2008年9月19日金曜日

カインの末裔であってはならないモルガン家【夕刊】

米国発住宅バブル崩壊(リーマン・ショック?ブラッディ・マンデー?)が第一次大戦後の世界大恐慌以来の深刻なものだとの声が高まってきています。

1929年10月24日の「暗黒の木曜日」。その後3年間で米国は工業生産が37%減。銀行の破産は4500行を超え、失業者数は1930年には300万人、33年には1500万人に達したそうです(山川出版社「詳説世界史研究」463㌻)。このような状況のもとで成立したのが1933年銀行法、いわゆる「グラス・スティーガル法」です。

我が国の証券取引法第65条(現 金商法第33条)の範となったこの法律は、銀行と証券の分離を規定したもの。この規制強化により、JPモルガン(現JPモルガン・チェース・“ベアスターンズ”)からモルガン・スタンレーが分離独立することになります。

現在、銀・証分離が残っているのは日本くらいで、版元の米国は既に規制緩和されており、JPモルガンはかなり前から証券業務に参入しています。破綻寸前のベアスターンズを(2㌦で)買収できたのも、規制が緩和されていたからです。

昨日のブログ、♂♀性の起源♀♂で「単細胞生物も危機が迫ると合体する」ことを書きました。現在の米国の銀行大手と証券大手。財務がどちらが悪いのか?定量的な判断は出来ません。情報の正確な開示は事実上不可能でしょうし、格付機関も当てに出来ませんから。しかし、実態の評価とは関係なく空売りに仕掛けられやすいのは証券のほう。「有権者の支持を得やすい血税の使い方」という物差しでは証券救済は劣後してしまうと売り方は考えるのでしょう。

かくして破綻を逃れるには証券は大手と雖も、銀行に跪かなければならない風潮になってきました。
今回の騒動の比較対象として言及される大恐慌では銀行と証券が分離させられたのに、今回は結果的に再融合が奨励されてしまわざるを得ないのは、良し悪しは別途論じるとして、皮肉な現象だと感じます。

実際には内容の良し悪しは判別できない“兄弟分”のJPモルガンとモルスタ。本日昼過ぎのWSJで「モルスタCEOのジョン・マック氏が『JPの株式営業がモルスタやGSの株式の客に対して、《証券会社に預けておくと危険だからJPに移し変えましょうよ》という営業手法。これは許されない。今すぐやめてくれ』とJPのCEOに殴り込み」との記事がありました。JPはマック氏の懇願を聞き入れ、「今後このようなことが発覚したらJPを首にする」と社内を粛清。以降はトラブルはないそうです。

わたくしたちFX業者、ひいてはFX投資家の皆さまにとっては、銀行・証券の区別なく、世界の大手金融機関は業績の浮沈とは無関係に必要不可欠なインフラ。毒入り餃子のような風説の流布や相場操縦を乗り越えて欲しいと願っています。

最後にFXの話。弊社に限らず、またカウンター・パーティとしては、モルスタに限らず(ここ重要)、フォワードのマーケットは木端微塵に崩壊しており、非“常識”なスワップレートをお客さまに返さざるを得ない状況が続いております。改善を期待しつつも、良くも悪しくもインターバンク市場に直結し依存しているフェニックス証券のビジネスモデルとしては出せる条件をお出しするということに徹しさせてください。

不動産不況でマンションが売れないのは自己責任かも知れないけれど、登記簿が信用できなくなる(ってことはないと思いますが、極端な話・・・)等の混乱で誰しもが売買を手控えるような惨状は自己責任の範囲を超えて、業者にとっても投資家にとっても不可抗力であり、あってはならないこと。FXも同じ。インターバンク市場のインフラがまさしく“極端な話”になっているところ健全を取り戻してもらい、銀行自らが箪笥預金しないように、早ければ来週初には立ち直って欲しいものです。
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AIGは留守番電話

昨日は日本証券業協会「代表者セミナー」~「全国証券大会」。全国の証券会社の社長が一同に会する年に一度の会議は、毎年9月中旬に開かれます。証券業協会の支部長さんに「大変な時期の開催になりましたね」と挨拶すると、「毎年この時期は鬼門なんだよ。9・11直後だったこともあるし。期末前で相場が荒れていることも多い。ようこそお越し下さった」と。

証券業界の大先輩にも挨拶。聡明で何事にも一家言を持っておられる尊敬する社長さんから「丹羽くんの為替の相場観を聞きたい。休憩時間にちょっとコーヒーでも」と誘われ、10分間の集中討議。

「リーマンが助けられなかったことも驚きだったし、AIGが助けられたことも驚きだった。」と大先輩に告白。「しかし大事なことは、

☆『公的資金⇒金融システム救済』=ドル買い材料

★『自己責任原則⇒金融機関倒産』=ドル売り材料

という経験則を鵜呑みにすると危険ではないか。」

時間的制約から政治上の意思決定が間に合わない金融支援は、財政政策と金融政策が一体不可分となって行なわれる。平たく言えば、ドル紙幣が好きなだけ輪転機で擦られるのと同じこと。インフレによる生活水準低下という経路での実質増税が米国民に強いられる方向は、明らかにドル安材料だ。

ご質問くださった大先輩の証券会社は外貨建て債券を売りまくってらっしゃったらしく、円高要因を心配しておられたが、私の説明に納得。市場は私の捻くれた論理に直ぐには与しないだろうが、時間の問題だろうと。

こんな話をしていたら、北浜で親しくさせていただいている社長さんから、「丹羽さん、日銀がFRBとドルのスワップ6兆円を発表して、一気に円安ドル高になったよ」と携帯を見ながら教えてくれた。

分不相応のデカい家を買った借り手と貸し手の責任を問わずに究極のディープポケット中央銀行が自ら印刷したお札で代位弁済してあげたら、第一次大戦後のドイツよろしくリヤカーに山済みされた紙幣の束を想像してしまうのは私だけでしょうか?金が一瞬反発したのは理解できます。原油も通貨機能はありますが、金地金のように箪笥において置けないのが難点!?しかし「すべての金融活動=信用創造は不毛で虚業だ。金本位制に戻して一から出直しだ」という議論も万能ではありません。何故、ニクソン大統領が金⇔ドル交換を停止せざるを得なかったのか?覇権国家だったスペインが銀本位制を悪用し、アステカ文明とマヤ文明を蹂躙して安い銀を還流させることで(当時はハイパワードマネーじゃ無かった筈の)マネタリーベース自体を膨張させ、インフレを起こし、自国の製造業の競争条件を優遇。「価格革命」は15世紀のダーティ・フロートに他ならず、これにより北ドイツ経済圏は衰退してしまったのです。バブルの起源はその後短期間で覇権を奪うオランダのチューリップより遡るのです。

政治経済の教科書だけでケインズの乗数理論とマネーサプライの信用想像を理解するのは高校生にとっては頗る難しいこと。高校生の皆さん、センター試験のうえでは不利かも知れませんが、是非とも政治経済と世界史を選択してください(教科名、変ってますか???)

最後に、AIG。やっと電話が繋がったかと思ったら、応対は録音テープだけ。「親が潰れても、子は大丈夫ですから、契約はそのままで」ですって。潰れても潰れなくても良いから、もうガン保険は解約したいんだけど、どぉすりゃ良いんだろうぉ(TT)
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2008年9月18日木曜日

♀♂性の起源♂♀

●モルガンスタンレー、ワコビア銀行と合併観測(9/18WSJ)
更にもう1行との噂も。昨今の株価下落で、時価総額はモルスタとワコビアで略トントン。対等合併か。

●ワシントンミューチャルにも、ウェルスファーゴとシティグループが興味津々(9/18WSJ)
現大株主のTPGは、支店の売却、または住宅金融部門全体の売却を勧告している。

●ロイズTSB、HBOSを買収か(9/17FT)
世界最大の銀行のひとつHBOSの前進は、イギリス住宅金融第二位だったハリファックスとスコットランド銀行。昨年、取り付け騒ぎと破綻の記憶が生々しいノーザンロックと同業態。ちなみにロイズも英4大銀行のひとつだったがスコットランドのTSBとの提携を経て合併している。

ミッドランド銀行は香港上海銀行に、ナットウェスト銀行(ナショナル銀行+ウェストミンスター銀行)はロイヤルバンク・オブ・スコットランドに買収されているので、英4大銀行で“イングランド”系として“純血”を貫いているのはバークレイズ銀行だけ。フェニックス証券の重要なカバー先である同行、リーマンブラザーズの米国投資銀行部門をショッピングすると報じられています。

生物の実験にこんなのがあります。無性生殖で繁殖する単細胞生物を水槽で飼っているとします。その水槽全体にストレスを与え、住みづらい環境にさせると、細胞たちは通常では決して観察されない“合体”を繰り返し、個体数を減らしつつ、種の保存を目指します。それから水槽の環境を元通り暮らしやすい状態に戻すと、得意の“細胞分裂”により個体数を復活⇒増加させます。

このとき、合体前の個々の遺伝子配列と(再)分裂後の個々の遺伝子配列は、組み変わり変化しているというのです。これが有性生殖の起源。進化論のうえでは遺伝子の多様性が確保できる有性生殖のほうが無性生殖よりも環境変化への対応能力という点で優れていると言うのです。
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2008年9月17日水曜日

森永卓郎さんを直撃!?リーマンとAIG

AIG救済の情報が本当かどうか?実現するかどうか?確かめたいと逸る気持ちを押さえつつ、朝は9時から森永卓郎さんを取材で直撃。リーマン関係者、AIG関係者には申し訳無いですが、絶好のタイミングで識者の意見を聞ける私は運が良いと実感。決して考え方の全てが一致しているわけではない森永さんと私。しかし、リーマンとAIGの現実に金融資本主義の限界を読み取る点では完全一致。

詳しくは11月発売予定のビジネスアスキーマネージャパンをお読みいただきたいのですが、随分先なので骨子を少々。。。

機軸通貨―あるいは“金が金を生む”麻薬に誘惑される覇権国家

産業革命を先んじた大英帝国はアダムスミスやリカードの慇懃無礼な自由貿易論で周辺国から富を集めた結果、自国通貨ポンドは機軸通貨に格上げされ、ポンド高というプレミアムが付いてしまった。結果、それまでドル箱、、、じゃなかった“ポンド箱”(!?)だった製造業は競争力を失い、働けど働けど・・・じっと手を見る状態に陥る。機軸通貨プレミアムをどうせなら利用して“お金に仕事をさせる”金融立国になったほうが楽だ、と路線転換。行き着く先は、製造業の空洞化と二度の大戦による経済疲弊で、機軸通貨と覇権を米国に譲ることに。

その米国も、第二次大戦後も相当期間は「世界の工場」だったと森永さん。製造業空洞化を補うべく「強いドル」政策で世界中から余資を集め金融立国を目指したが、なれの果てが昨日今日だと。

Too big to failではなくてToo big to saveだったリーマン・ブラザース(この微妙に韻を踏んだコピーは私のオリジナルです、ハイ。。。)

ベアスターンズを助けてリーマンを助けなかったのは、通説と異なり、大きすぎて助けられなかった。もうそこまで米国の財政力は枯渇しているというのが森永さんの見方(AIGは米国版日銀特融だから苦肉の策?)

リーマンが倒れたとき、多くの専門家たちは(ヘッジファンド等)投機資金が原油などコモディティーに向かうだろうと予想していた。(森永さんがかねてからおっしゃっていた通り)原油バブルは崩壊したままだ。投機資金はどこに向かうのか?実は、もう投機資金自体が力尽きてしまったのではないか、と森永さん。

投機資金は行き場を失ったのではない。投機資金が失われてしまったのだ。

アジア通貨危機で荒稼ぎ、日本の不良債権で荒稼ぎ。で、米国の不動産バブルで荒稼ぎの予定が、殆ど皆さん逃げ遅れ、商品バブルで誤魔化そうとしたが不完全燃焼に終わった。。。これが株安と原油安。そして米ドルの次の機軸通貨は見当たらないし覇権国家も見当たらない。つまり金融資本主義の終焉だと。

まだまだ続きはあります。中身の濃い取材が快調に続いているビジネスアスキーマネージャパンの企画。加えて、森永さんと私が毎月連載している月刊FX攻略。3誌とも読み応えがありますよ。どうぞお見逃し無く_m( 。。)m_
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