2012年2月8日水曜日

欧米の資本主義と大東亜の資本主義

英FT紙の論稿。資本主義それ自体が危機なのではない。欧米の資本主義が危機なのである。欧米の資本主義は、アジアからもっと学ぶべきだ、という主張です。

日本型資本主義のように政府が程よく市場に介入するやり方がアジアでは主流であって、これまで余りにも市場に任せ過ぎてきた欧米の政策担当者やオピニオンリーダー達は、日本、韓国、中国、台湾、香港、シンガポールを視察し学習すべきだ、と言われると、20年以上も自信喪失一本槍だった日本人としては嬉しくなくもありません。しかし、上記の各「国」の資本主義を一口に「アジア型」と括るのは流石に無理があります。

ただ、この論稿のなかで最も刺激的なのが、当ブログで長年一貫して主張している金融業の肥大こそが資本主義のメリットを台無しにするという主張。明快にして雄弁です。

「同じ知能を持つエンジニアが二人いたとして、金融エンジニアの給料が製造業のエンジニアの給料の5倍から10倍という馬鹿げた事態が何故起こるのか?」

それは、

「(ナショナルブランドの)金融機関はリスクマネーにレバレッジを賭けて実力以上に儲けられた反面、10年ごとの危機で生じるお決まりの損失については税金で救済されるからである」

「中央銀行によって負債が保証されている金融機関は、いつの時代も最大級のフリー・ライダーとなった」

わたしは、この主張は100%正しいと思いますが、よって欧米の金融行政が間違っていて、日中の金融行政が正しいとは全く言えない点は注意を要すると思います。

我が国の金融当局の公的資金について、そのものが間違いだと(モラルハザードの観点から、、、非金融セクターへの相当な痛みを覚悟してでも、、、潰れるべき銀行は潰れていくのを放置したほうがよいと)までは言わないにしても、公的資金の入れ方には工夫の余地があっただけでなく、そのような事態を招いたのがそもそもオーバーバンキング(銀行が多すぎる、銀行員が多すぎる、銀行員の給与が高すぎる)に原因があり、本論考のコンセプトとは逆に、政府が金融業界に介入しすぎた(護送船団方式)ゆえの過保護の結果であることをより重要視しなければならないと思います。

以上がポイント(欧米の資本主義の戦略的誤り)の一つ目・・・

《欧米は資本主義を人々の幸福度を高めるための実用的な道具としてではなく哲学的な意味で(共産主義よりも)良き概念であると看做してきた・・・》

で、残り2つの戦略的誤りは、《20世紀初頭の共産主義の脅威を体験したことからの教訓を忘れてしまったこと》と、《アジアを含む第三世界に資本主義を「伝道」してきたときに、「創造的破壊」の功罪について十分な教育を施さなかったこと》としています。

前者は、欧米の多くの国々で悪化している雇用問題と貧富の格差を、後者はデジカメの普及で倒産したコダックを見れば、それはそれでなるほどなと思います。が、これらふたつについても、中国の日本という似ても似つかぬタイプの資本主義が元祖資本主義の欧米のお手本だと言うのは余りに無理があります。

実はこの論稿の著者は、国立シンガポール大学のリー・クアンユースクールの学長なので、我田引水もあるのかなと思います。しかし、論稿そのものは修辞学上も優れていて説得力に富みます。

みなさんのご意見はいかがでしょうか?もしお時間と余裕があれば、是非ご一読ください。
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2012年2月6日月曜日

アラブの春が中国に近づきつつある

ニューヨーク・タイムズ紙オンライン版のなかのブログです。

http://rendezvous.blogs.nytimes.com/2012/02/05/the-arab-spring-is-coming-to-china/

ミュンヘンで開催中の世界安全保障会議の中での一幕。よくもまあ、こんなパネルディスカッションが成立したなあと思わせる構成員は、4年前の米大統領選でオバマ現大統領の対立候補だった共和党のマケイン上院議員と中国の外務副大臣、そしてなんとコーディネーターを、かのキッシンジャー元国務長官(筆者の世代以前には極めて印象の強いニクソン政権の最重要人物のひとり)が務めています。

ベトナム戦争の終結、金兌換停止、変動相場制への移行という当ブログが扱うべき重要テーマにおいてもニクソン=キッシンジャー体制は大いに研究すべきテーマであるし、最近話題の映画のタイトルロールであるエドガー・フーバーとの絡み合いもまた米国史の暗部ということで熱い視線を送りたい部分です。
http://phxs.blogspot.com/2010/02/blog-post.html
http://phxs.blogspot.com/2010/02/blog-post_05.html
http://phxs.blogspot.com/2010/02/blog-post_26.html
http://phxs.blogspot.com/2010/03/blog-post_08.html

それにしても、核開発疑惑でイラン経済制裁という点でも、米国(+欧州+日本)と対立している中国(+ロシア+インド)が、事実上の戦争である(BBC)とも言われるシリアにおいても安保理決議でロシアとともに拒否権を発動している状況のなかで、この企画が中止にならなかっただけでも十分有意義ですが、マケイン氏が「敵国」の外務官僚のナンバー2に面と向かって「(チベットで相次ぐ焼身自殺が、チュニジアのジャスミン革命の触媒となったのと同じように)中国にアラブの春がもたらされつつある」と言い切ったのは非常な重みがあると思います。

さて、中国の外務副大臣はどう言い返したでしょうか?「中国でアラブの春というのは幻想を超えるばかげた発想だ。。。中国は100年以上も外国勢による侵略と占領に屈してきたのだから、内政干渉に対しては黙っていないぞ」。

後段の部分は、北朝鮮からもよく聞こえてくる科白です。

イランとシリアを契機とした大国間の対立軸は、ソビエトやベルリンの壁が壊れる前の構図に戻った感もあります。ただし、もちろん大きく違うのは経済や情報技術であり、今は中国は、深刻なバブル崩壊の真っ只中かも知れませんが、社会主義が建前、資本主義が本音、より正確には半奴隷制、という2つないし3つの顔を持つ得体の知れない国へと変貌していることに注意が必要です。
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2012年2月1日水曜日

増収減益のアマゾン・ドット・コム

独占・寡占の仲間入りを賭けて薄利多売に専心するのはFX業界だけではないと思い知らされる決算発表でした。

2010年のアマゾンの売上は前年比35%の上昇。にもかかわらず、利益は57%の減少でした。原因は、ウェアハウス投資(本の倉庫のことなのか、クラウドサーバーのことなのか、両方か?)、技術投資、そしてキンドルであるとしています。

キンドル関連の数値はすべてが公表されているわけではありませんが、ホリデーシーズンの売上は前年比177%増とのこと。しかし、キンドル一台売るたびにアマゾンは15ドル赤字だという推計もあるようです。それを将来、デジタルブックや音楽配信などで取り戻すという考え方なのですが、日本の携帯端末と同じようなモデルが成り立つのかどうか、iPadもあり、不透明と言わざるをエません。

無制限即時発送を約束している「プライム・プログラム」も、年会費79ドルを徴収しても尚11ドル(一会員あたり)赤字なのだそうですが、同会員はプログラム加入後は従前比3倍もアマゾンを使うという推計もあります。

詳しくは、WSJの記事を御覧ください。
http://online.wsj.com/article/SB10001424052970204740904577195371567545142.html?mod=WSJ_business_LeftTopHighlights
日本語の記事は例えばこちら。
http://japan.cnet.com/news/business/35013651/

全然話が変わりますが、今朝一番気になったのは、ユーロ圏が通貨統一後失業率が最悪になったという記事です。こちらはFT。
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/dca5fe48-4bf3-11e1-98dd-00144feabdc0.html#axzz1l5fAlXZ0
特にひどいのが若年失業率で、スペインとギリシャは50%に接近しています。このような状況が放置できないと政治や民意が動くとなると、ユーロ危機問題の解決の経路として、救済基金の増額の可能性(もともと低い)よりも、ユーロ分裂(による各国の財政金融政策の柔軟性の取り戻し)の可能性に振れると見るべきかも知れません。
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2012年1月25日水曜日

ビッグマック指数の最新版

今月は英エコノミスト誌恒例のビッグマック指数が更新され発表されています。
http://www.economist.com/blogs/graphicdetail/2012/01/daily-chart-3
もともと何か特殊要因でハンバーガーの「相場」が割高だったブラジルは、欧州危機後のレアル暴落にもかかわらず、「平均値的通貨」であるドルや円に比べて依然極端な割高が続いていること、1ユーロ=1.2スイスフランまで無制限介入を約束して度肝を抜いたスイスもまだ、割高さトップの地位に君臨していることなど、様々なことが見えてきます。

2008年に、この「七転び八起き」ブログを始めたときに、同時にオンラインセミナーも始めており、当時からユーロの割高をしつこく指摘してきました。その論拠の一つが、購買力平価であり、その簡易版であるビックマック指数もプレゼンに活用させてもらいました。

オンラインセミナーのオンデマンドは期限か切れておりますが、より詳しい内容は、このブログの過去記事にもあります。一例がこちら

先々週ついに97円割れ寸前まで下落したユーロも、その後の一週間半で101円台まで急速に買い戻され、対ドルでも1.3台を回復しています。しかし、OECDの指摘(新興国への警告)の通りで、ユーロが最悪期を脱したと見ているひとは殆どいないでしょう。それだけ、円キャリー(またはドルキャリー)によるユーロバブル(またはポンドバブル)が常軌を逸していたわけであり、その治癒には相当の時間がかかるものと思われます。

その反面、デレバレッジ、金融機関の機能の低下が世界中に蔓延しそうな今日この頃、ハンバーガーの値段が極端に安い国の通貨はもっと見直されてもよいと思います。

ビッグマック指数は、他にも面白い切り口を提供してくれています。ずっと円高だったため、割安感もなくなってしまった日本(円)ですが、実は、最低賃金で買えるビッグマックの個数は世界一なのだそうです。何かと、生活保護の給付水準に比べて最低賃金が安すぎると議論されることが多い現在、日本の最低賃金の高さを目立たさせる事実になっています。ただ、ここで大変失礼ながら、マクドナルドのパートの皆さんの給与水準が法定ぎりぎりに近いと仮定すると(注:それでもマックのバイトが人気なのは、時間の柔軟性にあります。これ、重要)、高い最低賃金で作られる日本のハンバーガーが安いのは、効率性(労働者がテキパキしている。ひっきりなしにお客さんが来るので原材料のロス率が低い)の高さや、または諸外国比でビッグマックの大きさが小さい(日本が本当にそれに該当するかどうか知りませんが、オーストラリアのビッグマックはカナダのそれよりかなり小さいらしい)、材料をけちっている(本部のバイヤーの買い叩きが特に強烈であるとか、質を「選んでいる」とか)などなどの要因も考えられます。

ファーストフードのパート店員の給与水準が最低賃金レベルであるという事実が概ね世界共通であるという仮定から、エコノミスト誌自身も、実際の為替レートと、ビッグマック指数が乖離するのが、一人あたりGDPの違いによるところが大きい と分析しています。

この点、わたしが重要だと思うのは、「逆は必ずしも真ならず」であって、今日、ファーストフードのパート店員だけが最低賃金レベルではなくなってきており、製造業の現場では部品のモジュール化が、非製造業の「現場」ではIT化が、それぞれどんどん進み、これにグローバル化を掛け算すると、「われこそは最低賃金とは無縁の中流ホワイトカラーだ」と思い込んでいた中途半端な知性の人たちの雇用がどんどん失われていく傾向にあることです。ビッグマック指数が平均以上の国の「中間層」のひとたちは注意が必要です(この議論には、貿易黒字国・貯蓄超過国の海外からの配当利子などの所得が一人あたりGDPや実際の為替に与える影響について含めておりません)。

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