2008年12月5日金曜日

世界金融危機でも忘れてはならない四川大地震

昨日付のウォール・ストリート・ジャーナルが、四川大地震による学校倒壊で子供を失った親達の今を精力取材。その成果を報道していました。

一人っ子政策の中国では、一子を授かった後は男親がパイプカット(注)することが頻繁(注)なのだそうです。四川では“震災による一人っ子政策の例外措置”と国からの義捐金を活用して、パイプカットを原状回復する手術を受けようという男親たちが病院に殺到しているとのこと。

(注)ひんぱん。はんざつではない。
(注)パイプカットはどうやら和製英語で、英語ではvasectomy。「パイプカットを元に戻す」はreverse vasectomy。以上、役に立たない英語講座でした。

何故そこまでして四川の人たちは子供を欲しがるのか?自発的に少子化社会を選択している我が国の常識では思いつかないその理由とは、中国の中でも特に貧しい四川省の農家で良く見かける「頬の赤い子供と財宝」の絵と、「凶作に備えて穀物を蓄えておくのと同じように、老後に備えて子供を産むべし」という諺にあります。この教訓、中国共産党が路上のあちこちに広告を出しているプロパガンダ「晩婚と高齢出産は国家と人民を利する」「少子化は(国や家族の)繁栄を早める」と真っ向対立するもの。年金制度が無いに等しい中国では、老後の財政的な支援は子供に頼るものだという考え方が伝統的に継承されてきたのだと言います。

WSJ紙は、特例を認められたものの、高齢過ぎて時既に遅しという夫婦の嘆き(知人達は「子供が居ないとなると自分達を(借金などを)頼ろうとすると身構え、付き合いがめっきり遠のいた、など)や、以前当ブログでも取り上げた倒壊建築の問題を匿名で訴える親御さんたちのインタビューなども取り上げています。

90,000人近くの犠牲者を出した四川省を中心とする悲劇に対して、中国政府が何も対策を講じていないわけではないが不十分だということ、悲惨な天災が沿岸部の繁栄とは裏腹に、貧困から抜け出せない典型的な地域を襲ったものだったということがWSJ紙の報道の主眼であることは間違いありません。この点、私も一貫して同感であり、国境を越えて助け合う気持ちを持たなければ、そして出来る範囲で実行に移さなければという気持ちでいます(四川大地震等被災者支援チャリティ・オペラ・コンサート【12/28(日)】には大勢のお申し込みを頂いております!本当に本当に感謝です_m(++)m_)。

今回、WSJ紙の切り口で考えさせられたことがありました。「曲がりなりにも」国民皆年金の我が国と、上記の通りの中国を比較することで見えてくるもの。どこの国に生を授かったとしても、人間である限り生産年齢以降は貯蓄を食い潰すか子供(現役世代)に頼るかのどちらかしかない筈。なのに、年金制度が無い中国では子供が居ないと老後が不安。年金制度がある日本では、子供が居ないほうが今もこれからも豊かさを継続できそうな予感。雇用不安に喘ぎながら家族を支える義務感に燃えるお父さん世代には所謂DINKs等は羨ましく映るものですが、これは中国とまるで逆。世代間の所得移転や特にデフレ期における理不尽な世代間格差は、年金制度が無いと家族レベルで生じるところが、年金制度が下手に充実しているとマクロで生じてしまうという、頗る当たり前のことながら、意外なほどタブーで深刻な事実。

子供を産み育てるのは愛玩のため(だけ)でなく投資だという考え方は一理あり、苦労して育てた子供が将来仕送りなどして報いるのは自然。日本の年金制度は、その自然な投資⇒回収という動機を撹乱させ、皆がそうではないにせよ、子供を作らないほうが負担なくして支給に預かれるという動機を起こさせます。ただし、私の持論では少子化は日本の宿命。先進資本主義国のなかでは異例の食糧自給率の低さと外需頼みの日本経済。太平洋に浮かぶ木の葉のような存在から脱却独立し、豊かさを辛うじて維持するためには、一人当たりの耕地面積または耕作可能面積を世界標準まで高めること以外に方法はないと考えています。皮肉なことに、現在の日本の年金制度は、政策意図とは別でしょうが、少子化という日本の宿命を誘(いざな)っているのです。高齢化は副産物ですが。これを年金制度導入という高級な手段でなく、強引な手段でやっているのが中国ということになります。

しかし、問題があります。年金記録云々の話ではありません。これまであらゆる経済事象に対してモラルハザードなど理不尽は許さないという立場で切り込んできた当ブログの立場としては、家族に子供が(沢山)いるかどうか?高齢者の扶養家族がいるかどうか?その扶養家族が独立して生活が出来るか要介護か?生産年齢の世代の人間は、これらすべての条件のうち多くは自助努力で選べずに、理不尽や格差を強いられている(結果は中国モデルと日本モデルとで逆)。こうした不可抗力こそ、政策により大胆に切り込んでいかなければならない(私個人の結論を急ぐと、年金制度を廃止し、生活保護を含む所得分配制度への一元化が答えなのですが、我が国では地球が壊滅するまでこんな天邪鬼な政策は通らないでしょうね)

ところで、我が国には「貧乏人の子沢山」という諺があります。この諺には子沢山だと貧乏から立ち上がれないという上記の中国共産党のプロパガンダと同意見という説と、全然関係なく、貧乏人は暇を持て余しているので●●●という説が拮抗しているようです。後者は「貧乏暇なし」と矛盾しますが・・・「貧乏人の子沢山」はマルサスの人口論に由来し、マルクスに批判されつつも、このように中国共産党の政策として採用されたり、また我が国でも戦前「蟹工船」の小林多喜二が活躍していたころの生物学者であり共産党系代議士の山本宣治も避妊具の普及に熱意を燃やしていたことが知られています。私は、地球環境の問題もさることながら、発展途上国の殆どが食糧自給率が低く経常収支も赤字体質に陥りやすいことを勘案すると、マルサスの人口論はもっと注目されて良いのではないかと思います。繰り返しになりますが、日本も食糧自給率という点では多くの発展途上国の仲間なのです。
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原油下落と金利下落

●原油価格、1バレル25米ドルまで下落!?メリルリンチが警告(12/4FT)
米国、欧州、日本の景気後退が、これまで商品市況高騰の牽引役だった中国の成長鈍化を招くならば、との説明。「100ドルを越えたら、次は200ドルだ」と騒ぎ立てた投資銀行業界が、半年も経たずに今度は「50ドルを割ったら、25ドルだ」と、懲りずに『順張り』予想で世間を騒がせる。この“ビジネスモデル”、もう終わったのではなかったのか?

経済学では、需要の増加や減少によって(物理的な理由等により簡単には)供給が増減しないモノの価格を『地代』と言います。名前の由来である土地がその典型例(だった)。括弧付過去形の意味は、もし現在でも都心の一等地に建蔽率や容積率に厳しい制限がある一角があるとすれば、そこはきっと景気動向で不動産価格が周辺の規制緩和された区画よりも遙かに上下動するでしょう、という意味です。『地代』の例としては他に、お金のためではなく兎に角好きでやっていた野球だったのに気がつけばプロ野球選手として球界を代表する名プレーヤーになってしまったみたいな選手の年俸。各球団による争奪戦は、この選手にとっては想定外の動きであり、このような引き合いのことを『派生需要』と言います。『派生需要』と『地代』が発生するモノの供給曲線は価格軸と平行なのが特徴です。

で、原油はどうか?代替エネルギーがないわけではない。供給側(OPECなど)の生産調整も出来る。未開拓の油田もある。等々を勘案すると、少なくとも今の世の中では原油価格は『地代』とは言い切れないのです。

メリルやGSのエコノミストは余程のアホか、賢いのだけどもいやいや相場操縦につき合わされているかどちらかでしょう。

●英100bp利下げ、1951年以来の低金利(12/4FT、WSJ)
1694年にイングランド銀行が創設されてからの最低水準。来年1月には更に75bp利下げして、1.25%とまで予想する向きも。

ところで"bp"はベーシスポイントの略で、0.01(パーセント)ポイントと同じ意味です。“0.01%”と言うと、(下落)幅のことなのか(下落)率のことなのかハッキリしないので、この記事のように幅であることをハッキリさせたいときに(ベーシス)ポイントという表現を使います。ブリティッシュ・ペトロリアム(英国石油)の略ではありません。

●ユーロも75bp利下げ、2.5%へ(12/4FT、WSJ)
欧州中央銀行の10年の歴史で、最大幅の利下げ。

●米ビッグスリー首脳、再び議会で金融支援を懇願(12/4Washington Post)
3社の金融支援要請額を合計すると340億㌦~380億㌦。2週間前に言われていた数字(250億㌦)から増額されているのは、たった2週間の間の赤字運転資金だったのか。

3社破綻だと250万人の労働者が失業の危機に晒されることを考慮すると、その際の対策資金に比べて、380億㌦でも安いという経済評論家の意見をワシントンポストは紹介しています。が、その評論家も、今後2年間で必要な借り換え資金は各社首脳が申し出ている数字より遙かに大きい750億㌦~1250億㌦だとのこと。
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2008年12月4日木曜日

住宅ローンの休日

●米財務省、住宅ローン金利引き下げ案を検討(12/3WSJ)
問題のファニーメイ・フレディマック経由の30年物金利を1%引き下げ4.5%に。住宅価格下落に歯止めを掛けたポールソン財務長官の形振り構わぬカンフル剤。だが、ファニーメイとフレディマックの両GSEを不良債権の塊になるまで蹂躙し続けた根本原因こそ、需給を反映しない低金利での政策融資を長年押し付けてきたことだとは、両社が破綻か国有化か揉めた頃に当ブログで取り上げたグリーンスパン前FRB議長の批判の通り。

一方、大西洋の反対側では、
●英ブラウン首相、住宅ローンの利払いを最長2年間猶予するスキームを議会に提唱(12/3FT)
10億ポンドの予算を注ぎ込む案の詳細はまだこれから。昨今一躍「有名」になった大恐慌時代のF・ルーズベルト大統領の「米国バンク・ホリデー」に擬え、FT紙は臨時ニュースで「モーゲージ・ホリデー」と報じた。

●フォード社長、GMとクライスラーは生き残りが難しいと発言(12/3WSJ)
「自分さえ良ければ」というライバルを蹴落とす態度は道徳的には反感を買うのでは。世界的な規模の追求という路線を潔く見直したことで、GMのような致命傷を回避したということか。

●ロイター=ジェフリーCRB指数、2002年11月以来の最低水準にまで下落(12/3FT)
商品市況の世界的なベンチマークは、今年7月の記録的な高値から52%も下落。

●英ポンド、対ユーロと米ドルで下落(12/3FT)
ポンド/ユーロは記録的な安値を更新。
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2008年12月3日水曜日

ムンバイとバンコク―テロリストを掻き立てるものは何か?

今週は諸事情ありブログの更新が不規則になっており、誠に申し訳ございません。
更新したい話題が余りに多くあり過ぎて(ムンバイの「同時テロ」、タイの「クーデター」、自動車問題)、何から書けば良いのか悩んでいるうちに、上場来の損失で話題のゴールドマン・サックスがネット銀行業務に進出とか、勉強に値する新しい動きも報じられつつあります(WSJ)。

西側のメディアを追っかけるだけでも、なかなか十分な時間がないのですが、インドやタイの話について、多くの報道は紙媒体であれ映像媒体であれオンラインであれ殆どは生々しい事実の羅列の域を出ず、ことの本質に迫ったものはまだ見当たりません。とくにインド・ムンバイのテロについては、明確な犯行声明が出されていない点で同時テロとしては極めて珍しい事態である一方、インド政府はパキスタンを名指しするわ、パキスタンの駐米大使は具体的な証拠に基づきインドと協力して事態を解明したいと嘯くわ、まだまだ謎だらけだと言わざるを得ません。

こういうときこそ、東側メディアに隠れたヒントが無いかと思い、日頃滅多にチェックはしない英文プラウダ(ロシア共産党機関紙)を見ると、事件当日付の事実を淡々と書き連ねた記事があるだけでガッカリ。しかも、掲載されている写真が、ムンバイのテロとは関係がない、ベトナム戦争で米軍のナパーム弾攻撃に逃げ惑うベトナムの子供たちの写真というありさま。

特権階級の既得権益を排除する一方、貧農に対しても手厚い保護を行なったタクシン前首相失脚後、残党を一掃しようという今回のタイのクーデターは、フランス革命に譬えれば、王政復古段階にあるのかも知れません。この反動を見た目は一旦完結させたのが憲法裁判所という聞きなれない司法機関。我が国にも戦前は軍法会議など(大審院に上告できない)特別裁判所がありました。戦後民主化の中で、日本国憲法では特別裁判所の設置は認められず(判事に対する国会での弾劾裁判のみが例外)、よって憲法裁判所もありません。これは米国にならったもので、同じ西側諸国でもドイツやフランスには存在します。自衛隊に対する違憲判断などに象徴されるように、最高裁判所は具体的な事件(例えば苫米地事件とか)がないと憲法判断はしないということなので、憲法裁判所がないことが立憲政治に資するのか否かは意見が分かれます。ちなみに自民党や民主党は憲法裁判所があったほうが良いという立場、共産党は逆のようです。

いつになるのか良く判らない(解散?)総選挙ですが、その際には最高裁判所判事に対する国民投票も同時に行なわれています。これでバッテンを喰らった判事は戦後ひとりも居ないのではないでしょうか。田母神論文で一躍話題となった文民統制civilian controlですが、最近では永田町が霞ヶ関をコントロール出来ないという文脈でも使われているようです。それなら、最高裁判事の人事権に関わる内閣総理大臣と国民の関係も制度としては死蔵されてきただけとは言えないでしょうか。

この点、タイの憲法裁判所は特別裁判所であるだけに皮肉にも司法権が独立しており、多数決上は少数派に過ぎない公務員等の既得権益集団によるクーデター派の意見を聞き入れたというところが、なかなか考え辛いところです。

ところで、私が今最も解明したいことは、タイやインドの事件の発生時期や事態の酷さ。これらが米国発金融危機や米国の政権交代とシンクロしていることに大きな意味があるのか偶然なのかということです。前者のような気もしますが、それこそパキスタン大使ではないですが具体的な証拠もなく憶測だけで論ずるほど馬鹿げたことはありません。
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