新興国通貨危機のたびに、売り込まれている通貨がその購買力平価に対して割安すぎるという議論が出てきます。
多忙と充電を言い訳にしてめっきり更新をサボっているブログでも、通貨危機ごとに、購買力平価説とそのもっともわかりやすいたとえであるビッグマック指数で「分析」と「予想」を行ってきました。
ブログを始めた2008年はリーマンショック前から割安だったオーストラリアドルやニュージーランドドル、そして何と言っても南アフリカランドは(主要国通貨を売ってでも)買うべし(?)と予想し、大外れして、笑いものになりました。
この経験も活かしつつ、英Economist誌のグラフィックインターフェイスの進化もあり、2014年と2016年のロシアルーブル危機では、軒並み割安になりがちな新興国通貨のなかでも、一人あたりGDPが比較的低いとは言えないロシアの通貨の「売り込まれ過ぎ状態」は数少ない事象だという指摘をさせてもらい、珍しく押し目買い推奨大当たりとなりました。
さて、では今回のトルコリラ危機はどうでしょうか?
購買力平価説は長期的にも成り立たないのか!?
笑福亭鶴瓶さんが出演している医薬品だったか医薬部外品だったかのテレビCMで、「膝が痛いから太るのか?太るから膝がいたくなるのか?」というのがありました。インフレと通貨安も同じような関係で、どちらもどちらの原因であり結果です。
実は、トルコは慢性的にインフレに悩まされていて、米ウォールストリート・ジャーナルのコラムニストの個人的統計によると、インフレ(年)率は年代毎の平均で1970年代= 22.4%、1980年代=49.6%、1990年代=76.7%、そして2000年代=22.3%だったとのことです。
完璧に客観的な物価統計というのは難しいものなので、ほんとうにこれが実態だったのかどうかは良くわかりません。それにしてもこんなものだったとしたら、これを知っていてトルコリラ建ての外国証券を買わされていた日本人リテイル投資家はたまったものではありません。
ここで、話の順番はめちゃくちゃですが、購買力平価説とは何だったかを、やはりビッグマック(照り焼きバーガーでは比較できないため)を例にとって簡単におさらいしておきますと、
”イスタンブールでビッグマックが10.75リラで買えるのなら、そしてUSDTRY=4.71(先月の話です 爆)なら、ビッグマックを2.28ドルで仕入れられることを意味するので、それをニューヨークに持ち込めば、現地相場(1ビッグマック=5.51ドル)との差額3.23ドルが無リスクで稼げる。このような裁定取引(アービトラージ)は差額がプラスマイナスゼロになるまで続くはずなので、いつかはイスタンブールのリラ建てビッグマック価格が値上がりするか、かつまたはニューヨークのドル建てビッグマック価格が値下がりするか、USDTRYが下落(トルコリラが対ドルで上昇)するかが起こるはずである。“
というものです。
ちなみに筆者は2週間前に仕事でイスラエルに行き、帰りの乗り継ぎ地イスタンブールで、空港内という特殊な場所ではありましたが、ハンバーガーを食べました。ドル建てユーロ建てリラ建て表示のあるレシートを持ち帰ったつもりが紛失してしまいましたが、ざっくり10ドル=50トルコリラくらいで、赤坂のバーガーキングよりも割高な感じでした。
もうおわかりのとおり、購買力平価は、自国物価と外国物価を所与(固定)とすると《ある程度》この二国間の為替相場の予想に役立つのですが、前提が固定ではないので、思ったほど役立たないのです。購買力平価だけをもちだして割安(すぎる)云々抜かしている大手金融機関系のアナリストの記事を見たら、そういう金融機関に投資信託や外国債券などを買わされて損をさせられていないかどうか振り返る必要があります。
さて、《ある程度》というところの注釈は、重要ですが後回しにして、ロシア危機後のルーブル反発のような可能性をトルコリラは秘めていないのかどうかについて触れます。
いよいよ時機良く出版してくれた英エコノミスト誌のビックマック指数です。
下のグラフに描かれている赤丸は割安通貨(Undervalued)、青丸は割高通貨(Overvalued)、米ドルが基軸になっています。計算によると、トルコリラは対米ドルの相場が58.5%も割安に放置されているということになります。
これを時系列で追ったのが下の折れ線グラフです。現時点(正確には直近ビッグマック指数発表の2018年7月)でトルコ(リラ)よりも更にひとつ割安国(通貨)にとどまっているロシア(ルーブル)に筆者がマウスオーバーすることでブルーグレイの折れ線グラフと対比して、トルコ(リラ)の割安割高推移をご覧いただくことができます。
トルコリラは2013年から割安度合いが深まっているが、それでも(いまでも)ロシアルーブルの最割安時期の割安度合いにまでは到達していない(良い線行っているが)ということがわかります。
しかし、これだけで、トルコリラの底入れは近いとは言えないのが、ひとつには既述の《パラメータは為替水準だけでなく、自国物価、他国物価と複数ある》および、次のグラフでご説明する上記《ある程度》という購買力平価説留保条件です。
為替相場だけでなく購買力平価にもサポレジがある!?
一人あたりGDPを考慮に入れてしまうと、景色が一変します。この理由はちょっとむずかしいですが、先程引用した筆者ブログを参考にしていただけると助かります。
英エコノミスト誌が、読者からの批判を取り入れて、購買力平価に、一人あたりGDP要因を勘案したもの「も」出すようになったのは、2011年からなので、こちらの時系列は、一人あたりGDPを勘案しない上記のグラフの半分の長さしかありません。注意して比較してみてください。
記事によると、トルコ共和国の一人あたりGDP(の小ささ)をも勘案すると、トルコリラの割安の酷さは緩和されて、さきほどの58.5%から30.7%となる。
そしてまたもしつこくロシアルーブルと比較してみたのですが、過去最も酷かったロシアルーブルの割安時点と比べると、トルコリラの割安はまだまだ底まで言っていないと見えます。
自国通貨の暴落と自国物価の上昇につられて、名目賃金も完全に比例するような状態であれば、この連立方程式体系は解が定まらないということになります。トルコの状況がどうなのか、数年前のロシアの状況がどうだったか、名目賃金がどの程度硬直的な労働市場なのか(実質賃金が可愛そうなくらい下がっているのかどうか)は正確な統計がまだ手に入っていません。察するにハイパーインフレや自国通貨の自由落下状態においては名目賃金はもはや硬直的ではいられないという一般的な傾向があると思います。それまでは名目賃金(自国通貨価値)は(レジスタンス)サポートされるが、いったん名目賃金変動の閾値を超えるとこのサポレジは破られてしまうということが言えます。
《ある程度》という購買力平価説留保条件とは、ペン効果とかバラッサ=サミュエルソン効果(仮説)とか言われるものです。さきほどのハンバーガーの裁定取引(アービトラージ)なんて、かさばるし、日持ちはしないし(防腐剤をどの程度使っているのか知りません)、実際問題運べないだろう。それに比べると、貴金属や高級時計やスマホなど小型軽量高性能電化製品だと、ビッグマックとは違う指数が出てくるよねという話です。
0 件のコメント:
コメントを投稿