2009年2月9日月曜日

無利子国債とタンス預金

経済学を学ぶには数学が必要、と断言すると、一部のコテコテのマルクス経済学者に叩かれますが、高度な数学を使えるお利口さんにとっては経済学は朝飯前という、「逆」は、必ずしも成り立ちません。

政府紙幣や無利子国債の是非についての議論。高等数学が正論を導くとは言えません。万人を納得させる論理を積み重ねても、意見が分かれるのが経済学の面白いところでもあり難しいところ。尤も、数学にも不確定性原理(ゲーデル)というのがあります。経済学の場合は、日常の具体的なテーマですら十分に不確定なのです。

政府紙幣については先週十分叩きました。これは与謝野経財相も同意見。その与謝野氏もバッサリとは斬らない無利子国債。

まず一言、「七転び八起き」の意外な考えを申し上げれば、本来は同様にばら撒き政策に他ならない政府紙幣という政策に比べて、経済上の効果や国民の反応が判りにくいという特徴があり、目眩まし政策としてやってみる価値だけはあるのではないか。。。

30兆円にも上ると日銀が推計するタンス預金。信用創造サイクルから脱線したベースマネーを何とかしなければ経済が浮揚しないというのが政策意図。先月の日経CNBC生出演とオンラインセミナーで使った米国のベースマネーとマネーサプライのグラフ(出所:FRB)をご覧頂くと、リーマンショック後の米国は同様の病気に侵されていることが見てとれます。中央銀行が国債に限らず形振り構わず民間資産を買い上げ“お札”を市中に供給しても、家計は銀行を信用しない、加えて銀行は融資先を信用しないゆえに、マネーサプライが意外と伸びないという現象。難しい用語を使いますと、信用創造の乗数や通貨の流通速度は、政策当局が調節できないほど落ち込んだままになっているのです。

マネーサプライさえ増やせば良いという政策が正しいかどうかは、「“為替力”で資産を守れ」に譲ります。

仮に政策目標が正しいとすれば、タンス預金に照準をあわせて無利子国債を発行しようが、引き続き中央銀行に金融緩和策をやらせようが、差はない。問題は、中央銀行が民間のどんな資産を買うか?無利子国債の発行代金という新たな財源で政府がどんな資産を買うか(どのような公共投資をするか)?つまりは、採算性を重視しない事業主に、予算の使い道をどこまで任せられるのかということがより深刻だと考えられます。

最後に、30兆円のタンス預金が、ペイオフ解禁のせいか、断トツに高い我が国の相続税率のせいなのか、わかりませんが、無利子国債の発行が万が一決まれば、現金の還流だけでなく、預金の解約も進んで、預け渋り対策+貸し渋り対策としては効果が中和されてしまう可能性も指摘しておかざるを得ません。ただし、やってみないとわからない。ゆえに、目眩まし効果だけは認める、と書いたのであります。

ところで、今、イギリスでは家庭用金庫が空前のヒット商品になっているそうです。無利子国債は家庭用金庫産業をクラウド・アウトする可能性はあります。それと、無利子とは言っても、政策当局が発行量を調節することによって、家庭用金庫の購入費用程度のプレミアム発行(無利子どころかマイナス金利になる)にすることも出来るし、相続税の軽減策をケチれば、ディスカウント発行(事実上有利子になる)にすることも出来ます。

貧乏家系の「七転び八起き」としては、無利子国債が実は「泥船」であって、無利子国債を買った人の多くは、過去に相続税や贈与税だけでなく諸々の脱税を犯してきた可能性が低くないと推定し、税務署に現金の出所を調べさせ、様々な不正蓄財を一網打尽に暴くきっかけになるとすれば、モラルハザードのない公正な競争社会と財政再建を同時に実現できると考えますが、二世議員を中心とした我が国の世襲政治にこれを期待するのは絶対に無理でしょう。
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2009年2月6日金曜日

政府紙幣は麻薬、伊吹文明氏

まさかヘリコプターでばら撒かれるのではないでしょうが、当ブログがこのようなばら撒き政策には一貫して反対してきました。

理由は3つ。

(1)貨幣錯覚が起こりうるという想定の誤り

2008年9月26日「貨幣錯覚は幻想に過ぎない」

(2)モラルハザード(やり逃げ)の防止こそ、健全な資本主義にとって唯一無二のルールであること

2008年10月17日「モラルハザードとファイヤーウォール」


2008年9月24日「良い銀行と悪い銀行」

(3)中央銀行が金融政策の範囲を広げている現状で、この手の議論のどこに意味があるのか、冷静に受け止められていないこと

2008年12月19日「米ドルはどこまで腐敗するのか?為替介入はありやなしや?」

2008年12月11日「中央銀行とは何ぞや?」

減反政策見直しの足を引っ張る古き悪しき自民党ですが、市場原理主義への徹底批判が渦巻く中、モラルハザード政策を麻薬と喝破する政治家も少なからずいらっしゃるのもまた自民党であります。

さて、市場原理主義もどきに対して、それ見たことかと鬼の首を取ったような書籍や、規制緩和推進派だった有名経済学者が懺悔した書籍が馬鹿売れしているようです。市場原理主義(もどき)への批判は今に始まったことではなく、市場の失敗(政府の失敗も同様に深刻ですが)という経済学用語には古い歴史があります。その代表格が、「公共財」すなわち営利企業に任せておいても供給されづらい道路や公園のようなものです。

インフラとか産業基盤と言い換えても、相応の文脈において、同義語です。

ご覧のとおり、私はブロガーとして、ばら撒き政策、モラルハザード政策を断定的に否定しつづけてきました。簡単に言えば、「政府はゼロサムゲームの邪魔をするな」ということ。しかし、もちろん、物事には二面性があります。

マクロ経済は本当にゼロサムゲームなのか?「買って損をした人がいれば、売って得をした人がいる筈だから、社会全体としてはチャラだ」という自分の考えに間違いはないのか?

反論があるとすれば、こういう理屈ではないでしょうか?

マルクスの歴史観も、マルクスを批判する立場の歴史観も、いったん忘れて、人類がどうやって物質的に豊かになってきたかを思い起こしてみますと、ひとつは技術の進歩(発明や発見など)であることは明らかで、もうひとつは、

自給自足⇒物々交換⇒お金(貨幣)の流通⇒お金の貸し借り(金融=信用創造)

という経済のインフラの整備だと考えています。100年に一度の云々とは、金融が壊滅的となり、場合によってはその一歩手前の貨幣(通貨)まで怪しくなるかも、というインフラの破壊であるから、政府が乗り出さなければならない、という指摘はありうるかも知れません。

ちなみに現段階は、多くの国では、通貨危機までは至っておらず、金融(信用)の収縮が、貨幣の価値を尋常でないほど高めているというのが現状です(Cash is king)。極端な荒療治は、紙切れの価値が無限大に高まることはありえず、どこかで反転するまで放置しろというもの。しかし、当ブログをしばしばパクッている元市場原理主義者の先生方も、そこまではおっしゃらず、埋蔵金をここぞとばかりに使いましょうというご意見やら、それこそ政府紙幣云々とのご意見が聞こえてきます。

荒療治では選挙に勝てないから、麻薬でも抗生物質でも兎に角形振り構わずばら撒けという政策は、貨幣流通インフラにまでは浸食していなかった危機の程度を寧ろ高めます。

昨夜の利下げ後、一瞬健康状態を取り戻したかに見えるかつての基軸通貨国家イギリスも、そしてユーロ圏では、スペインやアイルランドも、本日のテーマ「麻薬としての政府通貨」に手を出さざるを得ない状況にあると考えられます。ばら撒き政策の技術上の問題としては、国別に中央銀行があり、国債等の買い切りオペ(マネタイゼーション)という選択肢が終始残されている日中米とは好対照です。
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2009年2月5日木曜日

日本綜合地所、会社更生法を申立て

不動産、特に居住用不動産の壊滅的な状況については今日は語りません。

何と言っても、日本綜合地所が話題になったのは、新卒採用の内定切り。

派遣切りと並び、非人道的と非難を浴びた、内定切りも、

「今思えば、倒産の可能性が高まった時点で別の就業機会を一刻も早く探したほうが良いと警告を促したのは親切心だった」

という意見もあれば、

「大企業が学生に内定を出す時期が早くなり過ぎているのがそもそも問題だ」

という意見もあるでしょう。

内定を出すのも取り消すのも、新卒で大企業に入って、つつがなく暮らせば、定年まで面倒を見てもらえるという不文律(判例法)に多くの日本人が依存し、またその頸木から逃れられずいることの裏返しに過ぎません。

当ブログが繰り返し申し上げている、

「派遣切りが非人道的だとしても、派遣の範囲を狭めれば解決できるものではない」

すなわち、本来は大企業の正社員にも、根こそぎ、雇用調整や産業構造の変化に応じて離職や転職を強いるのが資本主義の健康な一面であるはずが、その機能を、非正規雇用に皺寄せしているという指摘がここにも当て嵌まります。
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2009年2月4日水曜日

エルピーダ、公的資金の申請を検討

日経のスクープは、一般企業の延命のための政府関与の第一号となるのか?

国内外で報じられている、

●“Buy American"政策に対し、EUや日本がWTO提訴を検討(2/4FT、日経など)

というお互いの保護主義を論う(あげつらう)動きと並べて見ていかなければなりません。

半導体メモリーの代表格D-RAMは、厳しい国際競争と、韓国の形振り構わぬ産官一体運営で、寡占市場に陥っており、いずれも韓国系の上位2社で50%弱のシェアを占める。エルピーダは、これらに次ぐ3位。1999年に日立とNECの半導体製造部門の統合で誕生した現在では国内唯一の専業メーカーは、韓国勢などとの競争で苦戦したが、現在の坂本社長のターンアラウンドでシェアを回復。2008年第一四半期のシェアは18.9%。

この間、かつては日本の電機メーカーが席巻していた半導体製造分野から有名企業が次々と撤退(三菱電機はエルピーダに統合)。エルピーダと技術提携している独キマンダは先月経営破綻。

公的資金による民間企業の破綻回避については、当ブログが毅然と主張するモラルハザード問題をどこまで犠牲にできるかという価値観に絡みます。与党政治家の皆さんの意見としては、せめて金融機関に限定すべきという考え方が少なくともかつては強かった。本件は、エルピーダと同盟関係にあったとは言え、独キマンダは野垂れ死に、日本のナショナルフラッグは守るという態度が、EUから見られて大丈夫か?

Buy Americanを唱え始めた米国にもマイクロン・テクノロジー(旧テキサス・インスツルメント)があり、黙って見てはくれないでしょう。ちなみに、我が国ではエルピーダの工場は東広島に、マイクロンの工場は兵庫・西脇にあります。「国内に競争相手がいないので、モラルハザード問題は軽微」とはいかないのが企業城下町の論理。資本が国内であれ国外であれ雇用を守ってくれれば良いのであって、不公平を許すのは簡単ではありません。
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