2012年3月15日木曜日

ゴールドマンサックス退職社員の捨て台詞

チャールズ・チャップリンの自己評価としては最高傑作だったという「殺人狂時代」という映画。不世出の映画監督 兼 喜劇俳優 兼 ・・・・ が「赤狩り」に遭い、ハリウッドを追い出されるキッカケになったともされる作品の最後の部分で、死刑台に登る主人公が発する言葉が、

「一人殺すと殺人犯、百万人殺すと英雄、、、」

One murder makes a villain; millions a hero.

というものです。

いまでは代表的な構造不況業種となってしまった証券業界や商品先物業界ですが、かつては大儲けした時代もありました。その時代に巡り逢っていたかったとは必ずしも思わないし、またその時代も、方法も、業種、規模、個社によりけりで、決して一括りにしようとは思いません。

が、ある時期、あるカルチャーを共有していたグループは、証券と先物共通の「方法」を濫用してきたこと(で資本蓄積に成功したが、いまはそれを食い潰しているだけであること)を多くの経験者や内部者が認めていると思われます。今様に格好良く言えば、ビジネスモデルの一種なのかも知れません。

良くもあしくも投資家の自己責任というカルチャーが根を下ろしていない我が国では、自称人権弁護士の動きもあり、立法行政の対応も早く、このようなビジネスモデルは殆ど死に絶えています。

それはそれで良かったのだと思いますが、何故それが世界規模で行われていると無罪放免なのか、否、それどころか就職人気ランキングも含めた超セレブ企業と崇め奉られるのか、ここ5~6年腑に落ちない状態でした。

そこに来て、今朝飛び込んできたニュースが、題意の告発文。悪徳資本主義批判はニューヨーク・タイムズの真骨頂です。
http://www.nytimes.com/2012/03/14/opinion/why-i-am-leaving-goldman-sachs.html

この内部告発か外部告発かの端境とも言える動きに対して、ゴールドマンサックスの対応の状況をウォール・ストリート・ジャーナルが報道しています。
http://online.wsj.com/article/SB10001424052702304692804577281252012689294.html?mod=WSJ_hp_us_mostpop_read

日本のメディアもこの時間帯それぞれ取り上げていますが、一番早かったのはコチラのブログか。
http://markethack.net/archives/51808686.html
きょうのブログのテーマである「マペット」とは何ぞやを動画で解説してくれています。

ちなみに、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事の中でも、「マペット」の解説がありまして、

"Muppet" is a British slang term for "idiot" and is sometimes used on Wall Street trading floors to denigrate an opposing trader.

英国の俗語で「馬鹿な奴」を意味し、しばしばウォール街のディーリングルームで売買相手となるディーラーを指して(つまり自分が売りたいものを買ってくれる相手に対して)使われる

とのことです。
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2012年3月1日木曜日

それでもユーロは・・・・「マネーポスト」2012年春号本日発売

ユーロの問題は、政治が結束して域内劣等生を助けてあげるかどうかという意思決定の切り口ばかりが報道されているようです。

赤字を垂れ流している国に対して補填を決めたとしても、不均衡の解消は一時的なものにとどまるにもかかわらず、市場はその場しのぎの意思決定に左右されています。

より根本的には、「金融政策が一本化されているのに、財政政策が一本化されていないことが、ユーロの矛盾であり不備である」という根強い論調があります。では財政政策を統一すれば、ユーロ圏は蘇るでしょうか?

わたしは、より実体経済、特に失業問題、中でも若年失業率に注目して、統一通貨下で不均衡を抱えながら経済運営を続けていくことはミッション・インポッシブルではないかという切り口を提示したいと思いました。

その論稿が、本日発売の「マネーポスト」2012年春号に載っております。是非、書店で手にとって御笑読ください。

ところで、他の先生方が書いた記事で、これは面白いと思ったのがあと(?)ひとつありました。日本の年金制度・・・少子化だから年金制度が崩壊していくのではなくて、年金制度自体が少子化を推奨していることが国策上の問題という指摘です。
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2012年2月17日金曜日

沈黙は金、雄弁は銀

日銀の白川総裁が俄に雄弁です。

今週、月曜日火曜日に行われた金融政策決定会合で「長期国債の買い入れペースを、従来の月5000億円から三倍に引き上げる」という金融緩和策の強化を決断したことが、(米国株の上昇や欧州危機の小休止ムード(?)と相俟って、)日本株はさしずめミニバブル状態。

七転び八起きブログでさんざん批判し揶揄してきた「日銀が金融緩和を徹底さえずればデフレと不況が収まるのに、それをサボっている総裁は日本経済のA級戦犯である」的批判を繰り返してきたB級エコノミストたちも、さぞ喜んでいることと思われる一方、真面目な日銀ウォッチャーのなかには、頑固冷徹理路整然の総裁の変節を疑う人も出てきます。

まずは、金融政策決定会合の直後の総裁記者会見の内容と質疑応答

前半、物価安定(≒インフレ率1%)を「目標」とよぶか「目処」とよぶか「理解」とよぶか、に関するQ&Aでは、その長さとしつこさが、官僚の言葉遊びのように思われてしまいがちです。わたしはここは、日銀はこれまでインフレターゲットを拒絶してきたものの、いま思えばインフレターゲット採用国も経済が滅茶苦茶になっているではないか。それにインフレターゲットとハッキリ言って来なかっただけで日銀がしてきたことも実質的にかなり近かったと、《怖いデータ》の数々を見せつつ何度も言っているじゃないか。今後もそれを連続的に強化していきたいだけで、矛盾も変節もないというのが根底にあるのだと思われます。この点、本日先程リリースされた日本記者クラブでの講演が更に雄弁で、趣旨がわかりやすいです(この講演録の末尾添付のチャートとグラフこそ、上記《怖いデータ》の数々そのものです)。

最初に引用した2/14(火)の記者会見に戻りましょう。お時間の少ない方に最優先で読んでもらいたい箇所は、9ページ目の質問からのところです。つまり、

「財政ファイナンスが目的でない・・・とおっしゃっても、財政政策に一段と近づいてきていると思われるリスク・・・日本銀行がこれまで一番避けてきたマネタイゼーションに近づいているのではないかという疑念を・・・総裁はどう思われますか?・・・・・・政治的圧力に屈したのではないかとの見方・・・?」

生で会見に立ち会ってなくても、ここが質疑応答のなかのクライマックスであると容易に想像がつきます。

ところで、白川総裁はこれらより前の1月にロンドン・スクール・オブ・エコノミクス主催の講演で『デレバレッジと経済成長 ―先進国は日本が過去に歩んだ「長く曲がりくねった道」 を辿っていくのか?―』と題して話をされています。イギリス人相手に、ディケンズやビートルズを引用しながら、政治からの圧力、衆愚(B級エコノミストを含む)からの圧力と向かい合いながら、のらりくらりを演じながらも理路整然かつ分かりやすく金融政策の手綱捌きをしなければならない立場の苦悩が延々と語られています。

ぶっちゃけて言いますと、燻し銀の日銀総裁が、理不尽にもデフレの元凶と罵られ続けて、逆切れしての雄弁、という感じもします。

以上、強引にまとめまして「雄弁は銀」。多かれ少なかれ西側先進国経済はこのような体たらくだから、通貨(為替)で言えば、日米欧の不美人投票はより酷く続くだろう、と考えれば、黙って金を買うのがベストの選択だ、、、という立場がどうやら中国の公共セクター(含む中国人民銀行)のようで、英FT紙によると、2011年の最後の3ヶ月間で、金の購入を更に加速させている とのことです。


世界最大の外貨準備高を誇る中国。米国債を買うのは資本輸出(=資本赤字要因)ですが、金を買うのは輸入(=貿易赤字要因)という国際収支の表の見方の落とし穴から露呈した現実であるところが面白い記事の内容となっています。

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2012年2月14日火曜日

ドッド=フランク法の生みの親ボルカー氏大いに吠える

1927年生まれのポール・ボルカー氏が実に元気です。

欧州ソブリン危機の元凶だとの批判は、荒稼ぎができなくなった投資銀行によるお門違いの戯言(たわごと)だと一刀両断です(英FT紙)。

フェニックス証券の「ことりFX」は、実質的に見て、業界で最も有利な水準のスプレッドを提供していると思うのですが、それでも先週あたりから、ドル円で0.4銭とか、これでもか!これでもか!という業者が約2社ほど出てきています。

譬えが婉曲的で恐縮ですが、1990年代、大店法緩和のなかで地方スーパーを競って買収して、シェア拡大を狙った大手から先に倒産して行ってしまい、実は寡占大手の買収を断った地方スーパーは小規模ながら今でも結構生き残っているという皮肉な小売業界が彷彿とされます。

小売における大店法と、FXにおける信託やレバレッジの規制とは比較できませんが、一般に業界の内部の人間というものは、規制に対する意見(賛成意見・反対意見)が一枚岩になる傾向があります。電力業界で、発電・送電・配電の分割やら総括原価方式の見直しやら、規制緩和に賛成という経営者はいないでしょう。大手スーパーや百貨店が相次いで倒産した5年~10年前、大店法は本来大手がスケールメリットを活かして零細商店主のシェアを奪える筈のところを邪魔していて、大手にとって不利な規制であるとして、チェーンストア協会は一貫して撤廃または規制緩和を訴えていたものでした。しかし結果を見るに、実は大店法が大手同士の喰い合いを防いでいて寡占利益を温存していたという事実が判明したのです。

さて、本題。FX業界と証券業界とでは業界利益がかなり違うのですが、証券業界という立場で、ボルカー・ルールに賛成だ、なんて主張すると、村八分になるかも知れません。

しかし、このブログでは、サブプライムショック、リーマンショック、ギリシャショックなどなど、節目節目でモラルハザードを容認する規制にも規制緩和にも反対してきました。

モラルハザードとファイアーウォール

ボルカー元FRB議長が現役復帰

米国にボルカーあり、日本に白川総裁あり

多くの主要国でリーダーが変わるかも知れない2012年、選挙直前のリーダー達は、増税で有権者から嫌われたくないというホンネと、第二、第三、第四・・・のギリシャにしてはならないというタテマエの間で苦悩し、結果として、ボルカールールの受け入れや有価証券取引税の導入など「コレ以上大銀行の血税による救済は許されない」という大衆に受け入れやすい増税方法を選ぶ流れが出来てきています。

フランスも英国の印紙税を真似た有価証券課税が具体化へ と、同じく本日の英FT紙が報じています。

様々な点で金融規制では欧米に先行していた日本は、金融庁に先見の明があったと言えるかも知れません。しかし、全く安心はしていられないのです。「大きすぎて潰せない」金融機関の存在を断固として認めない、そして中央銀行に当座勘定を持つ金融機関は(定義上、商業銀行なのだから)有価証券関連の自己取引は認めない、、、というボルカールールが国際的に抜け目なく適応されるべきだとなったときに、どうすることもできない金融機関が、我が国にも2つや3つはあるのではないでしょうか。
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