●原油価格が急落、米国政府は自動車産業の破綻処理を熟考(12/18IHT+Reuter)
原油価格は9%下落し、過去4年の最安値を更新(1バレル36㌦)。OPEC減産合意と米国ゼロ金利政策導入にもかかわらず、世界経済の落ち込みが長く、そして深いとの懸念で。
米国自動車産業は、原油価格の乱高下の一番の犠牲者とも言えるが、政府による救済のプロセスの一部として破綻処理が持ち上がってきた。ブッシュ現大統領の「無秩序な破綻では衝撃が大きすぎる」との発言が、管理された破綻処理を現政権が真剣に検討し始めたとの憶測を呼んでいると。
一方、
●オバマ政権の新経済閣僚候補、最大で8000億㌦の財政出動を議会に提出(12/18WSJ)
減税、社会保障、学校建設、エネルギー効率化投資、ブロードバンド接続、健康情報分野の技術開発・・・と大枠が示されている。
米国の国内総生産は約12兆㌦と日本の約2.5倍。これに対する米国の公的債務は、今世紀に入ってからは対国内総生産比で40%弱を維持しており、同比率が160%~180%の日本と比べて遙かに健全。0.8兆㌦の追加財政出動など全く問題ない、と勘違いしてはなりません。
伝統的なマクロ経済学では、財政政策と金融政策の違いを強調し過ぎてきましたが、国債をどれだけ買うか売るかという調節手段に留まらず、民間企業の債務や株式、不動産(含む証券化商品、不良債権)まで中央銀行の貸借対照表に乗っかる可能性がある「代替的金融政策」の時代にあっては、財政と金融を区別することが殆ど無意味になってきています(我が国の「財政と金融の押し付け合い」やら「政府発行通貨が景気対策の起爆剤になる」という議論も、いつぞやのデノミ同様、意味の無いお祭騒ぎに過ぎません)。
つまり、米国の国家管理債務の金額を洗い出すうえで、FRB絡みのバランスシートの膨張もきっちり合算しなければ、米ドルという通貨の腐敗度合いを査定することは出来ないということです。
今年だけで、FRBはCP買い入れ枠1兆8000億㌦、入札方式による資金供給枠9000億㌦、住宅ローン消費者ローン対策枠8000億㌦をなし崩し的に意思決定しています。当ブログ独特の表現で金融機関モラルハザード案件では、FRBと政府とあわせて、AIG向け1500億㌦、シティグループ向け2500億㌦という超大口案件の影に隠れてベアスターンズ救済関連290億㌦も、今から思えば大した金額ではないものの3月当時は随分物議を醸したことを忘れてはならないでしょう。
以上は、未使用枠もあるので合算が難しい部分ですが、コミット済み(枠取り済み)の財政政策絡みではファニーメイ・フレディマック支援2000億㌦(住宅関連法案)、不良債権救済プログラム7000億㌦(金融安定化法案)が2大モラルハザード案件は当然のことながら合算されなければなりません。
今、筆者の手元にはないのですが、FDIC(連邦預金保険機構)をはじめとする公的機関や地方公共団体等の債務も考慮に入れる必要があります。この点、FDICはダントツに大口であり、今年、銀行債務と決済性預金の保証枠1兆9000億㌦が決定しています。
繰り返しになりますが、枠取りはされても未使用部分があちこちにあるため全部を合算させては可哀想ですが、以上がなし崩し的に使用されると、公的債務/国内総生産の比率は、どんどん我が国の水準に収斂すべく悪化すると見るべきです。
ただし、公的部門の「バランスシート」と呼ぶくらいで、負債があればその反対側には資産があるわけで、資産の質を問わずして負債の額だけで通貨の腐敗を決め付けることは論理的ではありません。《銀行の不良債権を時価以上で政府または中央銀行が買い上げてやり含み損または実現損部分を増税ではなく赤字国債でファイナンスし、その国債を中央銀行が買い切りオペで現金化する》タイプのポリシーミックスが財政出動策に占める割合が大きければ大きいほど、その国の通貨はハイパーインフレ等の経路を通じて坂道を転げるように腐敗すると言わざるを得ません。
昨日夕刻以降、中川財政相の為替介入を仄めかす発言等で、一時急激な円高是正がありました。但し、為替介入が日銀単独に留まり、協調介入が成立しないとなると、「(欧州や中国を見習って)米ドルの“腐敗化政策”を意図的に取ろう(政権交代のドサクサに紛れて、敢えて明言は避けつつ、ドル高政策を180度転換しよう)」という自国通貨の切り下げ合戦Dirty Floatへの宣戦布告だと読み取らなければならないでしょう。
今朝の二つの記事は、米国の政権交代が保護主義に向けて思い切った舵取りが切られるかも知れないという文脈で読み解く必要があります。
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