー)をモルガン・スタンレーに売却する計画のなかに、日本のブローカー業務は含めないと発表していたのに、直近四半期83億㌦の赤字決算を発表した直後後、方針を変えたと。

ウォール・ストリート・ジャーナルが日曜日夜(日本時間)に報じたニュースは、日本においても注目だと思うのですが、ことの真偽がハッキリしないせいか、どういうわけか、日本のメディアの追随報道は妙に区々です。それにしても、この動き、日興コーディアル証券に対しても、モルガン・スタンレーに対しても、影響力が大いにある筈の三菱UFJは主導権を握っているのでしょうか?

●イギリス、金融機関への追加支援策を今夜発表へ(1/18FT、WSJ)
一発目は昨年10月の4000億ポンド。造反やら再可決やらで物議を醸した米国の金融安定化法案の7000億㌦と比べても、国民所得の規模を考えれば、全く遜色のない乾坤一擲だったが、血税を湯水のように使っているという世論の反動を余所目に、ブラウン首相もダーリング蔵相chancellor of exchequerも、公的資金受け入れ後も貸出を伸ばそうとしない銀行業界に対する怒りと不満を表明すると見られている。

●米国も、銀行救済策を練り直しへ(1/18WSJ)
銀行危機は当初想定よりも酷いとして、財務省、連邦準備銀行、預金保険機構の首脳が次期政権の経済閣僚と議論に入ったと。不良債権買い上げを目的とした「政府系銀行」を設立も。

ゴールドマン・サックスの試算によると、世界中の銀行が米国向けに保有している不良債権のうち、既に2兆㌦は損失が実現しているが、含み損がまだ同規模あるそうです(住宅関連で1.1兆㌦、企業向け貸出と社債で0.4兆㌦、商業用不動産、クレジットカード、自動車ローンで0.6兆㌦・・・)。

●アイルランド最大の銀行を国営化へ(1/17FT)

後半3つの話題、オーバーバンク解消という漢方薬を煎じて飲まないと長期的には資本主義経済圏の病理は何一つ改善しないのですが、短期的にはモラルハザード政策のスピードに応じて、その国の通貨が評価されるという事態が続くかも知れません。政府主導の信用膨張と財政膨張が、当該通貨の買い材料から売り材料に逆転するのが、どの程度「短期的」か、これを占うことが大変難しい。
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2009年1月16日金曜日

日経CNBC生出演でパニック

今朝のブログでお伝えしたとおり、本日午後4時から日経CNBC「ラップトゥデイ」に生出演させていただきました。記念すべき私のテレビ初出演となったのは日経CNBCの看板コメンテーターである中嶋健吉さんと対談する「アジアマネー」というコーナーでして、本日の御題は、2009年の為替相場-特に米中の経済対策とドル人民元の相場についてです。残念ながら外国為替証拠金(FX)では人民元は取り扱っていません(これはある意味で人民元に対する中国政府の管理のあらわれでもありますが・・・)。

しかし、リーマン・ショック後の為替の世界は、米中を軸に展開されるという番組の意図は我が意を得たり。ディレクターの井上さんと事前に打ち合わせと資料作りをさせてもらい、簡単な台本も用意されてはいたのですが、番組直前の中嶋健吉さんとの打ち合わせでは、「丹羽さん、台本を無視してやろうよ。そのほうが丹羽さんの面白さが出るよ」と唆され、いざ本番。中嶋さんからは突っ込まれたりフォローしてもらったりで、結構タジタジ。《ただいま、自分は意味不明のことを喋っているなぁ》と思った瞬間も数箇所ある、その再放送は今夜9:00から(再々放送が10:30から)です。

分刻みで動くスタジオが初体験だったこともあり、伝えたい内容の50%程度にとどまったと反省していますが、伝えられなかった部分は、今月末出版の私の著書「『為替力』で資産を守れ」にしっかり書いてございます。

日経CNBCの視聴者プレゼントの対象にもなっております。抽選で10名様にプレゼント。この機会を是非お見逃しなく。

残念ながら当選しなかった皆さんは、是非書店でお買い求めください_m(。。)m_

ちなみに、コメンテーターの中嶋健吉さんは、私にとっては興銀証券時代の大先輩。しどろもどろの私を助けて下さり有難うございました。今後はより厳しい突っ込みにも耐えうるよう、精進致します!
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人民元の偽札がインターネットで購入可能!?

●中国政府、ネット販売されている人民元の偽札の根絶で苦慮(1/16FT)
贋物の高級ブランド品の世界最大の供給基地として長いこと知られてきた中国。それが、今は偽札-それも中国自身の(!)-の供給販売においてグローバル・リーダーに躍り出た、とFT紙。

今月26日から始まる旧正月は、中国にとって米国のクリスマス商戦に相当する消費シーズン。これを目前にして中国政府が不正ネット販売を弾圧しようとするのは偶然ではないとFT紙は分析するが、効果は上がっていないと。

人民元の偽札は、偽札の額面の1割から3割程度の価格で取引され、指定された銀行口座に振り込まれると宅配されるというのが通常だそうです。中国最大の検索エンジン“Baidu"で「人民元の偽札販売」と検索すると、取り扱っているサイトは簡単に沢山見つかるとのこと。

中国の“ネット警察”によってブロックされているサイトも増えてはいる。しかし、昨年、ネット販売による不正薬物が被害をもたらした事件がそうであったように、法的措置を全国一律に講ずることが難しく、撲滅キャンペーンのようなものを仕掛けること以外に有効な手段が見出せないのが中国の特徴だと、FT紙は締め括っています。

人民元の偽札がこれほどまでにネット上で蔓延するということですが、偽札の製造元は上記末端価格よりも安い原価で輪転機を回しているのだから、何故自分で使おうとしないのか?人民元の紙幣のセキュリティの低さは以前から問題だったのが、何故ここに来てネット販売という分野で問題が深刻化したのか?中国経済や通貨管理、為替相場に与える影響は?などなどと疑問点や腑に落ちない点が多々ある中、実は本日午後4時から、日経CNBCで「米ドルと人民元の相場を占う」というテーマで私自身喋らなければなりません。その前に、このFT紙の“スクープ”消化するのは難儀です。
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