2008年12月4日木曜日

住宅ローンの休日

●米財務省、住宅ローン金利引き下げ案を検討(12/3WSJ)
問題のファニーメイ・フレディマック経由の30年物金利を1%引き下げ4.5%に。住宅価格下落に歯止めを掛けたポールソン財務長官の形振り構わぬカンフル剤。だが、ファニーメイとフレディマックの両GSEを不良債権の塊になるまで蹂躙し続けた根本原因こそ、需給を反映しない低金利での政策融資を長年押し付けてきたことだとは、両社が破綻か国有化か揉めた頃に当ブログで取り上げたグリーンスパン前FRB議長の批判の通り。

一方、大西洋の反対側では、
●英ブラウン首相、住宅ローンの利払いを最長2年間猶予するスキームを議会に提唱(12/3FT)
10億ポンドの予算を注ぎ込む案の詳細はまだこれから。昨今一躍「有名」になった大恐慌時代のF・ルーズベルト大統領の「米国バンク・ホリデー」に擬え、FT紙は臨時ニュースで「モーゲージ・ホリデー」と報じた。

●フォード社長、GMとクライスラーは生き残りが難しいと発言(12/3WSJ)
「自分さえ良ければ」というライバルを蹴落とす態度は道徳的には反感を買うのでは。世界的な規模の追求という路線を潔く見直したことで、GMのような致命傷を回避したということか。

●ロイター=ジェフリーCRB指数、2002年11月以来の最低水準にまで下落(12/3FT)
商品市況の世界的なベンチマークは、今年7月の記録的な高値から52%も下落。

●英ポンド、対ユーロと米ドルで下落(12/3FT)
ポンド/ユーロは記録的な安値を更新。
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2008年12月3日水曜日

ムンバイとバンコク―テロリストを掻き立てるものは何か?

今週は諸事情ありブログの更新が不規則になっており、誠に申し訳ございません。
更新したい話題が余りに多くあり過ぎて(ムンバイの「同時テロ」、タイの「クーデター」、自動車問題)、何から書けば良いのか悩んでいるうちに、上場来の損失で話題のゴールドマン・サックスがネット銀行業務に進出とか、勉強に値する新しい動きも報じられつつあります(WSJ)。

西側のメディアを追っかけるだけでも、なかなか十分な時間がないのですが、インドやタイの話について、多くの報道は紙媒体であれ映像媒体であれオンラインであれ殆どは生々しい事実の羅列の域を出ず、ことの本質に迫ったものはまだ見当たりません。とくにインド・ムンバイのテロについては、明確な犯行声明が出されていない点で同時テロとしては極めて珍しい事態である一方、インド政府はパキスタンを名指しするわ、パキスタンの駐米大使は具体的な証拠に基づきインドと協力して事態を解明したいと嘯くわ、まだまだ謎だらけだと言わざるを得ません。

こういうときこそ、東側メディアに隠れたヒントが無いかと思い、日頃滅多にチェックはしない英文プラウダ(ロシア共産党機関紙)を見ると、事件当日付の事実を淡々と書き連ねた記事があるだけでガッカリ。しかも、掲載されている写真が、ムンバイのテロとは関係がない、ベトナム戦争で米軍のナパーム弾攻撃に逃げ惑うベトナムの子供たちの写真というありさま。

特権階級の既得権益を排除する一方、貧農に対しても手厚い保護を行なったタクシン前首相失脚後、残党を一掃しようという今回のタイのクーデターは、フランス革命に譬えれば、王政復古段階にあるのかも知れません。この反動を見た目は一旦完結させたのが憲法裁判所という聞きなれない司法機関。我が国にも戦前は軍法会議など(大審院に上告できない)特別裁判所がありました。戦後民主化の中で、日本国憲法では特別裁判所の設置は認められず(判事に対する国会での弾劾裁判のみが例外)、よって憲法裁判所もありません。これは米国にならったもので、同じ西側諸国でもドイツやフランスには存在します。自衛隊に対する違憲判断などに象徴されるように、最高裁判所は具体的な事件(例えば苫米地事件とか)がないと憲法判断はしないということなので、憲法裁判所がないことが立憲政治に資するのか否かは意見が分かれます。ちなみに自民党や民主党は憲法裁判所があったほうが良いという立場、共産党は逆のようです。

いつになるのか良く判らない(解散?)総選挙ですが、その際には最高裁判所判事に対する国民投票も同時に行なわれています。これでバッテンを喰らった判事は戦後ひとりも居ないのではないでしょうか。田母神論文で一躍話題となった文民統制civilian controlですが、最近では永田町が霞ヶ関をコントロール出来ないという文脈でも使われているようです。それなら、最高裁判事の人事権に関わる内閣総理大臣と国民の関係も制度としては死蔵されてきただけとは言えないでしょうか。

この点、タイの憲法裁判所は特別裁判所であるだけに皮肉にも司法権が独立しており、多数決上は少数派に過ぎない公務員等の既得権益集団によるクーデター派の意見を聞き入れたというところが、なかなか考え辛いところです。

ところで、私が今最も解明したいことは、タイやインドの事件の発生時期や事態の酷さ。これらが米国発金融危機や米国の政権交代とシンクロしていることに大きな意味があるのか偶然なのかということです。前者のような気もしますが、それこそパキスタン大使ではないですが具体的な証拠もなく憶測だけで論ずるほど馬鹿げたことはありません。
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2008年12月2日火曜日

破綻か?救済か?運命の日が近づく米国ビッグスリー

再建計画を携えデトロイトから一路再びワシントンへと向かう米国自動車メーカーの首脳たち。今回も自家用ジェットを使うのでしょうか?

先週金曜日の夜に収録致しました上記テーマのセミナーがオン・デマンド(再放送)で御覧頂けるようになりました。当ブログにリンクをアップしています(冒頭30秒、フェニックス証券のCMが流れますのでビックリなさらないでください)。

今回、忙しさに感けてパワーポイント無しで約45分喋っておりますが、案の定、話し忘れたことがひとつございます。全体の論旨には影響を与えないのですが、米国ビックスリーの「上位」2社、特にGMの派手なM&Aによる世界戦略が、装置産業であるがゆえに規模の利益(限界費用逓減)が認められるとされている自動車業界において、必ずしも規模の利益をもたらさなかったという含意です。

世界の自動車産業は、大手メーカーに限ればほぼ例外なく多かれ少なかれ資本面や技術面で非常にややこしい多角的な提携関係にあることは以前に指摘した通りです。が、ことGMに関しては、SAAB、OPEL、FIAT、VAUXHALLと欧州各国の伝統ブランドを傘下に収め、ここ日本においてもスズキ、富士重工の主要株主となっていました。これらの提携先のなかには、GMの資本参加のお陰で延命できた企業もありますが、日本の2社のように何のメリットも見出せないまま自社株買いを迫られるケースを見逃してはなりません(そもそもスズキの自社株買いは取締役会の先決事項なのかどうかも疑義がある)。

私がここで言いたいことは、もはや自動車産業のような規模の利益というイメージが漂う産業でさえ、必ずしも「大は小を兼ねる」とは言えなくなっているという事実です。レベルの違いこそあれ、トヨタ自動車や光岡自動車の経営陣は、自動車産業が装置産業であると一言では言い表せない経営の難しさとか本質を見抜いていた、というと買いかぶりすぎでしょうか?

GMが多国籍巨大企業だからと言って特別扱いをされないという毅然たる政策こそ、わが国で苦労されている中小企業の労働者やベンチャー起業家の皆さんに勇気と希望を与えるメッセージであると思います。

こういうことを繰り返していると、タイの空港を閉鎖したテロリスト集団のような既得権益勢力に狙われるのでしょうか・・・
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2008年11月28日金曜日

不思議の国の株価とワーキングプア

●ムンバイのテロ、人質解放へ(11/28WSJ、NYTなど)
犯行声明が出ていない。インド首相も国外犯だと指摘しているが、印パ問題なのかどうかもよく判らない。13年前の地下鉄サリン事件を外国人目線で見たら、日本の何処がどう危ないのかよく判らず、何となく空恐ろしい国だとしか思われなかったのではないでしょうか。本件については、「七転び八起き」流の分析をするにはまだ私には勉強が足りません。

昨日、大阪で長年お世話になっておるお客さまがフェニックス証券を訪ねてきてくれました。話題はFXから日本株にまでおよび、特に株価について最近最も気になっている点を指摘させていただきました。

日本株の弱さについては、当「七転び八起き」ブログでも一度浚いました。ここに来て我が国の上場株の特徴と言えば、株価利益率(予想利益/株価)では主要先進国のなかで意外と割高である反面、純資産倍率(純資産/時価総額)では悲しいほど割安であるという事態ではないでしょうか。

前段の株価利益率については、株価がどんどんさがっても予想利益の下方修正が追い討ちをかけるので、割安感が出てこない、むしろ割高であるということ。それと関連しますが、減益体質や赤字体質が改善されない限り、純資産では株を買えないというのが、後段の純資産倍率の話となります。

しかし、純資産倍率を「トービンのQ」だと看做せば、純資産倍率が1を(大きく)下回る企業は廃業なり赤字部門撤退なり資産売却なりすれば良い(言い換えれば、その企業が属する業界に参入を検討している経営者は事業を立ち上げずその会社を買収したほうが安くつくので、然るべき水準=純資産倍率1近傍まで株価は戻る筈です。

景気後退期(デフレ期)の金融業や不動産業のように潜在的な不良債権や不良在庫が処理または減損されておらず純資産の数値が疑わしいという要因は、時価会計が米国流にせよIAS流にせよあります。日本特有の問題は、終身雇用従業員の過保護が、廃業や赤字部門撤退や資産売却のような思い切った経営を阻んでいる点にあります。資金の出し手ではないにもかかわらず、終身雇用従業員(俗に言う正社員)が事実上“株主”になっているのです。かつて「会社は誰のものか?」という議論が喧しい時期がありました。「会社は株主のものだ」と当たり前のことを言うと、「オマエはハゲタカ(擁護)か?」などと苛められたものです。しかし、日本においては、事実、会社は株主(だけ)のものではないのです。

そして問題の核心は、終身雇用制度を批判すると、「日雇い派遣」制度を擁護している立場だと短絡的に烙印を捺され、そのような金儲け主義は米国流資本主義と同時に終わったのだと地上波を中心とするマスコミが洗脳していること。雇用の調整―マクロの需給だけではなく、衰退産業から成長産業への再配置も含む―は既得権益にしがみついた、その多くの場合、固定給の将来価値に見合う創業精神を伴わない安住型ホワイトカラーが大勢のさばっている分、すべて日雇い派遣またはそれに類する雇用体系の人たちに皺寄せされています。横断面に留まず、多くの愚かな大企業は終身雇用社員の新卒採用を、凝りもせず毎年、景況感という名のドタ勘に基づいて人数調整しているものだから、時系列的に見れば、深刻かつ理不尽な世代間の不平等をもたらしています。

「日雇い派遣」制度を生み出したとして小泉・竹中改革をマスコミが批判するのは、マスコミ会社自身が既に崩壊しているビジネスモデルにしがみついている終身雇用役職員を多く抱え込んでいるからに他なりません。ワーキングプアの理不尽さは大企業に温存されている終身雇用制度の裏側なのです。

ところで、雇われ社長というのは、究極の日雇い派遣であると、私は会社法上の解釈をしております。ときどき普通のサラリーマンに戻りたいと思ったことも過去にはありましたが、お蔭様で今は元気一杯です。
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