2022年5月6日金曜日

おすすめYouTuber・・・(後編)「数学」「鉄道」

 お待たせしました。いや、それほど大勢の読者に待たれていない感が満載ですが、続いて「数学」です。

環境やエネルギーの問題、戦争、感染症など、人類の将来は明るくもなさそうだという雰囲気に満ち溢れている今日この頃、インターネット社会の良い一面はこれだなと思えることがありました。

【数学系YouTuber】

見たことがあるチャンネルは以下の通りです。良し悪しを判断できる立場ではないですしその能力もありません。このほかにもすぐれたYouTuberがいると思います。

AKITOの特異点

チャンネル登録者数 6.66万人

動画の更新はここ1年なされていないように見受けますが、ツイッターは続いているようです。数学マニアであることは当然として、トークも巧妙で、才能にあふれています。

予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」

チャンネル登録者数 89.9万人

教育系YouTuberの草分けだと勝手に筆者が思っているヨビノリタクミさんです。数学系で視聴回数を稼ぐには大学入試問題にフォーカスしたほうが楽なのですが、あえて、大学入学後に数学で落ちこぼれそうになる学生をターゲットにしているところがユニークです。

変わり種の動画で、

教育系YouTuberにならない方がいい7つの理由

というのがあります。YouTubeビジネスの裏側を赤裸々に語った非常に貴重な内容です。

(前編)で宇宙論に関する動画を紹介しましたが、ヨビノリさんの、

宇宙創生から現在まで【宇宙の歴史①(過去編)】

は非常にわかりやすく、現在のところ何がわかっていないかがわかります。

さて、注目は、大学院(修士)を卒業したばかりの古賀 真輝 Masaki Kogaさんです。

西日本を代表する中高一貫の進学校の正教員として就職が決まったにもかかわらず、YouTubeの活動を続けられると発表しました。

進学校も、予備校も、優秀な教員を抱え込むことで、優秀な生徒を確保し進学成績(「どこどこ大学に何人合格させました」など)という親御さんたちに訴求すべきKPIを競っているものだと考えられてきました。

「優秀とは何か」というのはまた別問題ですが。

この点、正規採用後もYouTubeを続けたいと願った古賀さんの心意気もさることながら、それを許可した某学校法人の寛大さには快哉を叫びたくなります。

酒は白鹿です。

まだまだ超優秀な方々はいらっしゃいますがきりがないので最後におひとかただけ。

楽しい数学の世界へ

チャンネル登録者数 2.27万人

ななゆうさんもまた東京大学数学科卒の俊英です。以下は異例なコンテンツですが、

これから数学科教員を目指す人へのアドバイス

必見です。

【鉄道】

まずは、

スーツ 交通 / Suit Train 

チャンネル登録者数 90.4万人

つい先日横浜国立大学を卒業されたとの動画がありましたが、概要によればYouTubeをはじめたのが2010年ということですから、天才というよりは神童です。池袋の某書店に行ったら、JTBやJRの時刻表の横にスーツ君の著書が平積みになっていました。

おびただしい数の動画のなかで、ひとつだけお勧めというのは難しいのですが、あえてこれを、

【遅すぎる特急】JR東海の「伊那路」に乗車 これは遅くても仕方ない……

まだグーグルマップでの経路検索やYahoo!の時刻表などが使えなかった時代、時刻表は、学生にとっても社会人にとっても必需品でした。その最初のほうのページには、旧国鉄を中心とする路線図が載っています。このなかで、大都市圏近郊電車を除くと、やたらと駅が稠密している路線がひとつあり、何故なんだろうと好奇心を駆り立ててくれていたのが現在はJR東海に属する飯田線です。

これにはちゃんと歴史的な理由がありました。中央本線の誘致に失敗した(政治的に木曽谷に負けた)伊那谷の政財界が遅ればせで鉄道を通したが、中央本線や東海道本線(これらは官営鉄道)が敷かれた時期は蒸気機関車が前提であったのに対して、飯田線の前進のひとつである伊那電気鉄道は、国内では京都市電に続く「最初から電車を通せた路線」となった。よって、電化後駅の数が増えた山手線や山陰本線京都~嵯峨嵐山間のように、最初から駅の数が妙に多かった(汽車より電車のほうが加速と減速が容易である)というわけです。

諏訪から伊那にかけては水力発電がやりやすかったからというのも理由のひとつかも知れませんが、この水資源は諏訪近郊の生糸生産にも消費されていたので、非常に端折ると、繊維産業と鉄道事業との間での電力の奪い合いや利益相反のような問題があったとされています。

あと、飯田線に限らず、日本の鉄道の多くは山岳鉄道であったりするわけで、トンネル技術の進歩とそれによるサンクコストというのが、コロナ禍で改めて問題になっているローカル線赤字問題を悪化させています。これだけだとなんのことだかさっぱりですので、稿を改めたいと思っています。飯田線に関しては、スーツ交通では、手彫り(手掘り)のトンネルが紹介されていて、それがどういうひとたちの汗と命のおかげでなされたのかへの言及もあります。

もうおひとり、鉄道を歴史という視座からマニアックにしてかつ独特のネタ文学で彩る鉄道系YouTuberで最近のおきにいりをご紹介しますと、

にっこーけん【旅行】ー日本の交通を研究する会

チャンネル登録者数 8.67万人

【1分弱車載祭】近鉄だけで京都から名古屋を目指すついでに近鉄の歴史も解説【VOICEROID車載】

赤字ローカル線を多く抱えるJR各社のうち、新幹線が超過利潤をもたらしてきた会社では、高速道路のプール制のような具合で、赤字路線の維持に努めてきました。これがコロナ禍の二年間でワークしづらくなり、先日のJR西日本による赤字区間公表という広報につながるわけです。

ローカル線の廃線(危機)と一口に言っても、理由はひとつだけではありません。北海道と九州においては炭鉱閉鎖が最大要因だったと言えます。東北、北陸、中国地方は、人口減少とモータリゼーションだ、と片づけたいところですが、モータリゼーション=「田舎ではクルマに乗る人がほとんどになった現象」だと定義すると、ちょっと見落としがあります。鉄道インフラが整備された時代と、自動車専用道路や酷道(こくどう、または、ひどみち、と発音します)が改善された国道の整備が進んだ時代とでは、トンネル掘削技術が大いに異なるため、特急列車を頑張って走らせても、高速道路に勝てないという現象がどんどん進んでしまっているというわけです。

さて、JR西日本が発表した存続見直しを検討したい赤字区間のなかで、上記の理由とは異なるユニークなものがひとつあります。それは、関西本線の非電化単線区間の亀山~加茂です。

国鉄または官営関西本線の前身である民営の関西鉄道(くゎんせいてつどう)にも、上述の飯田線同様、複雑な歴史があります。これを紐解くことで、公共性(外部性)が高そうな産業であっても、国家権力による資本主義経済への介入は結局は余計なお世話となってしまうことが多いという事実に目を向けることができると考えています。

にっこーけんさんの近鉄(この場合、近畿日本鉄道のことであって近江鉄道のことではありません!)にまつわるこの動画は、こうした歴史への糸口として非常によくできた内容になっていると思います。関西地方にお住まいでない読者の皆さんも是非ご視聴ください(「1分」と書いてありますが、これはニコニコ動画でいう1時間なのだそうです。知りませんでした)。

2022年4月25日月曜日

おすすめYouTuber・・・・・・(前編)

YouTuberとしてはまだバズっていなくて、チャンネル登録者数も、再生回数も、製作費を上回る領域には達していないが、是非世の中の多くのひとに知ってほしいというチャンネルをご紹介することこそ、自称へそ曲がりのキュレーターの私の任務として期待されているところなのかも知れません。

だがしかし、公開してから何か月経っても、再生回数が4桁に行かないような、、、まさに私自身のような、、、無数のコンテンツ群のなかから、大器晩成の星を発掘するには、まだまだ労力と時間が掛かります。

仕事をしていない時間帯は、走っているか、読書をしているか、それ以外はYouTubeかWikipediaしか見ていないような私であっても、どうしても、Googleさんがお節介(「あなたにおすすめ」)してくれる「再生回数けた違いのヒント」依存症になってしまっている今日この頃です。

以上の言い訳により、意識高い系(アンテナ高い系)の弊ブログ読者の皆さまからは「そんなの言われなくても知っているよ」と冷たい反応を受けそうなご紹介になってしまうかも知れませんが、お許しください。

関心分野ごとに分類して参ります。

【歴史】

【ユダヤの歴史】流浪するユダヤ人とハザール王国の謎|茂木誠

201,095 回視聴2022/03/04

むすび大学(結美大学:チャンネル登録者数 29.6万人)のバックグラウンドは調べられていないのですが、ここで「ユダヤの歴史」シリーズ(プレイリストあり)の講師をしておられる茂木誠先生は単独でもYouTubeチャンネルをお持ちで、本業は駿台予備学校の世界史の講師です。

浪人はしたくないけど、駿台で一度は学んでみたいという変わり者もいると聞きますが(?)、この茂木誠先生や、英語の大田博司先生(ご退職)など、突き抜けた知性ゆえなのでしょう。

ユダヤ人については、とかく(反ユダヤ主義の背景となる)陰謀論や、或る意味その真逆の選民思想(優秀なのは当然、世界を支配するのも当然)という極端な思潮に偏りがちです。また、日本ではおそらく売らんかなの発想から「日ユ同祖論」の本ばかりが書店に並びがちです。

このシリーズは、そのような偏見を極力排して、可能な限り複雑な歴史事象に焦点をあてつつ、わかりやすくユダヤ人(問題)を穿っています。

このコンテンツに出会ったきっかけは、私もこのブログで書いているウクライナ問題です。ウクライナにはいまでも多くのユダヤ人がIT産業に従事するなどして活動している一方、プーチンの言うネオナチの存在もまったくの出鱈目というわけでもない、というところの解明が目的でした。

日本語を含めた何か国語版もあるこちらの動画も紹介させていただきます。

【時事問題】

【豊島晋作】中国 VS アメリカ!?米中半導体戦争を徹底解説!!【セカイ経済】

773,275 回視聴2022/04/19

地上波そのものよりもこちらのテレ東Bizが一段と素晴らしくこの企画をやってのけるところがすでに地上波放送局らしからぬことで実にテレビ東京さんには(失礼ながら、いや)敬服します。

わたしが豊島晋作さんの存在を知ったのは、新型コロナウィルス感染症問題をずっと研究しているなかで、やはりこのテレ東Bizで、病院の数や一人当たりのベッドの数では世界トップクラスの日本で、なぜ自宅療養者がここまで増えているのか?そして過去の感染拡大局面では事実上の”医療崩壊”に陥ったのか?というパラドックスに関する氏自身の考察に触れたのが最初でした。通常の「情報番組」とは異なり、学術書や学術論文のように、参考文献をすべて開示して説明するという姿勢に私は共鳴しましたが、その趣旨の斬新さ、鋭さにも感銘しました。

円高問題については、FX会社などがスポンサーとなっている有名エコノミストが、ただただ黒田日銀総裁を叩いたりとか、単純な絵図が描かれようとしていますが、先日の動画に加えて、この半導体産業が日本からどのように蒸発してしまったのかなど、実体経済の分析考察が重要だと考えています。是非ご覧ください。

【サイエンス】

京都大学 新入生向け:プレ講義 理学への招待「物理学:系外惑星に第二の地球を探す」佐々木 貴教(理学研究科 助教)2020年4月22日

1,048,292 回視聴2021/07/09

このようなアカデミズムの動画が百万越えの再生回数ということで、日本の将来に一縷の望みを抱きたくなります。前述の半導体分野や核融合などまたはいつかはそれらにブレイクスルーをもたらすかもしれないし無駄かも知れない基礎研究へと、好奇心に溢れる若い知性が向かって欲しいものだと思います。

京都大学オープンコースウェア(OCW)のチャンネル登録者数は8.33万人とのことです。

YouTubeとは異なりますし、また分野も異なりますが、講談社ブルーバックスの「地学ノススメ」(鎌田浩毅著)も同様の意味でお勧めです。地学~地球科学についてドップリ解説しているというよりは、科学がどのように発展してきたのか(誰もが観察できる一件あたりまえのように見える現象(例:「スイスアルプスの頂上に海の生物の化石がある」とか「リンゴが木から落ちる」とか)からレオナルド・ダ・ヴィンチやアイザック・ニュートンといった天才は何を考え何を導くのかという、地学やら物理やらという領域を超えた、科学のブレイクスルーのドライバーについてあちこちで説明してくれています。

【ランニング】

「歩く」と「走る」の違い【為末大学】

8,684 回視聴2022/01/02

チャンネル登録者数 7.94万人を誇る為末大さんのチャンネル。ほかの様々な分野の有名人YouTuberと同様、コロナ禍のせいで活動やトレーニングが思うようにできない愛好家を含むアスリートのために有益で本物の情報を伝えるボランティア精神あふれるチャンネルです。

為末大さん自身は、100メートルハードルなどを得意とする短距離系のオリンピアンでしたが、為末大学は、中長距離を含む多くの陸上競技や、球技を含めたスポーツ全般も射程圏内です。

特に、中長距離走の分野(私は個人的にはハイキングとある程度シナジーがあると憶測しています)では、シューズの革命もあって、10年前の走り方の理論ですら一部古いものになっています(例:着地)。

このあたりは、マラソン系の多くの有力YouTuberも、「どうすれば疲れずに走れるか?」「腰高で走る意味?方法?」「腸腰筋の鍛え方?」など、ためになるコンテンツをあげてくれています。

そのなかで為末大学は頭一つ抜けて、体系的、理論的だと思います。

添付の動画は、最初、(ソシュール)言語学的な考察から、歩くことと走ることの違い(というよりもむしろ分断)について言及し、その後、ランについて悩んだことがあるひとにとっては目から鱗の内容へと進んでいきます。

【ハイキング】

「プロガイド監修・長編登山動画」「え?すごっ!30本以上の鎖場岩場の全模様!両神山八丁峠コース(八丁尾根コース)ー参加者の全模様となります。山ガール山女子登山女子ー日本百名山ー岩登りー上落合橋」

2,596 回視聴2021/03/20

素人の若い女性が、徐々に体力度や危険度の高いコースにチャレンジしながら成長してゆくチャンネルは桁違いに視聴回数が多く、それはそれで素晴らしいものです。山文化の谷町であることには間違いのないNHKが4Kカメラの撮影チームを動員して何日も掛けて出来上がった番組と、或る意味遜色のない動画が、ソロ登山でGoProの駆使もあって出来てしまうのですから、すごい時代です。

それはそれとして、添付した動画とそのチャンネルは、それほどバズってはいなさそうですが、初心者が「このルートは果たして自分でも歩けるのだろうか」など予習目的で非常にありがたいものです。

出版物の地図や山専門のインターネットサイトも、予習のためには欠かせないものです。これらの難点は、著者や編集者の技量や主観によって、体力度や危険度の物差しが一定でないことだと思っています。

誰もがお世話になっている昭文社「山と高原地図」では、例えば南アルプスの北半分(北岳・甲斐駒ヶ岳など)と南半分(塩見岳・聖岳など)とでは、危険度のスケールが明らかに異なります。したがってこれだけを当てにするのは危険で、標準的な素人がプロの監視のもと苦労して上り下りしている実写はとても参考になるものです。

【数学】

【鉄道】

【音楽】

【お笑い】

・・・(後編)をどうかお楽しみに。

コロナ禍、おうち時間、というキーワードで勝ち組ビジネスモデルの先頭を突っ走ってきたNetflix(ネフリ)の株価急落(決算発表前から3割下落で時価総額7兆円相当が蒸発)というのが、先週のホットニュースでした。YouTubeにも、広告が入らないPremiumという純サブスク制度もありますし、映画なども、無料で購入できるもの、有料(スポット)購入できるものもあります。ですので、Netflix、Huluなど、またAmazonプライム(以上、私は契約しておりません)と、YouTubeと「三者」を比べると、ビジネスモデルが全く異なるわけではなく、マネタイズの方法の重点がちょっとずつ異なるだけなのでしょう(詳しくありません)。それにしても、Googleの軍門に下ったYouTubeの柔構造には目を見張るものがあります。投げ銭やメンバーシップなど、うまく機能すれば、YouTubeという勝ち組プラットフォームが得てしてYouTuberのやりがい搾取になりかねない構造を浄化できる可能性もあります。


2022年4月18日月曜日

円安・・・

円安です。この円安がどこまで続くのか、DZHフィナンシャルリサーチ為替情報部の和田部長に、熱く語ってもらいました。不肖わたくし丹羽が慣れない司会進行をやらせてもらっています。是非ご視聴ください。
相場の見通しというのは容易ではありません。どんなに論理的にせまっても、非論理的な占いと大きな違いがなかったりします(占いがすべて非論理的と言っているわけではありません。日本語は難しい)。それでも、為替ディーラーとして長いキャリアをお持ちの和田さんならではの、歴史考察は、いまの円安を分析するうえで、欠かすことができない視座だと思っています。

プラザ合意(1985年)前後の日米問題は貿易摩擦が最大のテーマでした。それに比べると、いまの日米の経常収支はどうでしょうか???各論に迫る余裕はなかった点として以下のことが挙げられます。バブル崩壊と不良債権による日本の銀行の国際金融からの事実上の撤退、日米半導体協議における敗戦、その他失われた30年を象徴するさまざまな要素が絡み合って、最後に東日本大震災を契機としたエネルギー問題(原発停止による化石燃料輸入増による貿易赤字の恒常化)等々。1970年代後半からのレーガノミックス時代の円安と構造が異なる背景になっています。

そうは言っても、強いアメリカ、弱い日本と決めつけるほど世界情勢は単純ではありません。また、貿易の不均衡を是正しうる変数が交易条件≒為替水準だけであるというのは間違いです。そこは冷静に見つつ、全体をご視聴いただけるとうれしいです。


2022年3月25日金曜日

イスラエルがウクライナへのスパイウエア提供を断る

小説家やジャーナリストなど、生業として物書きをしている人たちの文章というのは、どんな名作や労作であっても、物事の真実や本質よりは、敵と味方、主役と悪役など、白黒はっきりさせることで、よりわかりやすく面白く「売文」したいというバイアスが働きがちです。

私は売文家ではないですが、この点は十分自戒すべきなので、面白いけど断定的な情報には安易に飛びつかないよう、反論をなるべく探そうと心がけているつもりです。

正義の味方となったゼレンスキー大統領

ロシア対ウクライナの紛争では、ロシアによる侵攻前は40%程度だったゼレンスキー大統領への支持率が90%へと急騰したと言われています(注1)。

ロシアに対する経済制裁で合意をしている「民主主義陣営」の国々でも、ゼレンスキー大統領が、プーチン大統領率いるロシアという軍事力では敵いそうもない相手を大番狂わせで倒すかも知れない正義の味方なのだという通念が醸されています。


ロシア陣営が流すフェイクニュース(?)にもかかわらず、プーチン大統領が主導する現実の地獄絵は否定できません。しかし、ゼレンスキー大統領を、《彼の敵国に対する経済制裁とその取り纏め、そして武器輸出という経路》に限定して応援する米国指導者もまた正義の味方の味方だと言えるでしょうか???

素直にそう思ってしまう人たちは、ベトナム戦争、カンボジア紛争、イランイラク戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争、、、など第二次世界大戦後に限っても枚挙に暇がない、現在のウクライナ紛争と甲乙つけ難い事案を忘れてしまっている記憶力に乏しい方々でしょう。私のブログの読者にはそういうひとはひとりもいらっしゃらないはずです(注2)。

現代の不平等条約とアメリカの「勝利の方程式」

いつものように長すぎるブログとなりそうなので、あらかじめここで、投稿全体の見通しを良くするために、私の考え方の基盤をここでお伝えしておこうと思います。過去の投稿と一貫しているものです。第二次世界大戦後、国際連合が出来たり、「大国」などが核武装したりで、国際協調と核抑止力によって戦争はなくなると嘯かれてきた(日本の文科省の社会科にける学習指導要領もこれ然り)のはまったく事実と反し、実際は核武装させてもらっていない「小国」の内外で「大国」の代理戦争が繰り返されている。核拡散防止条約こそが現代の不平等条約である。核の偏在こそが、①米国がロシアを直接は叩こうとしない、②北朝鮮を野放しにせざるを得ない(一方、本当は「大量破壊兵器」を持っていなかったイラクは叩けた)理由(のひとつ)である、ということです。


《支持率のようなものの儚(はかな)さ》を感じたのは、米国議会でのゼレンスキー大統領の演説で、9.11のテロと並べて、真珠湾攻撃が敷衍されたことの報道です。日本のネット界隈で、「不勉強だ!」「もはやウクライナを応援したくなくなった」などとざわつきました。

米国からのウクライナへの間接的な支援が強化されたのは、こうしたゼレンスキー演説が米国議会に刺さったからでは決してなくて、ウクライナ側の想定を超える善戦が、「勝てるほうに付く」、翻せば、「勝ち負けがはっきりしない外国の紛争には中立を保る」)という、第一次世界大戦(注3)以降に米国がヨーロッパを差し置いてのし上がってきた際の「勝利の方程式」を満たしたということではないか、だとすると、(その時点では日本の国会での演説は確定していなかったとは言え)米国議会用のスピーチライターが真珠湾攻撃の事例を用いたのはコスパとしては正解ではなかったのではないかと、、、

とは言え、ゼレンスキー演説への批判というのは、やや突っ込みどころが違うという感想も持ちました(注4)。やはりここで再度強調しておくべきことが、アメリカやロシア(などの国際連合の安全保障理事会の常任理事国)が核兵器を独占しているという理不尽こそ、本来はゼレンスキーが突っ込まなければならない(本当なら突っ込みたい)ところであって、しかし米国議会でそんかことは思っていも言えないから、不承不承、真珠湾攻撃と9.11というたった二つの事例で同情を、という代替戦略をとらざるをえなかったのだと忖度してあげるべきところなのでしょう。


さて、真珠湾攻撃に関しては、このブログでも繰り返し分析してきたつもりです。実は、私が元々はとある無料商材に申し込んだきっかけ(「坂本竜馬暗殺の真犯人は?」とかときどきネット広告に出てきませんか???)で、西鋭夫先生の存在を知りました。多くの意識の高い日本人がそうであるように、真珠湾攻撃もまた西鋭夫先生が戦後歴史教育における定説に切り込みたい核心部分のひとつということで大いに分析していらっしゃいます。しばしばこの商材がらみでメールマガジンを拝読させてもらっており、それらを私の独自研究のヒントをもらっております。

真珠湾攻撃そのものはほとんど扱っていませんが、「占領神話の崩壊」という著書は図書館でも借りることができる労作です。

さきほど来、日本の文科省の社会科にける学習指導要領云々と批判していますが、いまだに、高等学校レベルの歴史や政治経済分野では、第一次世界大戦と第二次世界大戦との間(世界恐慌、ナチス台頭、日中戦争などがあった時期)、米国政治では《フーヴァー大統領(共和党)は出来が悪く、ルーズベルト大統領(民主党)は出来が良い》というステレオタイプな論述がされているようです。フーヴァー研究所の書物を精力的に読み漁る西鋭夫先生の書物からは、全く異なる歴史観が迸っています。

日本人目線からだと、野に下ったフーヴァー大統領は、日本をして真珠湾を奇襲せしめたハル・ノートや経済制裁(注5)に猛反対してくれていたりだとか、終戦の年、のちのトルーマン大統領に対して、日本に無条件降伏を迫るのは間違いだ、講和に応じろ、と指図する(注6)など、特異的な存在です。

が、なんといっても、フーバー大統領が(選挙で自らを負かせた)ルーズベルト「次期」大統領に対して、「(あなたはわたしの政策を引き継がないだろうが)ひとつだけはどうしてもお願いしたい。それは、英仏への債権の取り立ては緩めるべきだ。それこそが世界恐慌から各国経済を立ち直らせる(そして本家本元の米国経済も)抜本的な治療方法なのだから」と忠告をした(注7)が、ルーズベルト大統領はまったく聞く耳を持たなかった、という事実もこそ重大です。

繰り返しになりますが、米国は、外国同士の戦争が自分に利さない間は中立を決め込み、戦後体制がはっきりしたとき(勝ち負けがはっきりしはじめたときに)介入するというヴァンテージポイントを活かしながらのし上がってきた大国です。その鍵が、戦費調達と戦後賠償に絡む債権債務関係なのです。この視座を以って、ロシアとウクライナの紛争も見てみたいところです。

ウクライナ≒ネオナチは全くのフェイクニュースなのか???

西鋭夫先生の話を何故したかというと、このごろもまた読ませてもらっているメールマガジンのなかに、プーチンの言う「ウクライナはネオナチに牛耳られている」というのは完全なフェイクニュースでもないかも知れないという話があり、これもまた、おびただしいフェイクニュースのなかから頑張って真実を手繰り寄せなければならないと思ったからです。

ウクライナの歴史は、日本のような島国とは異なり、大陸のど真ん中の穀倉地帯ということもあって、侵略したりされたりと、戦争に明け暮れたものになっていて、ウィキペディアを読み解くのも一苦労です。第二次世界大戦の戦中と戦後に限っても非常にややこしいと感じます。ここでもまた編集合戦が繰り広げられている恐れもありますが、確かに、多数派とは言えないものの、ウクライナ人の一部は、ナチス・ドイツ側に殺戮されず、その代わりに(←ここはよくわからない)ナチス・ドイツ側に立って一緒にソビエト・ロシアを攻めるという勢力に化したようです。ただ、そういう人たちが、第二次世界大戦後もうまく生き延びて、ソ連崩壊後に経済と政治の中枢を担えたのか、また、中国での同時期の国共合作と同じで利害と打算で結びついたに過ぎなくて、骨の髄までナチズムがしみ込んだネオナチと言えるのかどうかは疑問です。米国に渡ったアイン・ランド女史やオルブライト女史(元国務長官)など、スターリニズムの否定とナチズムの否定は同根と考えるのが自然だからです。

しかしながら、ここで非常に気になる情報が今週出ていました。ニューヨークタイムズ紙によると、イスラエルは、ウクライナ(とエストニア)から買いたいと言われてきたスパイウエア「ペガサス」を同国たちには売り渡さないと決めた。一般的な理由として、過去には、売り渡した国の独裁政権が国民を監視する(携帯電話の個人情報・位置情報や通信記録の傍受)など非民主的な目的で利用濫用された事案があり、それを繰り返したくないというのもあるようです。が、今回に限っては、イスラエルがロシアとの関係を害したくないから、とされています。

インドが、中国と同様、アメリカ主導の対ロシア経済制裁に参加しないというのも個人的には驚いていました。が、何となく、第四次中東戦争の流れで、(日本と同様?)アメリカべったりの国であるという印象のあるイスラエルのかかる決然たる態度は意外ではないでしょうか???

実は、有名すぎるイスラエルのスパイ組織「モサド」のOBであるEfraim Halevy氏によれば、少なくとも見た目には「小国」であるイスラエルがその実質的な創業期である第二次世界大戦直後においては、自分たちはまずアメリカに付くべきなのか(当時の)ソ連に付くべきなのか五分五分だったと書いています。よくわかりませんが、イスラエルにべったりなのがアメリカであって逆は必ずしも真ならずということなのかも知れません(当時も今も)。

それでもやはりプーチンの言う「ウクライナ≒ネオナチ」には自らの正当化のためのフェイクニュースという臭いがぷんぷんすると言わざるを得ません。ただし、このイスラエルの態度(やそれに対するイスラエル議会でのゼレンスキー演説における苛立たしさ)からは、このフェイクニュースにも一理ありというのがうかがえます。


一方で、ひとつ申し添えたいこととして、アヴァトレード・ジャパンの親会社はイスラエルですが、IT部門における協力会社の多くがウクライナにあります。そこのエンジニアの多くは、キエフから疎開して、状況厳しい中でも、リモートワークで弊社グループのシステムを支えてくれているようです。


こうなるといよいよ何が真実なのかわからないという話になりますが、そんなに物事をスパッと一刀両断にできる社会法則など存在しないと諦めれば済むことです。とにかく、一方的な情報だけに飛びついて白黒はっきりさせようとするのは愚者の営みであると自戒することが大切です。




(注1)ウクライナのレイティング社による世論調査。ゼレンスキー大統領への支持率が低かった時期でも、ウクライナの他の政党(の指導者)たちのそれらよりは高かったこと、世論調査の対象として、すでにロシアが実効支配していると言われるドンバス地域とクリミア半島は含まれていないことに留意すべきでしょう。

(注2)先週末3/18(金)深夜(というか翌日未明)のテレビ朝日「朝まで生テレビ」(録画されている方は、田原総一朗氏のMC部分だけ早送りして、興梠一郎さんや(元防衛大臣)森本敏さんなどの発言だけをひろわれることをおすすめします)で、慶応義塾大学廣瀬陽子教授ご指名の視聴者の質問への回答として「イラク戦争などアメリカが行った戦争には大義または正義があったが今回のウクライナ戦争にはそれがまったくない。そこが違う」というのがありました。この程度の有名大学に雇われている学者先生がまさか本気でそう考えていらっしゃるわけではないと思うのですが、どういう圧力が働くとそう言わざるをえないのでしょうね。

(注3)アメリカ合衆国が建国できたのは、植民地支配をしていた大英帝国との独立戦争で、フランス(大革命の直前)からの経済支援があったればこそと言われています。当時までのフランスは、まさにそのアメリカ新大陸を巡る攻防で、大英帝国と七年戦争を戦い敗れたということで、その仕返しという意図があったらしいのですが、フランスはこの独立戦争で勝ち馬に乗ったにもかかわらず、そのリスク投資への配当に与れず、財政破綻など諸説ありますが、革命によりブルボン王朝は滅びるという展開になります。一説には、このころまでの対外戦争の戦費調達においては借りたものは返すべきという通念がはっきりしていなかったとされており、これを明確にはじめてしたのが、第一次世界大戦に途中で参加したアメリカだというのです。アメリカは、ドイツが戦後賠償をまっとうできるかどうかにかかわらず、戦時中に貸し出した、イギリスやフランスなどの三国協商国への債権は絶対に放棄できないという態度を堅持し、これこそがアメリカを建建国来はじめて債権国へと押し上げ、まだアメリカにとっては「一粒で二度美味しい」機会となった第一次世界大戦の最大の契機ともなったと考えられます。

(注4)そのことは兎も角、ネット界隈での真珠湾攻撃への連鎖反応を見るに、おそらく若い世代も含めて、第一次世界大戦後のアメリカやソ連だけでなく、第二次世界大戦における日本も無謀かつ非合理的な判断で何故戦争に突入してしまったのかという真実に迫ろうというひとが着実に増えているのではないかとも思いました。

(注5)当時世界の石油の70%をアメリカが握っていた。日本は石油のほぼ100%をアメリカに頼っていた。そのなかでのアメリカの対日禁輸の対象品目として原油が加えられた(日独伊三国同盟加入時に、鉄くずが対日禁輸品目であったのに追加された)。経済制裁としては、ABCD包囲網(アメリカ、イギリス、中国、オランダ)に重畳して行われた。

(注6)フーヴァー前大統領本人は、政権中枢から外れてしまっていたために、当時、マンハッタン計画を知らされていなかった。

(注7)選挙に負けたレームダックの大統領が選挙に勝った「次期」大統領に、面と向かってこのような会談(引継ぎミーティング)をする事例というのは非常に珍しいそうです(上記(注3)ハイパーリンク先の参考文献、Michael Hudson "Super Imperialism"(2nd Edition)による)。