2008年12月19日金曜日

米ドルはどこまで腐敗するのか?為替介入はありやなしや??

●原油価格が急落、米国政府は自動車産業の破綻処理を熟考(12/18IHT+Reuter)
原油価格は9%下落し、過去4年の最安値を更新(1バレル36㌦)。OPEC減産合意と米国ゼロ金利政策導入にもかかわらず、世界経済の落ち込みが長く、そして深いとの懸念で。

米国自動車産業は、原油価格の乱高下の一番の犠牲者とも言えるが、政府による救済のプロセスの一部として破綻処理が持ち上がってきた。ブッシュ現大統領の「無秩序な破綻では衝撃が大きすぎる」との発言が、管理された破綻処理を現政権が真剣に検討し始めたとの憶測を呼んでいると。

一方、
●オバマ政権の新経済閣僚候補、最大で8000億㌦の財政出動を議会に提出(12/18WSJ)
減税、社会保障、学校建設、エネルギー効率化投資、ブロードバンド接続、健康情報分野の技術開発・・・と大枠が示されている。

米国の国内総生産は約12兆㌦と日本の約2.5倍。これに対する米国の公的債務は、今世紀に入ってからは対国内総生産比で40%弱を維持しており、同比率が160%~180%の日本と比べて遙かに健全。0.8兆㌦の追加財政出動など全く問題ない、と勘違いしてはなりません。

伝統的なマクロ経済学では、財政政策と金融政策の違いを強調し過ぎてきましたが、国債をどれだけ買うか売るかという調節手段に留まらず、民間企業の債務や株式、不動産(含む証券化商品、不良債権)まで中央銀行の貸借対照表に乗っかる可能性がある「代替的金融政策」の時代にあっては、財政と金融を区別することが殆ど無意味になってきています(我が国の「財政と金融の押し付け合い」やら「政府発行通貨が景気対策の起爆剤になる」という議論も、いつぞやのデノミ同様、意味の無いお祭騒ぎに過ぎません)。

つまり、米国の国家管理債務の金額を洗い出すうえで、FRB絡みのバランスシートの膨張もきっちり合算しなければ、米ドルという通貨の腐敗度合いを査定することは出来ないということです。

今年だけで、FRBはCP買い入れ枠1兆8000億㌦、入札方式による資金供給枠9000億㌦、住宅ローン消費者ローン対策枠8000億㌦をなし崩し的に意思決定しています。当ブログ独特の表現で金融機関モラルハザード案件では、FRBと政府とあわせて、AIG向け1500億㌦、シティグループ向け2500億㌦という超大口案件の影に隠れてベアスターンズ救済関連290億㌦も、今から思えば大した金額ではないものの3月当時は随分物議を醸したことを忘れてはならないでしょう。

以上は、未使用枠もあるので合算が難しい部分ですが、コミット済み(枠取り済み)の財政政策絡みではファニーメイ・フレディマック支援2000億㌦(住宅関連法案)、不良債権救済プログラム7000億㌦(金融安定化法案)が2大モラルハザード案件は当然のことながら合算されなければなりません。

今、筆者の手元にはないのですが、FDIC(連邦預金保険機構)をはじめとする公的機関や地方公共団体等の債務も考慮に入れる必要があります。この点、FDICはダントツに大口であり、今年、銀行債務と決済性預金の保証枠1兆9000億㌦が決定しています。

繰り返しになりますが、枠取りはされても未使用部分があちこちにあるため全部を合算させては可哀想ですが、以上がなし崩し的に使用されると、公的債務/国内総生産の比率は、どんどん我が国の水準に収斂すべく悪化すると見るべきです。

ただし、公的部門の「バランスシート」と呼ぶくらいで、負債があればその反対側には資産があるわけで、資産の質を問わずして負債の額だけで通貨の腐敗を決め付けることは論理的ではありません。《銀行の不良債権を時価以上で政府または中央銀行が買い上げてやり含み損または実現損部分を増税ではなく赤字国債でファイナンスし、その国債を中央銀行が買い切りオペで現金化する》タイプのポリシーミックスが財政出動策に占める割合が大きければ大きいほど、その国の通貨はハイパーインフレ等の経路を通じて坂道を転げるように腐敗すると言わざるを得ません。

昨日夕刻以降、中川財政相の為替介入を仄めかす発言等で、一時急激な円高是正がありました。但し、為替介入が日銀単独に留まり、協調介入が成立しないとなると、「(欧州や中国を見習って)米ドルの“腐敗化政策”を意図的に取ろう(政権交代のドサクサに紛れて、敢えて明言は避けつつ、ドル高政策を180度転換しよう)」という自国通貨の切り下げ合戦Dirty Floatへの宣戦布告だと読み取らなければならないでしょう。

今朝の二つの記事は、米国の政権交代が保護主義に向けて思い切った舵取りが切られるかも知れないという文脈で読み解く必要があります。
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2008年12月18日木曜日

剥がれ落ちたアメリカン・プレミアム

●対日本円以外での“秋の米ドル高”は長続きしなかった(12/17IHT)
クロス円のFXだけに慣れていらっしゃる方にとっては何のことやらさっぱりかも知れません。リーマンショック以降、国内の殆どのメディア(含む経済専門メディア)は為替相場を円高ドル安と説明し続けていたからです。

しかし、良く見ると、昨夜ドルは対円で87円台前半と1995年以降では最安水準を更新している一方、FXに関心を持っていただいている多くの皆さんの目に焼きついているユーロ円の110円台やオーストラリアドルの50円台、ニュージーランドドルの40円台という「円高に加えて“ドル高”」は大きく是正されているのです。

勿論、一昨日のFOMCでの想定外の利下げ、米国初のゼロ金利政策も、対円以外でのドル高終焉に寄与していることは事実ですが、このFOMCの動きの前後から極端すぎた信用収縮による銀行間金利の政策金利からの乖離幅が多少なりとも落ち着いてきたことが、ドル調達時の過剰なキャリー費用バブルを沈静化させ、皮肉なことに、ドルの全面安を招いたというのが本質であると考えられます。

先ほど、インターナショナル・ヘラルド・トリビューンの記事で引用をした1995年という年は、逆に日本円が全面高だった局面で、日本発金融不安によるジャパンプレミアム(注)が発生した年でもある点、極めて判りやすい比較対象となっています。

当ブログの予想を信じて、米ドルを売り、オセアニア通貨等を買っていたFXのお客さま。金利も、為替差益も手に入れられ、おめでとうございます。一進一退を繰り返しながら、この傾向は暫く続くのではないでしょうか。

●クライスラー、全工場を1ヶ月操業停止に(12/17WSJ)
●モルガンスタンレー、23.6億㌦の四半期赤字-ゴールドマンサックスに続き(12/17WSJほか)


(注)当時は日本銀行の政策金利は未だ公定歩合だったので、現在の米国政策金利(FF金利)⇔銀行間金利(米ドルLIBOR等)と直接は比較できませんが、政府短期証券の利回りや欧州等オフショア市場での円短期金利(BBALibor等)と比べて東京銀行間金利(TIBOR)が異常に高かった現象

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2008年12月17日水曜日

ニュー・ニューディール政策にグッドラック

●米国FOMC、政策金利を0%~0.25%へ引き下げ(12/16各紙)
前回10/30のFOMCで1%にまで引き下げられていたFFレート。事前のアナリスト予想では0.5%程度の引き下げが見込まれていたので、予想外の決定。為替は一気に88円台へ。一方、株価はニューヨーク時間前半、ゴールドマンサックスの株式公開以来初の赤字や消費者物価指数の予想以上の下落(統計を取り始めて以来最悪の数値)等でマイナス圏だったのが一転してプラスへ。

FXをやっていらっしゃる方々は既にご存知の通り、米ドルに投資をしてももはや金利は付きません(但し長期国債は別。それは日本国債でも同じこと)。

インターナショナル・ヘラルド・トリビューンは、ゼロ金利政策が、日本もかつて6年間続けて自国のデフレと対決したことを引き合いに出しています。

●オバマ次期大統領は、日本の失われた10年の教訓を理解しているのか(12/16WSJ)
公共工事中心に1兆㌦の景気刺激策をぶち上げたオバマ氏。不況期のケインズ的政策は何度も繰り返されてきたが、首相交代の度に行なわれた財政出動が結局、GDP比180%(注)という醜い数値の国債残高を残しただけだった。ようやく小泉改革のもと、国家資産の民営化、銀行の不良債権処理の強制を通じて、経済は回復したのだが、再び最近の政府の行動は改革から逆戻りしていると。

WSJの中では、ナスダック元会長のネズミ講詐欺(コックスSEC会長も、粉飾やら虚偽報告だらけで調査が進んでいないと発言)に関する続報記事と同様、もっとも読まれている記事のようですが、記者名が伏せられています(コメントをすることは出来る)。ゴーストライターは竹中平蔵氏かと思わせるような記事は、「米国経済は『ニュー“ニューディール”政策』で蘇ると言われているけれども・・・Good Luckを日本語では何と訳すのか?」という皮肉たっぷりの思わせぶり表現で締め括られています。

(注)OECD調べ。最悪期2005年時点の数値。同年、米国は40%以下。但し、想定される反論として、国家資産の評価が全くなされていない点は留保しないと、この数値だけで円高円安は語れないですぞ・・・
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2008年12月16日火曜日

靴の屈辱とブッシュ大統領の運動神経

●イラク電撃訪問のブッシュ大統領を襲った「靴の屈辱」事件から一夜明け、逮捕されたイラク人ジャーナリストはアラブ地域で英雄に(12/15International Herald Tribune)

事件はイラクに限らずアラブ全域の新聞のヘッドラインを飾り、同地域の反米感情はかつてない高まりを見せている。

靴を投げつけるというのはイスラム教においては最大限の侮辱を意味するらしい。それにしても、記者会見会場の後方からの投擲にもかかわらず、靴はブッシュの顔に的中するところだった。見事な制球力(制“靴”力?)は練習の成果なのか(計画的犯行は間違いない・・・)。一方ブッシュの身のかわし方も、皮肉抜きで、見事。

たまたま現在、文化大革命期の中国を取り扱った渾身のドキュメンタリーをNHKが深夜枠で再放送しています。紅衛兵として罪無き同胞、時には家族までも吊るし上げ殴り倒し無念の死まで至らしめた側と、吊るし上げられた側。水に流したくても流せない経験を引きずる両側の人たちが現在ようやく当時のことを語り始め、身の毛のよだつインタビューが数時間ぶっ通し。

中華人民共和国建国後間も無く、毛沢東は「大躍進」と呼ばれる政策をぶち上げ、鉄鋼生産重視+農業生産軽視の極端な計画経済下の富国強兵策を敢行するものの、農民や労働者の士気は下がり、農村には飢餓が蔓延、官僚腐敗も無視できない状況に陥り、共産党自身も政策の失敗を認めざるを得なくなりました。事態を救ったのは劉少奇+鄧小平コンビで、建国当初は認められていた自由市場等を復活させ、食糧生産は回復、労働者の士気も復活します。面白くない毛沢東は劉少奇と鄧小平を失脚させるべく、とんでもない権力闘争に出ます。曰く、両者の路線は資本主義へと走る反共産主義であり、働く貧しいものを裏切る行為だと。「造反有理」という掛け声に、党高級幹部の子女が覿面に反応し、学生を中心に中国全土で紅衛兵が組織され、自営業者だろうが一般農民だろうが多少なりとも自ら土地や資本設備を所有している人達、また不要不急の文化に携わっている人達が不当に且つ反論の余地無く吊るし上げられていくことになりました。

私は従前どおり、歴史に勧善懲悪を持ち込みたくないので、この後非業の死を遂げた劉少奇が実際は正しく毛沢東は“二度も”間違えたと決めつけることがここでの意図ではありません。たとえ劉少奇が、毛沢東の機嫌を損ねる覚悟で、瀕死の中国を救ったにもかかわらず、毛沢東が「造反有理」の一言で、大多数の若者をドミノ倒し的に熱狂へと陥れ、党内ライバルの失脚と自らの復権どころか権力固めを実現したという事実。政治と大衆心理の共鳴現象が如何に愚かな結果をもたらすか、現代人は多くの教訓を学んでいる筈なのに、一向に懲りないということが私の言いたいことです。

このような切り口で文化大革命を読むと、毛沢東の性格や手法、若しくは才能は、ナチスドイツのヒトラーと非常に似ているとも言えます。このような人物が時々政治の舞台に現れると、マスコミは99%煽動を加速する役割に回り、大衆心理との共鳴現象の触媒にこそなれ、歯止めには決してなりえない。これはマスメディアに属する記者ひとりひとりがどんなに優秀で人格者であっても、企業利益というインセンティブの前では抗することの出来ない潮流になってしまうのです。

ブッシュの顔に中りそうだった靴も、心の底から笑える話ではありますが、このような一瞬の出来事、一本のヘッドライン・ニュースから、政治も大衆心理も大きくうねり出すことがあるのだという繰り返される事実を自戒せねばなりません。

元ナスダック会長のネズミ講詐欺事件、信託管理人が選定される(12/15WSJ)
信託管理人Trusteeは、ちなみに信託保全を謳っているFX業者が破綻した際にも登場し、残余財産の分配の役割をします。このような詐欺ファンドでも同じこと。ただし舞台が証券会社なので、米国版の投資家保護基金が投資家一人当たり最大50万㌦まで補填する可能性があるとのこと。

元ナスダック会長のネズミ講詐欺事件、富は一体どこに消えたのか(12/15New York Times)
逮捕以降調査が進んでいるが、未だ実態究明に至らず。
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