2009年6月11日木曜日

この国の格差、ダーウィン、そしてマルクス

昨日日経夕刊1頁の佐和隆光先生のコラムには目から鱗。お金持ちしか偏差値の高い大学に行けず、“生涯所得”の高い企業に就職できない、格差が固定化した我が国の問題の核心を突く文章でした。

文字数の限られたコラムゆえ、「格差固定化」への佐和先生の具体的処方箋までは言及されていらっしゃらなかったのですが、先生御本人の頭の中にはユニークなアイデアがおありの筈。ちなみに、「七転び八起き」は、定額給付金をばら撒くくらいなら、教育費クーポン券をばら撒いたほうが遥かにましだと考えています。

もうひとつ、文字数制限なかりせば、佐和先生による社会ダーウィニズム批判についても、注釈をされたかったのではないかと察します。ダーウィニズムそのものも様々に“曲解”されていますし、社会ダーウィニズムも時代とともに“変節”しています。先生がコラムで否定した「白人は有色人種より遺伝子が優れているから平均学歴も平均所得も高い」という選民思想は、変節に変節を重ねた末の社会ダーウィニズムでしょう。ダーウィニズムの原典である「進化論」は、生き残るのは必ずしも強者ではなく、環境に適応できた種(しゅ)であると説いています。資本主義そのものが淘汰されるであろうと予測したカール・マルクスは唯物史観のヒントを与えてくれたダーウィンに「資本論」の第一巻を献本したそうです。実際は、淘汰されたのは社会主義のほうだったのは、資本主義のほうが「環境変化を謙虚に受け入れる個人や企業の努力に報いる」ルールがより徹底しているからでしょう。

自然界における強者はかつては恐竜であり、経済社会においては巨大金融機関や大企業製造業。ただし、強いこと、大きいことが必ずしも「環境変化を受け入れる」謙虚さや器用さを意味しないことは誰もが承知しています。雇用や下請けへの影響を唱えて、大企業を破綻や清算から守るという国策は、資本主義の長所としてのダーウィニズムを棄却する愚策です。世界的な金融危機から各国が立ち直るスピードの違いは、適者生存ルールを各国政府がどの程度捻じ曲げずにいられるかに依存します。

さて、最後に、格差の固定化を打破し、日本国憲法も保証する教育の機会均等を真に実現するために、教育バウチャー以外に有効かつ血税負担も少なくて済む政策案を申し上げましょう。一つ、駿台予備校や四谷大塚のような塾を非合法化すること。一つ、東大受験では浪人した年数に応じて獲得点数を割り引くこと。一つ、公立小中学校でゆとり教育を否定するかわりに、能力別(達成度合い別)クラスを徹底する。
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2009年6月10日水曜日

クライスラー売却「処分禁止の仮処分」、米最高裁が棄却

インディアナ州の“ハゲタカ”年金基金らが、労組など無担保債権者への配当は不当だと、クライスラー再建計画に待ったを掛けた。米控訴院は、それを“暫定的に”聴き入れ、伊フィアットへの事業売却を柱とする再建計画決定を停止した。

以上が、先週火曜日から昨日までの動きでした。
http://phxs.blogspot.com/2009/06/gm9.html
http://phxs.blogspot.com/2009/06/blog-post_03.html
http://phxs.blogspot.com/2009/06/blog-post_08.html
http://phxs.blogspot.com/2009/06/blog-post_09.html
只今、ワシントン・ポスト紙が伝えた速報によると、「処分禁止の仮処分」を暫定的なものから正式な上訴(full appeal)にするためには、「9人中4人以上の裁判官が、当該問題提起は上訴申立て受理を保証するに十分に深刻であると認めなければならない」ところ、インディアナ州年金基金等の担保付債権者たちはそのハードルを越えることが出来なかったと裁判所は伝えているようです。

WSJ紙は、フィアット側が「営業譲渡が直ちに行えないとなれば、クライスラーを継続企業(going concern)として保てるような代替案が再構築できるという保証はない」との準備書面(legal brief)を用意していたそうです。
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2009年6月9日火曜日

クライスラー売却処分、米控訴院が正式に停止措置

先週から取り上げてきましたクライスラー=フィアット問題。暗礁に乗り上げた事案について、過去記事に振り返っていただく際の“道標”として、些か強引ながら、「ステーク・ホルダー勝ち負け表」を作ってみました。
               担保付債権者  無担保債権者  株主  労働者(組合) (参考)同業他社
私的整理(既に却下)     ×       ×       ○      ○        ×
法的整理(更生案)      △       △      ×      △       △
法的整理(清算案)      ○       ×       ×       ×       ○

同業他社を(参考)としたのは、ステークホルダーとは通常言われないからです。この「勝ち負け表」で○を2点、△を1点、×を0点とすると、どの案でも合計点は4点になるので、要は分配の問題だということがハッキリわかります。社会厚生とモラルハザードのバランスを取るには、どれが相応しいのか?GM問題も視野に入れつつ、米国は政治と司法の鬩ぎ合いという局面に移りました。

その中で、米FRBには利上げ観測も浮上。「七転び八起き」のドル高調整説は間違ったか?
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2009年6月8日月曜日

クライスラーへの暗雲と雇用統計の好転?

先週、お伝えしたフィアット=クライスラーに「ちょっと待った」を掛けたインディアナ州の年金基金。米国控訴院は、「不良債権を安く買い叩いた筈だったのに、足が出た」ために、怒り心頭の同投資家の主張、(営業権のフィアットへの売却)処分禁止の仮処分を認めるという判断をしました。

既報の通り、フィアットは6/15(月)まで処分禁止仮処分が続いていれば、クライスラー購入を敬遠することが出来ます。世界中で54,000人(うち米国内で38,000人)を雇用するクライスラーの受け皿が消えてしまっては、クライスラー清算による雇用へのインパクトは部品メーカーを含め深刻で、オバマ政権が描いた処方箋を脅かす試金石だとWSJ紙は改めて報道しています。

同紙は、クライスラーで発生した「しゃっくり」はGMにも移る可能性があり、事態がより複雑になると予測すると同時に、リストラおよび財務立て直し先行のおかげで旧ビッグスリーのなかで唯一生き残ったフォードは、思わぬ「国営自動車」(Government Motors)の出現で競争上劣勢に立たされる恐れありとも論じています(但し、ゴールドマンサックスの分析は、フォードはGMが喪失したシェアの25%を獲得すると見込む)。

ドライバーを振り回した結果、どんなに左右の深いラフに打ち込んでも、ボールがフェアウェイにまで転がり落ちてくるゴルフ場では、飛距離だけでなく球を真っ直ぐ飛ばす技術を磨いた真摯なゴルファーは馬鹿を見るでしょう。雇用のセイフティネットを声高に叫ぶのは、米国の政権も、日本の野党も似たようなものですが、果たして自動車産業以外の衰退産業と公平に扱おうとしているか冷静に問う必要があります。

ところで、金曜日の雇用統計。NFPRは予想ほど悪くなかった、減少幅が縮小しているということで、ドル高、株高。しかし、雇用主申し出ではなく個人家計から集計した失業率のほうは9.4%と1983年以来の最悪数値。どちらが真実か?というよりも、減少幅縮小で喜んでいる市場参加者は、速度と加速度との区別がつかない人達か?(不動産は動きだしましたが)ドルと株式は一旦売りを推奨。
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