政治や政策を論ずるときに、日本銀行の話題が出ていれば、その殆どが、金融緩和政策の不徹底(含むインフレ目標を設定しないこと)への批判であると思われます。与党野党を問わず(革新系のごくわずかな代議士を除き)不景気打開の隘路を日銀の不作為に求めるのは常習化しているのであります。
かくして、財政再建と経済成長を両立することは、菅直人首相の言う通り、難問題であることは確かです。選挙前のタブーとして定着している消費税問題を敢えて争点にした、内閣支持率再び急落中の同氏の清々しさに一票を投じたい気持ちはあります。
さはさりながら、消費税云々以前に重要な争点があることを、実にその日銀が先刻アップした論文は示しています。
北欧にみる成長補完型セーフティネット~労働市場の柔軟性を高める社会保障政策~
本文は長いですが、どうか冒頭の要約と、後半のグラフィックだけでも御一瞥下さい。この国の不幸が、主として大企業や官僚機構の(本質的には持続不能であることを自他ともに認めている)終身雇用と年功序列、それらの既得権益を無理矢理支える企業別労働組合と労働法制(含む解雇法制における重要な判例)であることがおわかりいただけます。
七転び八起きブログで繰り返し主張してきたこの争点ですが、この国の更に不幸な点は、この既得権益を本気で打破しようとしている政治家が、私の知る限り、二大政党にも第三極の諸派にも伝統的革新野党にもいらっしゃらないことです。
2010年7月5日月曜日
2010年6月25日金曜日
ジョージ・ソロスの思考実験
昨日付の英フィナンシャル・タイムズ紙にヘッジファンドの王様、ジョージ・ソロス氏が「ドイツは想定不能なこと(the unthinkable)を考察(reflect)しなければならない」という題名の論稿を載せています。
ゴールデンウィーク明けにブログ掲載したわたしの「思考実験」は、「ギリシャのユーロ離脱⇒ドラクマの復活があったとしたら・・・」でした。
http://phxs.blogspot.com/2010/05/blog-post.html
ソロス氏がドイツに強く奨める思考実験(thought experiment)は、「ドイツのユーロ離脱⇒マルクの復活」です。
この似て非なる現実離れした仮定から導かれるものは、明らかにマルクの高騰とユーロの暴落だから、ドイツは(現在ユーロ安を享受することで可能になっている)貿易黒字が枯渇し、マルク高によるデフレで雇用が悪貨し、おまけにユーロ安により国内銀行のバランスシートが更に悪化する。。。
(但し、悪いことばかりではなくて、ドイツの年金生活者は自国通貨高を享受してスペインで王様のような引退生活を送る動きなどを通じて、スペインの不動産不況が治癒されるという「経路」も紹介されています。円高デフレと闘って(結果円高バブルとその崩壊を帰結させた)80年代後半、当時の通産省がスペインやオーストラリアで老後生活を送ることを勧奨していたことを思い起こさせます)。
「現実離れした仮定」が、まさか現実のものとならないようにするためにも、ドイツがこのような思考実験することに意義があるのだというのがソロス氏の主張です。東西ドイツが統一できた(ドイツ周辺のヨーロッパ各国が支持した)のは、ひとえに、ヨーロッパ自体の統一であった(ヨーロッパの統一なくして、ドイツだけが統一化し強大化することはナチスドイツの反省からヨーロッパ全体のコンセンサスを得られない雰囲気があった)にもかかわらず、ユーロ危機(ギリシャ危機など)に際しては、他の有力国と比較しても、ドイツの非協力的態度が目立っていたことを受けての論稿になっています。
私の予想は、上掲のブログ
ユーロ、ギリシャ国債は押し目買いのチャンスなのか!?
の執筆時点から全く変わっておらず、(ドイツや)ギリシャなどの統一通貨離脱の動きは瀬戸際まで行くことはあっても、臨界点を超えて、ユーロ崩壊が現実化することはないという予想です。瀬戸際までは行く可能性がある理由は、ドイツ自体が実は既にソロス氏の言う思考実験を実施済みであると考えられ、自国の貿易戦略と金融戦略の最適化を狙って虎視眈眈とユーロの水準を調整しようとしており、その目的が達成されることが確実になれば、打算的なソブリンリスクの引受は屁の河童と考えている節があるからです。
ゴールデンウィーク明けにブログ掲載したわたしの「思考実験」は、「ギリシャのユーロ離脱⇒ドラクマの復活があったとしたら・・・」でした。
http://phxs.blogspot.com/2010/05/blog-post.html
ソロス氏がドイツに強く奨める思考実験(thought experiment)は、「ドイツのユーロ離脱⇒マルクの復活」です。
この似て非なる現実離れした仮定から導かれるものは、明らかにマルクの高騰とユーロの暴落だから、ドイツは(現在ユーロ安を享受することで可能になっている)貿易黒字が枯渇し、マルク高によるデフレで雇用が悪貨し、おまけにユーロ安により国内銀行のバランスシートが更に悪化する。。。
(但し、悪いことばかりではなくて、ドイツの年金生活者は自国通貨高を享受してスペインで王様のような引退生活を送る動きなどを通じて、スペインの不動産不況が治癒されるという「経路」も紹介されています。円高デフレと闘って(結果円高バブルとその崩壊を帰結させた)80年代後半、当時の通産省がスペインやオーストラリアで老後生活を送ることを勧奨していたことを思い起こさせます)。
「現実離れした仮定」が、まさか現実のものとならないようにするためにも、ドイツがこのような思考実験することに意義があるのだというのがソロス氏の主張です。東西ドイツが統一できた(ドイツ周辺のヨーロッパ各国が支持した)のは、ひとえに、ヨーロッパ自体の統一であった(ヨーロッパの統一なくして、ドイツだけが統一化し強大化することはナチスドイツの反省からヨーロッパ全体のコンセンサスを得られない雰囲気があった)にもかかわらず、ユーロ危機(ギリシャ危機など)に際しては、他の有力国と比較しても、ドイツの非協力的態度が目立っていたことを受けての論稿になっています。
私の予想は、上掲のブログ
ユーロ、ギリシャ国債は押し目買いのチャンスなのか!?
の執筆時点から全く変わっておらず、(ドイツや)ギリシャなどの統一通貨離脱の動きは瀬戸際まで行くことはあっても、臨界点を超えて、ユーロ崩壊が現実化することはないという予想です。瀬戸際までは行く可能性がある理由は、ドイツ自体が実は既にソロス氏の言う思考実験を実施済みであると考えられ、自国の貿易戦略と金融戦略の最適化を狙って虎視眈眈とユーロの水準を調整しようとしており、その目的が達成されることが確実になれば、打算的なソブリンリスクの引受は屁の河童と考えている節があるからです。
2010年6月8日火曜日
泣いた赤鬼と椿姫と小沢一郎氏
「国民のために一生懸命政治をやっており、実績もあがっているのに」と赤鬼クン。「国民が聞く耳を持たない」と嘆いた。それを聞いた親友の青鬼クンは「自分が悪役を演ずるから、君がボクを退治したまえ」と。図ったように人気反騰の赤鬼クンを尻目に、青鬼クンは「これまで通り友達付き合いを続けたら、共犯者だ、悪鬼だと思われるだろう。自分は静かにしている」と家に張り紙を残し、赤鬼クンの周辺から身をくらませる。
犠牲(sacrificio)というのは、犠牲であることを悟られないことこそが本質であり、それが故の悲劇もある。椿姫第二幕のヴィオレッタの犠牲を、空気を読めない恋人アルフレードの悲劇がそれであり、肺病病みの高級娼婦ヴィオレッタが、オペラ史上最もファンを引きつけるキャラクターのひとりであり続ける理由もその一点にあるのでしょう。
さて、以上はありふれたブログ的随想であり、当ブログで繰り返し揶揄している日本の政治の仕掛けを読めない大マスコミに対する皮肉です。遡れば、鳩山前首相の故人献金≒子ども手当問題や小沢前幹事長の同様の「政治とカネ」に関する複数の問題が十分発覚していた昨年の衆院戦後の状況判断として、そのまま参院選まで持つ筈がないというのは多少の想像力を働かせれば判るというもの。そこに来て、普天間の期限を任意に5月末と決めてしまったことを単純に鳩山前首相の愚行と看做してしまうことこそ、殆どのメディア人の知能指数が、実は自分たちの掌の上を転がっているに過ぎないと馬鹿にしている政治家トップクラスの人たちよりも格段に劣ることの証左と言えましょう。
さて、普天間5月末期限という仕掛けとともに、もうひとつ考慮しなければならないのが、戦後の歴代の内閣総理大臣の在任期間であります。左のハイパーリンクから資料をご覧頂くと、日米関係こそが最大の決定係数であることがおわかりいただけると思います。選挙民に対するメッセージとは別に、実質的に日米関係を政策の最重要課題として取り組んだ首相が、在任期間の長い順番に並んでいるのです。
新内閣は、小沢氏の犠牲を忘却の彼方に葬って、米国に魂を売るということはないでしょう。しかし、青鬼くん宅の張り紙が剥がれない間、当面、小泉竹中路線のベクトルへと、或る程度のパラメータが振り向けられることが予想されます。国際金融のテーマもこれありです。南欧~東欧問題に留まる筈のないソブリンリスクの顕現化は、大き過ぎる政府への批判を正論たらしめ、大衆の人気を得てゆくものと考えられます。
犠牲(sacrificio)というのは、犠牲であることを悟られないことこそが本質であり、それが故の悲劇もある。椿姫第二幕のヴィオレッタの犠牲を、空気を読めない恋人アルフレードの悲劇がそれであり、肺病病みの高級娼婦ヴィオレッタが、オペラ史上最もファンを引きつけるキャラクターのひとりであり続ける理由もその一点にあるのでしょう。
さて、以上はありふれたブログ的随想であり、当ブログで繰り返し揶揄している日本の政治の仕掛けを読めない大マスコミに対する皮肉です。遡れば、鳩山前首相の故人献金≒子ども手当問題や小沢前幹事長の同様の「政治とカネ」に関する複数の問題が十分発覚していた昨年の衆院戦後の状況判断として、そのまま参院選まで持つ筈がないというのは多少の想像力を働かせれば判るというもの。そこに来て、普天間の期限を任意に5月末と決めてしまったことを単純に鳩山前首相の愚行と看做してしまうことこそ、殆どのメディア人の知能指数が、実は自分たちの掌の上を転がっているに過ぎないと馬鹿にしている政治家トップクラスの人たちよりも格段に劣ることの証左と言えましょう。
さて、普天間5月末期限という仕掛けとともに、もうひとつ考慮しなければならないのが、戦後の歴代の内閣総理大臣の在任期間であります。左のハイパーリンクから資料をご覧頂くと、日米関係こそが最大の決定係数であることがおわかりいただけると思います。選挙民に対するメッセージとは別に、実質的に日米関係を政策の最重要課題として取り組んだ首相が、在任期間の長い順番に並んでいるのです。
新内閣は、小沢氏の犠牲を忘却の彼方に葬って、米国に魂を売るということはないでしょう。しかし、青鬼くん宅の張り紙が剥がれない間、当面、小泉竹中路線のベクトルへと、或る程度のパラメータが振り向けられることが予想されます。国際金融のテーマもこれありです。南欧~東欧問題に留まる筈のないソブリンリスクの顕現化は、大き過ぎる政府への批判を正論たらしめ、大衆の人気を得てゆくものと考えられます。
2010年6月3日木曜日
菅直人新総理=円安トレンドへの転換、、、と決め込むのは未だ早過ぎる
小鳩「刺し違い」はファインプレーだが、、、
民主党の新代表の有力候補である菅直人氏が、円安論者だからとか、草の根政治家だからとかで、鳩山総理辞任発表後の円安を長期トレンドの転換とまで捉えるのは極めて危険です。
大マスコミが何と言おうと、記者クラブに安住する彼ら誰ひとりとして予想できなかった小沢幹事長との「刺し違い」により、政党支持率を盛り返したのは、鳩山氏の超ファインプレーと言えます。但し、参院選後も益々政治の混迷が続くことは避けられない。そして、誰がリーダーになっても決断が出来ない体質は、当面の間は、日本にとって、日本円にとって、売り材料ではなく寧ろ買い材料なのだというのが、先日のブログ リーダーの賞味期限 の論旨でした。
中国のGDP統計は、やはり虚偽の数字なのか?
フェニックス証券の優秀な中国人社員が、とても気になる記事を探して来てくれました。
「国家統計局、監査部、司法部の三大司法省庁は、中国全土すべての地方自治体に対して、GDP統計などの経済指標を集計する際に、虚偽報告をしてこなかったかどうかについて、調査を開始したことが明らかになった。」
中国の中枢から発信されている情報は、ここのところ全て、過熱するホットマネー流入と不動産を中心とする金融相場を意図的に調整しようとするものばかりです。彼らの政策態度は、皮肉なことに、サブプライム以降の英米の政策よりも寧ろ、我が国の80年代バブルの終結にむけての日銀の政策(当時の総裁は三重野氏)や、2005年以降の郵政解散後のミニバブルへ向けての金融庁の政策に近いと言えます。
「円高円安は日本の政治次第」という発想は幻想
中国のバブル退治が、新興国全体の過熱経済をハードランディングさせないかどうか?それと、何ら根本的な解決には至っていないユーロ圏の経済動向が、リスク回避の金融商品として定番化した円の評価を握っているのであって、これらに比べれば国内政治の安定化の帰趨は取るに足らない材料だということを認識しておかなければなりません。
民主党の新代表の有力候補である菅直人氏が、円安論者だからとか、草の根政治家だからとかで、鳩山総理辞任発表後の円安を長期トレンドの転換とまで捉えるのは極めて危険です。
大マスコミが何と言おうと、記者クラブに安住する彼ら誰ひとりとして予想できなかった小沢幹事長との「刺し違い」により、政党支持率を盛り返したのは、鳩山氏の超ファインプレーと言えます。但し、参院選後も益々政治の混迷が続くことは避けられない。そして、誰がリーダーになっても決断が出来ない体質は、当面の間は、日本にとって、日本円にとって、売り材料ではなく寧ろ買い材料なのだというのが、先日のブログ リーダーの賞味期限 の論旨でした。
中国のGDP統計は、やはり虚偽の数字なのか?
フェニックス証券の優秀な中国人社員が、とても気になる記事を探して来てくれました。
「国家統計局、監査部、司法部の三大司法省庁は、中国全土すべての地方自治体に対して、GDP統計などの経済指標を集計する際に、虚偽報告をしてこなかったかどうかについて、調査を開始したことが明らかになった。」
中国の中枢から発信されている情報は、ここのところ全て、過熱するホットマネー流入と不動産を中心とする金融相場を意図的に調整しようとするものばかりです。彼らの政策態度は、皮肉なことに、サブプライム以降の英米の政策よりも寧ろ、我が国の80年代バブルの終結にむけての日銀の政策(当時の総裁は三重野氏)や、2005年以降の郵政解散後のミニバブルへ向けての金融庁の政策に近いと言えます。
「円高円安は日本の政治次第」という発想は幻想
中国のバブル退治が、新興国全体の過熱経済をハードランディングさせないかどうか?それと、何ら根本的な解決には至っていないユーロ圏の経済動向が、リスク回避の金融商品として定番化した円の評価を握っているのであって、これらに比べれば国内政治の安定化の帰趨は取るに足らない材料だということを認識しておかなければなりません。
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