2020年4月16日木曜日

WHOって誰!? インフェルノ

われらが金髪の《ジャイアン》、ドナルド・トランプ米大統領が、WHO(世界保健機関)への拠出金の支払いを停止するとして、またもや物議を醸しています。

トランプ・フォロワー(注1)のわたくしとしては、「同大統領の初期動作がもう少し早くてしっかりしていれば、重症者数や犠牲者数をずいぶん減らせたはずだ」という言説には、諸手を挙げて賛成することはできません。

そのいっぽうで、WHOの初期動作が遅すぎた、不徹底であったことは、まずもって、批判を免れないでしょう。

WHOが中国を贔屓にしている(注2)と揶揄するのは、行き過ぎかも知れないものの、身から出た錆です。

3月10日㈫付け、七転び八起きFXブログの新型コロナシリーズの記念すべき第一回、ユヴァル・ノア・ハラリ氏の「ホモ・サピエンス小史」と並んで紹介した図書として、ダン・ブラウン氏の「インフェルノ」がありました。

「インフェルノ」については、「ダ・ヴィンチ・コード」ほどは成功しなかったと書いてしまいましたが、それでも世界中に翻訳されて、累計6百万部以上売れているようです。

同じサスペンス物でロバート・ラングドン(注3)のシリーズであっても、「ダ・ヴィンチ・コード」は水戸黄門や暴れん坊将軍よろしく、勧善懲悪物で、敵味方はっきりしている書きぶりでした。「インフェルノ」は、WHOと天才科学者ベルトラン・ゾブリスト(注4)との対立軸で物語は進みます。前者が善玉、後者が悪玉と決めつけられていないのが特徴なのです。あら筋をフォローするのに一苦労する理由(注5)でもあります。

ちなみに、「インフェルノ」は原作のあら筋に対して、映画のほうは、エンディング部分が大きく改変され、勧善懲悪物にされてしまっています。これが、WHOという巨大組織に対する忖度のせいなのか?大ベストセラーの「ダ・ヴィンチ・コード」の映画版が興行収入としては期待通りでなかったことの反省からなのか?は知る人ぞ知るです。

きょうのブログの着目点は、「インフェルノ」の、原作にあって、映画にはない、エンディングに向けてようやく明らかになる「落ち」です。

飛び抜けた才色兼備と、そのことがむしろ災いして招いた幼少期からの数々の艱難辛苦、それを乗り越えるきっかけとして、時を挟んで、シエナ・ブルックスの前に現れた二人の天才の男性。

天才科学者であり、見た目はこの物語の悪役であるベルトラン・ゾブリストは、これまでの研究成果により大富豪のカリスマとなっています。

ゾブリストの思想、教義を乱暴にまとめると、

「人類は今日の人口爆発により共倒れ状態となり、意外に早く絶滅する。」

「危機を乗り越えるための《進化》が必要だが、人口爆発のスピードには間に合わない。」

「人類全体の滅亡を回避し、《進化》のための時間を稼ぐには、《間引き》つまりトリアージュしかない」

ということ。しかも、ゾブリストの言う《進化》は人為的なもの。すなわち、遺伝子操作によるデザイナーチャイルドの発想なのです。

最後の部分は、トランスヒューマニズムと呼ばれるそうです。もうひとつの推薦図書(?)であるユヴァル・ノア・ハラリの「サピエンス小史」では、遠くない将来、スーパーヒューマン(注6)が地球上に現れ、これにより現在の人類(ホモ・サピエンス)は滅ぼされると言います。おそらくですが、ゾブリストの《進化》は、スーパーヒューマンを志向するものだと考えられます。

ざっくり言うと、ゾブリストが命を賭して開発し撒布を企てた人工ウイルスの性質を知って、シエナは身も心もゾブリストから遠のくのですが、そのあとも、人口爆発制御こそ最重要命題だという点においては、ゾブリストの一「使徒」(いちしと)であり続けていることが、遁走中のラングドンとの会話から明確に読み取れます。

で、ここからが肝心です。だいぶネタバレに近づいております。人口爆発問題に対処するという点においては、ゾブリストとWHOの方向性が異なっているとは見えないわけです。しかし、発想の未熟さや方法の稚拙さにより、WHOは結果を出していないと、ベルトラン・ゾブリストは女性の長官(エリザベス・シンスキー)を呼びつけて批判、啓「蒙」します。人口爆発のepicenterでありground zeroでもある発展途上国に、先進国から義援金がわりに送られた避妊具が埋め立て用の土嚢の代わりに堆(うずたか)く積まれているエピソードについては、女性長官エリザベス・シンスキーは反論出来ずにいる、などです。

この物語のあら筋~落ちの部分でわかりづらいのが、ここです。

シエナ・ブルックスは、映画で捻じ曲げられたあら筋のように、ゾブリスト側の悪役で終わるわけではありません。かと言って、逆にゾブリスト側からWHO側に寝返ったわけでもありません。

最後の最後にこの謎が解き明かされることになります。ゾブリストの病原体は何としても撒布前に食い止めなければならないと思った。しかし、食い止められたとしても、それがWHOの手に渡ってしまったのでは元も子もない!?と思った。だから単独行動に出て、しかも、WHOの絶大なリソースには頼れないところ、暗号(クリプト)を地下(クリプト)で解くことが得意なラングドンを連れまわすという着想に至った。。。

そして土壇場でラングドンを振り切って、WHOよりも早くepicenter、ground zeroを目指す。。。その場所はラングドンの天才的暗号解読によって特定されたものであるという皮肉。。。

シエナ・ブルックスは言います。WHOと協力して人口ウイルスの回収という選択肢はないのだ、と。ゾブリストの人工ウイルスがWHOに渡ってしまえば、その支援国家間の権力闘争やひいては戦争に悪用されることが間違いない。空気感染も可能な高性能のウイルスは悪用されようものなら、生物兵器にほかならないから、と言うのです。

わたくしたちは、国連(機関)というのは、国家や政治家のエゴから中立的な、公正で公平な存在だという幻想を持っています。これには社会科教育も一役買っています。第一次世界大戦後に出来た国際連盟は実力部隊を持たなかった。これが第二次世界大戦を引き起こした反省。それで国際連合は国連軍という実力部隊を持った。そして安全保障理事会の大国主義は機能している、などと習います。現実はおおいに異なり、第二次世界大戦後、戦場になっていない国は、日本を含めて極々僅かなのです(9.11も戦争、戦場だと看做します)。

WHOは、安全保障理事会や、国際オリンピック委員会よりはマシであると信じたいです。しかし、ダン・ブラウンが、どちらかと言えば悪役側であるベルトラン・ゾブリストやシエナ・ブルックスをして言わしめた批判(ややもすれば中傷)は、大国のスポンサーシップなしには成り立たず、大国の利害に揺さ振られる、vulnerableな国際機関の宿命を見事に描写しています。

エチオピア出身の現WHO事務局長テドロス・アダノム・ゲブレイェソス氏によるパンデミック宣言が遅かったことは記憶に新しいところ。そこには中国への配慮があったのか、新型インフルエンザで大騒ぎをしすぎた過去への反省があったのか、わかりません。そのあと、「一にも二にもテスト、テスト、テスト」発言です。

これまでの新型コロナウイルス感染症シリーズで一貫してお伝えしているように、都市封鎖の費用対効果と並んで、いま陽性か陰性かを判断するPCR検査の費用対効果について、わたくしは非常に懐疑的です。エボラ出血熱と異なり、致死率が低いこと、無症状または軽症を経て免疫を獲得できるひとの割合が高いこと、発症するにしても潜伏期間が長いこと、これら3つの性質に鑑みると、実施する意味がある検査は抗体の有無の検査(アンチボディテスト)です。数が足りなければ無作為抽出のサンプルテストでもやる意味があり、それによって、国ごと地域ごとの、適切な制御方法は異なってきます。

免疫を獲得できたひとを医療現場や隔離施設や経済社会に戻すこと、配置転換すること、これこそがいま一番大切な経済政策であり社会政策なのです。

いっぽう、都市封鎖を、一概に有意義だとか、一概に無意味だとか決めつける態度こそが有害無益です。このブログでは、定期的に、国(など)ごとの(単位)人口に対する死亡率に注目して、エクセルシートを更新してきました。この視点が、一部の心ある研究者や媒体を除いて欠けており、的外れの悲観論や楽観論がパンデミックを起こしてしまっていました。

感染率や致死率が、男女で、年齢層で、血液型で、どんな持病を持っているかいないかで、人種で、どのように異なるかという研究は、いろいろと進んでいることは確かです。が、その結果を知っても、ジタバタすることくらいしかできなくて、オンライン飲み会でのネタ程度にしかならないです。

多くの研究者や媒体が飛びつき群がる上記テーマよりもむしろ、人口密度(都市化率、都市の集中度)という要因を強調してきました。

このブログのエクセルシートを受け継ぐ以上に遥かに良くできた統計処理とビジュアル処理をしている無料サイトがニューヨークタイムズ紙にあります。ここから読み取れる情報は多岐にわたりますが、是非とも、都市集中と単位人口当たり(ニューヨークタイムズでは十万人当たり)の死亡者数に注目して、ニューヨーク州(ニューヨーク市)と、西海岸の大都市、その他を比べてみてください。国ごとの比較だけからは見えてこない示唆があります。




注1:トランプ大統領のツイッターをフォローしているだけであって、トランプ大統領の信奉者という意味では必ずしもありませんのであしからずご了承ください。

注2:実態は、中国がWHOの贔屓(谷町)になってきている、と言えそうです。

注3:美術史(と「象徴学」)を専門とする学者というキャラクター。謎の殺人事件など凶悪犯罪の現場などに残された「象徴」や「暗号」(=クリプト)を解読し事件解決の手伝いをするために、歴史的建造物の地下空間(=クリプト)などを、《マドンナ》キャラと一緒に遁走するのが特徴

注4:とくに産業革命以降に幾何級数的に増殖する人口が人類を滅ぼすとの信念から、自らが開発した人工ウィルスで、世界全体の女性の三分の一を不妊にさせるというパンデミックを起こす。ややどうでも良いが、LGBTのB。

注5:「インフェルノ」での《マドンナ》役は、シエナ・ブルックスというIQ200越えの女性。かつての信奉者であり恋人でもあったゾブリスト(注4)と、ラングドン(注3)との間で女心が揺れる。以下、ネタバレの本質部分になってしまいますが、ゾブリストが撒き散らす人口ウイルスの内容には合意できないことから、ラングドンとの逃避行の目的が変容するのですが、かと言って、ゾブリストに予告されたパンデミックを封じ込めようと焦るWHO(世界保健機構)側に寝返るわけではない。

注6:ホモ・サピエンスに対して、”ホモ・スペリオーレ”みたいな感じで、現人類とはホモ(ヒューマン、ヒト)という「属」は共通だが、「種」が異なる存在。かつては、ネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)をホモ・サピエンスが凌駕したのと同じような関係

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