2022年11月19日土曜日

どうなっているのかFTX?

行政処分という汚名

 

FTXFXは名前が似ていますが、内容はまったく異なります。ごっちゃにしてはなりません。

 

先週末倒産した、ピーク時世界第三位の暗号資産取引業者、FTXは、FuTures eXchangeの略なのだそうです。

 

リーマンブラザーズ倒産時(2008年)と同様、急成長した暗号資産取引業者FTXの米連邦破産法11条申し立ての事実を受け、金融庁は、直ちに、日本法人FTX Japanに行政処分を下しました。

 

FX業界でも、海外親会社の倒産で、牽連して倒産することが想定されるとして、MFグローバルFXA社に行政処分が下された事例があります(2012年)。

 

なにせ、行政処分というと、人聞きが悪いのです。金融商品取引業者や暗号資産取引業者に対する行政処分というのは、ほとんどの場合が、法令違反を原因としています。

 

しかし、リーマンのように「なまじ」規模が大きく、「投資銀行業務」という実態がよくわからない事例は別としても、MFグローバルFXA社などは、結局は廃業に追い込まれたとは言え、顧客資産はきっちり返還しているわけです。同様の理由(※1)で行政処分となったアルパリジャパンの場合もそうですが(2015年)、最終的に債権者には実害が生じていません。

 

FTX倒産については、暗号資産取引業として登録されているFTX Japanという拠点があり多くの個人のお客様もいらっしゃるはずなのに、日本語での情報が手に入りづらい状況にあります。本件は、英語メディアと日本語メディアのギャップが大きいのです。規模こそ大きいものの、ニューヨーク証券取引所に上場しているわけではなく、巨大ベンチャーキャピタル(含む日本のソフトバンク)などからの私募的な資金調達をレバーにして急成長した企業であるため、情報開示が十分でないことも理由でしょう。

 

これまでにわかっていること

 

倒産前夜に創業者社長であるSam Bankman-Fried(米国の第32代または第35代大統領風にSBFと略称されるそうです)が、Binanceを始めとするライバル暗号資産取引所に救済を求めたときの緊急デューディリジェンスから、その負債総額が7兆円規模(債権者数は百万人超?)だという報道もあります。

 

ところで、ここ30年くらいで、株式などを主に扱う証券取引所も民営化されたり上場したり買収したりされたりするのが常態化しています。とは言え、証券取引所が自らの株式を公開したり増資したりしてその発行代金で派手なビジネスを始めるというのは、東証や大証(※2)になじみのある日本人にはピンと来ないものです。

 

暗号資産業界はここがだいぶ違います(まったく違うとは言えない)。FTXも、私設の取引所としては、ひたすらBinanceを追いかけ、ユーザーエクスペリエンスを研ぎ澄ますことで世界中の暗号資産ファンの心をとらえてきたという一面もあります。いっぽうで、問題は、FTX自身のトークンであるFTTで巨額の資金調達をしていたことです。

 

FTTも、暗号資産の端くれなので、相場があります。


(出典:コインベース)

FTTは暗号資産ですし、テザーのような法定通貨とのパリティも保証されていません(ステーブルコインではない)ので、この時価総額の滅失による投資家の大損というのは、負債増額の7兆円には含まれていない点は重要です。

 

さて、以下に述べるように、ここから先が、日本とそれ以外とで極端に違うところだと思うのですが、もしかすると、日本以外のFTXの拠点では、FTT以外の暗号資産(ビットコインなど)についても払い戻し(≒法定通貨などへの交換)がままならないかも知れないということです。これが、上記の7兆円に含まれているのか居ないのか、私もまだ調査途上です。

 

日本の取引業者は驚くほど安全?

 

いま、御本尊のFTXのホームページ

https://www.ftx.com/

を訪問しようとするとタイムアウトで入れません(※3)。



一方、日本法人のFTX Japanのホームページは健全です。

 

実は、日本法人の社長は私の知人でした!かつて業績不振で事実上の解任となった前職(日本の資本で株式業務とFX業務をやっていました)の時代に、FXのカバー先のひとつであるゴールドマンサックス東京支店を訪ねたことがありました。六本木ヒルズに行ったのは人生でそのときだけです。そのときにお会いしたのが、外国為替部門の法人営業担当でセス・メラメッドさんという名前からしてもユダヤ系のアメリカ人でした。

 

私の先入観もありますが、たいへん優秀な方で、何と言っても日本語がペラペラなのです。日本とは言え、ゴールドマンサックスで仕事をするのであれば周りの日本人に英語をしゃべらせれば言いわけです。私なんかが、仕事上やむをえず、「敵性語」をしゃべらされているのとは違うのです。何故、セスさんはわざわざ敗戦国の難言語を習得されたのかと感心したものでした。

 

今回、FTXの記事を見て、初めて知ったのが、彼もまた、お笑いの(?)パックン同様、米国の大学で日本語を修めていたということです。

 

そして、ゴールドマンサックスを退職したのち、日本の暗号資産取引業者として第一ラウンドで登録できたうちのひとつであるリキッド社の社長になられたのでした(当時は仮想通貨交換業者)。リキッドで暗号資産の大量ハッキング事件が発生してしまい、そのときに救済を求めた相手がSBF氏だったとのことです。

 

FTX Japanのホームページで、注目しなければならないのは、

 

当社におけるお客様の資産の管理状況等について

 

というお知らせでしょう。取り扱ってきたすべての種類の暗号資産について、少なくともコールドウォレット分については、十分な区分管理が行われていること、円など法定通貨の預託分についても同様であること、これを踏まえて、約一週間ほど、(おそらくシステム対応と行政処分対応のために)出金依頼対応ができなかったが、それを再開した(いっぽう入金はうけつけない・・・当然)ことなどが記載されています。

 

何かの理由でよほど日本のことが好きでなければアメリカの大学で日本語など勉強することはなかっただろうセスさんが、外国為替の世界から暗号資産の世界へと横っ飛びし、ここ数年で二度の試練を味わっておられるが、雇われ社長として誠実に業務をこなしていらっしゃる姿を遠目で見て、感動しています。

 

この点、外資系の日本法人の雇われ社長というのは、どんな産業であれ、たいへんな苦労を伴います。日本は顧客保護の制度が整っている一方で、強欲な諸外国人(中国人だのアングロサクソンだのユダヤ人だの、とは言いません!)の物差しで業績を上げるのは難しい土地柄です。FX業界だけを見ても、今年、ライバル会社(注:相手はアヴァトレード・ジャパンをライバルとはまったく思っていないかも知れません)の外資系雇われ社長が、様々な理由で更迭されたと聞きます。

 

FX業界のことはさておくとして、セスさんが行政処分などという汚名を気にせず正念場を乗り切り日本の登録業者の社長としての矜持を示してくれればと願っています。

(注1)経営破綻のきっかけはスイスフランショックでしたが、当時のアルパリジャパンに下された行政処分の内容は、それとは関係がない非対称スリッページ(顧客にとって不利な方向に偏って、発注時のレートと約定時のレートの差異を意図的に発生させていること)に関するものもありました。なお、同社は業務停止を経つつも、廃業には追い込まれず、デュカスコピーによる救済を経て、デュカスコピー・ジャパンとして存続しています。

(注2)東証よりも先に上場を果たしていた大証によって東証は買収され、東証はいわば裏口上場を果たしました。東証と大証が経営統合したことで、持ち株会社の社名も日本取引所グループとなっていて、自ら同取引所に上場している格好です。主要株主を見ると、上位はすべて信託名義で、実質的な支配者が誰だか表面上はわかりません。役員構成を見れば、半官半民の企業風土は抜本的には変わっていないように見受けます。

(注3)2022年11月18日金曜日日本時間16時現在、筆者が勤務先アヴァトレード・ジャパン(東京都港区赤坂)からアクセスを試みた結果です。 

 

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