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2012年2月17日金曜日

沈黙は金、雄弁は銀

日銀の白川総裁が俄に雄弁です。

今週、月曜日火曜日に行われた金融政策決定会合で「長期国債の買い入れペースを、従来の月5000億円から三倍に引き上げる」という金融緩和策の強化を決断したことが、(米国株の上昇や欧州危機の小休止ムード(?)と相俟って、)日本株はさしずめミニバブル状態。

七転び八起きブログでさんざん批判し揶揄してきた「日銀が金融緩和を徹底さえずればデフレと不況が収まるのに、それをサボっている総裁は日本経済のA級戦犯である」的批判を繰り返してきたB級エコノミストたちも、さぞ喜んでいることと思われる一方、真面目な日銀ウォッチャーのなかには、頑固冷徹理路整然の総裁の変節を疑う人も出てきます。

まずは、金融政策決定会合の直後の総裁記者会見の内容と質疑応答

前半、物価安定(≒インフレ率1%)を「目標」とよぶか「目処」とよぶか「理解」とよぶか、に関するQ&Aでは、その長さとしつこさが、官僚の言葉遊びのように思われてしまいがちです。わたしはここは、日銀はこれまでインフレターゲットを拒絶してきたものの、いま思えばインフレターゲット採用国も経済が滅茶苦茶になっているではないか。それにインフレターゲットとハッキリ言って来なかっただけで日銀がしてきたことも実質的にかなり近かったと、《怖いデータ》の数々を見せつつ何度も言っているじゃないか。今後もそれを連続的に強化していきたいだけで、矛盾も変節もないというのが根底にあるのだと思われます。この点、本日先程リリースされた日本記者クラブでの講演が更に雄弁で、趣旨がわかりやすいです(この講演録の末尾添付のチャートとグラフこそ、上記《怖いデータ》の数々そのものです)。

最初に引用した2/14(火)の記者会見に戻りましょう。お時間の少ない方に最優先で読んでもらいたい箇所は、9ページ目の質問からのところです。つまり、

「財政ファイナンスが目的でない・・・とおっしゃっても、財政政策に一段と近づいてきていると思われるリスク・・・日本銀行がこれまで一番避けてきたマネタイゼーションに近づいているのではないかという疑念を・・・総裁はどう思われますか?・・・・・・政治的圧力に屈したのではないかとの見方・・・?」

生で会見に立ち会ってなくても、ここが質疑応答のなかのクライマックスであると容易に想像がつきます。

ところで、白川総裁はこれらより前の1月にロンドン・スクール・オブ・エコノミクス主催の講演で『デレバレッジと経済成長 ―先進国は日本が過去に歩んだ「長く曲がりくねった道」 を辿っていくのか?―』と題して話をされています。イギリス人相手に、ディケンズやビートルズを引用しながら、政治からの圧力、衆愚(B級エコノミストを含む)からの圧力と向かい合いながら、のらりくらりを演じながらも理路整然かつ分かりやすく金融政策の手綱捌きをしなければならない立場の苦悩が延々と語られています。

ぶっちゃけて言いますと、燻し銀の日銀総裁が、理不尽にもデフレの元凶と罵られ続けて、逆切れしての雄弁、という感じもします。

以上、強引にまとめまして「雄弁は銀」。多かれ少なかれ西側先進国経済はこのような体たらくだから、通貨(為替)で言えば、日米欧の不美人投票はより酷く続くだろう、と考えれば、黙って金を買うのがベストの選択だ、、、という立場がどうやら中国の公共セクター(含む中国人民銀行)のようで、英FT紙によると、2011年の最後の3ヶ月間で、金の購入を更に加速させている とのことです。


世界最大の外貨準備高を誇る中国。米国債を買うのは資本輸出(=資本赤字要因)ですが、金を買うのは輸入(=貿易赤字要因)という国際収支の表の見方の落とし穴から露呈した現実であるところが面白い記事の内容となっています。

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2012年2月6日月曜日

アラブの春が中国に近づきつつある

ニューヨーク・タイムズ紙オンライン版のなかのブログです。

http://rendezvous.blogs.nytimes.com/2012/02/05/the-arab-spring-is-coming-to-china/

ミュンヘンで開催中の世界安全保障会議の中での一幕。よくもまあ、こんなパネルディスカッションが成立したなあと思わせる構成員は、4年前の米大統領選でオバマ現大統領の対立候補だった共和党のマケイン上院議員と中国の外務副大臣、そしてなんとコーディネーターを、かのキッシンジャー元国務長官(筆者の世代以前には極めて印象の強いニクソン政権の最重要人物のひとり)が務めています。

ベトナム戦争の終結、金兌換停止、変動相場制への移行という当ブログが扱うべき重要テーマにおいてもニクソン=キッシンジャー体制は大いに研究すべきテーマであるし、最近話題の映画のタイトルロールであるエドガー・フーバーとの絡み合いもまた米国史の暗部ということで熱い視線を送りたい部分です。
http://phxs.blogspot.com/2010/02/blog-post.html
http://phxs.blogspot.com/2010/02/blog-post_05.html
http://phxs.blogspot.com/2010/02/blog-post_26.html
http://phxs.blogspot.com/2010/03/blog-post_08.html

それにしても、核開発疑惑でイラン経済制裁という点でも、米国(+欧州+日本)と対立している中国(+ロシア+インド)が、事実上の戦争である(BBC)とも言われるシリアにおいても安保理決議でロシアとともに拒否権を発動している状況のなかで、この企画が中止にならなかっただけでも十分有意義ですが、マケイン氏が「敵国」の外務官僚のナンバー2に面と向かって「(チベットで相次ぐ焼身自殺が、チュニジアのジャスミン革命の触媒となったのと同じように)中国にアラブの春がもたらされつつある」と言い切ったのは非常な重みがあると思います。

さて、中国の外務副大臣はどう言い返したでしょうか?「中国でアラブの春というのは幻想を超えるばかげた発想だ。。。中国は100年以上も外国勢による侵略と占領に屈してきたのだから、内政干渉に対しては黙っていないぞ」。

後段の部分は、北朝鮮からもよく聞こえてくる科白です。

イランとシリアを契機とした大国間の対立軸は、ソビエトやベルリンの壁が壊れる前の構図に戻った感もあります。ただし、もちろん大きく違うのは経済や情報技術であり、今は中国は、深刻なバブル崩壊の真っ只中かも知れませんが、社会主義が建前、資本主義が本音、より正確には半奴隷制、という2つないし3つの顔を持つ得体の知れない国へと変貌していることに注意が必要です。
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2011年12月29日木曜日

2012年を占う

フェニックス証券による2012年の「公式」占いについては、来月発売の月刊FX攻略にバッチリ載せておりますので、それまで暫くお待ちください。

今朝ご紹介するのは、フィナンシャルタイムズの論稿のひとつで、元国連事務総長補(当時の国連はアナン事務総長)など国際機関の重要ポストの経験を複数持つユニークなジャーナリストであるマーク・マロック・ブラウン氏によるものです。

氏の予想は至極一般的な悲観論で、①対策の打ちようがないユーロ圏危機、②過熱してしまった中国不動産市況、③先細るインドの改革とブラジルの経済成長、④アメリカの失業と債務、、、これらすべてが来年より悪くなることはあっても、良くなることはないと言い切っています。

ただ、このような普通の結論も、単に来年一年についての占いではなく、過去何十年もの間、糊塗し誤魔化し続けようとした西側経済(※)の病巣に帰するところに、氏の達観があります。

一時しのぎの連続に遂に耐えられなくなった西側経済(※)の病巣とはなにか?

氏はグローバル化はグローバルな優勝劣敗を作り上げた。つまり、二種類の勝ち組(技術革新の担い手たちと新興国の製造業の担い手たち)と負け組(西側の中間層とブルーカラー)が産まれた。問題は、負け組連中が劇的に失った競争力と所得を、それぞれの先進諸国の政治家が、回収不能な(!)ソブリンローンと消費者ローン(または住宅ローン)で取り繕おうと、もがいててきた「成れの果て」であると分析しています。

私自身の仕事を考えてみても、パソコンからインターネット関連サービスの技術の恩恵を受け、新興国の低賃金なのに高意欲でしかも高能力の働き手のサービスを直接・間接に利用出来てきたことで、二十数年前に社会人になった頃の私の上司の働き振り「これコピーしといて」「清書しといて」・・・みたいなコスト構造が是認されていた時代・・・とは隔世の感があります。

欧州の危機には、統一通貨ゆえに急成長し過ぎたツケと、個別国国債の買い切りには(独立通貨国以上に)抵抗がある中央銀行の存在という特殊要因があるものの、ツケの本質は、一度手にした物質的に豊かな生活は失われないものだと勘違いした国々にとっては共通なのです。

ちなみに、氏の予言によれば、経済的にはより悪くなる2012年だが、政治的には意外にも静か、ただし「嵐の前の静けさ」とのことです。

(※)ウェスタンという言葉を使っていますが、日本を含みドイツを含まないようです。
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(2012年3月16日追記)昨年のノーベル経済学賞受賞者の考え方【合理的期待仮説など】と似た切り口です。2011年10月11日の記事もあわせてお読みください。

2011年11月30日水曜日

中国が金融緩和へと政策を急転換か!?

ただいまウォールストリートジャーナルが速報で伝えたところによると、中国の中央銀行が、民間銀行に貸している支払準備率を0.5%引き下げると発表、12月5日実行とのことです。


http://online.wsj.com/article/SB10001424052970204012004577069804232647954.html?mod=djemalertNEWS


支払準備率を引き下げるのは2008年12月以来、3年振りですし、今年だけでも5回、引き「上げ」を行なってきたところです。

景気過熱、物価高、不動産バブルへの対策として、金融引き締め策を次々と打ち出してきた金融当局が、一転して、金融緩和のシグナルを鳴らしたのは、グローバルな金融市場の混乱が背景にあると、同紙は、取り急ぎ、報じています。

景気の過熱と資産バブルをソフトランディングさせる良い知恵はないかどうか、中国のエリートは、どこの国よりも一生懸命勉強してきていたとわたしは見ており、その答えがないことを、この政策転換は示しているのかも知れません。
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2011年10月14日金曜日

中国資本主義のメルトダウンが始まった

町工場のオーナー社長が高利貸しからの借金取り立てに敵わず夜逃げ、自殺が急増しているという事態をニューヨークタイムズが渾身レポートしています。

http://www.nytimes.com/2011/10/14/business/global/as-chinas-economy-cools-loan-sharks-come-knocking.html?_r=1&ref=global-home&pagewanted=all

「社員旅行に不参加ならば罰金だ」などという何だか高度成長期の日本の企業文化を彷彿とさせるような脅しで総従業員の休暇を強制したオーナー社長が、自分ひとりその旅行に参加せず、従業員が休み明け工場に戻ってきたら、工場のなかの設備が空っぽになっていてオーナー社長も行方不明になっていた、というエピソードから始まる長文の記事。

低価格による輸出競争力の縁の下の力持ちである筈の町工場を、大手国営の銀行は相手にせず、中小メーカーは高利貸しに日々の資金繰りを頼るしかないというのが中国資本主義の実態であるが故の悲劇が顕現化しはじめているとニューヨークタイムズは言います。

傾斜生産方式に端を発し護送船団方式によって温存された間接金融優位の金融制度が我が国独特の歪んだシステムであり、産業の二重構造と相まって戦後経済の復興と高度成長の原動力となった事実を顧みると、我が国には対岸の悲劇を笑う資格はありません。

機会均等が確保されていない資本主義がメルトダウンしかかっているのが、金融引き締めでバブル退治をせざるを得ない中で最大の輸出相手EUのスローダウンに直面した中国の姿であろうと思います。

ところで、機会均等が確保されていない点では日本も中国と五十歩百歩であり、その処方箋がセーフティネットの拡充であると誤解し続けているのが日本であるというのが私の意見です。
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2010年6月3日木曜日

菅直人新総理=円安トレンドへの転換、、、と決め込むのは未だ早過ぎる

小鳩「刺し違い」はファインプレーだが、、、

民主党の新代表の有力候補である菅直人氏が、円安論者だからとか、草の根政治家だからとかで、鳩山総理辞任発表後の円安を長期トレンドの転換とまで捉えるのは極めて危険です。

大マスコミが何と言おうと、記者クラブに安住する彼ら誰ひとりとして予想できなかった小沢幹事長との「刺し違い」により、政党支持率を盛り返したのは、鳩山氏の超ファインプレーと言えます。但し、参院選後も益々政治の混迷が続くことは避けられない。そして、誰がリーダーになっても決断が出来ない体質は、当面の間は、日本にとって、日本円にとって、売り材料ではなく寧ろ買い材料なのだというのが、先日のブログ リーダーの賞味期限 の論旨でした。


中国のGDP統計は、やはり虚偽の数字なのか?

フェニックス証券の優秀な中国人社員が、とても気になる記事を探して来てくれました。

「国家統計局、監査部、司法部の三大司法省庁は、中国全土すべての地方自治体に対して、GDP統計などの経済指標を集計する際に、虚偽報告をしてこなかったかどうかについて、調査を開始したことが明らかになった。」

中国の中枢から発信されている情報は、ここのところ全て、過熱するホットマネー流入と不動産を中心とする金融相場を意図的に調整しようとするものばかりです。彼らの政策態度は、皮肉なことに、サブプライム以降の英米の政策よりも寧ろ、我が国の80年代バブルの終結にむけての日銀の政策(当時の総裁は三重野氏)や、2005年以降の郵政解散後のミニバブルへ向けての金融庁の政策に近いと言えます。


「円高円安は日本の政治次第」という発想は幻想

中国のバブル退治が、新興国全体の過熱経済をハードランディングさせないかどうか?それと、何ら根本的な解決には至っていないユーロ圏の経済動向が、リスク回避の金融商品として定番化した円の評価を握っているのであって、これらに比べれば国内政治の安定化の帰趨は取るに足らない材料だということを認識しておかなければなりません。
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2010年3月26日金曜日

中国の不動産バブル

中国政府が再びバブル対抗策を出したものの、効果は期待できず、焼け石に水との記事(3/26【金】財新網)。
http://www.caing.com/2010-03-24/100129169.html
フェニックス証券の優秀な働き者が以下の通り翻訳してくれました。「悪貨は良貨を駆逐する」シリーズに続けてお読みください。 ギリシャやポーランドはおろか、ドイツからも「国債を買って下さい」と財務次官クラスが日参する(3/24【水】英FT紙)
http://www.ft.com/cms/s/0/e344b88a-376d-11df-9176-00144feabdc0.html
「双子の黒字」国家(?)中国の実像が垣間見られます。世界経済が、中国を決して例外としない形で、借金貨幣の膨張合戦というそソブリンリスクのポーカーゲームに突入していると考えると空恐ろしいことであります。

中国中央政府は新たな不動産価格抑制策を打ち出した。
☆初回住宅購入者へは優遇金利を(むしろ)引下げ
いっぽう、
★2軒目の頭金は40%へ、3軒目は60%へ引上げ
かつ、
★住宅ローン利率は銀行側自ら 引き上げられる
ようにしたという。

この一連の策の下で、不動産市場の売買高は下落したものの、不動産業者等は意外にも慌てていない様子が見受けられている。というのは、過去を振り返ると、類似する「引き締め策」が幾つかあったが、何れも市場がやや冷やされた直後に再び金融緩和策等で過熱状態を繰り返させたからである。

原因は地方及び中央政府の不動産関連収入の大幅減少という。

<中略>

住宅、商業用不動産及び地方政府が銀行に差し入れた抵当物件の合計金額は中国GDPの3倍以上
にのぼる。こんにちの資産バブルは継続し続けるだろう。銀行の流動資金が豊富である理由の一つが、中国国内に流入したホットマネーだ。

<中略>
現代社会の安定は健全のミドルクラスが存在するか否かが鍵になる。高地価政策は事実上ミドルクラスへの課税に過ぎず、大富豪以外は不動産を購入できずの現状は長期的な社会安定に害を及ぼす恐れがある。

合理的な不動産政策の前提条件は財政収入改革にある。固定資産を主な投資対象とする政府支出
は制限すべき。去年、政府財政収入、中央及び地方政府の借款、国有企業支出、 これら三者の合計は中国GDPの半分以上を越えているのだ。政府支出の削減は喫緊の課題であろう。

<中略>

政府部門の高速成長(過度な膨張)はミドルクラスにとっては(インフレ期待を通じた)利殖への妄想を刺激している。不動産バブルに注ぐエネルギーが、そう簡単には潰えない理由がそこにある。信頼可能な財政改革なくして、不動産バブル抑制は実現しない。
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2010年3月16日火曜日

米国の国会議員、超党派でオバマ政権を突き上げ-人民元問題

中国の全人代が閉幕し、温家宝主席が記者会見で「人民元切り上げ要求を一蹴」 した直後の月曜日、米国では超党派の国会議員130人がオバマ政権に対して「中国に対して為替操作国だとのレッテルを貼れ!」との要求したと、たった今、英FT紙が伝えました(原文をツイッターにリツイート)。

「貿易摩擦」や「貿易不均衡」と言うと、プラザ合意以前からの日米関係(円高誘導だけでなく非関税障壁の指摘なども)の既視感が過ります。80年代後半(まで)の日本と現在の中国とでは、非関税障壁の実態のほか資本取引に関する規制環境も異なるため、その既視感は慎重に疑う必要はあります。しかし、貿易黒字国が貿易赤字国の乱発する国債を買い支えてあげなければ、為替相場(など)のパラメータの変化により、不均衡は均衡へと向かう筈、という点では共通です。

「貿易」依存度が著しく高い東京都は果たして収支均衡しているのか?
「悪貨は良貨を駆逐する」シリーズの第二回で東西ドイツの統合を取り扱いました。特に、その後編で、1東独マルク=1西独マルクと政治決断されたために、実態の4倍もの高い評価を得た東独側では失業や工場閉鎖(倒産)という「有難迷惑」な経済混乱を経つつも、工場が東側に移転したり、労働者が西側に出稼ぎに行ったりして、「不均衡」を解消していったのだとお話しました。より大事な点は、東独の労働者(≒組合)が選択肢を放棄しただけのことであって、失業や工場閉鎖の代わりに労働賃金の切り下げを受け入れても、「自国通貨が高過ぎる評価レベルで固定化してしまっている」という隘路を乗り越えることができたという考え方です。

実は、東西ドイツの例を持ち出すまでもなく、これは国内経済でも経験していることです。東京都という地方経済圏が東京都以外の道府県から農林水産物を「輸入」していることは周知です。我が国の都道府県は(市区町村もですが)たいていは財政赤字でありそれを地方債などによってファイナンスしていますが、黒字の自治体がないということは、都道府県に跨るファイナンスは顕著には見られないと考えて良いと思われます。そして、これは自明ですが、東京都にとって貿易相手「道府県」との決済に使われる通貨は日本円であって、どう足掻いても動かしようのない固定相場です。資本取引もなくて、「為替」も固定相場制であって、どうやって都道府県「際貿易」の不均衡が解決できるかと言うと、残された唯一つ(二つ)の自由度が労働と土地(建物)という生産要素の価格(賃金と地代家賃)だということです。

民主政治が行き詰るとポピュリズムに走るのは日米同じです。 米国債を買い支えてくれている中国(という認識がオバマ大統領本人にはあるので、同政権は議員の陳情に苦慮していると前掲のFT紙は報じています)に対して「人民元を切り上げろ。手前(てめえ)は為替操作国だ。」と恩を仇で返す前に、自国民に対して生活水準を切り下げてくださいと言うべきなのですが、落選の恐怖を前にして、スケープゴートを国外に求めざるを得ないのが、成熟国家の議会制民主主義の宿命なのかも知れません。

「インフレこそ政権の足元を揺るがす」は本音か!?
さて、本日のテーマは成熟した資本主義国家が保護主義やポピュリズムに陥りがちであることではありません。昨日、お約束した通り、中国の温家宝主席の全人代閉幕後の発言を、スペインの価格革命を分析した考え方で深読みしてみようということでした。

「人民元の切り上げ要請には屈しない」という発言は「国益」を代表するものでしょうか。また、為替関連発言よりも注目したいと七転び八起きが申し上げた「もしもインフレが発生し、所得分配の不公平が重なってくれば、社会の安定に影響し、政権の足元を揺るがす事態になる」 という部分は国家元首の本音と考えて良いのでしょうか?

まず、後者です。当ブログにて、今日の日本が「デフレの進行とともに格差も拡がっている」という論調は錯覚(厳密には逆「貨幣錯覚」)に過ぎないと繰り返して参りました。その点で、温家宝発言は、正しいだけでなく、物価上昇に対して、農業従事者や工場の非熟練労働者と言った大半の国民の賃金の上昇が付いていけない状況というのが、大航海時代の植民地、産業革命期のヨーロッパや、高度成長期までの日本と似たような搾取的労働の実態を認めたものであるとしたら、大国の舵取りをする国家主席の発言として意味深長なものだと受け取らざるを得ません。

しかし、正鵠を突いていることは必ずしも本音の発言であることを意味しません。これ以上のインフレが国体に危機をもたらすと本気で考えているのであれば、人民元問題と一緒に解決できるからです。冒頭の「貿易黒字国が貿易赤字国の乱発する国債を買い支えてあげなければ、為替相場(など)のパラメータの変化により、不均衡は均衡へと向かう筈」 を思い出してください。日本で言えば、中央銀行と只今話題の埋蔵金のひとつである外国為替特別会計で買い続けてきた米国債が外貨準備高を構成しているわけで、これを市中売却すれば、市中銀行(民間銀行)は中央銀行に支払準備預金として積み立てていた自国通貨建ての預け金を取り崩さざるを得なくなり、信用創造が弱まり、マネーサプライは減少します。これでインフレの大原因のひとつが取り除かれば、隷属的な労働現場においても、労働分配率が成熟した資本主義国家の平均に少しは近づくというものです。

言わば中国は、国内に「内陸部」という巨大な植民地を抱えている、現代世界では珍しい構造を持っているが故に、貿易面で著しい競争力を有していると考えられます。これが中国の政権中枢のパワーの源泉であり、また政権を陰に陽に支える沿岸部の富裕層の利潤の源泉でもあります。「人民元安は死守する」というメッセージと「インフレは格差拡大で国家危機を招く」というメッセージは実は矛盾しているのであります。前者が本気、後者は人気取りのためのポーズに過ぎないと考えられます。これをさらっと言い抜け、海外のメディアも評論家も殆どが煙に巻かれているということですから、流石は大国の国家元首、超大物政治家であるということです。
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2010年3月15日月曜日

悪貨は良貨を駆逐する(第三回)

インフレによって経済大国化したスペイン~西ヨーロッパ!?
大それたシリーズを始めると宣言したことに後悔しつつ(泣)、ようやく後半戦に突入であります(汗)。

第三回 スペインの価格革命「銀の大量輸入は国富の増大なのか?」

歴史の教科書を紐解くと、「価格革命」の背景はこのような定説で説明されています。16世紀、特にその後半・・・

①スペインが中南米に植民地を開拓⇒②先住民(インディオ)や「輸入した」黒人奴隷を強制労働させ銀を生産⇒③護送船団によりスペイン(セヴィリア)に運ばれた大量の銀が、ヨーロッパ全域に流通し、激しいインフレーション(価格革命)が発生⇔一方、額面が固定した地代や、賃金の上昇には著しい遅行性⇒④地代に依存する伝統的な封建貴族が没落⇔労働者を雇い工場を経営する新興資本家の集中に資本が蓄積(「利潤インフレ」)。

(山川出版社『詳説 世界史研究』など)

上記④の一例として、メディチ家と並ぶヨーロッパの名門貴族であるフッガー家の没落も挙げられます。 大航海時代まではヨーロッパの最大の銀山を南ドイツに抱えていたフッガー家でしたが、その生産能力が年間約3万㌔㌘程度だったのに対して、1590年代のメキシコやペルーなどからの銀の輸入量は何と27万㌔㌘という10倍近いものとなっており、価格革命の凄まじさが判るということです(ハミルトン『アメリカの財宝とスペインの価格革命』1934)。

新世界産の貴金属が、物価騰貴を通じて、スペインのみならずヨーロッパ全体の経済の拡大に貢献したという見方は確かに通説です(ウォーラーステイン『近代世界システムⅠ・Ⅱ』1981、フランク『世界資本蓄積1492~1789』1978)。しかし、現在では下記のような批判が展開されているようです。

キーワードは「使用価値」と「交換価値」
「物価騰貴は、銀の大量流入が顕著になる以前に始まっており、その主要な要因はヨーロッパの人口が農業生産量の増加を上回る速度で増加したことである。」

とか、

「(西ヨーロッパとの接触により、アジア、アフリカ、ラテンアメリカが低開発地域としてその後長く定着してしまったことは事実だとしても、)アメリカの“地金”がヨーロッパの経済発展に不可欠だったとは言えない」

通説とそれに対する批判と、どちらかが一方的に正しいとは言い切れない「価格革命」に関する論争は、現在の世界経済にとっても、大変示唆に富むものではないでしょうか。今更、マルクス経済学の「使用価値=交換価値」が成り立つ商品経済と、その例外としての労働力市場(=「剰余価値」の源=「搾取」の現場)という考え方の枠組みを持ち出したくはないのですが、アステカ文明とマヤ文明を破壊された中南米の銀山こそは、独占的で搾取的な労働現場、すなわちマルクス経済学が想定する剰余価値の発生地点として見事に洗練、精錬された事例だったと言えるでしょう。

「使用価値=交換価値」が成り立たない例外的な商品は、植民地時代では隷属的な「労働力」だったでしょうが、現在の世界経済においては、労働力よりは寧ろ、当たり前の存在になってしまった「不換紙幣」(fiat money)かも知れません。「インフレという現象に注目する」近代ヨーロッパの発展への『銀貢献』説に批判的な立場の学者も、当時は「不換紙幣」ではなかった本位通貨としての銀の蓄積が、隷属的で低開発的だった植民地エリア(今では新興国!)からの大量の富の収奪である(所得移転である)ことは事実だと言っているわけです。

逆に言えば、貴金属の本源的な価値に注目せず、通貨としての機能だけに注目した貴金属の「発行」量が、流通量が増えたからと言って、単純な貨幣数量説に従って物価が上昇するとか、単純なケインズ的貨幣錯覚に従って資本家が利潤を濡れ手に粟の如く手に入れる、という理屈を批判しているのであります。

「インフレで国家危機?」~「ここ数年はいばらの道??」~意味深長な温家宝発言
スペインの価格革命は、歴史的事実(統計の信ぴょう性)への疑いだけでなく、その解釈や理論においても、マルクス的な要素、ハイエク的な要素、ケインズ的な要素が三つ巴で対立する、とても難解ですが、歯を食いしばって議論するだけの値打のある題材であると思われます。

時に、中国の全人代閉幕に当たって温家宝主席の挨拶で、多くのメディアが「人民元切り上げ要求を一蹴」した点を注目しています。勿論、この点についても、中国の国家戦略は何ぞやと論じる価値はあります。七転び八起きがもっと注目したいのは、会見で「もしもインフレが発生し、所得分配の不公平が重なってくれば、社会の安定に影響し、政権の足元を揺るがす事態になる」と述べた点です。デフレこそ政府や日銀の無策の結果だと多くのメディアに洗脳されている日本人にとっては妙に新鮮な響きを感じる言葉ではないでしょうか。次回は、諸説対立が明らかとなったスペインの価格革命の分析を活かして、温家宝発言を深読みして行きたいと考えております。
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2010年3月8日月曜日

悪貨は良貨を駆逐する(第二回-後編)

悪貨は良貨を駆逐する(第一回-前編)
悪貨は良貨を駆逐する(第一回-後編)
悪貨は良貨を駆逐する(第二回-前編)
週末の「人民元のドルペッグ見直し発言」(中国の中央銀行総裁)もあり、「“実勢”に合わない固定相場を押し付けることが、そんなに害があるのか?」という議論をやっておく必要を感じました。

そもそも、昨年の今頃は、ガイトナー米財務長官に「為替操作国」と名指しされた中国が、足元では、米国の台湾への武器輸出や、オバマ大統領のダライラマとの会談(これまでの大統領とも会ってはいるのだが・・・)、おまけにグーグル検閲問題など、敢えてこの米中外交の軋みの最中に、為替(操作)問題で譲歩するというのも何か裏がありそうではあります。世界中の“自称”為替評論家が、声を揃えて、中国の人民元は米ドル(や日本円)に対して“実勢”ではもっと高い筈と言っているのですが・・・

「天は二物を与えず」と言うけれど

リカードまで遡る自由貿易礼賛論(自由貿易は弱肉強食による優勝劣敗ももたらすものではない。寧ろ、保護貿易より自由貿易のほうが、お互い得だという考え方)。実はアダム=スミスはおろか、ケネーまで遡るのですが、リカードの(発展途上国に対して開国と貿易自由化を求める「慇懃無礼」な)説明の仕方がユニークなため、その喩え話が自由貿易論の元祖の如く語り継がれています。

数学と経済学の天才であったサミュエルソンですら、経済学の中で直観で判りづらい有数の箇所のひとつとして挙げた比較優位(⇔絶対優位)の話。為替(相場)の代わりに、賃金を変数として用いることで、比較優位の話を、弁護士と秘書に置き換えるというのが、判りやすい経済学の定番になっています。

裁判で勝つための「ああ言えばこう言う」能力に長けた弁護士は、事務能力も高いことは良くある話です。裁判所に提出する文書なども、自分で作ったほうが早いのに、何故秘書を雇うのでしょうか?

依頼人の弁護のために調べ物をしたり作文をしたりすることに要する時間が3時間。それに関わる雑務を処理する時間が30分だとしましょう。秘書は、前者の仕事は出来ない、または経験の乏しいパラリーガルだとして、24時間、後者は何とか1時間掛けて出来るとします。どちらも、弁護士本人がやったほうが効率的なので、この場合、弁護士には「絶対優位」という言葉が当てはまりそうな気がします。

しかし、時間に対するコスト、つまり賃金(=弁護士にとっての機会費用)に柔軟性を持たせると話は変わって来ます。弁護士が「前者(依頼人関連の頭脳労働)から得られる報酬」/「要した時間」を時給3000円だとしたら、秘書を時給1500円以下で雇える場合、その弁護士は(自分より作業効率の悪い)秘書でも良いから雇って、それによって空いた時間を頭脳労働に振り分けたほうが良いということになります。一見、「絶対優位」に見える状況が、賃金というパラメータのお陰で「比較優位」に化けるというのが自由貿易(≒国際分業)の発想の原点です。

ベルリンの壁崩壊直後の東西ドイツ

トヨタ問題が尾を引いている今日でも、自動車(産業)はまだ日本に「比較優位」がある一方、穀物全般は米国に「比較優位」がある。。。こういう使い方は、あくまで直観であって、一見すると全産業が対国際比で見劣りするような国であっても、産業間の比較生産費に違いがあれば、交易のメリットがあるのだ、というのが前節の言い換えとなります。

まさに、ベルリンの壁崩壊直後の東ドイツこそが、そのような状況にあったのです(全ての産業で、西ドイツよりも効率が悪かった)。そこに、ドイツ統一による東ドイツ側へのメリット提供というメッセージも込めて1西独マルク=1東独マルクとやっちゃったために、東ドイツ側では旧国営企業の倒産が相次ぐなど、設備稼働率の大幅な悪化と失業率の大幅な上昇に見舞われ、経済破綻寸前まで行き、ドイツ統一の立役者であるヘルムート=コールは、東独視察時に民衆に卵を投げつけられるなど、色々なエピソードを生みました。

ここで、経済破綻を徳俵一本で救ったのは、通貨統合のやり直しではなく、また東独労働者の(最低)賃金切り下げでもなく、労働と生産技術の移動でした。効率性の高い工場が存在する西独へと東独労働者が「出稼ぎ」に行くことと、西独の民間製造業者が東独に生産拠点を設ける(移す)ことの両方が、ベルリンの壁さえ取っ払えば可能だったという当たり前の事実こそ、本来自由度を構成しなければならない、為替と労働賃金というパラメータが硬直化していても東独経済を死滅させなかった要因だったのです。

中国を“ハブ”とした通商摩擦が、果たして人民元問題として解決可能なのか、または人民元切り上げでしか解決不可能なのか?この問題を考えるとき、東西ドイツのマルク統合の事例は、またとない事例というか実験だったと言えます。与党も野党も大衆に迎合して最低賃金を云々している我が国が、人民元問題に触れずに中国と競争をしていくためには、残されたパラメータは、生産要素自体の移転(およびODAなど所得の移転(≒経済援助)の見直ししかないということです。米中ではどうでしょうか?

(参考文献)アダム=スミス『諸国民の富の性質と原因の研究』、デヴィッド=リカード『経済学および課税の原理』、竹森俊平『プログレッシブ経済学シリーズ 国際経済学』(東洋経済新報社1994年)特にp95~p100
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2010年3月5日金曜日

【おまけ】宋文洲さんとツイッター

「大」への決別、「大」の敗北

拙書「“為替力”で資産を守れ!」で対談のお相手として御参加くださいったソフトブレーン創業者の宋文洲さんが、かの田原総一郎さんとの“共著”で「中国人の金儲け、日本人の金儲け。ここが大違い」という本を上梓されました。

宋文洲さん御本人は、出版社側に押し切られた営業目的のタイトルが少々お気に召さないようですが(笑)。

今朝、配信された宋文洲さんのメルマガによると、このような内容の本です。

「売上げにこだわると必ず利益率が悪くなる。規模にこだわると必ず顧客視線が薄れる。AIG、シティバンク、GM、JAL、そしてあのトヨタでさえ。第二位の経済大国にこだわる限り産業構造の転換が難しい。」

「100年に一度の金融危機が多くの人々に反省の機会を与えてくれました。当然私も例外ではありません。3年前の自分が信じていたことの多くはすっかり変わってしまいました。その反省を込めて「より大きな会社、より大きなシェア、より大きな儲け」という「大」へのこだわりに警鐘を鳴らしたいと思っていました。」

更に、田原総一郎さんのまえがきより・・・

「中国は人口13億以上の大国、しかも歴史的な常識からすれば頭が固いはずの共産党が独裁を続ける国である。にもかかわらず、国や企業の決定に至るプロセスが恐ろしく速く、変化への対応がきわめて機敏だ。何事も後手後手に回る日本とは大違いである。」

「なぜ、日本人と中国人は、かくも違うのだろうか。そんな疑問を抱き、答を探しているとき、私は宋文洲さんと出会った。・・・ソフトブレーンは、2000年に東京証券取引所マザーズ上場、04年に東証二部上場、05年に東証一部上場と、祖国の発展を先取りする急成長ぶりだ。しかも宋さんは、一部上場を果たした翌年1月1日付で取締役会長になり、同年8月末にはそれも退いてマネージメント・アドバイザーになっている。こんな発想をする日本人経営者は、ちょっと思い当たらない。」

「宋さんの主張の一つは、日本あるいは日本人は「大」にこだわりすぎていないかということだ。」

タイトルに御不満の宋文洲さんの「つぶやき」

「皆さん、どう思います?。このタイトル→「中国人の金儲け、日本人の金儲け ここが大違い」。田原総一朗さんと出した本ですが、タイトルが出版社の拘り。営業しやすいという。」

この宋さんのつぶやきに対して、あるフォロワーは「品が悪い」と一言返事していましたが、七転び八起きの返事は以下の通りです。

「大(企業の終身雇用)にこだわるのは中国人との違いというよりは、いまや日本(の中途半端なホワイトカラー)だけに残された痕跡器官なのでは。とくに、公務員、金融、組立加工業のような分野で、その弊害は臨界点に達していると思います。」

一回あたりの文字数が140字までなので・・・

「 スミマセン。もうひとつ重要なのを忘れてました。記者クラブという既得権益に縋る巨大メディアも、です。 」
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2009年12月4日金曜日

北朝鮮のデノミを考える

緩やかなデフレに悩む国から近くて遠い国は、慢性的なインフレなのであります。北朝鮮では、したがって、過去5度も「通貨改革」を実行しているらしいのです(12/1朝鮮日報日本語版)。
http://www.chosunonline.com/news/20091201000018

今回、17年振りとなる「通貨改革」または「通貨交換」を、単にデノミと呼んでは本質を読み間違えてしまうようです。但し、北朝鮮というお国柄、奥の院からの公式発表が何も行われず、各国大使館宛に理由の説明を欠いたブリーフィングがなされただけ(12/2フィナンシャルタイムズ)ということで、各国主要メディアではその取り扱いの大きさから憶測や解釈に至るまで報道内容が様々であることが特徴です。

デノミの教科書的な解釈を軸に、無難にまとめているのがフィナンシャルタイムズ紙でしょうか。すなわち、

★大筋としては、11月30日から12月6日の間に、旧紙幣は、二桁少ない新紙幣に交換される。
★公式発表はいまだに無いが、インフレ対策に加え、闇市場(実態は行商人など)が不正蓄財した旧紙幣を召し上げることも目的。
★一部で不平不満が出ているとの噂あり。
★北朝鮮ウォンは著しく歪んだ通貨であり、公設市場では1㌦=140ウォンだが、実態は3000ウォンでしか取引されない。

これに対して、同じ英国でも、エコノミスト誌は、現地消息筋の情報を踏まえて、「庶民に対する国家の収奪・搾取」という観点を強調しています。まず、ひとこと目に、

★11月30日、北朝鮮人民の貯蓄が国家の命令により掻き消された。

そして、

★新紙幣への交換可能額は当初10万ウォンと設定されたが、国民の憤慨により、15万ウォンまで引き上げられたようだ。

エコノミスト誌は敢えてデノミという用語を使わず、鍵括弧付きで“revaluation”「再評価」が行われたのが17年振りだが、前回の目的が悪性インフレへの対策であったとは言え、今回の主眼はインフレではない(平壌の生活費用はこの17年間さほど上昇していない)と論じます。寧ろターゲットは、

★主として中国との商取引で金持ちになったビジネスマンや腐敗した公務員

だと。しかし、残念なことに、

★そのような利に敏い策士たちは、たった数百人くらいしかおらず、大抵は財産を人民元やドルや円に変えてしまっている。

なので、実際に最も打撃を受けるのは、平均月収5万ウォン程度の中流層であると報じています。

ちなみに、ウォールストリートジャーナル紙から幾つか補強材料を拾うと、

★政府からの公式発表が無いまま、水曜日から通貨の交換は実行され始めた。

★電話回線は遮断され、外出禁止令が発動されたこともあり、首都平壌は平穏無事である。但し、値札の付け替えのために、商店街はすべて閉店となっている。

★市場活動(≒資本主義的傾向)弾圧のために、これまででも最も大胆なfar-reaching施策で、米の価格が旧通貨ベースで20倍になったり、玉蜀黍が同30倍になったり、そして前述の利に敏いお金持ちが田舎に押し寄せ、「デノミ」についてまだ情報を知らない貧乏人たちから旧紙幣で農産物などを買おうという動きが出ている(この点は、仏教系チャリティ団体「良き友達」という在ソウルの対北朝鮮消息筋の話として韓国中央日報も同様の引用をしています)
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=123555&servcode=500§code=500
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=123556&servcode=500§code=500

度々七転び八起きブログでご紹介している塩沢由典先生の著書「マルクスの遺産-アルチュセールから複雑系まで」のなかの一文に「共産主義は20世紀における人類最大の実験であった」というのがあります。この壮大な実験は多大な犠牲を伴いつつ、ソ連崩壊やベルリンの壁崩壊などにより失敗という結論でほぼ終結するのですが、まだ細々と実験を続けている国が、それも我が国の近くにあるわけです。

勝負あったかと思われる資本主義VS社会主義の冷たい戦いのなかで、北朝鮮の事例から日本は学ぶべきものはあるのでしょうか。資本主義陣営とは言え、純粋な「市場原理主義」など有り得ないことを考えれば、国家は民間の財産を簡単に収奪・搾取しうる点では、あまり北朝鮮のことを他人事と考えないほうが良いでしょう。例えば、固定資産税などは簡単に上げることが出来るのですから、不動産を「所有」しているとは思い込まないほうが良い。イギリスと殆ど同じで、御国から半永久的に借地をしているだけで税金という名の地代はこの先どうなるか判ったものじゃないと覚悟すべきです。

相続税や贈与税には色々な抜け道があるようですが・・・

実は、我が国の資本主義をもっとも停滞させているかも知れないのが、前出の中間層ですが、ここに良い顔をしないと選挙に勝てないという現状があります。北朝鮮の「デノミ」は、この集団と向かい合うわけですから、尋常なことではありません。

「まず財源ありきとの議論では駄目」「日銀はまだ寝ぼけたところがある」という金融担当大臣を誰も選挙で選んだ記憶がなくても、政府与党の代表のひとりであり閣僚のひとりなのであります。赤字国債を乱発して、日銀に引受させれば、財政法の脱法で簡単にインフレを起こすことはできます。そのことと、北朝鮮の「デノミ」という名の紙幣の紙屑化と比べると、政府による所得分配への介入という点では実態は同じで、技術的にも殆ど巧拙の差はありません。
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2009年6月29日月曜日

消費者金融を解禁する中国、規制する日本


先日の日本経済新聞が報じた中国、消費者金融を解禁 国内消費を後押し 英エコノミスト誌がアジア経済を扱った記事「望まれる“買い物中毒”」【注】によると、アジア諸国では家計の負債(≒個人の借金)がGDPに占める割合が概ね50%以下【注】だが、特に中国とインドは15%以下。健全過ぎる同割合の背景として、これまでアジア諸国に耐久消費財の購入を後押しするローンビジネスが事実上皆無だったことを挙げています。

左のグラフは、上記記事に添付されていた鉱工業生産を新興アジアと米国で比較したもの。落ち込み続けるの米国と対照的に、新興アジアは金融危機以前のレベルにまで回復しており、特に中国の貢献が大きいと見て取れます。

サブプライム問題への露出が少ない我が国金融機関の健全経営のお陰で、時の経済財政担当大臣をして「米国金融危機の影響は、蜂にさされた程度」と言わしめた盤石な筈の日本経済。金融危機の本場である米国よりもマイナス成長が酷いという皮肉に見舞われ、多くの政治家や経済学者は
「外需(輸出)依存の日本経済の体質の転換を怠ってきたツケが回ってきた。危機の今こそ、内需(特に個人消費)の拡大を。」
と、鬼の首を取ったかのように、財布の紐を縛りたくなるのは「節約は美徳ならず」というケインズの逆説を持ち出してきたものでした。我が国のポピュリスト知識人の戯言を実行しているのが、貯蓄大国(≒外準大国)の地位を我が国から奪った隣国中国であることもまた皮肉です。

我が国も、中国ほど大胆な個人消費刺激策(消費者金融会社の設立解禁だけでなく、既に実施済の耐久消費財購入インセンティブなど)を“逆輸入”すべきなのでしょうか。80年代までは、主要先進国中断トツの高さを誇っていた総貯蓄率【注】が急速に陰りを見せ、特に家計貯蓄率【注】で言えば、フランス、ドイツ、イタリアなどに抜かされているなどして現在OECD中14位に過ぎないこと【右グラフ】を認識したうえで、このようなポピュリズム政策と対峙しなければなりません。

金融庁による貸金業規制(特に借入額の年収制限といった総量規制)は、グレーゾーン金利(過払い金利、みなし弁済)の決着に追い打ちを掛けるものですが、業界規制という観点だけでなく、景気対策としては大きなマイナスである点はもう少し注目されるべきなのでしょう。しかし、中国の政策を真似る余裕が日本にはないのだという認識に照らせば、金融庁の政策は、隠れた意図も含め、実に正しいのです。
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【注】原題はShopaholic wanted
【注】韓国が例外。ちなみに主要先進国の多くは100%前後
【注】総貯蓄率=総貯蓄/国内総生産(名目GDP)。総貯蓄=貯蓄+固定資本減耗+資本移転(純)。 家計貯蓄率=家計純貯蓄/(家計可処分所得(純)+年金基金年金準備金の変動(受取))。家計純貯蓄=家計可処分所得+年金基金年金準備金の変動(受取)-最終消費支出

2009年6月22日月曜日

米長期金利に「ドル売り爆弾」

7月号のザ・ファクタ【月刊誌FACTA】
http://facta.co.jp/
に、
米長期金利に「ドル売り爆弾」
~北京大学で嘲笑を浴びたガイトナー財務長官の屈辱。BRICsの株価回復も資源高も「正体」はドル逃避では~
http://facta.co.jp/article/200907006.html
という記事があります。「七転び八起き」が、当ブログほか、『月刊FX攻略』や日経CNBC等を通じて、年初来こだわってきた米中関係(中国のドル保有のジレンマ)の問題が、ガイトナー米財務長官の訪中での“象徴的な出来事”と絡めて炙り出されている渾身の記事。是非、書店または定期購読で月間ファクタを手にしてお読みください。
http://facta.co.jp/
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2009年5月13日水曜日

中国の輸出が急減、原油60㌦に接近

米国の貿易赤字が8ヶ月振りに悪化したのは3月のお話。中国の輸出が6ヶ月連続で落ち込んでいるのは4月のこと。更には季節調整の問題もあって単純に比較はできないので、米中の貿易不均衡の問題は引き続き慎重に分析して参ることと致します。

ここでは、FT紙に掲載されたモルガンスタンレーアジアの会長、米国経済への徹底した悲観論で知られるスティーヴン・ローチ氏の談話を取り上げます。

「中国政府は、今回の経済危機が1930年代のものとは全く異なる・・・つまり、世界経済は急速に回復し、同時に中国は世界の中でより大きな存在になる、と“計算”しているが、これは誤りだ。」

「グローバル需要が急回復するとの前提で、伝統的なばら撒き政策と古臭い経済成長戦略に寄りかかり過ぎている。」

「米国主導の外需落ち込みが延々と続くと予想されるポスト危機後の世の中に対する準備としては、中国のやり方は全くなっていない」

ローチ氏指摘の古びたばら撒き政策とは、公共事業と、輸出産業への特恵(低利融資や税還付など)。1997年のアジア危機や2000年のITバブル崩壊に際しては、中国はまさにこのやり方で乗り切ったのでした。

米国が再び馬鹿げた大量消費社会に完全復帰することはないというローチ氏の見方に賛成。ただし、中国に何を求めるか、FT紙には代替案が書かれていません。米国からの輸入が増えるようなタイプの内需拡大、つまり中国版“所得倍増計画”でしょうか。中国の財政の膨らませ方まで、米国がとやかく口を出せるというのは残念ながら不可能でしょう。

しかし、“投資銀行”に所属しているエコノミストとしてスティーヴン・ローチ氏ほど気骨のある人は稀。昨夜原油が再び60㌦に接近しました。昨年12月に原油25㌦を吹聴した投資銀行がありました。
http://phxs.blogspot.com/2008/12/blog-post_05.html
時まさにボーナス支給時期。いい加減な予想と同時に喰い逃げか。。。
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2009年4月21日火曜日

ジャッキー・チェン発言とチェルノブイリ原発事故

ジャッキー・チェンの「中国人は管理されるべき」発言。波紋を呼んでいる割には、断片的な報道が多く、言論の自由について語っているのか、経済活動や金融ビジネスの自由のことを語っているのか良く判りません。もしかしたら両方なのかも知れません。

ブログや著書を長い間御愛読くださっている皆様は御存知の通り、「七転び八起き」は、必ずしも規制強化が弱者を保護しない限り、経済や金融は自由なほうが良いという考えです。「必ずしも」と書きましたが、「少なからず」と本当は言いたいところ。それでもなお、規制は或る程度必要だという考え方にも一理あることは認めます。

一方の言論の自由については、昨夜お邪魔したチェルノブイリ子ども基金主催フォトジャーナリスト広河隆一さんの最新チェルノブイリ報告会で、その大切さを改めて思い知らされました。

史上最悪の原発事故から25年が経過している現在ですら、甲状腺ガンや骨腫瘍等の被害者、放射能に汚染された土壌などの被害が収まらないどころか、むしろ増えている被害者。そのことを認めたくない国家権力(敢えてここではロシア、ベラルーシ、ウクライナを特定しませんが・・・)は被害者増大を訴える良心的な医師を更迭する。そして何よりも驚いたのが、放射能を大量に含んだ雨雲(所謂「黒い雨」)が人口密集するモスクアにまで襲いかかろうとしているとの予測で、せめて現在のベラルーシの人口閑散地域あたりで被害を喰い止めようとして人口雨を降らせたという事実。政治判断の是非は兎も角、そのことを証言できるパイロットは、インタビュアーであるフォトジャーナリスト広河さんに対し「録音テープを回すのはやめてくれ」と制止したとのこと。

北京オリンピック開会式直前の人口雨、はたまた四川大地震で子どもを失った親御さんが西側ジャーナリストに(学校倒壊は人災だと告発するも)「名前は出さないで」と制止したエピソードと相通ずるものがあります。

加えて、日本人として何とも情けないのが、ヒロシマで原爆からの直接の放射能照射は兎も角、「黒い雨」に打たれた被災者の病気は原爆症とは認められない。『病は気から』だ」と判断した広島出身の医師が、IAEAのチェルノブイリ調査団長に選ばれ、大本営発表を展開したという話。但し、IAEAが原子力に太鼓判を押させたい背景は、世界中の原子力産業を背景としており、旧東側特有の言論統制だけの問題ではないでしょう。

ドイツのように、原発政策で二転三転する国もあります。我が国で原発の是非を民主主義プロセスの中で健康に議論できるでしょうか?「生活水準をウンと下げてでも自然エネルギー依存の社会を作るべきだ。GDP信仰を捨てろ。経済成長なんて気にするな」という強烈なメッセージとリーダーシップを持った政治と行政が必要でしょう。これは必ずしも民主主義と無矛盾ではありません。

原発は安全か危険か?このような二項対立の問題として捉えるならば、広瀬隆さんの言うとおり「東京に原発を」という考え方が正しいでしょう。しかしチェルノブイリの酷過ぎた実態と、例えば東京電力の柏崎刈谷原発のようにあれほど苛烈な地震でも最小限の事故(反論はあると思いますが・・・)に留めた安全設計を、「事故は事故だ」と片づけ同列に扱うのは不当。原発を全面肯定するか全面否定するか、という衆愚的な結論を避けるためにも、言論の自由は必要です。但し、これは多数決が真理であることを必ずしも意味しない。民主主義が衆愚政治に陥り、定義上は否定していなかった筈の言論の自由を自発的に葬ることは歴史上しばしばあります。私は言論の自由の価値を民主主義よりも上に置きます。経済と金融の自由は、その中間?

上述の広瀬隆さんの本は、80年代、書店から消えた(消された)と噂されました。日本にも実は言論の自由がないのだという人に私はしばしば出会います。ところで、拙書“為替力”で資産を守れ!も最近書店で見ないと友人に言われます。そう言えば、「こんなことまで書いて良いの?」という内容を此処彼処に書いてしまったので・・・否、こちらは単なる返品かも知れません(笑)。
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2009年3月17日火曜日

中国、外貨準備の運用で巨額損失

★運用“多角化”が拙速だった(3/15FT)
モルガンスタンレーやブラックストーンなどの米国株で40億㌦もの損失を出したCIC(中国投資公社、China Investment Corporation)。

中国国内からは「下手糞!」と非難されるわ、国外、特に西側政治家からは「CICは中国共産党の野心的な世界戦略の片棒を担ぐ不透明な黒子an opaque proxyだ」と批判されるわ、政府系ファンド(SWF)の風雲児には見る影もない。

ところが、CICの20倍もの損失で外貨準備に穴をあけているのが国家外国為替機構(State Administration of Foreign Exchange)。頭文字を取ってSAFEと略されるのが皮肉です。

2兆㌦の外貨準備の運用を担うファンドマネージャーの手口は、CICと同じく不透明。しかし、固めに見積もっても1600億㌦を国外株式に回し、その半分800億㌦が損失だと、FT紙。

特に米国株式については、2006年半ばにたった(!?)40億㌦の運用資産だったのが、2007年半ばに300億㌦、2008年半ばには1000億㌦に達した。

フェニックス証券の広告で「サブプライム危機は死語と化した」と書かせていただいております。サブプライム危機の象徴を2007年8月の“BNPパリバショック”と定義すると、2007年当初(≒CIC設立時期)から外貨運用“多角化”を始めたSAFEは、サブプライム危機で“多角化”を見直すどころか、寧ろ加速させたことになります。

投資の格言に言う「落ちてくるナイフを拾うな!」に逆らったSAFE。中国以外のアジア中東の政府系ファンド(SWF)についても言えることだが、米国株式の保有額ではSAFEは最大級だとFT紙は報じています。

FT紙は英国の新聞なので、英国株式での失敗例も羅列。リオティント、ロイヤルダッチシェル、BP、バークレイズ、テスコ、そしてRBSです。

冒頭の黒子CICの失敗例(モルスタ、ブラックストーン)と並べてみると、小売のテスコを除くと全てエネルギー関連と金融。このあたりが、国外からの上記批判の理由か。

独り非難を背負ってきたCICより更に酷い運用実態のSAFEについても、中国国内での批判を通じて、中国共産党の内部の権力闘争の材料と化せば、安全な資産へのシフトや、中国国内のインフラ整備等、内需向け政府支出へのシフトへと抜本的に進む可能性があります。本音では米国債を買うしかないと豪語している中国の金融当局高官の発言を以前ブログで取り上げました。AIGやシティ(≒GM等)を抱える米国の現政権は、もう損失はご免だとして迫ってくる中国のブラフにどのように対峙できるかが、金融混乱の収束や、米ドル相場の成り行きを判定するうえで重要です。
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2009年2月12日木曜日

日興コーディアル証券とワークシェアリング

●米国債の購入は続けざるを得ない-中国の金融当局高官が語る(2/12FT)
米ドルの下落リスクは承知していても、世界危機において米国債購入継続は唯一の選択肢だ、日本国債や金よりはましsafe havenだと語った。

同高官は、グラス=スティーガル法が金融危機の火に油を注いだ一面を指摘。ただし、中国は商業銀行と投資銀行の分離政策を続けるとのこと。

金融危機と銀証分離を結びつけて論じたのは、要人クラスでは彼が初めてでは?ちなみに、要人以外では私?

2008年9月19日:カインの末裔であってはならないモルガン家
2008年10月17日:モラルハザードとファイヤーウォール

さて、銀証分離と言えば、旬の話題は、

●日興コーディアル証券買収、3メガ銀が週内名乗りへ(2/12読売新聞ほか)
米シティグループ傘下の日興コーディアル証券の売却問題で、三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループの大手3グループが買収の意向を週内にシティ側へ伝える見通し。

約25兆円のリテール(個人、小口)顧客資産を抱えた日興コーデは、「50年に1度の出物」とも言われる(読売新聞)らしい。

民事再生法の申し立てをしていた大阪万博跡地のエキスポランドは、新しいスポンサー(買収してくれるひと)が見つからず、再生処理を諦め、破産手続きに移行しました。

エキスポランドが「50年に1度の遊園地の出物」ではなくて、日興コーデが「50年に1度のリテール証券」だというのは、メガバンクの経営者が「やはり金融は規模が大切」と信じ切っており、また証券ビジネスは(遊園地事業と異なり)構造的に悪いのではなくて、今たまたま悪いだけだという考えで一致しているからなのか。

我が国に限っては、銀証分離の本音は、ワークシェアリングに過ぎない私は断じています。
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2009年2月3日火曜日

BNPパリバ・ショック、再び

●資金流出の懸念-中国(2/2ITH)
中国国民が海外送金で資産を逃避させる動きや、中国国内に投資していた海外資本が一転引き揚げる動きが加速していると報じています。

●出稼ぎ農民の7人に1人が失業-春節後の中国(2/2FT、IHT、WSJ、日経)
暴動が起きてもおかしくない状態だとFT紙。社会不安が、資本逃避の一因だとは上記IHT紙。

資本逃避の最大の犠牲者は、東欧や中央アジアかも知れません。

●カザフスタン、国内最大の銀行を国営化へ(2/2FT)
国営化後、ロシアの国営貯蓄銀行への売却も検討だとか。本件で解任される銀行の会長は、野党立ち上げに関与したり、汚職の疑惑で、7年前に逮捕された経験を持つ。銀行会長復帰後も、政治活動は禁止されていたとか。

いわゆるBNPパリバショック(2007年8月)の時点では、カザフスタンの銀行全体で450億㌦以上もの海外資本を調達していたそうです。理由は、国内の預金や借入よりもコストが安かったから。昨年12月ひと月だけで、海外資本の引き揚げと預金の取りつけ騒ぎ、そしてやむを得ず進んだ貸し剥がしで、カザフスタンの銀行全体で1.54億㌦の純損失を招いたとされます(上記国営化のために投与される公的資金は20.6億㌦)。

BNPパリバと言えば、

●不正利益没収へ-アーバン問題で日証協、過怠金10億円超も(2/3日経)
業務改善命令に留めた金融庁よりも自主規制機関の処分のほうが厳しくなった点に、日経は着目。

ちなみに、私の着目点は「外部検討委員会という仕掛けまで作ったのに、金融庁の業務改善命令を免れなかったのは、●●●●の力不足だ」とトップを批判する下々の金融リテラシーの低さ。過怠金云々ではなく、かつてのシティバンク同様、日本から退場命令が下される程度の悪質な事犯だという認識は、証券六法を読んだことがあるかないかの問題ではなく、証券会社の役職員として肌で感じなければいけない常識。実行犯本人は論外として、そこに牽制すべき法務、監査のイノセンスこそ、セレブな勤務環境や報酬に値しない。
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2009年1月30日金曜日

為替操作国呼ばわりされた中国と偽ドル工場呼ばわりされた北朝鮮

●為替操作国と名指された中国、米国新政権に対して、最大級の非難-欧州外遊中の温総理(1/29FT)
ダボス会議出席をはじめとする欧州各国歴訪で、自国に次ぐ世界2番目の輸出大国ドイツを訪れた温家宝総理。メルケル首相との対談後の記者会見で「人民元政策は市場のニーズに合致したものであり、柔軟性に富んでいる。

先週、ガイトナー米財務長官が、長年の“タブー”を破り、中国に対して、輸出を保護するために人民元を人為的に操作していると批判したことに対する声明。世界の為替相場がジェット・コースターのようなボラティリティに晒されているが、それが中国のせいにされるとはけしからん、と。

ところで、温首相が訪ねたドイツは、ほんの20年弱前までは半分は共産圏でした。2月号のFACTA(月刊:ザ・ファクタ)で、人気コラムを連載中の手嶋龍一さんは、東ドイツ出身の欧州中央銀行(ECB)政策担当者をベルリンまで訪ねてきた北朝鮮高官が、

「わが朝鮮民主主義人民共和国が偽ドルを刷っていると中傷するものがいる。笑わせてはいけない。偽ドルというが、ニクソン・ショックで金とドルの兌換をやめてしまったドル紙幣のどこがホンモノだと言うのか」

と語ったという話を伝え聞いたと書いておられます。偽物のようなホンモノ、ホンモノのような偽物。このテーマは、昨年来、当ブログで追っかけていたものですが、北朝鮮高官の「不換紙幣自体が偽物」発言はさすがに詭弁。しかし、通貨とは何ぞや?不換紙幣とは何ぞや?基軸通貨とは何ぞや?なかなか痛いところを突いた、見事な詭弁です。

西側社会への意外にも太い地下水脈、贋金作りという大罪を平然と弁護する詭弁能力。勿論、皮肉で申し上げているのですが、北朝鮮の国力はあなどれないと感じます。

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今日の東京はあいにくの雨ですが、傘をさしてさっそく「書店へGo!」

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