2009年5月13日水曜日

中国の輸出が急減、原油60㌦に接近

米国の貿易赤字が8ヶ月振りに悪化したのは3月のお話。中国の輸出が6ヶ月連続で落ち込んでいるのは4月のこと。更には季節調整の問題もあって単純に比較はできないので、米中の貿易不均衡の問題は引き続き慎重に分析して参ることと致します。

ここでは、FT紙に掲載されたモルガンスタンレーアジアの会長、米国経済への徹底した悲観論で知られるスティーヴン・ローチ氏の談話を取り上げます。

「中国政府は、今回の経済危機が1930年代のものとは全く異なる・・・つまり、世界経済は急速に回復し、同時に中国は世界の中でより大きな存在になる、と“計算”しているが、これは誤りだ。」

「グローバル需要が急回復するとの前提で、伝統的なばら撒き政策と古臭い経済成長戦略に寄りかかり過ぎている。」

「米国主導の外需落ち込みが延々と続くと予想されるポスト危機後の世の中に対する準備としては、中国のやり方は全くなっていない」

ローチ氏指摘の古びたばら撒き政策とは、公共事業と、輸出産業への特恵(低利融資や税還付など)。1997年のアジア危機や2000年のITバブル崩壊に際しては、中国はまさにこのやり方で乗り切ったのでした。

米国が再び馬鹿げた大量消費社会に完全復帰することはないというローチ氏の見方に賛成。ただし、中国に何を求めるか、FT紙には代替案が書かれていません。米国からの輸入が増えるようなタイプの内需拡大、つまり中国版“所得倍増計画”でしょうか。中国の財政の膨らませ方まで、米国がとやかく口を出せるというのは残念ながら不可能でしょう。

しかし、“投資銀行”に所属しているエコノミストとしてスティーヴン・ローチ氏ほど気骨のある人は稀。昨夜原油が再び60㌦に接近しました。昨年12月に原油25㌦を吹聴した投資銀行がありました。
http://phxs.blogspot.com/2008/12/blog-post_05.html
時まさにボーナス支給時期。いい加減な予想と同時に喰い逃げか。。。
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2009年5月12日火曜日

手数料下げ競争、FX業者に警告 金融庁(下)

ゴールデンウィーク中に当ブログでも取り上げました

手数料下げ競争、FX業者に警告 金融庁(上)

日経新聞の(再びリーク!?)記事【5/4(月)付「手数料下げ競争、FX業者に警告 金融庁 採算悪化など懸念」について、FX業界の草分け的存在である尾関高さんからも一言ありました。

「手数料下げ競争、FX業者に警告 金融庁 採算悪化など懸念」について

もう何年も前の話になりますが、日本証券業協会の某幹部(当時)から「地場証券を集めてFXの講義をしてもらおうと考えているんだ。講師として誰が良いと思う?」と相談されて、陰ながら(勝手ながら)尾関さんを推薦したことがあります。

「七転び八起き」は上記URLの尾関さんの意見に90%賛成。残り10%は「全額信託保全」の規制の副作用で再びスプレッド競争に拍車がかかる、という部分。区分管理を全額信託にするには、殆どのFX業者では借入または増資が必要となるでしょうが、現在の事業環境で調達に協力する投資家や金融機関は皆無に近い。スプレッド(広義の手数料)ダンピングを改善して利益成長(内部留保)を目指すか、時既に遅しのFX業者なら廃業または身売りということになります。逆に言えば、区分管理規制を強化しさえすれば、本来なら手数料規制やレバレッジ規制は不要なのですが・・・

本来なら・・・と書きましたが、手数料規制やレバレッジ規制を同時並行で具体的に検討せざるを得ないと金融庁が考えている理由と思われる点について、尾関さんも指摘されている≪一部の業者で一日に一回しかカバーしないとか、数時間後とにしかしないといううわさを聞くことがあるが、客が増えて取引量が増えてくるとそれは危険なオペレーションとなる。≫2007年BNPパリバショック直後に金融庁がFX業者に対して行った「一斉点検」では、殆どのFX業者はお客様の注文を≪ほぼ瞬時に≫カバーしていると申告していました。
外国為替証拠金取引業者に対する一斉点検の結果について
ところが翌2008年7月、証券取引等監視委員会が公表した特別検査の結果、市場リスク管理についての申告と実態の重大な乖離が至る処で見つかりました。
外国為替証拠金取引業者に対する検査結果の概要について
金融庁のFX業界に対して抱いている不信、というより裏切られた感情の核心部分は此処でしょう。
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2009年5月11日月曜日

全額信託保全と自動ロスカットの義務化で金融庁説明会

金曜日の午後、如水会館で行われた金融先物取引業協会主催の金融庁幹部による説明会の内容と質疑応答の様子をブログのような場でお伝えすべきかどうか???筆者独特の克明な描写は差し障りがあると考え、ここでは、「今後パブリックコメントを経つつも、金融庁の意向が曲げられることはない」という予想に留めさせて下さい。

あまり、同業者の悪口は言いたくないので・・・・・・

さて、週末の日経新聞で、一番しみじみと読ませてもらったのは、日曜日の「大収縮」特集の右側コラム。スズキ自動車の鈴木会長の「気が付けばコスト削減意識が甘くなっていた」と並んで、「欧米銀行に比べて有利、は幻想」と題して、モルガンスタンレーへの出資の決断が正しかったかどうかは歴史に判断してもらうしかないとの三菱UFJ銀行の頭取の告白。

最近の日経新聞は、経済危機からの底打ち感を演出すべく、なるべく明るいニュースを並べようと努力しています。日経新聞に限らず、経済報道は得てして「順張り」になりがち。かつて80年代のバブル形成過程でも、90年代の同崩壊過程でも、日経新聞の報道姿勢は行き過ぎを助長したと批判を受けました。今回の局面では「逆張り」報道によって贖罪しているかに見えます。

先週末の米国雇用統計も、米国国勢調査の調査員の雇用を前倒しした効果が出ているだけで、失業率は1983年以来の最悪記録を更新しています。危機からの脱出は意外と早いという株価・為替の反応は、意外と長くは続かない可能性があります。正直過ぎる前掲の頭取が、もし立場上許されるのなら、株は空売り、為替は「オセアニア通貨売り・米ドル買い」または「円買い」なのでしょう。
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2009年5月7日木曜日

米銀ストレステストは茶番なのか?

GW中、NHKで(4度目の?)再放送していたドラマ「ハゲタカ」。祝日もFXは動いているため、「七転び八起き」は重役出勤と録画を併用して、視聴。経営不振の大手家電の最大株主に躍り出た米系ハゲタカファンドは、容赦なきリストラと転売可能部門の切り売りを実現させるために、取締役の総入れ替えという「株主提案」を提出。従業員の雇用を最優先させてきたカリスマ会長が末期癌との闘病の末、株主総会の最中に死去。弔い合戦の装いの中、現職取締役全員の再任という「会社側提案」に屈します。

敵対的TOBを決意し総会の場を立ち去ろうとした主人公のファンドマネジャーの前に現れたのは、かつてそのハゲタカにより実家の旅館と父親の命を失ったITベンチャーもどきの社長。その彼が、恨んでいる筈の主人公に投げた言葉は「茶番ですね」。。。

本来、今夜の米国市場終了後に正式発表される筈の米銀ストレステストの結果。昨日の日本時間の昼間より、明らかなリーク報道が始まりました。

NHKドラマ「ハゲタカ」の中でも、様々な悪用例が示された「リーク報道」。その多くは報道側の取材合戦の結果としてのスクープとは似て非なる出来レース。小沢秘書逮捕は検察リークだとか、FX規制強化シリーズは金融庁リークだとか言って憚らない人もいますが、それを言うなら、米銀ストレステストの報道では米ウォールストリートジャーナルが全ての局面で一歩以上抜きん出ており、米国金融当局から「茶番劇だと皮肉らないと約束してくれるなら、早漏OKョ」かのような遣り取りすら推測される程。

大西洋を挟んで、英フィナンシャル・タイムズは、この件では米国の大本営発表に批判的。「創造的破壊こそがシュムペーターが語った資本主義の本質だ」と、甘過ぎるストレステスト結果批判の急先鋒リチャードソン、ルービニ両教授の論稿『破綻銀行は市場の掟に晒されるべきだ』を臨時ニュース扱いで報道。

実際の市場参加者の行動は、「茶番と知りつつ、一緒に踊ろう」という株高。大本営発表が見事に茶番劇を演出し、売り方に致命傷を与えたとすれば、米国はスタグフレーションへの道に大きな一歩を踏み出したのかも知れません。問題は、我が国も同様の方法で金融システムを浮上させることができるかどうか。

ドラマ「ハゲタカ」のファンドマネジャーの言葉「腐った日本を買い叩く」。ドラマ初放映から何年も経ち、この間、リーマンも破綻したほか、このドラマのモデルと思えなくもない村上ファンドやライブドア、スティール・パートナーズやTPC等も事実上現在の日本から居なくなってしまいました。当ブログの読者の皆さんのなかにも、「腐った日本」が悪いのか、「買い叩く」ハゲタカが悪いのか、考えが二転三転された方も少なくないと察します。

「失われた10年」が現時点でも未だに10年どころで済みそうもないのは、「腐った日本」が悪いと決めて掛らず、中途半端な大本営発表で金融システムを守ろうとしたツケ。我が国の場合は、茶番劇でモラルハザードを押し通すには、宿命的な外交力や軍事力の欠陥が立ちはだかっていること。「100年に一度の危機」という表現を信用しないとしても、米銀の不良債権が世界規模の人質を取ってしまっている点もまた我が国のバブル崩壊とは著しく異なる点です。

パイオニアやエルピーダのように事業会社に直接公的資金というモラルハザードを批判する声は大きいでしょう。
「宝田豊 新マネー砲談」番外編
日産自動車やオリックスに対して追加で公的資金が検討される一方、その規模の税金があれば簡単に救えそうな倒産事例は少なくなく、特に昨日今日気になったのが一橋出版という中学高校時代にお世話になった教科書出版の会社など、負債総額はたったの12億円弱です。

前掲の宝田豊氏は、給与水準の高い大企業製造業を贔屓する日本の体質を、士農工商を未だに引き摺る「モノ作り信仰」だと言います。金融ほどは虚業でないにせよ、モノに溢れた時代、モノを作っているから守ってあげなきゃという理屈は通りません。大企業が倒産すると、下請け孫請け含めて雇用に与える影響が大きすぎるという理屈も、それなら大企業一社に相当する規模の数々の中小零細企業の破綻は放置して良いという理屈にはなりません。影響の大きさという言い訳に逃れざるを得ない理由は、我が国の不良債権の問題が、かつてないスピードで大企業製造業、即ち、それを得意先とするマネーセンターバンクに押し寄せてきた事態を、銀行経営側も永田町も霞が関も認識しているものの、正投銀を痰壺扱いすることに対しては決して永田町霞が関は一枚岩ではない点が、今後の波乱要因です。日本株の一方向の上昇はあり得ないでしょう。
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