2023年11月20日月曜日

「アルゼンチンのトランプ」?リバタリアン経済学者のハビエル・ミレイ氏がアルゼンチンの次期大統領に

 X(旧ツイッター)界隈では、ドナルド・トランプ米前大統領が、ハビエル・ミレイ氏に祝福のメッセージを送っていることもあって、我が国でも保守系論客がざわついております。


去る今年8月の予備選挙で首位に立ったときも、同じようにトランプ前大統領からの援護射撃はありましたが、それでも「極右」(?)過ぎる主張や、中央銀行廃止などという現実離れ(?)した政策提言などで、さすがに決戦投票では政権交代は難しいのではないかというのが下馬評だったようです。

しかし、保守とリバタリアンはかなり異なります。共通点のほうが少ないと言っても過言ではありません。

ただ、保守主義にも、リバタリアニズムにも、それぞれ幅があります。それゆえ、議論を精緻にしようとすればするほど複雑でわかりづらくなってしまいます。

リバタリアンに近かった保守政治家ということで思い浮かぶのが、西側先進国では、マーガレット・サッチャー、ロナルド・レーガン、中曾根康弘ということになるかも知れませんが、この方々は小さな政府を志向していたかも知れないが、国益を第一と考えるゆえに、軍事と外交では存在感がありすぎました。きょうの本題のアルゼンチンとの絡みでは、どうも日本人にはピンと来ないフォークランド紛争という軍事介入をしでかしたのがサッチャー首相でした。結局、「戦争は別だ」という例外扱いを認めてしまうと、それを支えるための積極財政、裁量的な金融政策が必要となってしまい、リバタリアンは成り立たなくなってしまいます。

貧しい労働者や農民を救済するための考え方である共産主義が、「私有財産こそ貧富の格差(階級)という諸悪の根源である」という理念(理想)を背景にしているので、そのために為政者が私有財産を没収すると、気が付くと、ソ連の国民は、帝政ロシア期の労働者農民よりもいっそう喰えなくなってしまっていた、というのと、似ています。

純粋なリバタリアンが大統領選勝利という記念すべき本日くらいは、サッチャー、レーガン、中曽根という偉大な先生方を一旦忘れましょう。

なにゆえハビエル・ミレイ氏がドナルド・トランプ氏の応援を勝ち得たのかと考えるときに、移民政策についての考えがどうなのかというのが気になりました。

リバタリアンの代表的な経済学者と言えば、古くはオーストリア学派のワルラス、メンガー、ジェヴォンズ、ベーム・バヴェルク、新オーストリア学派のハイエク、フォン・ミーゼス、そしてシカゴ学派のフリードマン、ベッカーという系譜です。

原則なにをしても自由、他人による自由の追求(例:犯罪行為)のために自分の自由が脅かされる(自由と自由の衝突)場合には、自力救済(現行法で合法な正当防衛や緊急避難だけでなく仇討ちまで)もOKとするというのがリバタリアンですが、それでも完全な無政府主義は現実的(いますぐ)には困難なので、移民制限はやむを得ないというリバタリアンもいるようです。

しかし、親子鷹と呼ばせてもらいたいミルトン・フリードマンとデイヴィッド・フリードマンに言わせれば、「豊かな国(例:アメリカ合衆国)は貧しい国を援助する必要もないが、貧しい国からの移民を排斥する合理的な理由はない」と断言しています。これがリバタリアンの神髄です。

なお、ミルトン・フリードマンの薫陶を得たシカゴ・ボーイズという経済学者たちが、軍事クーデター後のチリ(アンデス山脈を挟んで本日本題のアルゼンチンと背中合わせ)のピノチェト政権の経済政策をリードし、デフレ圧力という副反応を伴いながら「チリの軌跡」と呼ばれた(自画自賛した?)経済復興を成し遂げたことにも注目です。

移民政策以外で、リバタリアンの間でも意見が分かれてしまうアジェンダとして、避妊や中絶の是非、麻薬、LGBT(同性婚など)、環境問題(SDGs、二酸化炭素排出規制)、新型コロナウィルス感染症に対するワクチン接種の是非などがあげられます。

日本で見てみても、X(旧ツイッター)やYouTubeにはいわゆるネトウヨを喜ばせる保守論客の配信や投稿が活発です。参政党ではないですが、アジェンダ毎に個々人で意見が分かれてしまうのはやむをえないので、暴力を伴わない内ゲバが起きてしまいます。これは左翼側と似ているのかも知れません。

ハビエル・ミレイ次期アルゼンチン大統領の(公約とまでは言えないものの)政治的スタンスをまとめると、

移民政策:不法移民、犯罪歴のある移民の受け入れに反対(リバタリアンとしての例外で、トランプの考え方に近い)
避妊や中絶:禁止すべき(強制性交によるものを含み、母体の命にかかわるものを除く)
麻薬:容認、無関心
LGBT(同性婚など):無関心
環境問題:SDGs、二酸化炭素排出規制に懐疑的ないし否定的
新型コロナウィルス感染症に対するワクチン接種:ワクチンの強制を否定

かなり簡潔にまとめたつもりですが、ほかにも米国、中国、イスラエルとの関係性などについても態度が示されておりますので、興味のある方はWikipediaをご覧ください。

(2023年11月20日現在、まだ日本語版のウイキペディアはありませんが、或る程度は自動翻訳や何かと話題のChatGPTも使えるのではないかと思われます)

ドナルド・トランプ前アメリカ大統領の政策を比較するとどうなのでしょうか?アメリカ第一のトランプの政策がリバタリアン的だったとは思えず、その真逆のナショナリズム乃至ポピュリズムというふうに見られてきていたと思います。しかし、改めて見直すと、大きな政府、小さな政府の違いや、(伸びきった)先進国アメリカと(栄華から落ちぶれた)後進国アルゼンチンという置かれた立場の違いが大きいわけで、トランプ氏とミレイ氏のベクトルはかなり同じ方向を向いていると考えられます。

であるにもかかわらず、内ゲバのさなかとは言え、ネット上で人気の日本の保守系論客のほとんどは、「トランプ推し」にして、ミレイ氏を同様に推すとは思えないのです。

日本でリバタリアンがほとんどまったく育たないことには様々な理由があるのでしょう。

最後に、経済、外国為替などもフォローするブログとしては、触れないではいられないのが、ミレイ氏は、自国の中央銀行の存在をも否定する政治家であるという点です。

ちなみに、私個人は、日本銀行の職員は皆頭脳明晰で良く働いていると思うのですが、結果として、自国通貨を防衛しているのか?物価の安定に貢献しているのか?日本経済の舵取り役として必要なのか?そもそも日本経済の舵取りは日銀なのか?疑問に思っています。

このあたりは、各国の中央銀行がどのような時期にどのような(隠れた)目的で設立してきたのかなどを紐解くと薄っすら見えてきます。





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