2021年1月21日木曜日

国会議事堂襲撃の資金はビットコインだった!?

 

年末年始、市場の話題を攫って(涼って)いたビットコインが、またもや踊り場に来ています。

 

思い出したかのようにアップさせていただくBTCUSDのチャートがこちら。



「サラリーマン投資家が登場すると、相場もそろそろ大詰めというのは、洋の東西を問わない」と溜息をつきたくなるところですが、そうとも言い切れません。サラリーマン投資家の最たるものである中央銀行や年金が、7年以上、買いあさってきた日本株は、いま昭和バブル期を凌駕する高値圏にいるのです。

 

わたくしの過去のブログのアップでも、おおいに反省すべきものがあるのが、相場はファンダメンタルズで分析しても意味がない、先は読めないということです。インサイダー情報はここで言うファンダメンタルズではありません。

 

ビットコインをフォローするなかでぶち当たった気になるニュースがこちらです。

 

米国国会議事堂襲撃事件関与たAlt-Right Group主要人物フランス人極右青年50ドル相当ビットコイン寄付てい!!!

 

このニュースが気になった理由は、いくつかあります。

 

ひとつ。ワシントンのキャピトルヒルの襲撃は、現職の大統領が暴力を首謀するとは、前代未聞だとか、言語道断だとか、さまざまな感想や意見が寄せられています。いっぽうで国会議事堂のセキュリティはいったいどうなっているのだなど、言われてみれば確かに解せない指摘もあります。

この点、トランプ前大統領に近い情報機関からは、同前大統領は集会や示威行動までは教唆したが暴力にまで走らせたのには別の首謀者がいるだとか、その別の首謀者は俗に言うアンティファという反トランプ陣営で、BLM運動などを通じて米国社会の破壊を企んでおり、その資金源は中国などの米帝転覆を狙う筋だとの陰謀論的な情報まで飛び交っているからです。

アンティファ云々は、絵空事のようにも思え、まともな情報機関は相手にしていないように見えますが、とにかく、歴史、政治、経済、、、科学(新型コロナウイルス感染症の関係を含みます)について、先入観を持たずに、権威の言説を猛進せずに、というのが我がブログの精神なので、そういう意味で、この事件は素直な気持ちで情報を収集し、冷静に分析をしたいと思っていたところなのです。

 

ふたつめ。ビットコイン(をはじめとするブロックチェーン)については、しばしばその本質に迫りたくて分析をしてきました。そのなかで、ビットコインの匿名性というのがあります。この記事によれば、500,000ドル相当のビットコインの送り主も受取人も把握できているわけで、とくに送り主についての詳細など、どのようにして「足がついた」のかについても、記事では開示できないが、ChainAnalysisとしてはしっかり把握できているのだと書かれているのです。

 

ChainAnalysisの記事には、フランス人で、ビットコイン送金後に自殺を図ったプログラマーの遺書が紹介されています。自殺の直接の原因と考えられる自身の体調不良についてのほかに、欧米諸国全体に対する「憂国」が綴られているのです。フランス国内に限らず、また米国にも限らず、欧米社会全体の伝統を蔑ろにする風潮、寄付者の言葉でワイマール共和国的な悪がはびこっているとし、その一例としてBLM運動が参照されています。

 

ところで、巨額のビットコインを誰が送り、誰が受け取ったか、このようにほとんど判明している理由は、わたくしにはよくわかりませんが、送金に使われたとされるフランス版暗号資産取引所のKYCがしっかりしていたからか、送金で使われたウォレットやノードのなかにあるExtremist Legacy WalletExtremist Donor Walletが何らかの理由でChainAnalysisの技術でトラッキング可能だったのかも知れません。

 

それによると、

 

ビットコインの寄付金はひとりの送り主から20口座近くのアドレスに送られていて、一部アドレスの「名義」がわからないものも含まれているようです。しかし、総額の約半分は、米国極右の代表格であるNick Fuente青年ひとりに送られているのです。

 

名うてのYouTuberだったらしい同青年は、同アカウントを凍結されるほどの筋金入りの極右で、有色人種排斥だけでなく反ユダヤでもあるようです。そうすると、ユダヤ人を娘婿に迎えたトランプ全大統領とは政治信条が完全一致するのかと、やや疑問を挟みたくもなります。米国の保守主義というのも幅があるようで、トランプ大統領のユダヤ人贔屓というもどう考えても打算の代物でしょう。Nick Fuente青年がトランプ前大統領を心底惚れ込んで応援団長を買って出ていると考えて間違いはなさそうです。

 

なんとかあらすじを拾ってみようと書いてきましたが、興味がある読者の皆さんは、まずは、ChainAnalysisの記事そのものをご覧ください。わたくしが書ききれなかった細かい情報やニュアンスが詰まっています。

 

この大スクープによって、トランプ派報道機関(Fox NewsNew York Post など)が言う「集会させたのはトランプだが襲撃までさせたのはトランプ(と同じ考え方の人物)ではない」という言説は、さらに怪しいものに思えてきます。さらには、立場が真逆のアンティファが、トランプ派の振りをして、暴徒に混じるどころか、率先して国会議事堂に侵入し暴力行為を働いたというのは、やはり陰謀論にように思えるところです。かと言って、アンティファや一部のBLM運動にも許しがたい問題を引き起こしているものも厳然とあります。

 

自殺したフランス人プログラマーの、ワイマール共和国という譬えに沿うならば、まさに現在の米国は、ワイマール共和国成立後、国家社会主義労働者党と共産党が対立し、中道派が瓦解したドイツの状況に似ているのかも知れません。記事中のAlt-Rightとアンティファ、どちらが正義でどちらが悪者なのか、、、という観点でしか物事を判断できないひとが蔓延してきていることこそが、人類社会の崩壊の証左なのでしょう。

 

最後に余計なひとこと。実はアンティファだったというのが陰謀論ではなくて事実であったみたいなことは歴史上いくらでもあろうかと思います。我が国でも、安保闘争を暴徒化させた資金は、大東亜戦争後は代表的な右翼となった田中清玄から全学連に渡っていたものだったとされますが、なかには元外交官の孫崎亨氏のように、田中清玄を経由させた資金の出どころはCIAであり、その狙いは、岸信介で退陣あって、見事に狙い通りになったと説かれています。もちろんこの説が出鱈目だというひと(とくに安保闘争の当事者だったひとたち)もいます。

 

2021年1月7日木曜日

コロナ第三波で、世界のお金持ちは、何を考えているのか?

お陰様で、Daily WiLL Onlineのおカネに関する連載が6話完結したいま、人気記事ランキングのトップファイブを独占するに至りました。

もうこれ以上は記事が更新されないので、あとは、陥落のみです(苦笑)。

 

MMT(現代通貨理論)を皮切りに、金(ゴールド)・銀・銅を切り口とした異説日本史を経て、最終回はいま熱過ぎるビットコインなどの暗号通貨の話題で締めくくったことが、反響を倍加した感じです。

 

MMTをきっかけにしたのは、怪しい経済理論であるにもかかわらず、コロナ禍のもとで、先進諸国は議論する余裕もないまま、未曽有の財政赤字の急増がなし崩し的に意思決定され、ロックダウン(日本では緊急事態宣言に伴う時短などの自粛要請)とセットでの給付金対応を迫られているからです。

 個人的には、給付金はフェアであってほしいですが、それそのものを否定したくはありません。

 「コロナ勝ち組」、「コロナ負け組」などという、品(ひん)の無い言葉もあります。

 人間たるもの、いまどちら(側)の産業に従事しているかには、運の要素が強すぎて、努力で克服できるレベルを超えていると思うからです。

それにしても、「コロナ勝ち組」の連中や、これまでしっかりと現預金を溜め込んできた世界のお金持ちが、いま、何を考えているかを想像してみることは重要です。2021年の相場を見通すために、十分ではないが必要な、考察です。

彼らの多くは、景気循環のひとつの局面である景気後退期から不況または恐慌の時期にあっても財政支出を支持しないものなのです。ましてや、とりわけ今回のようなショックは、資本主義に内在する景気循環の結果ではなく、外生的なものです。ならばなおさらのこと財政出動で和らげられる性質のものではないと考えます。

しかし、民主主義の政体は、「外生的ショックの緩和には財政赤字は有害無益」という《正論》では支持を得られません。次善の策として、資産防衛のために、インフレーションやスタグフレーションに耐えられる資産(アセットクラス)は何か無いものかと、死に物狂いで模索します。

この候補者選びもまた《正論》は存在しません。ケインズの美人投票のような過程で絞り込みがなされてゆきます。

ビットコインも第三波!?暗号通貨からマネーの本質を探るで、

「金(ゴールド)など貴金属には実体(としての価値)があるが、暗号通貨は実体が空っぽである」

という言説は誤りであると、連載全体の結論として締めくくりました。金(ゴールド)やビットコインなど、通貨(貨幣)の代替候補に人気が出てきている(法定通貨に対する相場が急騰している)のは、物体(使用価値)としての実態(実体)とはほとんど無関係の、決済手段としての信任です。

その信任には、《合理的な根拠》は不要ですが《緩やかな合意》は必要です。信任される通貨(の代替候補)は、どんな物体(ハードウエアとソフトウエアの両方を含む)でも良いわけではありません。《絶妙な程度の希少性》が必要で、地球上に少なすぎても多すぎても候補から漏れます。すなわち、

造幣する費用≦偽造する費用≦市場価値(流通価格)

これを満たしていて、過去~現在~未来も安定的にそうであると、通貨として採用するコミュニティ内で合意形成されるものでなくてはなりません。長い時代、それが一部の貴金属に限られていたこと、刑務所や強制収容所などではタバコが、貴金属が「絶妙な程度の希少性」を超えて希少過ぎた古代中国においては、コミュニティから十分距離の離れた海外で採れた貝殻が、使われていた事例などは、この《法則》を裏付けるものです。

コロナショック(2020310日)の週【赤くて太い点線の長方形】は、条件反射的にリスクオフで軒並み急落した、以下の代替通貨候補が、波打つように、その後は(対法定通貨=チャートは対ドル)相場を回復させていること、そのピークは、例えば金(ゴールド)とビットコインとを比べると、特に理由はなく、有意にずれていることなどがわかります。

【金/ドル】


ビットコインのチャートは、Daily WiLL Onlineの記事では、第一波(20141月のマウントゴックス破綻まで)、第二波(20181月のコインチェック事件まで)、第三波(コロナショックから現在)の三つのピークがよくわかるように、対数表示にさせていますが、以下では、通常の表示で、過去1年分の動きをご覧いただいております。

 【ビットコイン/ドル】


連載の最終回を書いたのは、先月つまり2020年12月の中旬で、そのころビットコインは20,000ドルを超えて大騒ぎしていたときです。それが、本日2021年1月7日のただいま現在は、その倍である40,000ドルを超えるのは時間の問題みたいな雰囲気です!!

おまけで、年末にご紹介した「リップル疑獄」にちなんで、リップル/ドルも挙げます。年明けも比率で見れば異様な乱高下ですが、《リップル送金手数料闇補助金問題》が解決されておらず、この先も不透明です。

【リップル/ドル】

更に、年明け一層のモメンタムが出ている原油相場について。こちらは、コロナショックから1か月経ったところで、先物限月交代に伴う《買手が現物を受け取るタンクがない》問題で未曽有の価格がマイナスという現象がありましたが、気がつけば、コロナショック前の価格を回復しています。これも、貴金属、暗号通貨と並べて、代替通貨選択にノミネートさせてあげるべきです。原油の倉庫証券は立派な代替通貨候補です。しかし、引き取り手の倉庫がなくなるのは困るので繰り返されたくないところです。

【原油(WTI)/ドル】


大まかに振り返ると、コロナショック後、世界のインフレヘッジャーたちは、タイムラグを経つつ、金(ゴールド)、ビットコイン、原油を現預金の疎開先としてコンセンサスをうかがおうとしてきて、またそろそろ次は何か?不動産や株式は、ほんとうなら、コロナ禍で実体価値は減耗しているのだが、金やビットコインでの相場操縦の成功体験は、不動産や株式をも例外とさせない可能性は大いにあるのです。

最後に、暗号通貨関連でおまけ。ビットコインも第三波!?暗号通貨からマネーの本質を探るで、ブロックチェーンの歴史を超絶わかりやすく(?)振り返るために名脇役を演じてくれたのがステーブルコインでした。ドルなどの法定通貨とずっと(?)一対一で交換を発行体が約束する暗号通貨のことです。これを、米国の通貨監督庁(OCC※)が、米国内の銀行間の決済手段として(例えば、Fed Wireなどの代わりに←筆者注)利用して構わないというニュースが流れました。

FederallyChartered Banks and Thrifts May Participate in Independent Node VerificationNetworks and Use Stablecoins for Payment Activities

こちらは、それを日本語に翻訳して紹介しているニュースですが、これだと、米国内の銀行が、日本でいう仮想通貨交換業(現行法の暗号資産取引業の一部)の兼営が許され、さらに日本では許されていないステーブルコインの取り扱いまで許されるのかとも読めるのですが、そのようなB2Cの話ではまだなさそうです。

米通貨監督庁(OCC)、国法銀行にステーブルコイン利用とノード運営を許可

これは、年末年始の暗号通貨界の話題としては、リップル疑獄に次ぐマグニチュードのものであると評価されます。

※暗号通貨に関与する米国当局には、SEC(証券取引委員会)、FinCEN(金融犯罪捜査網)があり、各当局の態度が異なるので、なかなか困った状況なのだと考えられます。

 




2020年12月28日月曜日

「Daily WiLL Online連載の全6話完結」御礼と「リップル疑獄」

未曽有の一年となった2020年も、いよいよ残すところ1週間を切りました。

金融分野でも異例なことが続いています。注目は、暗号通貨です。

いま、ネットに公開された

ビットコインも第三波!?暗号通貨からマネーの本質を探る

では、2013年以来の、ビットコインバブルの第一波、第二波、第三波をご覧いただくために、特別なログスケールを用いています。

2020年の日足チャートからは、昨日(陽線髭)の28,000㌦という史上最高値達成(そのまえに、わずか一週間前に、20,000㌦という記録があっという間に更新された様子)がわかります。


ビットコイン独り勝ちの様相を支援する悪役が登場しました。リップルです。

米国SECがリップル社と創業者2名を相手取り、「(暗号通貨ではなく違法の)有価証券を販売し不当利得を働いた」として訴訟に踏み切ったことが、文字通り、波紋(リップル)を呼んだのです。


SECの訴状には、日本の某取引所が取り上げられていて(もう皆さんその金融グループの名前はご存じだと思います)、リップルを実勢相場の1~3割引で調達していて、これがリップルの送金の仕組み(ビットコインと異なり中央制御が必要)に本来掛かる多額の費用の補填に使われ、「リップルを使えば送金手数料無料」という誇大広告の元手になっていたらしいのです。

この、不法利得の金額は800百万ドル相当だと訴状にはあります。

わたくしの最後の原稿

ビットコインも第三波!?暗号通貨からマネーの本質を探る

を入稿した先々週末のあとに、このリップル疑獄とリップル大暴落が発覚・発生しました。

しかし、わたくしが取り扱ったテーマが、

 

1.      貨幣(通貨)とそれ以外(有価証券)とのボーダーラインについて

2.      決済手段の見える費用、見えない費用

 

にほかならなかったもので、このリップル疑獄は、今回のビットコイン分析の論点ずばりそのものです。

 

第五回までの、「異説日本史」に比べるとちょっと読みづらいかも知れません。が、天才バカボンや奈良の大仏から掘り下げてきた内容の総まとめにもなっております。どうか皆さま、ご一読いただきますよう、よろしくお願いいたします。

 

さて、

 

仕事に翻弄されながらも、政治経済を含む世の中の仕組み、人類史の宿痾について考え続けてブログをたまに更新してきて10年以上経っていました。

新型コロナウイルス感染症が課したチャレンジは、まさしく、政治経済だけでなく、人類の宿痾についても深く考えさせられるきっかけでもありました。

科学技術や医学生理学の知識は、一握りの天才や秀才に寄りかかって人類全体がまんべんなくその恩恵にあずかれるものではありません。

答えが出ていない問題として以下の例があります。

1.      ウィルスの起源

2.      突然変異⇔抗体の寿命⇔ワクチンのリスクと有効性の関係

3.      重症化しにくいひとたちの経済活動⇔重症化しやすいひとたちにとってのセーフティネット、、、このふたつのトレードオフの関係をどのように割り切れば良いのか

 

第三波の真っ只中にあるわたくしたちにとっては、もはや「8割おじさん」という流行語は死語なのかも知れません。では、8割おじさんはやっぱり正しかったという再評価と復権さえしておけばそれで済むのでしょうか。わたくしは違うと思っています。

健康なひとたちの経済活動の犠牲は、人類愛の観点で、世界共通で是認されるもの。そのために、財政支出と金融緩和は歯止めを効かせてはならない。」

この主張はどうでしょうか?特に、失われた30年を経験している日本では、物価上昇が観察されるまではどこまでも財政支出が許されるというMMT(現代貨幣理論)の狂信者が増えていますが、今年世界各国で見られた新型コロナ対策を見ると、MMTを採用しない政策当局はもはや見つからないと言っても過言ではありません。

かかる環境下、月刊誌WiLLDaily WiLL Onlineを出版するWAC出版の幹部の方と再開し、全6話完結の連載をやらせていただくという貴重な機会を得ました。

ビットコインも第三波!?暗号通貨からマネーの本質を探る

金と銀はいつも通貨の"ジョーカー"であった

権力者は「マネーの本質」を秘匿する~中世《銀》の流通にみる通貨論~

日宋貿易を独占した総合商社のドン、平清盛の実像~中世史から考える「MMT批判」~

聖武天皇は日本史上初のMMTerだった!?

金融の現場から見た「MMT(現代貨幣理論)」

 

わたくしたちは、中学校や高校の社会科の授業で、貨幣(通貨)というのは、物々交換だけの経済だと、「欲望の二重の一致」が難しいのを解決するために導入された(決済または蓄財)手段であるように教わります。

 

これは100%間違いだったということはないのだと思うのですが、今日のようなネット社会では、誰が何を買いたいか売りたいかという情報が極端に手に入りやすくなっていると思われませんか?「欲望の二重の一致」の問題解決手段としては、貨幣(通貨)でなくてはならないという状況ではなくなってきつつあると考えられます。

 

では、それでもなくならない貨幣(通貨)って何なのか???これが6回シリーズのもとになっている問題意識です。

 

最後に、、、わたくしは平均して年に6回風邪をひきますが、今年はいちどもひいておりません。たぶん、マスクのおかげです。どうか皆さまもくれぐれもご自愛くださり、良いお年をお迎えください。

2020年10月30日金曜日

権力者は「マネーの本質」を秘匿する~中世《銀》の流通にみる通貨論

おかげさまで、10月もWiLL Onlineの連載を書き上げることが出来ました。

権力者は「マネーの本質」を秘匿する~中世《銀》の流通にみる通貨論

第二回目の奈良の大仏が思いのほか(!?)好評でしたので、そこからどんどんハードルがあがってしまいました。第三回目の平清盛が「輸入」して導入(?)したと言われる宋銭とは銅というバトンで繋がっています。第四回目のテーマは、いきなり、銀に昇格しています。銀を繋いだバトンとは何だったのでしょうか?

東アジア経済圏への銀の導入と、世界史の「誕生」

わたくしは、モンゴル帝国(のちの元)と大航海時代(のスペイン・ポルトガル)ではなかったかと考え始めています。実は、毎月、長い記事にお付き合いいただいているのですが、初稿はもっと長いのです。今回、編集長によりカットされた部分で、

WAC出版から「この厄介な国、中国」という名著を出されている岡田英弘先生は、「モンゴル人は、十三世紀に当時のほとんど全世界に広がり、その大部分を支配する巨大帝国を打ち立てた。(中略)実にモンゴルは、世界を創ったのである。」と豪語します(『モンゴル帝国の興亡』あとがきより。ちくま新書、2001年)。

岡田先生の、モンゴル人が巨大帝国を築いたことが「世界」を創ったことを何故意味するのかは、同先生の「世界史の誕生─モンゴルの発展と伝統」(ちくま文庫)1999年)を紐解かなくてはなりません。高校では「世界史」という教科があるけれど、中国史と西洋史ではその貫いている歴史観が水と油。中国の王朝や王権は、易姓革命という孟子や司馬遷(史記の作者)によって育まれた概念で正当化されてきた。西洋史にはそんなものはない。ヘロドトスはその著作「歴史」(※)で、アジアの代表であるアケメネス朝ペルシャという難敵にヨーロッパの代表であるギリシャが如何に立ち向かったか?という対立軸を導入した。モンゴル人が大活躍する12世紀までにも、中央ユーラシアの数多の遊牧民族(草原の民)が東西交流を細々と担ってはいたが、基本、東西は対立し、分断していて、世界(史)は存在していなかった。その壁をぶち抜いたのがモンゴル帝国(元)だった。。。

※ヘロドトスの「歴史」実はギリシャ語で研究という意味であって、ヘロドトス以前には民族や国家の物語という意味の歴史概念はなかったらしい。

第二回目の奈良の大仏にも書かせていただいたとおり、わたくしは高校時代は世界史が苦手で勉強する気も起きませんでした。岡田先生曰く、くっつけようがない中国史と西洋史を無理矢理くっつけて世界史なるものを教えようとしても辻褄があわない、どだい無理な話だと書かれています。今更ながら言い訳を見つけた気分です。

さて、岡田先生が非常に重きを置く遊牧民族について。

遊牧民族の出世頭モンゴル人の軍事力と経済覇権というエコシステム

モンゴル帝国以前にも、漢民族国家支配の中原を窺ってきた匈奴、ゲルマン民族に大移動を余儀なくさせたフン族、これらをはじめとしてユーラシア大陸の東西の端で、遊牧民族諸族の存在感は大きく、歴史を動かす燃料であり内燃機関であったと言えます。なかでも、勇敢だったのが、アケメネス朝ペルシャの攻撃にもギリシャの攻撃にも動じなかったスキタイ人やマッサゲタイ人です。両者は同族で風俗の多くが共通しています。さらに、匈奴とフン族は同族だったのではなかという仮説に立ちます。

ヘロドトスの記述によれば、「(前略)高齢に達すると、縁者が皆集まってきてその男を殺し、それと一緒に家畜も屠って、肉を煮て一同で食べてしまう。こうなるのがこの国では最も幸せなこととされており、病死したものは食べずに地中に埋め、『殺されるまで生き延びられなかったのは不幸であった』と気の毒がる」と。

農耕文明をベースにした現代の日本人から見ると、多くの遊牧民が共有するこのような風俗や価値観は奇異に思えますが、競争社会を生き抜くためにあちこちで採用され定着したというのがほんとうだとすると、そのなかでの最大級の軍事的成功者であるモンゴル帝国(元)は恐るべき存在であったと言わざるを得ません。

現在の日本の領土について言えば、縄文人がどのように弥生人によって駆逐されていったのかというのは有史以前の話です。記録が残される可能性があったのだとしたら、日本が初めて侵略された戦争は、元寇(蒙古襲来)における壱岐・対馬ということになるのではないでしょうか。あるいはさかのぼるとしても刀伊の入寇(1019年)となりここでも犠牲となったのは対馬です。

大東亜戦争における沖縄と同様の位置づけであるいわば日本の本土の人柱であった割に、いま高校の日本史の教科書や参考書を調べると、この重要性がほとんど無視されているように見えます。

そのうえで、何故ここまで、中世から近世にかけての極東情勢のなかで対馬が翻弄されなければならなかったのかを、ただ朝鮮半島に近いということだけでなく、銀の産地という観点で注目する必要を思いついたのでした。

沖縄と同じように日本本土の犠牲となり続けた対馬と銀山

貴金属資源に関すること、特に貨幣鋳造に関することについては、記録できたはずなのに存在しないというところが肝要です。奈良の大仏の500㌧もの銅しかり。皇朝十二銭しかり。

もうひとつ。

冒頭の問い、銀を繋いだバトンとは、まさにモンゴル人による洋の東西への未曽有の規模の侵略です。モンゴル人に必要だったのが日本の対馬銀。その理由は、中東以西の経済圏へと覇権を広げるには中国(経済圏)のスタンダードであった銅ではなかった。銀こそが古代メソポタミアからギリシャの都市国家の繁栄(※)を経て中世ヨーロッパへと続く国際交易の受容される通貨であって、モンゴル人は銀であるという新スタンダードに合わせる必要があったからでしょう。

※アテネ南郊のラウレイオン銀山は紀元前5~4世紀に最大の産出量を誇ったとされ、これがアテネの繁栄、アケメネス朝ペルシャへの勝利(サラミスの海戦など)の大きな理由だったとのことです。銀山の鉱区はギリシャ市民権を有する自由民にしか所有できず、労働者としては奴隷が大量に使われていたようです。

対馬の《沈黙した歴史》の背景には、①度重なる侵略戦争、②天平年間(7世紀後半)の銀山開発以降ずっと朝鮮半島(経由)で需要されてきた対馬銀の存在、③正規外交・通商ルートとしても倭寇の根城としても、重要な交通の要衝であった等、時々の権力者が敢えて記録を残さないという理由に事欠かなかった。記録が残っていたとしても、日本側、朝鮮側、中国側で記載内容が整合しない(対馬自身がそれらのどちら側に実効支配されていたのかすら実はわからない)という残念な問題があります。

つまり、江戸時代以前の貨幣の改鋳の記録が乏しいこと、鎌倉時代以前の鉱山開発の記録が乏しいこと(いずれもなかったはずがない)と同様です。

現段階では乏しい史料からの弱い仮説の域を出ませんが、

①元寇の途中撤退、

②元寇以降の(明の開祖朱元璋洪武帝により中原の漢民族支配が復活したあと)対馬拠点に倭寇が活発化したこと、

③対馬銀が枯渇したという記録もないこと、

④対馬の守護大名の宗氏が元寇を生き残ったと考えるのは不自然であること、

⑤宗氏が石見銀山の開発や朝鮮への銀密輸に深くかかわり、博多商人と手を組み、倭寇を操縦しつつも、いっぽうで明との貿易(朝貢貿易であり勘合貿易でもあった)のために日本の国書を偽造し、安心東堂を名乗るものに表見代理行為をさせていたこと(朝鮮側の資料にあり)、、、

これらを一貫して説明するには、対馬は元寇により、日本(人)の実効支配は続かなくなった(が、宗氏の子孫を名乗るバイリンガルまたはトリリンガルの自称守護大名が必要な限りほそぼそと京の政権と連絡はとっていた)と考えるのがいちばん自然だと考えております。

史料がない以上、対馬にGo toするしかないと思っているところですが、是非このような憂国の切り口から、今月の銀の話を読んでいただけたらうれしいです。