2020年8月13日木曜日

ウィルオンライン(Daily WiLL Online)の連載がはじまりました

読者の皆さん、例年とは異なるお盆をいかがお過ごしでしょうか???  

近年は七転び八起きブログのスタイルも大きく変わってきておりますが、それでもますますのご愛読ありがとうございます。  

ブログのご縁もあって、月刊誌WiLLで有名なワック株式会社から、毎月の連載の話をいただきました。 

 ただし、オンラインメディア掲載のみです。 

 第一回目は、 


正直、いつもの、、、とくに最近の、、、ブログよりも一段と長めで、そのいっぽうでトーンは軽めになっています。どうかご笑読ください。

お盆の時期や年末年始は、日本と戦争のかかわりについて書くことが何度かありました。


題して、


総力戦研究所については、元東京都知事の猪瀬直樹さんが、昭和16年夏の敗戦という、最近新版が上梓された著書のテーマになっていることを最近知りました。

申し訳なくもまだこの本を読めておりません。そのうえで、アマゾンの最低評価のカスタマーレビュー(猪瀬直樹氏への批判意見)のなかで、


が参照されていたことを申し添えます。

決して右寄りでも左寄りでもないバランスがとれた日本史の教科書ですら、大東亜戦争前夜とその終結にまつわるエピソードや脚注たちには首を傾げざるを得ない断定がいくつかあります。現代史は歴史ではない、現代史だからこそ歴史ではないと言われるいっぽうで、これほど最近の、教訓に飛んだ事実もまだ認定できていないことにあらためて驚かざるを得ません。米中の新冷戦のなかで、日本がどのように生き延びてゆけば良いのか???少なくともそれが簡単ではないことだけは思い知らされる著作群です。

2020年5月15日金曜日

新型コロナウイルスの復習とアヘン戦争の復讐

新型コロナウィルスはアヘン戦争への復讐?

司馬遼太郎さんの「花神」の主人公村田蔵六(のちの大村益次郎)とやんごとなき関係となったシーボルトの娘イネと、長回しとしては四度目の登場シーンが、長崎上海間を往来する英国籍の便船(飛脚船)の船上です。

蔵六はイネの手に引かれて船長と面談します。てっきり英国人だと思い込んでいたら、実はアイルランド人船長だったというところから、

「イギリスが中国でやったアヘン戦争などは、アイルランドの例でいえばなんでもない。インドでやりつつあることも、すでに彼等がアイルランドで経験して味をしめたことが基礎になっている」

この船長が、大英帝国に対して、怒り心頭恨み骨髄で、堰を切ったかのごとく啖呵を切る、その一部です。司馬遼太郎さんの歴史観そのものではありません。なぜなら、司馬遼太郎さんは、アヘン戦争について何ページも割いて《伏線》を敷いているからです。

《伏線》を振り返れば、司馬史観としては、数々の帝国主義戦争のなかでも、アヘン戦争が特に悪質なものであったこと。さらにアヘン戦争が対岸に発した危機意識こそが幕末の尊王攘夷と佐幕開国の対立のエネルギーの源流であり、しかもその後の新政府と旧幕府の戦いが、往々にして自ずと植民地として列強に分割支配されがちになるところ、危機意識と胆力を兼ね備えた人物たちが奇跡的な活躍をして中国の二の舞を演ずることを食い止めた。とにかく、幕末期のリーダーたちがはぐくんだ危機意識の最大の貢献者がアヘン戦争による中国の惨状と犠牲だということが読み取れます。

人道的な戦場などあるはずがなく、その観点で戦争に優劣をつけることは出来ません。しかし、戦争の動機として、中国茶を消費し過ぎて膨れ上がった貿易赤字を帳消しにするために、インドで生産したアヘンを中国人に売り付け、シャブ漬けにした。この三角貿易という名の錬金術の目的は、ひとつにはアメリカ独立戦争への準備もあったと言われています。

これほど動機が不純な戦争がほかにあるだろうかと感想を抱いてしまいますが、今度はアメリカ独立戦争に続く米英戦争は原住民(アメリカインディアン)を対立させる典型的な代理戦争の鋳型に押し込んだものだったことにも敷衍しておきたいところです。

アングロサクソンがなるべく血を流さず富と利益を収奪するために、さもなければ憎しみ合う必要もなかった原住民を巻き込むという帝国主義戦争の構図こそが、今日でも未解決のアフリカや中東での民族対立や部族対立の原点です。



このブログは、気持ちとしては、これまで12年のあいだ一貫して、一面的なものの見方や、《陰謀説》のような「多くの事柄を簡単に説明できる《嘘》」を批判してきたつもりです。

新型コロナウィルスが、中国武漢市の海鮮卸売市場の蝙蝠(こうもり)からではなく、武漢ウイルス研究所から漏れた(漏らした)ものであるという《陰謀説》は、《陰謀説》にありがちな根拠ゼロとは言い切れず、イスラエルの(元)モサドや米国のCIAによる取材は相当程度なされていると思われます。

そのうえで、意図せず漏れたのか、意図して漏らしたのかでは、月とスッポンほどの違いになります。後者の可能性は著しく低いと言っておかないわけにはいかないでしょう。しかも、新型コロナウイルスについてはまだまだわかっていないことがたくさんあります

そのうえで、、、

司馬遼太郎さん並みの、「事実関係を取材し尽くしたうえでの、事実とは無矛盾の虚構」を描くことが許されるなら、結果としてアングロサクソンの重症化率と致死率が高いウイルスは作られたものであり、150年の年月を臥薪嘗胆して、アヘン戦争の仕返しだったのではないかと。

3月から《連載》してきた新型コロナ通信では、随所で、現代中国の帝国主義的、自由と言論を抑圧する態度、そしてWHO(世界保健機関)との癒着を批判してきました。その延長で、アヘン戦争云々の《陰謀論》を説いているわけではありません。アヘン戦争の文脈の先には大東亜共栄圏があります。東アジア圏の感染率、死亡率が著しく低い(※)ことをもはや素通りできないのではないでしょうか。やや飛躍していますが、行間を読んでいただければと思います。

新型コロナウィルスに関するこれまでのブログのまとめ

新型コロナウイルスについてはまだまだわかっていないことがたくさんあります、と書きました。いまよりももっとわかっていなかった3月から書いてきたことは、当時としては異端で、ともすれば炎上しかねない内容ばかりでした。しかし、その後の各国の感染者数の推移、死亡者数の推移、ロックダウンの開始と中断、、、これらを冷静かつ公平に分析すれば、わたくしが申し上げていたことは首尾一貫していて、なけなしの情報から引き出した仮説として、現時点でも色褪せていないと自負します。

まだわかっていないことのひとつには、人種による違いは有意か?有意だとしたら理由はなにか?というのがあります。これがアヘン戦争陰謀論のヒントでした。

ほかにも、優先順位に従えば、他の疾患との関係、年齢層別、男女別、血液型別などで、統計上の有意が疑われていて、男女の罹患率の違いはXY染色体の違い(Y染色体が進化とともにどんどん短くなってきていること)にまでさかのぼる仮説も出てきています。

しかし、断トツに重要なのは、抗体と免疫についてです。これまでの連載では、ワクチンが利用できるようになるのには18か月程度はかかるだろうという情報を前提としていました。

これは早まるかも知れないし、遅くなるかも知れないですが、さらに悲観的に言えば出来ないかも知れないのです(治療薬は別)。

結論を先に言えば、ロックダウンを徹底させることのメリットは世に言われているほどではなくむしろデメリットのほうが大きいという主張は、この悲観論によりむしろサポートされるものです。

病原体に一度罹患したひとは二度と罹患しないという免疫システムは、抗体が(はしかのように)一生継続すること、抗体の遺伝子(タンパク質)が(抗体が対応しきれないほど)突然変異(≒進化)しないことが前提です。

ウィルスのなかには、インフルエンザウイルスのように、抗体の寿命がはしかよりも全然短いもの、ロタウイルスやノロウイルスのように寿命がゼロ(抗体が生まれない)のものもあります。

きょうのブログの投稿内容は、実を言うと、何週間も前から構想を練っていたものでしたが、WHO(世界保健機関)から優等生呼ばわりされてきた韓国とドイツがロックタウン明けに早くも第二波の兆候を見せている事実を確認して、公開に踏み切りました。

ロックダウンをしない、ソーシャルディスタンスも強く促さないスウェーデンが行っている社会実験を、ほとんどの日本人を含む人類の多くは興味本位に揶揄してきました。

しかし、現実に、二度罹るひとがいる(理由は突然変異体のせいか抗体の寿命のせいかそれら両方かはまだわかっていない)、専門家の間でも新型コロナウイルスの抗体寿命は半年から数年との言われ方であって、ほとんど何もわかっていないに等しい。これらを考えると、スウェーデンの社会実験は、果敢でありこそすれ、無謀ではないと言えます。

(日本株)BCGの接種状況もまた新型コロナウィルスの重篤率、致死率に有意に働いていると考えられますし、以前このブログでも取り上げてきました。日本株を国民の義務として接種させているということで言うと、旧ソ連、イラク、ポルトガル、台湾が該当します。日本株に限定しないと、その範囲は、東欧、南米へと広がります。したがって、これだけでは、東アジア(つまり東南アジアの大半を含むがインドやインドネシアは含まれない)の優位性までは説明し切れません。

※※3月26日のブログ新型コロナの致死率と、トランプの我田引水の末尾に、

ワクチン開発スピードと、病原菌の突然変異(体のうち過去の免疫が機能せず新たな病原となる「株」の出現)のスピード、病原菌(原文ママ)の感染のスピード、、、これら3つの変数が鍵を握ります。

と書きました。これにもうひとつの変数として「抗体そのものの寿命」を付け加えるべきでした。お詫びして加筆訂正します。さらに、「病原体の感染のスピード」のなかには、感染はしたが無症状のまま抗体を獲得した人と接触はしたが感染すらしない(抗体を獲得する必要がない)人がそれぞれどのような割合でいるかというサブ要因があることを加筆します。ただし、抗体を獲得する必要がない人の割合についてはどこかで研究が進んでいるのかも知れませんがデータを入手できません。もっと厳密には、ある特定の個人が、環境とは無関係に、無症状で抗体獲得できる人なのか、抗体獲得不要の人なのか、をラベリングできるわけでもありません。




2020年4月27日月曜日

ロシアルーブルは原油相場の鏡、ビックマック指数は購買力平価の鏡、

きょうは、お読みいただく前に注意していただきたいことがあります。

わたくしが為替相場のフェアバリュー(≒値ごろ感)とか、購買力平価(≒ビッグマック指数)を語るとき、過去何度も相場予想を外しているという実績です。

特に酷かったのは、2008年のリーマンショック前後のオーストラリアドル、ニュージーランドドルについて、2018年のトルコリラについて、です。

いっぽう、大当たりしているのはロシアルーブルについてです。
これまた注意が必要です。
(1)わたくしが占い師として有能なわけではなくて、「購買力平価で見て割安すぎる通貨を(対米ドル)で(押し目)買いするとうまくいく」というのが成り立つのは、世界広しと雖もロシアルーブルくらいだという残念な現実
(2)ロシアルーブルが原油相場との相関関係が強いため、原油相場の循環的な性質が、たまたま購買力平価説を後押ししているというのが現実

ではさっそく、アヴァMT4で原油CFD(画面上半分※)と米ドル・ロシアルーブル(USDRUB 画面下半分)を比べて見てみましょう。



赤い楕円で囲んだ3つは、いずれも、ロシアルーブルが史上最安値を更新した局面です。

2014年は早や2月からクリミア半島(+ウクライナ東部)を巡るロシアとウクライナの事実上の戦争で、ロシアルーブルは年初からじりじりと史上最安値を更新する展開でした(青の楕円)。『じりじり』と表現しましたが、その後の原油暴落で追い打ちを掛けられた「底」(上記チャート上では「天井」)が余りに高く、いまからふりかえると『じりじり』なのですが、当時は多くの外国為替市場参加者が押し目買いの誘惑に駆られ、原油暴落による追い打ちは想定外だったと嘆かれたものでした。

青の楕円の部分は、原油相場下落手動の、原油≒ロシアルーブルの正の相関相場ではないことがわかります。

この先、2016年初頭までの一番底と二番底については、とくに前者は、クリミア半島のロシアによる併合を認めない旧西側諸国によるロシアへの経済制裁の影響と、原油相場下落の影響が混然一体となっています。

この頃、原油相場は、地政学的なリスクより、需要と供給の均衡に翻弄されはじめました。
需要≒世界経済全体の景気-廃プラ問対策-温暖化対策、、、
供給≒OPEC+ロシア(のカルテルの首尾)+米シェール(+加オイルサンド)+代替エネルギー(含む再生可能エネルギー)の価格競争力、、、

需要も供給も、一日や二日で、相場を何割も変えるような性質のものではなさそうなのに、何割も下落して1バレルがマイナスの30ドル以下になったというのが一週間前でした。先物取引(≒デリバティブ取引)の怖いところでもあり、またそのようなオーバーシュート(※)が異常値であると見切った投資家にとっては千載一遇のエントリーチャンスを与えてくれるのも先物取引(≒デリバティブ取引)であるということになります。

このように、例外的な局面(=青く囲った楕円)もあるものの、基本は原油市場の鏡となっているロシアルーブルのビッグマック指数を見ていきましょう。


英エコノミスト誌のビッグマック指数は、毎年1月と7月が基準なので、今回の原油相場とロシアルーブル相場の史上最安値更新(3月19日の81.89!!!)はチャートに反映していません。それでも、ロシアルーブルがビッグマックの値段で見ると、対ドルで61%も割安で、これは調査対象通貨のなかでは南アフリカランドをブービーメーカーとするブービー賞(ワースト二位)であるとのことです。

ロシアルーブルのビックマック指数としての過去最悪値は2015年1月調査の72%割安という記録が読み取れます。いっぽう、2020年1月の実際のロシアルーブルはUSDRUB=61.43とのことなので、現在のUSDRUB=74.70で計算し直すと、対ドル割安度合いは75%となり、記録を更新してしまっていたのです。


さて、冒頭に、、、謙遜も含めてですが、、、「購買力平価で見て割安すぎる通貨を買いとうまくいく」というのが成り立つのはロシアルーブルくらいだ、と豪語しました。

本当でしょうか?

英エコノミスト誌のビッグマック指数の特設サイトは、記事本体を読むためにはメアド等の登録が必要ですが、上記スクリーンショットのグラフィック上で遊ぶだけなら、登録すら要りません。そこで、ロシアルーブルと並ぶ下位集団の通貨をいくつかマウスオーバーしてみてください。

濃い折れ線(ロシアルーブル)に対する色の薄い折れ線に注目します。2020年(1月)の「割安(割高)水準」をあらわす各通貨の赤点(青点)を悪い順にマウスオーバーすると、まず、南アフリカランド、
トルコリラ、

中国人民元、
最後に、チリペソ。
アヴァMT4で投資が可能な通貨のみをピックアップしました。

これだけ見ても、押し目買いチャンスがはっきりしているという点で、ロシアルーブルは特異な存在なのです。

他の新興国通貨と比べて、

「購買力平価で見て極端に割安になると、是正される」

性質は、ひとつにはやはり、原油相場の鏡であるという性質、原油は通貨や金(ゴールド)や暗号資産と異なり(交換価値だけでなく)使用価値がある財であるという点に負うところが大きいのですが、

もうひとつ再訪したいのが、各国の一人当たり国民所得との関係なのです。

ほとんどの場合、購買力平価で割安すぎる国は、割高すぎる国に比べて、一人当たりGDPが低すぎるのですが、

この点でもロシアは例外であるという事実です。

2016年2月のこの投稿は、そうは言っても結局のところは原油相場がどうなるかであろうという落ちで終わっていますが、購買力平価を扱う際に、一人当たりGDPには注意を払うべき理由をくどくどと書かせてもらっていますので、是非もう一度お読みいただきたいと思います。

以上、どう読んでも、原油を買うかわりにロシアルーブルを買いましょう、みたいな記事に読めてしまうところですが、過去の経済危機で起こったことは今回の経済危機でも繰り返されるわけではない点にもまた要注意です。世界同時株安=円の独歩高、では今回はありませんでした。そして、原油先物当月限最終取引価格マイナス、これも誰が予測できたでしょうか。











2020年4月16日木曜日

WHOって誰!? インフェルノ

われらが金髪の《ジャイアン》、ドナルド・トランプ米大統領が、WHO(世界保健機関)への拠出金の支払いを停止するとして、またもや物議を醸しています。

トランプ・フォロワー(注1)のわたくしとしては、「同大統領の初期動作がもう少し早くてしっかりしていれば、重症者数や犠牲者数をずいぶん減らせたはずだ」という言説には、諸手を挙げて賛成することはできません。

そのいっぽうで、WHOの初期動作が遅すぎた、不徹底であったことは、まずもって、批判を免れないでしょう。

WHOが中国を贔屓にしている(注2)と揶揄するのは、行き過ぎかも知れないものの、身から出た錆です。

3月10日㈫付け、七転び八起きFXブログの新型コロナシリーズの記念すべき第一回、ユヴァル・ノア・ハラリ氏の「ホモ・サピエンス小史」と並んで紹介した図書として、ダン・ブラウン氏の「インフェルノ」がありました。

「インフェルノ」については、「ダ・ヴィンチ・コード」ほどは成功しなかったと書いてしまいましたが、それでも世界中に翻訳されて、累計6百万部以上売れているようです。

同じサスペンス物でロバート・ラングドン(注3)のシリーズであっても、「ダ・ヴィンチ・コード」は水戸黄門や暴れん坊将軍よろしく、勧善懲悪物で、敵味方はっきりしている書きぶりでした。「インフェルノ」は、WHOと天才科学者ベルトラン・ゾブリスト(注4)との対立軸で物語は進みます。前者が善玉、後者が悪玉と決めつけられていないのが特徴なのです。あら筋をフォローするのに一苦労する理由(注5)でもあります。

ちなみに、「インフェルノ」は原作のあら筋に対して、映画のほうは、エンディング部分が大きく改変され、勧善懲悪物にされてしまっています。これが、WHOという巨大組織に対する忖度のせいなのか?大ベストセラーの「ダ・ヴィンチ・コード」の映画版が興行収入としては期待通りでなかったことの反省からなのか?は知る人ぞ知るです。

きょうのブログの着目点は、「インフェルノ」の、原作にあって、映画にはない、エンディングに向けてようやく明らかになる「落ち」です。

飛び抜けた才色兼備と、そのことがむしろ災いして招いた幼少期からの数々の艱難辛苦、それを乗り越えるきっかけとして、時を挟んで、シエナ・ブルックスの前に現れた二人の天才の男性。

天才科学者であり、見た目はこの物語の悪役であるベルトラン・ゾブリストは、これまでの研究成果により大富豪のカリスマとなっています。

ゾブリストの思想、教義を乱暴にまとめると、

「人類は今日の人口爆発により共倒れ状態となり、意外に早く絶滅する。」

「危機を乗り越えるための《進化》が必要だが、人口爆発のスピードには間に合わない。」

「人類全体の滅亡を回避し、《進化》のための時間を稼ぐには、《間引き》つまりトリアージュしかない」

ということ。しかも、ゾブリストの言う《進化》は人為的なもの。すなわち、遺伝子操作によるデザイナーチャイルドの発想なのです。

最後の部分は、トランスヒューマニズムと呼ばれるそうです。もうひとつの推薦図書(?)であるユヴァル・ノア・ハラリの「サピエンス小史」では、遠くない将来、スーパーヒューマン(注6)が地球上に現れ、これにより現在の人類(ホモ・サピエンス)は滅ぼされると言います。おそらくですが、ゾブリストの《進化》は、スーパーヒューマンを志向するものだと考えられます。

ざっくり言うと、ゾブリストが命を賭して開発し撒布を企てた人工ウイルスの性質を知って、シエナは身も心もゾブリストから遠のくのですが、そのあとも、人口爆発制御こそ最重要命題だという点においては、ゾブリストの一「使徒」(いちしと)であり続けていることが、遁走中のラングドンとの会話から明確に読み取れます。

で、ここからが肝心です。だいぶネタバレに近づいております。人口爆発問題に対処するという点においては、ゾブリストとWHOの方向性が異なっているとは見えないわけです。しかし、発想の未熟さや方法の稚拙さにより、WHOは結果を出していないと、ベルトラン・ゾブリストは女性の長官(エリザベス・シンスキー)を呼びつけて批判、啓「蒙」します。人口爆発のepicenterでありground zeroでもある発展途上国に、先進国から義援金がわりに送られた避妊具が埋め立て用の土嚢の代わりに堆(うずたか)く積まれているエピソードについては、女性長官エリザベス・シンスキーは反論出来ずにいる、などです。

この物語のあら筋~落ちの部分でわかりづらいのが、ここです。

シエナ・ブルックスは、映画で捻じ曲げられたあら筋のように、ゾブリスト側の悪役で終わるわけではありません。かと言って、逆にゾブリスト側からWHO側に寝返ったわけでもありません。

最後の最後にこの謎が解き明かされることになります。ゾブリストの病原体は何としても撒布前に食い止めなければならないと思った。しかし、食い止められたとしても、それがWHOの手に渡ってしまったのでは元も子もない!?と思った。だから単独行動に出て、しかも、WHOの絶大なリソースには頼れないところ、暗号(クリプト)を地下(クリプト)で解くことが得意なラングドンを連れまわすという着想に至った。。。

そして土壇場でラングドンを振り切って、WHOよりも早くepicenter、ground zeroを目指す。。。その場所はラングドンの天才的暗号解読によって特定されたものであるという皮肉。。。

シエナ・ブルックスは言います。WHOと協力して人口ウイルスの回収という選択肢はないのだ、と。ゾブリストの人工ウイルスがWHOに渡ってしまえば、その支援国家間の権力闘争やひいては戦争に悪用されることが間違いない。空気感染も可能な高性能のウイルスは悪用されようものなら、生物兵器にほかならないから、と言うのです。

わたくしたちは、国連(機関)というのは、国家や政治家のエゴから中立的な、公正で公平な存在だという幻想を持っています。これには社会科教育も一役買っています。第一次世界大戦後に出来た国際連盟は実力部隊を持たなかった。これが第二次世界大戦を引き起こした反省。それで国際連合は国連軍という実力部隊を持った。そして安全保障理事会の大国主義は機能している、などと習います。現実はおおいに異なり、第二次世界大戦後、戦場になっていない国は、日本を含めて極々僅かなのです(9.11も戦争、戦場だと看做します)。

WHOは、安全保障理事会や、国際オリンピック委員会よりはマシであると信じたいです。しかし、ダン・ブラウンが、どちらかと言えば悪役側であるベルトラン・ゾブリストやシエナ・ブルックスをして言わしめた批判(ややもすれば中傷)は、大国のスポンサーシップなしには成り立たず、大国の利害に揺さ振られる、vulnerableな国際機関の宿命を見事に描写しています。

エチオピア出身の現WHO事務局長テドロス・アダノム・ゲブレイェソス氏によるパンデミック宣言が遅かったことは記憶に新しいところ。そこには中国への配慮があったのか、新型インフルエンザで大騒ぎをしすぎた過去への反省があったのか、わかりません。そのあと、「一にも二にもテスト、テスト、テスト」発言です。

これまでの新型コロナウイルス感染症シリーズで一貫してお伝えしているように、都市封鎖の費用対効果と並んで、いま陽性か陰性かを判断するPCR検査の費用対効果について、わたくしは非常に懐疑的です。エボラ出血熱と異なり、致死率が低いこと、無症状または軽症を経て免疫を獲得できるひとの割合が高いこと、発症するにしても潜伏期間が長いこと、これら3つの性質に鑑みると、実施する意味がある検査は抗体の有無の検査(アンチボディテスト)です。数が足りなければ無作為抽出のサンプルテストでもやる意味があり、それによって、国ごと地域ごとの、適切な制御方法は異なってきます。

免疫を獲得できたひとを医療現場や隔離施設や経済社会に戻すこと、配置転換すること、これこそがいま一番大切な経済政策であり社会政策なのです。

いっぽう、都市封鎖を、一概に有意義だとか、一概に無意味だとか決めつける態度こそが有害無益です。このブログでは、定期的に、国(など)ごとの(単位)人口に対する死亡率に注目して、エクセルシートを更新してきました。この視点が、一部の心ある研究者や媒体を除いて欠けており、的外れの悲観論や楽観論がパンデミックを起こしてしまっていました。

感染率や致死率が、男女で、年齢層で、血液型で、どんな持病を持っているかいないかで、人種で、どのように異なるかという研究は、いろいろと進んでいることは確かです。が、その結果を知っても、ジタバタすることくらいしかできなくて、オンライン飲み会でのネタ程度にしかならないです。

多くの研究者や媒体が飛びつき群がる上記テーマよりもむしろ、人口密度(都市化率、都市の集中度)という要因を強調してきました。

このブログのエクセルシートを受け継ぐ以上に遥かに良くできた統計処理とビジュアル処理をしている無料サイトがニューヨークタイムズ紙にあります。ここから読み取れる情報は多岐にわたりますが、是非とも、都市集中と単位人口当たり(ニューヨークタイムズでは十万人当たり)の死亡者数に注目して、ニューヨーク州(ニューヨーク市)と、西海岸の大都市、その他を比べてみてください。国ごとの比較だけからは見えてこない示唆があります。




注1:トランプ大統領のツイッターをフォローしているだけであって、トランプ大統領の信奉者という意味では必ずしもありませんのであしからずご了承ください。

注2:実態は、中国がWHOの贔屓(谷町)になってきている、と言えそうです。

注3:美術史(と「象徴学」)を専門とする学者というキャラクター。謎の殺人事件など凶悪犯罪の現場などに残された「象徴」や「暗号」(=クリプト)を解読し事件解決の手伝いをするために、歴史的建造物の地下空間(=クリプト)などを、《マドンナ》キャラと一緒に遁走するのが特徴

注4:とくに産業革命以降に幾何級数的に増殖する人口が人類を滅ぼすとの信念から、自らが開発した人工ウィルスで、世界全体の女性の三分の一を不妊にさせるというパンデミックを起こす。ややどうでも良いが、LGBTのB。

注5:「インフェルノ」での《マドンナ》役は、シエナ・ブルックスというIQ200越えの女性。かつての信奉者であり恋人でもあったゾブリスト(注4)と、ラングドン(注3)との間で女心が揺れる。以下、ネタバレの本質部分になってしまいますが、ゾブリストが撒き散らす人口ウイルスの内容には合意できないことから、ラングドンとの逃避行の目的が変容するのですが、かと言って、ゾブリストに予告されたパンデミックを封じ込めようと焦るWHO(世界保健機構)側に寝返るわけではない。

注6:ホモ・サピエンスに対して、”ホモ・スペリオーレ”みたいな感じで、現人類とはホモ(ヒューマン、ヒト)という「属」は共通だが、「種」が異なる存在。かつては、ネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)をホモ・サピエンスが凌駕したのと同じような関係