2009年3月24日火曜日

最大1兆㌦、官民投資プログラムを発表

これで果たして株式相場、不動産相場は、大底を打つのか?その分析の前に、ガイトナー財務長官がウォール・ストリート・ジャーナル紙に寄稿した論説の極々一部を御紹介します。

「一国家として、我々アメリカ人は借金をし過ぎたのだ。金融システムをして無責任なリスクを追わしめた。かような意思決定は、どちらかと言えば慎重で責任感のある普通のアメリカ人や中小零細企業のオーナーたちにダメージを与えている。実に不公平であり、わが国民が憤るのは無理もない。」

無責任な大手金融機関が貸し渋らざるを得ないために、借入に慎重だった責任感のある個人零細が最終的かつ極大的な被害に見舞われるのは理不尽だ・・・この理屈、慎ましい生活をして資源や農産物をせっせと輸出している新興国の通貨が、持続不能な大量消費が破綻して信用収縮を起こした震源地米国のドルに対して、暴落したままだという皮肉と通ずるものがあります。

途中、民間資金を導入することで、(不動産系)不良債権の譲渡価格が正当化できる・・・という件(くだり)があり、

「片やリーマン破綻によって招かれた壊滅的な被害を受け入れるという選択肢、片やAIGの如き組織に兆円規模の血税を注ぎ込むことでしか経済を危機の大きさから守れないという選択肢。米国は、この両極端よりも優れた選択肢を選ぶに値する国だ。」

まだまだ抽象的だとの批判を覚悟して結んだガイトナー財務長官の論説は、“演説の国”アメリカを思わせる言葉の力を持っています。実現の可能性、効果の程度には当然疑問が残るものの、これから先は、リーマンもなければAIGもないとの主張は、とても雄弁な「安全宣言」です。

最後に、ブログ読者の最大の関心事:「これで大底を打ったのかどうか?」まず、少なくとも日本の株価は、たとえ米国が本格反転してくれても、ついて行けないと考えられます。言わば「逆デカップリング」の我が国。その理由は過去記事をご参照下さい。

米国について。民間資金の導入が、政府資金が足りないことと、上述の不良債権移転価格の正当化と、二つ意味があります。「正当な条件で不良債権処理を進めること=巨額の債務超過を認めること」・・・市場参加者は既に気づいている実態を白日の下に晒さす事態は、当プログラムで乗り越えられるのか?この各論部分までを議会制民主主義国家の金融当局のトップに突き詰めるのは、トップが誰であっても酷。議会制民主主義国家でバブルが弾けたときに、金融を政局にしてはならない、というのが「失われた10年」の日本の最大の教訓だというのが私の意見。しかしこの教訓を学べるのは独裁国家しかない。

ガイトナー財務長官は、「官民投資プログラム」はスウェーデン(ほど単純ではない現在の米国金融のシステム)の教訓と、日本(ほど不良債権処理に時間を掛けたら経済停滞は深刻)の教訓から作り上げられたアイデアだとも言っています。
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2009年3月23日月曜日

二世、三世、だけじゃない

西松建設疑獄は、検察の意図が外れたかどうかは別として、政治とカネの問題を思い出させてはくれました。つまりそれは、当ブログでしばしば指摘している「失われた10年」の政治改革が何だったのか?政治資金規正法の改正の繰り返しに意味があったのか?ということ。

政治改革が、小選挙区制と企業献金の合法化(注)であったとすれば、政治改革の成果は、ウン億円の価値とも言われる選挙基盤だけには世界的にも稀有な高税率の法人税が掛らないことも相まって、これまた世界でも稀なる世襲型議会制民主主義だということになります。

(注)合法化≒脱法手段の提供

このような永田町で気を吐く稀有な政治家、田村耕太郎氏と今夜、再会。

刺激的な会話の数々は、流石の「七転び八起き」ブログでもご紹介できません(汗;)。わたしのブログと主張が一致するなんて申し上げると、田村先生が自民党に居づらくなるでしょうから。。。

参議院議員田村耕太郎公式ブログを、今夜から貼り付けております。併せてお読みください。
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ガイトナー財務長官、去就を賭けて

米国金融システムの強化策を発表する予定。外国為替市場の注目が集まっています。

AIGの巨額ボーナスに対して、公的資金(≒TARF)を利用した金融機関のボーナスには90%課税をするという法案を可決した米国下院。ガイトナー財務長官は、バーナンキFRB議長共々、「AIGの巨額ボーナス支給を何故事前に阻止出来なかったのか?」という問題で叩かれるべく、米国下院での議会証言も予定されています。

ガイトナー財務長官が叩かれたのは、①脱税疑惑発覚で長官任命に手古摺ったこと、②去る2月の金融システム強化策の発表内容が具体性に欠け株式市場が暴落したこと、に続いております。ちなみに、当ブログで取りあげた「中国=為替操作国」発言は財務長官任命前のことでした。

2月に叩かれた「官民一体ファンド」での住宅ローン証券化商品を含む不良債権の買い上げについて、今夜具体策が出ることが予想されています。民間が1㌦出せば、公的資金(預金保険機構)が4㌦まで出すという案のようですが、AIG巨額ボーナス支給問題が悪影響して「民間の投資家は、公的資金を活用するビジネスに乗りたがらない」(WSJほか)という憶測も出ております。

本日日本時間午後9時45分に予定されているガイトナー財務長官の会見。今回も空振りに終われば、FOMC以降のドル安の流れが加速する可能性、また過去2週間連続して好調だった米国株式が大幅調整する可能性があるだけでなく、財務長官の更迭を経て、オバマ政権がある種の無政府状態に陥るリスクがあります。無政府状態という表現は、当ブログで主として我が国の永田町を描写してきたものですが、

「金融が政局になってしまうと議会制民主主義が機能不全に陥る」

のは日米欧似たり寄ったりです。近々同様の問題が日本もヨーロッパも襲うということで為替相場は引き続き不美人投票が続くものと思われます。

ところで、何故、金融が政局になると議会制民主主義が機能不全に陥るのか?

当ブログでしつこく批判しているモラルハザードの問題が頭をもたげることも大きな理由のひとつ。

「金は天下の回りモノ」の実例を海外メディアから2つご紹介します。

★中東ファンドがダイムラー株を9%取得(FT)
Aabarインベストメント社はアブダビの“半”政府系ファンド。殆どの中東系またはアジア系SWFが、落ちてくるナイフを早く拾いすぎてナンピン出来ない状態かと思いきや、まだニューネームがありました。自動車が売れないから石油も売れない。したがって、産油国による自動車産業の救済の余裕はないと思っていただけに意外な臨時ニュースでした。

★米国の複数の生保が、AIG救済を批判(WSJ)
生保業界の競争を歪めるとして、バーナンキFRB議長にAIG破綻を直訴。

当然です。我らがトヨタ、ホンダのためにも、GMを早く潰しましょう。
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2009年3月19日木曜日

FRB、米国債3000億㌦購入-驚愕のFOMC

市場関係者は予想外の国債買いオペ発表に驚き、為替相場は一転円高ドル安。しかし、当ブログや弊社セミナーを御利用下さっている方々にとっては「遂にこの日が来たか・・・」というご感想だと思います。一番驚いたのは、白川日銀総裁だと思うのは私だけ!?

米FOMC直前となった我が国の金融政策決定会合。こちらは国債買いオペ1.8兆円/月への増額>(年額で現在の16.8兆円から21.6兆円へ)を決めたが、直後の記者会見で白川総裁は「買い取り額は限界に近い」と述べています(今朝の日経朝刊)。

これに対して米連邦準備制度は、

★3000億㌦(約30兆円)の長期国債を買い取り(今後数カ月で)

★住宅ローン債権(ファニーメイやフレディマックの証券化商品など)の買い取りを倍増(7000億㌦⇒1兆4500億㌦)

日米の中央銀行の桁違いの「事実上の国債引き受け」に対して、米WSJ紙と英FT紙は異なる評価を与えています。

WSJ紙は、

「中央銀行の役割は、議会の承認を得ずに、金融危機に対して積極果敢かつ融通無碍に動けることだと印象付ける発表だった。殊に、米国議会では血税が更に金融機関救済に使われて良いのかどうか“政局”になりかけている状況において、中央銀行の柔軟性は一層重要だ」

と肯定的なニュアンスを感じましたが、一方FT紙は、

FRBの貸借対照表は、約3兆㌦(≒300兆円)に膨らむことになる(一挙に40%近く膨張)。米国債と住宅ローン債権だけでなく、信用市場活性化スキーム(=1兆㌦)を加えると、約4兆㌦(≒400兆円)。すなわち米国経済の三分の一の規模だ」

とインフレリスク(≒米国経済が好転した際にマネーサプライ【通貨供給量】を制御出来なくなる恐れ)を指摘。実際、金価格はFOMC後に6.6%も上昇し、1トロイオンス=942.90㌦に急騰しています。

有名エコノミスト(≠有能経済学者)の多くが鵜呑みにしているフィリップ曲線(インフレと失業率が反比例するという“経験則”)があります。確かにインフレ期待(≠今目の前のインフレ)は、金の延べ棒への投資家だけでなく、製造業をはじめ卸売業、小売業、そして勿論、不動産業にも設備投資や在庫投資をすると儲かるという気分にさせてくれます。安く仕入れて高く売れると思うから、または店子の収入が上がるから賃料を上乗せ出来ると思うから、です。

理屈では確かにそう。しかし、現実はどうでしょう。今年より来年のほうが物価が上がる。更に再来年はもっと上がる。そういう期待が蔓延したとしても、自動車を買う人が増えるでしょうか?デジカメやエアコンを買う人が増えるでしょうか?

失業や貧困、格差や需給ギャップの問題を、マクロ経済の問題としか見なさない伝統的な枠組みにこそ致命的な欠陥があるのです。

加えて、なまじ情報と統計が整備された日米のような環境においては、貨幣錯覚は成り立ちづらい。ばらまき政策など公的関与は「景気の駆け込み寺」たりえないという本音が、有名エコノミスト(≠有能経済学者)の間で殆ど語られないのは残念。

最後に、このブログは「FXダイアリー」であることを忘れるわけにはいきません。国債買い切り(マネタイゼーション)は実態的に自国通貨売りを目指す単独介入に他ならない。FOMCの結果、対ドルで円は買われたがユーロはもっと買われていることに注目。中国(人民元)は格別として、日銀と欧州中央銀行(ECB)とで、どちらが節度を守れるかが勝負。

そしてこれは中央銀行だけの問題ではありません。

「中央銀行の金融緩和がまだまだ足りない」

という政治から、

「国民ひとりひとりが他人に買ってもらえるものを作ろう、または売ろうという原点に立ち返らない限り失業や企業倒産は避けられない。自分の不幸を他人のせいにするな!」

と国民を叱咤出来る政治に転換出来る国の通貨が生き残る。私が長期的にはやはり円安と一貫して主張するのは、このような政治家が日本に現れ当選する可能性がゼロに等しいからです。
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