2008年12月24日水曜日

何はともあれクリスマス・イブです

クリスマス・イブくらいは明るい話題で始めたい当ブログですが、天邪鬼の七転び八起きとしては期待に沿えず恐縮です。

●トヨタ渡辺CEO辞任(12/24WSJほか)
度重なる業績下方修正を経て、戦後初の営業赤字へ転落のニュースは、昨日英BBCでも、30分置きにNHKニュースの映像が繰り返されるほど世界に衝撃を与えた。

それは判りますが、「たった一期」の赤字で社長辞任というのは厳しすぎないかというのが私の勘繰り。数字を見る限りでは、過去何十年(特にこの十年)積み重ねてきた利益(特に内部留保)に比べ、今期の赤字は微々たるもの。

数字以外の「何か」があるのかどうか心配。

●元ナスダック会長のネズミ講詐欺、被害者のフランス人投資家が自殺(12/23FTほか)
500億㌦規模の詐欺は全容解明途上。このうち14億㌦を投じていたファンドマネージャーが自殺。65歳のフランス人で投資顧問会社の共同創設者。遺書は残されていないが・・・

銀行の不良債権を毒入り餃子と譬えてきた当ブログ。今回のネズミ講事件で毒入り餃子はヘッジファンドにも混入されてしまった。スイスのUnion Bancaire Priveeは「独立した監査人と常任代理人が選定されていないヘッジファンドについては運用残高を直ちに減らせ」と内部文書で指示。この名門プライベート・バンクは運用資産が560億㌦に及んでいる。

ヨーロッパでは第三者による監査が通常行なわれているが、米国では伝統的な大手ファンドも含めこのような慣習がない。UBPの今回の動きは、米国の「ヘッジファンド産業」の姿かたちを塗り替える可能性もあるとFT紙は指摘。

●米国の住宅販売、新築も中古も大幅下落(12/23WSJほか)
11月の中古住宅販売は前月比▲8.6%(対前年比では▲10.6%)。新築は前月比▲8.0%で月402万戸。これは1997年7月以来最低水準。米国全体の住宅価格の中間値medianは、181,300㌦と一年前に比べ13.2%下落。1968年に統計をとり始めて以来最大の下落幅。

まだまだありますが、暗い話はこれ位に留めましょう。今日からは今週末日曜日に迫りましたフェニックス証券チャリティ・オペラ・コンサートの直前情報を更新して参ります。お蔭様で満席予定の同コンサートには私より遙かにオペラマニアのお客様から、オペラには関心はあるけど敷居が高くて近寄りがたかったので、今回のチャリティをキッカケにと考えてくださったお客さままで様々いらっしゃいます。このような多様なニーズになるべくお応えするのが司会の腕の見せ所ですが、何せ話下手なので、紙面で順次補わせていただこうというわけです(チケットご予約をいただいたお客様でメールアドレスを頂戴したお客様には配信済です。悪しからずご了承ください)。

12/28(日)プログラムの第一部は、

【第一部:中高生と中高年のための(?)オペラ入門法(!?)】

と銘打っております。その一曲目は、マスカーニ作曲『カヴァレリア・ルスティカーナ』より「ママも知るとおり」です。

オペラファンやオペラマニアにとっては馴染み深い歌劇『カヴァレリア・ルスティカーナ』。また映画ファンならコッポラの名作『ゴッドファーザーⅢ』で劇中劇で使われたのもこの『カヴァ』であることをご存知の方々もいらっしゃるかも知れません。オペラは興味があるけど、観たことはないとおっしゃるお客さまも、有名な「間奏曲」の旋律は聞き覚えがあるかも。この美しい旋律「だけ」を聴くと「穢れ無き純愛」や「一途な信仰心」などが思い起こされるのは私だけでしょうか。ところが、イタリア語て田舎の騎士という意味の題名の物語は、シチリアの貧しい若者を取り巻く痴情のもつれを生々しく描いたものなのです。

奇想天外な神話性を帯びた物語(要するに「あり得ねぇ~」という話)や歴史に題材を見出しつつ親子愛や恋愛を独特のスケールで描いたもの(同じく「あり得ねぇ~」・・・)というのも、オペラの大きな特徴。時代を少々遡り、イタリアオペラ史の“最高峰”ヴェルディが取り上げた題材には、シェークスピアの悲喜劇などのほか、第一部の後半にとりあげる『イル・トロヴァトーレ』(≒吟遊詩人)、『ドン・カルロ』など「あり得ねぇ~」系のオン・パレード。

これに対して『カヴァ』の題材は、其処彼処の社会の底辺のどうしようもない現実そのもの。長年貴族や富裕市民が目を瞑ってきたこのような現実を題材とする芸術上の運動(イタリア語ではヴェリズモ)の端緒にあたるのがマスカーニのデビュー作『カヴァ』だなどと言われております。

「ママも知るとおり・・・」は、主人公サントゥッツァが、一度は愛を誓い肉体的にも結ばれた元許婚が、兵役前に愛し合っていた現人妻と逢引している現状を、姑だったであろう“マンマ”に嘆く悲痛なアリアです。

サントゥッツァは同様の“告発”を、逢引相手の旦那にもしてしまいます。結果、決闘を経て、元許婚は殺されます。

オペラファン以外の皆さん、ハッキリ言って、どうでも良い話だと思いませんか!?

本日夕刊にて、続いての演目、ドニゼッティ『愛の妙薬』についてお話します。こちらは打って変わって楽しいオペラなので、どうぞお楽しみに。

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2008年12月23日火曜日

忘れてはならない四川大地震

●四川大地震の犠牲となった小学生の親が中国政府に対し訴訟を提起(12/22IHT)
今年5月から始めた当ブログでは、同月12日に発生した四川大地震について「大正12年の関東大震災が事実上の昭和史の始まりであり大正デモクラシーと戦争への道の分水嶺であるのと同じように、中国経済における市場原理の導入と急速な経済成長の曲がり角となる出来事かもしれない」と喝破する一方、北京オリンピックが平和の祭典としての意義を如何にひけらかそうとも、その莫大な予算を震災の復興に充てるべきであるとも説いて参りました。

大地震直後は、犠牲者家族が中国政府の怠慢や不作為を罵る声を米欧メディアも取り上げてはいました。しかし、中国政府(軍隊や警察を含む)からの反撃や虐めを恐れた彼等の声は、皆、匿名で小声でした。同胞への殺戮として脳裏に刻まれる天安門事件に象徴される非民主国家の嘆かわしい一面。ところが、半年経過し、犠牲者家族の声が中国政府に対して真っ向勝負を挑むことになったことをインターナショナル・ヘラルド・トリビューンは伝えています。

中国政府の手抜きが指摘されているのは、学校建築の手抜きそのものと、活断層の調査の手抜きの二つ。

一方、

●米国経済のメルトダウンは、中国の経済モデルに光を与えた(12/22WSJ)
ウォールストリートジャーナル紙のコラムが、凋落する欧米型モデルと比較優位に立つ中国型モデルを対比するForeign Affair誌の分析を取り上げ、米国発金融危機は自国の経済失速だけでなく、これまで地球規模だったワシントンの影響力をも減衰しかねないとしている。

さて、四川大地震と言えば、フェニックス証券チャリティ・オペラ・コンサート。いよいよ開演まで一週間を切りましたが、お蔭様で日本橋公会堂は殆ど満席となる予定です。チケットの予約をしてくださったお客さま、チャリティの趣旨に賛同してくださり無理な条件で出演を快諾してくださった豪華キャストの皆さまに、重ね重ね感謝申し上げます。
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2008年12月22日月曜日

サンタクロースは居る筈が無い

●持ち家を奨励したブッシュ大統領こそ住宅バブルの犯人(12/21IHT)
米国版財投機関であるファニーメイやフレディマックのあり方が問題である点についてちゃんと理解していたブッシュ大統領だったが。インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙はブッシュ大統領就任の年(2002年)の演説「我々は暗闇に灯を点すことが出来る。庶民全員が家を持てるように、国家一丸となって働くことは希望の灯火の重要な一要素である」を引用。

●「副大統領の役割」で、チェイニー氏とバイデン氏に大きな隔たり(12/21IHT)

「無秩序な破綻はよろしくないが管理された破綻なら・・・」とのブッシュ大統領の発言から半日も経たずして、GMとクライスラーの救済策が発表され、日米メディアは暫定的とは言え急転直下発表された救済決定に週末振り回されていました。私が救済案骨子のなかで最も注目しているのは、無担保債権のうち三分の一を株式に交換するという要件Debt-Equity Swap。大口債権者と噂されるシティやバンカメにとって形だけでも資産の額面が維持されるかどうかが死活問題である中、DESは苦肉の策。GM、クライスラー救済と自動車産業が全面に出ているものの、米国大手商業銀行の救済というのが本筋であることを滲ませる内容だったと理解しました。

ところで、個人的に最も気になるニュースは、ウォールストリートジャーナル紙オンライン版がアラートメールで伝えた、
●ワーナー・ブラザーズ、YouTube上の全ての音楽・映像を引き上げることを決定(12/21WSJ)
著作権に絡むGoogleとの交渉が決裂。これを受けて、WB社CEOが発表。

都心の大手楽器屋でもアマゾンでも手に入らない御宝ソフトが、音質や画質は兎も角、無料で手に入るYouTubeは、やはりあり得る筈のないサンタクロースだったのか。

最後に宣伝!毎月、独り善がりなコラムを連載させていただいておりますマルコポーロ社『月刊FX攻略』。本日発売の今月号はFXZERO遠藤取締役との対談が巻頭を“飾って”おります。リーマンショック以降、円高の影に隠れて主要メディアが注目して来なかった不気味なドル高(対日本円を除く)。米国で予想される急速な利下げの下、不気味なドル高は不安定なドル高だと警戒しています。雑誌の対談やコラムは締切が早く、毎度毎度苦労しているのですが、今回も11月10日の収録だった割には、先を見通せたことが言えていたなと胸を撫で下ろしています。

当ブログでも時々取り上げたFX業界の問題や規制のあり方について、かなり危ないことも口走っておりまして、きっと編集過程で削除されるだろうと思いきや、しっかり残っております。是非是非書店でお求めください。

私の対談はさておき、リーマンショック後の世の中を様々な角度から分析している、質の高い記事群。『・・・攻略』という題名からは想像出来ないほど、真面目で為になる雑誌だと思います。
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2008年12月19日金曜日

米ドルはどこまで腐敗するのか?為替介入はありやなしや??

●原油価格が急落、米国政府は自動車産業の破綻処理を熟考(12/18IHT+Reuter)
原油価格は9%下落し、過去4年の最安値を更新(1バレル36㌦)。OPEC減産合意と米国ゼロ金利政策導入にもかかわらず、世界経済の落ち込みが長く、そして深いとの懸念で。

米国自動車産業は、原油価格の乱高下の一番の犠牲者とも言えるが、政府による救済のプロセスの一部として破綻処理が持ち上がってきた。ブッシュ現大統領の「無秩序な破綻では衝撃が大きすぎる」との発言が、管理された破綻処理を現政権が真剣に検討し始めたとの憶測を呼んでいると。

一方、
●オバマ政権の新経済閣僚候補、最大で8000億㌦の財政出動を議会に提出(12/18WSJ)
減税、社会保障、学校建設、エネルギー効率化投資、ブロードバンド接続、健康情報分野の技術開発・・・と大枠が示されている。

米国の国内総生産は約12兆㌦と日本の約2.5倍。これに対する米国の公的債務は、今世紀に入ってからは対国内総生産比で40%弱を維持しており、同比率が160%~180%の日本と比べて遙かに健全。0.8兆㌦の追加財政出動など全く問題ない、と勘違いしてはなりません。

伝統的なマクロ経済学では、財政政策と金融政策の違いを強調し過ぎてきましたが、国債をどれだけ買うか売るかという調節手段に留まらず、民間企業の債務や株式、不動産(含む証券化商品、不良債権)まで中央銀行の貸借対照表に乗っかる可能性がある「代替的金融政策」の時代にあっては、財政と金融を区別することが殆ど無意味になってきています(我が国の「財政と金融の押し付け合い」やら「政府発行通貨が景気対策の起爆剤になる」という議論も、いつぞやのデノミ同様、意味の無いお祭騒ぎに過ぎません)。

つまり、米国の国家管理債務の金額を洗い出すうえで、FRB絡みのバランスシートの膨張もきっちり合算しなければ、米ドルという通貨の腐敗度合いを査定することは出来ないということです。

今年だけで、FRBはCP買い入れ枠1兆8000億㌦、入札方式による資金供給枠9000億㌦、住宅ローン消費者ローン対策枠8000億㌦をなし崩し的に意思決定しています。当ブログ独特の表現で金融機関モラルハザード案件では、FRBと政府とあわせて、AIG向け1500億㌦、シティグループ向け2500億㌦という超大口案件の影に隠れてベアスターンズ救済関連290億㌦も、今から思えば大した金額ではないものの3月当時は随分物議を醸したことを忘れてはならないでしょう。

以上は、未使用枠もあるので合算が難しい部分ですが、コミット済み(枠取り済み)の財政政策絡みではファニーメイ・フレディマック支援2000億㌦(住宅関連法案)、不良債権救済プログラム7000億㌦(金融安定化法案)が2大モラルハザード案件は当然のことながら合算されなければなりません。

今、筆者の手元にはないのですが、FDIC(連邦預金保険機構)をはじめとする公的機関や地方公共団体等の債務も考慮に入れる必要があります。この点、FDICはダントツに大口であり、今年、銀行債務と決済性預金の保証枠1兆9000億㌦が決定しています。

繰り返しになりますが、枠取りはされても未使用部分があちこちにあるため全部を合算させては可哀想ですが、以上がなし崩し的に使用されると、公的債務/国内総生産の比率は、どんどん我が国の水準に収斂すべく悪化すると見るべきです。

ただし、公的部門の「バランスシート」と呼ぶくらいで、負債があればその反対側には資産があるわけで、資産の質を問わずして負債の額だけで通貨の腐敗を決め付けることは論理的ではありません。《銀行の不良債権を時価以上で政府または中央銀行が買い上げてやり含み損または実現損部分を増税ではなく赤字国債でファイナンスし、その国債を中央銀行が買い切りオペで現金化する》タイプのポリシーミックスが財政出動策に占める割合が大きければ大きいほど、その国の通貨はハイパーインフレ等の経路を通じて坂道を転げるように腐敗すると言わざるを得ません。

昨日夕刻以降、中川財政相の為替介入を仄めかす発言等で、一時急激な円高是正がありました。但し、為替介入が日銀単独に留まり、協調介入が成立しないとなると、「(欧州や中国を見習って)米ドルの“腐敗化政策”を意図的に取ろう(政権交代のドサクサに紛れて、敢えて明言は避けつつ、ドル高政策を180度転換しよう)」という自国通貨の切り下げ合戦Dirty Floatへの宣戦布告だと読み取らなければならないでしょう。

今朝の二つの記事は、米国の政権交代が保護主義に向けて思い切った舵取りが切られるかも知れないという文脈で読み解く必要があります。
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