2011年8月12日金曜日

空売り規制では金融危機は収束できない

3年前に「裸の空売り」という記事を書きました。

http://phxs.blogspot.com/2008/07/blog-post_16.html

Naked Short Salesとは、空売りをする時点では、現物株の仮株の手当てがまだなされていないものを指します。記事当時のファニーメイやリーマンなど巨大金融機関だけでなく、アジア通貨危機のときのアジア諸国など、直ちに換金が出来ない固定資産を巨額の借入(レバレッジ)で支えている巨大かつ歪なバランスシートというものは、その資産を売り急いだ場合には、バランスシートの価値(ファイヤーセールス・バリュー)が著しく不当に低い評価を受ける、それは可哀そうではないか、という観点から、しばしば規制当局によって正当化されるものです。

昨夜これがフランス当局によってBNPパリバやソシエテジェネラルなど大手上場金融機関の株式について発動されました。これが上記理由に照らして正当かどうかの侃侃諤諤(かんかんがくがく)は敢えて措き、その効能について考えてみましょう。

3年前に書いた記事は、2008年7月のものです。つまり、リーマンショックはその2ヶ月後なのです。ハゲタカファンドや投機筋や規制、金融行政だけのせいには、リーマンショックは出来ないと考えるべきでしょう。

空売り規制は金融危機を収束させるものではなく、むしろより本格的な危機の前兆くらいの場所に位置すると予想します。

後々、「S&Pショック」と命名されるかどうか良く判らない今月の金融市場の混乱は、

①主役である米国債が暴落しているわけではないこと、

②大暴落した株価が反発に転じたきっかけは中央銀行による国債購入など金融緩和政策の拡大の発表でした(米国だけでなくイタリアとスペインについても然り)が、財政規律という本筋の問題を根治する処方箋とは読み取れないこと、

③では国債も株式も通貨も皆駄目だったら商品(先物)が全面高かと言えば、金を除いて大暴落であること

などなど、理屈では説明がつかないことだらけです。

リーマンショック後は、紆余曲折を経て、「ウォールストリートの不始末でメインストリートに迷惑をかけたのだから財政出動は当然」という議論に、軍配が上がりました。

2008年から2011年にかけて、「先進諸国」の政界と経済界は、リーマンショック以前の生活水準を維持するために、金融を財政でカバーしうるとの前提のもとになりふり構わずやってきたわけですが、やはりそれは無い物ねだりだったと判り始めたことが、この8月危機の本質なのではないかと疑っています。

金融危機をボラティリティで測るならば、昨年5月のギリシャショックは、今年3月の震災(というよりも原発事故)直後の危機より遥かに長かったわけですが、今回の仮称「S&Pショック」はそれよりも長引く可能性が十分あると考えられます。
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