2010年3月30日火曜日

桜、、、桜、、、


地元駒込の大名庭園「六義園(りくぎえん)」の名物は、同地発祥のソメイヨシノよりもむしろ、そのちょっとまえに満開を迎える筈のしだれ桜です(写真右)。
一方、フェニックス証券のすぐそばの「日本橋さくら通り」の名物は、ソメイヨシノです(写真左)。クローンで株を増やすことで、同一箇所(同一気候)の桜の開花時期を一緒にさせていることがこの改良品種の特徴ですが、東西に細長く延びる「日本橋さくら通り」は、北側歩道上の木々のほうが日当たりが良いので、南側よりも明らかに開花が進んでいます。本日で6~7分咲きくらいでしょうか。
夜桜見物の皆さま、どうか風邪など召されませぬよう。
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2010年3月26日金曜日

中国の不動産バブル

中国政府が再びバブル対抗策を出したものの、効果は期待できず、焼け石に水との記事(3/26【金】財新網)。
http://www.caing.com/2010-03-24/100129169.html
フェニックス証券の優秀な働き者が以下の通り翻訳してくれました。「悪貨は良貨を駆逐する」シリーズに続けてお読みください。 ギリシャやポーランドはおろか、ドイツからも「国債を買って下さい」と財務次官クラスが日参する(3/24【水】英FT紙)
http://www.ft.com/cms/s/0/e344b88a-376d-11df-9176-00144feabdc0.html
「双子の黒字」国家(?)中国の実像が垣間見られます。世界経済が、中国を決して例外としない形で、借金貨幣の膨張合戦というそソブリンリスクのポーカーゲームに突入していると考えると空恐ろしいことであります。

中国中央政府は新たな不動産価格抑制策を打ち出した。
☆初回住宅購入者へは優遇金利を(むしろ)引下げ
いっぽう、
★2軒目の頭金は40%へ、3軒目は60%へ引上げ
かつ、
★住宅ローン利率は銀行側自ら 引き上げられる
ようにしたという。

この一連の策の下で、不動産市場の売買高は下落したものの、不動産業者等は意外にも慌てていない様子が見受けられている。というのは、過去を振り返ると、類似する「引き締め策」が幾つかあったが、何れも市場がやや冷やされた直後に再び金融緩和策等で過熱状態を繰り返させたからである。

原因は地方及び中央政府の不動産関連収入の大幅減少という。

<中略>

住宅、商業用不動産及び地方政府が銀行に差し入れた抵当物件の合計金額は中国GDPの3倍以上
にのぼる。こんにちの資産バブルは継続し続けるだろう。銀行の流動資金が豊富である理由の一つが、中国国内に流入したホットマネーだ。

<中略>
現代社会の安定は健全のミドルクラスが存在するか否かが鍵になる。高地価政策は事実上ミドルクラスへの課税に過ぎず、大富豪以外は不動産を購入できずの現状は長期的な社会安定に害を及ぼす恐れがある。

合理的な不動産政策の前提条件は財政収入改革にある。固定資産を主な投資対象とする政府支出
は制限すべき。去年、政府財政収入、中央及び地方政府の借款、国有企業支出、 これら三者の合計は中国GDPの半分以上を越えているのだ。政府支出の削減は喫緊の課題であろう。

<中略>

政府部門の高速成長(過度な膨張)はミドルクラスにとっては(インフレ期待を通じた)利殖への妄想を刺激している。不動産バブルに注ぐエネルギーが、そう簡単には潰えない理由がそこにある。信頼可能な財政改革なくして、不動産バブル抑制は実現しない。
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2010年3月16日火曜日

米国の国会議員、超党派でオバマ政権を突き上げ-人民元問題

中国の全人代が閉幕し、温家宝主席が記者会見で「人民元切り上げ要求を一蹴」 した直後の月曜日、米国では超党派の国会議員130人がオバマ政権に対して「中国に対して為替操作国だとのレッテルを貼れ!」との要求したと、たった今、英FT紙が伝えました(原文をツイッターにリツイート)。

「貿易摩擦」や「貿易不均衡」と言うと、プラザ合意以前からの日米関係(円高誘導だけでなく非関税障壁の指摘なども)の既視感が過ります。80年代後半(まで)の日本と現在の中国とでは、非関税障壁の実態のほか資本取引に関する規制環境も異なるため、その既視感は慎重に疑う必要はあります。しかし、貿易黒字国が貿易赤字国の乱発する国債を買い支えてあげなければ、為替相場(など)のパラメータの変化により、不均衡は均衡へと向かう筈、という点では共通です。

「貿易」依存度が著しく高い東京都は果たして収支均衡しているのか?
「悪貨は良貨を駆逐する」シリーズの第二回で東西ドイツの統合を取り扱いました。特に、その後編で、1東独マルク=1西独マルクと政治決断されたために、実態の4倍もの高い評価を得た東独側では失業や工場閉鎖(倒産)という「有難迷惑」な経済混乱を経つつも、工場が東側に移転したり、労働者が西側に出稼ぎに行ったりして、「不均衡」を解消していったのだとお話しました。より大事な点は、東独の労働者(≒組合)が選択肢を放棄しただけのことであって、失業や工場閉鎖の代わりに労働賃金の切り下げを受け入れても、「自国通貨が高過ぎる評価レベルで固定化してしまっている」という隘路を乗り越えることができたという考え方です。

実は、東西ドイツの例を持ち出すまでもなく、これは国内経済でも経験していることです。東京都という地方経済圏が東京都以外の道府県から農林水産物を「輸入」していることは周知です。我が国の都道府県は(市区町村もですが)たいていは財政赤字でありそれを地方債などによってファイナンスしていますが、黒字の自治体がないということは、都道府県に跨るファイナンスは顕著には見られないと考えて良いと思われます。そして、これは自明ですが、東京都にとって貿易相手「道府県」との決済に使われる通貨は日本円であって、どう足掻いても動かしようのない固定相場です。資本取引もなくて、「為替」も固定相場制であって、どうやって都道府県「際貿易」の不均衡が解決できるかと言うと、残された唯一つ(二つ)の自由度が労働と土地(建物)という生産要素の価格(賃金と地代家賃)だということです。

民主政治が行き詰るとポピュリズムに走るのは日米同じです。 米国債を買い支えてくれている中国(という認識がオバマ大統領本人にはあるので、同政権は議員の陳情に苦慮していると前掲のFT紙は報じています)に対して「人民元を切り上げろ。手前(てめえ)は為替操作国だ。」と恩を仇で返す前に、自国民に対して生活水準を切り下げてくださいと言うべきなのですが、落選の恐怖を前にして、スケープゴートを国外に求めざるを得ないのが、成熟国家の議会制民主主義の宿命なのかも知れません。

「インフレこそ政権の足元を揺るがす」は本音か!?
さて、本日のテーマは成熟した資本主義国家が保護主義やポピュリズムに陥りがちであることではありません。昨日、お約束した通り、中国の温家宝主席の全人代閉幕後の発言を、スペインの価格革命を分析した考え方で深読みしてみようということでした。

「人民元の切り上げ要請には屈しない」という発言は「国益」を代表するものでしょうか。また、為替関連発言よりも注目したいと七転び八起きが申し上げた「もしもインフレが発生し、所得分配の不公平が重なってくれば、社会の安定に影響し、政権の足元を揺るがす事態になる」 という部分は国家元首の本音と考えて良いのでしょうか?

まず、後者です。当ブログにて、今日の日本が「デフレの進行とともに格差も拡がっている」という論調は錯覚(厳密には逆「貨幣錯覚」)に過ぎないと繰り返して参りました。その点で、温家宝発言は、正しいだけでなく、物価上昇に対して、農業従事者や工場の非熟練労働者と言った大半の国民の賃金の上昇が付いていけない状況というのが、大航海時代の植民地、産業革命期のヨーロッパや、高度成長期までの日本と似たような搾取的労働の実態を認めたものであるとしたら、大国の舵取りをする国家主席の発言として意味深長なものだと受け取らざるを得ません。

しかし、正鵠を突いていることは必ずしも本音の発言であることを意味しません。これ以上のインフレが国体に危機をもたらすと本気で考えているのであれば、人民元問題と一緒に解決できるからです。冒頭の「貿易黒字国が貿易赤字国の乱発する国債を買い支えてあげなければ、為替相場(など)のパラメータの変化により、不均衡は均衡へと向かう筈」 を思い出してください。日本で言えば、中央銀行と只今話題の埋蔵金のひとつである外国為替特別会計で買い続けてきた米国債が外貨準備高を構成しているわけで、これを市中売却すれば、市中銀行(民間銀行)は中央銀行に支払準備預金として積み立てていた自国通貨建ての預け金を取り崩さざるを得なくなり、信用創造が弱まり、マネーサプライは減少します。これでインフレの大原因のひとつが取り除かれば、隷属的な労働現場においても、労働分配率が成熟した資本主義国家の平均に少しは近づくというものです。

言わば中国は、国内に「内陸部」という巨大な植民地を抱えている、現代世界では珍しい構造を持っているが故に、貿易面で著しい競争力を有していると考えられます。これが中国の政権中枢のパワーの源泉であり、また政権を陰に陽に支える沿岸部の富裕層の利潤の源泉でもあります。「人民元安は死守する」というメッセージと「インフレは格差拡大で国家危機を招く」というメッセージは実は矛盾しているのであります。前者が本気、後者は人気取りのためのポーズに過ぎないと考えられます。これをさらっと言い抜け、海外のメディアも評論家も殆どが煙に巻かれているということですから、流石は大国の国家元首、超大物政治家であるということです。
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2010年3月15日月曜日

悪貨は良貨を駆逐する(第三回)

インフレによって経済大国化したスペイン~西ヨーロッパ!?
大それたシリーズを始めると宣言したことに後悔しつつ(泣)、ようやく後半戦に突入であります(汗)。

第三回 スペインの価格革命「銀の大量輸入は国富の増大なのか?」

歴史の教科書を紐解くと、「価格革命」の背景はこのような定説で説明されています。16世紀、特にその後半・・・

①スペインが中南米に植民地を開拓⇒②先住民(インディオ)や「輸入した」黒人奴隷を強制労働させ銀を生産⇒③護送船団によりスペイン(セヴィリア)に運ばれた大量の銀が、ヨーロッパ全域に流通し、激しいインフレーション(価格革命)が発生⇔一方、額面が固定した地代や、賃金の上昇には著しい遅行性⇒④地代に依存する伝統的な封建貴族が没落⇔労働者を雇い工場を経営する新興資本家の集中に資本が蓄積(「利潤インフレ」)。

(山川出版社『詳説 世界史研究』など)

上記④の一例として、メディチ家と並ぶヨーロッパの名門貴族であるフッガー家の没落も挙げられます。 大航海時代まではヨーロッパの最大の銀山を南ドイツに抱えていたフッガー家でしたが、その生産能力が年間約3万㌔㌘程度だったのに対して、1590年代のメキシコやペルーなどからの銀の輸入量は何と27万㌔㌘という10倍近いものとなっており、価格革命の凄まじさが判るということです(ハミルトン『アメリカの財宝とスペインの価格革命』1934)。

新世界産の貴金属が、物価騰貴を通じて、スペインのみならずヨーロッパ全体の経済の拡大に貢献したという見方は確かに通説です(ウォーラーステイン『近代世界システムⅠ・Ⅱ』1981、フランク『世界資本蓄積1492~1789』1978)。しかし、現在では下記のような批判が展開されているようです。

キーワードは「使用価値」と「交換価値」
「物価騰貴は、銀の大量流入が顕著になる以前に始まっており、その主要な要因はヨーロッパの人口が農業生産量の増加を上回る速度で増加したことである。」

とか、

「(西ヨーロッパとの接触により、アジア、アフリカ、ラテンアメリカが低開発地域としてその後長く定着してしまったことは事実だとしても、)アメリカの“地金”がヨーロッパの経済発展に不可欠だったとは言えない」

通説とそれに対する批判と、どちらかが一方的に正しいとは言い切れない「価格革命」に関する論争は、現在の世界経済にとっても、大変示唆に富むものではないでしょうか。今更、マルクス経済学の「使用価値=交換価値」が成り立つ商品経済と、その例外としての労働力市場(=「剰余価値」の源=「搾取」の現場)という考え方の枠組みを持ち出したくはないのですが、アステカ文明とマヤ文明を破壊された中南米の銀山こそは、独占的で搾取的な労働現場、すなわちマルクス経済学が想定する剰余価値の発生地点として見事に洗練、精錬された事例だったと言えるでしょう。

「使用価値=交換価値」が成り立たない例外的な商品は、植民地時代では隷属的な「労働力」だったでしょうが、現在の世界経済においては、労働力よりは寧ろ、当たり前の存在になってしまった「不換紙幣」(fiat money)かも知れません。「インフレという現象に注目する」近代ヨーロッパの発展への『銀貢献』説に批判的な立場の学者も、当時は「不換紙幣」ではなかった本位通貨としての銀の蓄積が、隷属的で低開発的だった植民地エリア(今では新興国!)からの大量の富の収奪である(所得移転である)ことは事実だと言っているわけです。

逆に言えば、貴金属の本源的な価値に注目せず、通貨としての機能だけに注目した貴金属の「発行」量が、流通量が増えたからと言って、単純な貨幣数量説に従って物価が上昇するとか、単純なケインズ的貨幣錯覚に従って資本家が利潤を濡れ手に粟の如く手に入れる、という理屈を批判しているのであります。

「インフレで国家危機?」~「ここ数年はいばらの道??」~意味深長な温家宝発言
スペインの価格革命は、歴史的事実(統計の信ぴょう性)への疑いだけでなく、その解釈や理論においても、マルクス的な要素、ハイエク的な要素、ケインズ的な要素が三つ巴で対立する、とても難解ですが、歯を食いしばって議論するだけの値打のある題材であると思われます。

時に、中国の全人代閉幕に当たって温家宝主席の挨拶で、多くのメディアが「人民元切り上げ要求を一蹴」した点を注目しています。勿論、この点についても、中国の国家戦略は何ぞやと論じる価値はあります。七転び八起きがもっと注目したいのは、会見で「もしもインフレが発生し、所得分配の不公平が重なってくれば、社会の安定に影響し、政権の足元を揺るがす事態になる」と述べた点です。デフレこそ政府や日銀の無策の結果だと多くのメディアに洗脳されている日本人にとっては妙に新鮮な響きを感じる言葉ではないでしょうか。次回は、諸説対立が明らかとなったスペインの価格革命の分析を活かして、温家宝発言を深読みして行きたいと考えております。
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2010年3月8日月曜日

悪貨は良貨を駆逐する(第二回-後編)

悪貨は良貨を駆逐する(第一回-前編)
悪貨は良貨を駆逐する(第一回-後編)
悪貨は良貨を駆逐する(第二回-前編)
週末の「人民元のドルペッグ見直し発言」(中国の中央銀行総裁)もあり、「“実勢”に合わない固定相場を押し付けることが、そんなに害があるのか?」という議論をやっておく必要を感じました。

そもそも、昨年の今頃は、ガイトナー米財務長官に「為替操作国」と名指しされた中国が、足元では、米国の台湾への武器輸出や、オバマ大統領のダライラマとの会談(これまでの大統領とも会ってはいるのだが・・・)、おまけにグーグル検閲問題など、敢えてこの米中外交の軋みの最中に、為替(操作)問題で譲歩するというのも何か裏がありそうではあります。世界中の“自称”為替評論家が、声を揃えて、中国の人民元は米ドル(や日本円)に対して“実勢”ではもっと高い筈と言っているのですが・・・

「天は二物を与えず」と言うけれど

リカードまで遡る自由貿易礼賛論(自由貿易は弱肉強食による優勝劣敗ももたらすものではない。寧ろ、保護貿易より自由貿易のほうが、お互い得だという考え方)。実はアダム=スミスはおろか、ケネーまで遡るのですが、リカードの(発展途上国に対して開国と貿易自由化を求める「慇懃無礼」な)説明の仕方がユニークなため、その喩え話が自由貿易論の元祖の如く語り継がれています。

数学と経済学の天才であったサミュエルソンですら、経済学の中で直観で判りづらい有数の箇所のひとつとして挙げた比較優位(⇔絶対優位)の話。為替(相場)の代わりに、賃金を変数として用いることで、比較優位の話を、弁護士と秘書に置き換えるというのが、判りやすい経済学の定番になっています。

裁判で勝つための「ああ言えばこう言う」能力に長けた弁護士は、事務能力も高いことは良くある話です。裁判所に提出する文書なども、自分で作ったほうが早いのに、何故秘書を雇うのでしょうか?

依頼人の弁護のために調べ物をしたり作文をしたりすることに要する時間が3時間。それに関わる雑務を処理する時間が30分だとしましょう。秘書は、前者の仕事は出来ない、または経験の乏しいパラリーガルだとして、24時間、後者は何とか1時間掛けて出来るとします。どちらも、弁護士本人がやったほうが効率的なので、この場合、弁護士には「絶対優位」という言葉が当てはまりそうな気がします。

しかし、時間に対するコスト、つまり賃金(=弁護士にとっての機会費用)に柔軟性を持たせると話は変わって来ます。弁護士が「前者(依頼人関連の頭脳労働)から得られる報酬」/「要した時間」を時給3000円だとしたら、秘書を時給1500円以下で雇える場合、その弁護士は(自分より作業効率の悪い)秘書でも良いから雇って、それによって空いた時間を頭脳労働に振り分けたほうが良いということになります。一見、「絶対優位」に見える状況が、賃金というパラメータのお陰で「比較優位」に化けるというのが自由貿易(≒国際分業)の発想の原点です。

ベルリンの壁崩壊直後の東西ドイツ

トヨタ問題が尾を引いている今日でも、自動車(産業)はまだ日本に「比較優位」がある一方、穀物全般は米国に「比較優位」がある。。。こういう使い方は、あくまで直観であって、一見すると全産業が対国際比で見劣りするような国であっても、産業間の比較生産費に違いがあれば、交易のメリットがあるのだ、というのが前節の言い換えとなります。

まさに、ベルリンの壁崩壊直後の東ドイツこそが、そのような状況にあったのです(全ての産業で、西ドイツよりも効率が悪かった)。そこに、ドイツ統一による東ドイツ側へのメリット提供というメッセージも込めて1西独マルク=1東独マルクとやっちゃったために、東ドイツ側では旧国営企業の倒産が相次ぐなど、設備稼働率の大幅な悪化と失業率の大幅な上昇に見舞われ、経済破綻寸前まで行き、ドイツ統一の立役者であるヘルムート=コールは、東独視察時に民衆に卵を投げつけられるなど、色々なエピソードを生みました。

ここで、経済破綻を徳俵一本で救ったのは、通貨統合のやり直しではなく、また東独労働者の(最低)賃金切り下げでもなく、労働と生産技術の移動でした。効率性の高い工場が存在する西独へと東独労働者が「出稼ぎ」に行くことと、西独の民間製造業者が東独に生産拠点を設ける(移す)ことの両方が、ベルリンの壁さえ取っ払えば可能だったという当たり前の事実こそ、本来自由度を構成しなければならない、為替と労働賃金というパラメータが硬直化していても東独経済を死滅させなかった要因だったのです。

中国を“ハブ”とした通商摩擦が、果たして人民元問題として解決可能なのか、または人民元切り上げでしか解決不可能なのか?この問題を考えるとき、東西ドイツのマルク統合の事例は、またとない事例というか実験だったと言えます。与党も野党も大衆に迎合して最低賃金を云々している我が国が、人民元問題に触れずに中国と競争をしていくためには、残されたパラメータは、生産要素自体の移転(およびODAなど所得の移転(≒経済援助)の見直ししかないということです。米中ではどうでしょうか?

(参考文献)アダム=スミス『諸国民の富の性質と原因の研究』、デヴィッド=リカード『経済学および課税の原理』、竹森俊平『プログレッシブ経済学シリーズ 国際経済学』(東洋経済新報社1994年)特にp95~p100
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2010年3月5日金曜日

【おまけ】宋文洲さんとツイッター

「大」への決別、「大」の敗北

拙書「“為替力”で資産を守れ!」で対談のお相手として御参加くださいったソフトブレーン創業者の宋文洲さんが、かの田原総一郎さんとの“共著”で「中国人の金儲け、日本人の金儲け。ここが大違い」という本を上梓されました。

宋文洲さん御本人は、出版社側に押し切られた営業目的のタイトルが少々お気に召さないようですが(笑)。

今朝、配信された宋文洲さんのメルマガによると、このような内容の本です。

「売上げにこだわると必ず利益率が悪くなる。規模にこだわると必ず顧客視線が薄れる。AIG、シティバンク、GM、JAL、そしてあのトヨタでさえ。第二位の経済大国にこだわる限り産業構造の転換が難しい。」

「100年に一度の金融危機が多くの人々に反省の機会を与えてくれました。当然私も例外ではありません。3年前の自分が信じていたことの多くはすっかり変わってしまいました。その反省を込めて「より大きな会社、より大きなシェア、より大きな儲け」という「大」へのこだわりに警鐘を鳴らしたいと思っていました。」

更に、田原総一郎さんのまえがきより・・・

「中国は人口13億以上の大国、しかも歴史的な常識からすれば頭が固いはずの共産党が独裁を続ける国である。にもかかわらず、国や企業の決定に至るプロセスが恐ろしく速く、変化への対応がきわめて機敏だ。何事も後手後手に回る日本とは大違いである。」

「なぜ、日本人と中国人は、かくも違うのだろうか。そんな疑問を抱き、答を探しているとき、私は宋文洲さんと出会った。・・・ソフトブレーンは、2000年に東京証券取引所マザーズ上場、04年に東証二部上場、05年に東証一部上場と、祖国の発展を先取りする急成長ぶりだ。しかも宋さんは、一部上場を果たした翌年1月1日付で取締役会長になり、同年8月末にはそれも退いてマネージメント・アドバイザーになっている。こんな発想をする日本人経営者は、ちょっと思い当たらない。」

「宋さんの主張の一つは、日本あるいは日本人は「大」にこだわりすぎていないかということだ。」

タイトルに御不満の宋文洲さんの「つぶやき」

「皆さん、どう思います?。このタイトル→「中国人の金儲け、日本人の金儲け ここが大違い」。田原総一朗さんと出した本ですが、タイトルが出版社の拘り。営業しやすいという。」

この宋さんのつぶやきに対して、あるフォロワーは「品が悪い」と一言返事していましたが、七転び八起きの返事は以下の通りです。

「大(企業の終身雇用)にこだわるのは中国人との違いというよりは、いまや日本(の中途半端なホワイトカラー)だけに残された痕跡器官なのでは。とくに、公務員、金融、組立加工業のような分野で、その弊害は臨界点に達していると思います。」

一回あたりの文字数が140字までなので・・・

「 スミマセン。もうひとつ重要なのを忘れてました。記者クラブという既得権益に縋る巨大メディアも、です。 」
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