日銀の白川総裁が俄に雄弁です。
今週、月曜日火曜日に行われた金融政策決定会合で「長期国債の買い入れペースを、従来の月5000億円から三倍に引き上げる」という金融緩和策の強化を決断したことが、(米国株の上昇や欧州危機の小休止ムード(?)と相俟って、)日本株はさしずめミニバブル状態。
七転び八起きブログでさんざん批判し揶揄してきた「日銀が金融緩和を徹底さえずればデフレと不況が収まるのに、それをサボっている総裁は日本経済のA級戦犯である」的批判を繰り返してきたB級エコノミストたちも、さぞ喜んでいることと思われる一方、真面目な日銀ウォッチャーのなかには、頑固冷徹理路整然の総裁の変節を疑う人も出てきます。
まずは、金融政策決定会合の直後の総裁記者会見の内容と質疑応答。
前半、物価安定(≒インフレ率1%)を「目標」とよぶか「目処」とよぶか「理解」とよぶか、に関するQ&Aでは、その長さとしつこさが、官僚の言葉遊びのように思われてしまいがちです。わたしはここは、日銀はこれまでインフレターゲットを拒絶してきたものの、いま思えばインフレターゲット採用国も経済が滅茶苦茶になっているではないか。それにインフレターゲットとハッキリ言って来なかっただけで日銀がしてきたことも実質的にかなり近かったと、《怖いデータ》の数々を見せつつ何度も言っているじゃないか。今後もそれを連続的に強化していきたいだけで、矛盾も変節もないというのが根底にあるのだと思われます。この点、本日先程リリースされた日本記者クラブでの講演が更に雄弁で、趣旨がわかりやすいです(この講演録の末尾添付のチャートとグラフこそ、上記《怖いデータ》の数々そのものです)。
最初に引用した2/14(火)の記者会見に戻りましょう。お時間の少ない方に最優先で読んでもらいたい箇所は、9ページ目の質問からのところです。つまり、
「財政ファイナンスが目的でない・・・とおっしゃっても、財政政策に一段と近づいてきていると思われるリスク・・・日本銀行がこれまで一番避けてきたマネタイゼーションに近づいているのではないかという疑念を・・・総裁はどう思われますか?・・・・・・政治的圧力に屈したのではないかとの見方・・・?」
生で会見に立ち会ってなくても、ここが質疑応答のなかのクライマックスであると容易に想像がつきます。
ところで、白川総裁はこれらより前の1月にロンドン・スクール・オブ・エコノミクス主催の講演で『デレバレッジと経済成長 ―先進国は日本が過去に歩んだ「長く曲がりくねった道」 を辿っていくのか?―』と題して話をされています。イギリス人相手に、ディケンズやビートルズを引用しながら、政治からの圧力、衆愚(B級エコノミストを含む)からの圧力と向かい合いながら、のらりくらりを演じながらも理路整然かつ分かりやすく金融政策の手綱捌きをしなければならない立場の苦悩が延々と語られています。
ぶっちゃけて言いますと、燻し銀の日銀総裁が、理不尽にもデフレの元凶と罵られ続けて、逆切れしての雄弁、という感じもします。
以上、強引にまとめまして「雄弁は銀」。多かれ少なかれ西側先進国経済はこのような体たらくだから、通貨(為替)で言えば、日米欧の不美人投票はより酷く続くだろう、と考えれば、黙って金を買うのがベストの選択だ、、、という立場がどうやら中国の公共セクター(含む中国人民銀行)のようで、英FT紙によると、2011年の最後の3ヶ月間で、金の購入を更に加速させている とのことです。
世界最大の外貨準備高を誇る中国。米国債を買うのは資本輸出(=資本赤字要因)ですが、金を買うのは輸入(=貿易赤字要因)という国際収支の表の見方の落とし穴から露呈した現実であるところが面白い記事の内容となっています。
2012年2月17日金曜日
2012年2月14日火曜日
ドッド=フランク法の生みの親ボルカー氏大いに吠える
1927年生まれのポール・ボルカー氏が実に元気です。
欧州ソブリン危機の元凶だとの批判は、荒稼ぎができなくなった投資銀行によるお門違いの戯言(たわごと)だと一刀両断です(英FT紙)。
フェニックス証券の「ことりFX」は、実質的に見て、業界で最も有利な水準のスプレッドを提供していると思うのですが、それでも先週あたりから、ドル円で0.4銭とか、これでもか!これでもか!という業者が約2社ほど出てきています。
譬えが婉曲的で恐縮ですが、1990年代、大店法緩和のなかで地方スーパーを競って買収して、シェア拡大を狙った大手から先に倒産して行ってしまい、実は寡占大手の買収を断った地方スーパーは小規模ながら今でも結構生き残っているという皮肉な小売業界が彷彿とされます。
小売における大店法と、FXにおける信託やレバレッジの規制とは比較できませんが、一般に業界の内部の人間というものは、規制に対する意見(賛成意見・反対意見)が一枚岩になる傾向があります。電力業界で、発電・送電・配電の分割やら総括原価方式の見直しやら、規制緩和に賛成という経営者はいないでしょう。大手スーパーや百貨店が相次いで倒産した5年~10年前、大店法は本来大手がスケールメリットを活かして零細商店主のシェアを奪える筈のところを邪魔していて、大手にとって不利な規制であるとして、チェーンストア協会は一貫して撤廃または規制緩和を訴えていたものでした。しかし結果を見るに、実は大店法が大手同士の喰い合いを防いでいて寡占利益を温存していたという事実が判明したのです。
さて、本題。FX業界と証券業界とでは業界利益がかなり違うのですが、証券業界という立場で、ボルカー・ルールに賛成だ、なんて主張すると、村八分になるかも知れません。
しかし、このブログでは、サブプライムショック、リーマンショック、ギリシャショックなどなど、節目節目でモラルハザードを容認する規制にも規制緩和にも反対してきました。
モラルハザードとファイアーウォール
ボルカー元FRB議長が現役復帰
米国にボルカーあり、日本に白川総裁あり
多くの主要国でリーダーが変わるかも知れない2012年、選挙直前のリーダー達は、増税で有権者から嫌われたくないというホンネと、第二、第三、第四・・・のギリシャにしてはならないというタテマエの間で苦悩し、結果として、ボルカールールの受け入れや有価証券取引税の導入など「コレ以上大銀行の血税による救済は許されない」という大衆に受け入れやすい増税方法を選ぶ流れが出来てきています。
フランスも英国の印紙税を真似た有価証券課税が具体化へ と、同じく本日の英FT紙が報じています。
様々な点で金融規制では欧米に先行していた日本は、金融庁に先見の明があったと言えるかも知れません。しかし、全く安心はしていられないのです。「大きすぎて潰せない」金融機関の存在を断固として認めない、そして中央銀行に当座勘定を持つ金融機関は(定義上、商業銀行なのだから)有価証券関連の自己取引は認めない、、、というボルカールールが国際的に抜け目なく適応されるべきだとなったときに、どうすることもできない金融機関が、我が国にも2つや3つはあるのではないでしょうか。
欧州ソブリン危機の元凶だとの批判は、荒稼ぎができなくなった投資銀行によるお門違いの戯言(たわごと)だと一刀両断です(英FT紙)。
フェニックス証券の「ことりFX」は、実質的に見て、業界で最も有利な水準のスプレッドを提供していると思うのですが、それでも先週あたりから、ドル円で0.4銭とか、これでもか!これでもか!という業者が約2社ほど出てきています。
譬えが婉曲的で恐縮ですが、1990年代、大店法緩和のなかで地方スーパーを競って買収して、シェア拡大を狙った大手から先に倒産して行ってしまい、実は寡占大手の買収を断った地方スーパーは小規模ながら今でも結構生き残っているという皮肉な小売業界が彷彿とされます。
小売における大店法と、FXにおける信託やレバレッジの規制とは比較できませんが、一般に業界の内部の人間というものは、規制に対する意見(賛成意見・反対意見)が一枚岩になる傾向があります。電力業界で、発電・送電・配電の分割やら総括原価方式の見直しやら、規制緩和に賛成という経営者はいないでしょう。大手スーパーや百貨店が相次いで倒産した5年~10年前、大店法は本来大手がスケールメリットを活かして零細商店主のシェアを奪える筈のところを邪魔していて、大手にとって不利な規制であるとして、チェーンストア協会は一貫して撤廃または規制緩和を訴えていたものでした。しかし結果を見るに、実は大店法が大手同士の喰い合いを防いでいて寡占利益を温存していたという事実が判明したのです。
さて、本題。FX業界と証券業界とでは業界利益がかなり違うのですが、証券業界という立場で、ボルカー・ルールに賛成だ、なんて主張すると、村八分になるかも知れません。
しかし、このブログでは、サブプライムショック、リーマンショック、ギリシャショックなどなど、節目節目でモラルハザードを容認する規制にも規制緩和にも反対してきました。
モラルハザードとファイアーウォール
ボルカー元FRB議長が現役復帰
米国にボルカーあり、日本に白川総裁あり
多くの主要国でリーダーが変わるかも知れない2012年、選挙直前のリーダー達は、増税で有権者から嫌われたくないというホンネと、第二、第三、第四・・・のギリシャにしてはならないというタテマエの間で苦悩し、結果として、ボルカールールの受け入れや有価証券取引税の導入など「コレ以上大銀行の血税による救済は許されない」という大衆に受け入れやすい増税方法を選ぶ流れが出来てきています。
フランスも英国の印紙税を真似た有価証券課税が具体化へ と、同じく本日の英FT紙が報じています。
様々な点で金融規制では欧米に先行していた日本は、金融庁に先見の明があったと言えるかも知れません。しかし、全く安心はしていられないのです。「大きすぎて潰せない」金融機関の存在を断固として認めない、そして中央銀行に当座勘定を持つ金融機関は(定義上、商業銀行なのだから)有価証券関連の自己取引は認めない、、、というボルカールールが国際的に抜け目なく適応されるべきだとなったときに、どうすることもできない金融機関が、我が国にも2つや3つはあるのではないでしょうか。
2011年12月30日金曜日
割れかけたコロンブスの卵
昨日、12/29(木)のブログで、
「欧州の危機には、統一通貨ゆえに急成長し過ぎたツケと、個別国国債の買い切りには(独立通貨国以上に)抵抗がある中央銀行の存在という特殊要因があるものの・・・・・・」
と書きました。日本のような独立通貨国でも、日銀総裁が頑固だからというだけでなく、中央銀行による国債の直接の引き受けは原則禁止なのです(「国債の市中消化の原則」財政法第5条)。
この「原則」は先進各国共通のようです。しかも「例外のない原則(で)はない」というところも似ています。つまり、いったん市中の銀行に消化された国債を、金融調整目的で、中央銀行が買い上げることは可能であり、結果としてそれを満期まで持つことも可能であり、償還と同時に借換債を購入することも可能なのです。
この抜け道に注目したのが、今月、欧州で決定されたLTRO(長期リファイナンス・オペレーション、または長期レポ・オペレーション)だと言えます。
借り換えが困難な国の国債をECBが直接買えないのは、市中消化が原則であるだけでなく、健康な国の税金で運営されている(欧州)中央銀行を病気(の国の国債)のリスクに曝(さら)すことへの愛国心的な抵抗があります。そこを、やや健康な国の銀行にまで病気のリスクが蔓延していることを奇貨として、今回はまずイタリアの国債でしたが、これを買って担保に入れることを条件に(?)、それらの銀行に金を貸してあげるという枠組みになったのです。
中央銀行が助けたいのは国の財政だが、それが直接できないから、民間の銀行を導管として使う(使われた銀行も悪い気はしない)というのは見事な抜け道ですし、コロンブスの卵です。
このコロンブスの卵、ユーロ圏では、(市中消化の原則だけでなく)自らは健康だと思っている国の愛国心を回避するためのアイデアであったわけですが、愛国心の問題を気にしなくても済む日本でも米国でも応用できるかも知れず、そうであれば、消費税のことで与党内で揉めたり、離党議員や支持率の低下で悩まなくても良いのです。
ほんとうにそうでしょうか?イタリア国債の入札が、上記理由で順調であったにもかかわらず、ユーロは対ドルでも対円でも大きく下落しています。
「欧州の危機には、統一通貨ゆえに急成長し過ぎたツケと、個別国国債の買い切りには(独立通貨国以上に)抵抗がある中央銀行の存在という特殊要因があるものの・・・・・・」
と書きました。日本のような独立通貨国でも、日銀総裁が頑固だからというだけでなく、中央銀行による国債の直接の引き受けは原則禁止なのです(「国債の市中消化の原則」財政法第5条)。
この「原則」は先進各国共通のようです。しかも「例外のない原則(で)はない」というところも似ています。つまり、いったん市中の銀行に消化された国債を、金融調整目的で、中央銀行が買い上げることは可能であり、結果としてそれを満期まで持つことも可能であり、償還と同時に借換債を購入することも可能なのです。
この抜け道に注目したのが、今月、欧州で決定されたLTRO(長期リファイナンス・オペレーション、または長期レポ・オペレーション)だと言えます。
借り換えが困難な国の国債をECBが直接買えないのは、市中消化が原則であるだけでなく、健康な国の税金で運営されている(欧州)中央銀行を病気(の国の国債)のリスクに曝(さら)すことへの愛国心的な抵抗があります。そこを、やや健康な国の銀行にまで病気のリスクが蔓延していることを奇貨として、今回はまずイタリアの国債でしたが、これを買って担保に入れることを条件に(?)、それらの銀行に金を貸してあげるという枠組みになったのです。
中央銀行が助けたいのは国の財政だが、それが直接できないから、民間の銀行を導管として使う(使われた銀行も悪い気はしない)というのは見事な抜け道ですし、コロンブスの卵です。
このコロンブスの卵、ユーロ圏では、(市中消化の原則だけでなく)自らは健康だと思っている国の愛国心を回避するためのアイデアであったわけですが、愛国心の問題を気にしなくても済む日本でも米国でも応用できるかも知れず、そうであれば、消費税のことで与党内で揉めたり、離党議員や支持率の低下で悩まなくても良いのです。
ほんとうにそうでしょうか?イタリア国債の入札が、上記理由で順調であったにもかかわらず、ユーロは対ドルでも対円でも大きく下落しています。
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2011年11月30日水曜日
中国が金融緩和へと政策を急転換か!?
ただいまウォールストリートジャーナルが速報で伝えたところによると、中国の中央銀行が、民間銀行に貸している支払準備率を0.5%引き下げると発表、12月5日実行とのことです。
http://online.wsj.com/article/SB10001424052970204012004577069804232647954.html?mod=djemalertNEWS
支払準備率を引き下げるのは2008年12月以来、3年振りですし、今年だけでも5回、引き「上げ」を行なってきたところです。
景気過熱、物価高、不動産バブルへの対策として、金融引き締め策を次々と打ち出してきた金融当局が、一転して、金融緩和のシグナルを鳴らしたのは、グローバルな金融市場の混乱が背景にあると、同紙は、取り急ぎ、報じています。
景気の過熱と資産バブルをソフトランディングさせる良い知恵はないかどうか、中国のエリートは、どこの国よりも一生懸命勉強してきていたとわたしは見ており、その答えがないことを、この政策転換は示しているのかも知れません。
http://online.wsj.com/article/SB10001424052970204012004577069804232647954.html?mod=djemalertNEWS
支払準備率を引き下げるのは2008年12月以来、3年振りですし、今年だけでも5回、引き「上げ」を行なってきたところです。
景気過熱、物価高、不動産バブルへの対策として、金融引き締め策を次々と打ち出してきた金融当局が、一転して、金融緩和のシグナルを鳴らしたのは、グローバルな金融市場の混乱が背景にあると、同紙は、取り急ぎ、報じています。
景気の過熱と資産バブルをソフトランディングさせる良い知恵はないかどうか、中国のエリートは、どこの国よりも一生懸命勉強してきていたとわたしは見ており、その答えがないことを、この政策転換は示しているのかも知れません。
2011年11月17日木曜日
中央銀行の押し目買い
買ったのは金(ゴールド)です。
英フィナンシャル・タイムズ紙の速報によると、金相場が急反落した9月を含む第三四半期に、過去40年で最大金額の金を中央銀行(セクター)が購入したと伝えています。
情報元は、どこの中央銀行が、という内訳は公表できないとしていますが、金地金市場に初めて参入する中央銀行からの旺盛な買い意欲があったと、仄めかしています。
「過去40年」とは、米国が金本位制を嘯いていたブレトンウッズ体制の崩壊以降の記録的金額ということになります。中央銀行セクター全体では、2008年~2009年は金を大量に売り越しており、昨年2010年に買いに転じていました。
さて、金を買って何を売っていたのでしょうか?外貨準備が急増した新興国の中央銀行だとしたら、欧州の国債か、金融引き締めのための自国マネーということが想像できますが、詳しいことはわかりません。
記事の最後に、宝飾品として金の最大の消費国として、中国がインドを追い越したと説明されています。
英フィナンシャル・タイムズ紙の速報によると、金相場が急反落した9月を含む第三四半期に、過去40年で最大金額の金を中央銀行(セクター)が購入したと伝えています。
情報元は、どこの中央銀行が、という内訳は公表できないとしていますが、金地金市場に初めて参入する中央銀行からの旺盛な買い意欲があったと、仄めかしています。
「過去40年」とは、米国が金本位制を嘯いていたブレトンウッズ体制の崩壊以降の記録的金額ということになります。中央銀行セクター全体では、2008年~2009年は金を大量に売り越しており、昨年2010年に買いに転じていました。
さて、金を買って何を売っていたのでしょうか?外貨準備が急増した新興国の中央銀行だとしたら、欧州の国債か、金融引き締めのための自国マネーということが想像できますが、詳しいことはわかりません。
記事の最後に、宝飾品として金の最大の消費国として、中国がインドを追い越したと説明されています。
2010年7月12日月曜日
ねじれ国会の悪夢で、どう転んでも円安か!?
週末の参院選直前ブログで、選挙結果の場合分けを通じて、移ろいゆく民意は、民主党の大勝も大敗も望んでおらず、惜敗を経ての「民みん連立」を望んでいるのではなかろうかと分析しました。
結果は、惜敗というよりは大敗でした。万が一(?)みんなの党がごっそり与党議席に加算され、野党議席から減産されても、国民新党の非改選議席を考慮する以前に、僅かながら過半数に至らないという計算結果になります(離反、造反を考慮せず)。
日本海側を中心とする多くの一人区の結果は、民主党にとっては惜敗からは程遠い惨敗ですが、みんなの党と組んでもねじれを解消出来ないというのは、有権者にとっての惜敗なのかも知れません。
「選挙結果なんかは、翌朝のニュースで十分」という合理的な考えを敢えて捨てて、開票速報にチャンネルを回すのは、マスメディアの演出の巧みさなのか、嗜好品や博打と同じで依存症なのか、私も12時までは見ていました。数字上では≪ぎりぎり民主党とみんなの党の連立が無意味≫という最終結論が判明するまでの間も、両党の幹部は、「個別政策協議はあっても、連立は有り得ない」的表現を繰り返していた風景は、東京選挙区での共産党の小池さんとみんなの党の松田さんの激戦ぶりと相俟って視聴率の源泉だったようです。
無論、政治はハッタリと妥協の繰り返しでしょうから、一夜明けてどうなるかは予想だに出来ません。昨夜の時点では、自信満々のみん党幹部が、「自分たちの政策を丸飲みするなら」と高飛車に出るのは心情的にも判るし戦略的にも間違ってはいないのでしょう。
それにしても気になるのが、霞が関や郵政や地方分権など、民主党(すくなくとも菅首相への交代後の)と共同戦線が張れる分野が多いことを強調せずに、「根本が違う」ことを強調し、政策を呑めるかどうかの第一の試金石として日銀法改悪を真っ先に掲げるところは、単なる経済音痴なのか、改革者の仮面を被った「ばら撒き政党」という実態のせいなのか、ベンチャービジネスや外資系企業での成功者たち(の資産形成の手口)は所詮インフレ選好だからなのか、、、、、、兎に角、みんなの党を躍進させた熱狂たるは、表向き小さな政府を志向する革新政党が「中央銀行の貸借対照表を大きくしたくて堪らない」という急先鋒であるという醜い矛盾には全く気付いていないことを、この外国為替証拠金(FX)ブログとしては、指摘しておかざるを得ません。
つまり、民主党がみん党の政策を丸飲みしたとしても、円安。ねじれ国会の再現を食い止められなかったとしても、明らかに政治迷走で円安。
ということです。
勿論、政治迷走は、日本だけではありませんから、今日以降一切円高局面がないということは有り得ないでしょう。なので、慌てずにFXの準備をされたいかたら、コチラ!?
http://phxs.jp/
玄葉政調会長の『速報経過は「消費税よりも(霞が関改革や国会議員定数削減など)無駄削減を先に示せ』というのが民意だと解釈したい」という読解力センスに、一縷の望みを見た気がします。
結果は、惜敗というよりは大敗でした。万が一(?)みんなの党がごっそり与党議席に加算され、野党議席から減産されても、国民新党の非改選議席を考慮する以前に、僅かながら過半数に至らないという計算結果になります(離反、造反を考慮せず)。
日本海側を中心とする多くの一人区の結果は、民主党にとっては惜敗からは程遠い惨敗ですが、みんなの党と組んでもねじれを解消出来ないというのは、有権者にとっての惜敗なのかも知れません。
「選挙結果なんかは、翌朝のニュースで十分」という合理的な考えを敢えて捨てて、開票速報にチャンネルを回すのは、マスメディアの演出の巧みさなのか、嗜好品や博打と同じで依存症なのか、私も12時までは見ていました。数字上では≪ぎりぎり民主党とみんなの党の連立が無意味≫という最終結論が判明するまでの間も、両党の幹部は、「個別政策協議はあっても、連立は有り得ない」的表現を繰り返していた風景は、東京選挙区での共産党の小池さんとみんなの党の松田さんの激戦ぶりと相俟って視聴率の源泉だったようです。
無論、政治はハッタリと妥協の繰り返しでしょうから、一夜明けてどうなるかは予想だに出来ません。昨夜の時点では、自信満々のみん党幹部が、「自分たちの政策を丸飲みするなら」と高飛車に出るのは心情的にも判るし戦略的にも間違ってはいないのでしょう。
それにしても気になるのが、霞が関や郵政や地方分権など、民主党(すくなくとも菅首相への交代後の)と共同戦線が張れる分野が多いことを強調せずに、「根本が違う」ことを強調し、政策を呑めるかどうかの第一の試金石として日銀法改悪を真っ先に掲げるところは、単なる経済音痴なのか、改革者の仮面を被った「ばら撒き政党」という実態のせいなのか、ベンチャービジネスや外資系企業での成功者たち(の資産形成の手口)は所詮インフレ選好だからなのか、、、、、、兎に角、みんなの党を躍進させた熱狂たるは、表向き小さな政府を志向する革新政党が「中央銀行の貸借対照表を大きくしたくて堪らない」という急先鋒であるという醜い矛盾には全く気付いていないことを、この外国為替証拠金(FX)ブログとしては、指摘しておかざるを得ません。
つまり、民主党がみん党の政策を丸飲みしたとしても、円安。ねじれ国会の再現を食い止められなかったとしても、明らかに政治迷走で円安。
ということです。
勿論、政治迷走は、日本だけではありませんから、今日以降一切円高局面がないということは有り得ないでしょう。なので、慌てずにFXの準備をされたいかたら、コチラ!?
http://phxs.jp/
玄葉政調会長の『速報経過は「消費税よりも(霞が関改革や国会議員定数削減など)無駄削減を先に示せ』というのが民意だと解釈したい」という読解力センスに、一縷の望みを見た気がします。
2010年7月9日金曜日
民主苦戦-参院選終盤の世論調査に思う
腐った鯛になってしまった小沢=鳩山の置き土産・・・
小沢幹事長(当時)との「刺し違い」により、政党支持率を盛り返せたのは、鳩山首相(当時)の超ファインプレー だと、去る6月3日にこのブログで書きました。棚から牡丹餅どころか、とれたてピチピチの鯛のような置き土産を、菅新総理。彼の消費税発言を、殆どのマスメディアも、そして恐らく国民も、愚かにも程があると断罪しているように見えますが、果たしてそうでしょうか?
代議制民主政治においては、投票行動が有権者の希望する政治や政策に簡単には結びつかないものです。その最たる例こそ、小沢=鳩山体制で、連立の相手として社民党と国民新党が選ばれてしまった直近の事案でしょう。二院制では、永遠にねじれが続くかも知れないエネロス体質の政界では、殆どの有権者にとって不条理な、選挙後の合従連衡については制御不能なのです。
わたしは、小沢=鳩山体制が、かくも脆く、かくも短命だった理由は、普天間問題や政治とカネの問題だけではないと思っています。普天間とは大いに関連しますが、数合わせのためだけに選ばれた連立相手が手枷足枷となり、昨年の衆院選時の有権者の投票行動の基盤であった民主党らしさへの選好や期待が見事に裏切られた点のほうがより重要です。
「腐っても鯛ですから・・・」と、みんなの党に「御裾分け」
民主党らしさを、今更ながらでも、一番引き出しうる連立相手は、やはりと言って良いものかどうか判りませんが、みんなの党ではないか。。。多くの有権者(特に都市部や若年層の有権者)だけでなく、菅総理そのひとも考えていたとしたら、首相交代時の置き土産(みんなの党に流れていた支持率が一挙に民主党に逆流した)を敢えて温存せずに、その半分以上をみんなの党に「御裾分け」してあげた「消費税発言」は計算通りの「国民新党への三行半」であった。そこまで考えるのは、菅総理の権謀術数を買いかぶり過ぎているでしょうか。
殆どのメディアが公表している参院選終盤の世論調査をさっと読むと、ざっくり、次の3つのような、非連続的な場合分けが出来るのではないか。すなわち、
①民主党を勝たせ過ぎても、国民新党と必ずしも手を切らないかも知れない、
②民主党を負けさせ過ぎると例の青鬼くん が出て来てしまう
青鬼くんは立派です。「静かにしていてね」と赤鬼くんに言われているにもかかわらず、「消費税発言のせいで選挙に負けるようなことがあったら、じっとしてないよ」と早速出しゃばり、あたかも約束を守っていないふりをしてくれている、、、
③民主党が適度に負けて、完全に埋没中の国民新党と組む意味がない程度となれば、みんなと党が連立相手にならざるを得ない。
百点満点とは言えない「民みん連合」だが・・・
みんなの党だって、どんなに躍進したって、単独過半数の政権を取れない以上、選挙後民主党とあっさり休戦して、「官僚叩きは自分たちに任せて下さい」という展開に、、、さすがに、善戦の自民と組むことは自己否定となってしまうから有り得ないだろうという前提、、、
繰り返し、菅総理の手練手管については買いかぶり過ぎかも知れませんが、いっぽうで、圧勝確実だった昨年の衆院選の直前に、敢えて民主党を飛び出し、みんなの党に合流した浅尾慶一郎さんのような代議士もいたことを付言したいと思います。彼にあったのは、勇気だけではなくて、先を見通す力だったのかも知れません。
無駄に大きな政府をいよいよ何とかしないといけないというは、私だけでなく、このブログの読者全員が日々考えていらっしゃることだと思います。ただし、それでも、「民みん連合」が百点満点の政治をするとは思っておりません。「デフレの元凶は日銀にある」という主張で凝り固まっているみんなの党の幹部の皆さんには、もう一度良く経済学を勉強してもらいたい(少なくとも謙虚に日銀総裁のレクチャーを聞くべき)だと思います。
小沢幹事長(当時)との「刺し違い」により、政党支持率を盛り返せたのは、鳩山首相(当時)の超ファインプレー だと、去る6月3日にこのブログで書きました。棚から牡丹餅どころか、とれたてピチピチの鯛のような置き土産を、菅新総理。彼の消費税発言を、殆どのマスメディアも、そして恐らく国民も、愚かにも程があると断罪しているように見えますが、果たしてそうでしょうか?
代議制民主政治においては、投票行動が有権者の希望する政治や政策に簡単には結びつかないものです。その最たる例こそ、小沢=鳩山体制で、連立の相手として社民党と国民新党が選ばれてしまった直近の事案でしょう。二院制では、永遠にねじれが続くかも知れないエネロス体質の政界では、殆どの有権者にとって不条理な、選挙後の合従連衡については制御不能なのです。
わたしは、小沢=鳩山体制が、かくも脆く、かくも短命だった理由は、普天間問題や政治とカネの問題だけではないと思っています。普天間とは大いに関連しますが、数合わせのためだけに選ばれた連立相手が手枷足枷となり、昨年の衆院選時の有権者の投票行動の基盤であった民主党らしさへの選好や期待が見事に裏切られた点のほうがより重要です。
「腐っても鯛ですから・・・」と、みんなの党に「御裾分け」
民主党らしさを、今更ながらでも、一番引き出しうる連立相手は、やはりと言って良いものかどうか判りませんが、みんなの党ではないか。。。多くの有権者(特に都市部や若年層の有権者)だけでなく、菅総理そのひとも考えていたとしたら、首相交代時の置き土産(みんなの党に流れていた支持率が一挙に民主党に逆流した)を敢えて温存せずに、その半分以上をみんなの党に「御裾分け」してあげた「消費税発言」は計算通りの「国民新党への三行半」であった。そこまで考えるのは、菅総理の権謀術数を買いかぶり過ぎているでしょうか。
殆どのメディアが公表している参院選終盤の世論調査をさっと読むと、ざっくり、次の3つのような、非連続的な場合分けが出来るのではないか。すなわち、
①民主党を勝たせ過ぎても、国民新党と必ずしも手を切らないかも知れない、
②民主党を負けさせ過ぎると例の青鬼くん が出て来てしまう
青鬼くんは立派です。「静かにしていてね」と赤鬼くんに言われているにもかかわらず、「消費税発言のせいで選挙に負けるようなことがあったら、じっとしてないよ」と早速出しゃばり、あたかも約束を守っていないふりをしてくれている、、、
③民主党が適度に負けて、完全に埋没中の国民新党と組む意味がない程度となれば、みんなと党が連立相手にならざるを得ない。
百点満点とは言えない「民みん連合」だが・・・
みんなの党だって、どんなに躍進したって、単独過半数の政権を取れない以上、選挙後民主党とあっさり休戦して、「官僚叩きは自分たちに任せて下さい」という展開に、、、さすがに、善戦の自民と組むことは自己否定となってしまうから有り得ないだろうという前提、、、
繰り返し、菅総理の手練手管については買いかぶり過ぎかも知れませんが、いっぽうで、圧勝確実だった昨年の衆院選の直前に、敢えて民主党を飛び出し、みんなの党に合流した浅尾慶一郎さんのような代議士もいたことを付言したいと思います。彼にあったのは、勇気だけではなくて、先を見通す力だったのかも知れません。
無駄に大きな政府をいよいよ何とかしないといけないというは、私だけでなく、このブログの読者全員が日々考えていらっしゃることだと思います。ただし、それでも、「民みん連合」が百点満点の政治をするとは思っておりません。「デフレの元凶は日銀にある」という主張で凝り固まっているみんなの党の幹部の皆さんには、もう一度良く経済学を勉強してもらいたい(少なくとも謙虚に日銀総裁のレクチャーを聞くべき)だと思います。
ラベル:
経済学,
政治と選挙と民主主義,
中央銀行
2010年7月6日火曜日
社会保障と経済成長は二者択一ではない
もう17年前のことになります。社会人5年目を迎えた1993年4月、日本興業銀行(当時、現在はみずほグループ)の総合企画部に配属され、人生初の東京生活を始めて1週間。週末、独身寮に住む同期にこう語ったことを覚えています。「たった1週間だが、この会社は老い先短いと確信した。会社を変えることが出来るとすれば、それは役員でもなければ、残念ながら総合企画部でもない。株主(総会)か労働組合しかないだろう」と。
ご覧の通り、形骸化した株主総会にも、御用組合の典型である労組にも、期待できる筈がなく、今日の姿を迎えているわけです。
現在では製造業を含む殆どの大企業が正社員と非正規従業員の理不尽な対立を孕んでいるなかで、もの言わぬ株主と、もの言わぬ非正規従業員の双方から既得権益を収奪し続けようとしているのが企業別労働組合です。当時の銀行は、良きにつけ悪しきにつけ、正規非正規の対立はなく、全員が幹部候補生という稀有な組織でした。組織化率が異例に高い御用組合にも、造反有理の一縷の望みはあったと思ったものでありました。
昨夜のブログ
消費税より前に重要な争点がある「日銀党宣言」
に掲載させていただいた日銀論文
北欧にみる成長補完型セーフティネット~労働市場の柔軟性を高める社会保障政策~
を読むと、常識的には資本の論理(株主の論理)と矛盾対立すると思われる労働組合というものが、目標設定次第では、雇用の促進と成長の促進という一石二鳥をドライブしうることがおわかりいただけます。
格差、経済成長、財政規律、、、これらを全問正解することは政治にとってたいへんな難問であることは間違いないでしょうが、ただいまの日本は何ともはや全問不正解という稀有な状態に落ち込んでいるわけです。この理由も、上記論文で淡々と説明されています。
ひとつだけ取り上げると、「生涯教育」の在り方が全く違うということ。北欧では産業別労働組合が運営する職業訓練、技能訓練であるが、日本では余暇を持て余す人達向けの趣味に費やされ(全国各地に「よくもまあこんなに建設したな・・・」と呆れるほどの量と質の「公民館」で、義理でもなければ聴きに行きたいと誰も思わないような素人演芸会が日夜行なわれている)。後期高齢者医療制度を批判する前に、やることが一杯あったのです。
ご覧の通り、形骸化した株主総会にも、御用組合の典型である労組にも、期待できる筈がなく、今日の姿を迎えているわけです。
現在では製造業を含む殆どの大企業が正社員と非正規従業員の理不尽な対立を孕んでいるなかで、もの言わぬ株主と、もの言わぬ非正規従業員の双方から既得権益を収奪し続けようとしているのが企業別労働組合です。当時の銀行は、良きにつけ悪しきにつけ、正規非正規の対立はなく、全員が幹部候補生という稀有な組織でした。組織化率が異例に高い御用組合にも、造反有理の一縷の望みはあったと思ったものでありました。
昨夜のブログ
消費税より前に重要な争点がある「日銀党宣言」
に掲載させていただいた日銀論文
北欧にみる成長補完型セーフティネット~労働市場の柔軟性を高める社会保障政策~
を読むと、常識的には資本の論理(株主の論理)と矛盾対立すると思われる労働組合というものが、目標設定次第では、雇用の促進と成長の促進という一石二鳥をドライブしうることがおわかりいただけます。
格差、経済成長、財政規律、、、これらを全問正解することは政治にとってたいへんな難問であることは間違いないでしょうが、ただいまの日本は何ともはや全問不正解という稀有な状態に落ち込んでいるわけです。この理由も、上記論文で淡々と説明されています。
ひとつだけ取り上げると、「生涯教育」の在り方が全く違うということ。北欧では産業別労働組合が運営する職業訓練、技能訓練であるが、日本では余暇を持て余す人達向けの趣味に費やされ(全国各地に「よくもまあこんなに建設したな・・・」と呆れるほどの量と質の「公民館」で、義理でもなければ聴きに行きたいと誰も思わないような素人演芸会が日夜行なわれている)。後期高齢者医療制度を批判する前に、やることが一杯あったのです。
2010年7月5日月曜日
消費税より前に重要な争点がある「日銀党宣言」
政治や政策を論ずるときに、日本銀行の話題が出ていれば、その殆どが、金融緩和政策の不徹底(含むインフレ目標を設定しないこと)への批判であると思われます。与党野党を問わず(革新系のごくわずかな代議士を除き)不景気打開の隘路を日銀の不作為に求めるのは常習化しているのであります。
かくして、財政再建と経済成長を両立することは、菅直人首相の言う通り、難問題であることは確かです。選挙前のタブーとして定着している消費税問題を敢えて争点にした、内閣支持率再び急落中の同氏の清々しさに一票を投じたい気持ちはあります。
さはさりながら、消費税云々以前に重要な争点があることを、実にその日銀が先刻アップした論文は示しています。
北欧にみる成長補完型セーフティネット~労働市場の柔軟性を高める社会保障政策~
本文は長いですが、どうか冒頭の要約と、後半のグラフィックだけでも御一瞥下さい。この国の不幸が、主として大企業や官僚機構の(本質的には持続不能であることを自他ともに認めている)終身雇用と年功序列、それらの既得権益を無理矢理支える企業別労働組合と労働法制(含む解雇法制における重要な判例)であることがおわかりいただけます。
七転び八起きブログで繰り返し主張してきたこの争点ですが、この国の更に不幸な点は、この既得権益を本気で打破しようとしている政治家が、私の知る限り、二大政党にも第三極の諸派にも伝統的革新野党にもいらっしゃらないことです。
かくして、財政再建と経済成長を両立することは、菅直人首相の言う通り、難問題であることは確かです。選挙前のタブーとして定着している消費税問題を敢えて争点にした、内閣支持率再び急落中の同氏の清々しさに一票を投じたい気持ちはあります。
さはさりながら、消費税云々以前に重要な争点があることを、実にその日銀が先刻アップした論文は示しています。
北欧にみる成長補完型セーフティネット~労働市場の柔軟性を高める社会保障政策~
本文は長いですが、どうか冒頭の要約と、後半のグラフィックだけでも御一瞥下さい。この国の不幸が、主として大企業や官僚機構の(本質的には持続不能であることを自他ともに認めている)終身雇用と年功序列、それらの既得権益を無理矢理支える企業別労働組合と労働法制(含む解雇法制における重要な判例)であることがおわかりいただけます。
七転び八起きブログで繰り返し主張してきたこの争点ですが、この国の更に不幸な点は、この既得権益を本気で打破しようとしている政治家が、私の知る限り、二大政党にも第三極の諸派にも伝統的革新野党にもいらっしゃらないことです。
2010年6月3日木曜日
菅直人新総理=円安トレンドへの転換、、、と決め込むのは未だ早過ぎる
小鳩「刺し違い」はファインプレーだが、、、
民主党の新代表の有力候補である菅直人氏が、円安論者だからとか、草の根政治家だからとかで、鳩山総理辞任発表後の円安を長期トレンドの転換とまで捉えるのは極めて危険です。
大マスコミが何と言おうと、記者クラブに安住する彼ら誰ひとりとして予想できなかった小沢幹事長との「刺し違い」により、政党支持率を盛り返したのは、鳩山氏の超ファインプレーと言えます。但し、参院選後も益々政治の混迷が続くことは避けられない。そして、誰がリーダーになっても決断が出来ない体質は、当面の間は、日本にとって、日本円にとって、売り材料ではなく寧ろ買い材料なのだというのが、先日のブログ リーダーの賞味期限 の論旨でした。
中国のGDP統計は、やはり虚偽の数字なのか?
フェニックス証券の優秀な中国人社員が、とても気になる記事を探して来てくれました。
「国家統計局、監査部、司法部の三大司法省庁は、中国全土すべての地方自治体に対して、GDP統計などの経済指標を集計する際に、虚偽報告をしてこなかったかどうかについて、調査を開始したことが明らかになった。」
中国の中枢から発信されている情報は、ここのところ全て、過熱するホットマネー流入と不動産を中心とする金融相場を意図的に調整しようとするものばかりです。彼らの政策態度は、皮肉なことに、サブプライム以降の英米の政策よりも寧ろ、我が国の80年代バブルの終結にむけての日銀の政策(当時の総裁は三重野氏)や、2005年以降の郵政解散後のミニバブルへ向けての金融庁の政策に近いと言えます。
「円高円安は日本の政治次第」という発想は幻想
中国のバブル退治が、新興国全体の過熱経済をハードランディングさせないかどうか?それと、何ら根本的な解決には至っていないユーロ圏の経済動向が、リスク回避の金融商品として定番化した円の評価を握っているのであって、これらに比べれば国内政治の安定化の帰趨は取るに足らない材料だということを認識しておかなければなりません。
民主党の新代表の有力候補である菅直人氏が、円安論者だからとか、草の根政治家だからとかで、鳩山総理辞任発表後の円安を長期トレンドの転換とまで捉えるのは極めて危険です。
大マスコミが何と言おうと、記者クラブに安住する彼ら誰ひとりとして予想できなかった小沢幹事長との「刺し違い」により、政党支持率を盛り返したのは、鳩山氏の超ファインプレーと言えます。但し、参院選後も益々政治の混迷が続くことは避けられない。そして、誰がリーダーになっても決断が出来ない体質は、当面の間は、日本にとって、日本円にとって、売り材料ではなく寧ろ買い材料なのだというのが、先日のブログ リーダーの賞味期限 の論旨でした。
中国のGDP統計は、やはり虚偽の数字なのか?
フェニックス証券の優秀な中国人社員が、とても気になる記事を探して来てくれました。
「国家統計局、監査部、司法部の三大司法省庁は、中国全土すべての地方自治体に対して、GDP統計などの経済指標を集計する際に、虚偽報告をしてこなかったかどうかについて、調査を開始したことが明らかになった。」
中国の中枢から発信されている情報は、ここのところ全て、過熱するホットマネー流入と不動産を中心とする金融相場を意図的に調整しようとするものばかりです。彼らの政策態度は、皮肉なことに、サブプライム以降の英米の政策よりも寧ろ、我が国の80年代バブルの終結にむけての日銀の政策(当時の総裁は三重野氏)や、2005年以降の郵政解散後のミニバブルへ向けての金融庁の政策に近いと言えます。
「円高円安は日本の政治次第」という発想は幻想
中国のバブル退治が、新興国全体の過熱経済をハードランディングさせないかどうか?それと、何ら根本的な解決には至っていないユーロ圏の経済動向が、リスク回避の金融商品として定番化した円の評価を握っているのであって、これらに比べれば国内政治の安定化の帰趨は取るに足らない材料だということを認識しておかなければなりません。
2010年5月12日水曜日
もう一度観に行きます!!「ザ・パワー・オブ・イエス」@ザ・スズナリ(下北沢)
下北沢の小劇場初体験だった私にとって、批判精神に満ち溢れた燐光群の舞台演劇「ザ・パワー・オブ・イエス」は期待を上回る素晴らしいものでした。
http://www.alles.or.jp/~rinkogun/Next.html
http://www.alles.or.jp/~rinkogun/Next_files/Yes%20ura.pdf
なるほど、英国のナショナルシアター(収容人数800人以上)を半年以上も沸かせ続けた舞台だけのことはあります。
サブプライムローン問題やリーマンショックを扱った舞台演劇の日本語版の難しさは金融という「形の無いもの」を表現することの難しさだけではありませんでした。
我々日本に住んでいる以上は比較的馴染みのある(?)「米国発」の情報(グリーンスパン、ポールソン、ゴールドマンサックス・・・)に比べると、英国市場の登場人物(マーヴィン=キング、ゴードン=ブラウン、スコットランド王立銀行・・・)というのは多少耳に馴染みがある程度であって、彼らがどういう経緯で何が悪かったのかハッキリと思いだすのは難しいものです。
そこで勿論必須ではないのですが、参考になればと思い、七転び八起きブログで、過去にイギリス特有の事情について取り扱った記事を以下にまとめさせていただきます。
2009年3月17日火曜日「中国、外貨準備の運用で巨額損失」
2009年1月22日木曜日「ポンド危機、再び」
2008年10月7日火曜日「臨時ニュース【夕刊】」
2008年9月18日木曜日「♀♂性の起源♂♀」
NHKのドラマ「ハゲタカ」や「監査法人」のように、特定の悪徳企業(?)に関する情報を毎日シャワーのように浴びたあと具体的なイメージを想起させつつエンターテインさせる手法に比べると、脚本家、演出家、そして何と言っても役者さんたちの苦労は甚大です。しかし、単に島国ということだけが共通点ではないという意味で、イギリス事情を探求しつつ、敢えて直訳的に、直球勝負で輸入されたこの翻訳劇を、今の日本で鑑賞することは大変意義深いと思いました。
http://www.alles.or.jp/~rinkogun/Next.html
http://www.alles.or.jp/~rinkogun/Next_files/Yes%20ura.pdf
なるほど、英国のナショナルシアター(収容人数800人以上)を半年以上も沸かせ続けた舞台だけのことはあります。
サブプライムローン問題やリーマンショックを扱った舞台演劇の日本語版の難しさは金融という「形の無いもの」を表現することの難しさだけではありませんでした。
我々日本に住んでいる以上は比較的馴染みのある(?)「米国発」の情報(グリーンスパン、ポールソン、ゴールドマンサックス・・・)に比べると、英国市場の登場人物(マーヴィン=キング、ゴードン=ブラウン、スコットランド王立銀行・・・)というのは多少耳に馴染みがある程度であって、彼らがどういう経緯で何が悪かったのかハッキリと思いだすのは難しいものです。
そこで勿論必須ではないのですが、参考になればと思い、七転び八起きブログで、過去にイギリス特有の事情について取り扱った記事を以下にまとめさせていただきます。
2009年3月17日火曜日「中国、外貨準備の運用で巨額損失」
2009年1月22日木曜日「ポンド危機、再び」
2008年10月7日火曜日「臨時ニュース【夕刊】」
2008年9月18日木曜日「♀♂性の起源♂♀」
NHKのドラマ「ハゲタカ」や「監査法人」のように、特定の悪徳企業(?)に関する情報を毎日シャワーのように浴びたあと具体的なイメージを想起させつつエンターテインさせる手法に比べると、脚本家、演出家、そして何と言っても役者さんたちの苦労は甚大です。しかし、単に島国ということだけが共通点ではないという意味で、イギリス事情を探求しつつ、敢えて直訳的に、直球勝負で輸入されたこの翻訳劇を、今の日本で鑑賞することは大変意義深いと思いました。
2010年5月7日金曜日
ザ・パワー・オブ・イエス
平均寿命が3年乃至4年との説もあるインディーズ系オペラの主催者たちに翻弄されている(?)身分としては、設立30周年が間近という劇団「燐光群」の気骨に感銘を覚えます。その「燐光群」が来週5月10日(月)から東京・下北沢ザ・スズナリで(追って大阪~名古屋とロードショー)、先月まで英国National Theatreで好評を博していた演劇「ザ・パワー・オブ・イエス」を上演します。
http://www.alles.or.jp/~rinkogun/Next.html
劇団「燐光群」からのメッセージの一部を御紹介します。
「2008年9月、リーマン・ブラザーズ破綻から始まった未曾有の経済危機は、世界中に広がりました。日本でも企業倒産、失業者増加など、今なお私たちの生活に影響を及ぼしています。・・・アメリカの投機家ジョージソロス、元金融庁長官ハワード・ディビス等、劇作家デイヴィッド・ヘアーに直接取材を受けた金融界の大物たちが劇中人物として続々登場、「世界金融危機で何が起こったか」が語られます。またヘアーの助手としてナショナル・シアターに雇われた女子大生を通じて、英金融サービスの誕生と成長、崩壊の過程を辿ってゆきます。・・・ヘッジファンドの投資を熱狂的に支えた「ブラック・ショールズ方程式」についても知ることが出来ます。経済危機について視覚的、感覚的に捉えることを可能にした、ジャーナリズム演劇の新しい成果と言えるでしょう」
リーマンショックは良くも悪くも「七転び八起きブログ~為替力」の原点です。これをメインテーマに据えるという難しくも丁寧な作業を施した戯曲が、金融依存経済の治癒に手を拱くロンドンでロングランを成功させ、劇団「燐光群」の創設者であり演出家でもある坂手洋二さんの手により日本語上演されるのが、奇しくも、ギリシャショック、否、シティショックの直後の来週からというのも不思議な縁であると思われます。
私も来週、出張等の合間を縫って、下北沢まで観劇に赴くつもりです。感想は改めてブログにアップさせていただく所存です。
チケットのおもとめは、まず会員登録から。
https://www.e-get.jp/rinkogun/howto/rule.html
または、お電話にて、、、
燐光群/(有)グッドフェローズ 〒154-0022 世田谷区梅丘1-24-14 フリート梅丘202
TEL03-3426-6294 FAX03-3426-6594
rinkogun@alles.or.jp
http://www.alles.or.jp/~rinkogun/Next.html
劇団「燐光群」からのメッセージの一部を御紹介します。
「2008年9月、リーマン・ブラザーズ破綻から始まった未曾有の経済危機は、世界中に広がりました。日本でも企業倒産、失業者増加など、今なお私たちの生活に影響を及ぼしています。・・・アメリカの投機家ジョージソロス、元金融庁長官ハワード・ディビス等、劇作家デイヴィッド・ヘアーに直接取材を受けた金融界の大物たちが劇中人物として続々登場、「世界金融危機で何が起こったか」が語られます。またヘアーの助手としてナショナル・シアターに雇われた女子大生を通じて、英金融サービスの誕生と成長、崩壊の過程を辿ってゆきます。・・・ヘッジファンドの投資を熱狂的に支えた「ブラック・ショールズ方程式」についても知ることが出来ます。経済危機について視覚的、感覚的に捉えることを可能にした、ジャーナリズム演劇の新しい成果と言えるでしょう」
リーマンショックは良くも悪くも「七転び八起きブログ~為替力」の原点です。これをメインテーマに据えるという難しくも丁寧な作業を施した戯曲が、金融依存経済の治癒に手を拱くロンドンでロングランを成功させ、劇団「燐光群」の創設者であり演出家でもある坂手洋二さんの手により日本語上演されるのが、奇しくも、ギリシャショック、否、シティショックの直後の来週からというのも不思議な縁であると思われます。
私も来週、出張等の合間を縫って、下北沢まで観劇に赴くつもりです。感想は改めてブログにアップさせていただく所存です。
チケットのおもとめは、まず会員登録から。
https://www.e-get.jp/rinkogun/howto/rule.html
または、お電話にて、、、
燐光群/(有)グッドフェローズ 〒154-0022 世田谷区梅丘1-24-14 フリート梅丘202
TEL03-3426-6294 FAX03-3426-6594
rinkogun@alles.or.jp
2010年5月6日木曜日
ユーロ、ギリシャ国債は押し目買いのチャンスなのか!?
昨日は、連休中唯一休暇を頂きまして、東京大学の本郷キャンパス内を散歩しました。久しぶりの三四郎池には、オタマジャクシは居らず、鴨と亀と鯉が我が物顔で群れ遊んでいました。「亀釣り」を楽しむ親子連れと、東大病院の患者さんたちや見舞いの方々に囲まれた長閑で平和な昼下がりでした。安田講堂も然り。70年安保やら全共闘から40年(以上)たった現在も聳えるその名建築は、さながらにして「兵どもが夢のあと」と言わんばかりの、初夏の陽気に包まれておりました。
さて、そこから無理矢理、普天間の話にもっていこうとしているのではないのです。安保闘争や米騒動のような草の根の実力行使、平たく言えば暴力に訴えた革命志向というのは、わが国においては随分と過去のものになった。という思いを、債務問題で全く落ち着きを見せないギリシャのゼネストを見て考えてしまうのです。
「日本にとっても他人事ではない」「ギリシャ(+ポルトガル+スペイン)の次は日本の番だ」などと、危機意識を煽る政治家が少なくありません。
その主張が正しいとしても、そういうことをおっしゃる政治家に限って、日銀がもっともっと国債を含めた民間市中の資産を買って金融緩和をすべきなのに、サボっているともおっしゃっているのが滑稽なのですが。
仮に、ギリシャの二の舞を日本が演ずることになるとして、IMFなどから、消費税率の急増や公務員給与の引き下げを求められたとして、ギリシャ同様のストライキや暴動が起こるでしょうか?
大衆の行動様式の違いは、国のリーダーの気質の違いと対をなしています。パパンドレウ首相は、同政権が進める財政緊縮措置が「国を救うために導入を決定したもの」とし、「これに代わるものは、破たんのみだ」と述べ、またパパコンスタンティヌ財務相は「多大な政治的代償を支払う用意がある。一歩も後退しない」と述べる(ロイター)など、暴動やそれによる人命犠牲に動じない態度は、鳩山首相に何も限った話ではなく、短命政権を繰り返す歴代首相の八方美人的な軸のぶれ方と対照的に映ります。
ギリシャの過去の政権の腐敗について詳しくない私たちから見ると、ゼネストに参加しているギリシャ国民は随分と往生際が悪いという風に見えます。ユーロ参加のメリット(デンマークがリーマンショック直後にユーロ非参加を後悔していたことを思い出させます)を享受しているのだから、その裏返しとしてのデメリット(通貨発行権【シニョリッジ】の放棄)も甘受しなければならない(ギリシャ国債をギリシャ中央銀行が買い切りオペしてマネタイズするわけにはいかない)ので、ギリシャの救済は、あたかも日本における夕張のような財政緊縮を停止条件とした(財政)金融支援という形を取るほかにないのであります。
場合分けをするならば、
①ゼネストが鎮圧されて、ギリシャ現政権の財政緊縮案が実行され、よってEU、そして9(日)総会の予定のIMFでの融資が決まる。
または
②鎮圧に失敗するなどして、財政緊縮案が破綻し、ユーロ建てギリシャ国債の借り換え【リファイナンス】が失敗⇒ギリシャがユーロ離脱(新ドラクマ導入!?)
となるか、、、
私個人は以下の理由で②の可能性は余り高くないと思っておりますし、その場合もテクニカル的には、ギリシャ国債のデフォルト宣言とユーロ離脱宣言がどういう順番になるかで現実随分変わってくるのですが、ここでは詳述を控えます(ちなみに、ギリシャのユーロ離脱自体は、ユーロ圏の毅然たる態度表明の現れであるので、本来はユーロの買い材料だということも忘れてはなりません)。
EU各国の首脳は、異口同音に、「ギリシャ危機という“山火事”の鎮火を怠ると、火の気のない筈の域内健全国(???)にまで火災が蔓延してしまうから」と、結束を呼び掛けています。しかし、彼らは義憤や同胞愛から本気でギリシャを助けようと発言を繰り返しているのでしょうか。米国やIMFの動きは措くとして、域内の意思決定の鍵を握るドイツでは、議会の承認に苦労しつつも「財政緊縮案の実行を停止条件としたギリシャへの金融支援」の批准に漕ぎ着けた状況です。この金融取引が如何に通常の市場取引よりも有利であるかを考えてみてください。「ユーロが120円を割れそうだ。そろそろ買い場だろうか?」とか「ギリシャ国債が暴落、続落し、利回りが13%を超えた。流石に破綻はないと読むならば、絶好の買い物だろうか?」という設問に対しては、当たるも八卦、当たらぬも八卦としか言いようがないのですが、ドイツが決定した停止条件付き融資というのは、ノーリスク、ハイリターンの取引です。私がもしドイツのリーダーであったならば、ギリシャ国内が大いに揉めて、最後に言いなりの条件で助けてやるという交渉をすれば、貿易黒字の使い道としては最高の運用となるし、また揉めている間のとばっちりとしてユーロ安がありますがこれも国内の輸出産業にとっては、生産拠点を国外に移転させなくても実質賃金を下げることが出来て競争力が増し、製造業の経営者が喜ぶので、一石二鳥なのです。寧ろ、ギリシャが債務不履行に陥り新ドラクマ導入となって美味しい金融取引を取り逃がすやら、国庫や民間金融機関で運用していたギリシャ国債が紙屑になることを嫌がるでしょう。ドイツ以外のユーロ圏の主要国も概ね同じような魂胆であると考えられます。
一言で言えば、現在のユーロ相場とギリシャ国債相場には巨大なインサイダーないし相場操縦が存在しているので、この情報の非対称性を打ち破って無防備に参加をするのは得策でないと思うのです。このような「取引を煽らない」発言は、FX会社の社長としては相応しくないのですが(爆笑)。「それでも相場に参加したいから、売りか買いかどちらか教えてほしい」と言われたら、前述の如く、当たるも八卦、当たらぬも八卦、なのですが、押し目買いの領域に来ているとは思います(対ドル、対円。但し、最下点ではないかも)。
さて、そこから無理矢理、普天間の話にもっていこうとしているのではないのです。安保闘争や米騒動のような草の根の実力行使、平たく言えば暴力に訴えた革命志向というのは、わが国においては随分と過去のものになった。という思いを、債務問題で全く落ち着きを見せないギリシャのゼネストを見て考えてしまうのです。
「日本にとっても他人事ではない」「ギリシャ(+ポルトガル+スペイン)の次は日本の番だ」などと、危機意識を煽る政治家が少なくありません。
その主張が正しいとしても、そういうことをおっしゃる政治家に限って、日銀がもっともっと国債を含めた民間市中の資産を買って金融緩和をすべきなのに、サボっているともおっしゃっているのが滑稽なのですが。
仮に、ギリシャの二の舞を日本が演ずることになるとして、IMFなどから、消費税率の急増や公務員給与の引き下げを求められたとして、ギリシャ同様のストライキや暴動が起こるでしょうか?
大衆の行動様式の違いは、国のリーダーの気質の違いと対をなしています。パパンドレウ首相は、同政権が進める財政緊縮措置が「国を救うために導入を決定したもの」とし、「これに代わるものは、破たんのみだ」と述べ、またパパコンスタンティヌ財務相は「多大な政治的代償を支払う用意がある。一歩も後退しない」と述べる(ロイター)など、暴動やそれによる人命犠牲に動じない態度は、鳩山首相に何も限った話ではなく、短命政権を繰り返す歴代首相の八方美人的な軸のぶれ方と対照的に映ります。
ギリシャの過去の政権の腐敗について詳しくない私たちから見ると、ゼネストに参加しているギリシャ国民は随分と往生際が悪いという風に見えます。ユーロ参加のメリット(デンマークがリーマンショック直後にユーロ非参加を後悔していたことを思い出させます)を享受しているのだから、その裏返しとしてのデメリット(通貨発行権【シニョリッジ】の放棄)も甘受しなければならない(ギリシャ国債をギリシャ中央銀行が買い切りオペしてマネタイズするわけにはいかない)ので、ギリシャの救済は、あたかも日本における夕張のような財政緊縮を停止条件とした(財政)金融支援という形を取るほかにないのであります。
場合分けをするならば、
①ゼネストが鎮圧されて、ギリシャ現政権の財政緊縮案が実行され、よってEU、そして9(日)総会の予定のIMFでの融資が決まる。
または
②鎮圧に失敗するなどして、財政緊縮案が破綻し、ユーロ建てギリシャ国債の借り換え【リファイナンス】が失敗⇒ギリシャがユーロ離脱(新ドラクマ導入!?)
となるか、、、
私個人は以下の理由で②の可能性は余り高くないと思っておりますし、その場合もテクニカル的には、ギリシャ国債のデフォルト宣言とユーロ離脱宣言がどういう順番になるかで現実随分変わってくるのですが、ここでは詳述を控えます(ちなみに、ギリシャのユーロ離脱自体は、ユーロ圏の毅然たる態度表明の現れであるので、本来はユーロの買い材料だということも忘れてはなりません)。
EU各国の首脳は、異口同音に、「ギリシャ危機という“山火事”の鎮火を怠ると、火の気のない筈の域内健全国(???)にまで火災が蔓延してしまうから」と、結束を呼び掛けています。しかし、彼らは義憤や同胞愛から本気でギリシャを助けようと発言を繰り返しているのでしょうか。米国やIMFの動きは措くとして、域内の意思決定の鍵を握るドイツでは、議会の承認に苦労しつつも「財政緊縮案の実行を停止条件としたギリシャへの金融支援」の批准に漕ぎ着けた状況です。この金融取引が如何に通常の市場取引よりも有利であるかを考えてみてください。「ユーロが120円を割れそうだ。そろそろ買い場だろうか?」とか「ギリシャ国債が暴落、続落し、利回りが13%を超えた。流石に破綻はないと読むならば、絶好の買い物だろうか?」という設問に対しては、当たるも八卦、当たらぬも八卦としか言いようがないのですが、ドイツが決定した停止条件付き融資というのは、ノーリスク、ハイリターンの取引です。私がもしドイツのリーダーであったならば、ギリシャ国内が大いに揉めて、最後に言いなりの条件で助けてやるという交渉をすれば、貿易黒字の使い道としては最高の運用となるし、また揉めている間のとばっちりとしてユーロ安がありますがこれも国内の輸出産業にとっては、生産拠点を国外に移転させなくても実質賃金を下げることが出来て競争力が増し、製造業の経営者が喜ぶので、一石二鳥なのです。寧ろ、ギリシャが債務不履行に陥り新ドラクマ導入となって美味しい金融取引を取り逃がすやら、国庫や民間金融機関で運用していたギリシャ国債が紙屑になることを嫌がるでしょう。ドイツ以外のユーロ圏の主要国も概ね同じような魂胆であると考えられます。
一言で言えば、現在のユーロ相場とギリシャ国債相場には巨大なインサイダーないし相場操縦が存在しているので、この情報の非対称性を打ち破って無防備に参加をするのは得策でないと思うのです。このような「取引を煽らない」発言は、FX会社の社長としては相応しくないのですが(爆笑)。「それでも相場に参加したいから、売りか買いかどちらか教えてほしい」と言われたら、前述の如く、当たるも八卦、当たらぬも八卦、なのですが、押し目買いの領域に来ているとは思います(対ドル、対円。但し、最下点ではないかも)。
2010年3月16日火曜日
米国の国会議員、超党派でオバマ政権を突き上げ-人民元問題
中国の全人代が閉幕し、温家宝主席が記者会見で「人民元切り上げ要求を一蹴」 した直後の月曜日、米国では超党派の国会議員130人がオバマ政権に対して「中国に対して為替操作国だとのレッテルを貼れ!」との要求したと、たった今、英FT紙が伝えました(原文をツイッターにリツイート)。
「貿易摩擦」や「貿易不均衡」と言うと、プラザ合意以前からの日米関係(円高誘導だけでなく非関税障壁の指摘なども)の既視感が過ります。80年代後半(まで)の日本と現在の中国とでは、非関税障壁の実態のほか資本取引に関する規制環境も異なるため、その既視感は慎重に疑う必要はあります。しかし、貿易黒字国が貿易赤字国の乱発する国債を買い支えてあげなければ、為替相場(など)のパラメータの変化により、不均衡は均衡へと向かう筈、という点では共通です。
「貿易」依存度が著しく高い東京都は果たして収支均衡しているのか?
「悪貨は良貨を駆逐する」シリーズの第二回で東西ドイツの統合を取り扱いました。特に、その後編で、1東独マルク=1西独マルクと政治決断されたために、実態の4倍もの高い評価を得た東独側では失業や工場閉鎖(倒産)という「有難迷惑」な経済混乱を経つつも、工場が東側に移転したり、労働者が西側に出稼ぎに行ったりして、「不均衡」を解消していったのだとお話しました。より大事な点は、東独の労働者(≒組合)が選択肢を放棄しただけのことであって、失業や工場閉鎖の代わりに労働賃金の切り下げを受け入れても、「自国通貨が高過ぎる評価レベルで固定化してしまっている」という隘路を乗り越えることができたという考え方です。
実は、東西ドイツの例を持ち出すまでもなく、これは国内経済でも経験していることです。東京都という地方経済圏が東京都以外の道府県から農林水産物を「輸入」していることは周知です。我が国の都道府県は(市区町村もですが)たいていは財政赤字でありそれを地方債などによってファイナンスしていますが、黒字の自治体がないということは、都道府県に跨るファイナンスは顕著には見られないと考えて良いと思われます。そして、これは自明ですが、東京都にとって貿易相手「道府県」との決済に使われる通貨は日本円であって、どう足掻いても動かしようのない固定相場です。資本取引もなくて、「為替」も固定相場制であって、どうやって都道府県「際貿易」の不均衡が解決できるかと言うと、残された唯一つ(二つ)の自由度が労働と土地(建物)という生産要素の価格(賃金と地代家賃)だということです。
民主政治が行き詰るとポピュリズムに走るのは日米同じです。 米国債を買い支えてくれている中国(という認識がオバマ大統領本人にはあるので、同政権は議員の陳情に苦慮していると前掲のFT紙は報じています)に対して「人民元を切り上げろ。手前(てめえ)は為替操作国だ。」と恩を仇で返す前に、自国民に対して生活水準を切り下げてくださいと言うべきなのですが、落選の恐怖を前にして、スケープゴートを国外に求めざるを得ないのが、成熟国家の議会制民主主義の宿命なのかも知れません。
「インフレこそ政権の足元を揺るがす」は本音か!?
さて、本日のテーマは成熟した資本主義国家が保護主義やポピュリズムに陥りがちであることではありません。昨日、お約束した通り、中国の温家宝主席の全人代閉幕後の発言を、スペインの価格革命を分析した考え方で深読みしてみようということでした。
「人民元の切り上げ要請には屈しない」という発言は「国益」を代表するものでしょうか。また、為替関連発言よりも注目したいと七転び八起きが申し上げた「もしもインフレが発生し、所得分配の不公平が重なってくれば、社会の安定に影響し、政権の足元を揺るがす事態になる」 という部分は国家元首の本音と考えて良いのでしょうか?
まず、後者です。当ブログにて、今日の日本が「デフレの進行とともに格差も拡がっている」という論調は錯覚(厳密には逆「貨幣錯覚」)に過ぎないと繰り返して参りました。その点で、温家宝発言は、正しいだけでなく、物価上昇に対して、農業従事者や工場の非熟練労働者と言った大半の国民の賃金の上昇が付いていけない状況というのが、大航海時代の植民地、産業革命期のヨーロッパや、高度成長期までの日本と似たような搾取的労働の実態を認めたものであるとしたら、大国の舵取りをする国家主席の発言として意味深長なものだと受け取らざるを得ません。
しかし、正鵠を突いていることは必ずしも本音の発言であることを意味しません。これ以上のインフレが国体に危機をもたらすと本気で考えているのであれば、人民元問題と一緒に解決できるからです。冒頭の「貿易黒字国が貿易赤字国の乱発する国債を買い支えてあげなければ、為替相場(など)のパラメータの変化により、不均衡は均衡へと向かう筈」 を思い出してください。日本で言えば、中央銀行と只今話題の埋蔵金のひとつである外国為替特別会計で買い続けてきた米国債が外貨準備高を構成しているわけで、これを市中売却すれば、市中銀行(民間銀行)は中央銀行に支払準備預金として積み立てていた自国通貨建ての預け金を取り崩さざるを得なくなり、信用創造が弱まり、マネーサプライは減少します。これでインフレの大原因のひとつが取り除かれば、隷属的な労働現場においても、労働分配率が成熟した資本主義国家の平均に少しは近づくというものです。
言わば中国は、国内に「内陸部」という巨大な植民地を抱えている、現代世界では珍しい構造を持っているが故に、貿易面で著しい競争力を有していると考えられます。これが中国の政権中枢のパワーの源泉であり、また政権を陰に陽に支える沿岸部の富裕層の利潤の源泉でもあります。「人民元安は死守する」というメッセージと「インフレは格差拡大で国家危機を招く」というメッセージは実は矛盾しているのであります。前者が本気、後者は人気取りのためのポーズに過ぎないと考えられます。これをさらっと言い抜け、海外のメディアも評論家も殆どが煙に巻かれているということですから、流石は大国の国家元首、超大物政治家であるということです。
「貿易摩擦」や「貿易不均衡」と言うと、プラザ合意以前からの日米関係(円高誘導だけでなく非関税障壁の指摘なども)の既視感が過ります。80年代後半(まで)の日本と現在の中国とでは、非関税障壁の実態のほか資本取引に関する規制環境も異なるため、その既視感は慎重に疑う必要はあります。しかし、貿易黒字国が貿易赤字国の乱発する国債を買い支えてあげなければ、為替相場(など)のパラメータの変化により、不均衡は均衡へと向かう筈、という点では共通です。
「貿易」依存度が著しく高い東京都は果たして収支均衡しているのか?
「悪貨は良貨を駆逐する」シリーズの第二回で東西ドイツの統合を取り扱いました。特に、その後編で、1東独マルク=1西独マルクと政治決断されたために、実態の4倍もの高い評価を得た東独側では失業や工場閉鎖(倒産)という「有難迷惑」な経済混乱を経つつも、工場が東側に移転したり、労働者が西側に出稼ぎに行ったりして、「不均衡」を解消していったのだとお話しました。より大事な点は、東独の労働者(≒組合)が選択肢を放棄しただけのことであって、失業や工場閉鎖の代わりに労働賃金の切り下げを受け入れても、「自国通貨が高過ぎる評価レベルで固定化してしまっている」という隘路を乗り越えることができたという考え方です。
実は、東西ドイツの例を持ち出すまでもなく、これは国内経済でも経験していることです。東京都という地方経済圏が東京都以外の道府県から農林水産物を「輸入」していることは周知です。我が国の都道府県は(市区町村もですが)たいていは財政赤字でありそれを地方債などによってファイナンスしていますが、黒字の自治体がないということは、都道府県に跨るファイナンスは顕著には見られないと考えて良いと思われます。そして、これは自明ですが、東京都にとって貿易相手「道府県」との決済に使われる通貨は日本円であって、どう足掻いても動かしようのない固定相場です。資本取引もなくて、「為替」も固定相場制であって、どうやって都道府県「際貿易」の不均衡が解決できるかと言うと、残された唯一つ(二つ)の自由度が労働と土地(建物)という生産要素の価格(賃金と地代家賃)だということです。
民主政治が行き詰るとポピュリズムに走るのは日米同じです。 米国債を買い支えてくれている中国(という認識がオバマ大統領本人にはあるので、同政権は議員の陳情に苦慮していると前掲のFT紙は報じています)に対して「人民元を切り上げろ。手前(てめえ)は為替操作国だ。」と恩を仇で返す前に、自国民に対して生活水準を切り下げてくださいと言うべきなのですが、落選の恐怖を前にして、スケープゴートを国外に求めざるを得ないのが、成熟国家の議会制民主主義の宿命なのかも知れません。
「インフレこそ政権の足元を揺るがす」は本音か!?
さて、本日のテーマは成熟した資本主義国家が保護主義やポピュリズムに陥りがちであることではありません。昨日、お約束した通り、中国の温家宝主席の全人代閉幕後の発言を、スペインの価格革命を分析した考え方で深読みしてみようということでした。
「人民元の切り上げ要請には屈しない」という発言は「国益」を代表するものでしょうか。また、為替関連発言よりも注目したいと七転び八起きが申し上げた「もしもインフレが発生し、所得分配の不公平が重なってくれば、社会の安定に影響し、政権の足元を揺るがす事態になる」 という部分は国家元首の本音と考えて良いのでしょうか?
まず、後者です。当ブログにて、今日の日本が「デフレの進行とともに格差も拡がっている」という論調は錯覚(厳密には逆「貨幣錯覚」)に過ぎないと繰り返して参りました。その点で、温家宝発言は、正しいだけでなく、物価上昇に対して、農業従事者や工場の非熟練労働者と言った大半の国民の賃金の上昇が付いていけない状況というのが、大航海時代の植民地、産業革命期のヨーロッパや、高度成長期までの日本と似たような搾取的労働の実態を認めたものであるとしたら、大国の舵取りをする国家主席の発言として意味深長なものだと受け取らざるを得ません。
しかし、正鵠を突いていることは必ずしも本音の発言であることを意味しません。これ以上のインフレが国体に危機をもたらすと本気で考えているのであれば、人民元問題と一緒に解決できるからです。冒頭の「貿易黒字国が貿易赤字国の乱発する国債を買い支えてあげなければ、為替相場(など)のパラメータの変化により、不均衡は均衡へと向かう筈」 を思い出してください。日本で言えば、中央銀行と只今話題の埋蔵金のひとつである外国為替特別会計で買い続けてきた米国債が外貨準備高を構成しているわけで、これを市中売却すれば、市中銀行(民間銀行)は中央銀行に支払準備預金として積み立てていた自国通貨建ての預け金を取り崩さざるを得なくなり、信用創造が弱まり、マネーサプライは減少します。これでインフレの大原因のひとつが取り除かれば、隷属的な労働現場においても、労働分配率が成熟した資本主義国家の平均に少しは近づくというものです。
言わば中国は、国内に「内陸部」という巨大な植民地を抱えている、現代世界では珍しい構造を持っているが故に、貿易面で著しい競争力を有していると考えられます。これが中国の政権中枢のパワーの源泉であり、また政権を陰に陽に支える沿岸部の富裕層の利潤の源泉でもあります。「人民元安は死守する」というメッセージと「インフレは格差拡大で国家危機を招く」というメッセージは実は矛盾しているのであります。前者が本気、後者は人気取りのためのポーズに過ぎないと考えられます。これをさらっと言い抜け、海外のメディアも評論家も殆どが煙に巻かれているということですから、流石は大国の国家元首、超大物政治家であるということです。
ラベル:
経済学,
政治と選挙と民主主義,
中央銀行,
中国(人民元)
2010年3月15日月曜日
悪貨は良貨を駆逐する(第三回)
インフレによって経済大国化したスペイン~西ヨーロッパ!?
大それたシリーズを始めると宣言したことに後悔しつつ(泣)、ようやく後半戦に突入であります(汗)。
第三回 スペインの価格革命「銀の大量輸入は国富の増大なのか?」
歴史の教科書を紐解くと、「価格革命」の背景はこのような定説で説明されています。16世紀、特にその後半・・・
①スペインが中南米に植民地を開拓⇒②先住民(インディオ)や「輸入した」黒人奴隷を強制労働させ銀を生産⇒③護送船団によりスペイン(セヴィリア)に運ばれた大量の銀が、ヨーロッパ全域に流通し、激しいインフレーション(価格革命)が発生⇔一方、額面が固定した地代や、賃金の上昇には著しい遅行性⇒④地代に依存する伝統的な封建貴族が没落⇔労働者を雇い工場を経営する新興資本家の集中に資本が蓄積(「利潤インフレ」)。
(山川出版社『詳説 世界史研究』など)
上記④の一例として、メディチ家と並ぶヨーロッパの名門貴族であるフッガー家の没落も挙げられます。 大航海時代まではヨーロッパの最大の銀山を南ドイツに抱えていたフッガー家でしたが、その生産能力が年間約3万㌔㌘程度だったのに対して、1590年代のメキシコやペルーなどからの銀の輸入量は何と27万㌔㌘という10倍近いものとなっており、価格革命の凄まじさが判るということです(ハミルトン『アメリカの財宝とスペインの価格革命』1934)。
新世界産の貴金属が、物価騰貴を通じて、スペインのみならずヨーロッパ全体の経済の拡大に貢献したという見方は確かに通説です(ウォーラーステイン『近代世界システムⅠ・Ⅱ』1981、フランク『世界資本蓄積1492~1789』1978)。しかし、現在では下記のような批判が展開されているようです。
キーワードは「使用価値」と「交換価値」
「物価騰貴は、銀の大量流入が顕著になる以前に始まっており、その主要な要因はヨーロッパの人口が農業生産量の増加を上回る速度で増加したことである。」
とか、
「(西ヨーロッパとの接触により、アジア、アフリカ、ラテンアメリカが低開発地域としてその後長く定着してしまったことは事実だとしても、)アメリカの“地金”がヨーロッパの経済発展に不可欠だったとは言えない」
通説とそれに対する批判と、どちらかが一方的に正しいとは言い切れない「価格革命」に関する論争は、現在の世界経済にとっても、大変示唆に富むものではないでしょうか。今更、マルクス経済学の「使用価値=交換価値」が成り立つ商品経済と、その例外としての労働力市場(=「剰余価値」の源=「搾取」の現場)という考え方の枠組みを持ち出したくはないのですが、アステカ文明とマヤ文明を破壊された中南米の銀山こそは、独占的で搾取的な労働現場、すなわちマルクス経済学が想定する剰余価値の発生地点として見事に洗練、精錬された事例だったと言えるでしょう。
「使用価値=交換価値」が成り立たない例外的な商品は、植民地時代では隷属的な「労働力」だったでしょうが、現在の世界経済においては、労働力よりは寧ろ、当たり前の存在になってしまった「不換紙幣」(fiat money)かも知れません。「インフレという現象に注目する」近代ヨーロッパの発展への『銀貢献』説に批判的な立場の学者も、当時は「不換紙幣」ではなかった本位通貨としての銀の蓄積が、隷属的で低開発的だった植民地エリア(今では新興国!)からの大量の富の収奪である(所得移転である)ことは事実だと言っているわけです。
逆に言えば、貴金属の本源的な価値に注目せず、通貨としての機能だけに注目した貴金属の「発行」量が、流通量が増えたからと言って、単純な貨幣数量説に従って物価が上昇するとか、単純なケインズ的貨幣錯覚に従って資本家が利潤を濡れ手に粟の如く手に入れる、という理屈を批判しているのであります。
「インフレで国家危機?」~「ここ数年はいばらの道??」~意味深長な温家宝発言
スペインの価格革命は、歴史的事実(統計の信ぴょう性)への疑いだけでなく、その解釈や理論においても、マルクス的な要素、ハイエク的な要素、ケインズ的な要素が三つ巴で対立する、とても難解ですが、歯を食いしばって議論するだけの値打のある題材であると思われます。
時に、中国の全人代閉幕に当たって温家宝主席の挨拶で、多くのメディアが「人民元切り上げ要求を一蹴」した点を注目しています。勿論、この点についても、中国の国家戦略は何ぞやと論じる価値はあります。七転び八起きがもっと注目したいのは、会見で「もしもインフレが発生し、所得分配の不公平が重なってくれば、社会の安定に影響し、政権の足元を揺るがす事態になる」と述べた点です。デフレこそ政府や日銀の無策の結果だと多くのメディアに洗脳されている日本人にとっては妙に新鮮な響きを感じる言葉ではないでしょうか。次回は、諸説対立が明らかとなったスペインの価格革命の分析を活かして、温家宝発言を深読みして行きたいと考えております。
大それたシリーズを始めると宣言したことに後悔しつつ(泣)、ようやく後半戦に突入であります(汗)。
第三回 スペインの価格革命「銀の大量輸入は国富の増大なのか?」
歴史の教科書を紐解くと、「価格革命」の背景はこのような定説で説明されています。16世紀、特にその後半・・・
①スペインが中南米に植民地を開拓⇒②先住民(インディオ)や「輸入した」黒人奴隷を強制労働させ銀を生産⇒③護送船団によりスペイン(セヴィリア)に運ばれた大量の銀が、ヨーロッパ全域に流通し、激しいインフレーション(価格革命)が発生⇔一方、額面が固定した地代や、賃金の上昇には著しい遅行性⇒④地代に依存する伝統的な封建貴族が没落⇔労働者を雇い工場を経営する新興資本家の集中に資本が蓄積(「利潤インフレ」)。
(山川出版社『詳説 世界史研究』など)
上記④の一例として、メディチ家と並ぶヨーロッパの名門貴族であるフッガー家の没落も挙げられます。 大航海時代まではヨーロッパの最大の銀山を南ドイツに抱えていたフッガー家でしたが、その生産能力が年間約3万㌔㌘程度だったのに対して、1590年代のメキシコやペルーなどからの銀の輸入量は何と27万㌔㌘という10倍近いものとなっており、価格革命の凄まじさが判るということです(ハミルトン『アメリカの財宝とスペインの価格革命』1934)。
新世界産の貴金属が、物価騰貴を通じて、スペインのみならずヨーロッパ全体の経済の拡大に貢献したという見方は確かに通説です(ウォーラーステイン『近代世界システムⅠ・Ⅱ』1981、フランク『世界資本蓄積1492~1789』1978)。しかし、現在では下記のような批判が展開されているようです。
キーワードは「使用価値」と「交換価値」
「物価騰貴は、銀の大量流入が顕著になる以前に始まっており、その主要な要因はヨーロッパの人口が農業生産量の増加を上回る速度で増加したことである。」
とか、
「(西ヨーロッパとの接触により、アジア、アフリカ、ラテンアメリカが低開発地域としてその後長く定着してしまったことは事実だとしても、)アメリカの“地金”がヨーロッパの経済発展に不可欠だったとは言えない」
通説とそれに対する批判と、どちらかが一方的に正しいとは言い切れない「価格革命」に関する論争は、現在の世界経済にとっても、大変示唆に富むものではないでしょうか。今更、マルクス経済学の「使用価値=交換価値」が成り立つ商品経済と、その例外としての労働力市場(=「剰余価値」の源=「搾取」の現場)という考え方の枠組みを持ち出したくはないのですが、アステカ文明とマヤ文明を破壊された中南米の銀山こそは、独占的で搾取的な労働現場、すなわちマルクス経済学が想定する剰余価値の発生地点として見事に洗練、精錬された事例だったと言えるでしょう。
「使用価値=交換価値」が成り立たない例外的な商品は、植民地時代では隷属的な「労働力」だったでしょうが、現在の世界経済においては、労働力よりは寧ろ、当たり前の存在になってしまった「不換紙幣」(fiat money)かも知れません。「インフレという現象に注目する」近代ヨーロッパの発展への『銀貢献』説に批判的な立場の学者も、当時は「不換紙幣」ではなかった本位通貨としての銀の蓄積が、隷属的で低開発的だった植民地エリア(今では新興国!)からの大量の富の収奪である(所得移転である)ことは事実だと言っているわけです。
逆に言えば、貴金属の本源的な価値に注目せず、通貨としての機能だけに注目した貴金属の「発行」量が、流通量が増えたからと言って、単純な貨幣数量説に従って物価が上昇するとか、単純なケインズ的貨幣錯覚に従って資本家が利潤を濡れ手に粟の如く手に入れる、という理屈を批判しているのであります。
「インフレで国家危機?」~「ここ数年はいばらの道??」~意味深長な温家宝発言
スペインの価格革命は、歴史的事実(統計の信ぴょう性)への疑いだけでなく、その解釈や理論においても、マルクス的な要素、ハイエク的な要素、ケインズ的な要素が三つ巴で対立する、とても難解ですが、歯を食いしばって議論するだけの値打のある題材であると思われます。
時に、中国の全人代閉幕に当たって温家宝主席の挨拶で、多くのメディアが「人民元切り上げ要求を一蹴」した点を注目しています。勿論、この点についても、中国の国家戦略は何ぞやと論じる価値はあります。七転び八起きがもっと注目したいのは、会見で「もしもインフレが発生し、所得分配の不公平が重なってくれば、社会の安定に影響し、政権の足元を揺るがす事態になる」と述べた点です。デフレこそ政府や日銀の無策の結果だと多くのメディアに洗脳されている日本人にとっては妙に新鮮な響きを感じる言葉ではないでしょうか。次回は、諸説対立が明らかとなったスペインの価格革命の分析を活かして、温家宝発言を深読みして行きたいと考えております。
2010年2月26日金曜日
悪貨は良貨を駆逐する(第二回-前編)
またしてもゴールドマン=サックスか?
何しろ、今月は1月後半からのユーロ暴落を受け継いだ一ヶ月でありました。通貨ユーロの激震の震源地は、少なくとも今のところはギリシャです。
2009年12月17日「ギリシャの悲劇」
2009年12月18日「ギリシャの悲劇-その第二幕は?」
今、何やらゴールドマン=サックスの関与が調査され始めているデリバティブを通じたギリシャの「粉飾」疑惑に対して、統一通貨の矜持を示すべくモラルハザードの恐れの高い支援に後ろ向きなのが、統一通貨の産みの親とも言えるドイツの立場であり正論です。
驚嘆に値するギリシャの言い訳
しかし、物事はそう単純ではないというのが、一昨日ツイッターでも呟きました英フィナンシャルタイムズの報道内容です。
ギリシャの副首相が「ナチスドイツが大戦中に強奪したギリシャ中央銀行の金塊をまだ返してもらっていない」と。
ユーロ通貨導入の立役者である以前に、東西ドイツの通貨をも含む統合の立役者でもある、ヘルムート=コール首相(当時)は、政治信条としては、レーガノミクスやサッチャーリズムに近い保守主義であります。現在、日本をはじめ多くの国々で、規制緩和路線の保守主義は「市場原理主義」というレッテルを張られ、評判が頗る悪いようです。
しかし、通貨統一の大前提は、各主権国家の通貨発行権(シニョレッジ)の放棄であります。文系エリートの人気就職先である各国中央銀行(?)の機能放棄という犠牲を求めてまでして、自国通貨下落競争を根絶させ、自由競争のための公平な土俵を確保するという考え方。これは、「嘘ではない」金本位制が現代資本主義社会では非現実的になってしまった以上、ぎりぎり実行可能な次善策であり、正論なのであります。
EUが「多民族国家」であることを忘れてはならない
ワルシャワ機構が自壊する中で、コール首相(当時)の主張が、英サッチャーだけでなく、むしろより一層、社会党の仏ミッテランに受け入れられ、独仏の一枚岩が東西ドイツ統合と欧州統合のエンジン部分だったというのが、極々最近まで報じられてきた「現代西洋史」でした。
ですから、昨年9月にFT紙がスクープした英国の秘密文書は、とても意外な事実の暴露であったわけです。
2009年9月10日ベルリンの壁崩壊はヒトラーの再現より酷い
ドイツの首相(Chancellor)としては、かのオットー=ビスマルクに次ぐ在任期間を誇るヘルムート=コールの政治手腕が、ギリシャ危機(はたまたPIIGS危機)の今日こそ、問われているとも言えます。次回はいよいよ、当時の実勢をまったく無視した「1東独マルク=1西独マルク」という交換ルール(但し、東独国民1人あたり4000マルクまで、それを超える部分については実勢に近い2:1という交換比率が適用されていた)を、西ドイツ政府、西ドイツ中央銀行(ブンデスバンク)の猛反対を押し切って政治決断した考え方の根拠とその影響について書いてみようと思います。
何しろ、今月は1月後半からのユーロ暴落を受け継いだ一ヶ月でありました。通貨ユーロの激震の震源地は、少なくとも今のところはギリシャです。
2009年12月17日「ギリシャの悲劇」
2009年12月18日「ギリシャの悲劇-その第二幕は?」
今、何やらゴールドマン=サックスの関与が調査され始めているデリバティブを通じたギリシャの「粉飾」疑惑に対して、統一通貨の矜持を示すべくモラルハザードの恐れの高い支援に後ろ向きなのが、統一通貨の産みの親とも言えるドイツの立場であり正論です。
驚嘆に値するギリシャの言い訳
しかし、物事はそう単純ではないというのが、一昨日ツイッターでも呟きました英フィナンシャルタイムズの報道内容です。
ギリシャの副首相が「ナチスドイツが大戦中に強奪したギリシャ中央銀行の金塊をまだ返してもらっていない」と。
ユーロ通貨導入の立役者である以前に、東西ドイツの通貨をも含む統合の立役者でもある、ヘルムート=コール首相(当時)は、政治信条としては、レーガノミクスやサッチャーリズムに近い保守主義であります。現在、日本をはじめ多くの国々で、規制緩和路線の保守主義は「市場原理主義」というレッテルを張られ、評判が頗る悪いようです。
しかし、通貨統一の大前提は、各主権国家の通貨発行権(シニョレッジ)の放棄であります。文系エリートの人気就職先である各国中央銀行(?)の機能放棄という犠牲を求めてまでして、自国通貨下落競争を根絶させ、自由競争のための公平な土俵を確保するという考え方。これは、「嘘ではない」金本位制が現代資本主義社会では非現実的になってしまった以上、ぎりぎり実行可能な次善策であり、正論なのであります。
EUが「多民族国家」であることを忘れてはならない
ワルシャワ機構が自壊する中で、コール首相(当時)の主張が、英サッチャーだけでなく、むしろより一層、社会党の仏ミッテランに受け入れられ、独仏の一枚岩が東西ドイツ統合と欧州統合のエンジン部分だったというのが、極々最近まで報じられてきた「現代西洋史」でした。
ですから、昨年9月にFT紙がスクープした英国の秘密文書は、とても意外な事実の暴露であったわけです。
2009年9月10日ベルリンの壁崩壊はヒトラーの再現より酷い
ドイツの首相(Chancellor)としては、かのオットー=ビスマルクに次ぐ在任期間を誇るヘルムート=コールの政治手腕が、ギリシャ危機(はたまたPIIGS危機)の今日こそ、問われているとも言えます。次回はいよいよ、当時の実勢をまったく無視した「1東独マルク=1西独マルク」という交換ルール(但し、東独国民1人あたり4000マルクまで、それを超える部分については実勢に近い2:1という交換比率が適用されていた)を、西ドイツ政府、西ドイツ中央銀行(ブンデスバンク)の猛反対を押し切って政治決断した考え方の根拠とその影響について書いてみようと思います。
2009年10月23日金曜日
日本の国債、英独仏のGDP合計より多い
大凡9割程度は読むに値しない「2ちゃんねる」ですが、七転び八起きブログででも、これまで極々稀に取り上げた記事がありました。きょうのは、
【経済】 「鳩山政権、危機管理能力なし。日本は“失われた20年”に突入」「日本は債務不履行に陥るか、通貨価値崩壊」説も
http://tsushima.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1256246926/
大抵は政治家の揚げ足取りに終わるネトウヨとミンス(≒ネトサヨ?)の鞘当てが演じられているだけの2chですが、今回もその域を出ないとは言え、経済学的に真面目なコメントもあります。ただし、もとの記事は、朝鮮日報。
http://www.chosunonline.com/news/20091022000023
お時間がある読者の皆さまは、真面目なコメントを発掘しつつ、これから先の日本国債の相場(⇔利回り)、そして為替相場
いよいよか?まだまだ円高か??
という議論の材料にしてください。
「そこまで時間はないよ。結論を知りたい(否、それは虫が良過ぎるが、論点をズバっと教えて欲しい)。」とおっしゃる七転び八起きブログ読者の皆さまには、
(問題)ばら撒き政策(例:母子加算、子ども手当、・・・・無料化など)の財源不足を、赤字国債の増発で補うのと、消費税率の引き上げで行うのと、経済に与える効果はどのように違うか?
これに対して、木で鼻を括ったような答え方をすると、「赤字国債を日銀が全額引き受けた(≒買い切りオペを約束した)としても、単純な貨幣数量説が成り立つという前提であれば、すべて消費税率の引き上げで賄った場合と、物価上昇に伴う家計にとっての実質的な負担は同じである」となります。
問題は、「単純な貨幣数量説(マネーサプライ・・・企業や家計がいつでも日銀券として引き出し可能だと勘違いしているお金の量全体・・・が倍になれば、物価も単純に倍になる)」という前提が成り立っているのかどうか、です。マクロ経済学の教科書的には、為政者がもっとも避けなければならないハイパーインフレの下ではこれが成り立つ、とされています。勿論、只今の日本経済はハイパーインフレではなく、緩やか且つ慢性的なデフレです。
・・・・
再び、「いよいよ円安か?まだまだ円高か?」は、財政規律の犠牲が日本だけの問題ではないことも勿論検討しなければならず、単純ではありません。詳しくは、しぶとくロングセラーを続けているらしい拙書『為替力』で資産を守れ!をお読みくださいませ。
【経済】 「鳩山政権、危機管理能力なし。日本は“失われた20年”に突入」「日本は債務不履行に陥るか、通貨価値崩壊」説も
http://tsushima.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1256246926/
大抵は政治家の揚げ足取りに終わるネトウヨとミンス(≒ネトサヨ?)の鞘当てが演じられているだけの2chですが、今回もその域を出ないとは言え、経済学的に真面目なコメントもあります。ただし、もとの記事は、朝鮮日報。
http://www.chosunonline.com/news/20091022000023
お時間がある読者の皆さまは、真面目なコメントを発掘しつつ、これから先の日本国債の相場(⇔利回り)、そして為替相場
いよいよか?まだまだ円高か??
という議論の材料にしてください。
「そこまで時間はないよ。結論を知りたい(否、それは虫が良過ぎるが、論点をズバっと教えて欲しい)。」とおっしゃる七転び八起きブログ読者の皆さまには、
(問題)ばら撒き政策(例:母子加算、子ども手当、・・・・無料化など)の財源不足を、赤字国債の増発で補うのと、消費税率の引き上げで行うのと、経済に与える効果はどのように違うか?
これに対して、木で鼻を括ったような答え方をすると、「赤字国債を日銀が全額引き受けた(≒買い切りオペを約束した)としても、単純な貨幣数量説が成り立つという前提であれば、すべて消費税率の引き上げで賄った場合と、物価上昇に伴う家計にとっての実質的な負担は同じである」となります。
問題は、「単純な貨幣数量説(マネーサプライ・・・企業や家計がいつでも日銀券として引き出し可能だと勘違いしているお金の量全体・・・が倍になれば、物価も単純に倍になる)」という前提が成り立っているのかどうか、です。マクロ経済学の教科書的には、為政者がもっとも避けなければならないハイパーインフレの下ではこれが成り立つ、とされています。勿論、只今の日本経済はハイパーインフレではなく、緩やか且つ慢性的なデフレです。
・・・・
再び、「いよいよ円安か?まだまだ円高か?」は、財政規律の犠牲が日本だけの問題ではないことも勿論検討しなければならず、単純ではありません。詳しくは、しぶとくロングセラーを続けているらしい拙書『為替力』で資産を守れ!をお読みくださいませ。
2009年8月7日金曜日
美しい円周率と醜いフィリップス曲線-経済のイロハ②
円周率を引っ張ります。円周率(π)をなるべく正確に小数点以下どんどん求めようとする歴史は、がむしゃらな計算も含め、紀元前から始まります。
円周率の歴史
そのなかで、ひと際「美しさ」が目立つのが、1400年頃インド人マーダヴァによって発見された無限級数
1-1/3+1+1/5-1/7+1/9-1/11+・・・+(-1)^n/(2*n+1)+・・・・・・・・・・
無限に続く数列を考えます。最初は1。そこから先は分数で、分母が(1から)3、5、7、9と奇数で延々と続く一方、分子は(プラス1から)マイナス1とプラス1を延々と繰り返します。これを全て足し合わせるのです。
何とこれを4倍しますと、円周率(π)になるというのです。これを発見したインド人は天才。この証明を理解できる人は秀才。理由はわからずとも「美しさ」に感動する私は、単なるモノ好きです。
少なくとも円周率(π)に限れば、数学者が行った計算や証明が正しかったかどうかというのはいつかは歴史が証明してくれます(無限という概念を突き詰めると、話はだいぶ変わって来ますが・・・)。
本日、“為替力”アップ道場にアップした量的緩和拡大で英ポンド急落。成長率の落ち込みは歯止めが掛りつつあるものの、高い失業率は収まる気配がない、との英中銀の認識から、金融緩和(今回は利下げは見送ったものの-既に0.5%ですが-英国債の買い取り額を増やした)を決定したという記事です。失業とインフレの関係の深さを物語るのが昨日ご紹介のフィリップス曲線ではありますが、「無理矢理インフレ政策を取れば本当に失業率は改善するのか?」そしてインフレ策が正しいとしても「政策金利の利下げ、量的緩和の拡大、財政赤字のばら撒きのうちどれが政策効果が高いのか?」というのは、高名な経済学者や中央銀行の幹部の間でも議論が分かれます。
後者は特に変動相場制のもとでは財政赤字が(中央銀行によってファイナンスされない限り)景気対策としては有効ではないというマンデル=フレミングの法則というのがあります(注)。一方、前者は突き詰めればケインズとフリードマンのどちらが正しいか(該当する可能性が高いか)になります。少なくとも現実は滑らかなフィリップス曲線など描けてはいないということ。円周率のようには美しくなれない理由を次回以降議論します。
“為替力”アップ道場はこちらから
http://phxs.jp/
(注)逆に固定相場制では金融政策は為替操作だけに使われてしまうので景気対策の意味を持たない。ユーロ圏の(ECB以外の)各国の中央銀行が勝手にユーロを供給したら、それは偽札じゃないか、という理解の仕方は乱暴か。
円周率の歴史
そのなかで、ひと際「美しさ」が目立つのが、1400年頃インド人マーダヴァによって発見された無限級数
1-1/3+1+1/5-1/7+1/9-1/11+・・・+(-1)^n/(2*n+1)+・・・・・・・・・・
無限に続く数列を考えます。最初は1。そこから先は分数で、分母が(1から)3、5、7、9と奇数で延々と続く一方、分子は(プラス1から)マイナス1とプラス1を延々と繰り返します。これを全て足し合わせるのです。
何とこれを4倍しますと、円周率(π)になるというのです。これを発見したインド人は天才。この証明を理解できる人は秀才。理由はわからずとも「美しさ」に感動する私は、単なるモノ好きです。
少なくとも円周率(π)に限れば、数学者が行った計算や証明が正しかったかどうかというのはいつかは歴史が証明してくれます(無限という概念を突き詰めると、話はだいぶ変わって来ますが・・・)。
本日、“為替力”アップ道場にアップした量的緩和拡大で英ポンド急落。成長率の落ち込みは歯止めが掛りつつあるものの、高い失業率は収まる気配がない、との英中銀の認識から、金融緩和(今回は利下げは見送ったものの-既に0.5%ですが-英国債の買い取り額を増やした)を決定したという記事です。失業とインフレの関係の深さを物語るのが昨日ご紹介のフィリップス曲線ではありますが、「無理矢理インフレ政策を取れば本当に失業率は改善するのか?」そしてインフレ策が正しいとしても「政策金利の利下げ、量的緩和の拡大、財政赤字のばら撒きのうちどれが政策効果が高いのか?」というのは、高名な経済学者や中央銀行の幹部の間でも議論が分かれます。
後者は特に変動相場制のもとでは財政赤字が(中央銀行によってファイナンスされない限り)景気対策としては有効ではないというマンデル=フレミングの法則というのがあります(注)。一方、前者は突き詰めればケインズとフリードマンのどちらが正しいか(該当する可能性が高いか)になります。少なくとも現実は滑らかなフィリップス曲線など描けてはいないということ。円周率のようには美しくなれない理由を次回以降議論します。
“為替力”アップ道場はこちらから
http://phxs.jp/
(注)逆に固定相場制では金融政策は為替操作だけに使われてしまうので景気対策の意味を持たない。ユーロ圏の(ECB以外の)各国の中央銀行が勝手にユーロを供給したら、それは偽札じゃないか、という理解の仕方は乱暴か。
2009年6月22日月曜日
米長期金利に「ドル売り爆弾」
7月号のザ・ファクタ【月刊誌FACTA】
http://facta.co.jp/
に、
米長期金利に「ドル売り爆弾」
~北京大学で嘲笑を浴びたガイトナー財務長官の屈辱。BRICsの株価回復も資源高も「正体」はドル逃避では~
http://facta.co.jp/article/200907006.html
という記事があります。「七転び八起き」が、当ブログほか、『月刊FX攻略』や日経CNBC等を通じて、年初来こだわってきた米中関係(中国のドル保有のジレンマ)の問題が、ガイトナー米財務長官の訪中での“象徴的な出来事”と絡めて炙り出されている渾身の記事。是非、書店または定期購読で月間ファクタを手にしてお読みください。
http://facta.co.jp/
http://facta.co.jp/
に、
米長期金利に「ドル売り爆弾」
~北京大学で嘲笑を浴びたガイトナー財務長官の屈辱。BRICsの株価回復も資源高も「正体」はドル逃避では~
http://facta.co.jp/article/200907006.html
という記事があります。「七転び八起き」が、当ブログほか、『月刊FX攻略』や日経CNBC等を通じて、年初来こだわってきた米中関係(中国のドル保有のジレンマ)の問題が、ガイトナー米財務長官の訪中での“象徴的な出来事”と絡めて炙り出されている渾身の記事。是非、書店または定期購読で月間ファクタを手にしてお読みください。
http://facta.co.jp/
2009年5月28日木曜日
崖っぷちのGMと米長期金利の急騰
株高は債券安(長期金利高)を、株安は債券高(長期金利安)を意味するという経験則があります。相関関係は多少落ちますが、為替については、前者は円安と、後者は円高とセットだと。
昨夜は、この経験則に反する、米国株の反落と米国債相場の急落が生じました。前者はDES(債権と株式の交換)を柱とするGMの私的整理案が予想を遥かに上回る債権者から拒絶されたこと、後者はMBS(不動産関連の証券化商品)の大口売りが、それぞれ直接の原因とされています。
GMについては、昨日の日本時間に「UAW(米国自動車総連)がDESに応じる」という“リーク”が伝えられ、既得権益側の根回しというか、既成事実化(GMのゾンビ化)に向けて、着々と手が打たれている空気はありましたが、事実上の破談を迎えたことになります。米国債の暴落についても、
「競争力のない大企業を公的資金で救済するという前例を作ってしまったら、そんなモラルハザード国家の借金など誰が引き受けるか!?」
という市場の恫喝と捉える必要はあります。
我が国も、まったく他人ごとではないスタグフレーションの始まりです。
資源相場の急騰が、新興国バブルと米国発不動産不況の引き金となったように、各国の長期金利の上昇は、モラルを犠牲にした財政出動でも景気回復は出来るという安易な楽観バブルに針を刺すものです。米国債の利回り曲線(イールドカーブ)の指標となる「10年物利回り-2年物利回り」は昨年8月に付けた過去最大幅をぶっちぎっての記録更新だとWSJ紙は伝えています。
昨夜は、この経験則に反する、米国株の反落と米国債相場の急落が生じました。前者はDES(債権と株式の交換)を柱とするGMの私的整理案が予想を遥かに上回る債権者から拒絶されたこと、後者はMBS(不動産関連の証券化商品)の大口売りが、それぞれ直接の原因とされています。
GMについては、昨日の日本時間に「UAW(米国自動車総連)がDESに応じる」という“リーク”が伝えられ、既得権益側の根回しというか、既成事実化(GMのゾンビ化)に向けて、着々と手が打たれている空気はありましたが、事実上の破談を迎えたことになります。米国債の暴落についても、
「競争力のない大企業を公的資金で救済するという前例を作ってしまったら、そんなモラルハザード国家の借金など誰が引き受けるか!?」
という市場の恫喝と捉える必要はあります。
我が国も、まったく他人ごとではないスタグフレーションの始まりです。
資源相場の急騰が、新興国バブルと米国発不動産不況の引き金となったように、各国の長期金利の上昇は、モラルを犠牲にした財政出動でも景気回復は出来るという安易な楽観バブルに針を刺すものです。米国債の利回り曲線(イールドカーブ)の指標となる「10年物利回り-2年物利回り」は昨年8月に付けた過去最大幅をぶっちぎっての記録更新だとWSJ紙は伝えています。
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