2012年1月25日水曜日

ビッグマック指数の最新版

今月は英エコノミスト誌恒例のビッグマック指数が更新され発表されています。
http://www.economist.com/blogs/graphicdetail/2012/01/daily-chart-3
もともと何か特殊要因でハンバーガーの「相場」が割高だったブラジルは、欧州危機後のレアル暴落にもかかわらず、「平均値的通貨」であるドルや円に比べて依然極端な割高が続いていること、1ユーロ=1.2スイスフランまで無制限介入を約束して度肝を抜いたスイスもまだ、割高さトップの地位に君臨していることなど、様々なことが見えてきます。

2008年に、この「七転び八起き」ブログを始めたときに、同時にオンラインセミナーも始めており、当時からユーロの割高をしつこく指摘してきました。その論拠の一つが、購買力平価であり、その簡易版であるビックマック指数もプレゼンに活用させてもらいました。

オンラインセミナーのオンデマンドは期限か切れておりますが、より詳しい内容は、このブログの過去記事にもあります。一例がこちら

先々週ついに97円割れ寸前まで下落したユーロも、その後の一週間半で101円台まで急速に買い戻され、対ドルでも1.3台を回復しています。しかし、OECDの指摘(新興国への警告)の通りで、ユーロが最悪期を脱したと見ているひとは殆どいないでしょう。それだけ、円キャリー(またはドルキャリー)によるユーロバブル(またはポンドバブル)が常軌を逸していたわけであり、その治癒には相当の時間がかかるものと思われます。

その反面、デレバレッジ、金融機関の機能の低下が世界中に蔓延しそうな今日この頃、ハンバーガーの値段が極端に安い国の通貨はもっと見直されてもよいと思います。

ビッグマック指数は、他にも面白い切り口を提供してくれています。ずっと円高だったため、割安感もなくなってしまった日本(円)ですが、実は、最低賃金で買えるビッグマックの個数は世界一なのだそうです。何かと、生活保護の給付水準に比べて最低賃金が安すぎると議論されることが多い現在、日本の最低賃金の高さを目立たさせる事実になっています。ただ、ここで大変失礼ながら、マクドナルドのパートの皆さんの給与水準が法定ぎりぎりに近いと仮定すると(注:それでもマックのバイトが人気なのは、時間の柔軟性にあります。これ、重要)、高い最低賃金で作られる日本のハンバーガーが安いのは、効率性(労働者がテキパキしている。ひっきりなしにお客さんが来るので原材料のロス率が低い)の高さや、または諸外国比でビッグマックの大きさが小さい(日本が本当にそれに該当するかどうか知りませんが、オーストラリアのビッグマックはカナダのそれよりかなり小さいらしい)、材料をけちっている(本部のバイヤーの買い叩きが特に強烈であるとか、質を「選んでいる」とか)などなどの要因も考えられます。

ファーストフードのパート店員の給与水準が最低賃金レベルであるという事実が概ね世界共通であるという仮定から、エコノミスト誌自身も、実際の為替レートと、ビッグマック指数が乖離するのが、一人あたりGDPの違いによるところが大きい と分析しています。

この点、わたしが重要だと思うのは、「逆は必ずしも真ならず」であって、今日、ファーストフードのパート店員だけが最低賃金レベルではなくなってきており、製造業の現場では部品のモジュール化が、非製造業の「現場」ではIT化が、それぞれどんどん進み、これにグローバル化を掛け算すると、「われこそは最低賃金とは無縁の中流ホワイトカラーだ」と思い込んでいた中途半端な知性の人たちの雇用がどんどん失われていく傾向にあることです。ビッグマック指数が平均以上の国の「中間層」のひとたちは注意が必要です(この議論には、貿易黒字国・貯蓄超過国の海外からの配当利子などの所得が一人あたりGDPや実際の為替に与える影響について含めておりません)。

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