2021年9月10日金曜日

バイデン大統領版のワクチンパスポート

日本時間で本日の未明、米国のバイデン大統領は、過去最強のワクチン接種率改善策を発表しました。従業員100名以上の企業経営者に、従業員へのワクチン接種または週一の検査を義務化し、違背した場合には1事案あたり罰金1万4000ドルなどと報じられています。


先ほどまで、私の横で焼き魚定食を食べていたイギリス人の科学者は「バイデンは遂に気が狂ったか?」とつぶやいていましたが、それはさておきます。


以下私見ですが、バイデンのこの動きの背景は二つあると考えます。ひとつは、支持率の急速な低下、もうひとつは感染状況の再拡大です。


支持率は、前回のメーリングリストで話題にしたアフガン問題がきっかけになっています。米ABCというやや民主党寄りとも言われるキー局のサイトで以下のようになっています。

https://projects.fivethirtyeight.com/biden-approval-rating/


このサイトはなかなか秀逸なのです。戦後、トルーマン大統領以降のすべての大統領の任期中の支持率推移を見ることが出来、それとバイデン現大統領のこれまでのチャート(まだ短い)と比較できるようになっています。

戦略の巧拙は兎も角、バイデン氏が起死回生を図ろうとしているという見方はたぶん間違っていないでしょう。

さて、問題は、「ワクチン接種率伸び悩み」が、感染再拡大の根源であるとの決めつけについてです。

これは、日本の現状に照らしても、意見が分かれるところだと思います。冷静に見れば、①ワクチン接種の伸び悩みも要因として考えられるし、また②ワクチンが効かない変異種が(次々と)現れていること(【注意】これがワクチン接種者を回避すべく突然変異が進んでいるからなのか、ワクチン接種が進んでいない地域でむしろ感染力や毒性の強いそれらが発生しやすいのか、まだ科学的な結論は出せていないと言えます)、③変異種に対して効くか効かないかにかかわらずワクチンの効果が当初の期待より長続きしていない、さらには④(上記②③の可能性にもかかわらず、二回目の接種を終えたひとがマスクを外しがちであること)など、複合的な要因が考えられるからです。

新型コロナウイルス感染症の米国の現状【ニューヨークタイムズの無料開放コーナより】

 

さて、どれ(とどれ)が正しいのでしょうか?それを答えるのが今週の目的ではありません。

 

個人的には、②と③の、ワクチンへの過度な期待を修正するべき時期になってきている今に及んで、バイデン氏がむしろワクチンに突っ込もうとしていることにまずは驚いたのですが、そのあと更に驚いたのが、このニュースがもちろん複数の媒体で大きく取り上げられているところ、ニューヨークタイムズとウォールストリート・ジャーナルで読者からのコメントの内容がまったく異なっている点なのです。

 

去年のトランプ対バイデンの大統領選で、米国はますます「分断」したと言われていましたが、コロナによってとどめを刺されたと実感しました。

 

本日10(金)午後4時の時点で、ニューヨークタイムズのほうの記事

BidenAsks OSHA to Order Vaccine Mandates at Large Employers

には320件のコメントが読者から寄せられているのですが、ざっと見ると、バイデン宣言を賛美するものがほとんどなのです。いっぽうで、ウォールストリート・ジャーナルの

BidenBoosts Vaccine Requirements for Large Employers, Federal Workers to CombatCovid-19

には、何と5200件を超えるコメントが。。。さすがにこれは読み通せませんし、正直書き込みのスタイルというかテイストも、こっちまで頭が狂いそうになるクオリティのもので満ちています。ざっと、バイデンを罵る意見は、すべてということはなくて、5割から6割という感じです。

 

ちょっとショックだったのは、バイデンのこの動きを冷静に批判するまっとうなロジックもあろうかと思うのですが、キャッチ―な言いがかりばかりが目立ち、「ワクチン頼みを修正するべき時期に逆行している」という真っ当な意見は、共和党支持者らしいひとたちからはちゃんと聞こえてこない(つまり彼らはマスクもしたくない)という現状なのです。

 

私は、焼き魚定食食事中のイギリス人研究者に、「かくして米国は南北戦争時代へと逆行した」と感想しました。

 

共和党支持者と思しき読者のWSJへのコメントのひとつが「病院を占拠しているのはワクチン未接種者だけではなく肥満体(ゆえ重症化した患者)だ。ワクチンを強制するならダイエットも強制しろ。」

 

民主党支持者と思しき読者のNYTへのコメントのひとつにはこんなのがありました。共和党が強い地域で大勢がマスクをしない自由、ワクチンを接種しない自由、ソーシャルディスタンスをしない自由を謳歌している現状に対して、「1940年代の米国がこんな態度だったら米国は第二次大戦に勝てなかっただろう。1950年代・・・米国民はいまだにポリオと戦っているだろう。1960年代・・・月に行けなかっただろう。」

 

なお、ワクチンの費用対効果を直視したコメントについては、誤情報の可能性もあるとして、WSJ側で削除している可能性(それに対する怒りのコメント=WSJCCPと一緒だ・・・それはないでしょう、とか)。

 

私が十分に公平で偏見がないかどうかは立証できませんが、ワクチンに対して慎重に情報を集め分析を試みている側だと思っています。現状のワクチンの接種直後の副反応や将来の未知のそれらを対価として、十分な効果が得られるかどうかがポイントで、これはワクチン賛成派として有名な数学者高橋洋一さんもYouTubeで繰り返し言っておられます。

 

さらには、前回メルマガでご指摘したワクチンとマスクに共通する「公共性」というのがあります。上記の将来の未知の副反応というところが不気味ではありますが、公共性に照らした公平感ということで言えば、ワクチンを打っていたのに罹ったひとの医療費は(保険+)税金で補償し、ワクチンを打たずに罹ったひとの医療費は自己負担(生理的に打てないひとがいるから例外措置あり)という枠組みは大いにありうると思うのです。ただ、この自然な発想に進まないのは、やはり、何かあるのかも知れないですね。



2021年7月30日金曜日

日本のトップアスリートたちは偉い!どうするワクチン?

子供の頃、ソビエト社会主義共和国連邦、略してソ連という国がありました。体操をはじめ、オリンピックの度に、金メダルを量産していた記憶があります。いま、そのビジネスモデルを採用したのが、中国です。と、今朝のニューヨークタイムズ紙は書いています。


金メダルの数で、中国が日本を抜いた。その理由は、という件(くだり)です。リベラル派メディアにして、旧ソ連型戦略の指摘を読んで朝から爽快でした。


ざっくり言えば、人口で、旧ソ連は日本の二倍、中国は(除く台湾・香港、含む新疆ウイグル「自治区」でも)13倍なのですから、追い付かれたところで、どうってことはありません。


「中国の大衆は、自国のオリンピック代表の『犠牲』をだんだんと見るに見かねてきている」とは、同新聞の主観か、客観的な取材の結果か?日本の場合は逆に、ごく一部と信じたいですが、心無い匿名の誹謗中傷の被害が、ただでさえ独特のストレスのあるトップクラスのアスリーツに対して及んでいるわけですから、もっともっと『犠牲』の意味を考えてみたいところです。


びっくりするほど多くの金メダルのなかで、柔道の大野将平選手のインタビューが心に残っています。曰く、


「賛否両論あることは理解しています。ですが、我々アスリートの姿を見て、何か心が動く瞬間があれば、本当に光栄に思います。」

「オリンピックは自分にとっては楽しむ場所ではない」

「今後もやはり自分を倒す稽古を継続してやっていきたい」


(てにをは正確でないかも知れませんのでお許しください)そこには修行僧としての孤高なひとりの人間しか見えて来ません。


国家の体制や予算で金メダルのためには手段を選ばない国がそこここにあるなかで、自分と戦って成果を収めている日本のトップアスリートは偉いです!


「専制国家と民主国家は、ガチンコ勝負したらどっちが強いか?」というのは、紀元前のトゥキディデスが描いたアテネ対スパルタの戦いを含め、決着していません。第二次世界大戦を「自由と民主の、独裁と隷属に対する勝利」と呼ぶのは嘘の歴史を学ばされた結果です。


しかし、ワクチンについては、打つか打たないかは、自分で決めたいものです。


残念ながら、「モノ書き」を稼業にしているひとは、執筆料やページビューを意識しなければならないので、「誰も打たねばならぬ」か「誰も打ってはならぬ」か、極端な言動に走りがちです。大事なことは、何が検証されていて、何が(検証されなければならないのに)されていないかを冷静に見ることです。


往々にして批判されがちな行政ですけど、厚生労働省の情報開示は、相当ちゃんとしていて、ワクチンのこれまでの治験の内容、副反応の実態について開示されていて、不都合な部分の黒塗りは事実上問題ない感じです。


むしろ、地上波のワイドショーを含む大手メディアや、フェイクニュース主がうじょうじょいるSNSのほうがよっぽど質(たち)が悪いです。


ワクチンに対する懐疑のない報道には、2度の接種率の高い、イスラエル、セイシェル、英国、アイスランド、モンゴルなどなどの現状をちゃんと加えるべきだと思いますし、ワクチン絶対反対派も、ワクチンは人類抹殺計画でその首謀者は誰某という有名なビリオネアだとか、注射の中身にはマイクロチップが埋め込まれていてGPSで云々だとか、そういう低レベルのデマや陰謀論に与(くみ)すると、このひとたちは人類の未来のことを考えているのか、新興宗教を立ち上げたいだけなのか、わけわからなくなってしまいます。


旧ソ連や中国はまだしも、フランスでマクロン大統領が「ワクチンパスポート」法案を(僅差で)通してしまったのに続いて、フィリピンではデュテルテ大統領が「警官は路上のワクチン未接種者を自宅軟禁すべし」という命令を出したとか、ワクチン差別どころか、ワクチン・ファシズムが、蔓延しはじめていることが気になります。


Google愛用家としては、ワクチン未接種者は出社に及ばずというのも残念な話です。


経済学の言葉で、公共性とか、外部性というのがあって、これをネットで調べると、マスクの事例が出てきます。同様に、ワクチンにも公共性や外部性があると考えられるので、パンデミックのときに、ワクチンやマスクは各々の自主的な判断で、というのが絶対に正しいとは言い切れないのは確かです。


しかし、これは日本の政府だけではなくて、米国や英国など、主要な先進国も然りなのですけど、過去1年半やってきた、ロックダウンや、それよりは緩いが飲食業・旅行業・プロスポーツやエンターテイメント従事者に理不尽な犠牲を強いてきた緊急事態宣言やマンボウなどの政策効果と政策費用がどうだったのかという検証がまったくなされていないのは甚だ問題です(ABテストが出来ないので簡単ではないが、それをどうにかやるのがプロ)。これをやらずに、緊急事態宣言の早期終了が失敗だったとか、現在の感染者増加はオリンピックを敢行したせいだとか言い切るメディアの世論形成もまた、専制国家のワクチン・ファシズムと五十歩百歩です。


新型コロナウィルスの現状を、時系列的かつ横断面的に見てゆくと、


感染の拡大と収束は、強制的な人流への規制と緩和のサイクルではなく、耐性のある新型株(突然変異種)の出現による影響のほうが高いと考えられないか?

耐性のある新型株(突然変異種)の出現のペースは、新型コロナウィルスが世界的に認められた2020年当初は、SARSやMERSからの推測で、インフルエンザウィルスほどではないと考えられていたが、実は同程度で、今後も未定ということではないか?

抗体の有効期限は、時間をかけて実験または治験をするしかない(頭の良い人が計算して示せるわけではない)ので、ワクチンの有効性について断定するのはそもそも間違っていないか?


これらの疑問に対して、ワクチンを推奨する立場からは、「わからないものは確かにわからない」という正直な回答を含めて、これから接種を検討するひとたちに、考える材料を与えるべきです。


たったの数週間前までは、英国やヨーロッパでは、ワクチン接種が、日本と違って、急速に進み、各国ロックダウンを解除し、テニスの全英オープンも、サッカーのUEFA EUROも、そう言えば我らが大谷翔平選手大活躍中のメジャーリーグも、満席の熱狂のもと行われ、これに比べて、日本は、東京オリンピックをやると「決まって」いたのに、何故ワクチン接種をこれほどまでに遅らせたのかと怒り嘆いたスポーツファンもいたと思います。


四面楚歌、満身創痍、這う這うの体の現自民党政権でありますが、わたしは政権ブレーンのなかにはまともなひとも居て、ワクチンの調達力があっても、青壮年への接種は慎重に時間を稼いだほうが良い。その間に他の先進諸国の結果が出てくるはずだ。オリンピックを目指して拙速にやることは可能だがやるべきでないと進言した慧眼の持ち主がいたのではないかと推測します(根拠なし)。


繰り返しますが、マスクやワクチンには公共性・外部性がある点は留保するとして、自分のことは自分で決められる国に住みたいものです(フランス、フィリピン残念過ぎます)。メッセンジャーRNAワクチンたるや、原子力や常温超電導や暗号資産並みの人類の英知ですが、副反応を見るにまだまだ昭和の頃のはしかの予防接種と変わりがなく、はしかほどの抗体の有効期限が検証されていないところが現状の問題点。これから1-2年、この議論は否が応でも深まらざるを得なくなってくる、というのが筆者の予想です。


2021年4月7日水曜日

「見ざる聞かざる言わざる」の米国株マーケット

 

クイズです。以下は何のチャートでしょうか?




ビットコインでも、米ドルでも、米国株ではありません。ちなみに、出典は、ウォール・ストリート・ジャーナルです。答え合わせは後ほど。

 

2021年の第一四半期、金融市場の話題をさらったのは、FXよりも、米国株だったのではなかったでしょうか?

 

キーワードは、ゲームストップ(Gamestop)、レディット(Reddit)、ロビンフッド(Robinhood)です。

 

ゲームストップ「事件」については、

 

令和3年2月4日万国の零細投資家、団結せよ_ゲームストップとキングオブEAでご説明しました。その事件現場だった「株式注文無料アプリ」運営会社ロビンフッドが上場してしまいました。

 

「万国の零細投資家」と、カール・マルクスを真似て呼びかけましたが、日本にお住まいの投資家は、「ロビンフッダー」にはなれません。ロビンフッドがやっているのは、アプリの運営どころか正真正銘、証券会社<第一種金融商品取引業、です。日本に上陸できないものでしょうか???上陸されたら困るという大手証券、オンライン証券も居そうです。

 

ゲームストップ「事件」のころ、わたくしは、エドワード・スノーデンの自伝を読んでいました。

 

スマホのアプリが、SNSだろうが、SMSだろうが、ゲームだろうが、無料があたりまえなのは(例外はあると信じたいですが)、広告収入やプレミアム会員からの料金徴収だけでなく、諜報機関へのデータ販売によるものだと言われています。まぁ、わたくしなんかは、CIANSAに目を付けられることはやっていないので(中国共産党は困るのでLINEをどうしようか迷います・・・)、ランニングアプリはいまでも平気で使っています。ジョギング中に、米国の衛星から爆弾を落とされるリスクは限りなくゼロだと思っているのです。

 

ロビンフッドは、無料アプリですが、証券会社にほかなりません。その収入源は、一部のプレミアム会員からの料金以外に、案の定、零細投資家たちの注文データ売却によるものらしいのですが、その売却先は、HFT(高頻度取引または超高速取引と和訳されている)のプロファンドだったらしく、従前それを零細投資家たちに開示していなかったとして、行政処分と罰金を科されています。

 

とにかく、タダより高いものはない、のが世の常。「無料」の種明かしはやっておくべきです。

 

多くのFX会社は、スプレッドを含めた手数料が不思議なほど安いですが、HFTかどうかは措くとして、注文データが「業者内プロファンド」においてマネタイズされるビジネスモデル、それこそが店頭デリバティブの本質だと見るべきです。

 

われらが金融庁により、平成 30 6 13 日にまとめられた「店頭 FX 業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」報告書のなかに、

 

“店頭 FX 業者がカバー取引を行うことなく自己で抱える未カバーポジションについては、業者が自ら設定する未カバーポジションの上限額に大きな差がみられ、上限額が1,000億円を超える水準となっている業者もある。

 

未カバーポジションは、ヘッジされていないエクスポージャーであり、相場が急変動すれば保有する店頭 FX 業者は直接的にその影響を受け、多大な損失を被る可能性もある。店頭 FX 業者の決済リスクへの対応という観点からは、未カバーポジションを保有する業者に対し、情報開示や適切な リスク管理を求めることが適当と考えられる。“

 

というくだりがあります。「不勉強だったり下手だったりで、為替でやられる投資家がいて、その分業者がもうかるのは仕方がない。わたしはちゃんと勉強していて上手なので、勝てているのだからそれで良い」という考え方もあります。しかし、過半数のFX投資家が上手になることはないのでしょうか?

 

確かに、われらが金融先物取引業協会の資料によれば、日本の投資家は、ひたすらやられているので、



 

今後もそうだろうと考えるのは自然のように思えます。が、コレって、数学的ではない帰納法です。

 

ここで、冒頭のクイズの答え合わせです。

 



チャートの上と下に書かれている説明は、

 

WallStreetBets(コレです!https://www.reddit.com/r/wallstreetbets/)へ投資家から投稿されたコメントに占める「猿」「間抜け」「馬鹿」「読めない」「自分が何をやっているかわからない」などの自虐コメントの割合

 

ということです。人工知能の文脈に照らせば、このテキストマイニングで、米国株式のブル指数を予測してみたい、という発想になるところですが、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事は、今年の米国株式相場は、ブルでもベアでもなく、無知に支配されていると説きます。

 

しかし、結果がすべての世界。無知の知を投資用SNSで言いふらしつつ、株式投資の成功を自慢するというトレンドが出来ているのです。バイデン新政権によるコロナ対策・インフラ対策・温暖化対策(?)による米財政悪化が、米国債相場を押し下げ、ゆえにドル高という、わかったような(?)わからないような(?)後付けの説明も、このような新種の投資家には追い風です。

 



ウォール・ストリート・ジャーナルの記事には、見ざる聞かざる言わざるをもじってか、猿を牡牛(ブル)に置き換えたアニメーションが載っています。

 

この記事自体は、

 

「勉強していない弱小投資家が、勉強しているプロの投資家に勝ち続けることはありえない」という趣旨のものですが、それは措くとして、為替と株式では勉強することに相似点と相違点がありますし、受験勉強やパズルなどとはまったく異なり、何を勉強すれば良いとあらかじめ決まったことはありません。

 

「プロが結局は勝つ」と断言することは出来ないのです。

 

弱小な零細投資家は負け続けるまたはいつかは大負けするという前提に立ったFX会社の経営では、例えば目下のドル高が極まると、出金トラブルのリスクが増嵩するというわけです。

2021年2月17日水曜日

中国共産党の権力闘争に翻弄されたアリババの実像

大河ドラマと半沢直樹の使用上の注意

わたくしのアヴァトレード・ジャパン勤務も、今月で丸8年となってしまいました。これまでのところ、日本証券業協会の壁も厚く、また昨年10月、ちょうどわたくしの誕生日に暗号資産デリバティブ業務からは撤退をしたので、正真正銘、法定通貨関連店頭デリバティブ(早い話がFX)専業となっております。

その割には、法定通貨と関係のない、ビットコインやリップルなどお騒がせ気味の暗号資産貴金属や原油などのコモディティ、株式、はたまた政治・経済・歴史と、役に立たないブログ感がいよよ満載となっております。

以上は、ビットコイン50,000ドル突破の話の前置きというわけでもありません。


今週注目したニュースをふたつご紹介したいと思います。

ひとつは、

アリババ創業者ジャック・マ氏の裏には、上海市場への上場時に必要な「目論見書」のうえでは不鮮明な影の大株主が実は存在。それら影響力のあるステークホルダーのなかには、習近平国家主席の(元)ライバルもいる

もうひとつは、

フェースブックとアップルの鍔(つば)迫り合い

いずれもウォールストリートジャーナルの記事で、前者はスクープっぽいですが、後者はそうでもありません。

ご紹介したいと思ったのは、共通点として、テクノロジー関連のニュースなのですが、いずれも、米中のテクノロジー覇権争いという、聞き慣れた「枠組み」で、取材・記述されたものではないこと。慣れ親しんだ工業社会を情報処理技術の発展が変容させてきた過去・現在・未来を展望するうえで、有効な視座を与えてくれること。この二つが理由です。

まったく話が飛んでしまうようですが、、、わたくしはテレビドラマというのを余り見ないほうです。決して、忌み嫌っているわけでもないですが、ノンフィクション志向ゆえかも知れません。それでも、前回日本とミャンマーは紙一重でご紹介した松ちゃんこと松村邦洋さんのように、ただ観るだけでなく、背景を別途独学し、出演者の芸能歴まで徹底して学習するという態度があれば、見えてくるものも異なってきます。

しかし、注意すべきは、、、

ノンフィクション(だとわたくしたちが考えたい現実)とドラマ(が描きたい理想なる虚構)の違いは、ドラマには善人と悪人が登場することです。ノンフィクションには悪人しか登場しません(主役級に限っての話です)。

「勧善懲悪に仕立てなければ視聴率は稼げない」とまでは言い切らないものの、正義と非道を対立させないことには、平均的なリテラシーのオーディエンスにはなかなかあらすじを理解してもらえないという現実はあるのだと思います。

ただ、質(たち)がわるいことに、このような高視聴率ドラマで飼い馴らされた思考回路は、現実の歴史や政治の登場人物を、正義の側か否かという二項対立に直結してしまうことです。

トランプ、バイデン、習近平、プーチン、菅義偉、森喜朗、小池百合子(敬称略)、、、どうでしょうか???

これはポピュリズムやプロパガンダの原点であって、古今東西、ありとあらゆる政治権力とマスメディア(4th Estate)が(しばしば結託して)利用してきた枠組みです。古代ギリシャの僭主政治や議会制民主主義から独裁を勝ち得たナチスドイツなど枚挙に暇はありません。

しかし、

時期的に言うと、

①米国でトランプ政権が出現した前夜、

②アフリカ・中東からヨーロッパにかけてはアラブの春とその不時着地シリアからの難民問題激化(イスラミック・ステート問題)、とくに、

③ヨーロッパ各国での極右勢力の台頭、

④中国のほんとうの大躍進(一帯一路によるヨーロッパ・アフリカへの取り込み、米中対立激化)

このころから、「米国と中国とはたしてどっちが(より一層)悪玉か?」「さて、ロシアは?」「イランや北朝鮮は論外なのか?」みたいな、雑過ぎる議論が罷り通るようになってきたのではないでしょうか???

習近平は現代中国の源頼朝か?金正恩も?

温故知新のために、こんな雑なカタチから入るのもアリかも知れませんが、そこでとどまってしまっては、見えるものも見えません。

ビットコイン50,000ドル突破にしたって、世界の一握りのお金持ちヤクザの陰謀だと片づけてしまったら楽ですが、たとえ一握りだったとしても、お金持ちヤクザ間で抗争がないはずはないのです。どんな相場にも、買い方と売り方の熾烈な綱引きがあって、その一瞬の結果として最新約定価格があるだけのことです。

アリババ(≒ジャック・マ?)の話にもどりましょう。わたくしもこの記事に目を通すまでは、アントフィナンシャルの株式公開延期(とそれに伴い?ジャック・マさんが表舞台から姿を消した問題)は、アントグループがもたらす金融・資金決済の技術革新が、国営銀行による旧態依然としたシステムや既得権を脅かすこと、技術革新(による新たな超過利潤減)は国家権力が主導し独占すべき公共財であるという(共産主義に限らない)「理念」から来ているものと思っていました。ゆえに、アントフィナンシャルVSデジタル人民元という構図です。

実際のところ、アントフィナンシャルがやろうとしていることは、決して中華思想に特有の「反米のプラットフォーマー志向」(この点、ファーウエイはどうでしょう???)なのだと思い込まないほうが良いのだと思います。このような技術が、例えば、イスラエルや、米国のシリコンバレーから出てきてもまったく不思議ではないこと。実際、日本の銀行決済やクレジットカード決済は、アントフィナンシャルのそれに比べて周回遅れであることを思い知らされます。

そこに来て、アントグループ株式公開延期が、習近平に蹴落とされ続けてきた中国共産党のなかのライバルのなかで最後までしつこく踏みとどまっていたアリババの影のスポンサーの振るい落としであると読み解く記事がでてきたわけです。

えっ?さっき、大河ドラマ脳になってはいけないと言っていたばかりではないか?習近平がやっていることは、いまはじまったばかりのその次の、NHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」みたいな話ではないのか?と突っ込まれそうです。そう突っ込まれても、まだあらすじもわかりませんので反論しようもないですが。。。

では、続いて、フェイスブックとアップルの対立について。こちらも、この記事によって、ざっとリーマンショック前夜あたりから、iPhoneが登場し、対してGoogleのandroidも登場し、そのころからアップルとGoogleは熾烈な競争をしていたが、途中で、両者は、中国に譬えると(わたくしの勝手な解釈です)国共合作みたいな構図になって、フェイスブックへと(とりわけアップルは)矛先を向けた。その論点は、

①個人情報の監視と取得、それを悪用~濫用しての、

②広告出稿や世論を操作するだけでなく、

③国政選挙にも関与するようになる(ケンブリッジ・アナリティカ事件)

この点、②③はフェイスブックグループ独自の極端な問題も考えられますが、注目したのは①についてです。これは、今世紀最大級の内部告発者エドワード・スノーデンによれば、米国の大手IT企業、インターネットメディア企業は、巧みなマネーロンダリング操作(※)を経由して得た、NSA(CIAと一体ではないが)からの巨額報酬の対価として、個人情報を共有させている(情報機関に売り渡している)。GAFAはその最たるもの、ということなのです。

この記事自体は、どちらかというと、アップル寄り(他のWSJの記事で、アップルとGoogleの癒着を追求したものもあり)である点は留意すべきですが、アップルの現在のCEOであるティム・クック氏は、この①の点について、アップルは潔白である。それに対してFacebookは滅茶苦茶である。よって、アップルとしては、iPhoneなどでのFacebookのアプリに制限を掛けることは正当である、と繰り返していることが書かれています。マイク・ザッカーバーグ氏の反論や怒りも書かれてはいます。


※マネーロンダリングが米CIAの自家薬籠中のモノであることは、先日のブログでご紹介した児玉誉士夫 巨魁の昭和史(有馬哲夫著)につまびらかに描かれています。


で、結論はいったい何なの?という話ですが。。

結論がないのが結論です。結論を急ごうという思考回路のなかに、右が正しい、左が間違いみたいな短絡を招く病理があります。アリババ対習近平の逸話と、フェイスブック対アップルの逸話は、この病理を癒す冷湿布かと思い、紹介しました。予想どおり、前者にはソフトバンクの孫正義さん、後者にはエドワード・スノーデン氏が、登場しています。

(本日は、敬称が略されたりされなかったり、社名がカタカナだったりアルファベットだったり、一貫性がありません。ご容赦ください。)