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2022年6月17日金曜日

円安もウクライナ戦争もみんなユダヤ資本の陰謀だった

件名にあるような陰謀論や、歴史上の登場人物や国家権力を善玉悪玉へと単細胞的に分類する愚考に抗ってきたのがこのブログです。

そんなわたしも、30年以上にわたる社会人生活を振り返ってみると、限りなく陰謀論に近い、しかも似たような内容の書物を不定期的に読んできたものだなと思います。

二十歳代の頃(1990年代初頭)

宇野正美「ユダヤが見えると世界が見える」「ユダヤと闘って世界が見えた―白人支配の崩壊と「二つのユダヤ人」」

三十歳代の頃(2000年代初頭)

広瀬隆「赤い盾」「世界金融戦争」「世界石油戦争」

そしていま

西鋭夫・岡﨑匡史「占領神話の崩壊」

渡辺惣樹・茂木誠「教科書にかけないグローバリストの近現代史」

結論を急ぐなら、最新の書籍がお勧めです(Kindle版あり)。時代が下るほど情報公開が(いまのところは)進んでいること。それと、たとえとしてはわかりづらいですが「個体発生は系統発生を繰り返す」という面もあるというのが理由です。

共著者のおひとり茂木誠先生は、先月投稿したおすすめYouTuber(前編)でご紹介した

歴史>むすび大学

というチャンネルで、ちょうどウクライナ情勢の悪化と同期するような形で、その淵源のひとつがユダヤ人(問題)であるという仮説を思わせるようなシリーズを展開されています。

ユダヤ人の歴史

旧約聖書からはじまり、いったんウクライナ問題に焦点を当て、現在はニューヨーク(イスラエルに次ぐユダヤ人人口を抱える場所)の成り立ちについて動画をアップしておられ、まだまだ続きそうでこの先も楽しみです。

件名にあるような陰謀論は、国際金融資本=ユダヤ資本でなおかつユダヤ社会は一枚岩であるという分かり易過ぎる前提に立ってしまっていることが多いのですが、茂木誠先生のユダヤ人の歴史は極めて公平です。

フーヴァーを襲ったルーズヴェルト

それでも、「教科書にかけないグローバリストの近現代史」(脱稿時点ではロシアのウクライナ侵攻はまだはじまっていなかったように思われます)は取り扱っている時代から、イギリスやフランスのロスチャイルド家の影響力をやや過大視している感じはあります(それをさらに極端にしたのが、ご存じ「赤い盾」と言えるでしょう)。

いまだに日本には戦後教育のせいで(経済学で言えばケインジアンが多いことと呼応して?)、フランクリン・ルーズヴェルト大統領は、平和主義者で民主主義者だと洗脳されたままの「知識人」もいるようですが、わかりやすく言えば、わたしは同大統領に取って代わられたハーバート・フーヴァー大統領のファンです。

同書の共著者のもうひとりの渡辺惣樹先生は、まさにそのフーヴァー大統領が退任後(というかさらに第二次大戦後)フランクリン・ルーズヴェルト大統領(とその一味「ニューディーラー」)がやらかした国内の経済政策と外交軍事政策を嘆いて書いた力作「Freedom Betrayed」の日本語訳をされた方です。フーヴァー大統領が母校のスタンフォード大学に作った研究所で仕事をしつつ「釈明史観」に異を唱える研究をされたのが、上記占領神話の崩壊の共著者のおひとり西鋭夫先生です。

西先生と渡辺先生はいずれもフーヴァーフォロワーであることは間違いないわけですが、おふたりの目線が一緒かというとそうではないかも知れません。西先生の本には、戦前の日本共産党に対する治安維持法という悪法による弾圧(拷問致死など)について激高されています。おそらくこれは共産党員の多く(とくに下っ端)や支持者の多くは、貧富の格差や軍国主義に対して善意から抵抗しようとした弱者だったからという前提があるのだと思います。実際、党組織が治安維持法により解体されるまでは、日本は中国と並びコミンテルンにとって最優先の戦略国として金銭面での支援がなされていたという情報もあります。党指導者層の少なくとも一部はソ連のスパイであったことは間違いないと考えられます。ただ、お亡くなりになった宮本顕治元日本共産党委員長のスパイ事件(殺人事件)は有名ですが、ここで言うスパイは、日本共産党本部に潜入していた特高警察のスパイのことです。

ぐじゃぐじゃ書きましたが、わかりやすいたとえをすると、ローマカトリック協会の中枢がどれほど極悪で腐敗しきっているにしても、布教活動が滞っていた近世日本の極少数派のキリシタンのほとんどは純粋にイノセントに入信したわけであり、豊臣秀吉や徳川家康の禁止令は気の毒というしかないという一方で、キリシタン大名についてはある程度は利害と打算があったと考えても可笑しくないということなのではないかと思います。

中央銀行員は公務員なのか?

最初の宇野正美さんについては、ある朝、職場の入口のまえで、同氏の後援会のチラシが配られていた記憶があるのと、相前後して、私が営業担当としてお世話になっていた某総合商社関西支社の財務部長さん(彼も私と同様でどちらかというとマルクス主義に偏った教員が多かった大学の卒業生)からのおすすめもありました。ざっくり言うとその反動で目から鱗を落とすための読書を精力的にやっておられたのではないかといまでは思います。

ざっくり言えば似た系統の書物と著者を並べてみたのですが、全般に、真珠湾攻撃に関する(フランクリン・ルーズヴェルト大統領の)陰謀疑惑を始めとして、戦後歴史教育(戦後の日本の「正史」とされているもの)への修正を迫る論客のものが多いのははっきりしています。これは、論説を、単純に右か左かで分類する流儀に従うと、はっきり言って右になるわけです。そのなかで、どう見ても反原発一筋の広瀬隆氏は「左」です。それでも、今日の脱炭素(地球は温暖化しているという言明、その原因は二酸化炭素であるという言明)運動は、現在も世界を動かしている黒幕による陰謀であると考える点で、立場が異なる渡辺惣樹先生と意見が一致しているところは妙に面白いと言えます。

最後の最後に本当の本題です。「件名に円安だのウクライナなどあるのに、ブログの本文中なんにも触れていないではないか!?」とお怒りの読者の皆さまへ。ここをまとめるのが非常に難しいところだったのですが、この近現代史の本の真骨頂だと私が思っているのは「中央銀行」の歴史を、簡単ではあるが、独特の視座でまとめてくださっているところなのです。経済学でも、中央銀行はまるで最初からあったかのごとく説明されることが多いのですが、そうではないどころか、われわれが学校教育なのか常識なのかよくわかりませんが何となく叩き込まれている通貨の番人としての中央銀行の存在などというものはもともとなかったことがよくわかります。

現在の円相場は、そんな各国中央銀行の先祖返りというか「幽霊の正体見たり枯れ尾花」の逆で政府からも民間金融資本からも独立した中立的公共的機関にして枯れ尾花的存在だと思っていたら実は化け物だったという文脈でとらえる必要があるのではないか、というのが本題でした。


2022年7月22日金曜日

岸・安倍ダイナスティは何と戦ってきたのか?

 まずは、故安倍晋三元総理の系図を掲載します(出典:日本語版ウィキペディア)。

周知のとおり、岸信介元総理は、安倍元総理の母方の祖父にあたります。ちょうど二週間前の暗殺事件がきっかけで、岸信介氏の東京は渋谷の南平台の邸宅の隣に統一教会=国際勝共連合の本部があったことが話題になっています。岸氏は、以下のライブラリーのなかでもひときわ注目される存在です。

⑴有馬哲夫「児玉誉士夫 巨魁の昭和史」(文春文庫)
⑵西敏夫「占領神話の崩壊」(中央公論新社)
⑶渡辺惣樹・茂木誠「教科書に書けないグローバリストの近現代史」(ビジネス社)
⑷孫崎亨「アメリカに潰された政治家たち」 (河出文庫)

これらのうち⑷は、大胆すぎるほどわかりやすい書きぶりです。ここでは、岸信介は、(「事実上」前任の)鳩山一郎、(弟の)佐藤栄作、(日中国交正常化とロッキード事件の)田中角栄、竹下登、小沢一郎、(「最低でも県外」の)鳩山由紀夫など同様、「対米自主派」ゆえに《アメリカに潰された》総理のひとりだとされています。

ちなみにこの著作では「対米追随派」ゆえに《アメリカには潰されなかった》政治家として、吉田茂、池田勇人、小泉純一郎、野田佳彦を挙げています。

結論を言うと、政治家の本質は、目的(政策)と手段(政局)を変幻自在に扱う融通無碍な人間力なのではないかと思うのです。

戦後の日本では、国のリーダーは、「自主独立」という目的=深謀遠慮に対して、「対米追随」は手段=面従腹背の演技に過ぎないはずだが、職業病である腹黒さ(褒めています)から手段と目的が逆転しているのではないかと疑いたくなる局面があるというものです。

なので、吉田茂は対米追従組で、岸信介は対米自主組だという分類は、あまりに単純すぎると考えます。このあたりのより正確な記述は⑴に譲りたいところで、自身もやはりCIAのスパイであることをほぼ徹底して手段=政治資金調達と割り切って米ソ両帝国主義からの本質的独立のために日本のリーダーを培養してきた児玉誉士夫像から戦後史を読み解いています。

しかしながら、60年安保改訂の自然成立と同時に、安保闘争の最中に退任した岸信介総理に対する印象は、戦後教育のバイアスその他の影響もあり、むしろ対米追随派の典型として見られていた時期がありました。そうではないこと(特に、ある時期から、CIAは岸信介を見限って、むしろ全学連をして安保闘争の火に油を注がせるべく、(児玉誉士夫と同じく右翼の大物だが元共産党の)田中清玄を通じて資金援助をしていた事実の紹介など)を指摘した孫崎さんの著作の意義は大きいと思います。

まずは、岸信介氏のホンネ=政治信念がわかりやすく表れている語録をウィキペディアから紹介したいと思います。

①侵略戦争というものもいるだろうけれど、われわれとしては追い詰められて戦わざるを得なかったという考え方をはっきり後世に残しておく必要がある。

②今次戦争の起こらざるを得なかった理由、換言すれば此の戦は飽く迄吾等の生存の戦であって、侵略を目的とする一部の者の恣意から起こったものではなくして、日本としては誠に止むを得なかったものであることを千載迄闡明することが、開戦当初の閣僚の責任である。

③終戦後各方面に起こりつつある戦争を起こした事が怪しからぬ事であるとの考へ方に対して、飽く迄聖戦の意義を明確ならしめねばならぬと信じた。

④日本をこんなに混乱に追いやった責任者の一人として、やはりもう一度政治家として日本の政治を立て直し、残りの生涯をかけてもどれくらいのことができるかわからないけれど、せめてこれならと見極めがつくようなことをやるのは務めではないか。

これらは、A級戦犯被疑者として留置されていた巣鴨プリズンでの発言で、特に④は「獄中記」からの引用とのことです。このうち③が、想像するに意図的にわかりづらい表現になっていますが、「終戦後各方面に起こりつつある戦争」というのは、朝鮮戦争と、中華人民共和国成立のことを指しているのかと私には読め、「怪しからぬ個とであるとの考へ方」というのは、《米英が日独を叩いたのは平和と正義のためだが、その後東アジアの紛争に介入するのもまた正義である》とまで言うのならちょっと待った!という意味なのかなと。これは間違っているかも知れず、識者のご指摘を待ちたいと思います。

さて、戦後の、日米政権の対比表を個人的にまとめてみました。
戦後日米政権対比表

対米関係は、民主党政権下(水色)よりは共和党政権下(ピンク色)のほうがまし、というと、先述の孫崎亨さんの本のことを笑えないほど雑な分析になってしまいます。それでも、鳩山一郎政権(鳩山由紀夫元総理の祖父)と岸信介政権(安倍晋三元総理の祖父・・・くどい)のカウンターパーティであるアイゼンハワー大統領(R)は、連合国遠征軍最高司令官として当時は上官でありその後は大統領ポストを襲うトルーマンに対して講和模索中の日本に対してまったく不要であるはずの原爆投下に反対していました(日本語版ウィキペディア)。フランクリン・D・ルーズベルト大統領(D)が秘密裏に進めていたマンハッタン計画を知らされずに、ハーバート・フーヴァー前大統領は同じころ当の垣根を越えてトルーマン大統領に日本に対して無条件降伏を迫ることには絶対反対であると諫言していました(英語版Wikipedia)が、これらふたつからは両二大政党の考え方の違いが明確です。

つづく

【次回予告】
昨日の友は今日の敵?同志児玉誉士夫と岸信介の関係性

【次々回予告】
CIA、KCIA、国際勝共連合=統一教会(=原理研究会)、朴正熙の時代






2022年3月25日金曜日

イスラエルがウクライナへのスパイウエア提供を断る

小説家やジャーナリストなど、生業として物書きをしている人たちの文章というのは、どんな名作や労作であっても、物事の真実や本質よりは、敵と味方、主役と悪役など、白黒はっきりさせることで、よりわかりやすく面白く「売文」したいというバイアスが働きがちです。

私は売文家ではないですが、この点は十分自戒すべきなので、面白いけど断定的な情報には安易に飛びつかないよう、反論をなるべく探そうと心がけているつもりです。

正義の味方となったゼレンスキー大統領

ロシア対ウクライナの紛争では、ロシアによる侵攻前は40%程度だったゼレンスキー大統領への支持率が90%へと急騰したと言われています(注1)。

ロシアに対する経済制裁で合意をしている「民主主義陣営」の国々でも、ゼレンスキー大統領が、プーチン大統領率いるロシアという軍事力では敵いそうもない相手を大番狂わせで倒すかも知れない正義の味方なのだという通念が醸されています。


ロシア陣営が流すフェイクニュース(?)にもかかわらず、プーチン大統領が主導する現実の地獄絵は否定できません。しかし、ゼレンスキー大統領を、《彼の敵国に対する経済制裁とその取り纏め、そして武器輸出という経路》に限定して応援する米国指導者もまた正義の味方の味方だと言えるでしょうか???

素直にそう思ってしまう人たちは、ベトナム戦争、カンボジア紛争、イランイラク戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争、、、など第二次世界大戦後に限っても枚挙に暇がない、現在のウクライナ紛争と甲乙つけ難い事案を忘れてしまっている記憶力に乏しい方々でしょう。私のブログの読者にはそういうひとはひとりもいらっしゃらないはずです(注2)。

現代の不平等条約とアメリカの「勝利の方程式」

いつものように長すぎるブログとなりそうなので、あらかじめここで、投稿全体の見通しを良くするために、私の考え方の基盤をここでお伝えしておこうと思います。過去の投稿と一貫しているものです。第二次世界大戦後、国際連合が出来たり、「大国」などが核武装したりで、国際協調と核抑止力によって戦争はなくなると嘯かれてきた(日本の文科省の社会科にける学習指導要領もこれ然り)のはまったく事実と反し、実際は核武装させてもらっていない「小国」の内外で「大国」の代理戦争が繰り返されている。核拡散防止条約こそが現代の不平等条約である。核の偏在こそが、①米国がロシアを直接は叩こうとしない、②北朝鮮を野放しにせざるを得ない(一方、本当は「大量破壊兵器」を持っていなかったイラクは叩けた)理由(のひとつ)である、ということです。


《支持率のようなものの儚(はかな)さ》を感じたのは、米国議会でのゼレンスキー大統領の演説で、9.11のテロと並べて、真珠湾攻撃が敷衍されたことの報道です。日本のネット界隈で、「不勉強だ!」「もはやウクライナを応援したくなくなった」などとざわつきました。

米国からのウクライナへの間接的な支援が強化されたのは、こうしたゼレンスキー演説が米国議会に刺さったからでは決してなくて、ウクライナ側の想定を超える善戦が、「勝てるほうに付く」、翻せば、「勝ち負けがはっきりしない外国の紛争には中立を保る」)という、第一次世界大戦(注3)以降に米国がヨーロッパを差し置いてのし上がってきた際の「勝利の方程式」を満たしたということではないか、だとすると、(その時点では日本の国会での演説は確定していなかったとは言え)米国議会用のスピーチライターが真珠湾攻撃の事例を用いたのはコスパとしては正解ではなかったのではないかと、、、

とは言え、ゼレンスキー演説への批判というのは、やや突っ込みどころが違うという感想も持ちました(注4)。やはりここで再度強調しておくべきことが、アメリカやロシア(などの国際連合の安全保障理事会の常任理事国)が核兵器を独占しているという理不尽こそ、本来はゼレンスキーが突っ込まなければならない(本当なら突っ込みたい)ところであって、しかし米国議会でそんかことは思っていも言えないから、不承不承、真珠湾攻撃と9.11というたった二つの事例で同情を、という代替戦略をとらざるをえなかったのだと忖度してあげるべきところなのでしょう。


さて、真珠湾攻撃に関しては、このブログでも繰り返し分析してきたつもりです。実は、私が元々はとある無料商材に申し込んだきっかけ(「坂本竜馬暗殺の真犯人は?」とかときどきネット広告に出てきませんか???)で、西鋭夫先生の存在を知りました。多くの意識の高い日本人がそうであるように、真珠湾攻撃もまた西鋭夫先生が戦後歴史教育における定説に切り込みたい核心部分のひとつということで大いに分析していらっしゃいます。しばしばこの商材がらみでメールマガジンを拝読させてもらっており、それらを私の独自研究のヒントをもらっております。

真珠湾攻撃そのものはほとんど扱っていませんが、「占領神話の崩壊」という著書は図書館でも借りることができる労作です。

さきほど来、日本の文科省の社会科にける学習指導要領云々と批判していますが、いまだに、高等学校レベルの歴史や政治経済分野では、第一次世界大戦と第二次世界大戦との間(世界恐慌、ナチス台頭、日中戦争などがあった時期)、米国政治では《フーヴァー大統領(共和党)は出来が悪く、ルーズベルト大統領(民主党)は出来が良い》というステレオタイプな論述がされているようです。フーヴァー研究所の書物を精力的に読み漁る西鋭夫先生の書物からは、全く異なる歴史観が迸っています。

日本人目線からだと、野に下ったフーヴァー大統領は、日本をして真珠湾を奇襲せしめたハル・ノートや経済制裁(注5)に猛反対してくれていたりだとか、終戦の年、のちのトルーマン大統領に対して、日本に無条件降伏を迫るのは間違いだ、講和に応じろ、と指図する(注6)など、特異的な存在です。

が、なんといっても、フーバー大統領が(選挙で自らを負かせた)ルーズベルト「次期」大統領に対して、「(あなたはわたしの政策を引き継がないだろうが)ひとつだけはどうしてもお願いしたい。それは、英仏への債権の取り立ては緩めるべきだ。それこそが世界恐慌から各国経済を立ち直らせる(そして本家本元の米国経済も)抜本的な治療方法なのだから」と忠告をした(注7)が、ルーズベルト大統領はまったく聞く耳を持たなかった、という事実もこそ重大です。

繰り返しになりますが、米国は、外国同士の戦争が自分に利さない間は中立を決め込み、戦後体制がはっきりしたとき(勝ち負けがはっきりしはじめたときに)介入するというヴァンテージポイントを活かしながらのし上がってきた大国です。その鍵が、戦費調達と戦後賠償に絡む債権債務関係なのです。この視座を以って、ロシアとウクライナの紛争も見てみたいところです。

ウクライナ≒ネオナチは全くのフェイクニュースなのか???

西鋭夫先生の話を何故したかというと、このごろもまた読ませてもらっているメールマガジンのなかに、プーチンの言う「ウクライナはネオナチに牛耳られている」というのは完全なフェイクニュースでもないかも知れないという話があり、これもまた、おびただしいフェイクニュースのなかから頑張って真実を手繰り寄せなければならないと思ったからです。

ウクライナの歴史は、日本のような島国とは異なり、大陸のど真ん中の穀倉地帯ということもあって、侵略したりされたりと、戦争に明け暮れたものになっていて、ウィキペディアを読み解くのも一苦労です。第二次世界大戦の戦中と戦後に限っても非常にややこしいと感じます。ここでもまた編集合戦が繰り広げられている恐れもありますが、確かに、多数派とは言えないものの、ウクライナ人の一部は、ナチス・ドイツ側に殺戮されず、その代わりに(←ここはよくわからない)ナチス・ドイツ側に立って一緒にソビエト・ロシアを攻めるという勢力に化したようです。ただ、そういう人たちが、第二次世界大戦後もうまく生き延びて、ソ連崩壊後に経済と政治の中枢を担えたのか、また、中国での同時期の国共合作と同じで利害と打算で結びついたに過ぎなくて、骨の髄までナチズムがしみ込んだネオナチと言えるのかどうかは疑問です。米国に渡ったアイン・ランド女史やオルブライト女史(元国務長官)など、スターリニズムの否定とナチズムの否定は同根と考えるのが自然だからです。

しかしながら、ここで非常に気になる情報が今週出ていました。ニューヨークタイムズ紙によると、イスラエルは、ウクライナ(とエストニア)から買いたいと言われてきたスパイウエア「ペガサス」を同国たちには売り渡さないと決めた。一般的な理由として、過去には、売り渡した国の独裁政権が国民を監視する(携帯電話の個人情報・位置情報や通信記録の傍受)など非民主的な目的で利用濫用された事案があり、それを繰り返したくないというのもあるようです。が、今回に限っては、イスラエルがロシアとの関係を害したくないから、とされています。

インドが、中国と同様、アメリカ主導の対ロシア経済制裁に参加しないというのも個人的には驚いていました。が、何となく、第四次中東戦争の流れで、(日本と同様?)アメリカべったりの国であるという印象のあるイスラエルのかかる決然たる態度は意外ではないでしょうか???

実は、有名すぎるイスラエルのスパイ組織「モサド」のOBであるEfraim Halevy氏によれば、少なくとも見た目には「小国」であるイスラエルがその実質的な創業期である第二次世界大戦直後においては、自分たちはまずアメリカに付くべきなのか(当時の)ソ連に付くべきなのか五分五分だったと書いています。よくわかりませんが、イスラエルにべったりなのがアメリカであって逆は必ずしも真ならずということなのかも知れません(当時も今も)。

それでもやはりプーチンの言う「ウクライナ≒ネオナチ」には自らの正当化のためのフェイクニュースという臭いがぷんぷんすると言わざるを得ません。ただし、このイスラエルの態度(やそれに対するイスラエル議会でのゼレンスキー演説における苛立たしさ)からは、このフェイクニュースにも一理ありというのがうかがえます。


一方で、ひとつ申し添えたいこととして、アヴァトレード・ジャパンの親会社はイスラエルですが、IT部門における協力会社の多くがウクライナにあります。そこのエンジニアの多くは、キエフから疎開して、状況厳しい中でも、リモートワークで弊社グループのシステムを支えてくれているようです。


こうなるといよいよ何が真実なのかわからないという話になりますが、そんなに物事をスパッと一刀両断にできる社会法則など存在しないと諦めれば済むことです。とにかく、一方的な情報だけに飛びついて白黒はっきりさせようとするのは愚者の営みであると自戒することが大切です。




(注1)ウクライナのレイティング社による世論調査。ゼレンスキー大統領への支持率が低かった時期でも、ウクライナの他の政党(の指導者)たちのそれらよりは高かったこと、世論調査の対象として、すでにロシアが実効支配していると言われるドンバス地域とクリミア半島は含まれていないことに留意すべきでしょう。

(注2)先週末3/18(金)深夜(というか翌日未明)のテレビ朝日「朝まで生テレビ」(録画されている方は、田原総一朗氏のMC部分だけ早送りして、興梠一郎さんや(元防衛大臣)森本敏さんなどの発言だけをひろわれることをおすすめします)で、慶応義塾大学廣瀬陽子教授ご指名の視聴者の質問への回答として「イラク戦争などアメリカが行った戦争には大義または正義があったが今回のウクライナ戦争にはそれがまったくない。そこが違う」というのがありました。この程度の有名大学に雇われている学者先生がまさか本気でそう考えていらっしゃるわけではないと思うのですが、どういう圧力が働くとそう言わざるをえないのでしょうね。

(注3)アメリカ合衆国が建国できたのは、植民地支配をしていた大英帝国との独立戦争で、フランス(大革命の直前)からの経済支援があったればこそと言われています。当時までのフランスは、まさにそのアメリカ新大陸を巡る攻防で、大英帝国と七年戦争を戦い敗れたということで、その仕返しという意図があったらしいのですが、フランスはこの独立戦争で勝ち馬に乗ったにもかかわらず、そのリスク投資への配当に与れず、財政破綻など諸説ありますが、革命によりブルボン王朝は滅びるという展開になります。一説には、このころまでの対外戦争の戦費調達においては借りたものは返すべきという通念がはっきりしていなかったとされており、これを明確にはじめてしたのが、第一次世界大戦に途中で参加したアメリカだというのです。アメリカは、ドイツが戦後賠償をまっとうできるかどうかにかかわらず、戦時中に貸し出した、イギリスやフランスなどの三国協商国への債権は絶対に放棄できないという態度を堅持し、これこそがアメリカを建建国来はじめて債権国へと押し上げ、まだアメリカにとっては「一粒で二度美味しい」機会となった第一次世界大戦の最大の契機ともなったと考えられます。

(注4)そのことは兎も角、ネット界隈での真珠湾攻撃への連鎖反応を見るに、おそらく若い世代も含めて、第一次世界大戦後のアメリカやソ連だけでなく、第二次世界大戦における日本も無謀かつ非合理的な判断で何故戦争に突入してしまったのかという真実に迫ろうというひとが着実に増えているのではないかとも思いました。

(注5)当時世界の石油の70%をアメリカが握っていた。日本は石油のほぼ100%をアメリカに頼っていた。そのなかでのアメリカの対日禁輸の対象品目として原油が加えられた(日独伊三国同盟加入時に、鉄くずが対日禁輸品目であったのに追加された)。経済制裁としては、ABCD包囲網(アメリカ、イギリス、中国、オランダ)に重畳して行われた。

(注6)フーヴァー前大統領本人は、政権中枢から外れてしまっていたために、当時、マンハッタン計画を知らされていなかった。

(注7)選挙に負けたレームダックの大統領が選挙に勝った「次期」大統領に、面と向かってこのような会談(引継ぎミーティング)をする事例というのは非常に珍しいそうです(上記(注3)ハイパーリンク先の参考文献、Michael Hudson "Super Imperialism"(2nd Edition)による)。