2008年10月13日月曜日

ノー・モア・リーマン【号外】

●英国、欧州、およびスイスの各中央銀行、ドル資金供給を無制限に(10/13WSJ)
日銀も追って同様の措置を取る見通しと同紙。G7の隠し玉はこれだったのか?欧州時間に入り、足元再び円高は一服感が出ています。

●「リーマン型」破綻はこれ以上出さない-G7で約束(10/12FT)

ところで、金融庁は先週末、各FX会社に対して、「もしお宅のカバー先(カウンターパーティー)が破綻して更生債権を100%償却という最も保守的な処理を仮定したら、自己資本規制比率はどうなりますか」という緊急アンケートがありました。リーマンをカバー先にしていたFX会社もあった筈なので、もっと早くこのようなアンケートが来ると思っていたのですが。もしかしてリーマン以外の金融機関のことを心配(想定)してのアンケートだったのか。

金融商品取引法上、カウンターパーティが倒産すると、預かったお金が返せない恐れがあります。と書く必要はあります。ただし、これはあってはならないこと(あって欲しくないこと)。でも、最悪のケースに備えるのが経営の使命。

フェニックス証券の9月末の自己資本規制比率は
979.49%
まで上昇し、引き続きFX業界で最高水準です。余裕を持たせ過ぎという意見も聞かれます(ある意味、ROEは犠牲にしているから)が、この余裕のお陰で金融庁への回答は堂々と出来るというもの。そして敢えて繰り返さなければならないのが、格付は全く当てにならない(当てにしていない)ということです。
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神の見えざる手

「経済学は相場を当てたり金を儲けたりするための学問じゃない」と昔から咎められたものでした。心理学を勉強しても異性の気持ちは読めないのと同じか・・・何とかして女の子にモテたいものだと必死で岩波新書の心理学関連の書籍を読み漁った高校時代。その効果が全く無かったことが今となっては懐かしいです^^;

役に立つ学問もあります。物理学は自動車や新幹線を走らせることに貢献していると思われます。モノづくりに貢献している物理学。その殆どは、“ニュートンの林檎”で巷間流布されている「万有引力の法則」をひとまず疑わずに先に進めているものです。この“そもそも論”を疑い、直接は《モノづくりの生産性向上⇒物質的な豊かさ》に貢献しない道を選んだ日本人研究者にノーベル物理学賞が与えられました。

喜ばしいニュースは、目先役に立たないことを一生懸命やることの大切さだけでなく、立派な研究が目先の報酬や豊かさと関係がないだけでなく、学歴や学閥とも関係しないことを教えてくれました。駿台や四谷大塚の偏差値が気になって仕方がない世の教育ママ(これって死語?)に理解してもらえるでしょうか。

昨日、池袋のジュンク堂で、いかにも役に立たなさそうな本を見つけました。『ケネーからスラッファへ―忘れえぬ経済学者たち』(菱山泉著、名古屋大学出版会、1990年)。公共工事のバラマキ政策論者とレッテルを貼られてしまった可哀想なケインズほど有名ではない二人を極々簡単に紹介します。『経済表』で有名なケネーはフランスの経済学者で外科医(ポンバドゥール夫人、ルイ15世の侍医)。フランス革命期に相次いで死亡したブルボン家の陰に、ケネーの存在があったという噂もあるそうです。大革命前夜のブルボン朝は重商主義政策まっしぐら。ベルサイユ宮殿建設は余計ながらも、殖産興業と富国強兵のために、労働者と兵隊の実質賃金を下げるべく、穀物相場を抑える必要があったので、穀物輸出が禁止されていた。これにケネーは猛烈に反対。規制はなるべく緩和・撤廃すべき。富を生み出すのは商工業ではなく土地(農業)だけと言い切ったケネーは自由放任主義の草分けだとか重農主義者とか言われます。ケネーについて詳しく判りやすい本として、『読書と社会科学』(内田義彦著、岩波新書、1985)を挙げます。スラッファはイタリアの経済学者で、新リカード学派と呼ばれています。ケネーとスラッファを結び付けているのが、金曜日の夕刊で敷衍したイギリス人経済学者リカードの存在なのです。

リカードは、比較生産費説を従えて自由貿易の利益を説き、穀物法に反対する等、市場原理主義者の顔を持っていますが、初期のリカードは、重農主義者ケネーの説を定式化することに成功します。リカードの好む譬で、小麦と絹しか商品(産業)が無いと仮定、ふたつの産業の利潤率(利子率)が同一だとすると、利潤率は小麦産業における小麦の投入量と産出量(の比率=生産性または技術)のみで決定する。つまり小麦(基礎財)の産業技術が閉じた経済の利子率を先決的に決定し、絹(非基礎財)の利子率は従属的に決められるに過ぎない、と。

その後、リカード自身、基礎財だけを特別扱いする態度を捨ててしまいますが、初期リカードの重農的立場を継承し発展させたのがスラッファです。基礎財、非基礎財というと、戦後アメリカで何があっても主流の座を明け渡さなかった新古典派経済学(ぶっちゃけミクロ経済学)で出てくる必需品と奢侈品(ぜいたく品)と似ていますが、理論上は殆ど関係の無い概念です。

新古典派経済学は、リカードが経済学を勉強するきっかけになったと言っているアダム・スミス『国富論』の有名(というか恥ずかしながら筆者もそこしか知らない^^;)「神の見えざる手」というワンフレーズに対する果てしない注釈に過ぎないと言った経済学者がいます(奥野・鈴村『ミクロ経済学』岩波書店)。限界効用が逓減する(無差別曲線が下に凸)+限界生産性が逓増する(規模の不経済が存在する)という前提に立てば、中高生の社会科の教科書に出てくる需要曲線と供給曲線が×点のところで交わり、そこで価格と取引量が決まる。その均衡点に神の見えざる手で導かれるというわけです。

新古典派経済学にとって、限界効用逓減と限界生産性逓増は、古典力学にとっての万有引力の法則と同じようなもの。ただし、恐ろしく異なるのは、万有引力の法則を信じて疑わなくても人類の役に立つ様々な理論や機械装置が生み出されるのに対し、経済学の前提(モデル)は素人の直感に照らしてもホンマかいな?と疑ってしまいたくなることです。

リカードの初期理論に注目したスラッファの理論展開は、経済学のなかでは全くの非主流。経済企画庁(現 内閣府)やIMFでも計量モデルとして使われることはないでしょう。端折って言いますと、限界効用も限界生産性も、逓減も逓増もしない(グラフで描けばまっすぐな直線だ)と仮定すると、神の見えざる手が最適解を導かなくなってしまう。

ひとつの閉じた経済を連立方程式に譬えると、商品の数だけ連立方程式があり、その相対価格(商品の数-1)、利潤率、労働賃金が未知数(変数)となります。つまり、この多元連立方程式は方程式の数より1個だけ未知数が多くなり(自由度=1)、商品の相対価格が全部決まっても、利潤率と労働賃金の比率は一元的には決まらないという恐ろしい結論が導き出せるのです。

難しいのは、均衡モデルではない線形モデルというのは神様が均衡点という最適解“もどき”導いてくれないので、人為的に決めざるを得ない、または人為的に決められてしまっている可能性があるということです。

これを国際貿易論、ひいてはFXの相場の適正水準はどこなのか?という議論に発展させていくことは、筆者が社長をクビになったら本腰を入れて研究したいと思っていますが、ヒントは既に金曜日のブログにあります。純粋な加工貿易型の小国の為替水準には適正レベルが存在しない可能性があること。農産物(+天然資源)等、基礎財を中心とする閉じた経済が国民経済の大きな一部として内包している国の交易水準や金利が先ず先決的に決まる。これは、資本移動が規制されている非現実的な前提に立った議論ですが、「外国の金融機関は信用できない」地球規模の金融危機に際しては、このような前提に現実が近づく可能性が否定できません。

神が導いてくれないのなら、人為的に規制するしかないじゃないか?と、均衡を否定する論説が規制強化や計画経済を正当化することに使われるのはあってはならない話でしょう(『複雑系経済学入門』塩沢由典著、生産性出版、1997)。赤信号だったけど、皆で渡っていたのに、轢き殺されたという犠牲者を構ってあげるほど世界経済に余裕はない。そんなことに公的資金を使うくらいなら、四川大地震の被災者を助けるべきです。

決済インフラの機能を守ることが目的であれば、公的資金の投入範囲は決済預金と銀行間市場を時限的に政府保証することに限って良い筈。赤信号とわかっていながら、貸し手も借り手も互いに収奪しあった住宅ローンその他の不動産関連取引も粛々と破綻処理していけば良いのです。
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2008年10月10日金曜日

日経225先物が取引停止-大証

前代未聞。冷静に考えれば、SQ前夜に米国で空売り規制が撤廃されてしまったのが最悪のタイミングだった。

大和生命、更生特例法を申し立て。

きょうに限らず、今週は特に多くの取材をお受けしました。よくある質問は、

「株価(指数)の適正水準は何処だと思われますか?」

わたしの答えは、株価(指数)には適正水準なるものが存在しない。但し、為替(FX)は別かもしれない。。。です。「為替(FX)は別かも、、、」の話は後に回して、株価については巷間よく言われるように

①株価が下落⇒②逆資産効果⇒③消費が低迷⇒④企業業績が悪化
⇒っで、①に戻る。
際限なくこれが続くので、自由放任主義は株価の自由落下に繋がるという理屈です。

「株式や為替については、損をした人がいれば必ず儲けた人がいる筈。上記②の逆資産効果は“火事場泥棒”の資産効果で打ち消される。」というのが捻くれ者の七転び八起きの珍説ではないのか?なのに適正水準は無いと答えるのか?

株価が自由落下する場合の火事場泥棒は人数が少なく富の偏在が極端になり過ぎるので資産効果が十分働かない。但し、このような火事場泥棒、いや失礼、先見の明のある超大金持ちは主としてM&Aという形で株価の下支え要因になります。既に、わたしの周辺でもそのような動きが加速しています。M&Aの件数は、株価が上がりすぎて、企業経営者がM&Aに頼らないと株主の期待に副えない状況下と同じように、株価崩落時にも激増するものなのです。

一方、為替(FX)については、購買力平価が適正水準の目安の筈だという事実をキャリートレードバブル時に有名エコノミストが無視し尽くしたと、4月以来批判し続けて参りました。ところが、通貨によっては、

◎購買力平価が投機的な実為替の水準を引き寄せる

という原則通りに行かず、

×投機的な実為替が購買力平価自体を引き寄せる

ということが起こり得るのです。極端な例で、決して日本のことではないのですが、貿易依存度が高くて食糧自給率が低い加工貿易立国を想定します。極端な例なので、労働者国民の食糧と工場の原材料は全て輸入に頼る。完成品は全て輸出に回すと仮定しますと、この国の為替水準が、これまた極端に昨日から今日にかけて半分に通貨安になったとしても、生産要素の費用増と完成財の売上増が打ち消しあって、意外なほど国民生活に影響を与えないという結論が導き出せます。

80年代後半の円高局面では、以上“暴論”を経済学者や政治家、政策担当者が気付かなかったか無視した。当時わが国の指導者が見過ごしたのは、円高メリットを国民の端々に還元せずコッソリ独り占めする卸売+小売の既得権益構造が複雑怪奇に横たわっていたという問題の所在。

勿論、わたしが掲げた例は極端過ぎて、我が国にもコメのように極端に自給率が高い一次産品は存在するとか、自動車や電化製品を一部は内需してきたわけですから、日本を想定して「為替にも適正水準は存在しない」という暴論を当て嵌めるつもりはありません。

しかし、小国で一次資源(農林水産物や鉱物、原油など資源エネルギー)を殆ど持たない貿易立国には当て嵌まってしまうのです。実にアイスランドがその典型例ではないのか。但し、アイスランドは貿易立国ではなく似非金融立国だったようですが。

一方、私の大好きなニュージーランド。小国という点が当て嵌まるのがヤバいですが、貿易立国ではありません。電気も食糧も、鎖国しても大丈夫な体制が取られています。

実は、1980年から2007年までOECD計算による購買力平価(ビックマック指数よりは信頼出来るとされているが勿論完璧たりえない)と実為替のグラフを米ドル円とNZドル円で作ってみました(やり方が判ればブログにアップします)。やはり、小国である分、NZドル円のほうが、実為替に購買力平価が翻弄されている傾向が出てきます。

以上のお話は、為替相場が貿易収支だけと影響しあうという大前提になっています。貿易取引を遙かに上回る資本取引・金融取引が実為替をより翻弄することは現実見ての通り。資本取引や金融取引がクレジットクランチホームバイアスにより縮小すると、貿易要因が増えるので、現在は青臭い「貿易論」をする格好のタイミングだと思っています。それでも、小国に対する為替相場は行き過ぎる危険があるのだということをご理解いただけたら、長い文章を週末に書いた甲斐があるというものです。

週末は、リカード、レオンチェフ、そして“M.フェルドスタイン=C.ホリオカ”を猛勉強です。
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2008年10月9日木曜日

独り拘るアイスランド国家破綻の危機【夕刊】

先ずは事実関係から、
★10/7(火)アイスランド2位の銀行ランズバンキが経営破綻。即、国家管理下に置かれる。
ランズバンキの企業規模、破綻直前の収益力や時価総額は無意味な数字なので、従業員数が2000人強。人口30万人のアイスランドでです。日経新聞では国家管理として小さく扱われているだけですが、「支払不能と宣言し、管財人による保全命令が下った」即ち、倒産だというところが重要なのです。

★英国でネット銀行を営むアイスセーブ(ランズバンキの子会社)、同様に支払不能に。
氷のように固く貯金を守ってくれそうな名前ですが、英国民30万人の口座が凍結状態になってしまいました。アイスランドの人口と差が無いじゃないか、とFT紙。

★10/8(水)ブラウン首相は、英国の預金者は“英国の手により(?)”完全に取り戻されると約束。
★ダーリング財務相、預金保険の範囲(増枠後の£50,000)に拘らずアイスセーブ預金者全てを保護すると約束。
★ダーリング財務相、BBCのインタビューで「アイスランド政府は、信じられないことだが、英国民の預金の弁済の意思はないと伝えてきた」と証言。
★ブラウン首相、「預金補償をしないというのなら、アイスランド政府と法廷で戦う」と宣言。

この間、オランダ金融大手INGが自ら英国内でネット(+電話)銀行を営む子会社によるアイスランド系銀行2行の英国内預金業務の買収を発表。買収額は明かされていませんが、預金総額は£30億。またISDAはランズバンキが、翌水曜日に正式に国家管理となった同国3位の銀行グリトニール共々、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の信用事由(トリガー)に該当するとしています。

そして続報。
★テロ対策法Anti-terrorism powerを適用。アイスランドと英国の関係は1970年代のタラ戦争以来の険悪な状態に。

英国民がアイスセーブに預けた預金は£46億(1兆円近い!)に及ぶ。このうち£22億をアイスランドの預金保険スキームに、£14億を英国の預金保険スキームに、残りの£10億を英国政府に負担させようと財務省は考えていた(英国民の税負担は£24億。4000億円強相当ということに!)。

テロ対策法適用となると、親銀行ランズバンキが英国内に保有する資産を凍結、差押、売却換金することで事後的に上記税負担が取り返せるかも知れないと財務省関係者は語る(しかし貸付債権など金融資産の強制売却はランズバンキ取引先への貸し剥がし等、信用収縮の連鎖反応を懸念する法律専門家の声も聞かれる)。

一方、
★ダーリング財務相は預金保護の範囲を個人に限り、地方自治体や大学については保護しないと前言撤回

★アイスランドのハールデ首相、「アイスランドクローネ下落阻止で西側同盟が非協力的だった」と怒りをぶつけ、「だから“新しい友達”を探さざるを得なかったんだ」とロシアからの€40億の融資依頼を正当化

ただし、噂では、英国民の財産がアイスランドを経由してロシアにも流れているという情報があり、前代未聞のテロ対策法適用という強硬手段の背景になっているとの説も。

以上はここ数日のFT紙の記事をまとめたもの。何だか、朝銀公的資金投入問題(北朝鮮問題)を彷彿とする向きもいらっしゃるかも知れませんが、北朝鮮系信用組合の貯金の恐らく殆どは在日朝鮮人の預けたものである点は異なります。いずれも、銀行業務をやっている所在地国で預金保険料を払っている=預金保険対象金融機関であることは共通です。

「世界金融危機global financial crisisに直面して“やり得”moral hazardを指摘している場合じゃない」というのが各国首脳、大手マスコミ、有名知識人に略共通する意見になってきていますが、「済んだ事は仕方ない」では済まされないケースがこのように出て参ります。リーマン経営者の退職金や賞与も然りですが、アイスランドの金融行政と銀行経営が共同正犯でアイスランドに収奪された富が集まっていたとすれば、外交・軍事を含め出るところに出ざるを得ないと言われても仕方がないのではないでしょうか?もともとは不毛な土地の貧しい国で且つ非武装中立の国体維持の有形無形の費用もあったのでしょう。この点、ロシアとの関係はもっとちゃんと調べてみたいと思っています。

最後に、アイスランド系のネット銀行が何故にそれほど英国内で闊歩していたかですが、これも調査中ですけど、アイスランドはネットバンキングとクレジットカードが相当早くから発達していたらしいのです。その理由は、数少ない資源であったタラの漁獲量が激減して、インフレが発生、紙幣発行費用が馬鹿にならなくなったからだそうです。現在では現金決済額はGDPの1%程度のようです(出所Wikipedia)。
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