2013年4月5日金曜日

黒田=アベノミクスをちゃんと理解して、日本を取り戻す

長期金利0.3%割れ目前というのは、さすがにバブルだろうと思いつつ、住宅ローンを借りようにもまずは物件探しからはじめなければならない状態で、しばらくこの状態が続くとありがたいものです。

それにしても、OECD加盟国の中でも最悪水準の対GDP比での財政赤字または国債発行残高の日本の金利が、短期~長期問わず、ダントツに低いというのは、皮肉であることを通り越して、ちゃんとその理屈を理解しておきたいところです。

今こそ、外国為替証拠金(FX)取引を始めよう、(時間がないから順張りタイプの自動売買ソフトを購入しよう)、金や株式や不動産に投資をしたいという方々が急速に増えています。が、どれを買って、どれを売れば良いのかというアセットクラスの選択を考えるうえで、この「不健康な国債利回りの不気味な低さ」を説明づけることは重要です。

読者のみなさんが、もしも土曜日の朝、電話で叩き起こされて、出てみたら街の金融業のコールセンターからで、「突然ですがあなたはいま無担保で100万円借りることができますよ。どうぞお借りください」と言われたとします。「これはラッキー」と思って、すぐに借用書に判子を押すというひとが何人いるでしょうか?

ほとんど居ないでしょう。

ただし、もともと「貸家を追い出されそうなので住宅を取得しなければならない」とか「仕事またはプライベートで自動車を購入しなければならない」状況で、常日頃から、どこかローンを下ろしてもらえる金融機関はないかなあと探しまわっていたという状況では、結論が全く変わってくるでしょう。

黒田=アベノミクスで、株式相場が上昇しているのは、後者の「借りたいという具体的『使途』のある人が多数派である」という前提の動きです。

いっぽうで、黒田=アベノミクスで、債券相場も上昇している(国債の利回りが低下している)のは、前者の「借りることができるからと言って、借りるつもり(≒具体的な資金使途)など無いという人が多数派である」という前提の動きです。

このふたつは矛盾しますから、これはバブルであって、このバブルの解消は、国債利回りが再び上昇するか株式相場が再び下落するかどちらかの経路で行われます。

例えば、日本国債(長期~超長期)の売り、不動産株(またはJREIT)の売り、米ドルの買いという投資戦略が考えられます。

最後の、米ドルを買うというのがなぜ出てくるかというと、有価証券のふたつのアセットクラスを売っているのでその売却代金で何か買うとしたら、、、、財市場との連動も考えて、、、、米ドルを検討してみたのです。

以上の筋道には、海外からの資金(資本)の流出入が考慮されていません。アベノミクスの三本目の矢とされる規制改革次第では、海外から投資資金が流入してきて、「邦銀が国債を換金しなくても、民間投資のファイナンスが可能」という状況が実現します。

さて、外国資本が日本で投資をもう一度してみたいと思える環境とは何でしょうか?この間の、日経CNBCさんのTraders Barの収録直後に、同番組のスポンサーである三菱地所さんと立ち話をしました。三菱地所さんが立てていらっしゃるようなハイスペックのオフィスやレジデンシャルに外国人がもう一度戻ってきてくれるかどうか甚だ疑問だという話をお聞きして、わたくしの反応は「法人税減税、もしもそれができなければ東京都の法人事業税は限りなくゼロにする。英語を第二公用語に、たとえそれができなくても、東京都内および国内のプロ投資家間の金融取引・商取引の契約書類は英語を公用語とすることができる、せめて欧米並の解雇法制の自由化・・・」。

震災や原発のハンディキャップはどうすることも出来ないかもしれませんが、以上をやれば、かつての中国のように、現在のインドネシアのように、外国資本や外国人が戻ってくると思います。最後の解雇法制については議論があると思いますが、正社員と契約社員の区別をなくせとは言いませんが、正社員のほうが契約社員よりも平均給与が高いというのは昔からわたしには理解できませんでした。野球選手が正社員だったら、あんな給料払えるでしょうか???




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2013年3月25日月曜日

キプロス支援合意とイスラエルで海開き

今朝からのこのニュースの確定が微妙であったことは、ウォール・ストリート・ジャーナルの速報と、フィナンシャル・タイムズの速報とを比較しても、数時間のズレがあったことからわかります。

キプロス議会の混乱もあって、先週一週間二転三転したこと、その他の南欧のより大きな国々にとって先行事例の変更になるかもしれない重要な判断となることから、一部有力メディアが慎重な報道姿勢に徹したことも理解できます。

結果をわかりやすく言えば、預金のペイオフの形を、日本型(1000万円以下の預金者を守ること)にしたために、議会が納得して、それによりキプロスとしても応分の痛みをわかちあうということで、当初どおりの外部(ECB、EU、IMF)からの支援が再度決まったというものです。

詳しくは、

ウォール・ストリート・ジャーナル
http://online.wsj.com/article/SB10001424127887324789504578380550995616128.html?mod=WSJAsia_hpp_LEFTTopStories
フィナンシャル・タイムズ
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/03c5e484-94ff-11e2-b822-00144feabdc0.html#axzz2OWlwu9m1
ロイタージャパン
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE92O01A20130325

朝から多くのアナリストが、先週週初来のキプロス問題でのユーロ通貨の相場が「行って来い」であったことを過剰なマッチポンプのように評価していて、むしろ本丸はイタリアだスペインだという話になっています。「本来、日本株には影響の少ない材料のはずだった」などなど。

市場の振れが大きすぎることに対して冷静な見方を伝えることには一理あります。しかし、キプロスが、ユーロ圏の破綻懸念国の救済の歴史のなかで前例を踏襲しないかどうかというのは極めて重要だったのです。ここまで揉めた最大の理由は、ロシア人たちをダントツの筆頭とする海外マネー(その多くが外交的にもユーロ圏であることはおろかEUとも距離がある国々だったりする)からの租税回避を目的とした銀行預金の肥大化という現象があって、これが特に事実上唯一の債権国であるドイツからは、アイルランドやポルトガルやギリシャと同様の処理ということでしかたがないとはいえなかったわけです。

国の大きさや金額の多寡とは意味の異なる次元の問題で、許されるモラルハザードと許されないモラルハザードとの間に線が引かれる可能性はあったのです。許されない敵に塩を送ってまで信用秩序を守ってやろうなどというお人好しは大陸の国々には存在しないのであります。

キプロスへの裁定によって、イタリアとスペインが安全圏に入ったと考えるのは理に叶うと思われます。ただし、それらの国々のなかで特にパフォーマンスの悪い銀行は、ユーロ圏防衛のための人身御供として、スムーズにして大胆な破綻処理が適用されるリスクは残るでしょう。

こちらは、まるで対岸の火事と言った風情のイスラエルはテルアビブの一足早い海開きの写真だそうです。
http://jp.reuters.com/news/pictures/rpSlideshows?articleId=JPRTR3FANW#a=8

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2013年3月22日金曜日

Yes, we can.からIt's possibleへ。オバマ大統領のイスラエル演説

オバマ大統領は、政権交代となる2008年秋からの数々の選挙演説や就任演説で、スピーチの才能を遺憾なく発揮し、本国だけでなく日本でも過剰気味なブームをもたらしました。大統領スピーチで英語を勉強しようというような便乗本も書店に並びました。

かく言うわたくしもちゃっかり便乗させてもらい、当時務めていたFX会社で、「イェス、ウィ キャンペーン」というのをやりました。結果は、オバマ大統領の似顔絵がいまいちだったのと、時まさにリーマン・ショック直後で、さっぱりでした。

当時から言われていたように、オバマ大統領の演説原稿は、コピーライティングスキルに長けたスピーチライターによるものらしいです。このことはオバマ大統領への評価を下げるものではまったくなく、あらかじめ他人が用意したランゲージであるにもかかわらず、それをあたかもその場で迸った言葉であるかのように発話するというスゴ技はまさに天晴です。

よく言われているように、日本ではこういう芸当ができる政治家を寡聞にして知りません。落語という、その才能で以って競演する伝統話芸があるにもかかわらず、です。

このオバマ大統領が過去4~5年至る所で行なってきた演説のなかでも、ダントツに最高傑作となったのが、日本時間昨夜深夜のイスラエルの、パッと見では体育館のようなところで若者中心に集められたなかで行われた平和演説だと思います。

http://thelede.blogs.nytimes.com/2013/03/21/highlights-from-obamas-speech-in-israel/?ref=middleeast

2009年に誰が見ても時期尚早であるノーベル平和賞を受賞してしまい、いっぽうで前政権のイラク戦争の負の遺産の処理を任さえるという、ミッション・インポッシブルに挑戦しつつ、支持率の低下を余儀なくされた一期目とはがらりと異なるスタートを象徴しているのが、今回のイスラエル訪問です。

隣国のキプロスと並んで、今まさに中東はかつてないほど熱いと言えます。

昨夜深夜の演説の凄みは、まず表面的には使用されている表現が実に巧みであって、イスラエル人のプライドを傷つけないように十分配慮しながらパレスチナ入植を抑えるように主張を譲らない点がまず挙げられます。そのためには彼の演説の特徴である抽象論や家族の喩えがくりかえし使われています。印象的で拍手を呼びスタンディングオベーションで締めくくらせる仕掛けが見事に機能しています。アカデミー賞受賞作品のリンカーン顔負けの言語力と演技力です。

しかし、今回の演説を、リンカーン並に、人種や民族の壁を乗り越える民主主義と平和主義の誓いであると捉えてお仕舞いとは言えません。

第二期目就任後も何度も財政の崖と格闘しているオバマ大統領にとって、イラク戦争に代表される中東紛争への軍事的な介入は、もはや予算オーバーになってきてしまっているのでしょう。

イラク戦争への負担額はこれまでの累積(だけ)でも3兆ドルにのぼるという説があり、これは米国の国家予算の1年分を上回っています。たった一年分かと安心するところではありません。仮に戦地からの完全撤収ができたとしても帰還兵への補償はずっと続くからです。敢えて比較するために例示すると東日本大震災の被害総額を内閣府は約17兆円と試算しています。これが巨額であることは論を待たないですが、それでも日本の国家予算の2割程度なのです。

オバマ大統領のイスラエル訪問と名演説は電撃的でもありタイムリーでもあります。と同時に、その内容もタイミングも、ほかに選択肢はなかったという理解も必要でしょう。

戦後、日本は米国の妾であると多くの政治家が自虐的に言ってきたところ、今回のオバマ大統領のイスラエル訪問の言葉の端々から、日本は確かに妾でも3号以下であることがはっきりしました。それはそれで歴史的な意義があります。問題はここまでイスラエルをおだててパレスチナ問題やイラン問題、さらに周辺国のイスラム強行派との雪解けが進まないときに、もうなすすべがないことを警戒しておかねばなりません。

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2013年3月18日月曜日

アベノミクスに水を差すキプロス島の取り付け騒ぎ

土日の海外メディアは、バチカンの新法王フランチェスカ一世による現代イタリア語での演説や、インドや中国など、様々な話題がひしめく中、何と言っても、かれこれ4年に及ぶユーロ危機のなかでもはじめての一般大衆預金のペイオフ強制実施の決定と、それに憤慨してATMに列をなすキプロス島の人々の話題を繰り返し報道していました。

債権カットの率で言えば、ギリシャのほうが派手でしたが、こちらはギリシャ国債が対象。キプロスについては、大口と小口で若干比率がことなるものの、全預金者を対象とする一律カットです。

欧州時間の土曜日未明に、その案を飲んだキプロス政府は、用意周到にも週明け(キプロスは月曜日も祝日で、銀行営業日は火曜日)にも預金の現金引き出しが出来ないように措置を講じたとされています。

したがって、理論的にはATMに並んでも仕方がないところですが、示威行動を起こすには小さい島の銀行窓口が並ぶ目抜き通りはうってつけ。直近の報道では、現在示されている預金カット率(6.75%~9.9%)の再見直しをかけて同国首脳がドイツ、ECBを含む「預金者負担を条件にした金融支援」を主張してきた向きと、もう一晩二晩徹夜に付き合ってくれと言わんばかりに掛け合おうとしているようで、小国の大騒ぎは効果があったのかも知れません。

2008年以来、金融危機が起こるたびに、モラルハザードと致命的かつ瞬間的デフレとのあいだでどのようにしてバランスをとるかを分析議論してきた当ブログ。欧州危機においては、先例となるアイルランド、ポルトガル、ギリシャでは手を付けなかった預金者のモラルハザード問題についに手が付けられてしまったというから、たいへんです。

健全な金融システムと成長可能なマクロ経済を導くために必要な教訓を得るための実験かも知れませんが、実験室が小さくて密閉されているから爆発しても平気だというのは大きな間違い。例えが悪いですが、これは実験は実験でも、核実験みたいなものです。

スペインやイタリアなどに飛び火しかねないということを十分に恐れておく必要はあるのです。取り付け騒ぎとは、そういう性質のものであり、あってはならない風説の流布と大いに関係します。

「七転び八起き 毒入り餃子」で記事を検索してみてください。

それでも、わたしは、この週明けのユーロその他の通貨のギャップダウンの始まりは恐れていたよりはまだ小幅で良かったと胸をなでおろしています。欧米の報道機関によっては、「これは終わりの始まりだ」というコメンテーターもいるのです。しかし、個人的には9割以上の確率で、ドイツもその他債権国も国際機関も、理屈をつけてキプロスは例外にしようと主張すると考えています。さまざまな背景によってキプロス経済は異常だったのです。アイルランド以上にGDP規模に比較しての金融セグメントが肥大化しすぎていたこと、預金者の多く(もっと言うと住民の多く)がロシア由来であることなどなどです。
  人口       (百万人) GDP   (兆円) 銀行預金 (兆円) 銀行預金/GDP (参考:ひとりあたり 預金残高)
日本 126.5 475 590 1.2
4,664,032
キプロス 0.8 2 84 42.0
105,000,000
(注)出典:全国銀行協会、ウィキペディア、ウォール・ストリート・ジャーナル


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