2023年11月13日月曜日

イランのマネーロンダリング疑惑。果たして目的はハマスとヒズボラなのか???

 皆さん、この写真ですが、①どこの国でしょうか?②どの町でしょうか?③そして中央のガラス張りは何の建物でしょうか?


答えは、①イラン、②首都テヘラン、③イラン中央銀行(1979年のイラン革命以降の正式な名称は「イラン・イスラム共和国中央銀行」
です。

日本銀行の旧館は日本橋の街並みに溶け込む素敵な文化財ですが、この写真と比較をすると言葉を失います。

イランの一人当たりGDPは、後者だと $19,942で世界第83位。日本は、$52,120で同第34位です。やれ韓国に抜かれただなどと威勢があがらない統計ですが、こちらは円安の影響をどちらかというと受けづらい購買力平価ベースの数字である点に留意です(2023年のIMFによる推計値)。

イランの中央銀行がこんなに豪奢なビルを建てられるのも石油のおかげなのかと勘繰ってしまいます。かなり古い統計ながら、2007年にイランが「稼いだ」外貨準備700億ドルのうちの8割は原油の輸出から得られたものだそうです(英語版Wikipedia)。ではイランの石油関連の(純)輸出の推移はどうなっているのでしょうか?

こちらの棒グラフが、イランの年次の石油関連の「純」輸出です。石油関連には天然ガスも製品も含みます。イランの場合だと、原油も天然ガスも純輸出国で石油製品は純輸入国、総合で(世界第7位の)石油関連「純」輸出国なのです。

バイデン政権で解除されたトランプ時代の経済制裁の効果が素直に表れているように見えますが果たして実態はどうなのでしょうか?

(石油関連純輸出量ランキング)
(石油関連輸入量ランキング)


何故、下向きかというと、(中国、米国、)日本などの「純」輸入国の「純」輸入量が上向きに出ているためです。

このような出し方をしてくれているのが、世界のエネルギー・気候統計 - 年鑑2023というサイトです。

日本は2011年の東日本大震災による原発稼働停止の影響にも拘わらず、原油や天然ガスの輸入を減らしてきているようにも見えます。この点についても、考察したいのですが、今日の本題はイランのマネーロンダリング疑惑なので、深入りを避けます。

一方、この間、輸入をグングン伸ばしてきたのが中国です。

中国についても国策の不動産バブル崩壊、習近平の独裁基盤強化と閣僚の相次ぐ更迭に李克強の謎の死など経済全体のメルトダウンについて見ていく必要があるのですが、これも措きます。

イランが何をしたいのか?

これを考えるきっかけになったのが、週末目にしたウォールストリートジャーナルの記事でした。

記事を要約すると、
①ガザ地区のハマスは、イランからの送金を、ハワラという手段で(銀行システムを頼らずに)受けていた。
②ハワラのハマス側受取人司令官がイスラエルによって狙い撃ちされて死んだ(2019年)。その後任は、足が付きやすい(?)ハワラのかわりとして、暗号資産を使うことにした。
③2023年10月のテロ攻撃までの間にその軍資金としてハマスが受け取ったもののうちイスラエル当局が差し押さえたものは143百万ドル(米国側情報では、イランからハマスへの「義援金」は毎年100百万ドル)
④ガザ地区にはハマス御用達の暗号資産取引所(仮想通貨交換所)がいまだ活動中であるほか、ガザ地区に帰属する暗号資産のウォレットは経済制裁下のロシアの交換所Garantexにもあるし、Binanceにもある。
⑤イスラエル当局によるAMLCTFから逃れるため、ハマスのウォレットはしょっちゅうアドレスを変えたり、匿名性の強い暗号資産へシフトしたりしているが、ドル建てのステーブルコインは良く使われている。

ここで、米国側としては、マネーロンダリングもテロ資金供与も不都合なものでしょうが、前者と後者は区別しなければなりません。イランからハマス(やヒズボラ)への送金は、ハマスやヒスボラをテロ組織と定義したとして、テロ資金供与にはなりますが、マネーロンダリングを行ったことにはなりません。イスラエルは、10月のハマス攻撃までは、ガザ地区は(ヨルダン川西岸地域とは異なり)ユダヤ人が入植しない二国家戦略でハマスとは言わないもののパレスティナ自治政府による実行支配については黙認していたわけです。しかし、国連加盟国という定義では国はあくまでイスラエル国なので、その権限で、送金の受取の制限をしていたという構成になるのでしょう。

ハワラというイスラム圏(およびインド圏)にとって中世以来伝統の資金移動業そのものがCFTにひっかかったり、ましてやAMLにひっかかっているわけではありません。

ハワラは、日本でも銀行制度が整うまでの遠隔地の送金を為替手形を使って行っていたのと似ていますが、為替手形という有価証券すら存在しないのだそうです。身内~村社会的なコミュニティを構成する資金移動業者間の約束(帳簿)と暗号(秘密鍵)を用いて送金の仕向と被仕向がなされるようです。

地下銀行に例えることもできますが、地下と言っても、イスラムの慣習法上、違法な取引ではありません。

私の記憶では、ホロコースト下のドイツなどヨーロッパ各地のユダヤ人がアメリカへと急ぐ前、財産だけも先にアメリカに送っておこうということで地下銀行のような組織が使われたと聞きます。慣習と私的自治に基づき免許や特許に基づかない資金移動業はイスラム側にもユダヤ側にもあったというのは興味深いではありませんか。

それで、この記事を読んで思ったのは、イランがハマス(やヒズボラ)にどうやって資金や武器を送っているかというのは本筋ではないのではないか。それよりも、イランは米国(側)の経済制裁下で銀行のドル預金(決済)にアクセスできないにもかかわらず、どうやって経済活動を維持して、さらにそのうえで、多額の援助をテロ組織に対して行えているのかということです。

石油を何とか誰かに買ってもらえないかというイラン側のニーズと、米国に黙ってこっそりイランの石油を買えないかという石油純消費国にニーズがマッチするところに、ようやくマネーロンダリングのニーズが出てくるわけです。

問題は、米国の対イラン経済制裁に参加しない陣営もそこそこあるわけですが、ざっくり言うと、石油の純輸出国が多いのです。上述の(石油関連純輸出量ランキング)が参考になります。(旧)ソ連同盟国が点在する中東や中南米の石油純輸出国たちにはマネロンのニーズがありません。

そこで急浮上してきていたのが中国です。しかし、中国が工業製品やレアメタルの輸出で稼いだドルの一部をそのまま、米国(側)のドル決済(例:SWIFT)を利用してでも、イランの原油仕入れ代金として送金する必要があるでしょうか?人民元で良いはずです。いままでのところは。

日本としてもイランやロシアの石油や天然ガスを喉から手が出るほど欲しいところですが、核を持つインドのような勇気ある行動は日本にはとれません。米国に「No!」と言えないのは宏池会出身の岸田文雄首相のせいだというのはちょっと可哀そうすぎます。実際、「公式の」統計を信ずれば、イランの供給減も、日本の需要減も見て取れます。

中国ほどではないものの需要が堅調なのが欧州です。ドイツやスペインがどうやっているのかは気になります。


データと記事をちらほら見たうえでの雑感に過ぎませんが、前トランプ米政権によるイラン核合意からの離脱と米国(側)経済制裁による「西側」結束というのは、原油や天然ガスの運搬そのものへの制限と監視という意味では効果絶大だったでしょうが、中国、インド、闇市場まではどうすることもできない。それを更に担保するためのアンチマネーロンダリング監視というのは効き目があったとは思えないと見えます。

それでもアンチマネーロンダリングがまったく無意味というのも間違いであることを示す同じくウォールストリートジャーナルの記事も関連してありました。

本来、米国(側)のKYC(本人確認~犯罪収益移転防止法)に与する義務を負っている欧米の巨大銀行が、ハマスに実質的に帰属する加盟借名口座を開設してあげていたというものです。


やはり、イランとしては稼いだドルをドルのままハマスに送金したいというニーズもあるようです。







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