2023年12月18日月曜日

中央銀行は廃止できる!

日銀ウォッチングもちゃんと出来ていないのに、地球の真裏の中央銀行(廃止?)の話を取り上げる余裕などあるのかというツッコミを受けそうです。
が、先週金曜日に収録し、昨日日曜日夕方(通常より編集に時間がかかったもようです)配信された動画がこちらです。

 是非御笑覧ください。意外と支離滅裂ではないのですが、もともと用意していた手元メモとからかなり脱線した話をしてしまい、また、逆に⑶⑷の部分はほとんどカバーできなかったのが実情です。

以下が手元メモでして、動画をご覧いただいた読者の皆さんの参考にしていただけるとありがたいです。


   実際に中央銀行を持たなかったり、通貨が「ドル」であったりする国はどの程度存在するのか。

   (実例をご存じであれば教えてください)

     自国通貨の発行(通貨発行権)を放棄して外国通貨であるドルを法定通貨とした国の例は、アルゼンチンと同じく中南米だけで、パナマ、エルサルバドル、エクアドルの3例がある。

     特に、パナマは、ドル化の歴史が古いだけでなく、中央銀行を有してない。

     エルサルバドルとエクアドルには中央銀行が残っているが、いずれも政府負債(国債)の買いオペ(引受け)が出来ないなど、制約条件は大きい。この点は、通貨統合してユーロを採用したEU諸国の多く(例:フランス、ドイツ、イタリア、スペイン)の中央銀行と似ている。

     なお、パナパと異なり、エルサルバドルとエクアドルは、米国と同盟関係にあるわけではない点にも注目したい。同様の事例として、ジンバブエ、カンボジア、北朝鮮で法律上または事実上(このふたつの違いは大きいのだが)ドルが流通している点も参考にしたい。

     特に、ジンバブエの事例研究は、ハイパーインフレと経済破綻ということでアルゼンチンと同様なので、ムガベ政権が倒されたあとの、ドル化の経緯について少し話をさせてほしい(時間が許せば)。

 

   “アルゼンチンのトランプ”と呼ばれる、ハビエル・ミレイ氏が新たにアルゼンチンの大統領となった。ミレイ大統領は「中央銀行の廃止」と「通貨のドル化」を唱えていることで注目を浴びている。日本では考えられないような政策だと思うが、その背景は?

   ミレイ氏(すでに今月10日に大統領に就任)が先の決選投票で次期大統領に決まってからの報道としては、メインチャンネルであるDaily WiLLでの朝香先生と白川先生の解説が的を射ている。朝香先生と山根編集長が私と同様リバタリアンであることをカミングアウトしてくれてうれしい。

   ただし、朝香先生の、「アルゼンチンの経済破綻は戦後一貫したペロニスタ政権が原因」というのはほぼ正しいと思うが、きょうはもうちょっと細かく見ていきたい。確かに、アルゼンチンの戦後の政権は選挙で選ばれたものはほとんどがペロニスタ党(ただし同党右派左派の内ゲバは苛烈)だったが例外があり、また他の中南米諸国同様、軍事クーデターが繰り返されそのたびにペロン元大統領やペロニスタは迫害されてきた。そのなかで、1976年から1981年までのヴィデラ大統領政権下(軍事クーデターなどで亡命先のスペインから戻ったペロン大統領とその後妻大統領を事実上放逐)と、1989年から1999年までのメネム政権では、リバタリアンと言ってもよい政策が取られていた。メネム大統領は、リバタリアンとは真逆のはずのペロニスタ党の代表であったにもかかわらず、である。

   したがって、ミレイ大統領としては、以下の教訓を得ていると推察する。つまり

1.     ペロニスタ政策は論外だが、

2.     リバタリアン政策もペロニスタ(ポポリズモ)に隙を与えてはいけない

3.     メネム大統領の❶アルゼンチンペソの対米ドル固定、❷規制緩和、❸民営化は正しい政策だったが、❶については中央銀行を温存したままでのカレンンシーボード制度(香港ドルと同様のドルペッグ)であった。アジア通貨危機とロシア危機に関して、ポポリズムから変動相場への復活という圧力をかけられてしまったことが敗因。中央銀行の廃止は、このような「誘惑」から退路を断つための不退転の政策を意味する。

 

   通貨をドル化してしまい、自国通貨を持たないとなると、金融政策の自由度が著しく低下すると思うが、そのような政策採用する国々にはそれを上回るメリットがあるのか?

   通貨発行権を放棄するメリットが維持するメリットを上回るかどうかは難しい。

   貨幣論の分野で、ケインジアンとマネタリスト(≒リバタリアン(注:ピノチェト政権下の経済運営を顧問したとされるシカゴ学派のミルトン・フリードマンはミレイ大統領のように中央銀行廃止までは求めていなかったことに留意)の対立が決着しないのもこのあたりの事情

   少なくともひとつ入れることは、緊縮的な金融政策は緊縮的な財政政策同様、人気がない(選挙に勝てない)ということ。古くは、日本でも、世界恐慌(1929年)から満州事変(1931年)のころの二大政党間で金解禁(金本位制の(再)導入)の是非で揺れた。当事者である浜口雄幸と犬養毅(+高橋是清)は皆テロの餌食となった。

   カンボジアやジンバブエのように、それぞれの歴史的事情でドル化以外に選択肢がなくなってしまった場合もあるが、ユーロを採用した国々のように、そこまでは追い込まれていなかった国々での民主的手続きによる条約批准というのはただ事ではなかったと考える。

 

   今後同様の政策を導入検討する国は増えるのだろうか。また、世界中で「デジタル通貨」の導入が議論されているが、ひょっとしてデジタル通貨の導入は、他国発行の強力な通貨の自国通貨化を促進するきっかけとなるのか。

   理論的にはYES

   中央銀行デジタル通貨(CBDC)である必要は必ずしもないと思う(中央銀行がこれにこだわる理由はある)。クレジットカード、デビットカード、その他日本でいう資金移動業が発達するようであれば、他国通貨の採用のハードルは著しく下がる。

   この点については、アルゼンチンのミレイ大統領が非公式にその経済理論を大いに参考にしたとされるニコラス・カチャノスキー教授が、「アルゼンチンのドル化は実現可能なのだが、難易度が低い順に、❶銀行預金、❷民間に流通しているアルゼンチンペソ(紙幣や硬貨)、❸中央銀行の資産(アルゼンチン国債)であるから、時間を掛けてステップを踏んでいく必要はある」と説明している。民間部門の決済(例:給与支払いや買い物)がすべて電子決済で出来るのであれば米国からドル紙幣を「輸入」する必要はなくなる。

   なんといっても③の❸が難題だが、⑵の②で触れた軍事政権下(アルゼンチンとチリに共通するヘンリー・キッシンジャーが暗躍したコンドル作戦下)の経済政策が参考になると考えている。背景として、ブラジルなど周辺国での左派政権誕生があるので、米国の大統領選挙の行方次第のところもあるが、再びIMFなどを巻き込んで、中銀負債の入れ替えを行い、それが完了したところで、フラクショナル・リザーブ・バンキングをやめさせ、中央銀行廃止というのは大いに現実的であり、リバタリアンとしてやってもらいたいことである。

 

2023年11月21日火曜日

アルゼンチンよ泣かないで~中央銀行のない世界

日本銀行どころか造幣局も印刷局もない世界というのは、なかなか想像できません。キャッシュレス決済がもっと浸透して、中国のデジタル人民元みたいなものがマイナンバー(カード)に紐づけられて、確定申告も要らない世界。便利な一面もありますが、私が親しくしている飲食店の経営者は一致団結して嫌がるでしょう。

昨日ご紹介の、アルゼンチン次期大統領でリバタリアン経済学者のミレイ氏は、このように中央銀行のない世界を最重要の公約のひとつとして掲げて決選投票を勝ち抜きました。

この場合に採用される通貨は、アルゼンチンペソに代わって、米ドルであることが事実上内定しているので、印刷局(注1)もリストラされることになります。

(注1)印刷局が、事実上のドル化の国で残っていることは通常ありえません。著者が知る限り北朝鮮だけが例外です。ただしこの場合の米ドルは偽札です。

補助硬貨の扱いがどうなりそうかは現時点で私は知りませんので、もしかすると、アルゼンチン版造幣局は完全にはリストラされないかも知れません。


中南米には、自国通貨を棄てて、したがって裁量的な金融政策やシニョリッジ(通貨発行権)を諦めて、米ドルを法定通貨とした国が三つあります。パナマ(1904年)、エルサルバドル(2001年)、エクアドル(2000年)です。

結論を先に言うと、今後ミレイ次期大統領が率いるアルゼンチンのお手本というのは、これら3ヶ国のなかにはなさそうです。ただし、金融政策の自由度を捨ててまで物価の安定を目指さざるを得なくなるまで追い詰められた歴史的背景として、一番近い事例はエクアドルかも知れません。逆に言うと、パナマとエルサルバドルは、エクアドルやアルゼンチンのような通貨危機、債務危機(ソブリンリスクの露呈やデフォルト)という背景では必ずしもなかったようです。

極端にドル化の歴史が古いパナマは、完成予定のパナマ運河の利権狙いで米国がパナマのコロンビアからの独立を支援したことが背景にあるようです。

そして、パナマはこの時点で中央銀行を廃止しています。今日参考にさせてもらっている林康史立正大学教授(注2)の論文によれば、ドル化について、米国の側からも正式に認められているのはパナマだけであって、残る2ヶ国については暗黙の了解に過ぎないのだそうです(注3)。

気になるのがエクアドルの事例です。ハイパーインフレに伴う経済と政治の混乱の末に、ドル化の道を選んだのですが、中央銀行は廃止されていなくて、何と金融政策を行っているというのです。ただし、理屈の上でも、現在の日本銀行が行っているような質的量的金融緩和(日本国債だけでなくETFのようなものまで買いまくって支払は民間金融機関名義の日銀当座預金にクレジットするというもの)は出来るはずがありません(誰が怒るかって、米国(FRB)が怒ります)。やっているとされる金融政策は、かつての日本銀行が主として「ブレトンウッズ体制」時代とそれに続く「金融(金利)自由化」までのあいだ行っていた(公定歩合などの)金利調節と窓口規制のようです。それでも、窓口規制の緩和で民間への米ドルの貸し出しが多くなった場合にそれが米国の決済システムに流出しないことが必要です。国際金融のトリレンマというのがあって、①為替相場の安定、②独立した金融政策、③自由な資本移動の3つが同時に成り立つことはないのです(前掲のマトリックスの右端を参照)。

今後アルゼンチンが、ドル化への背景は似ているとされるエクアドルはお手本に出来ず、背景が最も異なるパナマをお手本とするところが味噌です。


ぶっちゃけ、昨日今日のお話は、ただちに外国為替の投資に役立つ内容ではないでしょう。私の勤め先でも、チリペソとメキシコペソの取り扱いはあるのですが、アルゼンチンペソの取り扱いはなく(アルゼンチンペソを扱っているFX会社はあるのか???)、今後扱うことももはやないでしょう。しかし、通貨の価値とは何か?中央銀行とは何のために何をしようとしているのか?を深く考えたいときに、このたび地球の真裏に登場した稀にみるリバタリアン政治家(経済学者)は格好の切り口を与えてくれています。ミレイ氏の大胆で極端な社会実験の成功を私はこころから祈っていて、日本のお手本になってほしいと考えているのです。


ドル化などについては、手前味噌ながら3年以上たっても色あせない?以下のシリーズも御笑読みください。

【企画連載】金融の現場から見た「MMT(現代貨幣理論)」~現役FX会社社長の経済&マネーやぶにらみ①


(注2)林先生は、著者と時期は重なっていないのですが、BNPパリバ(銀行・証券)の大先輩で、元為替ディーラーなのです。ちなみに、著者は、当時を含めて為替のディーリング経験がなく、現在の勤め先でも為替ディーラーは雇っていません。なお、参考とさせてもらった論文は、「ドル化政策実施国における金融政策―エクアドル・エルサルバドル・パナマの事例―」というものです。ネットで検索が可能です。前掲のマトリックスもこの論文にあります(林先生のオリジナル)。

(注3)ところが、エクアドル中央銀行側からの説明によれば、ちゃんと米FRBに対して恭順な態度を示しつつ米ドルの供給を行っているとなっています。

”Services offered by the Central Bank of Ecuador

Exchange all types of US dollar bills and coins using the customer service counter and coin vending machines. Regarding the import of banknotes, we will supply dollars on a national scale in cooperation with the Federal Reserve System of the United States and guarantee the entire economic activity.” 

2023年11月20日月曜日

「アルゼンチンのトランプ」?リバタリアン経済学者のハビエル・ミレイ氏がアルゼンチンの次期大統領に

 X(旧ツイッター)界隈では、ドナルド・トランプ米前大統領が、ハビエル・ミレイ氏に祝福のメッセージを送っていることもあって、我が国でも保守系論客がざわついております。


去る今年8月の予備選挙で首位に立ったときも、同じようにトランプ前大統領からの援護射撃はありましたが、それでも「極右」(?)過ぎる主張や、中央銀行廃止などという現実離れ(?)した政策提言などで、さすがに決戦投票では政権交代は難しいのではないかというのが下馬評だったようです。

しかし、保守とリバタリアンはかなり異なります。共通点のほうが少ないと言っても過言ではありません。

ただ、保守主義にも、リバタリアニズムにも、それぞれ幅があります。それゆえ、議論を精緻にしようとすればするほど複雑でわかりづらくなってしまいます。

リバタリアンに近かった保守政治家ということで思い浮かぶのが、西側先進国では、マーガレット・サッチャー、ロナルド・レーガン、中曾根康弘ということになるかも知れませんが、この方々は小さな政府を志向していたかも知れないが、国益を第一と考えるゆえに、軍事と外交では存在感がありすぎました。きょうの本題のアルゼンチンとの絡みでは、どうも日本人にはピンと来ないフォークランド紛争という軍事介入をしでかしたのがサッチャー首相でした。結局、「戦争は別だ」という例外扱いを認めてしまうと、それを支えるための積極財政、裁量的な金融政策が必要となってしまい、リバタリアンは成り立たなくなってしまいます。

貧しい労働者や農民を救済するための考え方である共産主義が、「私有財産こそ貧富の格差(階級)という諸悪の根源である」という理念(理想)を背景にしているので、そのために為政者が私有財産を没収すると、気が付くと、ソ連の国民は、帝政ロシア期の労働者農民よりもいっそう喰えなくなってしまっていた、というのと、似ています。

純粋なリバタリアンが大統領選勝利という記念すべき本日くらいは、サッチャー、レーガン、中曽根という偉大な先生方を一旦忘れましょう。

なにゆえハビエル・ミレイ氏がドナルド・トランプ氏の応援を勝ち得たのかと考えるときに、移民政策についての考えがどうなのかというのが気になりました。

リバタリアンの代表的な経済学者と言えば、古くはオーストリア学派のワルラス、メンガー、ジェヴォンズ、ベーム・バヴェルク、新オーストリア学派のハイエク、フォン・ミーゼス、そしてシカゴ学派のフリードマン、ベッカーという系譜です。

原則なにをしても自由、他人による自由の追求(例:犯罪行為)のために自分の自由が脅かされる(自由と自由の衝突)場合には、自力救済(現行法で合法な正当防衛や緊急避難だけでなく仇討ちまで)もOKとするというのがリバタリアンですが、それでも完全な無政府主義は現実的(いますぐ)には困難なので、移民制限はやむを得ないというリバタリアンもいるようです。

しかし、親子鷹と呼ばせてもらいたいミルトン・フリードマンとデイヴィッド・フリードマンに言わせれば、「豊かな国(例:アメリカ合衆国)は貧しい国を援助する必要もないが、貧しい国からの移民を排斥する合理的な理由はない」と断言しています。これがリバタリアンの神髄です。

なお、ミルトン・フリードマンの薫陶を得たシカゴ・ボーイズという経済学者たちが、軍事クーデター後のチリ(アンデス山脈を挟んで本日本題のアルゼンチンと背中合わせ)のピノチェト政権の経済政策をリードし、デフレ圧力という副反応を伴いながら「チリの軌跡」と呼ばれた(自画自賛した?)経済復興を成し遂げたことにも注目です。

移民政策以外で、リバタリアンの間でも意見が分かれてしまうアジェンダとして、避妊や中絶の是非、麻薬、LGBT(同性婚など)、環境問題(SDGs、二酸化炭素排出規制)、新型コロナウィルス感染症に対するワクチン接種の是非などがあげられます。

日本で見てみても、X(旧ツイッター)やYouTubeにはいわゆるネトウヨを喜ばせる保守論客の配信や投稿が活発です。参政党ではないですが、アジェンダ毎に個々人で意見が分かれてしまうのはやむをえないので、暴力を伴わない内ゲバが起きてしまいます。これは左翼側と似ているのかも知れません。

ハビエル・ミレイ次期アルゼンチン大統領の(公約とまでは言えないものの)政治的スタンスをまとめると、

移民政策:不法移民、犯罪歴のある移民の受け入れに反対(リバタリアンとしての例外で、トランプの考え方に近い)
避妊や中絶:禁止すべき(強制性交によるものを含み、母体の命にかかわるものを除く)
麻薬:容認、無関心
LGBT(同性婚など):無関心
環境問題:SDGs、二酸化炭素排出規制に懐疑的ないし否定的
新型コロナウィルス感染症に対するワクチン接種:ワクチンの強制を否定

かなり簡潔にまとめたつもりですが、ほかにも米国、中国、イスラエルとの関係性などについても態度が示されておりますので、興味のある方はWikipediaをご覧ください。

(2023年11月20日現在、まだ日本語版のウイキペディアはありませんが、或る程度は自動翻訳や何かと話題のChatGPTも使えるのではないかと思われます)

ドナルド・トランプ前アメリカ大統領の政策を比較するとどうなのでしょうか?アメリカ第一のトランプの政策がリバタリアン的だったとは思えず、その真逆のナショナリズム乃至ポピュリズムというふうに見られてきていたと思います。しかし、改めて見直すと、大きな政府、小さな政府の違いや、(伸びきった)先進国アメリカと(栄華から落ちぶれた)後進国アルゼンチンという置かれた立場の違いが大きいわけで、トランプ氏とミレイ氏のベクトルはかなり同じ方向を向いていると考えられます。

であるにもかかわらず、内ゲバのさなかとは言え、ネット上で人気の日本の保守系論客のほとんどは、「トランプ推し」にして、ミレイ氏を同様に推すとは思えないのです。

日本でリバタリアンがほとんどまったく育たないことには様々な理由があるのでしょう。

最後に、経済、外国為替などもフォローするブログとしては、触れないではいられないのが、ミレイ氏は、自国の中央銀行の存在をも否定する政治家であるという点です。

ちなみに、私個人は、日本銀行の職員は皆頭脳明晰で良く働いていると思うのですが、結果として、自国通貨を防衛しているのか?物価の安定に貢献しているのか?日本経済の舵取り役として必要なのか?そもそも日本経済の舵取りは日銀なのか?疑問に思っています。

このあたりは、各国の中央銀行がどのような時期にどのような(隠れた)目的で設立してきたのかなどを紐解くと薄っすら見えてきます。





2023年11月13日月曜日

イランのマネーロンダリング疑惑。果たして目的はハマスとヒズボラなのか???

 皆さん、この写真ですが、①どこの国でしょうか?②どの町でしょうか?③そして中央のガラス張りは何の建物でしょうか?


答えは、①イラン、②首都テヘラン、③イラン中央銀行(1979年のイラン革命以降の正式な名称は「イラン・イスラム共和国中央銀行」
です。

日本銀行の旧館は日本橋の街並みに溶け込む素敵な文化財ですが、この写真と比較をすると言葉を失います。

イランの一人当たりGDPは、後者だと $19,942で世界第83位。日本は、$52,120で同第34位です。やれ韓国に抜かれただなどと威勢があがらない統計ですが、こちらは円安の影響をどちらかというと受けづらい購買力平価ベースの数字である点に留意です(2023年のIMFによる推計値)。

イランの中央銀行がこんなに豪奢なビルを建てられるのも石油のおかげなのかと勘繰ってしまいます。かなり古い統計ながら、2007年にイランが「稼いだ」外貨準備700億ドルのうちの8割は原油の輸出から得られたものだそうです(英語版Wikipedia)。ではイランの石油関連の(純)輸出の推移はどうなっているのでしょうか?

こちらの棒グラフが、イランの年次の石油関連の「純」輸出です。石油関連には天然ガスも製品も含みます。イランの場合だと、原油も天然ガスも純輸出国で石油製品は純輸入国、総合で(世界第7位の)石油関連「純」輸出国なのです。

バイデン政権で解除されたトランプ時代の経済制裁の効果が素直に表れているように見えますが果たして実態はどうなのでしょうか?

(石油関連純輸出量ランキング)
(石油関連輸入量ランキング)


何故、下向きかというと、(中国、米国、)日本などの「純」輸入国の「純」輸入量が上向きに出ているためです。

このような出し方をしてくれているのが、世界のエネルギー・気候統計 - 年鑑2023というサイトです。

日本は2011年の東日本大震災による原発稼働停止の影響にも拘わらず、原油や天然ガスの輸入を減らしてきているようにも見えます。この点についても、考察したいのですが、今日の本題はイランのマネーロンダリング疑惑なので、深入りを避けます。

一方、この間、輸入をグングン伸ばしてきたのが中国です。

中国についても国策の不動産バブル崩壊、習近平の独裁基盤強化と閣僚の相次ぐ更迭に李克強の謎の死など経済全体のメルトダウンについて見ていく必要があるのですが、これも措きます。

イランが何をしたいのか?

これを考えるきっかけになったのが、週末目にしたウォールストリートジャーナルの記事でした。

記事を要約すると、
①ガザ地区のハマスは、イランからの送金を、ハワラという手段で(銀行システムを頼らずに)受けていた。
②ハワラのハマス側受取人司令官がイスラエルによって狙い撃ちされて死んだ(2019年)。その後任は、足が付きやすい(?)ハワラのかわりとして、暗号資産を使うことにした。
③2023年10月のテロ攻撃までの間にその軍資金としてハマスが受け取ったもののうちイスラエル当局が差し押さえたものは143百万ドル(米国側情報では、イランからハマスへの「義援金」は毎年100百万ドル)
④ガザ地区にはハマス御用達の暗号資産取引所(仮想通貨交換所)がいまだ活動中であるほか、ガザ地区に帰属する暗号資産のウォレットは経済制裁下のロシアの交換所Garantexにもあるし、Binanceにもある。
⑤イスラエル当局によるAMLCTFから逃れるため、ハマスのウォレットはしょっちゅうアドレスを変えたり、匿名性の強い暗号資産へシフトしたりしているが、ドル建てのステーブルコインは良く使われている。

ここで、米国側としては、マネーロンダリングもテロ資金供与も不都合なものでしょうが、前者と後者は区別しなければなりません。イランからハマス(やヒズボラ)への送金は、ハマスやヒスボラをテロ組織と定義したとして、テロ資金供与にはなりますが、マネーロンダリングを行ったことにはなりません。イスラエルは、10月のハマス攻撃までは、ガザ地区は(ヨルダン川西岸地域とは異なり)ユダヤ人が入植しない二国家戦略でハマスとは言わないもののパレスティナ自治政府による実行支配については黙認していたわけです。しかし、国連加盟国という定義では国はあくまでイスラエル国なので、その権限で、送金の受取の制限をしていたという構成になるのでしょう。

ハワラというイスラム圏(およびインド圏)にとって中世以来伝統の資金移動業そのものがCFTにひっかかったり、ましてやAMLにひっかかっているわけではありません。

ハワラは、日本でも銀行制度が整うまでの遠隔地の送金を為替手形を使って行っていたのと似ていますが、為替手形という有価証券すら存在しないのだそうです。身内~村社会的なコミュニティを構成する資金移動業者間の約束(帳簿)と暗号(秘密鍵)を用いて送金の仕向と被仕向がなされるようです。

地下銀行に例えることもできますが、地下と言っても、イスラムの慣習法上、違法な取引ではありません。

私の記憶では、ホロコースト下のドイツなどヨーロッパ各地のユダヤ人がアメリカへと急ぐ前、財産だけも先にアメリカに送っておこうということで地下銀行のような組織が使われたと聞きます。慣習と私的自治に基づき免許や特許に基づかない資金移動業はイスラム側にもユダヤ側にもあったというのは興味深いではありませんか。

それで、この記事を読んで思ったのは、イランがハマス(やヒズボラ)にどうやって資金や武器を送っているかというのは本筋ではないのではないか。それよりも、イランは米国(側)の経済制裁下で銀行のドル預金(決済)にアクセスできないにもかかわらず、どうやって経済活動を維持して、さらにそのうえで、多額の援助をテロ組織に対して行えているのかということです。

石油を何とか誰かに買ってもらえないかというイラン側のニーズと、米国に黙ってこっそりイランの石油を買えないかという石油純消費国にニーズがマッチするところに、ようやくマネーロンダリングのニーズが出てくるわけです。

問題は、米国の対イラン経済制裁に参加しない陣営もそこそこあるわけですが、ざっくり言うと、石油の純輸出国が多いのです。上述の(石油関連純輸出量ランキング)が参考になります。(旧)ソ連同盟国が点在する中東や中南米の石油純輸出国たちにはマネロンのニーズがありません。

そこで急浮上してきていたのが中国です。しかし、中国が工業製品やレアメタルの輸出で稼いだドルの一部をそのまま、米国(側)のドル決済(例:SWIFT)を利用してでも、イランの原油仕入れ代金として送金する必要があるでしょうか?人民元で良いはずです。いままでのところは。

日本としてもイランやロシアの石油や天然ガスを喉から手が出るほど欲しいところですが、核を持つインドのような勇気ある行動は日本にはとれません。米国に「No!」と言えないのは宏池会出身の岸田文雄首相のせいだというのはちょっと可哀そうすぎます。実際、「公式の」統計を信ずれば、イランの供給減も、日本の需要減も見て取れます。

中国ほどではないものの需要が堅調なのが欧州です。ドイツやスペインがどうやっているのかは気になります。


データと記事をちらほら見たうえでの雑感に過ぎませんが、前トランプ米政権によるイラン核合意からの離脱と米国(側)経済制裁による「西側」結束というのは、原油や天然ガスの運搬そのものへの制限と監視という意味では効果絶大だったでしょうが、中国、インド、闇市場まではどうすることもできない。それを更に担保するためのアンチマネーロンダリング監視というのは効き目があったとは思えないと見えます。

それでもアンチマネーロンダリングがまったく無意味というのも間違いであることを示す同じくウォールストリートジャーナルの記事も関連してありました。

本来、米国(側)のKYC(本人確認~犯罪収益移転防止法)に与する義務を負っている欧米の巨大銀行が、ハマスに実質的に帰属する加盟借名口座を開設してあげていたというものです。


やはり、イランとしては稼いだドルをドルのままハマスに送金したいというニーズもあるようです。







2023年10月23日月曜日

ハマス奇襲を許したのはモサドの弱体化なのか?ネタニエフ首相の怠慢なのか?

去る10月10日の「第五次中東戦争か?第三次世界大戦か?」は、いつも以上に多くの方々にお読みいただき、ありがとうございました。

この内容に基づいて、アヴァトレード・ジャパンが珍しくスポンサーをしているWiLL BizというYouTubeチャンネルで、同編集長の山根真さんの見事な司会にいざなわれるかたちで、この内容をお話してきました。


こちらもまたありがたいことに、WiLL Bizのコンテンツのなかでも、少なくともわたくしの登場回のなかではダントツの反響を得ることが出来ました。WiLL Bizのチャンネル登録者にはわたくしと考え方がかなり異なるコテコテの保守派の方もおおぜいいらっしゃり、アンチコメントもこれまで多かったものでしたが、今回はそうでもなかったのが特徴です。

お時間の許す限り、是非ご覧いただければと思います。

さて、現時点においては、10月7日(土)のハマス奇襲が未曽有の規模のものとして「成功」してしまった理由として、

①世界に冠たるイスラエルの諜報機関ハマスが弱体化していた。または油断があった。
②弱体化は言い過ぎだが、圧倒的に進化した同国のデジタル技術による諜報活動(≒シギント)に頼りすぎて、人間関係に基づく諜報活動(≒ヒューミント)が弱体化するなど油断があった(対するハマス側は、電磁的交信手段に極力頼らずに作戦準備をしていたい)。
③実はモサドは(意外にもイスラエルと友好関係を築いている)エジプト発の本件兆候を掴んでいたが、それを報告したネタニエフ政権が無視をした。

これら諸説の乱立は、「9.11」直後の陰謀論の既視感すらあります。「現時点において」と書いたものの、この先も事実関係が解明されるのかどうか怪しいものです。

「情報収集」にとどまらず(しばしば要人の暗殺などにも及ぶ)「工作活動」までをもミッションに含む強力な諜報機関は、専制政治の国ではいくつも例があるが、民主政体の国では現在ではイスラエルだけだと、以下のTBSの動画で、陸上自衛隊小平学校で教鞭をとったこともある落合浩太郎東京工科大学教授が語っています。


確かに、モサドの「名声」を世界的に高めた逸話として、ミュンヘンオリンピック事件(1972年)への報復、ゲシュタポのユダヤ人移送局長官だったアドルフ・アイヒマンを逃亡先のアルゼンチンまで突き止め拘束し、ベングリオン政権下で絞首刑にした「手柄」などがあげられます。なお、ベングリオン首相は、日本赤軍によるクーデターでも有名になってしまったテルアビブ空港の現在の名前となっていますが、一説には、JFK(こちらも空港の名前に)暗殺の黒幕だとも言われています。

しかしいっぽうでCIAが、ピッグス湾事件(1961年)や、チリのクーデター(1973年)のような事実上の工作活動から冷戦終結後は足を洗ったと言えるのかどうかわたくしにはわかりません。前パラグラフで触れたJFKについては、CIAではありませんが、FBIの初代かつJFK政権時もその長官であったフーバーが黒幕という説も濃厚です。

米国とイスラエル(そしてロシアやイギリス)はさておき、日本の情報機関は、戦後については「工作活動」までは行えていないような印象はあります。日本の情報機関については、どうやらTBSのドラマ「日曜劇場Vivant」で注目を集めたようです。

目下の中東問題について全力でアップデートしつつ、日本の情報機関の構造と歴史と問題点について集中して開設した以下の動画が非常に優れていると考え、最後に共有したいと思います。

平和ボケという点では、当然我々はイスラエルを笑える状況ではないので、安全保障に興味のある皆さま是非ご覧ください。






 

2023年10月10日火曜日

第五次中東戦争か?第三次世界大戦か?

ちょうど50年前のほぼ同じ日に始まった第四次中東戦争は、イスラエル建国以来それまでの3度の戦争と比べ、エジプトやシリアなどによる奇襲が奏功したこともあり、最終的にはイスラエル側勝利とされているものの、イスラエルの被害は大きく、死者は2500人ないし2800人にのぼったと言われています。

対して、50年ぶりの奇襲攻撃で、はや900名以上の犠牲者が出ていて、ガザ側(≒ハマス側)よりもその数が多いと推測されている事態を、イスラエル版9.11と恰も晴天の霹靂だったと表現する人が多いのは頷けます(※)。

イスラエルは(四国と同じぐらいの国土・・・ただし地形は大いに異なる・・・に)約1000万人が暮らす国です。

日本との人口の比率を考えると、北朝鮮から飛翔するミサイルがせいぜい脅しでまさか東京に着弾することはないだろうと思っていたところ、そのまさかが現実のものとなって、いきなり9000人以上の一般市民が犠牲になり、またそれに加えて大勢の拉致被害者が出たくらいのインパクトがあります。

日本にも来てくれたことがあるグローバルCMO(グループ全体のマーケティング責任者)は、わたくしとほとんど年齢が変わらないオッサンですが、そんな年齢でも予備役にあるのです。まだ確認することが出来ていませんが、彼がすでに臨時招集されている可能性は大いにあります。

イスラエルを主人公または悪役あるいは狂言回しとした中東戦争は、第二次世界大戦終結後はおよそ10年おきに発生していました。この50年間は、平和と自由、ゆえに多様性や研究開発や経済活動に安心してのめり込めていた時期だったと考えられます。

いっぽうで、イスラエルの政体が何故そうなったのかはわからないのですが、日本とは大きくことなっています。どちらも歴史的経緯からして英国議会を範としていそうな気がするのですが。イスラエルの議会は一院制で比例代表の全国区しかないのです。にもかかわらず、奇跡的に、長い間、二大政党制による政権交代が実現していたところ、近年は少数政党乱立という欠点が現れ、連立協議がまとまらず政権が成立しないため国政選挙のやり直しという事態がなんども続き、気が付けば、汚職まみれのネタニエフ氏が復権したということがありました。

このような環境のなかで、世界最強との呼び名が高い諜報機関モサドが気が付けば弱体化していたのも、今回の原因なのではないかというのが、以下の動画で解説されています。 アヴァトレード・ジャパンは、いま、同チャンネルの弟分とも言えるWiLL Bizのスポンサーをやっていますが、ここのところ、岸田政権の経済政策の話や、不動産相場問題など、ぶっちゃけあまりパッとしない内容のものが多くて、スポンサーシップどうしようかなと悩んでいたところでした。しかし、1年半まえには、ウクライナ問題についてダボス会議でのヘンリー・キッシンジャー対ジョージ・ソロスの激論を見事にまとめてくれていた白川司さんが、ここで展開してくれている内容は見事です。国内の一般のメディアの扱いが過少だったり偏向があるのに対して、右は右でも、ディープステート批判なども扱う当該メディアとしては、わかる範囲で中立公平な分析を提供してくれていると思い、引用させてもらいました。

偏向と言えば偏向なのは、トランプ時代は中東政策はうまく行っていたが、バイデン政権になりぐちゃぐちゃになった。大きなポイントは、イラン(ゆえにハマス)に対しては強硬で良かったのが宥和となり、ロシアに対しては宥和で良かったのが強硬となったことが原因という切り口。ただし、イスラエルとサウジアラビアその他湾岸諸国の仲を取り持ったのはトランプ政権下の話なので、トランプが善玉で、バイデンが悪玉というほど事は単純ではなさそうです。

テルアビブに数回出張に行かされた身分としては、一番のショックは、ガザ地区からテルアビブ市までの距離はそこそこあり、これまでのハマスによるテロ活動はガザ地区にもっとずっと近い地域での小規模な被害に限定されていたのが、ずいぶんと飛行距離の長い優秀なミサイルを突如(しかし用意周到に)ハマスが手に入れていたことです。

この驚きは、多くのテルアビブ市民に共有されていると思われます。日本のいわゆる平和ボケと比べるのは相当ではないものの、第四次中東戦争(冒頭紹介した石油ショック~トイレットペーパー品切れをもたらしたあれです)を幼少時に体験した同僚も、あのときの緒戦よりも今回のほうが格段にショッキングで(倍返しは間違いなくするが現在のところ)いつにない劣勢を感じると述べていました。

このような状況でも、アヴァトレードのサーバやポートなど通信機器はすべてイスラエル外にあるため、日本では祝日の昨日も問題なくサービスは継続しています。

いま思うと、アヴァトレード本社のウエブサーバへのDDoS攻撃(対応済)が頻発していて、これもハマスやヒズボラのテロ資金稼ぎだったのかもと勘繰りたくもなりますが、MT4/5サーバには何の影響もなかったことは、すでにお知らせなどで公表していたとおりです。

話が飛びます。

私はすでにアヴァトレード・ジャパンの社長を10年以上務めて、なかなかビジネスの基盤づくりに苦労した時期が長かったですが、ようやく近年、パートナーの方々にも恵まれ、同僚の成長もあり、また金融当局による温かいお見守りもあり、独特の成長モデルを作る目途がたってきたように思っています。忘れてならないのは、アヴァトレードの経営哲学で、なかなか日本でも世界でも見られない方針でやっています。その方針の基礎になっているのが、二人のオーナー家の慧眼だと思っています。たまに話をするのですが、3月に出張に来た前CEOとは、前述の、イスラエルの選挙制度(議会制度)の問題について、日本料理に舌鼓を打ちながら話をしました。選挙制度(議会制度)の結果で、物事を決められない機能不全の国家像と今日発生してしまった悲劇と無関係とは言えないとは思うのです。

かと言って、どちらかと言えば、ナポレオン、ビスマルク、、、スターリン、毛沢東、ヒトラー、、、エルドアン、習近平のようなタイプのリーダーが常に望ましいかというとそうではないとも思います。

このあたりが難しいところで、強力なリーダーシップの一長一短については、ひとりでも多くの選挙権、被選挙権を持つ国民が、各地域の紛争の歴史から、先入観なしに学んでいくのが正しいアプローチなのではないかと。

あと二年そこらで還暦になるので、人生第三コーナーからはそちらの分野で何か役に立ちたいという話も、イスラエルから出張者が来るときにはしているのです。

物事の考え方が真逆(だが一方で日猶同祖論も人気の?)ユダヤ人とくんずほぐれつ10年間やってきた経験も生かせると考えています。

が、考え方が真逆と言っても、知り合いの命が奪われたり、自分の命も危ないという状況へと人生が暗転したときの不安心理は、人類共通です。

ユダヤ人らしからぬユダヤ人として、イエス・キリストと並ぶ(?)カール・マルクスは、「今日までのあらゆる社会の歴史は、階級闘争の歴史である」(共産党宣言)と嘯きましたが、それだけではなかったと思います。富を巡る戦いを階級闘争の延長として捉えることは可能かも知れませんが、宗教戦争のすべてを階級闘争で説明するのは無理があります(十字軍遠征のように説明できるものもある)。

人類の多くは最初は多神教を生み出したと考えられますが、それが今日まで大きな形を変えずに温存されているのは日本を含めあまり多くはなく、ご存じのように、旧約聖書を共通の経典とする3宗教(一神教)が人口では今日まで圧倒してきたわけです。多神教や仏教では戦争が起きないとは言えません。この話を突き詰めていくと、憤慨するユダヤ人もいますが、ユダヤ人の側から一神教がいけないんだよ(と言いながら無神論者になったわけでもない)有人も結構いまはいる点は是非申し添えたいと思います。

イスラエルがウクライナへのスパイウエア提供を断る

※この原稿を執筆中に、親会社の同僚と電話会議をしましたら、ニューヨークと行き来している人物によれば、同じ無差別テロとは言え、一点集中だった9.11よりも、広範囲かつ断続的にミサイルが飛んでいているいまのイスラエルの状況のほうが酷いという評価だそうです。また、ちょうど話していた相手の出身の集落の知り合いがすでに少なくとも10人は亡くなっている。さらに、私が一番親しくしている(が条件交渉の相手としては厳しい)同僚は、家族のうち彼の父親だけが防空壕に逃げ損ねて一昨日亡くなったという悲しい知らせもありました。

2023年7月3日月曜日

ジョージ・ソロスとその師匠カール・ポパー∽反証主義と弁証法の近親憎悪

 マルクスとエンゲルスの迷言集

 ジョージ・ソロスは自らが創設した協会(財団)に「開かれた社会」(オープン・ソサエティ)と命名したのは、ジョージ・ソロスがロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)その薫陶を受けたカール・ポパーの代表的な著作「開かれた社会とその敵」に負っています。

 「開かれた社会とその敵」の「その敵」とは、まず前半ではプラトン、そして後半ではヘーゲル、マルクス、つまり弁証法とヒストリシズムです。ヒストリシズムは日本語にどう訳すれば良いのか難しいところですが、これは決定論的な歴史主義とでも言ったところです。カール・ポパーは、プラトンに見られる全体主義的なものの考え方へと同様、決定論的歴史主義へも徹底的な批判を展開します。

 注目すべきは、カール・ポパーとしては、決定論的歴史主義をあたかも裏付けているような弁証法まで気に入らないとしているところです。

 弁証法については、このブログで、何故か訪問者数がベストテンにのぼる毛色の変わった弁証法入門コンテンツもあるので、かなり悪趣味だと自戒しますが、参考までにリンクを貼らせてください。

 ベートーヴェンとヘーゲルが同い年だったという浅田彰氏の指摘

 マルクスやエンゲルスの特徴をヘーゲルとの対比で申し上げると、弁証法と唯物論を結びつけることで、特に、資本主義社会の内部崩壊は必然、社会主義や共産主義への相転移(≒革命)も必然と言い切ってしまっているところです。唯物論が間違っているとは言いませんが、観念論VS唯物論は哲学上決着がないアジェンダなのですから、一方的に観念論が間違いで唯物論が正しいと言い切ることが間違いなのです。

 このようにマルクスというのは「経済学者」(?)、社会思想家としてはなかなか問題の人物ですが、コピーライターやアジテーターとしては一流です。

 「すべてを疑え」

「宗教はアヘンだ」

 とくにこのふたつの警句が私のお気に入りです。

 前者は、本来の弁証法の元祖とも言えるソクラテスの「無知の知」を彷彿とさせます。カール・ポパーは、(プラトンとは異なり)知的謙虚さという観点からも、そしてカール・ポパーが科学的命題と似非科学的命題の線引きとして提案した反証可能性というものの考え方とも馴染みます。一方、マルクス自身は、後者の警句とも関連しますが、自分の考え方とわずかでも差異がある思想家や革命家に対してはリベラリスト大同小異とはせず、歯に衣着せぬ批判を展開しました。そして後者については、マルクス主義そのものが宗教に成り下がってしまった。布教への執念と異教徒に対するよりもむしろ宗教内の異端の派閥や宗旨に対する攻撃のほうが激しい点も、一神教のインターナショナルな宗教と似ています。内ゲバで殺された人のほうが宗教戦争で殺された人よりも多いのだそうです。

 「マルクス主義者にとってマルクス主義はアヘンだ」と皮肉ったのは、経済学者サミュエルソンです。

 マルクスと一枚岩だと思われがちなエンゲルスは、イギリスの工場主のお坊ちゃんで、マルクスに心酔するわけです。エンゲルスの名言(?)集から。

 「サルとヒト、その群を分けるのは、労働である」

「ひとつのものにとっての善は、他のものにとって悪である。」

「愛情に基づくものが、道徳的な婚姻ならば、愛情が続くものだけが、道徳的な婚姻である」

 最後のだけは、広末涼子さんあたりに聞かせてあげたい気もしますが、総じて、意味不明で論評に値しないと言わざるを得ません。そんなエンゲルスが、マルクスの死後に書いた大作に、いま話題にしている弁証法を題材とした「自然の弁証法」という書物があります。

 反証主義と弁証法の近隣憎悪

 弁証法とは何を指すかというのは、哲学者によってまちまちなようで、やはり、マルクス出現以降は、どうしても、

 「資本主義は自らが孕む矛盾によって自己崩壊し必然的に社会主義その先共産主義へと相転移する。」

 「これは科学的で論理的な結論である。」

 このような決めつけこそが現代的で狭義の弁証法だということについついなってしまっていたのではないかと???

 マルクスを妄信し溺愛した心優しいお金持ちエンゲルスは、マルクスの死後に、マルクス理論の普遍性と正当性を担保したいという一心で(←たぶん)「自然の弁証法」という大著に取り掛かります。残念ながら未完成で、エンゲルスの生前には出版に至らなかったのですが、これは本末転倒の問題作ではないかと。

 「自然の弁証法」の「自然」とは自然科学の自然です。曰く、社会科学においては(いわゆる文系の諸学問を社会科学と呼ぶこと自体が暗にマルクス理論の影響を受けまくっているのですが)マルクスのおかげで弁証法の適用と唯物論との結びつけによって社会主義(へと必然的に移行するという予想が)「空想から科学へ」と真価した。実はこの弁証法というのは人類社会に対してだけでなくもっと普遍的に自然界の分析にも応用が利くものであると。

 私は、この点で、カール・ポパーが「開かれた社会とその敵」でヘーゲルとマルクスとそれらの弁証法を批判したやり方ほど手厳しくないのですが、弁証法は、自然科学の分野では、もともと、結構役立っていて、実は、カール・ポパーが、イギリス経験論へのアンチテーゼとして唱えた「反証主義」とかなり近しいのではないか?

 研究不足の門外漢が言うとお叱りをうけることを承知で言わせてもらうと、カール・ポパーにとっては、マルクスは(人道主義の面の皮を剥がせば最悪の全体主義に他ならない)社会主義社会を煽ったということで、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いということで、弁証法をコテンパンにやっつけたかったというところがあるのではないかとまで考えています。

 ジョージ・ソロスの「再帰性」はかなり自然の弁証法だ!?

 そして、カール・ポパーのことを誰よりも師として仰いだジョージ・ソロスも、もしかするとそのことに気が付いていたのではないかと。幾分かはカール・ポパーの哲学を微修正しながら取り入れたと考えると、ジョージ・ソロスの投資家としてのアプローチ、就中、ジョージ・ソロスの「再帰性」という考え方が頗る弁証法と無矛盾であることにも納得がいきます。

 オープン・ソサエティ、開かれた社会を志向することは、政治においてはより小さい政府、規制の少ない市場経済、究極は国境のない世界という理想像が見えてきます。ところが、ジョージ・ソロスは、本音こそわかりませんが、「再帰性」という独自の哲学、これはもちろん彼の市場哲学を包含しているわけで、これを説くときに、もともとの新古典派経済学というか、カール・ポパーと同時代のオーストリア学派の経済学者でリバタリアンと呼ばれる人たちの、市場に任せるべきだという考え方を全面的に肯定すべきではないのだ。人間はその自らが属する社会を観察し認識し反応する。社会を、労働力を含む商品とその相場という側面で見ると、価格を見て高いか安いか認識し、買うか売るか決める、その行為がまた市況へとフィードバックされて云々という動き、ジョージ・ソロスが「再帰性」という表現するのはここであって、実にこれは複雑系なわけで、放っておけば最適解に導かれるという綺麗なものではないというわけです。

 ちなみに、現在の新古典派の正統派経済学者のちゃんとした人たちの間で、自由な市場に放っておけば市場経済参加者最大多数の最大幸福が持たされるなどと言っているひとは居ません。

 複雑系にはレベルがあります。天気予報は技術の進歩で正確さは日進月歩ですが、線状降水帯を当てるのはまだまだ難しいとされています。これは気象という現象が複雑系だからです。

 これに比べると、交通渋滞はそこまで複雑に思えないので、予想がしやすそうですが、その予想を見て、例えばゴールデンウイークの何日目に帰省から戻ろうと考えていた人が曜日をずらすとかいうフィードバックが起きてしまい、その効果、さらにはそれによる予想の変化、そして再フィードバックを考慮して、となってくると、もとの複雑さは気象現象ほどではなかったのに、不可知性という点では、天気予報よりも高レベルの複雑系となってしまうというわけです。

 ジョージ・ソロスが「再帰性」という概念で示した市場の歪みと投資手法というのはまさにそのような複雑系としての市場、市場メカニズムは完ぺきではないという洞察を含んでいると見ます。

 しかし、ジョージ・ソロスの外国為替相場での巧みさのコツがこの再帰性の認識だけなのかというと、それはかなり違うのではないか、と私は考えています。

 カリスマ化した一流シェフが、コンビニチェーンと組んで企画商品をプロモートすることはありますが、門外不出のタレの製法まで教えることはありません。ソロス本を読んでも、家の台所ではタレは作らせてもらえないのでしょう。

 現代のルネサンス男、カール・ポパー

 カール・ポパーは、バートランド・ラッセルと並ぶ20世紀最大の知の巨人だという人が大勢います。その活動範囲は、哲学にとどまらず、数学(確率論を含む)、物理学、政治学、経済学、心理学と多岐に及びます。面白いのは、カール・ポパーが自ら編み出した「反証主義」を進化論に当てはめている部分です。ご存じのように、生物の種の進化の原動力は、突然変異体の出現です。多くの場合それは奇形だとして長生きできなかったりするのでしょうが、たまには、突然変異体のほうが環境に適合する場合があり、同じような突然変異体の濃度がある閾値を超えるようなことがあれば、新しい亜種や種が成立して、場合によってはコピーエラーがなかった伝統的な種を片隅に追いやるという場合もあるというわけです。カール・ポパーは、突然変異体の出現を新しい仮設と看做し、その反証に耐えうるかどうかの対象が伝統的な種である。進化とはまさにしばしば現れる突然変異という反証の機会(反証されるかどうかは場合による)を経た試行錯誤の過程であり漸進的なピースミルワークなのだと言います。

 最後のところ、漸進的なピースミルワークなのか、革命的な相転移なのか、これは何百万年、何千万年という気の遠くなるような時間軸で見ないと判断が出来ないところですが、もうお分かりいただいているように、進化論的認識論に限っては、反証主義と弁証法との間に大きな違いはないように思えます。

 最も重大な問題は、種の進化は進歩なのか?社会構造(マルクスやエンゲルスが言うところの生産関係)の変化は人類の進歩なのか?というところです。視聴者の皆さんは、後者の問いに対する答えが否であることは良くご存じです。前者についても、昔は、人類は万物の霊長であるなどと言われていましたが、5億年以上も前から、ひたすら正確な遺伝子のコピーを行い続け、こんにちも元気に、ひ弱な人類と共存しているような決着のつかない戦いを続けているような古細菌やウィルス(←生命と看做されるかどうかについては議論あり)に思いを馳せれば、進化しまくった人類が偉くて、進化を一切拒否した微生物が劣っている、後者は人類の奴隷として医薬品や発酵食品づくりに役立つか根絶すべき病原体かのどちらかだという見方はもう古いと言わざるを得ません。

 リベラルアーツは反証主義と弁証法をアウフヘーベン(止揚)する!?

 カール・ポパーは、開かれた社会と小さな政府と試行錯誤過程による(劇的革命ではなく)ピースミルワークによって社会を改良していくべきだという自由民主主義者ですが、若いころにはマルクス、エンゲルスにどっぷり嵌った。これは決して無駄ではなく、以降、哲学史どころか人類史における全体主義的な思考・志向が何に由来するのかについて、より鮮やかに説くうえで、役立っていると自己評価します。

 カール・ポパーが語られるときに、ほとんど取り上げられないのが、その共産主義活動の若い時期に、音楽家を目指して、クラシック音楽史で言えば、現代音楽の最重要作曲家のひとりであることが間違いないシェーンベルクの「私的演奏協会」に入会していたことです(注1)。

 このころのカール・ポパーの発言によれば、彼のお気に入りの作曲家は、バッハであり、モーツァルトであり、はたまたシューベルトであった。いっぽう嫌いな作曲家はワーグナーとリヒャルト・シュトラウスであったそうです。ドイツ語圏の作曲家以外にはどうも言及がなかったようなので、ドビュッシーやヴェルディのような作曲家に対してはどう思っていたのかは気になります。

 カール・ポパーは、ウィーン版民青と同様、熱しやすく冷めやすいと言ったところで、このシェーンベルクのインナーサークルとも決別します。音楽家としての将来は(哲学者、数学者、心理学者などと比べ)ないと考えた点もあるでしょうが、重要なのは、そのシェーンベルクの私的演奏協会の「命題」というのがあったそうで、

     いかにしてわれわれはワーグナーにとって代わることが出来るか?

    いかにしてわれわれはわれわれ自身のうちにおけるワーグナーの残滓を捨て去ることができるか?

    どのようにしたらわれわれは万人に先んじ続けることができ、また絶えずわれわれ自身の先を越すことさえできるか?

 ぶっちゃけ、このような囚われ方にあきれてカール・ポパーはシェーンベルクの(取り巻きたちの)もとを去ったと言われていますが、①~③は、音楽家として生活の足場を作る、音楽史に名声を残す、音楽にも弁証法的な進歩主義が当てはまると考えるのなら、まったく理解できないことではないのかも知れません。果たしてどうでしょうか???

 カール・ポパーが最も尊敬する音楽家であるバッハについてですが、YouTubeに、バッハの代表的な楽曲のさわりの部分を、年代順に、10歳代から60歳代まで並べて流してくれているとてもありがたい動画があがっていました。これを聴いて(視て)驚いたのですが、天才と言われている大抵の芸術家は、確かに早熟だったかも知れないが、10歳前後の作品には「才能の片鱗を感じるが、まだまだ荒らしく、完成度は云々」などと職業評論家に評され、最晩年の作品となると「多少枯れてはいるが円熟の域に達しており云々」というおきまりのパターンが普通なのに対して、バッハの場合というのは、これは被験者の選定が難しいですが、クラシック音楽がある程度好きだが、超バッハおたくではない、バッハの音楽については耳にしたことがあっても、楽曲名まで当てられない、ましてや作曲年代については知識がない程度の被験者をなるべく集めてきて、サンプル音源を、若いほうから順番に並べてくださいという問題を出したとしましょう。たぶん、被験者グループに間違って潜り込んだ作品番号暗記している級のバッハマニア以外は誰も正解はできないことでしょう。

 これはすごいことで、野球で言うと、高校卒のルーキー投手がいきなりプロで二けた勝利をあげた。二年目のジンクスも克服した。その後、あれよあれよと毎年10勝以上して、二十歳代と三十代を通じてたいしたスランプもなく、40前後でもうそろそろほかのことがしたいからという理由であっさり引退みたいな話です。

 バッハは作曲を始めた子供のころから成長も後退もしていない!

 音楽ではありませんが、絵画で言えば、例えば日本でゴッホ展やピカソ展があったりすると、各展示室には、作品年代ごとの作品が整然と置かれ、それぞれの年代の特徴や背景などが解説されているのが普通です。多くの芸術家は、その足跡をたどることによって、成長や変化、それはときには漸進的だが、ときには(エンゲルスの言う「量的変化が質的変化を」みたく)非連続的というか革命的なものとして見て取れるものです。これに対して、バッハの音楽は、生まれたときから、もはや進化の余地もないかわりに退化のきざしもないすべて百点満点の答案でぎっしり満たされているというわけです。

 確かに、先述のシェーンベルグは音楽史にはっきりと名を刻む現代作曲家です。かれの功績は音楽理論的に言うと、十二音法を編み出したこととされています。このおかげで、われわれ現代人は、映画やテレビのドラマや報道番組で、歌として聞いたらまったく旋律的でないが無意識のうちに情景に引き込まれる新しい音楽を享受できています。しかし、この十二音という音楽というか旋律はすでにバッハはやってくれていたのです。

 唐突に結論。歴史を学ぶことも優れた芸術作品に触れることも良いのですが、これら、つまり自然科学以外の人間の営みに対して、弁証法的な進歩史観を持ち込むのはナンセンスであり、さらに言えば危険であるということです。

 哲学についても音楽学についても門外漢である私の不正確な説明をここまで許してくださりありがとうございます。たまたま、カール・ポパーにとっては、進歩主義的な歴史観(が人類を救うのではないか)、進歩主義的な音楽史観(がアンチセミティックなリヒャルト・ワーグナーをぎゃふんと言わせられるのではないか)、という熱病に一瞬侵されつつもそれを克服したとこから、彼の反証主義と開かれた社会への志向がはぐくまれていったことに言及がしたかったのであります。

 (注1)       数学や物理学と音楽など芸術とはずいぶんかけ離れているように思ってしまいますが、これは現在のわれわれ日本人が、理系>>文系>>>芸術系という分類に毒されているからかも知れません。古典古代のリベラルアーツ(≒大学の教養学科)は、中世ヨーロッパでは7教科からなっていて、さらにこのうち、4科として分類されたのが、天文学、算術、幾何、音楽(楽理)だったのです。音楽が、3学(修辞学、文法、論理学)のほうに行かなかったことに注目です。三平方の定理で知られるピタゴラス(教団)が、数学(≒算術+幾何)と音楽(音階理論)の二刀流であったこと、さらには惑星の並び方と音階の親和性について説いたこと

2022年11月28日月曜日

幕末史-納得と幻滅と(後編)

戊辰戦争とアヘン戦争

イギリス国立公文書館で発見された機密文書によると、前回触れた第二次長州征伐(四境戦争とも幕長戦争とも呼びます)での大村益次郎こと村田蔵六と高杉晋作の大活躍というのは過大評価されていたのではないかということになるのです。

 

上記NHKスペシャルの中で、ショックというか案の定と思ったのが「第1集 幕府vs列強 全面戦争の危機」で、英国駐日公使のハリー・パークスが、幕府側で「四境」のうちの小倉口の総督を務めた老中小笠原壱岐守長行に対して、長州側を爆撃することを制止する場面です。外交官が他国の地方政府に対してそのような権限を執行できる道理はないと思うのですが、パークスは「もしもその砲弾が我が国(英国)の商船に被害を与えた場合にはお前ら賠償できるのか!?」と脅すのです。

 

司馬遼太郎先生は「花神」のなかで、第二次長州征伐で、幕府側がまさかの敗北を期した複数の理由のひとつとして、幕府側についた諸藩の士気の低さもあげています。そのなかで、この小笠原長行の戦闘意欲の高さは例外だったと司馬先生は書きます。

 

「小倉戦争」とも言われる、関門海峡を挟んだ幕長の戦いに関しては、ウィキペディアで「下関戦争」「長州征伐」「小笠原長行」「ハリー・パークス」と調べても、この外交官による事実上の介入は出てこない事実なのです。

 

これが、近頃、英国公文書館で初出の事実だというわけです。

 

大学受験日本史の参考書の代表格とされる山川出版社「詳説日本史研究」は、第9章 近代国家の成立>2 明治維新と富国強兵>戊辰戦争の項で、

 

なお、ほぼ同時代に世界でおこった出来事に比べると、アメリカの南北戦争(186165)では死者約62万人、フランスのパリ=コミューン事件(1871)では1週間から10日間の市街戦で約3万人の死者がでたという。それと比較すると、1年5カ月にわたる戊辰戦争の死者は8200人余りで、その後の変革の大きさに比べて流血は小規模であった。

 

という受験参考書としてはいささか印象的すぎる描き方をしています。この比較がフェアかどうかは措くとしましょう。さまざまな要因のおかげ(注)で、当時の日本がアヘン戦争の中国=清のようにはならなかったかも知れません。が、列強に巻き込まれた代理戦争にほぼなってはいたことは認めなければならないでしょう。

 

幕末の日本には、従来言われていた以上に、国家としても民間資本としても先進列強の介入があった。特にイギリスはそうである。この新事実は、確かに、ロスチャイルド=ジャーディン・マセソン=トマス・グラバー=よく言われている坂本龍馬・中岡慎太郎の流れの延長線上に浮かぶべきものです。

 

だとすると、長州ファイブを、イギリスに遊学させたいという(桂小五郎や高杉晋作の兄貴分である)周布正之助の発想も、まだ歴史資料としては発見されていないだけで、実は確たる人脈、政脈、金脈に沿った流れであったと考えるのが相当なのでしょう。

 

(注)一般に言われている理由を含めて、個人的には清=中国と日本には以下の違いがあったと思います。

①清は英国に紅茶を輸出しており、英国は対清で巨額の貿易赤字を抱えていた(銀が清に集中していた)。この貿易不均衡対策がアヘンの輸出だった。以下は説明を省略(林則徐の登場など)。日本とは貿易不均衡がなかった(というか貿易がなかった)から、暴力的に是正すべき問題がなかった。

②アヘン戦争の時期までは、列強のなかで、英国が軍事的に突出していた(ロシアはクリミア戦争で英国に敗北した。米国はまだ新興国であった。オランダは弱体化しつつも日本と友好的だった)。マシュー・ペリー来航以降の日本においては、列強の間で、抜け駆けを許さないある種の拮抗関係があった。特に、米国は、条約締結には漕ぎつけたがその後南北戦争が勃発。英仏に抜け駆けさせないように、むしろ、日本の利害を後方支援した。

③アヘン戦争と同様の惨事を起こさないようにという意識が、薩長側の有力者と、幕府側の有力者との間で共有されていた。その人材の代表格として、前者の西郷隆盛、後者の勝海舟が居て、江戸城の開城は無血となった。

④幕長戦争、鳥羽伏見の戦い、戊辰戦争を英仏の代理戦争だと看做すとき、その背景には、英仏両方のロスチャイルド系資本があると言われている。代理戦争で実際に命を落とすのは日本人であるとしても、市場開拓や、対ロシア、中国の軍事的防波堤として考えたときに、日本人の多くを無駄死にさせるのは得策ではないというベクトルが働いた。


結びにかえて

3回にわたる「幕末史ー納得と幻滅と」シリーズの結びにかえて、中編と後編の間に闖入させざるを得なかった、世界第二位の暗号資産取引所FTX破綻にまつわる後日談を少しだけ紹介します。

何故、幕末史とFTXがつながるのかは不思議なところです。

幕末史というか、我が国が第二次世界大戦で敗れてその後(しか知らない私のようなものが)受け入れがちな認識、つまり(欧米型の)民主主義が人類史のなかでもっとも進んでいて優れたものであるという価値観について疑いたいのです。

民主主義と言っても、ギリシャ・ローマの民主主義と、今日われわれが範としている(?)議会制民主主義は異なります。が、ポイントは、代議士を間接的に選ぶ場合でも、大統領や首長を直接的に選ぶ場合でも、「ひとり一票」というのが原則だというのが民主主義のエッセンスだと考えられていると考えられます。

払っている税金に参政権の度合いが比例して、「高額納税者は10票、少額納税者は1票、生活保護は0票」などという制度だとしたら、それは民主的ではないという呼ばわれかたをすることでしょう。

ここでFTXです。

破綻したFTXは、主としてその創業者社長であったSBF氏が、主として米民主党の議員に、総額40,000,000ドルもの寄付をしていたことが発覚したわけです(2022年だけで)。

これを素っ破抜いたWSJ紙はさすがです。

こいつはニューヨークタイムズでは、やはり、見つけることが出来ませんでした。見落としだったらごめんなさい。

ただし、調べようと思えば調べられる程度の透明性がある点では、米国版の政治資金規正法は機能しているということにはなりますが。

なお、FTXのSBF前社長以外の役員からの寄付を合わせると、72,000,000ドルにも達するそうです(この残差の部分には若干だが共和党議員への寄付も含まれている)。

この金額がどれだけ大きいか。前前年の2020年の同社関係寄付総額の6倍の規模であり、米国の国会議員が暗号資産業界から寄付されている総額のほぼ100%であること、そしてSBF個人としては、民主党への寄付金額は、会社を破綻させた今年、ジョージ・ソロス氏について2番目へと躍り出ているという具合です。

以上が、先々週末のWSJ紙の記事。そして、先週末、同紙は、SBF氏というかFTX社が目論んでいた見返りというのは、暗号資産業界の規制監督を、SEC(米国証券取引委員会、米国版の証券取引等監視委員会)よりも《手加減してもらえそうな》CFTC(米国商品先物取引委員会)の手に委ねられるよう《動いてもらう》ことだったとしています。

高校時代に「政治経済」の授業で「米国ではロビー活動というのが認められている」という話があって、釈然とせず、いまだに釈然としません。現時点では、政治家に対する「寄付」「献金」「賄賂」の違いについてちゃんと説明できない私がこんなことを書いております(受託収賄罪と単純な収賄罪の違いならわかります)。

しかし、FTXがらみのSBF氏たちの寄付の射程は、我が国で言えば、リクルート(コスモス)事件を彷彿とさせるものです。この事件にしても、収賄側の自民党議員(たち)の職務権限がはっきりしていなかったにもかかわらず、川崎駅西口開発にかかわる容積率緩和という具体的事案が含まれていたがゆえに、受託贈収賄で、立件されたわけです。


ところで、経団連が「政治寄付関連制度の国際比較」というのをまとめてくれています(出典:国立国会図書館資料等)


ここにあるPAC(political action committee)というのが曲者で、高額寄付の抜け道になるようです。

だとすると、納税額に応じて参政権が強まるという、実質は非民主制ではないかということになります。

さらには、金持ちがちゃんと納税をしていない。ないしは納税しなくても済むように、政治や行政を操作できるということすらありえます。

実は、政治が、金の力では絶対に動かない、理想的な社会というのは、国家権力同士が競争状態にある世界においては、実にワークしないものであるとも思っているので、そのこと自体を批判しようとしているのではありません。

「戦争に負けたのは(まちがった戦争を起こしたのは)てめぇの国が民主的ではなかったからだ。オレたち米英を見習え」という占領政策や戦後教育を無条件に受け入れてはいけないという観点で、政治とカネの問題も見直さなければならないという点を指摘しておきたかったのです。

スクリーンショットには、日・米・英を載せましたが、全体では、フランス、ドイツについてもまとめてくれています。多くの国や(米国の)州では、企業献金については禁止または厳しい規制が課せられているようです。FTXにおいてはSBFが公私混同をしていたので、実質は企業献金であるところを個人献金の名目で合法化できたということでしょうか。さらに追及をしたいところです。

この点では、よく言われるディープステートという陰謀論をも連想させます。陰謀論は99%は唾棄すべきものかも知れませんが、1%くらいは真実が含まれているかも知れません。このPACやスーパーPACを使えば、確かにウォールストリートを始めとするマネーの輪転機は永久機関と化すかも知れないのです。

最後の最後に、政治とカネの問題だけでなく、政教分離や文民統制など、日本国憲法のエッセンスも、GHQに学ばせてもらったともいえるが、米国の制度それ自体は、政教分離でもなければ文民統制でもない点を指摘して、本項を結びたいと思います。




2022年11月19日土曜日

どうなっているのかFTX?

行政処分という汚名

 

FTXFXは名前が似ていますが、内容はまったく異なります。ごっちゃにしてはなりません。

 

先週末倒産した、ピーク時世界第三位の暗号資産取引業者、FTXは、FuTures eXchangeの略なのだそうです。

 

リーマンブラザーズ倒産時(2008年)と同様、急成長した暗号資産取引業者FTXの米連邦破産法11条申し立ての事実を受け、金融庁は、直ちに、日本法人FTX Japanに行政処分を下しました。

 

FX業界でも、海外親会社の倒産で、牽連して倒産することが想定されるとして、MFグローバルFXA社に行政処分が下された事例があります(2012年)。

 

なにせ、行政処分というと、人聞きが悪いのです。金融商品取引業者や暗号資産取引業者に対する行政処分というのは、ほとんどの場合が、法令違反を原因としています。

 

しかし、リーマンのように「なまじ」規模が大きく、「投資銀行業務」という実態がよくわからない事例は別としても、MFグローバルFXA社などは、結局は廃業に追い込まれたとは言え、顧客資産はきっちり返還しているわけです。同様の理由(※1)で行政処分となったアルパリジャパンの場合もそうですが(2015年)、最終的に債権者には実害が生じていません。

 

FTX倒産については、暗号資産取引業として登録されているFTX Japanという拠点があり多くの個人のお客様もいらっしゃるはずなのに、日本語での情報が手に入りづらい状況にあります。本件は、英語メディアと日本語メディアのギャップが大きいのです。規模こそ大きいものの、ニューヨーク証券取引所に上場しているわけではなく、巨大ベンチャーキャピタル(含む日本のソフトバンク)などからの私募的な資金調達をレバーにして急成長した企業であるため、情報開示が十分でないことも理由でしょう。

 

これまでにわかっていること

 

倒産前夜に創業者社長であるSam Bankman-Fried(米国の第32代または第35代大統領風にSBFと略称されるそうです)が、Binanceを始めとするライバル暗号資産取引所に救済を求めたときの緊急デューディリジェンスから、その負債総額が7兆円規模(債権者数は百万人超?)だという報道もあります。

 

ところで、ここ30年くらいで、株式などを主に扱う証券取引所も民営化されたり上場したり買収したりされたりするのが常態化しています。とは言え、証券取引所が自らの株式を公開したり増資したりしてその発行代金で派手なビジネスを始めるというのは、東証や大証(※2)になじみのある日本人にはピンと来ないものです。

 

暗号資産業界はここがだいぶ違います(まったく違うとは言えない)。FTXも、私設の取引所としては、ひたすらBinanceを追いかけ、ユーザーエクスペリエンスを研ぎ澄ますことで世界中の暗号資産ファンの心をとらえてきたという一面もあります。いっぽうで、問題は、FTX自身のトークンであるFTTで巨額の資金調達をしていたことです。

 

FTTも、暗号資産の端くれなので、相場があります。


(出典:コインベース)

FTTは暗号資産ですし、テザーのような法定通貨とのパリティも保証されていません(ステーブルコインではない)ので、この時価総額の滅失による投資家の大損というのは、負債増額の7兆円には含まれていない点は重要です。

 

さて、以下に述べるように、ここから先が、日本とそれ以外とで極端に違うところだと思うのですが、もしかすると、日本以外のFTXの拠点では、FTT以外の暗号資産(ビットコインなど)についても払い戻し(≒法定通貨などへの交換)がままならないかも知れないということです。これが、上記の7兆円に含まれているのか居ないのか、私もまだ調査途上です。

 

日本の取引業者は驚くほど安全?

 

いま、御本尊のFTXのホームページ

https://www.ftx.com/

を訪問しようとするとタイムアウトで入れません(※3)。



一方、日本法人のFTX Japanのホームページは健全です。

 

実は、日本法人の社長は私の知人でした!かつて業績不振で事実上の解任となった前職(日本の資本で株式業務とFX業務をやっていました)の時代に、FXのカバー先のひとつであるゴールドマンサックス東京支店を訪ねたことがありました。六本木ヒルズに行ったのは人生でそのときだけです。そのときにお会いしたのが、外国為替部門の法人営業担当でセス・メラメッドさんという名前からしてもユダヤ系のアメリカ人でした。

 

私の先入観もありますが、たいへん優秀な方で、何と言っても日本語がペラペラなのです。日本とは言え、ゴールドマンサックスで仕事をするのであれば周りの日本人に英語をしゃべらせれば言いわけです。私なんかが、仕事上やむをえず、「敵性語」をしゃべらされているのとは違うのです。何故、セスさんはわざわざ敗戦国の難言語を習得されたのかと感心したものでした。

 

今回、FTXの記事を見て、初めて知ったのが、彼もまた、お笑いの(?)パックン同様、米国の大学で日本語を修めていたということです。

 

そして、ゴールドマンサックスを退職したのち、日本の暗号資産取引業者として第一ラウンドで登録できたうちのひとつであるリキッド社の社長になられたのでした(当時は仮想通貨交換業者)。リキッドで暗号資産の大量ハッキング事件が発生してしまい、そのときに救済を求めた相手がSBF氏だったとのことです。

 

FTX Japanのホームページで、注目しなければならないのは、

 

当社におけるお客様の資産の管理状況等について

 

というお知らせでしょう。取り扱ってきたすべての種類の暗号資産について、少なくともコールドウォレット分については、十分な区分管理が行われていること、円など法定通貨の預託分についても同様であること、これを踏まえて、約一週間ほど、(おそらくシステム対応と行政処分対応のために)出金依頼対応ができなかったが、それを再開した(いっぽう入金はうけつけない・・・当然)ことなどが記載されています。

 

何かの理由でよほど日本のことが好きでなければアメリカの大学で日本語など勉強することはなかっただろうセスさんが、外国為替の世界から暗号資産の世界へと横っ飛びし、ここ数年で二度の試練を味わっておられるが、雇われ社長として誠実に業務をこなしていらっしゃる姿を遠目で見て、感動しています。

 

この点、外資系の日本法人の雇われ社長というのは、どんな産業であれ、たいへんな苦労を伴います。日本は顧客保護の制度が整っている一方で、強欲な諸外国人(中国人だのアングロサクソンだのユダヤ人だの、とは言いません!)の物差しで業績を上げるのは難しい土地柄です。FX業界だけを見ても、今年、ライバル会社(注:相手はアヴァトレード・ジャパンをライバルとはまったく思っていないかも知れません)の外資系雇われ社長が、様々な理由で更迭されたと聞きます。

 

FX業界のことはさておくとして、セスさんが行政処分などという汚名を気にせず正念場を乗り切り日本の登録業者の社長としての矜持を示してくれればと願っています。

(注1)経営破綻のきっかけはスイスフランショックでしたが、当時のアルパリジャパンに下された行政処分の内容は、それとは関係がない非対称スリッページ(顧客にとって不利な方向に偏って、発注時のレートと約定時のレートの差異を意図的に発生させていること)に関するものもありました。なお、同社は業務停止を経つつも、廃業には追い込まれず、デュカスコピーによる救済を経て、デュカスコピー・ジャパンとして存続しています。

(注2)東証よりも先に上場を果たしていた大証によって東証は買収され、東証はいわば裏口上場を果たしました。東証と大証が経営統合したことで、持ち株会社の社名も日本取引所グループとなっていて、自ら同取引所に上場している格好です。主要株主を見ると、上位はすべて信託名義で、実質的な支配者が誰だか表面上はわかりません。役員構成を見れば、半官半民の企業風土は抜本的には変わっていないように見受けます。

(注3)2022年11月18日金曜日日本時間16時現在、筆者が勤務先アヴァトレード・ジャパン(東京都港区赤坂)からアクセスを試みた結果です。 

 

2022年11月15日火曜日

幕末史-納得と幻滅と(中編)

私はこのドラマに嵌っていて、それを小学校の担任の先生(4年生から6年生までお世話になった稲垣雅敏先生、若くしてお亡くなりになり、まったく恩返しが出来ませんでした)にその魅力を伝えたところ「丹羽君、大河ドラマを見たほうが良いよ」と諭されたのを覚えています。

 

「俺たちの旅」のコースケと「花神」(実質は「世に棲む日々」)の高杉晋作は、同じ中村雅俊が演じていることもあって、破天荒の愛されキャラがそのままタイムマシーンに乗ってきたような錯覚を得たものでした。

 

子供心には、高杉晋作>村田蔵六だったと記憶します。齢をとったいまは真逆以上です。

 

それは個人の見解に過ぎないとして、第二次長州征伐(長州藩での呼び方は四境戦争)で、信長の桶狭間の戦いや義経の一の谷の戦いを彷彿とさせる番狂わせを演じたのは、大村益次郎の才気煥発極める指揮と高杉晋作の電光石火のごとき決断力と行動力という歴史観が定着していたと思います。

 

「花神」と「世に棲む日々」は、特に司馬遼太郎先生の作品群のなかでも、いささか揶揄された表現なのでしょうけれども、「長州史観」の決定版を一旦は頭に叩き込むために、このふたつを繰り返し読むことは私には必要でした。「長州史観」という言い方はしましたが、幕府側に開明的要素がなかったわけでは決してないことや、俗論党との接触と調整を図ろうとした赤禰武人を悪くは書いていない点にも注目です。あと、「世に棲む日々」だけを読んでいると、禁門の変(蛤御門の変)以降逃亡していた桂小五郎がいつ長州(の政治の舞台)に戻ってきたのかさっぱりわからないという難点もありました。

 

ここで、繰り返し読んでも、なかなか腑に落ちないのが、桂小五郎や高杉晋作、そしてその仲間である後の伊藤博文や井上薫たちの(対俗論党の)庇護者である周布正之助が、伊藤や井上たちいわゆる長州ファイブを英国に留学(?)させようとする意図とプロセスです。

 

これは、両方の小説に登場する重要な場面局面ですが、「花神」でのみ、村田蔵六が負わされた任務と負担が濃厚に描かれていたりします。

 

当時、長州は攘夷の旗頭として下関で英国の貿易船に砲撃を加えています。つまり、英国とは戦闘状態にあるわけです。このような状態で、金さえ積めば藩の幹部候補生を留学させてあげられる、地獄の沙汰も金次第だ、というのもさすがに無理ではないか。これが腑に落ちない点なのです。

 

普通に考えると、何らかの「英国筋」から周布に対して探りがあったのではないか?どれだけ、周布や桂や村田蔵六がそれぞれの立場で、「攘夷は手段」「目的は開国(交易)を通じた『国』力の醸成」という開明的な鳥瞰図を共有していたとしても、この展開はあまりに唐突に思えるのです。

 

実は、長州ファイブに関する資料はいまだに乏しく、現時点においても、私のこの疑問については満足のいく解答は得られていません。

 

しかし、先日NHKスペシャルとして放映された

新・幕末史 グローバル・ヒストリー 「第1集 幕府vs列強 全面戦争の危機」

新・幕末史 グローバル・ヒストリー 「第2集 戊辰戦争 狙われた日本」

 

これらは、私の疑問への糸口を与えてくれる新しい発見でした。

(後編へと続く)

2022年11月8日火曜日

幕末史-納得と幻滅と(前編)

高校時代、日本史を選択しなかった私にとって、幕末の知識は、中学までの歴史と、ここ最近のマイブームと言える司馬遼太郎先生の諸作品からのものです。

 

このような歴史音痴の私が、大胆にも、日本史の節目に現れた、通貨や外国為替を巡るエピソードについて独自解釈を展開したのが、政治観が一致するとはとても言えないワック出版のWiLL Onlineの「現役FX会社社長の経済&マネーやぶにらみ」でした。

 

歴史の知識にも、研究する時間にも乏しい駄馬を、水場へと引き連れてくれた同社の役員 兼 編集員 兼 校閲ボーイのNさんもまた司馬遼太郎を尊敬する仲間です。そのなかでも特に、Nさんは、毎年一回読み返す作品があるというのです。それは、明治日本の徴兵制の基礎を作った、もともとは蘭学者(蘭方医)の大村益次郎こと村田蔵六を主人公とする「花神」です。

 

私もまた、ふたつの理由から、「花神」が特に気に入っているのです。ひとつは、司馬遼太郎先生の実質的な処女作である「梟の城」の主人公葛籠重蔵同様、村田蔵六も、技術のみを信頼し、組織やコネを無視するというか忌避する性格、世間体や社会的地位、つまり自分がどんな大組織に属しているのかとか、ヒエラルキーのトップから数えて何番目に位置するのかとか、部下を何人抱えているのかとかに興味を示さない点、です。

 

この点では、司馬遼太郎先生が取り組んだ「義経」や「国盗り物語」の斎藤道三と明智光秀、「関ケ原」の島左近と石田三成などとも共通はしていると思います。が、著者あとがきなどでは、義経、光秀、三成に関しては、(蔵六や重蔵と同様)あまりにも政治的センスがなさ過ぎたために天下をとれなかったのは自業自得だという書かれ方をしています。政治的センスの無さでは同様の、蔵六や重蔵たちが、司馬遼太郎先生自ら魂を注ぎこんだキャラクターとなり、大好きであり、そのものになりたいという気持ちが溢れているのとは大きなギャップを感じてしまいます。

 

ただし、蔵六と重蔵にも違いはあります。蔵六には、その政治的センスのなさを補って、技術志向という長所を引き出すべく、政治的センスのかたまりである桂小五郎(木戸孝允)など、盛り立ててくれる保護者がいたことでしょう。

 

まあ、蔵六としては、実は開明的でなかったわけでもない幕府おかかえの蕃書調所ついで講武所の教授のままでいられたほうが幸せだったのではないか?桂小五郎に惚れこまれたがゆえに薄給冷遇の長州藩へと引きづりこまれたのは有難迷惑だというのが世間の平均的な価値観なのだと思うのですが、そんなことは気にしないのがまた蔵六の魅力というものです。

 

魅力と言えば魅力。しかし、身分も評価も俸給も捨てて地元に帰るという蔵六のメンタリティに「攘夷」(外国打ち毀し)という裏面があったとすると、当時引く手あまただった人材中の人材で最も開明的であった蔵六の表面とどのように折り合いがつけられていたのか。

 

司馬遼太郎先生は、ここについては、かなり、小説らしからぬ注釈と余談で説明をしてくれています。

 

そこは「花神」本文に譲るとして。

 

もうひとつ「花神」が好きになったのは、小学校の最終学年のころに、はじめて観た大河ドラマが「花神」だったからなのです。

 

ただ、正直に言うと、総集編しか見ていません。いまでも、NHKアーカイブスには総集編しか保存されていないそうです。

 

ドラマのほうももちろん大村益次郎こと村田蔵六が主人公なのですが、ドラマ台本には、司馬遼太郎作品として、「花神」とほぼ同格に「世に棲む日々」(前半が吉田松陰、後半が高杉晋作)、「峠」(河合継之助)「十一人目の志士」(天堂晋助)が巧みにアレンジされていました。

 

配役が私には重要な思い出なのです。村田蔵六役は中村梅之助があまりのはまり役で、これが理由でどこのプロダクションもリメイクしないのではと疑っています。それはそれとして、高杉晋作役が中村雅俊、天堂晋助役が田中健。この二人は、前年にNHKではない民放某局でNHK大河ドラマと同じ日曜8時に「俺たちの旅」で主役コースケ、準主役オメダとして共演していたのです。

(中編へと続く)

2022年8月30日火曜日

AVAニュースレター(2022年5月20日付)

AVAニュースレター

平素よりアヴァトレード・ジャパンのMT4口座MT5口座をご利用くださりまことにありがとうございます。

 

本日は、お知らせが二点ございます。

 

    AMMA>ミラートレード型の選択型自動売買のEAMT4/5向け自動売買プログラム)の利便性改善について

    MT4/5の原則固定スプレッドと最大発注数量に関する今後の見通しについて

 

まず、⑴アヴァトレード・ジャパンが独自に開発した選択型自動売買サービスであるAMMA(「アヴァ・MT4/5・マルチ・エージェント」の略称・愛称です)には、MAM型とミラートレード型があります。

 

MAM型とミラートレード型には一長一短があり、本お知らせの(末尾2)で解説しています。

 

MAM型の選択型自動売買においては、引き続き、お客様のMT4/5口座で該当する選択EAをフォロー(AMMA接続)すると、当該取引口座は選択型自動売買(コピートレード)専用口座となり、その口座でお客様が裁量(マニュアル)で取引をすることは出来なくなります。「裁量取引を併行したい」とご希望のお客様は、お手持ちの他のMT4/5口座をご利用ください。他にMT4/5口座をお持ちでないお客様は、MYAVA(マイページ)より追加口座を開設していただきそちらをご利用ください(末尾1)。

 

MAM型の選択EAの建玉を(いまじゅうぶん含み益が出ているからまたは含み損が出ていてこれ以上拡大しないか心配だから、自動で決済されるのを待たずに)お客様ご自身で裁量決済したいというニーズはあるはずです。それを裁量専用の別口座で行っていただくのは資金効率上も問題が残ります。

 

MAM型では技術上この問題が克服できないのですが、ミラートレード型では、●月●日より、お客様の裁量による建玉決済が可能になるようシステム改修を行います。と同時に、新規注文についても、選択型自動売買と重ねて裁量でも発注できるようになります。

 

なお、新規・決済にかかわらず、裁量取引が可能となるミラートレード型の選択EAAMMAのリストは、以下のとおりです。

 

ミラートレード型AMMA一覧

アヴァMT4

NANO

HAYABUISA
●稼ぐロボAT
Euroswing
●順鞘市場
SPO
●トレンドクルーズ
EVa (新規受付停止中)

アヴァMT5

Grandia
Force
Night Knight

 

一方、以下のMAM型の選択EAAMMAは、接続中のMT4/5口座は引き続き自動売買専用であり、裁量取引は出来ませんのでご留意ください。


 

 

MAM型AMMA一覧

アヴァMT4

●大阪ミンテッジ
Candle_matsu
UAT3
UAT4
Dr.ATA
Legacy
●ポートレード
●αアルゴトレード
Benten trade
Aizack
Poseidon
HK196 (新規受付停止中)
HK294 (新規受付停止中)
●リッチメイク (新規受付停止中)

アヴァMT5

UAT5
SURF
YAIBA(新規受付停止中)

 

 

選択型自動売買AMMAに関する今回のシステム改善に伴い、選択型自動売買投資顧問契約前交付書面と同 契約時交付書面(投資顧問契約書)の再交付をさせていただきます。

 

続いて、⑵MT4/5の原則固定スプレッドと最大発注数量に関する今後の見通しについて、です。

 

ウクライナ情勢やポストコロナの世界的物価上昇、またそれに深く根差す日米金融政策の乖離などから、円安が加速すると同時に、為替相場全体のボラティリティも上昇しています。

 

一方、日本のFX業界は、過当な「原則固定(?)」スプレッド引き下げ競争により発展または堕落してきたと考えられてきたなかで、当局および業界のスプレッド広告規制強化後としては初体験となる相場のボラティリティで、多くのFX業者が「原則固定例外ありドル円0.2銭」という表示を撤回する動きが見られています。

 

さらに、これと相前後して、一発50ロットまたは100ロットなどの大口注文については別テーブルのスプレッド表を提示する業者も出てきました。

 

お客様の中には、アヴァトレード・ジャパン以外でもFXの取引口座をお持ちの方がおられると思いますので、このように、配信率95%を維持できない業者たちのスプレッド競争からの撤退の動きに気付いておられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

外資系オンラインデリバティブ会社の100%子会社として日本で金融商品取引業>FX事業を営むアヴァトレード・ジャパンとて他人事ではありません。日本国内の業者のこのような動きを察知して、むしろジャパンのほうから心配して、親会社のカバー先責任者とはゴールデンウイーク前から会話をしてきました。

 

つまり、例えば「アヴァMT5は一発200ロットまでドル円0.4銭などで打てる(自動執行)が、大丈夫なのか?」と藪(ではないですが)に蛇をつついたところ、案の定「いや、厳しい。100ロットを取りにいくと0.6から0.8かかる。」「最大発注数量を限定して(例:10ロット)ドル円0.3銭原則固定という新プロジェクト(裁量専用でEA不可)を検討しているがそちらも大丈夫か?」「そちらは何とかなるが、MT50.4銭を配信率95%で維持するのは最大発注数量を下げたい。今日明日とは言わないが・・・」という生々しい会話になっています。

 

時期は未定ですが、もう少しカバー先の情勢を見てもらいながら、MT5の大口取引(特にAMMAに関連)については取引条件の見直しが必要になってくるかも知れません。

 

ここで申し上げたいことは、本お知らせ自体を悪徳比較サイトみたいにしたくはないのですけれども、実は気が付いてみたら、アヴァトレード・ジャパンは、スプレッド競争で断トツ最下位を突っ走っていたかと思いきや、現在のところめちゃくちゃ頑張っているということです。

 

ただし、今後は、例えばMT5の最大発注数量を200ロットから100ロットへと下げる必要が出てくるかも知れません。いっぽう、MT4はドル円だと1.0銭ですが最大発注数量250ロットへの引き上げを要望しております(弊社調べで国内断トツ最大!)。更には低スプレッドの「裁量専用小口コース」の新設も検討しております。お客様の幅広いニーズにお答え続けるためにも、条件の異なる複数のコースから最適なコースを選べるようにしていく計画ですければと考えております。


 

ウクライナ情勢と金利差問題に加えて、米国の景気後退という、FRBにスタグフレーションのストレスがかかる相場展開になってきました。ここから先、ドル円に関しては、一層の円安なのか、踊り場が続くのか、一転円高と読むべきなのか、予断を許さない状況です。

 

慎重に取引をしていただくとともに、「アヴァトレード・ジャパンはスプレッドは悪いけど・・・」というところが、実は環境が違ってきているというところを頭の片隅において、MT4/5に向かっていただければうれしいです。

 

(末尾1)

ご登録いただいているメールアドレス(本お知らせが届いているメールアドレスです)とパスワードでMYAVAにログインしていただき、MT4口座の追加またはMT5口座の追加を申請していただければ簡単に追加口座を開設していただくことができます。

(末尾2

MAM型とミラートレード型には一長一短があります。この二つは、お客様がフォローしたい選択EAがあるときに、該当する特定の選択EAについて、お客様が任意でどちらかを選ぶことができるわけではありません。選択EAをアヴァトレード・ジャパンに提供してくれている提携投資顧問会社・ソフトウエア開発は、この一長一短を考慮して、アヴァトレード・ジャパンのお客様のなかでフォロー希望がある取引口座への売買シグナルのコピーの方法として、MAM型かミラートレード型かを選んでもらっています。今回の利便性向上の方向により、法令順守上のベタープラクティスという観点から、可能な限り選択EA提供者にはMAM型よりもむしろミラートレード型を使ってもらうようにお願いをしているところです。

 

MAM型の長所

フォロー中(AMMA接続中)の取引口座の残高に比例して発注数量が決まる仕組みなので、コピートレードの開始時に、「親口座(例:残高10万円)の発注数量(例:0.1ロット)に対してお客様の口座(例:残高100万円)がコピー倍率を何倍?(例:10倍)にしたいかという申し込みをする必要がない。

 

MAMの短所

MT4/5の最小発注数量が0.01ロットであるために、ひとつの親口座のもとに、極端に残高の大きい口座(例:1億円)が2口座と極端に残高の小さい口座(例:10万円)1口座が接続している状況だと、親口座(仮想残高210万円)の発注数量(例:10ロット)の場合、残高10万円の接続口座へは約0.005ロットしか配分されないがこれは0.01ロット未満なので、一切注文が流れないことになってしまう(ミラートレード型ではこのような問題は発生しない)

 

取引が好調に継続しているときには、親口座の選択EAが複利ベースで発注数量を増大している場合には、お客様の口座も同様に発注数量が増大してゆく。

 

ミラートレード型の長所

選択EAから発せられる売買注文(選択型自動売買)に加えて、フォロー中の取引口座の保有者(投資家であるお客様)も裁量売買が可能。①裁量新規注文とそれによる建玉についての裁量決済注文、②自動売買による建玉についての裁量決済注文(選択EAが決済する予定の建玉をその発動よりも以前に裁量で決済すること)の両方が可能。ただし、選択EAは、選択EAだけが取引を行っているとの前提で取引倍率(証拠金維持率)の最適化を目指しているので、上記裁量取引のうち、②は問題ないが、①については証拠金不足にならないように注意する必要がある。

 

ミラートレード型の短所

コピー倍率は1倍以上しか設定できない。例えば、マスター口座(例:残高200,000円)となっているときに、これから接続予定のフォロワー口座(例:残高100,000円)がコピー倍率0.5倍を申告することはできない。もともとのマスター口座が例えば100,000円でスタートしていたのが順調に利益を重ね200,000円へと成長したときに、スタート当初のフォロワーが全員「単利投資」を希望している場合には、マスター口座は100,000円を出金し残高を100,000円に戻せばよく、そうすることによって、新規募集の預入最低金額を100,000円のままに維持できる。が、スタート当初のフォロワーのなかで「複利投資」を希望している投資家がいる場合に、上記事例の問題が生じる。これを解決するには、MAM型を利用するか、ミラートレード型のAMMAにおいては、(投資信託やファンドなどで言う)追加型を排除し、募集時期ごとに独立したミラートレード型のAMMAを設定するか、いずれかの方法が考えられる。