2009年8月7日金曜日

美しい円周率と醜いフィリップス曲線-経済のイロハ②

円周率を引っ張ります。円周率(π)をなるべく正確に小数点以下どんどん求めようとする歴史は、がむしゃらな計算も含め、紀元前から始まります。

円周率の歴史

そのなかで、ひと際「美しさ」が目立つのが、1400年頃インド人マーダヴァによって発見された無限級数

1-1/3+1+1/5-1/7+1/9-1/11+・・・+(-1)^n/(2*n+1)+・・・・・・・・・・

無限に続く数列を考えます。最初は1。そこから先は分数で、分母が(1から)3、5、7、9と奇数で延々と続く一方、分子は(プラス1から)マイナス1とプラス1を延々と繰り返します。これを全て足し合わせるのです。

何とこれを4倍しますと、円周率(π)になるというのです。これを発見したインド人は天才。この証明を理解できる人は秀才。理由はわからずとも「美しさ」に感動する私は、単なるモノ好きです。

少なくとも円周率(π)に限れば、数学者が行った計算や証明が正しかったかどうかというのはいつかは歴史が証明してくれます(無限という概念を突き詰めると、話はだいぶ変わって来ますが・・・)。

本日、“為替力”アップ道場にアップした量的緩和拡大で英ポンド急落。成長率の落ち込みは歯止めが掛りつつあるものの、高い失業率は収まる気配がない、との英中銀の認識から、金融緩和(今回は利下げは見送ったものの-既に0.5%ですが-英国債の買い取り額を増やした)を決定したという記事です。失業とインフレの関係の深さを物語るのが昨日ご紹介のフィリップス曲線ではありますが、「無理矢理インフレ政策を取れば本当に失業率は改善するのか?」そしてインフレ策が正しいとしても「政策金利の利下げ、量的緩和の拡大、財政赤字のばら撒きのうちどれが政策効果が高いのか?」というのは、高名な経済学者や中央銀行の幹部の間でも議論が分かれます。

後者は特に変動相場制のもとでは財政赤字が(中央銀行によってファイナンスされない限り)景気対策としては有効ではないというマンデル=フレミングの法則というのがあります(注)。一方、前者は突き詰めればケインズとフリードマンのどちらが正しいか(該当する可能性が高いか)になります。少なくとも現実は滑らかなフィリップス曲線など描けてはいないということ。円周率のようには美しくなれない理由を次回以降議論します。
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(注)逆に固定相場制では金融政策は為替操作だけに使われてしまうので景気対策の意味を持たない。ユーロ圏の(ECB以外の)各国の中央銀行が勝手にユーロを供給したら、それは偽札じゃないか、という理解の仕方は乱暴か。

2009年8月6日木曜日

円周率とゆとり教育-経済のイロハ①


ゆとり教育からの揺り戻しで、円周率(π)が3から3.14に戻ったらしいです。


小学生の娘から「円周率は何故3.14なの?」と聞かれて、答えに窮しました。勿論、πは3でもなければ3.14でもない無理数(かつ超越数)ですが、それは措くとして、「何故3.14(・・・)か?」という問いと、「どのような円でも円周率は一定(=π)かどうか?」(答えはYes)という問いとは質が違います。
当たり前のことのように思っていることでも、何故かと聞かれて答えられない命題は色々あります。「人間の手(足)の指の本数は何故5本(×2)なのか?」「何故、澱粉(でんぷん)にヨード液を落とすと(赤でも緑でもなく)紫色になるのか」・・・「何故、株価が下がると失業が増えるのか?」

知っていることと、理由を納得していること(或いは、世間では常識とされているが実は理由が曖昧だと見破っていること)は全く別。

上記の例の中で「何故、株価が下がると失業が増えるのか?」という問いだけは異質で、特に理由が曖昧かも知れない、と言いたいわけではないのです。実にそこが経済学の難しさだとは思います。しかし「世間の常識の殆どが理由は曖昧」というのは経済学(や生物学)だけでなく数学や物理学でも五十歩百歩です。平行性公準(言いかえれば、三角形の内角の和=180°)や質量保存の法則も今では絶対真理ではないからです。

「フィリップス曲線」というのがありまして、経済学部を出てこれを知らないと「お前、やっぱり勉強してなかったな」と笑われる定番商品です。縦軸に失業率、横軸にインフレ率をとると(短期的に)反比例みたいな関係になる。したがって、インフレ抑制と雇用対策は「あちらを立てればこちらが立たず」の関係なのだ、みたいな言い方をします。 現在、この経験則を知っているかいないかというのは大した問題ではなくて、「普遍の法則ではないのではないか?どういう前提なら成り立つのか?」と疑って掛る姿勢のほうが遥かに重要だと思うのです。
ついでにもっと大事なことは、主要国各国の指導者政治家の多くが、「フィリップス曲線」を平行線公準と同じような絶対真理だと思い込んで、ばらまき政策のポピュリズムにどっぷり漬かっていること。その結果どうなるかを予測すること、です。
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(お知らせ)本日から、こちらhttp://phxs.blogspot.com/ では読者の皆様のご要望にお応えし、経済のイロハをお伝えして参ります。七転び八起きブログのバックナンバーをお読みいただくうえでも役に立てればと考えております。通常の更新は、昨日よりhttp://phxs.jp/blog.php “為替力”アップ道場(一説に“モミアゲ”道場!?)に移行しております。昨日分も是非ご確認くださいませ。

2009年8月5日水曜日

イチローとチヒロ-「クールジャパン」の尖兵


昨年12月に開催させていただいたフェニックス証券主催チャリティ・オペラ・コンサート~世界の名曲をフェニックス証券からあなたへで特別出演をしてくださった我が国ヴァイオリン界の若手ホープ印田千裕さん。プロのオペラ歌手の皆さん同様、ギャラなしでご無理をお願いした御礼をしなければならない立場なのに、逆に素敵なサロンコンサートに呼んでいただきました。

LOHASを提唱し続ける雑誌ソトコト株式会社木楽舎 取締役社長日谷潔さんに心から感謝)の取材収録を兼ねた「ロハスクラシック音楽サロン」。等々力渓谷脇の中島薫さんの御自宅は都心とは思えない自然溢れる環境。実際、渓谷に鬱蒼と茂る木々から木漏れ日とともに蝉時雨までがサロンに届きます。クラシックのコンサートは外部の雑音を遮断して鑑賞するのが通常ですが、超一流の音楽にとっては自然の“ざわめき”が邪魔になるどころか寧ろ妙なる調和を醸しだすのだと教えてくれたロハスな空間でした。

「ロハスクラシック音楽サロン」だけでなくシャネル・ピグマリオン・デイズ・クラシックコンサートもプロデュースされている坂田康太郎さんが過不足のない司会進行。敷居が高いと思われがちなオペラやクラシックを何とか身近な存在にしたいという坂田さんの仕事振りに100%共感します。

フェニックス証券のチャリティを終えた後、東京文化会館でのリサイタル、米国公演、NHKFM「名曲リサイタル」出演等、大活躍の印田千裕さんの凄いところは、前述のチャリティで聴かせてくれたサラサーテやパガニーニの超絶技巧や、マスネ(タイスの瞑想曲)その他オペラとのシナジーの演出という器用さだけでなく、これまで(世界が注目していたにもかかわらず)日本ですら埋もれてしまっていた日本人作曲家の作品を掘り起こし自らの手で広めようとしているところです。キャリア途上のクラシック演奏家にとってプログラム構成上無名の曲を沢山取り入れるというのは興業的には大きなリスクを伴うにもかかわらず、です。その積極果敢な印田千裕さんの姿勢を、プロデューサー兼司会の坂田康太郎さんが素敵にお披露目してくれていたのが印象的でした。

サロンでは、伊藤(及川)哲也さんセレクトによるワインを頂きながら、株式会社テレネットの目黒社長(本当に久しぶり。御縁に感謝です)、株式会社第一物産の黄恵蘭社長(キムチを買いに行きます)、松竹株式会社の吉積サイモンさん(私の100倍歌舞伎に詳しいイギリス人)、株式会社チャイナアクセスの嘉賀宮社長、三菱商事証券の相宅社長、株式会社ウェーブの梶原取締役、そしてファクタ出版株式会社の宮嶋代表取締役と暫し歓談を楽しませていただきました。

「クールジャパン」の尖兵は、野球(注)ではイチロー、ヴァイオリンではチヒロだとの思いを馳せたひと時でした。
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(注)クールジャパンの定義は良く判りません。スポーツに用いることは通常無いかも知れませんが、イチローの芸術的な打撃と守備に日本人らしいクールさを認め表現させていただきました。サムライとしての尖兵は野茂英雄でしょう。
(注)ソトコトの取材は別の月のものも同時開催されていて、そちらは同じく坂田さん司会でソプラノの安藤赴美子さん。驚くべき声の持ち主です。

2009年8月4日火曜日

バンカメに罰金?メリル買収に絡んで・・・

リーマンブラザースの破綻と同じ日にメリルリンチ(救済)買収を発表したことで全米1位の銀行に躍り出ることになったバンカメ。米SECが偽計取引だとして33百万㌦の罰金を科したのは、

★2008年11月に「500億㌦でメリルを買収したい。メリルには役職員への年末ボーナス等を合併期日まではバンカメ側の同意なしには払わせない」としてバンカメ株主の同意を書状で求めていた。

★ところが実際にはバンカメはメリル側が58億㌦のボーナス支給を既に認めていた(米SECによると)。

★58億㌦というのは買収額の12%にも相当する。ボーナス支給の承認は株主宛には配布されなかった別の書状で明らかだと。

★2008年12月5日にバンカメ側もメリル側も合併を承認。その3日後にメリルはボーナス支給(36億㌦)を決定。支給日は12月31日で合併期日の前日。直後にメリルは2008年の年次決算276億㌦の赤字を発表。

以上はWSJ紙の要約。FT紙によると、バンカメは(というかルイス前CEOほか前役員陣は)本件で別途、株主代表訴訟を抱えている。

バンカメの前CEOルイス氏と言えば、メリル買収はバーナンキFRB議長とポールソン財務長官(当時)に脅されて不承不承決めたものだった。両高官の議会証言は済んでいますが、まだ疑惑が晴れたとは言い切れないなかでの、今回のSECによる調停。我が国の失われた10年以前にみられた伏魔殿が米国金融にしっかり存在しています。

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