英FT紙の論稿。資本主義それ自体が危機なのではない。欧米の資本主義が危機なのである。欧米の資本主義は、アジアからもっと学ぶべきだ、という主張です。
日本型資本主義のように政府が程よく市場に介入するやり方がアジアでは主流であって、これまで余りにも市場に任せ過ぎてきた欧米の政策担当者やオピニオンリーダー達は、日本、韓国、中国、台湾、香港、シンガポールを視察し学習すべきだ、と言われると、20年以上も自信喪失一本槍だった日本人としては嬉しくなくもありません。しかし、上記の各「国」の資本主義を一口に「アジア型」と括るのは流石に無理があります。
ただ、この論稿のなかで最も刺激的なのが、当ブログで長年一貫して主張している金融業の肥大こそが資本主義のメリットを台無しにするという主張。明快にして雄弁です。
「同じ知能を持つエンジニアが二人いたとして、金融エンジニアの給料が製造業のエンジニアの給料の5倍から10倍という馬鹿げた事態が何故起こるのか?」
それは、
「(ナショナルブランドの)金融機関はリスクマネーにレバレッジを賭けて実力以上に儲けられた反面、10年ごとの危機で生じるお決まりの損失については税金で救済されるからである」
「中央銀行によって負債が保証されている金融機関は、いつの時代も最大級のフリー・ライダーとなった」
わたしは、この主張は100%正しいと思いますが、よって欧米の金融行政が間違っていて、日中の金融行政が正しいとは全く言えない点は注意を要すると思います。
我が国の金融当局の公的資金について、そのものが間違いだと(モラルハザードの観点から、、、非金融セクターへの相当な痛みを覚悟してでも、、、潰れるべき銀行は潰れていくのを放置したほうがよいと)までは言わないにしても、公的資金の入れ方には工夫の余地があっただけでなく、そのような事態を招いたのがそもそもオーバーバンキング(銀行が多すぎる、銀行員が多すぎる、銀行員の給与が高すぎる)に原因があり、本論考のコンセプトとは逆に、政府が金融業界に介入しすぎた(護送船団方式)ゆえの過保護の結果であることをより重要視しなければならないと思います。
以上がポイント(欧米の資本主義の戦略的誤り)の一つ目・・・
《欧米は資本主義を人々の幸福度を高めるための実用的な道具としてではなく哲学的な意味で(共産主義よりも)良き概念であると看做してきた・・・》
で、残り2つの戦略的誤りは、《20世紀初頭の共産主義の脅威を体験したことからの教訓を忘れてしまったこと》と、《アジアを含む第三世界に資本主義を「伝道」してきたときに、「創造的破壊」の功罪について十分な教育を施さなかったこと》としています。
前者は、欧米の多くの国々で悪化している雇用問題と貧富の格差を、後者はデジカメの普及で倒産したコダックを見れば、それはそれでなるほどなと思います。が、これらふたつについても、中国の日本という似ても似つかぬタイプの資本主義が元祖資本主義の欧米のお手本だと言うのは余りに無理があります。
実はこの論稿の著者は、国立シンガポール大学のリー・クアンユースクールの学長なので、我田引水もあるのかなと思います。しかし、論稿そのものは修辞学上も優れていて説得力に富みます。
みなさんのご意見はいかがでしょうか?もしお時間と余裕があれば、是非ご一読ください。
2012年2月8日水曜日
2011年12月30日金曜日
割れかけたコロンブスの卵
昨日、12/29(木)のブログで、
「欧州の危機には、統一通貨ゆえに急成長し過ぎたツケと、個別国国債の買い切りには(独立通貨国以上に)抵抗がある中央銀行の存在という特殊要因があるものの・・・・・・」
と書きました。日本のような独立通貨国でも、日銀総裁が頑固だからというだけでなく、中央銀行による国債の直接の引き受けは原則禁止なのです(「国債の市中消化の原則」財政法第5条)。
この「原則」は先進各国共通のようです。しかも「例外のない原則(で)はない」というところも似ています。つまり、いったん市中の銀行に消化された国債を、金融調整目的で、中央銀行が買い上げることは可能であり、結果としてそれを満期まで持つことも可能であり、償還と同時に借換債を購入することも可能なのです。
この抜け道に注目したのが、今月、欧州で決定されたLTRO(長期リファイナンス・オペレーション、または長期レポ・オペレーション)だと言えます。
借り換えが困難な国の国債をECBが直接買えないのは、市中消化が原則であるだけでなく、健康な国の税金で運営されている(欧州)中央銀行を病気(の国の国債)のリスクに曝(さら)すことへの愛国心的な抵抗があります。そこを、やや健康な国の銀行にまで病気のリスクが蔓延していることを奇貨として、今回はまずイタリアの国債でしたが、これを買って担保に入れることを条件に(?)、それらの銀行に金を貸してあげるという枠組みになったのです。
中央銀行が助けたいのは国の財政だが、それが直接できないから、民間の銀行を導管として使う(使われた銀行も悪い気はしない)というのは見事な抜け道ですし、コロンブスの卵です。
このコロンブスの卵、ユーロ圏では、(市中消化の原則だけでなく)自らは健康だと思っている国の愛国心を回避するためのアイデアであったわけですが、愛国心の問題を気にしなくても済む日本でも米国でも応用できるかも知れず、そうであれば、消費税のことで与党内で揉めたり、離党議員や支持率の低下で悩まなくても良いのです。
ほんとうにそうでしょうか?イタリア国債の入札が、上記理由で順調であったにもかかわらず、ユーロは対ドルでも対円でも大きく下落しています。
「欧州の危機には、統一通貨ゆえに急成長し過ぎたツケと、個別国国債の買い切りには(独立通貨国以上に)抵抗がある中央銀行の存在という特殊要因があるものの・・・・・・」
と書きました。日本のような独立通貨国でも、日銀総裁が頑固だからというだけでなく、中央銀行による国債の直接の引き受けは原則禁止なのです(「国債の市中消化の原則」財政法第5条)。
この「原則」は先進各国共通のようです。しかも「例外のない原則(で)はない」というところも似ています。つまり、いったん市中の銀行に消化された国債を、金融調整目的で、中央銀行が買い上げることは可能であり、結果としてそれを満期まで持つことも可能であり、償還と同時に借換債を購入することも可能なのです。
この抜け道に注目したのが、今月、欧州で決定されたLTRO(長期リファイナンス・オペレーション、または長期レポ・オペレーション)だと言えます。
借り換えが困難な国の国債をECBが直接買えないのは、市中消化が原則であるだけでなく、健康な国の税金で運営されている(欧州)中央銀行を病気(の国の国債)のリスクに曝(さら)すことへの愛国心的な抵抗があります。そこを、やや健康な国の銀行にまで病気のリスクが蔓延していることを奇貨として、今回はまずイタリアの国債でしたが、これを買って担保に入れることを条件に(?)、それらの銀行に金を貸してあげるという枠組みになったのです。
中央銀行が助けたいのは国の財政だが、それが直接できないから、民間の銀行を導管として使う(使われた銀行も悪い気はしない)というのは見事な抜け道ですし、コロンブスの卵です。
このコロンブスの卵、ユーロ圏では、(市中消化の原則だけでなく)自らは健康だと思っている国の愛国心を回避するためのアイデアであったわけですが、愛国心の問題を気にしなくても済む日本でも米国でも応用できるかも知れず、そうであれば、消費税のことで与党内で揉めたり、離党議員や支持率の低下で悩まなくても良いのです。
ほんとうにそうでしょうか?イタリア国債の入札が、上記理由で順調であったにもかかわらず、ユーロは対ドルでも対円でも大きく下落しています。
ラベル:
モラルハザード,
ユーロ危機,
経済学,
政治と選挙と民主主義,
中央銀行
2011年10月31日月曜日
元ゴールドマンのクオンツ物理学者、ウォール街の偽善嘆く
10月31日付ブルームバーグの書評です。
ゴールドマンサックス・グループでクオンツファイナンス責任者を務めた素粒子物理学である著者のことば、
「リスクを取らずに成果が出せると思うな、損失の可能性なしに利益が得られると考えるなとわれわれはかつて教えられてきた」
にもかかわらず、
「今は縁故資本主義、利益は個人のもの、損失は社会で共有という現状、企業助成政策などを甘受している」
という箇所は、特にリーマンショック後の、米国政府による見境のない市場経済への国家関与をさしていると思われます。筆者のいうとおりですが、モラルハザードという点で日本のほうがより深刻であることをわれわれは反省しなければならないと思います。
古くはダイエーにはじまったモラルハザードは、JAL,東京電力へと続こうとしています。企業という形をしていないかも知れませんが、農業、医療、介護・・・もまたモラルハザードの根城です。
共産主義よりも資本主義のほうが優れた制度であるという命題には、モラルハザードが起きないという前提があることを忘れてはなりません。
ゴールドマンサックス・グループでクオンツファイナンス責任者を務めた素粒子物理学である著者のことば、
「リスクを取らずに成果が出せると思うな、損失の可能性なしに利益が得られると考えるなとわれわれはかつて教えられてきた」
にもかかわらず、
「今は縁故資本主義、利益は個人のもの、損失は社会で共有という現状、企業助成政策などを甘受している」
という箇所は、特にリーマンショック後の、米国政府による見境のない市場経済への国家関与をさしていると思われます。筆者のいうとおりですが、モラルハザードという点で日本のほうがより深刻であることをわれわれは反省しなければならないと思います。
古くはダイエーにはじまったモラルハザードは、JAL,東京電力へと続こうとしています。企業という形をしていないかも知れませんが、農業、医療、介護・・・もまたモラルハザードの根城です。
共産主義よりも資本主義のほうが優れた制度であるという命題には、モラルハザードが起きないという前提があることを忘れてはなりません。
2011年10月24日月曜日
住宅ローンで債務超過の借り手を救済へ-米国政府
米ウォールストリートジャーナルの臨時ニュースです。
http://online.wsj.com/article/SB10001424052970204346104576638931114550132.html?mod=djemalertNEWS
資本主義陣営である米・欧・日などのなかでは、モラルハザード的な政策が最も受け入れづらい米国で、極めて異例な「自己責任・結果責任を問わない」手段が取られようとしています。
共和党側、とくにティー・パーティーの出方、反応にも注目ですが、オバマ政権の動きに、しのごの言ってられない、のっぴきらない状況を感じざるを得ません。
ギリシャという国が相手か、住宅ローンを借り過ぎた相手か、随分異なるように見えますが、稼ぐ力以上の生活に嵌ってしまった浪費家を助けざるを得ないという事情ではほぼ共通です。
米国財政の更なる不健全化という意味では明らかにドル安要因、ただし景気悪化に歯止めがかからない程度であればマネーサプライは上昇せず、ドル高要因と減殺されます。
【追記】今朝10/25(火)朝のNHKニュースで、ウォールストリートジャーナルのスクープを追認する報道がありました。そのサイトを添付します。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20111025/t10013482551000.html
http://online.wsj.com/article/SB10001424052970204346104576638931114550132.html?mod=djemalertNEWS
資本主義陣営である米・欧・日などのなかでは、モラルハザード的な政策が最も受け入れづらい米国で、極めて異例な「自己責任・結果責任を問わない」手段が取られようとしています。
共和党側、とくにティー・パーティーの出方、反応にも注目ですが、オバマ政権の動きに、しのごの言ってられない、のっぴきらない状況を感じざるを得ません。
ギリシャという国が相手か、住宅ローンを借り過ぎた相手か、随分異なるように見えますが、稼ぐ力以上の生活に嵌ってしまった浪費家を助けざるを得ないという事情ではほぼ共通です。
米国財政の更なる不健全化という意味では明らかにドル安要因、ただし景気悪化に歯止めがかからない程度であればマネーサプライは上昇せず、ドル高要因と減殺されます。
【追記】今朝10/25(火)朝のNHKニュースで、ウォールストリートジャーナルのスクープを追認する報道がありました。そのサイトを添付します。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20111025/t10013482551000.html
2011年10月11日火曜日
ノーベル経済学賞にサージェント氏とシムズ氏
ウォールストリートジャーナルは、受賞者であるふたりの米国人の功績を、いわゆる合理的期待形成理論を打ち出したことだけにとどまらず、統計学の応用によって、マクロ経済学は、「サージェント=シムズ以前」と「以降」に分類されるほどだとの称賛を引用しています。
一方、フィナンシャルタイムズは、インフレターゲットや量的緩和(QE2などの時間軸効果)のコミットなど、中央銀行の政策目標がガラス張りであることの良し悪しについての分析において、このふたりの受賞者の研究成果が大いに役立つことを指摘しています。
財政・金融による恣意的な景気刺激策は、長期的には勿論、短期的にも意味が無いと説く、合理的期待理論は、レーガン政権下の経済運営に大きな影響を与えていた筈ですが、実際には、社会保障費などの削減以上に国防関係費が嵩むという経過を辿り、当時の米国経済は、オールド・ケインジアン的な枠組みで景気を回復させてしまいました。
80年代後半の我が国のバブル経済が崩壊してから、財政政策は平時経済では有り得ない程度の赤字を続け、昨今財政破綻の問題が起きている欧米諸国のどこよりも悪い水準に至るまでになっています。この20年間、合理的期待理論が日本経済の失速をどのように解説できるか?本質を穿つ難問ゆえ、別の機会に譲らせていただきたいと思います。
より現実的でわかりやすい実例は、リーマンショックからの米国経済の立ち直り、世界経済の立ち直りに、惜しみない財政・金融政策は、大いに貢献していたのではないかという観察です。幸いなるかな、労働市場も、金融市場の参加者も、サージェント氏が想定していたほど、合理的に行動はしていなかったということです。
しかし、それが長期的に、恒久的に有効ではない、、、、という至極当たり前のことが、欧米両側で発生している債務危機(ソブリン危機)です。
民間銀行の問題を国家権力(の協力)によって一時しのぎは出来た。が、問題の所在が国家権力のレベルに格上げされると難易度は比較になりません。
欧州通貨の相場については、一時しのぎで対円または対ドルで戻っているときは、売りから入るチャンスだと考えられます。収束にはかなりの時間を要し、相場の変動幅が大きい状況が意外と長く続くと予想します。
一方、フィナンシャルタイムズは、インフレターゲットや量的緩和(QE2などの時間軸効果)のコミットなど、中央銀行の政策目標がガラス張りであることの良し悪しについての分析において、このふたりの受賞者の研究成果が大いに役立つことを指摘しています。
財政・金融による恣意的な景気刺激策は、長期的には勿論、短期的にも意味が無いと説く、合理的期待理論は、レーガン政権下の経済運営に大きな影響を与えていた筈ですが、実際には、社会保障費などの削減以上に国防関係費が嵩むという経過を辿り、当時の米国経済は、オールド・ケインジアン的な枠組みで景気を回復させてしまいました。
80年代後半の我が国のバブル経済が崩壊してから、財政政策は平時経済では有り得ない程度の赤字を続け、昨今財政破綻の問題が起きている欧米諸国のどこよりも悪い水準に至るまでになっています。この20年間、合理的期待理論が日本経済の失速をどのように解説できるか?本質を穿つ難問ゆえ、別の機会に譲らせていただきたいと思います。
より現実的でわかりやすい実例は、リーマンショックからの米国経済の立ち直り、世界経済の立ち直りに、惜しみない財政・金融政策は、大いに貢献していたのではないかという観察です。幸いなるかな、労働市場も、金融市場の参加者も、サージェント氏が想定していたほど、合理的に行動はしていなかったということです。
しかし、それが長期的に、恒久的に有効ではない、、、、という至極当たり前のことが、欧米両側で発生している債務危機(ソブリン危機)です。
民間銀行の問題を国家権力(の協力)によって一時しのぎは出来た。が、問題の所在が国家権力のレベルに格上げされると難易度は比較になりません。
欧州通貨の相場については、一時しのぎで対円または対ドルで戻っているときは、売りから入るチャンスだと考えられます。収束にはかなりの時間を要し、相場の変動幅が大きい状況が意外と長く続くと予想します。
登録:
投稿 (Atom)